【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0045】
実施例1:遺伝子組換え酵母株の作製(1)
TAL、TKLおよびα-グルコシドトランスポーターのキシロース発酵における重要性を検討するために、TAL1、NQM1、TKL1、TKL2、AGT1の各遺伝子を欠損したノックアウト酵母にキシロース代謝系遺伝子発現カセットを導入して形質転換酵母を作製し、これら遺伝子組換え酵母株のキシロース発酵能を比較した。
【0046】
そのために、ノックアウト酵母のコレクションの中からTAL1、NQM1、TKL1、TKL2、AGT1の各遺伝子を欠損した酵母をオープンバイオシステムズ社から取得し(親株はBY4743株)、キシロース代謝系酵素(XR、XDHおよびXK)遺伝子を酵母染色体に組み込める発現カセットpAURXKXDH(WT)XR(特願2008-211274を参照)をYEASTMAKER yeast transformation system 2(クロンテック社)を用いてリチウム酢酸法により形質転換して、合計6種類の遺伝子組換え酵母株を作製した。すなわちpAURXKXDH(WT)XRを、遺伝子を欠損していないBY4743株Con-Xyl株(コントロール株)、TAL1遺伝子を欠損したΔTAL1-Xyl株、NQM1遺伝子を欠損したΔNQM1-Xyl株、TKL1遺伝子を欠損したΔTKL1-Xyl株、TKL2遺伝子を欠損したΔTKL2-Xyl株、AGT1遺伝子を欠損したΔAGT1-Xyl株に導入して遺伝子組換え酵母株を作製した。これら組換え酵母株におけるXR、XDH、XK活性を測定したところ(特願2008-211274を参照)、いずれも高い酵素活性を保持していることが分かった。
【0047】
実施例2:遺伝子組換え酵母の培養(1)
エタノール発酵実験のために、PPP関連酵素遺伝子およびAGT1遺伝子を欠損したノックアウト酵母(ΔTAL1-Xyl株、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株)とそのコントロール酵母(Con-Xyl株)を、20g/lグルコースを含む合成培地(20g/l ポリペプトン、 10g/l yeast extract : YPD培地)において30℃で48時間、好気的に培養した。遠心分離により集菌後、滅菌水で洗浄し、20mlの発酵培地(45g/lキシロースを含む合成培地: YPX培地(45g/l キシロース、20g/l ポリペプトン、10g/l yeast extract)またはYPDX培地(45g/l グルコース、45g/l キシロース、20g/l ポリペプトン、10g/l yeast extract))に適量を接種した(菌体量を統一)。発酵液は攪拌棒を入れた50mlの密封型のバイアルにおいて、緩やかに攪拌しながら30℃で嫌気的に培養した。
【0048】
実施例3:エタノール濃度の測定(1)
エタノール、グルコース、キシロース、キシリトール、他の副産物の濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC; 日本分光株式会社)を用いて測定した。分離カラムはHPX-87Hカラム(Bio-Rad社)を用い、HPLC装置は5mM H
2SO
4で0.6ml/minの流速で流し、65℃で運転した。酵母の増殖は分光光度計Biowave II(WPA社)を用いて600nmでの波長を測定した。解析の結果、これら遺伝子組換え酵母間で増殖速度に顕著な違いがみられた。すなわち、ΔTKL2-Xyl株およびΔAGT1-Xyl株が最も細胞収量が高く、続いてΔNQM1-Xyl株およびCon-Xyl株が続き、ΔTAL1-Xyl株は少し増殖が見られたが、ΔTKL1-Xyl株は細胞収量が発酵中全く変化しなかった。
【0049】
図2は、6種類の遺伝子組換え酵母(Con-Xyl株、ΔTAL1-Xyl株、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株)を用いて、45g/Lのキシロースを含む発酵培地(YPX培地)を用いた嫌気培養における、これら遺伝子組換え酵母株のキシロース消費量(
図2のAを参照)およびエタノール生産量(
図2のBを参照)を経時的に示した図である。
【0050】
まずキシロース消費量であるが、コントロール株のCon-Xyl株、ノックアウト酵母の3株(ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株)は72時間後に80%以上のキシロースを消費したのに対し、その他のノックアウト酵母の2株(ΔTAL1-Xyl株およびΔTKL1-Xyl株)はコントロール株よりキシロース消費量が大幅に減少し、特にΔTKL1-Xyl株はほとんどキシロースを消費できなかった。興味深いことに、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株はコントロール株よりもややキシロース発酵速度が速かった。すなわち、ノックアウト酵母にキシロース代謝能を付与した5株のうち、ΔTAL1-Xyl株およびΔTKL1-Xyl株はコントロール株よりも顕著にキシロース消費速度が遅れ、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株はコントロール株よりもややキシロース消費速度が速まることが分かった。キシロース消費量に伴い、エタノール生産量についても酵母株間で差が生じた。コントロール株のCon-Xyl株は、72時間後に12.3g/Lのエタノールを生産したのに対し、ノックアウト酵母の3株(ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株)はコントロール株よりもエタノール生産量がやや増加し、その他の2株(ΔTAL1-Xyl株およびΔTKL1-Xyl株)はコントロール株よりエタノール生産量が大幅に減少した。特にΔTKL1-Xyl株はほとんどエタノールを生産できなかった。すなわち、ノックアウト酵母にキシロース代謝能を付与した5株のうち、ΔTAL1-Xyl株およびΔTKL1-Xyl株はコントロール株よりも顕著にエタノール生産速度が遅れ、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株はコントロール株よりもややエタノール生産速度が速まることが分かり、基本的にエタノール生産速度はキシロース消費速度と比例していた。これらの結果から、TAL、TKL、およびα-グルコシドトランスポーターそれぞれのキシロース発酵における重要性が明らかになり、特にTAL1およびTKL1はキシロース発酵においてエッセンシャルな働きをしていることが示唆された。
【0051】
一方、
図3は、6種類の遺伝子組換え酵母(Con-Xyl株、ΔTAL1-Xyl株、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株)を用いて、45g/Lのグルコースおよび45g/Lのキシロースを含む発酵培地(YPDX培地)を用いた嫌気培養における、これら遺伝子組換え酵母株のキシロース消費量(
図3のAを参照)およびエタノール生産量(
図3のBを参照)を経時的に示した図である。
【0052】
ΔTAL1-Xyl株、ΔNQM1-Xyl株、ΔTKL1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株のキシロース消費量は、上記YPX培地を用いた結果(
図2のA)と比べて低下した(
図3のAを参照)。また、エタノール生産量は、Con-Xyl株の生産量を大きく上回るような株は存在しなかった(
図3のBを参照)。すなわち、YPX培地においてエタノール生産量が増大したΔNQM1-Xyl株、ΔTKL2-Xyl株、およびΔAGT1-Xyl株は、YPDX培地においてはエタノールを効率的に生産できないことが明らかとなった。
【0053】
実施例4:YEpM4-TAL1の作製
野生型TAL1遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているSaccharomyces cerevisiae TAL1遺伝子(NC_001144)(配列番号1)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、TAL1遺伝子の5’末端にHind III切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
【0054】
5’-CATaagcttATGTCTGAACCAGCTCAAAAGAAAC-3’(配列番号2)
5’-TAAggatccTTAAGCGGTAACTTTCTTTTCAATCAAG-3’ (配列番号3)
【0055】
PCRは、PrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いて行った。20 pmolの各プライマーと100ngのS. cerevisiae ゲノムDNAを用い、変性反応を98℃で10秒間、アニーリング反応を55℃で5秒間、伸長反応を72℃で10秒間の条件でTAL1遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのHind IIIおよびBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-TAL1と名付けた。続いてpPGK-TAL1をXho IおよびSal Iで切断してPGKプロモーター及びPGKターミネーター付きのTAL1断片を切り出し、プラスミドYEpM4のSal I制限酵素切断部位に導入し、これをYEpM4-TAL1と名付けた。そのためにSal Iで切断したYEpM4はアルカリホスファターゼ処理して切断面のリン酸基を取り除いた。
【0056】
実施例5:YEpM4-NQM1の作製
野生型NQM1遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているSaccharomyces cerevisiae NQM1遺伝子(NC_001139)(配列番号4)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、NQM1遺伝子の5’末端にHind III切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
【0057】
5’-CATaagcttATGTCAGAACCTTCAGAGAAAAAACAAAAAG-3’(配列番号5)
5’-GAggatccTCACATTTTTTCTTCAACCAGTTTGTAC-3’ (配列番号6)
【0058】
PCRは、PrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いて行った。20 pmolの各プライマーと100ngのS. cerevisiae ゲノムDNAを用い、変性反応を98℃で10秒間、アニーリング反応を55℃で5秒間、伸長反応を72℃で10秒間の条件でNQM1遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのHind IIIおよびBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-NQM1と名付けた。続いてpPGK-NQM1をXho IおよびSal Iで切断してPGKプロモーター及びPGKターミネーター付きのNQM1断片を切り出し、プラスミドYEpM4のSal I制限酵素切断部位に導入し、これをYEpM4-NQM1と名付けた。そのためにSal Iで切断したYEpM4はアルカリホスファターゼ処理して切断面のリン酸基を取り除いた。
【0059】
実施例6:pPGK-TKL1の作製
野生型TKL1遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているSaccharomyces cerevisiae TKL1遺伝子(NC_001148)(配列番号7)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、TKL1遺伝子の5’末端にEco RI切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
【0060】
5’-CATgaattcATGACTCAATTCACTGACATTGATAAGC-3’(配列番号8)
5’-TAAggatccTTAGAAAGCTTTTTTCAAAGGAGAAATTAGC-3’ (配列番号9)
【0061】
PCRは、PrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いて行った。20 pmolの各プライマーと100ngのS. cerevisiae ゲノムDNAを用い、変性反応を98℃で10秒間、アニーリング反応を55℃で5秒間、伸長反応を72℃で10秒間の条件でTAL1遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのEco RIおよびBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-TKL1と名付けた。
【0062】
実施例7:pPGK-TKL2の作製
野生型TKL2遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているSaccharomyces cerevisiae TKL2遺伝子(NC_001134)(配列番号10)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、TKL2遺伝子の5’末端にHind III切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
【0063】
5’-CATaagcttATGGCACAGTTCTCCGACATTGATAAAC-3’(配列番号11)
5’-AAggatccTTAGAAAGCTCTTCCCATAGGAGAAAGC-3’ (配列番号12)
【0064】
PCRは、PrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いて行った。20 pmolの各プライマーと100ngのS. cerevisiae ゲノムDNAを用い、変性反応を98℃で10秒間、アニーリング反応を55℃で5秒間、伸長反応を72℃で10秒間の条件でTKL2遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのHind IIIおよびBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-TKL2と名付けた。
【0065】
実施例8:pPGK-AGT1の作製
野生型AGT1遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているSaccharomyces cerevisiae AGT1遺伝子(NC_001139)(配列番号13)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、AGT1遺伝子の5’末端にEco RI切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
【0066】
5’-CATgaattcATGAAAAATATCATTTCATTGGTAAGCAAG-3’(配列番号14)
5’-TAAggatccTTAACATTTATCAGCTGCATTTAATTCTC-3’ (配列番号15)
【0067】
PCRは、PrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いて行った。20 pmolの各プライマーと100ngのS. cerevisiae ゲノムDNAを用い、変性反応を98℃で10秒間、アニーリング反応を55℃で5秒間、伸長反応を72℃で10秒間の条件でAGT1遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのEco RIおよびBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-AGT1と名付けた。
【0068】
実施例9:遺伝子組換え酵母株の作製(2)
上記プラスミドYEpM4-TAL1、YEpM4-NQM1、pPGK-TKL1、pPGK-TKL2およびpPGK-AGT1をYEASTMAKER yeast transformation system 2(クロンテック社)を用いてリチウム酢酸法によりキシロース発酵性酵母MA-N4株に形質転換した。MA-N4株は、Invitrogenから購入した酵母INVSc1株に3種類のキシロース代謝系酵素(XR、XDHおよびXK)の遺伝子を構成的に発現できるカセットpAURXKXDH(WT)XRを形質転換した遺伝子組換え酵母である(特願2008-211274を参照)。まずTALおよびTKL遺伝子を様々に組み合わせた一連の遺伝子組換え酵母株を作製するために、pPGK、pPGK-TKL1およびpPGK-TKL2のいずれかをMA-N4株に形質転換し、さらにYEpM4、YEpM4-TAL1およびYEpM4-NQM1のいずれかを形質転換して、合計9種類の遺伝子組換え酵母株を作製した。すなわちMA-N4株に、酵素遺伝子を含まないYEpM4およびpPGKを導入したN4-Con1(コントロール株)、YEpM4およびpPGK-TAL1を導入したN4-TAL1、YEpM4およびpPGK-NQM1を導入したN4-NQM1、YEpM4-TKL1およびpPGKを導入したN4-TKL1、YEpM4-TKL2およびpPGKを導入したN4-TKL2、YEpM4-TKL1およびpPGK-TAL1を導入したN4-TAL1TKL1、YEpM4-TKL2およびpPGK-TAL1を導入したN4-TAL1TKL2、YEpM4-TKL1およびpPGK-NQM1を導入したN4-NQM1TKL1、YEpM4-TKL2およびpPGK-NQM1を導入したN4-NQM1TKL2である。また、MA-N4株をpPGK-AGT1を用いて形質転換して、遺伝子組換え酵母N4-AGT1株を作製した。一方、トランスポーター遺伝子を含まないpPGKを用いてMA-N4株に形質転換してN4-Con2株を作製し、コントロール株として用いた。
【0069】
実施例10:酵素比活性の測定
TALの活性測定は、反応によって生成されるNADHの特異的な340nmの吸収度の減少を30℃でモニターすることによって行った。54mMのF6P、0.7mMのE4P、0.2mMのNADH、0.34Uのグリセロール脱水素酵素(以下、「GDH」と記載)、および1Uのトリオースリン酸イソメラーゼ(以下、「TIM」と記載)を含む84mMトリエタノールアミン緩衝液(pH 7.6)990μl中において、1μmolのNAD
+を1分間に生成するために必要な量を、TALの1ユニットと定義した。
【0070】
TKLの活性測定は、反応によって生成されるNADHの特異的な340nmの吸収度の減少を30℃でモニターすることによって行った。1.2mMのR5P、0.9mMのX5P、0.3mMのチアミン二リン酸、0.3mMのNADH、0.34UのGDH、および1UのTIMを含む84mMトリエタノールアミン緩衝液(pH 7.6)990μl中において、1μmolのNAD
+を1分間に生成するために必要な量を、TKLの1ユニットと定義した。
【0071】
酵素活性測定のために、キシロース発酵酵母(N4-Con1、N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TKL1株、N4-TKL2株、N4-TAL1TKL1株、N4-TAL1TKL2株、N4-NQM1TKL1株、およびN4-NQM1TKL2株)を、2%グルコースを含む栄養要求性培地(6.7g/l yeast nitrogen base w/o amino acids、20g/l グルコース、2g/l 検定したいアミノ酸を除いたdrop out mix : SCD培地)において30℃で48時間、好気的に培養した。遠心分離により集菌後、滅菌水で洗浄し、適量の酵母タンパク質抽出試薬Y-PER(Pierce社)に懸濁した。細胞懸濁液を20分間voltex mixerで撹拌した後、遠心分離し、その上清を酵母無細胞(タンパク質)抽出液として酵素活性測定に用いた。
【0072】
タンパク濃度はMicro-BCA kit(Pierce社)を用いて決定した。
図4に酵素比活性の結果を示した。TAL遺伝子発現酵母(N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TAL1TKL1株、N4-TAL1TKL2株、N4-NQM1TKL1株、およびN4-NQM1TKL2株)におけるTALの比活性は、TAL遺伝子を発現しない酵母(N4-Con1、N4-TKL1株、およびN4-TKL2株)におけるよりも、いずれも高かった。また、TKL1遺伝子を発現する酵母(N4-TKL1株、N4-TAL1TKL1株、およびN4-NQM1TKL1株)におけるTKLの比活性は、TKL遺伝子を発現しない酵母(N4-Con1、N4-TAL1株、およびN4-NQM1株)におけるよりも、いずれも高かった。一方、N4-NQM1TKL2株を除くTKL2遺伝子を発現する酵母(N4-TKL2株およびN4-TAL1TKL2株)におけるTKLの比活性は、TKL遺伝子を発現しない酵母(N4-Con1、N4-TAL1株、およびN4-NQM1株)と比べて、それ程高くならなかった。
【0073】
TALを単独で発現するN4-TAL1株およびN4-NQM1株におけるTALの比活性は、TALを発現しない酵母株におけるよりも1.6倍以上高く、またTALとTKLを発現するN4-TAL1TKL1株、N4-TAL1TKL2株、N4-NQM1TKL1株、およびN4-NQM1TKL2株におけるTALの比活性は、TALを発現しない酵母株におけるよりも2.5倍以上高かった。また、TKL1を発現するN4-TKL1株、N4-TAL1TKL1株、およびN4-NQM1TKL1株におけるTKLの比活性は、TKLを発現しない酵母株におけるよりも3.5倍以上高かった。一方、TKL2を発現するN4-TKL2株およびN4-TAL1TKL2株におけるTKLの比活性は、TKLを発現しない酵母株と比較してほとんど同じであったが、N4-NQM1TKL2株は2倍程度TKL活性が増加した。
【0074】
これら9種類の遺伝子組換え酵母におけるXR、XDH、XK活性については、ほとんど同じ位高かった。
【0075】
以上の酵素活性測定の結果から、XR、XDH、XKを発現する本酵母株において、TKL2を除くPPP酵素遺伝子群が適切に酵母内で高発現していることが示唆された。TKL2についてはTKL活性をほとんど保持していないか、もともとTKL活性が弱いことが示唆された。
【0076】
実施例11:遺伝子組換え酵母の培養(2)
エタノール発酵実験のために、PPP関連酵素発現酵母(N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TKL1株、N4-TKL2株、N4-TAL1TKL1株、N4-TAL1TKL2株、N4-NQM1TKL1株、およびN4-NQM1TKL2株)とそれらのコントロール酵母(N4-Con1)、またAGT1発現酵母(N4-AGT1株)とそのコントロール酵母(N4-Con2)を、20g/lグルコースを含む栄養要求性培地(6.7g/l yeast nitrogen base w/o amino acids、20g/l グルコース、2g/l 検定したいアミノ酸を除いたdrop out mix : SCD培地)において30℃で48時間、好気的に培養した。遠心分離により集菌後、滅菌水で洗浄し、20 mlの発酵培地(5g/lグルコースと16g/lキシロースを含む栄養要求性培地: SCDX培地)に適量を接種した(菌体量を統一)。発酵液は攪拌棒を入れた50 mlの密封型のバイアルにおいて、緩やかに攪拌しながら30℃で嫌気的に培養した。
【0077】
実施例12:エタノール濃度の測定(2)
エタノール、グルコース、キシロース、キシリトール、他の副産物の濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC; 日本分光株式会社)を用い、実施例3と同様の方法で運転した。酵母の増殖は分光光度計Biowave II(WPA社)を用いて600 nmでの波長を測定した。解析の結果、これら全ての遺伝子組換え酵母間でそれほど増殖速度の違いはみられなかったが、細胞収量についてはN4-TAL2株が最も高く、逆にN4-TKL1株が最も低かった。またこれら全ての遺伝子組換え酵母間において、グルコースは最初の9時間の間に全て消費した。
【0078】
図5は、9種類の遺伝子組換え酵母(N4-Con1株、N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TKL1株、N4-TKL2株、N4-TAL1TKL1株、N4-TAL1TKL2株、N4-NQM1TKL1株、およびN4-NQM1TKL2株)を用いて、5g/Lのグルコースと16g/Lのキシロースを含むSCDX培地において嫌気培養した結果、これら遺伝子組換え酵母株のキシロース消費量(
図5のAを参照)、エタノール生産量(
図5のBを参照)とキシリトール生産量(
図5のCを参照)を経時的に示した図である。まずキシロース消費量であるが、コントロール株のN4-Con1株は、72時間後に79%のキシロースを消費したのに対し、TAL1およびNQM1を発現する4株(N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TAL1TKL1株、およびN4NQM1TKL1株)はコントロール株よりキシロースを多く消費し、逆にTKL2を発現する3株(N4-TKL2株、N4-TAL1TKL2株、およびN4-NQM1TKL2株)はコントロール株よりキシロース消費量が少なかった。その中で、最もキシロースを消費したのがN4-NQM1株で、72時間後に87%のキシロースを消費したのに対し、最もキシロース消費量が少なかったN4-TKL2株は67%であった。すなわち、PPPの酵素遺伝子の組み合わせによって、様々なキシロース発酵速度が得られることが分かった。キシロース消費量に伴い、エタノール生産量についても酵母株間で差が生じた。すなわち、コントロール株のN4-Con1株は、72時間後に5.3g/Lのエタノールを生産したのに対し、TAL1およびNQM1を発現する4株(N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TAL1TKL1株、およびN4NQM1TKL1株)はコントロール株よりエタノールを多く生産し、逆にTKL2を発現する3株(N4-TKL2株、N4-TAL1TKL2株、およびN4-NQM1TKL2株)はコントロール株よりエタノール生産量が少なかった。その中で、最もエタノールを生産したのがN4-NQM1TKL1株で、72時間後に5.5g/Lのエタノールを生産したのに対し、最もエタノール生産量が少なかったN4-NQM1TKL2株は4.7g/Lであった。すなわち、PPPの酵素遺伝子の組み合わせによって、様々なエタノール生産速度が得られることが分かり、基本的にエタノール生産速度はキシロース消費速度と比例していた。さらに、キシロース消費量に伴い、副産物であるキシリトール生産量についても酵母株間で差が生じた。すなわち、コントロール株のN4-Con1株は、72時間後に3.1g/Lのキシリトールを生産したのに対し、TAL1およびNQM1を発現する4株(N4-TAL1株、N4-NQM1株、N4-TAL1TKL1株、およびN4NQM1TKL1株)はコントロール株よりキシリトールを多く生産し、逆にTKL2を発現する3株(N4-TKL2株、N4-TAL1TKL2株、およびN4-NQM1TKL2株)はコントロール株よりキシリトール生産量が少なかった。その中で、最もキシリトールを生産したのがN4-NQM1株で、72時間後に3.5g/Lのキシリトールを生産したのに対し、最もキシリトール生産量が少なかったN4-NQM1TKL2株は2.3g/Lであった。すなわち、PPPの酵素遺伝子の組み合わせによって、様々な量のキシリトールが蓄積してくることが分かり、基本的にキシロース発酵速度の速い株は、エタノールを多く生産できるが、キシリトールも多く蓄積されることが分かった。その結果、これら9種類の酵母株間で顕著なエタノール収率の差は見られなかった。
【0079】
図6は、N4-Con2株とN4-AGT1株を用いて、5g/Lのグルコースと16g/Lのキシロースを含むSCDX培地において嫌気培養した結果、これら遺伝子組換え酵母株のキシロース消費量(
図6のAを参照)とエタノール生産量(
図6のBを参照)を経時的に示した図である。キシロース消費量については、コントロール株のN4-Con2株は、72時間後に63%のキシロースを消費したのに対し、AGT1を発現するN4-AGT1株は、72時間後に74%のキシロースを消費し、コントロール株よりキシロースを多く消費した。すなわち、AGT1のトランスポーター遺伝子を発現させることによって、キシロース消費速度が向上することが示唆された。また、エタノール生産量についても、コントロール株のN4-Con2株は、72時間後に4.9g/Lのエタノールを生産したのに対し、AGT1を発現するN4-AGT1株は、72時間後に5.4g/Lのエタノールを生産し、コントロール株よりエタノールを多く生産した。すなわち、AGT1のトランスポーター遺伝子を発現させることによって、エタノール生産速度が向上することが分かった。
図5の結果と同様に、エタノール生産速度はキシロース消費速度と比例していた。さらに、エタノール生産だけでなく、副産物のキシリトール等の生産も、コントロール株よりもN4-AGT1株の方が多くなった。これらの結果から、キシロース発酵速度の速い株は、エタノールを多く生産できるが、キシリトールも多く蓄積されることが分かり、このことから、これら2種類の酵母株間で顕著なエタノール収率の差は見られなかった。