(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性ゲル中のコート粒剤内部からのカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールの溶出が、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを含む非コート粒剤であって水溶性ゲルを含まない製剤と比較して、10分以上遅延することを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【背景技術】
【0002】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツ ツリー(Anacardium occidentale L.)の実の殻に含まれる油状の液体である。カシューナッツ殻油は、その成分として、アナカルド酸、カルダノール、カルドール、メチルカルドールを主に含む。
カシューナッツ殻油の調製法としては加熱法と溶剤抽出法があるが、通常、カシューナッツ殻油はカシューナッツ生産地にて加熱処理されることにより、アナカルド酸をカルダノールに変換して使用されている。
カシューナッツ殻油にはかぶれを起す作用がある為、取扱いには注意が必要となる。かぶれの現象はアナカルド酸、カルダノール、カルドール何れの主要成分でも起こり得る為、これらを安全に取り扱う方法の開発が望まれていた。
【0003】
工業製品への応用例としては、再生可能資源材料、特にカシューナッツ殻油のアルコキシル化により製造される新規ポリエーテルポリオール(特許文献1)、ポリ乳酸系樹脂およびカルボキシアルキル化されたカシューナッツ殻液からなる抗菌性ポリ乳酸系樹脂組成物(特許文献2)、カルダノールを利用した繊維状ナノ自己集合体(特許文献3)があり、何れも、使用されているカシューナッツ殻油は加熱処理されたものである。
畜産用途への活用に関しては、いくつかの報告例があり、カシューナッツ殻油及び/又はその主成分であるアナカルド酸類を含有する抗コクシジウム組成物(特許文献4)、カシューナッツ殻油及び/又はアナカルド酸類と共に有機亜鉛化合物、ベタイン及びバチルス属菌から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする抗コクシジウム剤、コクシジウム症の予防および/または治療用飼料(特許文献5)、カシューナッツ殻油及び/又はアルカルド酸類を有効成分として含有することを特徴とするコクシジウム症軽減剤並びにそれを含む飼料(特許文献6)などの、未加熱のカシューナッツ殻油およびその成分であるアナカルド酸の飼料用途に向けた活用が報告されている。
しかしながら、これらの先行技術文献においては、かぶれ予防に関する記載は無い。また、何れの先行技術文献も餌と混合、希釈して投与する手法を用いており、対象動物にカシューナッツ殻油を希釈せずに強制的に経口投与する手法についての記述は無い。
【0004】
かぶれ予防に関しては、カシューナッツ殻油に吸油剤と多孔質の粉末のうち少なくとも一方を添加してカシューナッツ殻油を固形化し、かぶれを低減させたことが記載され(特許文献7)、カシューナッツ殻油を吸油剤に吸着させ、造粒し、粒子表面をコート剤で被覆する製剤が記載されているが(特許文献8)、コーティングとゲル液での懸濁投与との併用により、カシューナッツ殻油の経口投与の改良を施した知見はこれまでに無い。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、経口投与に適したカシューナッツ殻油を含む製剤を提供することを課題とする。また、本発明は、流通時および使用時の、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールによるかぶれを防止することを課題とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、カシューナッツ殻油を含む粒剤をコーティングし、これを水溶性ゲルに懸濁することにより、カシューナッツ殻油を含有する粒剤の崩壊および粒剤からのカシューナッツ殻油の溶出を遅らせることができ、カシューナッツ殻油によるかぶれの危険も低減できることを見出した。
本発明者らは、このようにして、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)コート粒剤および水溶性ゲルを含む製剤であって、該コート粒剤は吸油剤を含み、該吸油剤はカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを含有し、該コート粒剤は水溶性ゲル中に懸濁されていることを特徴とする製剤。
(2)水溶性ゲル中のコート粒剤内部からのカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールの溶出が、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを含む非コート粒剤であって水溶性ゲルを含まない製剤と比較して、10分以上遅延することを特徴とする、(1)に記載の製剤。
(3)水溶性ゲル中にゲル剤を0.01〜10.0重量%含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の製剤。
(4)前記コート粒剤はカルボキシメチルセルロースによってコートされた粒剤であり、前記水溶性ゲルはカルボキシメチルセルロースを含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製剤。
(5)前記コート粒剤はαデンプンによってコートされた粒剤であり、前記水溶性ゲルはカルボキシメチルセルロースを含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製剤。
(6)前記コート粒剤はカルボキシメチルセルロースによってコートされた粒剤であり、水溶性ゲルはキサンタンガムを含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製剤。
(7)前記コート剤はαデンプンによってコートされた粒剤であり、前記水溶性ゲルはキサンタンガムを含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製剤。
(8)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを吸油剤に吸着させること、これを造粒すること、粒子表面をコート剤で被覆すること、およびコート粒剤を水溶性ゲル中に懸濁することを含む、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを含有する製剤の製造方法。
(9)カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールまたはカルドールを吸油剤に吸着させ、これを造粒し、粒子表面を分子量が1000以上である水溶性のコート剤で被覆してなるコート粒剤。
(10)コート剤がカルボキシメチルセルロースである、(9)に記載のコート粒剤。
(11)コート剤がαデンプンである、(9)に記載のコート粒剤。
【0009】
本発明の製剤は、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドール含有粒剤がコーティングされているので、かぶれを防止できる。
本発明の製剤は、水溶性ゲルに懸濁することにより粒剤(固体)の液体投与が可能となり、製剤の経口投与が改良され、粒剤を投与しやすくすることができる。
本発明の製剤は、コート粒剤を水溶性ゲル液に懸濁して投与する形式を採用したことにより、カシューナッツ殻油の溶出時間の調整が可能となり、投与時のかぶれを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製剤は、コート粒剤および水溶性ゲルを含み、該コート粒剤は水溶性ゲル中に懸濁されていることを特徴とする。本発明の製剤に含まれる粒剤は、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールおよび吸油剤を含み、コート剤によりコーティングされている。また、本発明の粒剤は、カシューナッツ殻油の安定化剤および/または酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0011】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツ ツリー(
Anacardium occidentale L.)の実の殻に含まれる油状の液体である。カシューナッツ殻油は、その成分として、アナカルド酸、カルダノール、カルドールを含むものである。一般に、アナカルド酸は加熱処理することによりカルダノールに変換される。
カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出された非加熱カシューナッツ殻油は、J.Agric.Food Chem. 2001, 49, 2548-2551に記載されるように、アナカルド酸を55〜80質量%、カルダノールを5〜20質量%、カルドールを5〜30質量%含むものである。
非加熱カシューナッツ殻油を130℃以上で加熱処理して得られる加熱カシューナッツ殻油は、非加熱カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸が脱炭酸しカルダノールに変換され、アナカルド酸を0〜10質量%、カルダノールを55〜80質量%、カルドールを5〜30質量%含むものとなる。
【0012】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出された植物油として得ることができる。また、カシューナッツ殻油は、抽出により、例えば、カシューナッツ殻を溶剤抽出して得ることもできる。さらに、カシューナッツ殻油は、特開平8-231410号公報に記載されている方法によって、例えば、溶剤抽出法によって得ることができる。
カシューナッツ殻油は、市販品を用いることもできる。
本発明のカシューナッツ殻油は、上記のようにして得られた非加熱カシューナッツ殻油を、70℃以上、好ましくは130℃以上に加熱することによって得た加熱カシューナッツ殻油であってもよい。
本発明のカシューナッツ殻油は、カシューナッツの殻から圧搾抽出(非加熱カシューナッツ殻油)し、これを130℃に加熱処理して得たものでもよい。
本発明の製剤は、カシューナッツ殻油の代わりに、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを含んでいてもよい。
【0013】
本発明のコート粒剤におけるカシューナッツ殻油の含有量は、コート粒剤の全量基準で、15質量%〜70質量%、好ましくは18質量%〜65質量%、より好ましくは20質量%〜60質量%、さらに好ましくは25質量%〜60質量%、最も好ましくは25質量%〜55質量%である。15質量%以上であれば、ルーメン発酵改善効果、鼓脹症予防効果、鼓脹症治療効果、アシドーシス治療効果、クロストリディウムによる病害の防除効果、コクシジウムによる病害の防除効果、反芻動物の乳量向上剤、第四胃変異予防又は治療剤、家畜の繁殖効率向上剤および家畜の増体促進効果などを効率的に奏することができ、70質量%以下であれば作業上、手のかぶれが解消され、コート粒剤の取扱性を維持することができるので好ましい。
【0014】
本発明において使用されるアナカルド酸としては、天然物アナカルド酸、合成アナカルド酸、それらの誘導体が挙げられる。また、市販のアナカルド酸を用いてもよい。アナカルド酸は、特開平8-231410号公報に記載されるように、カシューナッツの殻を有機溶剤で抽出処理して得られたカシューナッツ油を、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いてn-ヘキサン、酢酸エチルおよび酢酸の混合溶媒の比率を変えて溶出することによって得ることができる(特開平3-240721号公報、特開平3-240716号公報など)。このようなアナカルド酸は、カシューナッツ殻油と同様の含有量で、コート粒剤に含めることができる。
【0015】
本発明において使用されるカルダノールとしては、天然物カルダノール、合成カルダノール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルダノールは、カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸を脱炭酸することにより、得ることができる。このようなカルダノールは、カシューナッツ殻油と同様の含有量で、コート粒剤に含めることができる。
なお、加熱カシューナッツ殻油を用いる場合、加熱カシューナッツ殻油中のアナカルド酸とカルダノールとの質量比は、好ましくは、0:100〜20:80である。
【0016】
本発明において使用されるカルドールとしては、天然物カルドール(搾油及び蒸留によって得られるカルドールであっても良い)、合成カルドール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルドールは、カシューナッツ殻油から精製することにより、得ることもできる。このようなカルドールは、カシューナッツ殻油と同様の含有量で、コート粒剤に含めることができる。
【0017】
本発明のコート粒剤は、吸油剤を含み、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールが吸油剤に吸着・含有されている。本発明のコート粒剤は、吸油剤に加えて、カューナッツの殻や副資材を含んでいてもよい。
本発明で使用される吸油剤および副資材としては、珪酸およびその塩類(シリカなど)、バーミキュライト、珪藻土、タルク、カオリン、ベントナイト、デンプン、αデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、グルコース、ショ糖、乳糖、トレハロースなどが挙げられ、粒子状のものが好ましく、ルーメン中にカシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールを放出できる限り、これらに限定されない。また、同時に二種類以上の副資材を使用する事も可能である。
【0018】
本発明の粒剤は、カシューナッツ殻油の安定化剤および/または酸化防止剤を含んでいてもよい。本発明において使用されるカシューナッツ殻油の安定化剤とは、カシューナッツ殻油に含まれる金属イオンに配位してキレート化合物をつくる多座配位子であるキレート剤をいう。
本発明において使用されるキレート剤としては、有機酸系、有機酸塩系、リン酸系、リン酸塩系、アミノポリカルボン酸系、アミノポリカルボン酸塩系、中性アミノ酸系、アルミノ珪酸塩系、ホスホン酸系、ホスホン酸塩系、ポリマー系のキレート剤が挙げられる。
有機酸系および有機酸塩系のキレート剤としては、クエン酸およびその塩、リンゴ酸およびその塩、酒石酸およびその塩、コハク酸およびその塩、グルコン酸およびその塩、シュウ酸およびその塩、グリコール酸およびその塩、プロピオン酸およびその塩が挙げられる。
リン酸系およびリン酸塩系のキレート剤としては、オルトリン酸およびその塩、ピロリン酸およびその塩、トリポリリン酸およびその塩、テトラポリリン酸およびその塩、ヘキサメタリン酸およびその塩、フィチン酸およびその塩が挙げられる。オルトリン酸の塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸水素二アンモニウムが挙げられる。アミノポリカルボン酸系およびアミノポリカルボン酸塩系のキレート剤としては、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)およびその塩、エチレンジアミン2酢酸およびその塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン4酢酸およびその塩、ジエチレントリアミン5酢酸およびその塩、ニトリロ3酢酸およびその塩、トリエチレンテトラアミン6酢酸およびその塩、ジカルボキシメチルグルタミン6酢酸とその塩、ジカルボキシメチルグルタミン酸4ナトリウム塩、ジヒドロキシメチルグリシン、1,3-プロパンジアミン4酢酸およびその塩、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン4酢酸およびその塩、ホスホノブタン3カルボン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、シクロヘキサンジアミン4酢酸およびその塩、イミノジ酢酸およびその塩、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸およびその塩、N- (2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン3酢酸およびその塩、グリコールエーテルジアミン4酢酸およびその塩、グルタミン酸2酢酸およびその塩、アスパラギン酸2酢酸およびその塩、ジヒドロキシメチルグリシンが挙げられる。
中性アミノ酸系のキレート剤としては、グリシン、アラニン、ロイシン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。
アルミノ珪酸系のキレート剤としては、ゼオライトが挙げられる。
ホスホン酸系およびホスホン酸塩系のキレート剤としては、ヒドロキシエチルイデンジホスホン酸およびその塩、ニトリロトリスメチレンホスホン酸およびその塩、ニトリロトリスおよびその塩が挙げられる。
ポリマー系のキレート剤としては、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、マレイン酸とアクリル酸の共重合ポリマーが挙げられる。また、同時に二種類以上のキレート剤を使用する事も可能である。
【0019】
本発明で使用されるカシューナッツ殻油の酸化防止剤としては、エトキシキン、t−ブチルヒドロキシトルエン、t−ブチルヒドロキシアニソール、t−ブチルヒドロキノン、アスコルビン酸およびそのエステル、ビタミンE、没食子酸およびそのエステル、エリソルビン酸、クロロゲン酸、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、およびリン酸塩などが挙げられる。また、同時に二種類以上の酸化防止剤を使用する事も可能である。
【0020】
本発明のコート粒剤は、例えば、次のようにして得ることができる。
粒剤の吸油剤(必要に応じて副資材)およびカシューナッツ殻油(必要に応じて安定化剤および/または酸化防止剤を添加)を混合した後、通常の押し出し造粒機を用いて造粒することができ、その後、必要に応じて、打錠する。
また、吸油剤およびカシューナッツ殻油の混合物は、ブリケットマシーンで打錠成型することもできる。
造粒後は、ペレットの角をとり、面取りをするために、製粒処理を行う事ができる。製粒処理は、たとえば整粒機(ダルトン社)を使用して行うことができる。
【0021】
本発明において、造粒後、必要に応じて、製粒処理を行った後、例えばコート剤によるコート処理を行い、本発明のコート粒剤とすることができる。
本発明の製剤は、このようにして得られたコート粒剤を、水溶性ゲルに懸濁することにより製造することができる。
【0022】
本発明において使用されるコート剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、αデンプン、デキストリン、硬化油、グルコマンナン、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、アルギン酸塩、カゼインナトリウム、プロピレングリコール、およびポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられるが、カルボキシメチルセルロースおよびαデンプンが好ましい。
コート剤は水溶性、非水溶性を問わないが、本発明において使用される水溶性コート剤は、分子量1,000以上のポリマーやオリゴマーが好ましい。さらに好ましくは分子量1,000以上10,000,000以下である。
コート剤を用いてコート処理する場合には、転動造粒機を用いて行うことができるが、具体的には、造粒後、以下の工程を実施する。
・粒子にコート剤の水溶液もしくはエタノール溶液を吹き付けた後、適量のコート剤(粉体)を投入、乾燥する。
・コート処理を繰り返すことにより厚さを調節する。
【0023】
本発明のコート粒剤において、粒子とコート剤との好ましい質量比は、60〜99.9:40〜0.01、さらに好ましくは70〜99.9:30〜0.1である。コートは2種以上のコート剤を塗り重ねた複数層であっても良いし、同時に二種類以上のコート剤を併用する事も可能である。
【0024】
本発明の製剤は、上記のようにして得られたコート粒剤を、ゲル剤から製造した水溶性ゲルに懸濁することによって得ることができる。本発明の製剤は、コート粒剤が水溶性ゲルに懸濁されることにより、投与時のビンなどの容器からの排出、および、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールのコート粒剤からの溶出が調整される。本発明において、「排出」とは、ゲル化粒剤がビンなどの容器から出てくることをいい、「溶出」とは、カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールが、コート粒剤から出てくることをいう。
本発明で使用されるゲル剤としては、カルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、ゼラチン、デンプン、αデンプン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、アルギン酸塩、カゼインナトリウム、プロピレングリコール、およびポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。二種類以上の併用も可能である。
本発明の水溶性ゲルは、上記のようなゲル剤に水を加え、適宜アルカリなどを添加することにより、製造することができる。
本発明において、水溶性ゲルとは、流動性を失い固体となっているゲルではなく、例えば、流体として動物に投与できる等、ある程度の流動性を有するゲルをいう。
本発明の製剤において、ゲル剤の濃度は、0.01〜10.0重量%であり、好ましくは0.02〜5.0重量%である。
本発明の製剤において、コート粒剤とゲル剤との組み合わせの種類は、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロースとカルボキシメチルセルロースとの組み合わせ、カルボキシメチルセルロースとキサンタンガムとの組み合わせ、αデンブンとカルボキシメチルセルロースとの組み合わせ、αデンプンとキサンタンガムとの組み合わせが好ましい。
【0025】
また使用状況に応じて二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化カルシウム等の無機系の分散剤を添加しても構わない。二種類以上の併用も可能である。
【0026】
本発明の製剤は、コート粒剤と水溶性ゲルを混合したものであるが、その混合形態は特に限定されず、必要な量のコート粒剤と必要な量の水溶性ゲルとをあらかじめ混合しておいてもよいし、使用直前に混合して動物に投与してもよい。ここで、コート粒剤と水溶性ゲルとの好ましい重量比は、1:2〜1:50、さらに好ましくは1:3〜1:10である。本発明の製剤はコート粒剤と水溶性ゲルを別々に入手し、使用時に混ぜるような態様も含む。
【0027】
本発明の製剤は、ビンなどの容器中でコート粒剤と水溶性ゲルを使用時または予め混合したものを、牛、ヤギ、羊などの動物に経口投与することができる。また子牛、子ヤギ、子羊に投与しても良い。
本発明の製剤は、反芻動物用のルーメン発酵改善剤、鼓脹症予防剤、鼓脹症治療剤、反芻動物の乳量向上剤、第四胃変異予防又は治療剤、家畜の繁殖効率向上剤、アシドーシス治療剤、クロストリディウムによる病害の防除剤、コクシジウムによる病害の防除剤、家畜の増体促進剤としても好適に用いられる。
【0028】
カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、またはカルドールは抗生物質との併用も可能である。
抗生物質として具体的には、亜鉛バシトラシン、アビラマイシン、アルキルトリメチルアンモニウムカルシウムオキシテトラサイクリン、エフロトマイシン、エンラマイシン、クロルテトラサイクリン、セデカマイシン、センデュラマイシン、ナラシン、ノシヘプタイド、バージニアマイシン、ビコザマイシン、フラボフォスフォリポール、ポリナクチン、モネンシン、サリノマイシン、ラサロシド、ライソセリン、ロノマイシン、アボパルシン、硫酸コリスチン、リン酸タイロシン、アンプロリウム・エトパベート、アンプロリウム・エトパベート・スルファキノキサリン、クエン酸モランテル、デコキネート、ナイカルバジン、ハロフジノンポリスチレンスルホン酸、キタサマイシン、チオペプトン、デストマイシンA、ハイグロマイシンBまたはこれらの塩類等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
製造例
カシュー・トレーディング(株)よりカシューナッツの殻500kgを入手し、圧搾することによりカシューナッツ殻油(非加熱CNSL)158kgを製造した。
CNSLの組成は以下の方法で測定した。すなわち、HPLC(Waters600、日本ウォーターズ(株))、検出機(Waters490E、日本ウォーターズ(株))、プリンタ(クロマトパックC−R6A、島津製作所)、カラム(SUPELCOSIL LC18、SUPELCO社)を用いた。アセトニトリル:水:酢酸が80:20:1(用量比)の溶媒を用い、流速は2ml/分とした。280nmの吸光度で検出した。
非加熱カシューナッツ殻油には、アナカルド酸が61.8質量%、カルダノールが8.2質量%、カルドールが19.9質量%含まれていた。
【0030】
実施例1(試料調製)
(1)カルボキシメチルセルロース(CMC)は、以下のダイセルファインケム株式会社の製品を使用した。
品番:1110、1220、1350、2260、2280、2252
(2)キサンタンガム、タラガム、マンナンは、伊那食品工業株式会社の製品を使用した。
(3)カシューナッツ殻油
上記製造例のとおり、カシュー・トレーディング(株)よりカシューナッツの殻を入手し、圧搾することによりカシューナッツ殻油を製造した。
(4)粒剤製造
カシューナッツ殻油2.0kg、シリカ(Sipernat 22、エボニック デグサ ジャパン(株))1.7kg、αデンプン(コーンアルファY、三和デンプン工業(株))1.0 kg、水1.5kgをヘンシェルミキサーに投入し、攪拌・混合した。
上記混合物を、押出造粒機(ダルトン社)を用いてφ2mmにて造粒を行った後、整粒機を用いて整粒し、流動層乾燥機にて乾燥した。
(5)コート粒剤製造
上記(4)にて製造した粒剤を使用し、コート作業を実施した。コート工程はコート剤が変わっても同一であるため、代表的に、CMC品番1110を使用した場合について記した。
コート工程には転動造粒機を使用した。上記(4)にて製造した粒剤500gを45°に設定した転動造粒機に投入し、霧吹きによる加湿を行いつつ、CMC 50gを三回に分けて投入した。最後の投入が終了した後に、最後の霧吹きによる加湿を行い、表面を滑らかにした。乾燥後、コート粒剤を得た。
【0031】
実施例2(カシューナッツ殻油の溶出性の評価)
実施例1の(5)にて製造したコート粒剤10gを200mlビーカーに入れ、水または所定濃度のゲル液100mlを加えた後、攪拌した。その後静置し、コート粒剤の表面からカシューナッツ殻油が溶出し始める時間を、目視により観察した。
コート剤にCMC品番1110を使用した際の結果を、以下の表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
コーティング無しの粒剤を水に入れた場合は5分でカシューナッツ殻油の溶出が確認された。また、コート剤を水に入れた場合は、溶出時間が10分に延びた。
一方、コート剤をゲル液に入れた場合、さらに溶出時間を遅延させることができ、CMC2252 0.1重量%およびキサンタンガム0.02重量%の場合で15分となった。これらの濃度よりもゲル濃度をさらに大きくすると、更に溶出時間が伸びる傾向が確認された。
【0034】
実施例3(カシューナッツ殻油の溶出性の評価)
コート剤にCMC品番1350を使用した際の結果を、以下の表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
コート粒剤を水に入れた場合は溶出時間が11分であった。コート粒剤をゲル液に入れた場合は、実施例2と同様に、溶出時間が遅延し、キサンタンガム0.02重量%の場合で15分、CMC2252 0.1重量%の場合で16分であった。これらの濃度よりもゲル濃度を大きくすると、実施例2と同様に、更に溶出時間が伸びる傾向が確認された。
【0037】
実施例4(カシューナッツ殻油の溶出性の評価)
コート剤にαデンプンを使用した際の結果を、以下の表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
コート粒剤を水に入れた場合は溶出時間が10分であった。コート粒剤をゲル液に入れた場合は、実施例2と同様に、溶出時間が遅延し、キサンタンガム0.02重量%の場合で12分、CMC2252 0.1重量%の場合で13分であった。これらの濃度よりもゲル濃度を大きくすると、実施例2と同様に、更に溶出時間が伸びる傾向が確認された。
【0040】
実施例5(ゲル化粒剤の流動性の評価)
ビール瓶(大瓶、633ml)にコート粒剤(コート剤にCMC品番1110を使用)を55g入れ、其処に所定濃度の各種ゲル剤水溶液を250g注ぎ入れた。ビンを振ることにより内部を均一とし、その後ビンを45°下方に傾けてコート粒剤の瓶からの排出状況を調べた。以下の表4に結果の一覧を示した。
【0041】
【表4】
【0042】
全体的な傾向として、ゲル剤の濃度が低いとゲル化粒剤が瓶の排出口で詰まる現象が現れ、濃度が大きくなると流動性が低くなり排出されなくなった。表4には排出がスムーズに行われる濃度範囲を記述した。すなわち、表4の濃度範囲であれば、低濃度側でも途中でゲル化粒剤が瓶の排出口に詰まらず、高濃度側でもゲル化粒剤が90%以上排出される。