(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記特許文献1に記載の発明では、鍍金槽に沈殿した沈殿層の表面から当該沈殿層内へワイヤを入れた後、沈殿層の表面に対し略平行に沿ってワイヤを移動させつつ砥粒を付着させているため、ワイヤに付着した砥粒が沈殿層の他の砥粒と擦れ合ってしまい、ワイヤから脱落しやすかった。その結果、砥粒の付着量が少なくなるという問題が生じると共に、ワイヤに付着する砥粒の分布にバラツキが大きくなるという問題が生じ、更にはワイヤに付着させる砥粒の量をコントロールしにくいという問題が生じていた。
【0007】
なお、このような問題は、例えば、フィルムやカーボン繊維等に粒状物を付着させる場合にも共通してあてはまる問題である。
【0008】
本発明は、このような観点から創案されたものであり、粒状体の付着量を好適に確保できると共に、被めっき物に付着する粒状体の分布にバラツキが小さくなり、更には被めっき物に付着させる粒状体の量をコントロールしやすい鍍金装置及び鍍金物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明は、電気鍍金を施すことにより、被めっき物の外面に粒状物を固着させる鍍金装置であって、鍍金液と、前記鍍金液中に前記粒状物が沈殿して成る沈殿層と、を収容する鍍金槽を備え、前記被めっき物は、前記鍍金槽の底部又は側部から前記沈殿層へ進入すると共に、前記沈殿層の表面に対し交差方向に移動することにより、前記沈殿層の表面との交差部分で前記粒状物が付着されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、被めっき物は、鍍金槽の底部又は側部から沈殿層へ進入すると共に、沈殿層の表面に対し交差方向に移動することにより、沈殿層の表面との交差部分で粒状物が付着されることから、被めっき物に付着した粒状物と沈殿層の他の粒状物とが擦れ合うのを回避して、被めっき物からの粒状物の脱落を防止できる。その結果、粒状物の付着量を好適に確保できると共に、被めっき物に付着する粒状物の分布にバラツキが小さくなり、更には被めっき物に付着させる粒状物の量をコントロールしやすくなる。
【0011】
また、前記鍍金槽内に配置された陽極部材と、前記鍍金槽外に配置され、前記被めっき物に接触する陰極部材と、前記陽極部材及び前記陰極部材を通電する通電手段と、を更に備え、前記陽極部材は、前記沈殿層の表面に接触又は近接しているように構成するのが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、陽極部材は、沈殿層の表面に接触又は近接していることにより、沈殿層の表面付近に確実に電界が発生することから、沈殿層の表面との交差部分で粒状物が被めっき物の外面により一層付着しやすくなる。
【0013】
また、前記鍍金槽は、外側鍍金槽と、前記外側鍍金槽内に配置された内側鍍金槽と、を有し、前記外側鍍金槽には、液体と、前記液体を加温する加温手段と、が収容され、前記内側鍍金槽には、前記鍍金液及び前記沈殿層が収容されているように構成するのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、加温手段が外側鍍金槽に収容され、鍍金液及び沈殿層が内側鍍金槽に収容されていることにより、加温手段と沈殿層とが別々の鍍金槽に収容されるため、粒状物との接触による加温手段の損傷を防止できる。
また、加温手段が外側鍍金槽に収容されることにより、その分だけ内側鍍金槽のスペースを縮小できるため、内側鍍金槽内における粒状物の密度が増大して、被めっき物の外面に粒状物を速やかに付着させることができる。
【0015】
また、前記鍍金槽の底部又は側部には、前記被めっき物が挿通される第1挿通孔が形成され、かつ前記鍍金槽の密閉性を保持する密閉部材が設けられており、前記密閉部材には、前記第1挿通孔に連通し、かつ前記被めっき物が挿通される第2挿通孔が形成されているように構成するのが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、鍍金槽の底部又は側部には、鍍金槽の密閉性を保持する密閉部材が設けられることにより、鍍金槽からの鍍金液及び粒状物の漏出を防止できる。
【0017】
また、前記沈殿層を攪拌する攪拌手段を更に備えた構成とするのが好ましい。
【0018】
沈殿層には、大小様々な粒状物が堆積しており、沈殿層の表面には、比較的小さい(軽い)粒状物が堆積しやすいところ、かかる構成によれば、攪拌手段により、小さい粒状物が鍍金液中へ浮遊するため、小さい粒状物だけが被めっき物に付着するのを防止できる。これにより、大小様々な粒状物を被めっき物に均等に付着できる。
【0019】
前記課題を解決するため本発明は、電気鍍金を施すことにより、被めっき物の外面に粒状物を固着させる鍍金物の製造方法であって、鍍金液と、前記鍍金液中に前記粒状物が沈殿して成る沈殿層と、を収容する鍍金槽に対し、前記
被めっき物を導入する導入工程を備え、前記導入工程では、前記鍍金槽の底部又は側部から前記沈殿層へ前記被めっき物を進入させると共に、前記沈殿層の表面に対し交差方向に前記被めっき物を移動させることにより、前記沈殿層の表面との交差部分で前記被めっき物の外面に前記粒状物を付着させることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、鍍金槽の底部又は側部から沈殿層へ被めっき物を進入させると共に、沈殿層の表面に対し交差方向に被めっき物を移動させることにより、沈殿層の表面との交差部分で被めっき物の外面に粒状物を付着させることから、被めっき物に付着した粒状物と沈殿層の他の粒状物とが擦れ合うのを回避して、被めっき物からの粒状物の脱落を防止できる。その結果、粒状物の付着量を好適に確保できると共に、被めっき物に付着する粒状物の分布にバラツキが小さくなり、更には被めっき物に付着させる粒状物の量をコントロールしやすくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、粒状物の付着量を好適に確保できると共に、被めっき物に付着する粒状物の分布にバラツキが小さくなり、更には被めっき物に付着させる粒状物の量をコントロールしやすい鍍金装置及び鍍金物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本実施形態では、本発明の鍍金装置を、ワイヤーソーの製造装置に適用し、ワイヤに砥粒を付着させる場合について説明するが、鍍金装置の使用目的を限定するものではない。
【0024】
本発明の実施形態に係るワイヤーソー1の製造装置100の説明に先立ち、
図1を参照して、製造物であるワイヤーソー1について説明する。
図1(a)は、ワイヤーソー1を示す斜視図であり、(b)は、(a)のI−I線断面図である。
鍍金物たるワイヤーソー1は、例えば、インゴットから半導体用ウェーハ等を切断する際に使用される部材であって、ワイヤ2と、鍍金層3と、複数の砥粒4,4と、を備える。
【0025】
<ワイヤ>
被めっき物たるワイヤ2は、ワイヤーソー1の芯線となる断面視円形状を呈する金属製の線状部材である。本実施形態のワイヤ2は、外周面全体に真鍮鍍金(図示省略)が施されたピアノ線で構成されるが、本発明はこれに限定されることなく、導電性を有する材料であれば、例えば、タングステン線、モリブデン線、ステンレス鋼線、アルミ二ウム線等で構成されてもよい。ワイヤ2の線径は、ワイヤーソー1の用途に応じて適宜設定される。
【0026】
<鍍金層>
鍍金層3は、ワイヤ2の外周面全体を覆うように形成される部材である。本実施形態の鍍金層3は、ニッケルで構成される。
【0027】
<砥粒>
粒状物たる砥粒4は、鍍金層3によりワイヤ2の外周面に固着され、被切断物を切断する刃部となる部材である。本実施形態の砥粒4は、ダイヤモンドで構成されるが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、CBN(立方晶窒化ホウ素)等の超砥粒、玄武岩・花崗岩・凝灰岩等を粉砕した粉体、及びサファイヤ・ルビー・ガーネット・SiC(炭化ケイ素)等の一般砥粒等で構成されてもよいし、これらの中から2種以上を組み合せたもので構成されてもよい。砥粒4の粒径は、ワイヤーソー1の用途に応じて適宜設定される。
【0028】
次に、
図2を参照して、本発明の実施形態に係るワイヤーソー1の製造装置100について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るワイヤーソー1の製造装置100を示す概略構成図である。
図2中の矢印は、ワイヤ2の移動方向を示す。
【0029】
図2に示すように、鍍金装置たる製造装置100は、供給装置10と、前処理槽20と、第1鍍金槽30と、第2鍍金槽40と、後処理槽50と、乾燥装置60と、巻取装置70と、を備える。また、製造装置100の適所には、複数のガイドローラ80a−80xが配置される。
【0030】
<供給装置>
供給装置10は、ワイヤ2が巻回され、巻取装置70へワイヤ2を供給する円柱状の装置である。供給装置10は、水平軸周りに回転可能に構成されている。
【0031】
<前処理槽>
前処理槽20は、供給装置10から供給されたワイヤ2を清掃するための処理槽であって、脱脂槽21と、第1水洗槽22と、酸処理槽23と、第2水洗槽24と、を備える。各槽21−24は、上部が開口する箱状の樹脂製容器であって、所定空間の容積を有する。なお、各槽21−24の材質、形状及び大きさ等は適宜変更してよい。
【0032】
<脱脂槽>
脱脂槽21には、例えば、水酸化ナトリウムを含む洗浄液等が収容されている。脱脂槽21は、ワイヤ2の外周面に付着している油分や埃等の汚れを除去する役割を果たす。脱脂槽21には、収容液の温度を調節する温度調節器82が付設されている。温度調節器82は、収容液の温度を検出する温度センサ82aと、収容液を加温するヒータ82bと、温度センサ82aで検出された温度に基づいてヒータ82bの加熱量(ON/OFFを含む)を制御する制御部82cと、を有する。
【0033】
この場合、ヒータ82bにより、収容液は、汚れの除去に適した温度に加温される。また、温度センサ82aで検出された温度に基づきヒータ82bの加熱量を制御することにより、収容液が過度に高温になるのを防止し、収容液の濃度及び温度を安定させることができる。
【0034】
<第1水洗槽>
第1水洗槽22には、水が収容されている。第1水洗槽22は、脱脂槽21でワイヤ2に付着したアセトン等を洗浄する役割を果たす。
【0035】
<酸処理槽>
酸処理槽23には、例えば、塩酸等が収容されている。酸処理槽23は、ワイヤ2の外周面の酸化物(錆等)を除去する役割を果たす。
【0036】
<第2水洗槽>
第2水洗槽24には、水が収容されている。第2水洗槽24は、酸処理槽23でワイヤ2に付着した塩酸等を洗浄する役割を果たす。
【0037】
<第1鍍金槽>
第1鍍金槽30は、ニッケル鍍金(電気鍍金)を施すことにより、ワイヤ2の外周面に鍍金層3を形成して砥粒4を仮固着する役割を果たす。つまり、第1鍍金槽30では、ガイドローラ80l,80mの通過時に脱落しない程度に、砥粒4がワイヤ2に固着される。第1鍍金槽30は、外側鍍金槽31と、外側鍍金槽31内に配置された内側鍍金槽32と、を有する。外側鍍金槽31は、上部が開口する箱状の樹脂製容器であって、所定空間の容積を有する一方、内側鍍金槽32は、上部が開口する箱状のガラス製容器であって、所定空間の容積を有する。なお、外側鍍金槽31及び内側鍍金槽32の材質、形状及び大きさ等は適宜変更してよい。
外側鍍金槽31及び内側鍍金槽32については、
図3を参照して後に詳しく説明する。
【0038】
<第2鍍金槽>
第2鍍金槽40は、更にニッケル鍍金を施すことにより、砥粒4の固着状態を強固にして砥粒4を本固着する役割を果たす。つまり、第2鍍金槽40では、第1鍍金槽30で形成された鍍金層3の厚さが増大し、鍍金層3に対する砥粒4の埋込率が増大することにより、砥粒4がワイヤ2に確実に固着される。第2鍍金槽40は、上部が開口する箱状の樹脂製容器であって、所定空間の容積を有する。第2鍍金槽40は、他の槽21−24,51−53よりも幅寸法及び高さ寸法が長尺に形成されている。なお、第2鍍金槽40の材質、形状及び大きさ等は適宜変更してよい。
【0039】
第2鍍金槽40の内部には、鍍金液40aと、複数の金属板40b,40bが収容されている。鍍金液40aは、例えば、スルファミン酸ニッケル、ホウ酸、及び塩化ニッケルを含んだスルファミン酸浴等から成る。
【0040】
金属板40bは、短冊状のニッケル板で構成される。金属板40bは、接続線H3を介して、直流電源92の+(プラス;正)極に接続されており、陽極部材として機能する。一方、直流電源92の−(マイナス;負)極は、接続線H4を介して、ガイドローラ80mに接続されており、このガイドローラ80mが陰極部材として機能する。更に、ワイヤ2は、ガイドローラ80mに接触しており、陰極を構成する。
【0041】
第2鍍金槽40には、鍍金液40aの温度を調節する温度調節器86が付設されている。温度調節器86は、鍍金液40aの温度を検出する温度センサ86aと、鍍金液40aを加温するヒータ86bと、温度センサ86aで検出された温度に基づいてヒータ86bの加熱量(ON/OFFを含む)を制御する制御部86cと、を有する。
【0042】
この場合、ヒータ86bで鍍金液40aを加温することにより、鍍金液40a中の電気抵抗を低減し、電気の流れを良好にできる。また、温度センサ86aで検出された温度に基づきヒータ86bの加熱量を制御することにより、鍍金液40aが過度に高温になるのを防止し、鍍金液40aの濃度及び温度を安定させることができる。
【0043】
<後処理槽>
後処理槽50は、第1鍍金槽30及び第2鍍金槽40を通過したワイヤ2を清掃するための処理槽であって、第3水洗槽51と、第4水洗槽52と、第5水洗槽53と、を備える。各水洗槽51−53は、上部が開口する箱状の樹脂製容器であって、所定空間の容積を有する。なお、各水洗槽51−53の材質、形状及び大きさ等は適宜変更してよい。
【0044】
<第3水洗槽、第4水洗槽、第5水洗槽>
各水洗槽51−53には、水が収容されている。各水洗槽51−53は、第1鍍金槽30及び第2鍍金槽40でワイヤ2に付着した鍍金液31a,40aを洗浄する役割を果たす。
【0045】
<乾燥装置>
乾燥装置60は、水洗槽51−53でワイヤ2に付着した水(水分)を除去(蒸発)すると共に、第1鍍金槽30及び第2鍍金槽40で形成された鍍金層3を乾燥する役割を果たす。乾燥装置60は、加熱コイルやヒータ等の加熱手段61と、加熱手段61を収容する金属製の箱状部材62と、を有する。加熱手段61は、ワイヤ2の移動方向に沿って配置されている。箱状部材62は、ワイヤ2の移動方向に長尺な形状を呈しており、両端部には、ワイヤ2が挿通される挿通孔62a,62bが形成されている。
【0046】
<巻取装置>
巻取装置70は、供給装置10に対し水平方向及び鉛直方向に所定間隔離間して配置され、鍍金層3が形成され且つ砥粒4が本固着されたワイヤ2を巻き取る円柱状の装置である。巻取装置70は、水平軸周りに回転可能に構成されている。巻取装置70は、図示しない駆動手段(例えばモータ)により所定回転数で回転され、ワイヤ2を所定速度で巻き取るように構成されている。巻取装置70の回転速度は、調節可能になっている。
【0047】
<ガイドローラ>
ガイドローラ80a−80xは、供給装置10から巻取装置70へワイヤ2を案内するガイド部として機能する円柱状の部材である。ガイドローラ80a−80xは、水平軸周りに回転可能に構成されている。ガイドローラ80a,80c,80i,80l,80m,80qは、金属材料で形成され、その他のガイドローラ80b等は、樹脂材料で形成されている。ガイドローラ80i,80mは、陰極部材として機能し、ワイヤ2に電流を流す給電部としての役割も果たす。
【0048】
次に、外側鍍金槽31及び内側鍍金槽32について、
図2及び
図3を参照して詳細に説明する。なお、
図3は、
図2の部分拡大図である。
図3では、説明の便宜上、外側鍍金槽31を省略して描いている。
【0049】
外側鍍金槽31は、
図2に示すように、他の槽21−24,51−53よりも幅寸法及び高さ寸法が長尺に形成されている。外側鍍金槽31の内部には、鍍金液31aが収容されている。鍍金液31aは、例えば、塩化ニッケル、ホウ酸、及びスルファミン酸ニッケル等を含んだ水溶液から成る。なお、鍍金液31aに替えて水等を使用してもよい。
【0050】
外側鍍金槽31には、鍍金液31aの温度を調節する温度調節器84が付設されている。温度調節器84は、鍍金液31aの温度を検出する温度センサ84aと、鍍金液31aを加温するヒータ(加温手段)84bと、温度センサ84aで検出された温度に基づきヒータ84bの加熱量(ON/OFFを含む)を制御する制御部84cと、を有する。
【0051】
この場合、ヒータ84bで鍍金液31aを加温することにより、鍍金液31aの熱が後記する内側鍍金槽32の鍍金液32b(
図3参照)に伝わり、鍍金液32bを加温できる。これにより、鍍金液32b中の温度を安定化させると共に、間接加熱することで液組成の分解を予防し、電気の流れを良好にできる。また、温度センサ84aで検出された温度に基づきヒータ84bの加熱量を制御することにより、鍍金液31a,32bが過度に高温になるのを防止し、鍍金液31a,32bの濃度及び温度を安定させることができる。
【0052】
内側鍍金槽32は、
図2に示すように、外側鍍金槽31よりも幅寸法及び高さ寸法が短尺に形成されている。内側鍍金槽32は、複数の支持部S,Sを介して、外側鍍金槽31の底部上面に固定されると共に、複数の連結部(図示省略)を介して、外側鍍金槽31の上部開口縁に固定される。
【0053】
図3に示すように、内側鍍金槽32の底部32aには、ワイヤ2が挿通される微細な挿通孔(第1挿通孔)32a1が形成されている。内側鍍金槽32の底部外面32a2には、内側鍍金槽32を気密乃至液密に保持するための密閉部材33が設けられている。密閉部材33には、挿通孔32a1に連通し、かつワイヤ2が挿通される微細な挿通孔(第2挿通孔)33aが形成されている。挿通孔32a1,33aは、ワイヤ2の外径と略同一に形成される。なお、本実施形態の密閉部材33は、シート状のシリコーンゴムで構成されるが、内側鍍金槽32の密閉性を保持可能であってワイヤ2に損傷を与えないものであれば、その材質、形状及び大きさ等はいかなる構成であってもよい。
【0054】
内側鍍金槽32の内部には、鍍金液32bと、沈殿層32cと、複数の金属板32d,32dと、が収容されている。また、内側鍍金槽32は、エア攪拌装置32eを有する。
【0055】
鍍金液32bは、例えば、塩化ニッケル、ホウ酸、及びスルファミン酸ニッケル等を含んだ水溶液から成る。
沈殿層32cは、複数の砥粒4,4がその自重により鍍金液32b中に沈殿して形成されており、内側鍍金槽32の底部内面32a3に堆積している。なお、砥粒4の一部は、鍍金液32b中に浮遊している。
【0056】
金属板32dは、例えば、短冊状のニッケル板であって、ワイヤ2の周囲を囲むように等間隔で4本配置されている(
図3では2本のみ図示)。金属板32dの下端は、沈殿層32cの表面32c1に接触している。金属板32dは、接続線H1を介して、通電手段たる直流電源90の+(プラス;正)極に接続されており、陽極部材として機能する。一方、直流電源90の−(マイナス;負)極は、接続線H2を介して、沈殿層32cの上流側に配置されたガイドローラ80iに接続されており、このガイドローラ80iが陰極部材として機能する。更に、ワイヤ2は、ガイドローラ80iに接触しており、陰極を構成する。
【0057】
この場合、直流電源90をオンにして金属板32d、ガイドローラ80i、及びワイヤ2に電流を流すと、ワイヤ2の外周面に対し、砥粒4が付着又は鍍金液32b中のニッケルイオン(金属イオン)と共に共析して付着する。また、ニッケルイオンの付着が進行すると、ワイヤ2の外周面に鍍金層3が形成される。これにより、砥粒4が鍍金層3によってワイヤ2の外周面に仮固着される。
【0058】
なお、金属板32dの下端は、沈殿層32cの表面32c1に近接してもよいし(つまり、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで、砥粒4及びニッケルイオンがワイヤ2の外周面に好適に付着できる程度に、表面32c1に対し上側に離間してもよいし)、沈殿層32c内に挿入されてもよい。また、金属板32dの数、材質、形状及び大きさ等は、適宜変更してよい。例えば、金属板32dの形状は、円環状(リング状)や半円状等にしてもよい。
【0059】
攪拌手段たるエア攪拌装置32eは、鍍金液32b中へエアを送出して沈殿層32cを攪拌する装置である。エア攪拌装置32eは、沈殿層32cへエアを送出する送出管32e1と、内側鍍金槽32外に配置され、送出管32e1へエアを供給するポンプ32e2と、を有する。送出管32e1の上端は、ポンプ32e2に接続される一方、下端の送出口32e3は、沈殿層32c内に位置している。
【0060】
ここで、内側鍍金槽32の下方には、ガイドローラ80kが配置される一方、内側鍍金槽32の上方には、ガイドローラ80lが配置されている。ガイドローラ80kの外周面のうちワイヤ2が離間する部分80k1と、ガイドローラ80lの外周面のうちワイヤ2が最初に当接する部分80l1と、内側鍍金槽32及び密閉部材33の挿通孔32a1,33aとは、鉛直方向(上下方向)に沿って直線上に配置されている。この場合、内側鍍金槽32内へ導入されたワイヤ2は、下方から上方へ移動し、沈殿層32cの表面32c1に対し交差方向(直交方向)に移動する。そして、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで、砥粒4及びニッケルイオンがワイヤ2の外周面に付着される。
【0061】
なお、ワイヤ2の表面積に占める砥粒4の付着面積の割合(砥粒4の付着量)は、ワイヤーソー1の用途に応じて適宜設定される。この場合、電流の強さ、ワイヤ2の移動速度、エア攪拌装置32eのエア圧等を適宜調節することにより、砥粒4の付着量を制御する。また、鍍金層3の厚さは、砥粒4の粒径に応じて適宜設定される。この場合、電流の強さ、ワイヤ2の移動速度、内側鍍金槽32及び第2鍍金槽40の寸法(鍍金液32b,40aの容量)等を適宜調節することにより、鍍金層3の厚さを制御する。
【0062】
本発明の実施形態に係る製造装置100は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、
図2及び
図3を適宜参照して、その動作について説明する。
【0063】
はじめに、
図2に示すように、図示しない駆動手段により、巻取装置70が回転して供給装置10からワイヤ2が巻き出される。
【0064】
続いて、供給装置10から巻き出されたワイヤ2は、脱脂槽21→第1水洗槽22→酸処理槽23→第2水洗槽24の順に通過する。
このとき、ワイヤ2の外周面に付着している汚れ及び酸化物等が除去されると共に、脱脂槽21で付着した水酸化ナトリウムを含む洗浄液及び酸処理槽23で付着した塩酸が洗浄される。
【0065】
続いて、
図2及び
図3に示すように、洗浄されたワイヤ2は、外側鍍金槽31内へ導入された後、ガイドローラ80j,80k及び挿通孔33a,32a1を経由して、底部32aから内側鍍金槽32へ導入される。
【0066】
続いて、
図3に示すように、底部32aから内側鍍金槽32内へ導入されたワイヤ2は、沈殿層32c内に進入し、沈殿層32cの表面32c1に対し交差方向に移動する。
また、直流電源90により、金属板32d、ガイドローラ80i、及びワイヤ2に電流が流され、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで、砥粒4及びニッケルイオンがワイヤ2の外周面に付着する。
【0067】
このとき、金属板32dの下端は、沈殿層32cの表面32c1に接触しているため、沈殿層32cの表面32c1付近に確実に電界が発生することから、交差部分Xで砥粒4及びニッケルイオンがワイヤ2の外周面により一層付着しやすくなる。
また、温度調節器84により、外側鍍金槽31の鍍金液31aは、ニッケルイオンの付着に適した温度に調節される一方、鍍金液31aの熱が内側鍍金槽32の鍍金液32bへ伝わり、鍍金液32bが鍍金液31aと略同温となっている。そのため、鍍金液32b中のニッケルイオンは、ワイヤ2の外周面に付着しやすくなっている。
更に、エア攪拌装置32eから送出されるエアにより沈殿層32cが攪拌され、沈殿層32cの表面32c1に堆積している小さい砥粒4が鍍金液32b中へ浮遊する。これにより、小さい砥粒4だけがワイヤ2へ付着するのを防止できる。
【0068】
続いて、沈殿層32cの表面32c1を通過したワイヤ2は、沈殿層32c上方の鍍金液32b内を通過する。
このとき、ニッケルイオンが更に付着し、ワイヤ2の外周面に鍍金層3が形成される。これにより、砥粒4が鍍金層3によってワイヤ2の外周面に仮固着される。
【0069】
続いて、
図2に示すように、砥粒4が仮固着されたワイヤ2は、ガイドローラ80l,80mを経由して、第2鍍金槽40内へ導入される。
このとき、直流電源92により、金属板40b、ガイドローラ80m、及びワイヤ2に電流が流され、ニッケルイオンが更に付着するため、鍍金層3の厚さが増大し、鍍金層3に対する砥粒4の埋込率が増大して、砥粒4がワイヤ2に確実に固着(本固着)される。
【0070】
続いて、砥粒4が本固着されたワイヤ2は、第3水洗槽51→第4水洗槽52→第5水洗槽53の順に通過する。
このとき、第1鍍金槽30及び第2鍍金槽40でワイヤ2に付着した鍍金液31a,40aが洗浄される。
【0071】
続いて、洗浄されたワイヤ2は、挿通孔62aを経由して、箱状部材62内へ導入される。箱状部材62内へ導入されたワイヤ2は、加熱手段61により加熱されつつ移動する。
このとき、加熱手段61により、第3水洗槽51−第5水洗槽53でワイヤ2に付着した水が除去されると共に、第1鍍金槽30及び第2鍍金槽40で形成された鍍金層3が乾燥される。
【0072】
そして、乾燥したワイヤ2は、挿通孔62bを経由して、箱状部材62外へ導出された後、巻取装置70の外周面に巻き取られる。
【0073】
以上説明した本実施形態によれば、ワイヤ2は、内側鍍金槽32の底部32aから沈殿層32cへ進入すると共に、沈殿層32cの表面32c1に対し交差方向に移動し、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで砥粒4が付着することにより、ワイヤ2に付着した砥粒4と沈殿層32cの他の砥粒4とが擦れ合うのを回避して、ワイヤ2からの砥粒4の脱落を防止できる。その結果、砥粒4の付着量を好適に確保できると共に、ワイヤ2に付着する砥粒4の分布にバラツキが小さくなり、更にはワイヤ2に付着させる砥粒4の量をコントロールしやすくなる。これにより、完成品であるワイヤーソー1の切断性能の低下を抑制できる。
【0074】
また、本実施形態によれば、ワイヤ2は、内側鍍金槽32の底部32aから沈殿層32cへ進入することにより、ワイヤ2が沈殿層32cへ進入する前に鍍金されるのを回避できる。これにより、ワイヤ2が沈殿層32cを通過した後において、ニッケルイオンの付着量を調節すればよいので、ワイヤが沈殿層へ進入する前及び沈殿層を通過した後において、ニッケルイオンの付着量を調節する必要がある従来技術(特許文献1に記載の発明)に比較して、鍍金層3の厚さの管理が容易になる。
【0075】
また、本実施形態によれば、ワイヤ2は、沈殿層32cの表面32c1に対し交差方向に移動し、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで砥粒4が付着することにより、ワイヤ2の全周に亘って砥粒4が均一に付着するため、ムラの少ない高品質のワイヤーソー1を製造できる。
【0076】
また、本実施形態によれば、金属板32dの下端は、沈殿層32cの表面32c1に接触しているため、沈殿層32cの表面32c1付近に確実に電界が発生することから、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで、砥粒4及びニッケルイオンがワイヤ2の外周面により一層付着しやすくなる。
【0077】
また、本実施形態によれば、温度調節器84により、鍍金液31aは、ニッケルイオンの付着に適した温度に調節され、更に内側鍍金槽32がガラス製容器であるため、鍍金液31aの熱が内側鍍金槽32の鍍金液32bへ伝わることとなる。これにより、鍍金液32bは、鍍金液31aと略同温となるため、鍍金液32b中のニッケルイオンは、ワイヤ2の外周面により一層付着しやすくなる。
【0078】
また、本実施形態によれば、ヒータ84bが外側鍍金槽31に収容されることにより、その分だけ内側鍍金槽32のスペースを縮小できるため、内側鍍金槽32内における砥粒4の密度が増大して、ワイヤ2の外周面に砥粒4を速やかに付着させることができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、沈殿層32cの上流側に配置されたガイドローラ80iが陰極部材になることにより、沈殿層32cの下流側に配置されたガイドローラ80l等が陰極部材になる場合に比較して、ニッケルイオンは、沈殿層32cの表面32c1との交差部分X側で、ワイヤ2の外周面に付着しやすくなる。
【0080】
また、沈殿層32cには、大小様々な砥粒4が堆積しており、沈殿層32cの表面32c1には、比較的小さい砥粒4が堆積しやすいところ、本実施形態では、エア攪拌装置32eにより、小さい砥粒4が鍍金液32b中へ浮遊するため、小さい砥粒4だけがワイヤ2に付着するのを防止できる。一方、小さい砥粒4も付着させたい場合には、一度攪拌した後、小さい砥粒4が再度堆積するまでワイヤ2の移動を停止させる。これにより、大小様々な砥粒4をワイヤ2に均等に付着できる。
【0081】
また、本実施形態によれば、ヒータ84b及びガイドローラ80j,80kが外側鍍金槽31に収容され、沈殿層32cが内側鍍金槽32に収容されることにより、ヒータ86b及びガイドローラ80j,80kと、沈殿層32cとが別々の鍍金槽に収容されるため、砥粒4との接触によるヒータ86b及びガイドローラ80j,80kの損傷を防止できる。
【0082】
また、本実施形態によれば、内側鍍金槽32の底部外面32a2には、内側鍍金槽32を気密乃至液密に保持するための密閉部材33が設けられるため、内側鍍金槽32からの砥粒4及び鍍金液32bの漏出を防止できる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0084】
本実施形態では、本発明の鍍金装置を、ワイヤーソー1の製造装置100に適用し、ワイヤ2の外周面に砥粒4を付着させる場合に使用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、フィルム(帯状部材)の外面やカーボン繊維(線状部材)の外面等に粒状物を付着させる場合に使用してもよい。
【0085】
本実施形態では、鍍金層3は、ニッケルで構成されるが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、ニッケル合金で構成されてもよいし、銅、錫、白金等の他の金属材料で構成されてもよい。この場合、鍍金液32b,40aの構成成分及び金属板32d,40bの構成材料は、適宜変更される。
【0086】
本実施形態では、ワイヤ2は、沈殿層32cの表面32c1に対し直交方向に移動したが、本発明はこれに限定されることなく、沈殿層32cの表面32c1に対し傾斜して(略直交方向に)移動してもよい。
【0087】
本実施形態では、ワイヤ2は、内側鍍金槽32の底部32aから沈殿層32cへ進入したが、本発明はこれに限定されることなく、
図4に示すように、内側鍍金槽32の側部32fから沈殿層32cへ進入してもよい。この場合、側部32fに挿通孔(第1挿通孔)32f1が形成されると共に、側部32fの外面に密閉部材33が設けられる。
【0088】
本実施形態では、外側鍍金槽31に鍍金液31aを収容したが、本発明はこれに限定されるものではなく、外側鍍金槽31に鍍金液31aを収容しなくてもよいし、外側鍍金槽31自体を省略してもよい。この場合、内側鍍金槽32にヒータ等の加温手段を設ける。また、ガイドローラ80k(
図2参照)を金属材料で形成し、直流電源90の−(マイナス;負)端子に接続して、陰極部材とするのが好ましい。これにより、本実施形態のようにガイドローラ80iを陰極部材にした場合に比較して、ガイドローラ80kと、沈殿層32cの表面32c1(交差部分X)との距離が近いため、沈殿層32cの表面32c1での鍍金性能が良好になり、沈殿層32cの表面32c1との交差部分Xで、砥粒4及びニッケルイオンがワイヤ2の外周面により一層付着しやすくなる。
【0089】
本実施形態では、ワイヤ2が沈殿層32cを通過した後に鍍金される構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ワイヤ2が沈殿層32cへ進入する前に鍍金される構成としてもよい。この場合、外側鍍金槽31内に陽極部材を別途配置する。
【0090】
本実施形態では、第2鍍金槽40を備えたが、本発明はこれに限定されることなく、第2鍍金槽40を省略してもよい。この場合、内側鍍金槽32の高さ寸法を大きくすることにより、内側鍍金槽32において鍍金層3の厚さを十分に確保し、ワイヤ2の外周面に砥粒4を本固着する。
【0091】
本実施形態では、攪拌手段としてエア攪拌装置32eを使用したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、砥粒4を攪拌するスクリューと、このスクリューを駆動する駆動モータと、を備えた攪拌手段を使用してもよい。