(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
発明の分野
本発明は、極性表面上に成長させた光放出化合物半導体結晶に関し、より詳細には、放出効率を改善するために、その自然発生的な分極誘導電荷を低減させまたは打ち消すことに関する。
【0003】
関連技術の説明
ほとんどの半導体光エミッタは、2層のクラッド層の間に成長させた活性層または発光層を含む、ダブルヘテロ構造を有する。ダブルヘテロ構造の様々な層は、複数の材料から製作される。1つのクラッド層は、過剰な自由電子を含有することを意味するn型であり、また1つのクラッド層は、過剰な正孔を含有することを意味するp型である。一般にクラッド層は、活性層よりも広いバンドギャップを有する。このため、注入された電子と正孔は活性層内に閉じ込められ、自由キャリアの再結合が、活性層内での空間的局在化を通して効率的に行われ、光が生成される。さらに、レーザダイオード(LD)エミッタは、ダブルヘテロ構造を取り囲んで一般にバンドギャップがさらに広い材料を具備する別の光閉じ込め層も有する。ダブルヘテロ構造半導体デバイスは、O′Shea他のIntroduction to Lasers and Their Applications、Addison−Wesley Publishing Company、1978年12月、166〜187頁を含めた多数の刊行物に記載されている。
【0004】
このような構造では、材料組成がその基本結晶構造の極性方向に変化するときに、分極誘導電荷が生じる。極性方向は、結晶の分極ベクトル
【0005】
【数1】
【0006】
と直交しない任意の結晶方向と定義される。これは、III−V族半導体やII−VI族半導体など、結晶結合が元々方向性を持っておりわずかにイオン性でもある材料について、特に言えることである。このような電荷は、格子間不整合材料の場合には歪に関係するものであり(圧電性)、種々の材料における結合のイオン強度の差に起因した組成に関係するものであり(自然発生的)、またはこれら2つを組み合わせたものと考えられる。誘導電荷は、自由キャリアに対して外部電界と同じ影響を及ぼす電界または電位勾配(gradient)を引き起こす。この現象は、Bernardini他の「Spontaneous polarization and piezoelectric constants of III−V nitrides」、American Physical Society Journal、Physics Review B、Vol.56、No.16、1997、R10 024〜R10 027頁と、Takeuchi他、「Quantum−Confined Stark Effect due to Piezoelectric Fields in GaInN Strained Quantum Wells」、Japanese Journal of Applied Physics、Vol.36、パート2、No.4、1997、L382〜L385頁を含めたいくつかの刊行物で論じられている。そのような電界の大きさは、結晶の極性表面上に成長させた窒化物ヘテロ構造の場合、2.5×10
6V/m程度の大きさと推定されている、Bykhovski他、「Elastic strain relaxation and piezo−effect in GaN−AlN,Gan−AlGaN and GaN−InGaN superlattices」、Journal of Applied Physics、Vol.81、No.9、1997、6332〜6338頁。
【0007】
結晶の極性表面上に成長させたヘテロ構造の電気特性を考えるとき、分極誘導電荷を考慮に入れるべきである。ウルツ鉱GaN結晶の場合に0001方向に沿って成長させた結晶層、またはせん亜鉛鉱GaAs結晶の場合に111方向に沿って成長させた結晶層は、結晶極性表面の2つの例である。ウルツ鉱構造のブラヴェ格子は六方晶系であり、六角形に垂直な軸は、通常、c軸または0001方向と呼ばれる。この軸に沿って、この構造は、同じ元素(例えば全てガリウムでありまたは全て窒素である)の原子層が正六角形から積み重ねられて一連に並べられたものと考えることができる。この均一性に起因して、各層(または面)は分極化して正電荷または負電荷のいずれかを有し、原子層の両端間に双極子を生成する。各層の電荷状態は、その構成成分である原子によって異なる。様々な成長方向を有する結晶面のその他の例は、StreetmanのSolid State Electronic Devices、第2版、Prentice−Hall,Inc.、1980年、1〜24頁と、Shuji Nakamura(中村修二)他の「The Blue Laser Diode,GaN Based Light Emitters and Lasers」、Springer、1997年、21〜24頁に見出すことができる。
【0008】
最近まで、光放出ヘテロ構造の活性領域およびクラッド領域に関連する内部分極電界は、深刻な問題を呈示していなかった。その理由は、より確立されているAl−Ga−In−As−P材料系をベースとした発光ダイオード(LED)を、一般に、無極性結晶表面上に成長させていたからである(特に、001せん亜鉛鉱表面)。しかし最近、極性の高い表面であり主としてウルツ鉱結晶の0001方向に沿って成長させたAl−Ga−In−N(「窒化物」)材料系をベースとする光エミッタについて、かなりの研究がなされている。それにも関わらず、窒化物ダブルヘテロ構造は、従来の無極性設計に従っている。
【0009】
図1Aは、極性方向に成長させた一般的な従来の窒化物ダブルヘテロ構造半導体を概略的に示す断面図である。図示される基板層1は、スピネル(MgAl
2O
4)、サファイア(Al
2O
3)、SiC(6H、4H、および3Cを含む)、ZnS、ZnO、GaAs、AlN、およびGaNを含む、窒化物半導体を成長させるのに適する任意の材料でよい。基板の厚さは、一般に100μmから1mmに及ぶ。基板1上のバッファ層2は、AlN、GaN、AlGaN、InGaNなどで形成することができる。このバッファ層によって、基板1と、上に在る導電性コンタクト層3と可能な格子不整合が、容易になる。しかし、バッファ層2は、基板の格子定数が窒化物半導体の格子定数に等しい場合、省くことができる。バッファ層2は、いくつかの窒化物成長技法では省くこともできる。材料組成に応じて、バッファ層のエネルギー帯ギャップは2.1eVから6.2eVに及ぶものでよく、厚さは約0.5μmから10μmでよい。
【0010】
n型コンタクト層3も、一般の窒化物半導体から形成され、好ましくはGaNまたはInGaNから形成され、その厚さは0.5μmから5.0μmに及び、バンドギャップはGaNの場合約3.4eVであり、InGaNの場合はそれよりも小さい(インジウム濃度により異なる)。導電層3上に在る下部n型またはアンドープ型クラッド層4は、従来GaNまたはAlGaNからなり、そのバンドギャップは、GaNの場合3.4eVであり、AlGaNの場合はそれよりも大きい(Al濃度により異なる)。その厚さは1nmから100nmに及ぶものでよい。
【0011】
窒化物ダブルヘテロ構造は、下層のクラッド層上に在る活性層5として、一般にInGaNを使用し、その厚さは1nmから100nmである。この層のバンドギャップは一般に2.0eVであるが、インジウム濃度に応じて変化してよい。活性領域上の上部p型またはアンドープ型クラッド層6は、一般にAlGaNまたはGaNからなり、その厚さおよびバンドギャップエネルギーは、下部n型クラッド層4の厚さおよびバンドギャップと同様である。クラッド層6上のp型GaN導電性コンタクト層7のエネルギー帯ギャップは約3.4eVであり、厚さは約10nmから500nmである。一般に、この構造が0001などの極性方向に成長するならば、異なる構成材料が原因で、層と層との界面に分極誘導シート電荷が生じる。光エミッタの動作で特に問題となるのは、活性領域5に隣接する分極誘導電荷シートである。
【0012】
図1Aに示す化合物半導体では、一般に、活性領域5と下部クラッド層4との界面に負の分極誘導電荷シート密度σ1、すなわちその大きさが10
13電子/cm
2程度であるσ1が形成される。活性領域5と上部クラッド層6との界面には、大きさが同様の正の電荷シート密度σ2が形成される。これらの電荷の極性は、上述のように方向性がありわずかにイオン性である結晶層の結合によって異なる。一般に、電荷シートの密度は、2層間の組成上の相違から生じる自然発生的な要因と、層同士の格子不整合から生じる圧電性の歪との両方に左右されることになる。例えば、In
0.2Ga
0.8N活性領域5とGaNクラッド層4の間のσ1は、約8.3×10
12電子/cm
2である。これは、In
0.2Ga
0.8N活性領域中のインジウム含量が20%であるからであり(自然発生的な分極)、かつその層には、その下に在るGaN層との格子不整合よって歪が生じるからである(圧電性の分極)。
【0013】
活性領域の対向する面に沿った界面電荷シートは、その領域の両端間に双極子を生成する。この双極子は、シート電荷σ1およびσ2の大きさによってその強度が異なる電界に対応する。上記のような場合、8.3×10
12 cm
-2のシート電荷で1.5×10
6V/cmの電界が与えられる。そのような理由で、本発明者等はこの電界を分極誘導電界と呼ぶ。双極子によって発生した静電ポテンシャル低下の大きさは、双極子層の厚さに左右される。双極子層の厚さは、成長方向でのその物理的な寸法を指し、σ1とσ2との距離でもある。この距離は、2枚のコンデンサ極板間の距離から容量性ポテンシャル低下を決定するのと同様の手法を用いて、静電ポテンシャル低下の大きさを決定するのに使用することができる。上記のように電荷密度σ1とσ2との距離が10nmであるとき、活性領域5の両端間の分極誘導ポテンシャル低下は約1.5Vになると考えられる。活性領域の両端間の正味の電界も、周りを取り囲むクラッド層内のドーピング濃度、pn接合間の内蔵電圧、および自由キャリアの遮蔽を含めたいくつかのパラメータによって異なり、したがって一般に、分極誘導電界に等しくない。しかし、その強度が原因で、分極誘導電界は正味の電界を決定するのに主要な役割を果たす。
【0014】
結晶の0001(極性)面上に成長させた窒化物エミッタは、約1%から10%という低い放出効率を有する。これは、その効率を制限する活性領域内または活性領域に隣接して相当な分極電界が存在することに起因する可能性がある。
図1Bは、
図1Aのデバイス構造に対応するエネルギー帯を示す。デバイスが動作すると、σ1およびσ2によって生じた自然発生的な分極電界により、その効率はいくつかの方法で低下する。第1に、双極子によって、その領域内では電子と正孔が空間的に分離する(反対方向に移動する)。図示するように、価電子帯E
v内の正孔は、活性領域5の一端で負電荷シートσ1に引き付けられ、一方、伝導帯E
c内の電子は、その他方の端部で正電荷シートσ2に引き付けられる。この自由キャリアの空間分離によって、放射性再結合の可能性が低下し、放出効率が低下する。第2に、伝導帯および価電子帯の量子井戸のエネルギー障壁は、電界に関連する量子化効率によって低くなる。このため、E
vより低いキャリアおよびE
cより高いキャリアは、破線Aにより示される経路を通って井戸から出ていく。第3に、分極誘導電界が存在することによって、キャリアの軌道Bによって示されるように、活性領域のσ1側にあるより高いE
cレベルからσ2側のより低いE
cレベルまでと、活性領域のσ2側にあるより低いE
vレベルからσ1側のより高いE
vレベルまで、キャリアのオーバーシュートも生じる。
【0015】
適用分野の技術者にとって、関連する別の問題とは、印加されるバイアスが増大するときの放出波長の安定性である。強い分極誘導電界が存在する場合、放出波長は、デバイスのバイアスが増大するにつれて青にシフトする。デバイスバイアスが増大するにつれ、より多くの自由キャリアが伝導帯および価電子帯の井戸に蓄積される。自由キャリアは空間的に分離するので、キャリア自体が、内蔵分極誘導電界を妨げまたは遮蔽する双極子を形成する。正味の電界が小さくなるにつれて量子井戸の量子化状態が変化し、放出波長は青にシフトする。
【0016】
図1Cは、分極誘導電荷が無い状態で無極性表面上で動作する光エミッタの、活性領域5とクラッド層4および6のエネルギー帯を示す。他の全ては等しく、上記論じた3つの作用は存在しないかまたは大きく減じられているので、放出効率はより高い。
【0017】
GaNベースのLEDの効率を高めるいくつかの手法が使用されてきた。いずれもNakamura他に発行された米国特許第5,959,307号および第5,578,839号は、自由キャリアがより効率的に閉じ込められるよう活性領域の障壁の高さを増大させるため、クラッド層にアルミニウムを添加することについて論じている。しかしこの添加によって、クラッド層の材料組成もGaNからAlGaNに変化し、それが、自然発生的分極電界および圧電性分極電界の両方を増大させるよう作用する。Al
0.15Ga
0.85Nクラッド層内にアルミニウムが15%存在すると、放出層の分極電界が倍になって約3×10
6V/cmになると考えられる。そのような電界は、光エミッタのエネルギー帯を変化させることによって、キャリアの閉じ込めを減少させかつ空間分離を増大させる可能性があり、それによって、その放射効率が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のこれらおよびその他の特徴および利点は、以下の詳細な記述を添付図面と併せて読むことによって、当業者に明らかにされよう。
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明の様々な実施形態の以下の記述は、結晶層をその結晶の極性方向に垂直に成長させたダブルヘテロ構造の構造体を有する窒化物放出系を対象とする。窒化物エミッタは、Al
xIn
yGa
1-x-yNを含む層であって、ただし0≦x≦1であり0≦y≦1である層を備えたウルツ鉱結晶構造を有すると推定される。特に記述される場合を除き、結晶の最上面は、周期律表第III族の極性を有する0001方向である。
図1Aに示す窒化物エミッタは、
図1Bの対応するバンド構造と共に、様々な実施形態に対する参照用として使用する。
【0027】
選択ドーピング
この実施形態では、半導体に様々なドーパントを取り込むことによって、分極により誘導された悪影響を減じまたは打ち消す。ドーパント不純物は、その意図される位置から拡散していかないタイプのものであるべきである。ドーパントは、そのエネルギー準位に基づき、界面の分極誘導電荷状態とは反対の正電荷状態または負電荷状態へとイオン化して、その影響を打ち消しまたは減じる。使用されるドーパントのタイプは、目標とされる界面電荷(正または負)によって異なる。正電荷には、負の電荷状態へとイオン化するドーパントが必要と考えられ、負の界面電荷に対しては、その反対のものが必要と考えられる。
【0028】
図2Aは、負の界面電荷密度σ1を低下させまたは打ち消すために、正電荷の供給源として約10
13Si原子/cm
3を取り込んだクラッド層/活性層/クラッド層のバンド構造を示す。正電荷密度σ2を低下させまたは打ち消すには、負電荷の供給源として、10
13原子/cm
3のMgを使用することができる。ドーパント濃度のプロフィルは、一部、ドーパントイオン化エネルギーおよびドナー/アクセプタ準位によって決まることになる。例えば、σ2を減じるために負電荷ドーパントの供給源として亜鉛(Zn)を使用した場合、より高いドーパント濃度が必要になると考えられる。ドーパントの不純物プロフィルは、利益をもたらすために、必ずしも分極誘導電荷に厳密に一致し/打ち消す必要はない。その他のドーパント不純物は、第II、IV、またはVI族元素を含むことができる。
【0029】
半導体に不純物を分布させる(または取り込む)ためには、いくつかの方法がある。材料組成が急激に変化して境界平面内に分極誘導電荷が生じる場合、不純物プロフィルは、その平面にまたは平面付近にデルタドープされることが好ましい。急激な変化は、所与の構成成分のモル分率の変化が単分子層、すなわち原子の単一の結晶層全体にわたって1%よりも大きいものである。デルタドーピングは、ドーパントを単一原子層に閉じ込めようとするものであり、ドーパントボリュームではなくドーパントシートが生成される。不連続なステップでまたは連続的にグレード組成が変化する場合、不純物プロフィルにもグレードが付けられることが好ましい。
図2Bは、デルタ61、不連続ステップでグレードが付けされたプロフィル62、および連続的にグレードが付けされたプロフィル63を含めた様々なタイプの不純物プロフィルを示す。
【0030】
中間組成障壁
この実施形態は、GaNクラッド層を有する光エミッタの放出効率を改善することを対象とする。圧電性および自然発生的な界面分極誘導電荷の両方を低減しまたは打ち消すために、一方または両方のクラッド層の材料組成は、それに隣接する層の材料組成に対して中間的に作製される。例えば、約5%のインジウム(In)を
図1Aの窒化物系のGaNクラッド層4に添加して、クラッド層の組成をIn
0.05Ga
0.95Nに変化させることができる。このようにすると、クラッド層の組成が、インジウムが20%のIn
0.20Ga
0.80N活性領域5に対して、またインジウムが0%のGaN導電層3に対して、中間的になると考えられる。
図3Aに示すように、インジウムは、隣接する2層の材料組成の差を小さくし、活性層とクラッド層の間の界面分極誘導電荷シート密度σ1Aを25%低下させて約0.75×10
13電子/cm
2にする。σ1Bは、約0.25×10
13電子/cm
2である。ドナータイプのドーピングがσ1Aまたはσ1Bを含有する界面の1つまたは両方の近くに存在する場合、上記選択ドーピングの実施形態で論じたように、圧電誘導電荷の一部は遮蔽されることになる。σ1Aおよびσ1bは共に組合せσ1A+σ1Bよりも小さいので、このデバイス構造では、ドーパントを活性領域から離しながら、従来の構造に比べて圧電誘導電荷の一部を選択的に遮蔽する能力が容易になる。これは、この電荷の全てが効果的に遮蔽されるように、σ1Bを有する界面に対して高濃度のn型ドーピングを行うことによってなされる。このように、活性領域内の電界は、従来の構造に対して25%ほど低下し、放出効率が増大する。
図3Bは、この場合のバンドダイアグラムを示す。n型ドーピングがσ1Aを含有する界面に向かって広がる場合、さらなる低下が得られる。クラッド層にインジウムを多く使用するほど、活性領域内の電界は小さくなる。しかし、インジウムを多く使用しすぎると、キャリアの閉じ込めが損なわれる可能性がある。上部クラッド層に関しては、電荷の遮蔽にp型ドーピングを使用するべきであること以外、同じ技法を利用することができる。
【0031】
一方または両方のクラッド層にインジウムを添加することによって、デバイス動作中の活性領域内の分極誘導電界が低減し、エネルギー障壁が低くなるにも関わらず放出効率が増大する。インジウムを含まないクラッド層に比べ、下部クラッド層4にインジウムが約5%という低い含量で含まれるものを使用することにより、450nmから470nmの範囲内でLED効率が改善されたことが実証された。
【0032】
四元障壁(QUARTERNARY BARRIERS)
この実施形態は、三元(ternary)AlGaNクラッド層を有する光エミッタの放出効率を改善することを対象とする。当初のGaNクラッド層に窒化アルミニウム(AlN)を添加することによって、三元AlGaN層が生成されることが知られている。この添加により、それらに隣接するコンタクト層および活性層のバンドギャップよりも大きいクラッド層のバンドギャップが発生して、より高いエネルギー障壁が活性領域の両側に生成され、それによって、キャリアの閉じ込めが改善される。しかし、添加されたアルミニウムは材料組成のばらつきも増大させ、それによって界面分極誘導電荷が生成される。事実、自然発生的な分極誘導電荷と圧電性の分極誘導電荷の両方は、ある層から次の層までのN結合に対するGaの極性を変化させることによって決定されるものであり、活性領域/クラッド層の界面で実際に増大する。電荷の増大は、2種の材料における圧電性の歪および自然発生的な分極の差の両方に起因する。その結果、デバイスの活性領域には高電界が存在する。
【0033】
本発明の一態様では、それらの材料組成をより同様にすることによって、歪および分極の差を低減させる。三元AlGaNクラッド層の一方または両方に窒化インジウム(InN)を添加して四元AlInGaN層を生成するが、それによって、クラッド層および活性層の両方での結合の平均極性が同様になる。これらの層にインジウムが含まれると、活性層/クラッド層の界面で界面圧電分極誘導電荷が発生する際のアルミニウムの影響が打ち消される。すなわち、四元AlInGaNクラッド層とInGaN活性領域との間には、三元AlGaNクラッド層とInGaN活性領域との間にあるよりも小さい電荷シートがある。活性領域から除去された、この構造内のほとんどの分極誘導電荷は、クラッド層またはコンタクト層内の高濃度にドープされた領域に閉じ込められ、効果的に遮蔽することができる。これらの層に添加されたインジウムの量は、一般に、層の厚さ、材料組成、および成長制限によって異なることになる。例えば、In
0.05Ga
0.95N活性層の隣のAl
0.12In
0.03Ga
0.85Nクラッド層は、隣に同じ活性層があるAl
0.15Ga
0.85N層に比べ、界面圧電電荷密度を約30%低下させて0.7×10
13電子/cm
2にし、活性領域内の電界を約30%低下させる。
【0034】
四元クラッド層のインジウムおよびアルミニウム成分は、活性領域に関連するエネルギー障壁に対する互いの影響を打ち消し合う傾向がある。AlGaNクラッド層にインジウムを添加すると活性領域のエネルギー障壁が低くなるが、分極誘導電荷が低減されるので、閉じ込め効率は実際に増大する。
【0035】
クラッド層は、放出効率を改善するために同一の組成を有する必要がない。例えば、放出波長380nmで改善されたLED効率が約25%であることが、エネルギー障壁が0.26eV E
cおよび0.08eV E
vである上部四元Al
0.15In
0.03Ga
0.82Nクラッドのみを使用して実証された。下部クラッド層の組成は、Al
0.15Ga
0.85Nとして維持された。
【0036】
三元AlGaNおよび四元AlInGaN組成を有するクラッド層について、LEDの作動近くでの(すなわち光放出に対する閾値近くでの)順方向バイアス条件下の概略図を、
図4Aおよび
図4Bにそれぞれ示す。これらの構造は両方とも、クラッド層4および6が同じ濃度のアルミニウムを含有するが、三元構造にはインジウムが含まれていない。これらの図では共に、活性領域5での線30の傾きが分極誘導電界を表している。その強度は、コンタクト3とコンタクト7の間のバイアス、クラッド層4および6へのドーピング、界面分極電荷シート密度の大きさによって異なる。両方の構造で使用されるバイアスは約2.6Vであり、この場合、クラッド層4のn型(Si)ドーパント濃度が約1×10
18/cm
3であり、クラッド層6のp型(Mg)ドーパント濃度が約1×10
19/cm
3である。三元AlGaNクラッド層を備えた活性領域5の両端間に発生する分極誘導電界の大きさは、約8.8×10
5V/cmである。
【0037】
図4Aに示すように、この電界により、GaNコンタクト層3および7から注入された電子と正孔は、そのそれぞれの注入コンタクトから最も遠く離れた界面31付近にキャリアを閉じ込めることによって、空間的に分離する傾向がある。この現象は、キャリアの放射性再結合の可能性を低下させる。
図4Bに示す四元AlInGaNクラッド層4および6は、活性領域5内に非常に低い分極誘導電界を示す。Al
0.05In
0.025Ga
0.925N下部クラッド層4およびAl
0.20In
0.10Ga
0.70N上部クラッド層6の場合、電界は約4.6×10
5V/cmである。これらの層は、より低い量子化エネルギー31も示し、自由キャリアの空間分離が減少して放射性再結合が改善される。分極誘導電荷の低減と、キャリアを最大限に閉じ込めるための高エネルギー障壁の維持との間には兼ね合いがあり、これは経験的に決定することができるものである。
【0038】
グレード組成を有するクラッド層
この実施形態では、クラッド層の一方または両方の組成にグレードが付けられて、クラッド層と活性領域との界面に、界面分極効果とは反対の空間電荷を発生させる。このグレーディングは、極性方向での層の組成を様々に変えて、圧電性の電荷を発生させる。グレーディングは、連続的であっても不連続であってもよい。分布した電荷の極性は、目標とされる界面分極電荷とは反対であるべきである。極性は、グレード層の組成と、それに隣接する2層の組成によって決定される。例えば、
図1Aの下部GaNコンタクト層3および下部AlGaNクラッド層4は、正の界面電荷シート密度を発生させる。この電荷は、この層のアルミニウム含量を徐々に変化させることによって、クラッド層4のボリューム全体に分布される。特に、下部クラッド層4は、アルミニウムが0%であるGaN導電層3付近のGaN組成から、アルミニウムが10%であるInGaN活性領域5付近のAl
0.10Ga
0.90Nまで、グレードを付けることができる。発生した正の空間電荷は、部分的に、Al
0.10Ga
0.90N/In
0.05Ga
0.95Nの界面で0.75×10
13電子/cm
2の負の電荷シート密度σ1を相殺すると考えられる。
【0039】
上部GaNコンタクト層7と上部AlGaNクラッド層6の間に示される負の界面電荷密度は、層6のボリューム上に、そのアルミニウム含量にグレードを付けることによって分布させることができる。発生した負の空間電荷は正電荷密度σ2を相殺して、その活性領域に対する影響を減じ、または打ち消すと考えられる。空間電荷の大きさは、グレードが生じる距離によって異なる。
図5は、AlGaNクラッド層のグレード付けをグラフで示すものであり、0%のアルミニウムから始めて単位時間当たりで結晶表面にアルミニウム原子を添加することにより示される(連続的に41または不連続ステップ42)。ガリウム原子および窒素原子の添加濃度40は、成長期間全体を通して均一に保たれる。適切なクラッド層の厚さが達成されたらこのプロセスを停止する。組成グレードを作成するために、2種の材料の可変周期超格子(varying period superlattice)も使用することができる。
【0040】
活性領域付近で自由キャリアを利用できることに起因する最適なデバイス性能と、その内部にドーパントが拡散する悪影響との間には、兼ね合い(trade−off)がある。クラッド層にグレードを付けることによって発生する空間電荷により、ドーパント不純物はグレード層の外側に配置され(例えば導電層内のみ)、このときその自由キャリアは引き付けられる。グレード組成に関連する空間電荷は、自然に、隣接する導電層からクラッド層へと自由ドーパントキャリアを引き付ける。したがってドーピング不純物は、活性領域に自由キャリアが与えられるように活性領域付近に存在する必要がなく、隣接するクラッド層から除去しまたは減少させることができる。
【0041】
グレード組成または混合組成を有する活性領域
半導体デバイスの組成変化が自由キャリアに及ぼす影響は、電界が与える影響と同様であり、擬似電界と呼ばれる。Herbert Kroemer、「Band Offsets and Chemical Bonding:The Basis for Heterostructure Applications」、The Journal of Physica Scripta、Vol.T68、10〜16頁、1996年を参照されたい。本発明のこの実施形態は、分極誘導電界が自由キャリアに及ぼす影響を打ち消すために、擬似電界を使用する。この系内に電荷を少しも存在させることなく、活性領域内に擬似電界を確立することが可能である。
図6Aは、真の電荷からではなく、エネルギー帯内に勾配51によって発生させた擬似電界を示す。これらの勾配は、活性領域5の組成にグレードを付けることによって生成することができる。擬似電界では、伝導帯内の電子が正電荷に向かってより低いエネルギー準位に移動し、価電子帯内の正孔は、負電荷に向かってより高いエネルギーへと移動する。この電界内の活性領域バンド構造は平行ではないことに留意されたい。これに対し、電界内のエネルギー帯は、
図1Bに示されるような平行な関係を示す。活性領域は、バンド構造に所望の勾配を発生させるよう組成的にグレードを付けることができ、それによって、所望の擬似電界効果が得られる。しかし、得られる擬似電界は、少なくとも1つのキャリアタイプに及ぼされる真の電界の効果を妨げる。活性領域の材料組成には、そのインジウム含量を変化させることによって、グレードを付けることができる(連続的にまたは不連続的に)。その領域の幅および所望のエミッタ特性に応じ、低インジウム含量から高インジウム含量の、またはその逆の、グレード組成を取り込むことができる。問題の特性には、一般に、放出波長と動作電流が含まれる。
【0042】
図6Bおよび
図6Cは、擬似電界が、活性領域5のエネルギー帯に及ぼす正味の影響を示す。
図6Bで、活性領域は、5%という低い濃度から10%という高い濃度まで連続的にグレードが付けられたインジウム濃度を有し、その勾配は約1%/nmである。インジウム濃度は、クラッド層4と活性領域5との界面で最も低く、活性領域の反対側で最高濃度に増大する。この場合、擬似電界は、価電子帯内の分極誘導電界を小さくする。反対方向にグレードを付けることによって、伝導体内の電界が打ち消されることになる。
図6Cでも、活性領域は、反対方向ではあるが、やはり5%から10%、平均勾配が1%/nmという、インジウム勾配および濃度を有する。次にキャリアタイプ、電子、または正孔の1つが広がるので、キャリアのより良好な空間的重なり合いが存在し、放出効率が高まる。
【0043】
電界補償障壁を有する多層放出
図7Aは、電界補償エネルギー障壁93を有する多層放出系90に関するエネルギー帯を示す。この実施形態で、放出系90は、活性領域91(すなわち光放出)とクラッド層92(非放出)が交互に配された多層からなる。クラッド92のエネルギー障壁93は、注入されたキャリアを活性領域91に閉じ込め、その分極誘導電界を妨げるという二重の機能を有する。発生した電界、および多層放出系90の全厚は、一般に、個々の活性領域91およびクラッド層92の数、厚さ、および組成によって異なる。それぞれ2nmの厚さである4つのIn
0.1Ga
0.9N活性領域91と、それぞれ5nmの厚さである3つのAl
0.05Ga
0.95Nクラッド層92を有する多層系90は、その全厚が23nmであり、おおよその平均分極誘導電界強度が4.5×10
5V/cmと考えられる。
図7Bに示される、同等のボリュームを有する単一の活性領域100のバンド構造は、9×10
5V/cmという分極電界強度を示すと考えられる。多層放出系を使用することによって、活性材料の全ボリュームが増大し、一方、活性領域内の分極誘導電荷に起因する平均電界は、全体として、同等のボリュームの単一活性領域を有する構造に比べて確実に小さくなる。
【0044】
反転分極
この実施形態では、キャリアの閉じ込めを改善するために、化合物半導体の自然発生的な分極誘導電荷を反転させる。GaN中の原子間結合は、ガリウム原子がわずかに陽性であり窒素原子が陰性であるので元々イオン性であり、結合の両端間に双極子が発生する。
図8Aは、結晶表面の極性方向に沿って成長させた個々のガリウム原子層および窒素原子層を示す。図示する順序では、連続原子層は、GaとNが交互に配されてなり、各層の底面70がガリウム原子の単原子層であり、最上面71が窒素原子である。各GaN原子対の両端間の個々の双極子72は、結果的に、層の両端間において、表示される方向に、平均分極誘導電界73を発生させる。これが活性領域のエネルギー帯に及ぼす影響については、
図1Bに関連して既に述べた。
【0045】
この自然発生的な分極誘導電界73の方向は、個々の原子双極子72の方向を反転させることによって、反転させることができる。これは、ガリウム原子層と窒素原子層の成長順序を逆にすることにより実現される。
図8Bで、原子層の逆転成長順序は、窒素から始まって最上面のGa層74に達するまで、ガリウム原子層と窒素原子層が交互に配される。原子層の成長順序は、いくつかの方法で変えることができる。まず、Nで終端するGaNまたはAlGaN基板で始まる場合、Nに相対する極性を難なく成長させることができる。しかし、ほとんどの成長はサファイヤまたはSiC上で行われ、その成長は当然ながらGa極性のものにであることが望まれる。この極性を変える技法がある。1つの技法では、極性を変えるため、Nに富む条件下でMBE成長を使用することを必要とする。第2の技法は、おおよそ1層のマグネシウム単分子層を表面に堆積させ、その結果、後続の層に関してN極性成長が行われる。第3の方法は、MOCVDまたはMBEによる原子層エピタキシを使用することであり、それによって、核形成を正しい極性で行うよう試みる。
【0046】
個々の双極子75は、
図8Aの電界73とは逆の方向に、分極誘導電界76を発生させる。これが活性領域のエネルギー帯に及ぼす影響を、
図8Cに示す。この成長順序は、活性領域内に分極誘導電界が発生するまで続くが、この電界の双極子は反転している。このため、注入されたキャリアによって、デバイスの作動前に、すなわち自由キャリアが再結合し始める前に、分極誘導電荷密度σ1およびσ2を遮蔽(中和)することができる。クラッド層4から活性領域に向かって注入された、E
cより高い電子は、クラッド/活性領域の界面でほぼσ2に蓄積される。蓄積された、これら自由キャリアの電荷は、σ2を中和する。同様に、クラッド層6から注入されたE
vより低い正孔は、活性領域/クラッドの界面付近でσ1を中和する。デバイスが作動する前に、このプロセスは、
図1Cに示す場合と同様に活性領域エネルギー帯を「平坦にする(flatten)」。その結果、デバイスの効率は、分極誘導電荷によって低下しない。このデバイス構造の他の利益とは、従来の構造に比べ、経路Aで示されるキャリアのオーバーシュートが劇的に減少することである。また、電子および正孔の両キャリアの閉じ込めも増大する。
【0047】
逆転構造
従来のLEDでは、p型の前にn型層を成長させる。この実施形態では、この成長順序が逆になる。
図9Aは、新たな成長順序で形成されたLEDを概略的に示す断面図であり、p型コンタクトおよびクラッド層83、84を成長させた後に、n型クラッドおよびコンタクト層86および87を成長させている。この実施形態の全ての層の厚さおよび材料組成は、
図1Aに関連して述べた窒化物エミッタの場合と同様である。逆転層構造にも関わらず、界面分極誘導電荷シート密度σ1およびσ2は、層同士の材料組成のばらつきにより依然として突出している。これが活性領域のエネルギー帯に及ぼす影響を
図9Bに示すが、これは本質的に
図1Bと同様である。しかし、p型層とn型層の順序を逆にすることによって、電子および正孔が注入される方向、すなわちそこから活性領域へと注入される方向も変化した。このように、n型コンタクト層から常に注入される電子は、活性領域85の左側に示されるように、E
cより高いコンタクト層87から活性領域85の左側に注入される。正孔は、右側から、E
vより低いp型コンタクト層83から注入される。この逆転層の順序により、キャリアは、層構造の代わりに電界方向が反対であった前の実施形態と同様の手法で、デバイスが作動する前に電荷密度を遮蔽することができる。この構造も、前の実施形態と同様の手法で、キャリアのオーバーシュートを減少させ、キャリアの閉じ込めを増大させる。
【0048】
格子定数を変化させること
図10Aおよび
図10Bは、構造内に分極電界を設計する別の方法を示す。活性層に歪が生じないように、または歪の方向が逆になるように、活性領域113の下の、構造の面内格子定数を変化させることによって、
図10Bのバンドダイアグラムに示されるように活性領域内の圧電分極誘導電界を小さくし、無くし、または反転させることができる。下に在る格子定数は、いくつかの方法で変化させることができる。第1に、バッファ層110は、バッファ層の面内格子定数がInGaN活性層の面内格子定数に近付くように、InAlGaNなどの異なる材料組成で成長させることができる。InAlGaNバッファ層のバンドギャップも、光吸収が無くなるように、InGaN活性層のバンドギャップより大きくなる。面内格子定数を変化させるための第2の方法では、従来のバッファ層を使用するが、このバッファ層とは異なるAlInGaNなどの材料組成でnコンタクト層111の少なくとも一部を成長させて、その面内格子定数がバッファ層の面内格子定数から変化して活性領域の面内格子定数に近付いた値になるようにすることである。このため、上述と同じ利益が実現される。第3の方法は、nコンタクト層に関して述べたものと同じ方法で、下部クラッド層112内の格子定数を変化させる。第4の方法では、歪が緩和されるように活性領域を十分厚く成長させ、したがって、活性領域内の圧電誘導電界が取り除かれる。選択された方法は、一般に、最小限の材料転位をもたらすものになり、上述のデバイス構造の利点をもたらしながら材料の品質が保たれる。
【0049】
残留分極誘導電荷のほとんどをさらに低減させまたは打ち消すには、いくつかの方法がある。上記論じた様々な実施形態は、混合しかつ合致させることができ、また、発光または非発光の適切な層のいずれか1つまたは全てに利用することができる。任意の所与の適用例に関し、特定の実施形態または実施形態の組合せはその適用例の性質に応じて異なると考えられ、経験的に決定することができる。例えば、1つの可能性として、四元障壁に関連して述べたアルミニウムおよびインジウムの打ち消し合う作用を持たせた状態でAlGaNクラッド層92とInGaN活性領域91を組み合わせることが考えられる。他には、少なくとも1つのクラッド層92のアルミニウム含量にグレードを付けること、かつ/または界面分極誘導電荷とは反対の電荷状態にイオン化する不純物を添加することが考えられる。
【0050】
本発明のいくつかの例示的な実施形態について図示し記述してきたが、当業者なら、多数の変形例および代替の実施形態を思い浮かべるであろう。例えば、この記述は窒化物エミッタを対象としたが、その他の材料を具備する光エミッタの分極誘導電荷の問題に対処するために、実施形態のいずれかまたは全てを使用することができる。そのような変形例および代替の実施形態が企図され、上述の特許請求の範囲で定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく作製することができる。