(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5853362
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】前玉レンズ固定部材、対物レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20060101AFI20160120BHJP
G02B 21/02 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
G02B7/02 A
G02B21/02
G02B7/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-268474(P2010-268474)
(22)【出願日】2010年12月1日
(65)【公開番号】特開2012-118328(P2012-118328A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(72)【発明者】
【氏名】八十川 利樹
【審査官】
高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−051176(JP,A)
【文献】
実開昭59−136605(JP,U)
【文献】
特開2007−199488(JP,A)
【文献】
実開平06−004718(JP,U)
【文献】
特開昭64−057220(JP,A)
【文献】
特開2003−215417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡用対物レンズにおける観察標本に最も近い前玉レンズを鏡筒内部に保持する前玉レンズ固定部材において、
前記前玉レンズ固定部材は、前記前玉レンズの光軸の方向に突出する鍔状部分と当該突出する鍔状部分が前記光軸回りに切り欠かれた部分とを有し、
前記前玉レンズ固定部材は、前記突出する鍔状部分が前記前玉レンズの像側のレンズ面に当接して、かつ前記切り欠かれた部分が前記前玉レンズの前記像側のレンズ面に突出することなく、前記前玉レンズの外周部に嵌合しており、前記前玉レンズを前記突出する鍔状部分と前記嵌合部分のみで固定し、前記前玉レンズの前記観察標本側のレンズ面の全面より前記観察標本からの光を入射可能に形成し、
前記切り欠き部分のみで規定される前記前玉レンズの開口径は、前記鍔状部分で規定される前記前玉レンズの開口径に比べて大きいことを特徴とする前玉レンズ固定部材。
【請求項2】
前記複数の鍔状部分は、前記光軸回りに偶数個または奇数個存在することを特徴とする請求項1に記載の前玉レンズ固定部材。
【請求項3】
前記複数の鍔状部分は、前記光軸に対して対向する位置に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の前玉レンズ固定部材。
【請求項4】
前記複数の鍔状部分は、前記光軸に対して対向する位置からずらして形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の前玉レンズ固定部材。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の前玉レンズ固定部材を有することを特徴とする対物レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
前玉レンズ固定部材と、これを用いた対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顕微鏡下において標本にマイクロピペットを接触させるパッチクランプと呼ばれる電気生理学的実験が盛んに行われるようになっている。このパッチクランプでは、マイクロピペットを対物レンズの先端部と標本との間に挿入するためのスペース(特に対物レンズ先端部の角度を大きく)を確保する必要があり、これに対応した対物レンズが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開2006−30587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、このようなマイクロピペットの挿入スペースを確保しつつ対物レンズの性能(例えば、開口数や集光性能等)を向上させることが望まれている。
【0005】
対物レンズの性能を向上させるには対物レンズの最も標本側の光学素子であるレンズ(以後、前玉レンズという)の直径を大きくする必要があるが、前玉レンズ直径を大きくするとマイクロピペットの挿入スペースが狭まり操作性が悪化するので、前玉レンズ直径を変更しないで開口数を少しでも大きくすることが望まれている。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みて行われたものであり、前玉レンズ直径を変更することなく高い性能の対物レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
顕微鏡用対物レンズにおける観察標本に最も近い前玉レンズを鏡筒内部に保持する前玉レンズ固定部材において、
前記前玉レンズ固定部材は、前記前玉レンズの光軸の方向に突出する鍔状部分と当該突出する鍔状部分が前記光軸回りに切り欠かれた部分とを有し、
前記前玉レンズ固定部材は、前記突出する鍔状部分が前記前玉レンズ
の像側のレンズ面に当接して、かつ前記切り欠かれた部分が前記前玉レンズの
前記像側のレンズ面に突出することなく、前記前玉レンズの外周部に嵌合しており、
前記前玉レンズを前記突出する鍔状部分と前記嵌合部分のみで固定し、前記前玉レンズの前記観察標本側のレンズ面の全面より前記観察標本からの光を入射可能に形成し、
前記切り欠き部分のみで規定される前記前玉レンズの開口径は、前記鍔状部分で規定される前記前玉レンズの開口径に比べて大きいことを特徴とする前玉レンズ固定部材を提供する。
【0008】
また、本発明は、前記
前玉レンズ固定部材を有することを特徴とする対物レンズを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前玉レンズ直径を変更することなく高い性能の対物レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態にかかる
前玉レンズ固定部材を示し、(a)は(b)のA−A線に沿った断面図を、(b)は(a)のBから見た矢視図をそれぞれ示す。
【
図2】第2実施形態に係る
前玉レンズ固定部材を示し、(a)は(b)のA−A線に沿った断面図を、(b)は(a)のBから見た矢視図をそれぞれ示す。
【
図3】第1実施形態の
前玉レンズ固定部材を用いた対物レンズの前玉レンズ近傍の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願の実施形態にかかる
前玉レンズ固定部材とこれを用いた対物レンズについて図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、発明の理解を容易にするためのものに過ぎず、本願発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な付加・置換等を施すことを排除することは意図していない。
【0012】
始めに、対物レンズの性能の一つである開口数は、主に対物レンズの前玉レンズの直径そのものではなく前玉レンズをレンズ鏡筒に固定する時に用いられる
前玉レンズ固定部材(以後、光学素子固定部材という)の開口の直径により規定される。具体的には、前玉レンズをレンズ鏡筒に固定するために、光軸回りの一周にわたって光軸方向に突出して形成された鍔状部材の内径で規定されている。
【0013】
本願の光学素子固定部材は、前玉レンズの直径が同じ対物レンズにおいて、従来より実質的に大きな開口数を達成できることが特徴である。以下、各実施形態について説明する。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態にかかる光学素子固定部部材について
図1を参照しつつ説明する。
【0015】
図1において、第1実施形態にかかる光学素子固定部材10は、後述する対物レンズの鏡筒を構成する第1のホルダ4と第1のホルダ4の内側に光学素子である前玉レンズ1の光軸の方向に突出し前玉レンズ1を保持する一対の鍔状部材3(3a、3b)とから構成されている。なお、鍔状部材3は複数対あっても良いことはいうまでもない。また、それぞれの鍔状部材3a、3bの形状(周方向の幅)は異なっていても良い。
【0016】
この一対の鍔状部材3は、前玉レンズ1の光軸Iに対して対向する位置に例えば第1ホルダ4と一体的に形成されている。また前玉レンズ1は、第1のホルダ4の先端内周に嵌合すると共に、一対の鍔状部材3に当接して接着剤等で固定されている。ここで前玉レンズ1と鍔状部材3とは線接触するように構成されている。なお、前記接触は、面接触するように構成することもできる。
【0017】
また、鍔状部材3の周方向の幅は、前玉レンズ1を接着した時、前玉レンズ1が光軸Iに直交する面に対してがたつきがない程度の幅に形成されている。そして、鍔状部材3が形成されていない領域は、前玉レンズ1の外周部がほぼ隙間無く第1のホルダ4に嵌合する形状に形成されている。よって、前玉レンズ1の標本側からの光がこの嵌合部から漏れ出ることがない。
【0018】
このような光学素子固定部材10を用いて対物レンズを構成した場合、前玉レンズ1の直径をd2とし、鍔状部材3がある部分の直径(内径)をd3とすると、鍔状部材3のない領域(鍔状部材が切り欠かれている部分)の直径はd2となる。このとき標本側(
図1(a)の左方向)から見ると、切り欠き部分の開口径がd3からd2に拡大するため、この領域の開口数は大きくなる。一方、鍔状部材3のある部分の開口数は、従来の開口径(d3)の場合と同等の値になる。
【0019】
このように第1実施形態にかかる光学素子固定部材10は、従来の如き一周に亘って鍔状部材がある(開口径d3)場合に比較して、前玉レンズ1の直径d2にほぼ等しい領域を確保することができる。この結果、部分的に開口数を大きくすることが可能になる。
【0020】
よって、第1実施例にかかる光学素子固定部材10を有する対物レンズは、従来と同様のマイクロピペットの挿入スペースを確保しつつ高い性能(開口数や集光性能)の対物レンズを得ることができる。
【0021】
なお、本第1実施形態にかかる光学素子固定部材10は、前玉レンズ1と接触する鍔状部材3部分の面積を前玉レンズ1の固定性能を損なうことがない程度に小さくすることで、開口径d2の領域を最大にすることができ、対物レンズの性能を最大にすることができる。
【0022】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる光学素子固定部部材について
図2を参照しつつ説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付して説明する。
【0023】
図2において、第2実施形態にかかる光学素子固定部材10は、後述する対物レンズの鏡筒を構成する第1のホルダ4と第1のホルダ4の内側に光学素子である前玉レンズ1の光軸の方向に突出し前玉レンズ1を保持する奇数個の鍔状部材3(3a、3b、3c)とから構成されている。なお、鍔状部材3は上記3個に限らず奇数個あれば良いことはいうまでもない。また、それぞれの鍔状部材3a、3b、3cの形状(周方向の幅)は異なっていても良い。
【0024】
この奇数個の鍔状部材3は、前玉レンズ1の光軸Iに対して対向する位置に鍔状部材がないように形成され、例えば第1ホルダ4と一体的に形成されている。また前玉レンズ1は、第1のホルダ4の先端内周に嵌合すると共に、奇数個の鍔状部材3に当接して接着剤等で固定されている。ここで前玉レンズ1と鍔状部材3とは線接触するように構成されている。なお、前記接触は、面接触するように構成することもできる。
【0025】
また、鍔状部材3の周方向の幅は、前玉レンズ1を接着した時、前玉レンズ1が光軸に直交する面に対してがたつきがない程度の幅に形成されている。そして、鍔状部材3が形成されていない領域は、前玉レンズ1の外周部がほぼ隙間無く第1のホルダ4に嵌合する形状に形成されている。よって、前玉レンズ1の標本側からの光がこの嵌合部から漏れ出ることがない。
【0026】
このような光学素子固定部材10を用いて対物レンズを構成した場合、前玉レンズ1の直径をd2とし、鍔状部材3がある部分の直径をd4とすると、鍔状部材3がある領域の直径d4は、鍔状部材が一周に亘って存在する従来のもの(開口径がd3)に比べて一つの鍔状部材の径方向の幅Δd分大きくすることができる。このとき標本側(
図2(a)の左方向)から見ると、開口径がd3からd4に拡大するため、この領域の開口数は大きくなる。また、鍔状部材3の周方向の幅が小さく鍔状部材3のない部分の直径は、前玉レンズ1の直径d2となるのでその開口数が開口径がd2の場合と同等になる。
【0027】
このように第2実施形態にかかる光学素子固定部材10は、従来の如き一周に亘って鍔状部材がある(開口径d3)場合に比較して、前玉レンズ1の直径d2にほぼ等しい領域と開口径がd2とd3の間のd4(d3<d4)となる領域(鍔状部材3のある領域)とすることができる。この結果、対物レンズ全体としてみると、一周に亘って開口径d3の従来に比べて開口径をd2〜d4と大きくすることが可能になり、対物レンズの開口数や集光性能を向上させることができる。
【0028】
よって、第2実施例にかかる光学素子固定部材10を有する対物レンズは、従来と同様のマイクロピペットの挿入スペースを確保しつつ高い性能(開口数や集光性能)の対物レンズを得ることができる。
【0029】
なお、本第2実施形態にかかる光学素子固定部材10は、前玉レンズ1と接触する鍔状部材3部分の面積を前玉レンズ1の固定性能を損なうことがない程度に小さくすることで、開口径d2の領域と開口径d4の領域を最大にすることができ、対物レンズの性能を最大にすることができる。
【0030】
次に、本第1実施形態にかかる光学素子固定部材10を用いた対物レンズについて
図3を参照しつつ説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付して説明する。また、以下の説明では、第1実施形態の光学素子固定部材10を代表として説明するが、第2実施形態の光学素子固定部材でも同様である。
【0031】
図3に示すように、実施形態にかかる対物レンズ20は、前玉レンズ1を保持する第1のホルダ4と第1のホルダ4と嵌合して対物レンズ20の鏡筒の一部となる第2のホルダ5とから構成されている。なお、
図3は、対物レンズ20の標本面7の近傍のみの断面図を示しており、前玉レンズ1の像側には複数のレンズが存在することは言うまでもない。
【0032】
前玉レンズ1の標本面7側は、前玉レンズ1の最外光線が入射する直径以上の領域は、標本面7の光軸位置と第1のホルダ4の標本面側の外壁に沿った面に一致するようにカットされ、その傾斜角度はほぼθ1となってる。この角度θ1は、マイクロピペットを挿入する際のスペースを規定するものである。この角度θ1が大きいほどマイクロピペットの挿入スペースが大きくなり、マイクロピペット操作性が向上する。
【0033】
また、本対物レンズ20は、
図1に示すように開口径がd2の領域を有しており、従来の輪帯状の鍔状部材による開口径d3より高い開口数を確保することができる。また、開口径がd2の領域を有することで、標本面からの光を有効に集光することができ、明るい標本像を得ることができる。
【0034】
以上のべたように、実施形態にかかる光学素子固定部材10を有することで、前玉レンズ1の直径が同じでも従来の対物レンズより大きな開口径(d2、d4)の領域を得ることができ、高い性能(開口数、集光性能)の対物レンズを得ることができる。
【0035】
また、実施形態にかかる光学素子固定部材10を有することで、対物レンズの性能が従来と同等で良ければ、前玉レンズ1の直径を小さくすることができ、マイクロピペットの挿入スペース(θ1)を大きくした対物レンズ20を得ることができる。
【0036】
なお、上記説明では、開口数を規定するレンズを前玉レンズとして説明したが、前玉レンズに限られずレンズの開口数を規定するレンズに対する固定部材として本願の光学素子固定部材を使用すれば同様の効果を奏することは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
1 前玉レンズ
3 鍔状部材
4 第1のホルダ
5 第2のホルダ
7 標本面
10 光学素子固定部材
20 対物レンズ
I 光軸