特許第5854065号(P5854065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854065
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】スカンジウム回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20160120BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20160120BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B3/06
   C22B7/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-29537(P2014-29537)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151619(P2015-151619A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2015年9月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 達也
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−291320(JP,A)
【文献】 特開2014−001430(JP,A)
【文献】 米国特許第4624703(US,A)
【文献】 米国特許第4988487(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 3/04− 3/10
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム及び/又は炭酸スカンジウムと、水酸化マンガン、酸化マンガン及び/又は炭酸マンガンとを含有する混合物を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程で洗浄した後の洗浄後殿物を酸に溶解する溶解工程とを含み、
前記洗浄工程は、洗浄液を用いて、前記洗浄工程で洗浄した後の洗浄後液のpHが6以上になるまで前記混合物を洗浄する工程を含む、スカンジウム回収方法。
【請求項2】
前記洗浄液の重量は、洗浄1回あたり、前記混合物の重量の3倍以上5倍以下である、請求項に記載のスカンジウム回収方法。
【請求項3】
前記混合物は、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物である、請求項1又は2に記載のスカンジウム回収方法。
【請求項4】
前記溶解工程は、前記洗浄後殿物を前記酸に溶解し、pHを1以上4以下に調整する工程を含む、請求項1からのいずれかに記載のスカンジウム回収方法。
【請求項5】
前記溶解工程は、前記洗浄後殿物のスラリー濃度が10重量%以上50重量%以下になるように、前記洗浄後殿物を前記酸に溶解する工程を含む、請求項1からのいずれかに記載のスカンジウム回収方法。
【請求項6】
前記溶解工程で溶解した後の溶解残渣を酸で溶解する再溶解工程をさらに含む、請求項1からのいずれかに記載のスカンジウム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカンジウムの回収方法、より詳しくは、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物に含まれる水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム及び/又は炭酸スカンジウムを資源として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スカンジウムは、高強度合金の添加剤や燃料電池の電極材料として極めて有用である。しかしながら、生産量が少なく、高価であるため、広く用いられるには至っていない。
【0003】
ところで、ラテライト鉱やリモナイト鉱等のニッケル酸化鉱には、微量のスカンジウムが含まれている。しかしながら、ニッケル酸化鉱では、ニッケル含有品位が低いため、長らく、ニッケル酸化鉱をニッケル原料として工業的に利用されてこなかった。そのため、ニッケル酸化鉱からスカンジウムを工業的に回収することもほとんど研究されていなかった。
【0004】
しかしながら、近年、ニッケル酸化鉱を硫酸とともに加圧容器に装入し、240〜260℃程度の高温に加熱してニッケルを含有する浸出液と浸出残渣とに固液分離するHPAL(High Pressure Acid Leaching)プロセスが実用化されつつある。このHPALプロセスで得た浸出液に対し、中和剤を添加して不純物が分離され、次いで硫化剤を添加してニッケルをニッケル硫化物として回収され、このニッケル硫化物を既存のニッケル製錬工程で処理して電気ニッケルやニッケル塩化合物が得られている(特許文献1参照)。
【0005】
図2は、公知技術における、ニッケル酸化鉱から金属を回収するためのフローチャートである。HPALプロセスを用いる場合(図2のステップS101〜S103)、ニッケル酸化鉱に含まれるスカンジウムは、ニッケルとともに浸出液に含まれる(図2のステップS101)。そして、HPALプロセスで得た浸出液に対し、中和剤をpHが1以上4未満になるように添加して不純物を分離し(図2のステップS102)、次いで硫化剤を添加すると(図2のステップS103)、ニッケルはニッケル硫化物として回収される一方、スカンジウムは、硫化剤添加後の硫化後液に含まれる。そのため、HPALプロセスを使用することで、ニッケルとスカンジウムとを効果的に分離できる。
【0006】
続いて、硫化後液に含まれるスカンジウムを、イミノジ酢酸塩を官能基とするキレート樹脂に吸着させることで、マンガン等の不純物と分離できる(図2のステップS104)。そして、キレート樹脂に吸着した後のスカンジウムを濃縮することも提案されている(図2のステップS105)。硫化後液に含まれるスカンジウムをキレート樹脂に吸着し、さらに濃縮する技術は、特許文献2〜4等に開示されている。
【0007】
しかしながら、含有品位や物量、あるいは設備投資費用等の面から、必ずしも、図2のステップS104及びS105に記載されるようなスカンジウム回収工程を設けない場合がある。図3は、スカンジウム回収工程を設けない場合におけるフローチャートである。HPALプロセスについては、図2と同じ符号を用いている。硫化剤添加後の硫化後液(図3のステップS103)は、スカンジウムを含んだまま排水処理工程に送られ(図3のステップS106)、中和剤をpHが4以上になるように添加して、スカンジウム化合物を含有する排水殿物を、マンガン化合物等の不純物と共に形成し、この排水殿物を積み立てる等して処分される。スカンジウムは希少であるため、排水殿物からスカンジウムを回収する技術の開発が求められている。
【0008】
水酸化スカンジウム又は炭酸スカンジウムから高純度の酸化スカンジウムを得る手法として、水酸化スカンジウム又は炭酸スカンジウムを酸性水溶液中に溶解し、スカンジウム含有溶液を得る溶解工程と、還元剤の使用により還元液とする液調整工程と、キレート樹脂と接触させ、スカンジウムを吸着したキレート樹脂を形成する吸着工程と、吸着キレート樹脂を希酸で洗浄する洗浄工程と、吸着キレート樹脂を強酸でキレート樹脂からスカンジウムを溶解し、スカンジウム含有溶液を得る溶解工程と、沈殿剤によりスカンジウム沈殿物を得る沈殿工程と、沈殿物を焼成する焼成工程とを含むことが提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−173725号公報
【特許文献2】特開平1−133920号公報
【特許文献3】特開平9−176756号公報
【特許文献4】特開平9−194211号公報
【特許文献5】特開平9−208222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、排水殿物に含まれるスカンジウムの品位は10ppm程度であり、非常に低い。加えて、排水殿物は、マンガン、アルミニウム等、除去すべき不純物を多く含む。そのため、排水殿物をそのまま特許文献5に記載の技術に適用しようとすると、溶解工程及び液調整工程を経て得られる浸出液中のスカンジウム純度が低く、上記の吸着工程、洗浄工程及び溶解工程を経ても、十分な純度を有する酸化スカンジウムを回収できない可能性がある。特許文献5に記載の技術をはじめとしたスカンジウムの高純度化技術に十分応用できるだけのスカンジウム粗精製物を排水殿物から回収する技術が求められている。
【0011】
本発明は、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物(排水殿物)から、スカンジウムの高純度化技術に応用できる程度に高純度化されたスカンジウム粗精製物を、複雑な操作を行うことなく効率よく回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、中和殿物を洗浄した後の洗浄後殿物を酸に溶解することで、中和殿物の形態で固定されたスカンジウム化合物を資源として効率よく回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)本発明は、水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム及び/又は炭酸スカンジウムと、水酸化マンガン、酸化マンガン及び/又は炭酸マンガンとを含有する混合物を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程で洗浄した後の洗浄後殿物を酸に溶解する溶解工程とを含む、スカンジウム回収方法である。
【0014】
(2)また、本発明は、前記洗浄工程が、洗浄液を用いて、前記洗浄工程で洗浄した後の洗浄後液のpHが6以上になるまで前記混合物を洗浄する工程を含む、(1)に記載のスカンジウム回収方法である。
【0015】
(3)また、本発明は、前記洗浄液の重量が、洗浄1回あたり、前記混合物の重量の3倍以上5倍以下である、(2)に記載のスカンジウム回収方法である。
【0016】
(4)また、本発明は、前記混合物が、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物である、(1)から(3)のいずれかに記載のスカンジウム回収方法である。
【0017】
(5)また、本発明は、前記溶解工程が、前記洗浄後殿物を前記酸に溶解し、pHを1以上4以下に調整する工程を含む、(1)から(4)のいずれかに記載のスカンジウム回収方法である。
【0018】
(6)また、本発明は、前記溶解工程が、前記洗浄後殿物のスラリー濃度が10重量%以上50重量%以下になるように、前記洗浄後殿物を前記酸に溶解する工程を含む、(1)から(5)のいずれかに記載のスカンジウム回収方法である。
【0019】
(7)また、本発明は、前記溶解工程で溶解した後の溶解残渣を酸で溶解する再溶解工程をさらに含む、(1)から(6)のいずれかに記載のスカンジウム回収方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物(排水殿物)から、キレート樹脂を用いた吸着や溶媒抽出等、スカンジウムの高純度化技術に応用する際の原料として供することができる程度に粗精製されたスカンジウム粗精製物を、複雑な操作を行うことなく効率よく回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るスカンジウムの回収方法を説明するための図である。
図2】鉱石から金属を回収するための第1の従来技術を説明するための図である。
図3】鉱石から金属を回収するための第2の従来技術を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
図1は、本発明に係るスカンジウムの回収方法を説明するための図である。本発明は、水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム及び/又は炭酸スカンジウムと、水酸化マンガン、酸化マンガン及び/又は炭酸マンガンとを含有する混合物を洗浄する洗浄工程S1と、この洗浄工程S1で洗浄した後の洗浄後殿物を酸に溶解する溶解工程S2とを含む。また、必須ではないが、溶解工程S2で溶解した後の溶解残渣を酸で溶解する再溶解工程S3をさらに含むことが好ましい。
【0024】
<洗浄工程S1>
洗浄工程S1では、水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム及び/又は炭酸スカンジウムと、水酸化マンガン、酸化マンガン及び/又は炭酸マンガンとを含有する混合物を洗浄する。以下では、混合物が、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物(排水殿物)である場合について説明するが、これに限られるものでなく、混合物は、水酸化スカンジウム、酸化スカンジウム及び/又は炭酸スカンジウムと、水酸化マンガン、酸化マンガン及び/又は炭酸マンガンとを含有するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0025】
洗浄工程S1では、中和殿物(排水殿物)に洗浄液を加え、撹拌し、洗浄後液と洗浄後殿物とに固液分離する。洗浄後液には、マンガンイオンが含まれ、洗浄後殿物には、スカンジウム化合物が含まれる。このことから、中和殿物(排水殿物)からマンガン化合物を好適に除去できる。洗浄液の種類は特に限定されるものではないが、放流後の環境問題がないことから、洗浄液は水、中和後放流する排水を繰り返した再生水等であることが好ましく、純水であることがより好ましい。
【0026】
洗浄工程S1における洗浄液の重量は、特に限定されるものでないが、洗浄1回あたり、中和殿物(排水殿物)の重量の3倍以上5倍以下であることが好ましい。洗浄液が少なすぎると、洗浄が不十分となり、洗浄に多くの洗浄回数を要する。洗浄液が多すぎると、設備容量、特にろ過設備の容量が大きくなるとともに、洗浄液の量に見合うだけの洗浄回数の減少効果も認められない。
【0027】
撹拌時間は、設備規模や構造にも影響されるが、一般に30分程度で十分であり、それ以上撹拌を行っても効果はあまりない。また、撹拌時の温度を60℃程度にすることで、撹拌時間を短縮できるため、より好ましい。
【0028】
洗浄工程S1を終えるか、洗浄後殿物を再度洗浄するかを判断する目安として、洗浄後殿物の組成を分析し、マンガン成分の含有量の変化から判断することも考えられるが、それでは時間がかかるため、洗浄後液のpHを測定することで代用することが好ましい。例えば、洗浄後液のpHが6以上になるまで混合物を洗浄することが好ましく、pHが6.5以上になるまで混合物を洗浄することがより好ましく、pHが7以上になるまで混合物を洗浄することがさらに好ましい。
【0029】
洗浄後殿物を再度洗浄する場合、再洗浄の操作は、洗浄工程S1と同じ方法・条件でよい。
【0030】
洗浄工程S1における洗浄を行うことで、中和殿物(排水殿物)に含まれるマンガン成分を早期の段階で好適に除去できる。その結果、溶解工程S2で使用する酸の量を少なく抑えることができる。
【0031】
<溶解工程S2>
溶解工程S2では、洗浄工程S1で洗浄した後の洗浄後殿物をスラリーとし、酸を添加して洗浄後殿物中のスカンジウムを酸性溶液中に浸出させ、スカンジウム溶解液と溶解残渣とを得る。
【0032】
酸は、従来公知のものであれば足り、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられるが、その後、排水処理すること等を考慮すると、酸は硫酸であることが好ましい。
【0033】
溶解工程S2では、pHを1以上4以下に調整することが好ましく、2.5以上3.5以下に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、洗浄後殿物に含まれるアルミニウムや鉄等の不純物がスカンジウム溶解液に浸出し、スカンジウム溶解液中のスカンジウム純度が低下するため、好ましくない。また、洗浄後殿物に含まれるケイ素がスカンジウム溶解液に浸出し、スカンジウム溶解液がゲル状となることで、スカンジウム溶解液と溶解残渣との固液分離が容易でなくなる点でも、好ましくない。一方、pHが4を超えると、スカンジウムのスカンジウム溶解液への溶解率(浸出率)が低下するため、好ましくない。
【0034】
溶解工程S2では、洗浄後殿物のスラリー濃度が10重量%以上50重量%以下になるように、洗浄後殿物を酸に溶解することが好ましく、洗浄後殿物のスラリー濃度が20重量%以上40重量%以下になるように、洗浄後殿物を酸に溶解することがより好ましく、洗浄後殿物のスラリー濃度が25重量%以上35重量%以下になるように、洗浄後殿物を酸に溶解することがさらに好ましい。スラリー濃度が10重量%未満であると、得られるスカンジウム溶解液中のスカンジウム濃度が低くなり、その後、樹脂を用いた吸着や溶媒抽出等を用いてスカンジウム溶解液を精製する際に、最終的なスカンジウム回収率や設備容量に影響を与え得るため、好ましくない。また、スラリー濃度が50重量%を超えると、スラリーのハンドリングが難しくなるため、好ましくない。
【0035】
<再溶解工程S3>
再溶解工程S3は、中和殿物(排水殿物)に含まれるスカンジウム成分の回収率を高めるため、溶解工程S2で得た溶解残渣に酸を加えて再度スラリーとし、このスラリーに酸を添加することで、浸出残渣に残存したスカンジウムをほぼ全量回収する工程である。
【0036】
再溶解工程S3は、溶解工程S2と同じ操作で良い。なお、溶解残渣中のスカンジウム品位が低い場合等では、溶解工程S2で得られる溶解残渣と、洗浄工程S1で得られる洗浄後殿物とを混合してスラリーとすることで、溶解工程S2と再溶解工程S3とを併用してもよい。
【0037】
上記の工程を経て得られるスカンジウム溶解液は、スカンジウム粗精製物として、特許文献5に記載の技術をはじめとしたスカンジウムの高純度化技術の原料に利用できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0039】
<原料の調製>
まず、ニッケル酸化鉱を濃硫酸とともにオートクレーブに装入し、245℃の条件下で1時間かけてスカンジウムやニッケル等の有価金属を含有するスラリーを生成させ、このスラリーから各種の有価金属を含有する浸出液と、浸出残渣とに固液分離した。
【0040】
続いて、この浸出液に炭酸カルシウムを添加し、pHを3に調整して、中和殿物と中和後液とを得た。スカンジウムやニッケル等の有価金属は中和後液に含まれ、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分は中和殿物に含まれる。
【0041】
続いて、中和後液に硫化水素ガスを吹き込み、ニッケルやコバルトや亜鉛を硫化物として硫化後液と分離した。
【0042】
そして、この硫化後液に炭酸カルシウムを添加し、pHを9に調整して、排水殿物と排液とに分離した。表1は、排水殿物の組成を示す。この排水殿物を、実施例及び比較例に供する原料とした。
【表1】
【0043】
<実施例及び比較例>
【表2】
【0044】
〔実施例1〕
[排水殿物の洗浄]
上記の排水殿物を20重量%のスラリーとし、室温で30分撹拌し、その後ヌッチェ及びろ瓶を用いて、洗浄後液と洗浄後殿物とに固液分離した。洗浄後殿物に再び水を添加し、上記と同じ方法で再洗浄した。表3は、洗浄及び再洗浄した後の再洗浄後殿物の組成を示す。
【表3】
【0045】
表3から、洗浄及び再洗浄によって、中和殿物に含まれるマンガン成分の約90%を除去できたことが分かる。
【0046】
[再洗浄後殿物の溶解]
再洗浄後殿物に硫酸溶液を添加し、スラリー濃度が50重量%、pHが3.5になるように調整し、室温で30分間撹拌して、スカンジウム溶解液と、溶解残渣とを得た。このスカンジウム溶解液を実施例1に係る試料とした。
【0047】
〔実施例2〕
洗浄後液と洗浄後殿物とに固液分離した後、洗浄後殿物を再洗浄することなく、洗浄後殿物をそのまま硫酸溶液に溶解したこと以外は、実施例1と同じ手法にて、スカンジウム溶解液と、溶解残渣とを得た。このスカンジウム溶解液を実施例2に係る試料とした。
【0048】
〔比較例1〕
上記の排水殿物を洗浄することなく硫酸溶液を添加し、スラリー濃度が50重量%、pHが3.5になるように調整し、室温で30分間撹拌して、スカンジウム溶解液と、溶解残渣とを得た。このスカンジウム溶解液を比較例1に係る試料とした。
【0049】
〔評価〕
実施例及び比較例に係る試料に含まれる各成分の濃度を測定した。表4は、スカンジウム濃度を1とした場合の他の成分の比を示す。
【表4】
【0050】
表4から、排水殿物を洗浄する洗浄工程と、この洗浄工程で洗浄した後の洗浄後殿物を酸に溶解する溶解工程とを経ることで、よりスカンジウム純度の高いスカンジウム溶解液を得られることが分かる(実施例1及び2)。特に、洗浄工程を複数回繰り返すことで、スカンジウム純度をさらに高められることが分かる(実施例2)。
【0051】
本実施例によると、硫黄成分を含有する酸性鉱山排水を中和したときに生成される中和殿物(排水殿物)から、キレート樹脂を用いた吸着や溶媒抽出等、スカンジウムの高純度化技術に応用する際の原料として供することができる程度に粗精製されたスカンジウム粗精製物を、複雑な操作を行うことなく効率よく回収できる。
【0052】
加えて、溶解工程に先立ち、洗浄工程で排水殿物からマンガン成分を除去することで、続く溶解工程において、洗浄工程で除去したマンガン成分に相当する量のマンガンを硫酸マンガンとして浸出するのに必要な硫酸の分だけ硫酸の量を節約できる。具体的には、溶解工程において、洗浄工程を行わない場合に比べ、硫酸の量を約10%節約できる。
【符号の説明】
【0053】
S1 洗浄工程
S2 溶解工程
S3 再溶解工程
図1
図2
図3