特許第5854159号(P5854159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854159
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】高分岐ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/32 20060101AFI20160120BHJP
   C08G 69/42 20060101ALI20160120BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   C08G69/32
   C08G69/42
   C01B31/02 101F
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-26384(P2015-26384)
(22)【出願日】2015年2月13日
(62)【分割の表示】特願2011-37917(P2011-37917)の分割
【原出願日】2011年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-96625(P2015-96625A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】前田 大輔
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第95/006081(WO,A1)
【文献】 特表平09−501730(JP,A)
【文献】 国際公開第95/006080(WO,A1)
【文献】 特開2010−189552(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128660(WO,A1)
【文献】 特開2010−163570(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139839(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0133483(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/128449(WO,A1)
【文献】 特開昭60−215024(JP,A)
【文献】 特開2008−240222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 69/00 − 69/50
C08L 1/00 −101/14
C08K 3/00 − 13/08
B01F 17/00 − 17/56
C01B 31/00 − 31/36
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(15)で示される構造単位を繰り返し単位として有する高分岐ポリマー。
【化1】
【請求項2】
その少なくとも1つの末端トリカルボニルベンゼン環のハロゲン原子の一部が、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、またはエステル基でキャップされている請求項1記載の高分岐ポリマー。
【請求項3】
その少なくとも1つの末端トリカルボニルベンゼン環のハロゲン原子の一部が、アリールアミノ基でキャップされた請求項2記載の高分岐ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分岐ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記する場合もある)は、ナノテクノロジーの有用な素材として、広範な分野での応用の可能性が検討されている。
その用途としては、トランジスタや、顕微鏡用プローブなどのように単独のCNTそのものを使用する方法と、電子放出電極や燃料電池用電極、またはCNTを分散させた導電性複合体などのように、多数のCNTをまとめてバルクとして使用する方法とに大別される。
【0003】
単独のCNTを使用する場合、CNTを溶媒中に加えてこれに超音波を照射した後、電気泳動等で単一に分散しているCNTのみを取り出す方法などが用いられている。
一方、バルクで用いる導電性複合体では、マトリックス材となる重合体などの中にCNTを良好に分散させる必要がある。
しかし、一般的にCNTは分散しにくく、通常の複合体ではCNTの分散が不完全なまま用いられており、十分にカーボンナノチューブの性能を発現させているとは言い難い。
そして、この問題は、カーボンナノチューブの各種応用を難しくさせることにもつながっている。このため、CNTの表面改質、表面化学修飾などによって分散性を向上させる方法が種々検討されている。
【0004】
このようなCNTを分散させる方法としては、例えばCNTをドデシル硫酸ナトリウムなどの低分子界面活性剤を含有する水溶液に添加する方法(特許文献1参照)があるが、これら低分子界面活性剤を使用した際には薄膜形成能が低く、薄膜化を容易にするために重合性のモノマーやポリマーを更に添加する必要があり、これら非導電性の有機物が存在するために導電性が損なわれるという問題がある。
また、CNT表面にコイル状構造を有するポリマーを付着させる方法も知られており、具体的にはポリ−m−フェニレンビニレン−co−ジオクトキシ−p−フェニレンビニレンをCNT表面に付着させる方法(特許文献2参照)も提案されている。ここでは、有機溶媒中にCNTを孤立に分散させることが可能で、CNT1本にポリマーが付着している様子を示しているが、一度ある程度にまで分散した後に凝集が起こり、沈殿物としてCNTを捕集するというものであり、長期的にCNTを分散させた状態で保存できるものではなかった。
【0005】
さらに、CNTに官能基を付加するなどにより化学修飾を施し、分散性を向上させる手法も知られている(非特許文献1参照)。
しかし、この手法では、化学修飾によりCNTを構成するπ共役系が破壊され易く、高導電性等のCNT本来の特性が損なわれるという問題点があった。
【0006】
上記の問題点を解決する方法として、水溶性ポリマーであるポリビニルピロリドンのようなポリマーによりCNTを分散させる方法(例えば非特許文献2参照)も知られているが、水溶性であるため、その応用範囲は限られている。
また、有機溶媒を用いる方法として、塩基性官能基を有する化合物を用い、ケトン系の有機溶媒に分散させる方法(例えば特許文献3参照)が提案されているが、塩基性官能基に関する詳細な規定がなく、安定的に分散できるCNTの直径が限定されている。
さらに、非イオン性面活性剤であるポリオキシエチレン系化合物を用い、アミド系の極性有機溶媒中に分散させる方法(例えば特許文献4参照)、ポリビニルピロリドンによりアミド系極性有機溶媒中に分散させる方法(例えば特許文献5参照)、アルコール系有機溶媒中に分散させる方法(例えば特許文献6参照)なども提案されている。
しかし、これらの技術において、分散剤として用いられるポリマーは全て直鎖状ポリマーであり、高分岐ポリマーについての知見は明らかにされていない。
【0007】
ところで、高分岐ポリマーとは、スターポリマーや、デンドリティック(樹枝状)ポリマーとして分類されるデンドリマー、ハイパーブランチポリマーなどのように、骨格内に分岐を有するポリマーである。
一般的な高分子の形状が紐状であるのに対し、高分岐ポリマーでは積極的に分岐を導入しているため、比較的疎な内部空間や粒子性を有するという特異な形状であるとともに、各種官能基の導入により修飾可能な多数の末端有しており、これらの特徴を利用することで直鎖状のポリマーと比較してCNTを高度に分散させる可能性がある。
【0008】
このような高分岐ポリマーをCNTの分散剤として着目した方法(例えば特許文献7、非特許文献3参照)は既に提案されている。
しかし、長期的にCNTの孤立溶解状態を保つには、機械的な処理のほかに熱処理も必要としており、CNTの分散能はそれほど高いものではなかった。
また、CNT分散剤として用いられている上記各高分岐ポリマーは、合成の際の収率が低く、収率を向上させるためにカップリング剤として多量の金属触媒を使用する必要があり、高分岐ポリマー中に金属成分が残留する可能性があるため、CNTとの複合体の用途では応用が限定される可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−228824号公報
【特許文献2】特開2000−44216号公報
【特許文献3】特開2008−24568号公報
【特許文献4】特開2005−75661号公報
【特許文献5】特開2005−162877号公報
【特許文献6】特開2008−24522号公報
【特許文献7】国際公開第2008/139839号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Science,vol.282,p.95−98,1998年
【非特許文献2】CHEMICAL PYSICS LETTERS,Vol.342,p.265−271,2001年
【非特許文献3】第56回高分子学会年次大会予稿集,vol.56,No.1,p.1463,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒などの媒体中でカーボンナノチューブを、その単独サイズまで孤立溶解させ得るカーボンナノチューブ分散剤として用い得る高分岐ポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、トリカルボニルベンゼン構造を分岐点として含有する高分岐ポリマーが、CNTの分散能に優れること、およびこの高分岐ポリマーをCNTの分散剤として用いた場合に、CNT(の少なくとも一部)を、その単独サイズまで孤立溶解させ得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. 式(15)で示される構造単位を繰り返し単位として有する高分岐ポリマー、
【化1】
2. その少なくとも1つの末端トリカルボニルベンゼン環のハロゲン原子の一部が、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、またはエステル基でキャップされている1の高分岐ポリマー、
3. その少なくとも1つの末端トリカルボニルベンゼン環のハロゲン原子の一部が、アリールアミノ基でキャップされた2の高分岐ポリマー
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分散剤は、トリカルボニルベンゼン構造を分岐点として含有するハイパーブランチ構造を有する高分岐ポリマーからなるため、カーボンナノチューブの分散能に優れている。
本発明の分散剤を用いることで、カーボンナノチューブの少なくとも一部をその単独サイズまで分離して、いわゆる「孤立溶解」の状態で安定に(凝集させることなく)有機溶媒に分散させることができる。なお、本発明において「孤立溶解」とは、カーボンナノチューブが相互の凝集力によって塊状や束状、縄状となることなく、カーボンナノチューブの1本1本がバラバラになって媒体に分散して存在している状態をいう。
しかも、分散剤、カーボンナノチューブおよび有機溶媒を含有する組成物に超音波処理などの機械的処理を施すだけで、カーボンナノチューブを分散させることができ、分散にあたって更なる熱処理などの付加工程を省略でき、かつ、処理時間を短縮することができる。
したがって、本発明のカーボンナノチューブ分散剤を用いれば、カーボンナノチューブ(の少なくとも一部)を孤立溶解の状態で分散させた、カーボンナノチューブ含有組成物を容易に得ることができる。
【0015】
そして本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、基板に塗布するだけで容易に薄膜形成が可能であり、しかも高導電性の薄膜を得ることができる。
そして上記組成物において、カーボンナノチューブの量をその用途に応じて調整することが容易であるため、各種半導体素材、電導体素材等として幅広い用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】合成例1で得られた高分岐ポリマーの1H−NMRスペクトル図である。
図2】合成例2で得られた高分岐ポリマーの1H−NMRスペクトル図である。
図3】合成例3で得られた高分岐ポリマーの1H−NMRスペクトル図である。
図4】合成例4で得られた高分岐ポリマーの1H−NMRスペクトル図である。
図5】比較合成例1で得られた直鎖ポリマーの1H−NMRスペクトル図である。
図6】比較合成例2で得られた直鎖ポリマーの1H−NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るカーボンナノチューブ分散剤は、トリカルボニルベンゼン構造を分岐点として含有し、ゲル浸透クロマトグラフィ(以下、GPCという)によるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量が1,000〜2,000,000である、ハイパーブランチ構造を有する高分岐ポリマーからなるものである。
この高分岐ポリマーは、CNTが有する共役構造に対し、トリカルボニルベンゼン構造の芳香環由来のπ−π相互作用を通して高い親和性を示すと考えられるため、CNTの高い分散能が期待されるとともに、上記トリカルボニルベンゼン類とジアミン類から選ばれる共モノマーとの組み合わせや条件により、様々な骨格のデザインや官能基導入、分子量やその分布の制御、更には機能付与を行うことが可能であるなどの特徴を有する。また分岐構造を有することで直鎖状のものでは見られない高溶解性をも有しているとともに、トリカルボニルベンゼンを分岐点として含有する高分岐ポリマーは、熱安定性にも優れており、優れたホール輸送性を示すことから有機ELとしての応用も期待される。
【0018】
本発明において、当該ポリマーの重量平均分子量が1,000未満であると、CNTの分散能が著しく低下する、もしくは分散能を発揮しなくなる虞があり、2,000,000を超えると、分散処理における取り扱いが極めて困難となる虞がある。重量平均分子量が2,000〜1,000,000の高分岐ポリマーがより好ましい。
【0019】
本発明において、トリカルボニルベンゼン構造を分岐点として有する高分岐ポリマーの繰り返し単位構造としては、特に限定されるものではないが、トリカルボニルベンゼン誘導体と芳香族ジアミンとから得られる高分岐ポリアミドが好ましく、特に、下記式(1)で示されるものが好適である。
【0020】
【化2】
(式中、RおよびR′は、水素原子、または炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表し、Arは、置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
【0021】
炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、特に限定されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、1−メチル−シクロプロピル基、2−メチル−シクロプロピル基、n−ペンチル基、1−メチル−n−ブチル基、2−メチル−n−ブチル基、3−メチル−n−ブチル基、1,1−ジメチル−n−プロピル基、1,2−ジメチル−n−プロピル基、2,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−n−プロピル基、シクロペンチル基、1−メチル−シクロブチル基、2−メチル−シクロブチル基、3−メチル−シクロブチル基、1,2−ジメチル−シクロプロピル基、2,3−ジメチル−シクロプロピル基、1−エチル−シクロプロピル基、2−エチル−シクロプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチル−n−ペンチル基、2−メチル−n−ペンチル基、3−メチル−n−ペンチル基、4−メチル−n−ペンチル基、1,1−ジメチル−n−ブチル基、1,2−ジメチル−n−ブチル基、1,3−ジメチル−n−ブチル基、2,2−ジメチル−n−ブチル基、2,3−ジメチル−n−ブチル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、1−エチル−n−ブチル基、2−エチル−n−ブチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、1−エチル−1−メチル−n−プロピル基、1−エチル−2−メチル−n−プロピル基、シクロヘキシル基、1−メチル−シクロペンチル基、2−メチル−シクロペンチル基、3−メチル−シクロペンチル基、1−エチル−シクロブチル基、2−エチル−シクロブチル基、3−エチル−シクロブチル基、1,2−ジメチル−シクロブチル基、1,3−ジメチル−シクロブチル基、2,2−ジメチル−シクロブチル基、2,3−ジメチル−シクロブチル基、2,4−ジメチル−シクロブチル基、3,3−ジメチル−シクロブチル基、1−n−プロピル−シクロプロピル基、2−n−プロピル−シクロプロピル基、1−イソプロピル−シクロプロピル基、2−イソプロピル−シクロプロピル基、1,2,2−トリメチル−シクロプロピル基、1,2,3−トリメチル−シクロプロピル基、2,2,3−トリメチル−シクロプロピル基、1−エチル−2−メチル−シクロプロピル基、2−エチル−1−メチル−シクロプロピル基、2−エチル−2−メチル−シクロプロピル基、2−エチル−3−メチル−シクロプロピル基等が挙げられる。
【0022】
式(1)において、置換基を有していてもよいアリール基としては、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブの分散能を高めることを考慮すると、本発明においては、下記式(2)〜(12)で示される少なくとも1種を用いることが好ましく、よりカーボンナノチューブの分散能に優れる高分岐ポリマーを与えることから、特に式(2)、(6)および(12)で表されるアリール基が好ましい。
【0023】
【化3】
【0024】
式(2)〜(12)においてR1〜R80は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。
また、W1およびW2は、互いに独立して、単結合、CR8182(R81およびR82は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO2、またはNR83(R83は、水素原子または炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表す。
【0025】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
また、R81およびR82が一緒になって形成する環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等が挙げられる。
炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基等が挙げられる。
【0026】
1およびX2は、互いに独立して、単結合、炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(13)で示される基を表す。
【0027】
【化4】
【0028】
84〜R87は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、Y1およびY2は、互いに独立して、単結合または炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。
これらハロゲン原子、炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキル基およびアルコキシ基としては上記と同様のものが挙げられる。
炭素数1〜10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられる。
【0029】
上記式(2)〜(12)で表されるアリール基の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【化5】
【0031】
本発明で好適に用いられる高分岐ポリマーにおけるトリカルボニルベンゼン環を含む繰り返し単位の具体例としては、下記式(14)、(15)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
【化6】
【0033】
本発明のカーボンナノチューブ分散剤として用いられる高分岐ポリマーの製造法について一例を挙げて説明する。
例えば、下記スキーム1に示されるように、繰り返し構造(14’)を有する高分岐ポリマーは、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)およびジアミノ化合物(17)を適当な有機溶媒中で反応させて得ることができる。
また、下記スキーム2に示されるように、繰り返し構造(14’)を有する高分岐ポリマーは、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)およびジアミノ化合物(17)を適当な有機溶媒中で等量用いて反応させて得られる化合物(18)より合成することもできる。
この方法を用いることで、高分岐ポリマーを、安価に、しかも簡便かつ安全に製造することができる。この製造方法は、一般的なポリマーを合成する際の反応時間よりも著しく短いことから、近年の環境への配慮に適合した製造方法であり、CO2排出量を低減できる。また、製造スケールを大幅に増加させても安定製造することが可能であり、工業化レベルでの安定供給体制を損なわない。
【0034】
【化7】
(式中、Xは、互いに独立してハロゲン原子を表す。Rは上記と同じ意味を表す。)
【0035】
【化8】
(式中、Xは、互いに独立してハロゲン原子を表す。Rは上記と同じ意味を表す。)
【0036】
スキーム1の方法の場合、各原料の仕込み量としては、目的とするポリマーが得られる限りにおいて任意であるが、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)1当量に対し、ジアミノ化合物(17)0.01〜10当量が好ましい。
有機溶媒としては、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができ、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピペリドン、N,N−ジメチルエチレン尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルマロン酸アミド、N−メチルカプロラクタム、N−アセチルピロリジン、N,N−ジエチルアセトアミド、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルプロピオン酸アミド、N,N−ジメチルイソブチルアミド、N−メチルホルムアミド、N,N’−ジメチルプロピレン尿素等のアミド系溶媒、およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
中でもN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、およびそれらの混合系が好ましく、特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好適である。
【0037】
スキーム1の反応およびスキーム2の第2段階の反応において、反応温度は、用いる溶媒の融点から溶媒の沸点までの範囲で適宜設定すればよいが、特に、−20〜100℃程度が好ましく、−10〜50℃がより好ましい。
上記スキーム1の反応およびスキーム2の第2段階の反応では、通常用いられる種々の塩基を用いることができる。
この塩基の具体例としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、フッ化セシウム、酸化アルミニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリン等が挙げられる。
塩基の添加量は、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)1当量に対して1〜100当量が好ましく、1〜10当量がより好ましい。なお、これらの塩基は水溶液にして用いてもよい。
式(14’)で表される化合物を原料として得られる高分子は、原料成分が残存していないことが好ましいが、本発明の効果を損なわなければ一部の原料が残存していてもよい。
いずれのスキームの方法においても、反応終了後、生成物は再沈法等によって容易に精製できる。
【0038】
なお、本発明においては、少なくとも1つの末端トリカルボニルベンゼン環のハロゲン原子の一部を、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、エステル基等でキャップしてもよい。
上記アルキル基、アルコキシ基としては上記と同様のものが挙げられる。
エステル基の具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
アリール基の具体例としては、フェニル基、o−クロルフェニル基、m−クロルフェニル基、p−クロルフェニル基、o−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、o−ビフェニリル基、m−ビフェニリル基、p−ビフェニリル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられる。
アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、p−メチルフェニルメチル基、m−メチルフェニルメチル基、o−エチルフェニルメチル基、m−エチルフェニルメチル基、p−エチルフェニルメチル基、2−プロピルフェニルメチル基、4−イソプロピルフェニルメチル基、4−イソブチルフェニルメチル基、α−ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0039】
アルキルアミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、s−ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、1−メチル−n−ブチルアミノ基、2−メチル−n−ブチルアミノ基、3−メチル−n−ブチルアミノ基、1,1−ジメチル−n−プロピルアミノ基、1,2−ジメチル−n−プロピルアミノ基、2,2−ジメチル−n−プロピルアミノ基、1−エチル−n−プロピルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、1−メチル−n−ペンチルアミノ基、2−メチル−n−ペンチルアミノ基、3−メチル−n−ペンチルアミノ基、4−メチル−n−ペンチルアミノ基、1,1−ジメチル−n−ブチルアミノ基、1,2−ジメチル−n−ブチルアミノ基、1,3−ジメチル−n−ブチルアミノ基、2,2−ジメチル−n−ブチルアミノ基、2,3−ジメチル−n−ブチルアミノ基、3,3−ジメチル−n−ブチルアミノ基、1−エチル−n−ブチルアミノ基、2−エチル−n−ブチルアミノ基、1,1,2−トリメチル−n−プロピルアミノ基、1,2,2−トリメチル−n−プロピルアミノ基、1−エチル−1−メチル−n−プロピルアミノ基、1−エチル−2−メチル−n−プロピルアミノ基等が挙げられる。
【0040】
アラルキルアミノ基の具体例としては、ベンジルアミノ基、メトキシカルボニルフェニルメチルアミノ基、エトキシカルボニルフェニルメチルアミノ基、p−メチルフェニルメチルアミノ基、m−メチルフェニルメチルアミノ基、o−エチルフェニルメチルアミノ基、m−エチルフェニルメチルアミノ基、p−エチルフェニルメチルアミノ基、2−プロピルフェニルメチルアミノ基、4−イソプロピルフェニルメチルアミノ基、4−イソブチルフェニルメチルアミノ基、ナフチルメチルアミノ基、メトキシカルボニルナフチルメチルアミノ基、エトキシカルボニルナフチルメチルアミノ基等が挙げられる。
アリールアミノ基の具体例としては、フェニルアミノ基、メトキシカルボニルフェニルアミノ基、エトキシカルボニルフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、メトキシカルボニルナフチルアミノ基、エトキシカルボニルナフチルアミノ基、アントラニルアミノ基、ピレニルアミノ基、ビフェニルアミノ基、ターフェニルアミノ基、フルオレニルアミノ基等が挙げられる。
【0041】
アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基としては、モノアルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、ジアルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、トリアルコキシシリル基含有アルキルアミノ基のいずれでもよく、その具体例としては、3−トリメトキシシリルプロピルアミノ基、3−トリエトキシシリルプロピルアミノ基、3−ジメチルエトキシシリルプロピルアミノ基、3−メチルジエトキシシリルプロピルアミノ基、N−(2−アミノエチル)−3−ジメチルメトキシシリルプロピルアミノ基、N−(2−アミノエチル)−3−メチルジメトキシシリルプロピルアミノ基、N−(2−アミノエチル)−3−トリメトキシシリルプロピルアミノ基等が挙げられる。
【0042】
アリールオキシ基の具体例としては、フェノキシ基、ナフトキシ基、アントラニルオキシ基、ピレニルオキシ基、ビフェニルオキシ基、ターフェニルオキシ基、フルオレニルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基の具体例としては、ベンジルオキシ基、p−メチルフェニルメチルオキシ基、m−メチルフェニルメチルオキシ基、o−エチルフェニルメチルオキシ基、m−エチルフェニルメチルオキシ基、p−エチルフェニルメチルオキシ基、2−プロピルフェニルメチルオキシ基、4−イソプロピルフェニルメチルオキシ基、4−イソブチルフェニルメチルオキシ基、α−ナフチルメチルオキシ基等が挙げられる。
【0043】
これらの基は、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)のハロゲン原子を、対応する置換基を与える一官能性物質で置換することで容易に導入することができ、例えば、下記式スキーム3に示されるように、アニリン誘導体を加えて反応させることで、少なくとも1つの末端にフェニルアミノ基を有する高分岐ポリマー(19)が得られる。
【0044】
【化9】
(式中、XおよびRは上記と同じ意味を表す。)
【0045】
なお、上記末端修飾は、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)およびジアミノ化合物(17)を反応させて得られた繰り返し構造(14’)を有する高分岐ポリマーをアニリン等の一官能性物質で処理してもよく、上記化合物(16)および(17)をアニリン等の一官能性物質の存在下で反応させて処理してもよいが、得られた高分岐ポリマーの有機溶媒に対する溶解性を高めることを考慮すると、後者の手法が好適である。
この際、アニリン等の一官能性物質の仕込み量としては、特に限定されるものではないが、トリハロゲン化ベンゼンカルボニル化合物(16)1当量に対して、0.01〜10当量が好ましく、0.1〜5当量がより好ましい。
【0046】
本発明に係るカーボンナノチューブ含有組成物は、以上で説明したカーボンナノチューブ分散剤と、カーボンナノチューブとを含むものである。
カーボンナノチューブ(CNT)は、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法で得られたものでもよい。また、CNTには1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT(以下、SWCNTと記載)と、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT(以下、DWCNTと記載)と、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNT(以下、MWCNTと記載)とがあるが、本発明においては、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単体で、または複数を組み合わせて使用できる。
【0047】
上記の方法でSWCNT、DWCNTやMWCNTを作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生産物として生成し、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物の除去、精製を必要とする場合がある。不純物の除去には、硝酸、硫酸などによる酸処理とともに超音波処理が有効である。しかし、硝酸、硫酸などによる酸処理ではCNTを構成するπ共役系が破壊され、CNT本来の特性が損なわれてしまう可能性があるため、精製せずに使用することが望ましい。
【0048】
本発明の組成物は、さらに上記分散剤(高分岐ポリマー)の溶解能を有する有機溶媒を含んでいてもよい。
このような有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)等のエーテル系化合物;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール等のアルコール類;n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類などが挙げられ、これら有機溶媒は、それぞれ単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
特に、CNTの孤立溶解の割合を向上させ得るという点から、NMP、メタノール、イソプロパノールが好ましく、さらに組成物の成膜性をも向上し得る添加剤として、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールのエーテル類の溶媒を、少量含むことが望ましい。
【0049】
本発明の組成物の調製法は任意であり、分散剤(高分岐ポリマー)が液状の場合には、当該分散剤とCNTとを適宜混合し、分散剤が固体の場合には、これを溶融させた後、CNTと混合して調製することができる。
また、有機溶媒を用いる場合には、分散剤、CNT、有機溶媒を任意の順序で混合して組成物を調製すればよい。
この際、分散剤、CNTおよび有機溶媒からなる混合物を分散処理することが好ましく、この処理により、CNTの孤立溶解の割合をより向上させることができる。分散処理としては、機械的処理としてのボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどを用いた湿式処理や、バス型やプローブ型のソニケータを用いる超音波処理が挙げられるが、処理効率を考慮すると、超音波処理が好適である。
分散処理の時間は任意であるが、5分間から10時間程度が好ましく、10分間から5時間程度がより好ましい。
【0050】
本発明の組成物における、分散剤とCNTとの混合比率は、質量比で1000:1〜1:100程度とすることができる。
また、有機溶媒を使用した組成物中における分散剤の濃度は、CNTを有機溶媒に分散させ得る濃度であれば特に限定されるものではないが、本発明においては、組成物中に0.001〜20質量%程度とすることが好ましく、0.005〜10質量%程度とすることがより好ましい。
さらに、この組成物中におけるCNTの濃度は、少なくともCNTの一部が孤立溶解する限りにおいて任意であるが、本発明においては、組成物中に0.0001〜20質量%程度とすることが好ましく、0.001〜10質量%程度とすることがより好ましい。
以上のようにして調製された本発明の組成物中では、分散剤がCNTの表面に付着して複合体を形成しているものと推測される。
【0051】
本発明の組成物は、上述した各種有機溶媒に可溶な汎用合成樹脂と混合して複合化させることもできる。
汎用合成樹脂の具体例としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)等のポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニンなどの熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0052】
本発明のCNT含有組成物(分散液)は、PET、ガラス、ITOなどの適当な基板上にキャスト法、スピンコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法などの適宜な方法により塗布して製膜することが可能である。
得られた薄膜は、カーボンナノチューブの金属的性質を活かした帯電防止膜、透明電極等の導電性材料、あるいは半導体的性質を活かした光電変換素子、電解発光素子などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製および物性の分析に用いた装置および条件は、以下のとおりである。
(1)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)
装置:SHIMADZU社製 SCL−10Avp GPCに改造
カラム:Shodex K−804L+K−805L
カラム温度:60℃
溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(1質量%LiCl添加)
検出器:UV(254nm)
検量線:標準ポリスチレン
(2)1H−NMRスペクトル
装置:日本電子データム(株)製 JNM−ECA700
溶媒:DMSO−d6
内部標準:テトラメチルシラン
(3)ホットプレート(プリベーク)
装置:アズワン(株)製 ND−2
(4)プローブ型超音波照射装置(分散処理)
装置:Hielscher Ultrasonics社製 UIP1000
(5)抵抗率計(表面抵抗測定)
装置:三菱化学(株)製 ロレスタ−GP
プローブ:三菱化学(株)製 直列4探針プローブ ASP(探針間距離:5mm)
(6)ヘイズメーター(全光透過率測定)
装置:日本電色工業(株)製 NDH5000
(7)示差熱天秤(TG−DTA)
装置:(株)リガク製 TG−8120
昇温速度:10℃/分
測定温度:20〜500℃
(8)Photo DSC
装置:NETZSCH製 DSC 204F1 Phoenix
昇温速度:30℃/分
測定温度:25〜300℃
(9)微細形状測定機(サーフコーダ)
装置:株式会社 小坂研究所製 ET4000A
【0054】
CNT−1:未精製MWCNT(CNT社製 “C Tube 100” 外径10〜30nm)
PVP:ポリビニルピロリドン(東京化成工業(株)製 K15)
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0055】
[1]分散剤(トリカルボニルベンゼン系高分岐ポリマー)の合成
[合成例1]
窒素下、100mL四口フラスコに、1,3,5−ベンゼントリカルボニルトリクロリド(5g、18.8mmol、東京化成工業(株)製)とジメチルアセトアミド(35.3g、純正化学(株)製)とを仕込み、1,3−フェニレンジアミン(1.53g、14.1mmol、デュポン(株)製)およびアニリン(1.32g、14.1mmol、純正化学(株)製)をジメチルアセトアミド(35.3g、純正化学(株)製)に溶解した溶液を、内温−15℃で30分かけて滴下して重合した。滴下後、室温下で1時間撹拌し、反応液を純水(750g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、再度、THF(75g、関東化学(株)製)に溶解させ、これを純水(750g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で150℃、2時間乾燥し、目的とするトリカルボニルベンゼン系高分岐ポリマー(以下TmPDA−Anと略す)5.5gを得た。TmPDA−Anの1H−NMRスペクトルの測定結果を図1に示す。
TmPDA−AnのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは11725、多分散度Mw/Mnは4.28であった。
【0056】
[合成例2]
窒素下、100mL四口フラスコに、1,3,5−ベンゼントリカルボニルトリクロリド(2g、7.53mmol、東京化成工業(株)製)とN−メチル−2−ピロリドン(12g、純正化学(株)製)とを仕込み、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(1.4g、5.64mmol、東京化成工業(株)製)およびアニリン(0.63g、6.76mmol、純正化学(株)製)をN−メチル−2−ピロリドン(18g、純正化学(株)製)に溶解した溶液を、内温−15℃で30分かけて滴下して重合した。滴下後、室温下で1時間撹拌し、反応液を純水(150g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で150℃、2時間乾燥し、目的とするトリカルボニルベンゼン系高分岐ポリマー(以下TAS−Anと略す)2.5gを得た。TAS−Anの1H−NMRスペクトルの測定結果を図2に示す。
TAS−AnのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは102432、多分散度Mw/Mnは26.05であった。
【0057】
[合成例3]
窒素下、100mL四口フラスコに、1,3,5−ベンゼントリカルボニルトリクロリド(5g、18.8mmol、東京化成工業(株)製)とN−メチル−2−ピロリドン(29.4g、純正化学(株)製)とを仕込み、1,3−フェニレンジアミン(1.53g、14.1mmol、デュポン(株)製)をN−メチル−2−ピロリドン(29.4g、純正化学(株)製)に溶解した溶液を、内温−15℃で30分かけて滴下して重合した。滴下後、純水(10g)とN−メチルピロリドン(10g、純正化学(株)製)とを加えて1時間撹拌し、これを純水(750g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で150℃、2時間乾燥し、目的とするトリカルボニルベンゼン系高分岐ポリマー(以下TmPDAと略す)4.4gを得た。TmPDAの1H−NMRスペクトルの測定結果を図3に示す。
TmPDAのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは2717、多分散度Mw/Mnは2.77であった。
【0058】
[合成例4]
窒素下、50mL四口フラスコに、1,3,5−ベンゼントリカルボニルトリクロリド(2g、7.53mmol、東京化成工業(株)製)とN−メチル−2−ピロリドン(13.2g、純正化学(株)製)とを仕込み、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(0.94g、3.77mmol、東京化成工業(株)製)をN−メチル−2−ピロリドン(13.2g、純正化学(株)製)に溶解した溶液を、内温−20℃で滴下して重合した。滴下後、純水(2g)を滴下して室温下で1時間撹拌した後、反応液を濾過し、これを純水(300g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で150℃、2時間乾燥し、目的とするトリカルボニルベンゼン系高分岐ポリマー(以下TASと略す)1.35gを得た。TASの1H−NMRスペクトルの測定結果を図4に示す。
TASのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは85551、多分散度Mw/Mnは38.81であった。
【0059】
[比較合成例1]
窒素下、50mL四口フラスコにテレフタロイルクロリド(3g、14.8mmol、東京化成工業(株)製)とN−メチル−2−ピロリドン(10.8g、純正化学(株)製)とを仕込み、1,3−フェニレンジアミン(0.80g、7.39mmol、デュポン(株)製)をN−メチル−2−ピロリドン(10.8g、純正化学(株)製)に溶解した溶液を、内温−15℃で30分かけて滴下して重合した。滴下後、室温下で1時間撹拌し、純水(3g)を滴下して30分撹拌し、反応液を純水(240g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で150℃、2時間乾燥し、目的とするジカルボニルベンゼン系リニアポリマー(以下TPmPDAと略す)1.6gを得た。TPmPDAの1H−NMRスペクトルの測定結果を図5に示す。
TPmPDAのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは2792、多分散度Mw/Mnは2.83であった。
【0060】
[比較合成例2]
窒素下、50mL四口フラスコに、テレフタロイルクロリド(3g、14.8mmol、東京化成工業(株)製)とN−メチル−2−ピロリドン(16.3g、純正化学(株)製)とを仕込み、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(2.75g、11.1mmol、東京化成工業(株)製)をN−メチル−2−ピロリドン(16.3g、純正化学(株)製)に溶解した溶液を、内温−15℃で30分かけて滴下して重合した。滴下後、室温下で1時間撹拌し、純水(3g)を滴下して30分撹拌した後、反応液を純水(240g)へ加えて再沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で150℃、2時間乾燥し、目的とするジカルボニルベンゼン系リニアポリマー(以下TPASと略す)4.5gを得た。TPASの1H−NMRスペクトルの測定結果を図6に示す。
TPASのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは9157、多分散度Mw/Mnは4.01であった。
【0061】
[各ポリマーの熱分析]
上記合成例1〜4、比較合成例1,2で得られた各ポリマーについて、DSCによりガラス転移温度(Tg)を、TG−DTAにより5%重量減少温度(Td5%)をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
[2]カーボンナノチューブ含有組成物および薄膜の製造
[参考例1]TmPDA−Anを用いたCNT−1の分散
合成例1で得られたTmPDA−An0.50gをNMP49.25gに溶解し、この溶液へCNT−1 0.25gを添加した。この混合物に、プローブ型超音波照射装置を用いて室温(およそ25℃)で30分間超音波処理を行い、沈降物がなくMWCNTが均一に分散した黒色のMWCNT含有分散液を得た。
上記MWCNT含有分散液1.0gに、シクロヘキサノン0.25gを添加し、薄膜作製用の組成物を調製した。得られた組成物50μLを、スリット幅25.4μmのアプリケータを用いてガラス基板上に均一に展開し、100℃で2分間乾燥することで透明で均一なMWCNT/高分岐ポリマー薄膜複合体を作製した。
【0064】
[実施例1]TAS−Anを用いたCNT−1の分散
TmPDA−Anを合成例2で得られたTAS−Anに変更した以外は、参考例1と同様にして、MWCNT含有分散液およびMWCNT/高分岐ポリマー薄膜複合体を作製した。
【0065】
[参考例2]TmPDAを用いたCNT−1の分散
TmPDA−Anを合成例3で得られたTmPDAに変更した以外は、参考例1と同様にして、MWCNT含有分散液およびMWCNT/高分岐ポリマー薄膜複合体を作製した。
【0066】
[比較例1]TPmPDA(直鎖ポリマー)を用いたCNT−1の分散
TmPDA−Anを比較合成例1で得られたTPmPDAに変更した以外は、実施例1と同様にして、MWCNT含有分散液およびMWCNT/直鎖ポリマー薄膜複合体を作製した。
【0067】
[比較例2]TPAS(直鎖ポリマー)を用いたCNT−1の分散
TmPDA−Anを比較合成例2で得られたTPASに変更した以外は、実施例1と同様にして、MWCNT含有分散液およびMWCNT/直鎖ポリマー薄膜複合体を作製した。
【0068】
[比較例3]PVPを用いたCNT−1の分散
TmPDA−AnをPVPに変更した以外は、実施例1と同様にして、MWCNT含有分散液およびMWCNT/直鎖ポリマー薄膜複合体を作製した。
【0069】
上記実施例1、参考例1,2および比較例1〜3で得られた薄膜複合体の薄膜均一性、表面抵抗および全光透過率を評価した。なお、薄膜の均一性については、目視により、以下の基準に従って評価した。各評価結果を表2に示す。
(1)薄膜均一性
○:凝集物のような塊やムラが全く確認できない。
△:MWCNTの凝集物や膜ムラが見られる。
×:MWCNTの凝集物や膜ムラが薄膜の殆どの部分で見られ、膜としての評価ができない。
【0070】
また、別途、上記各MWCNT含有分散液を室温(およそ25℃)で1ヶ月静置後、分散液中の沈降物の存在を目視にて確認し、以下の基準に従って、分散液の分散安定性を評価した。評価結果を表2に併せて示す。
(2)分散安定性
○:沈降物が確認できない。
△:沈降物が見られる。
×:分散状態を保てず、MWCNTの大部分が沈降物として現れる。
【0071】
【表2】
【0072】
表1に示したとおり、実施例1、参考例1,2と類似骨格を有する直鎖ポリマーを用いた比較例1,2とを比較すると、合成例1〜3の分散剤の方が、CNTを高濃度で安定に分散できていることから、高分岐構造を有する分散剤を用いることがCNTを分散する上で有利であることがわかる。
また、実施例1、参考例1,2と、CNT/分散剤混合比が同一である公知の分散剤であるPVPとを比較すると、合成例1〜3の分散剤を用いた方が、薄膜を調製した際のCNTの均一性が高く、結果として表面抵抗値は安定して103〜104Ω/□レベルを示し、全光透過率も同等以上であった。
以上の点から、本発明の分散剤が高導電性で均一な薄膜複合体を得る上で、有利であることが明らかとなった。
さらに、参考例1と参考例2との結果から、得られる薄膜複合体の特性(表面抵抗値、全光透過率)は反応に用いるアミン類(官能基)により調整可能であり、薄膜複合体の特性の向上が期待できるため、本発明の分散剤はこのような点でも有利であることが明らかとなった。
【0073】
[3]カーボンナノチューブ含有組成膜の溶剤耐性試験
[参考例3]
参考例1で作製したMWCNT/高分岐ポリマー薄膜複合体を、さらに100℃で10分間乾燥して得られた膜について、膜厚および特性(表面抵抗、全光透過率)を測定した。
また、加熱後の薄膜複合体をNMPに5分間浸漬し、100℃で15分乾燥した膜の膜厚および特性を再度測定した。
【0074】
[参考例4]
参考例1で作製したMWCNT/高分岐ポリマー薄膜複合体を、さらに200℃で10分間乾燥した膜の膜厚および特性(表面抵抗、全光透過率)を測定した。
また、加熱後の薄膜複合体をNMPに5分間浸漬し、100℃で15分乾燥した膜の膜厚および特性を再度測定した。
【0075】
[比較例4]
比較例3で作製したMWCNT/直鎖ポリマー薄膜複合体を、さらに100℃で10分間乾燥した膜の膜厚および特性(表面抵抗、全光透過率)を測定した。
また、加熱後の薄膜複合体をNMP溶液に5分間浸漬し、100℃で15分乾燥した膜の膜厚および特性を再度測定した。
【0076】
[比較例5]
比較例3で作製したMWCNT/直鎖ポリマー薄膜複合体を、さらに200℃で10分間乾燥した膜の膜厚および特性(表面抵抗、全光透過率)を測定した。
また、加熱後の薄膜複合体をNMP溶液に5分間浸漬し、100℃で15分乾燥した膜の膜厚および特性を再度測定した。
上記参考例3,4および比較例4,5の結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示されるように、参考例3,4および比較例4,5の各温度における焼成後の膜厚は、0.11〜0.13μmの領域に存在していた。
また、得られた膜をNMPに浸漬後乾燥した膜では、いずれも膜厚の減少が観測されたが、高温のベークになるほどその残膜率は高いことが分かる。
参考例3,4と比較例4,5とを比較すると、高分岐ポリマーを用いた参考例では、100℃の昇温でも62%の残膜率を示し、200℃の昇温では77%の高い残膜率を示したが、PVPでは100℃で48%の残膜率、200℃で52%の残膜率と焼成温度による残膜率の増加はほとんど確認されなかった。
この理由は、本発明の分散剤が、分子内にアミノ基とカルボン酸基といった反応性末端が多く存在しているため、昇温により分子内または分子間の縮合が起こり、反応性末端を有していない直鎖ポリマー(PVP)と比較した際に低い温度においても膜の硬化が進行するためであると考えられる。
以上の点から、本発明の分散剤が溶剤耐性に優れた薄膜複合体を得る上で、有利であると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6