【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に記載するが、本発明は以下の記述によって限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
(1)平均粒子径測定
装置:マルバーン社製、マスターサイザー2000
撹拌数:1,500rpm
サンプル調製:イソブチルメチルケトン(MIBK)100質量部にサンプル0.2質量部を加え、30分間超音波(150W)照射
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:パーキンエルマー社製、Diamond DSC
(3)超音波照射
装置:東京硝子器械(株)製、超音波洗浄器
出力:150W
(4)溶融混練
装置:(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミル マイクロ KF6V
(5)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製、HPLC−8220 GPC
カラム:昭和電工(株)製、GPC KF−804L + GPC KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:RI
【0037】
また、略記号は以下の意味を表す。
PPA:フェニルホスホン酸[日産化学工業(株)製]
PLA:ポリ乳酸樹脂[NatureWorks LLC製、Ingeo 3001D、Mw:202,000]
THF:テトラヒドロフラン
【0038】
[合成例1]フェニルホスホン酸エチレンジアミン塩の合成
撹拌機を備えた反応容器に、PPA2.0g(13mmol)及び水11gを仕込み、撹拌して均一な溶液とした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこの溶液へ、エチレンジアミン一水和物[東京化成工業(株)製]1.5g(25mmol)をその4倍量のエタノールに溶解させた溶液(20質量%溶液)を5分間で滴下し、さらに30分間撹拌した。この反応混合物を減圧濃縮した。析出した固体を濾取し、エタノールで洗浄した。得られた湿品を130℃で6時間減圧乾燥し、目的とするフェニルホスホン酸エチレンジアミン塩を白色粉末として得た。
元素分析及びX線回折の結果から、得られたアミン塩は、PPAとエチレンジアミンがモル比2:1で反応したものであることが確認された。また得られたアミン塩の平均粒子径は22μmであった。
【0039】
[合成例2]フェニルホスホン酸o−フェニレンジアミン塩の合成
撹拌機を備えた反応容器に、PPA2.0g(13mmol)及び水11gを仕込み、撹拌して均一な溶液とした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこの溶液へ、o−フェニレンジアミン[東京化成工業(株)製]1.4g(13mmol)をその4倍量のエタノールに溶解させた溶液(20質量%溶液)を5分間で滴下し、さらに30分間撹拌した。析出した固体を濾取し、エタノールで洗浄した。得られた湿品を130℃で6時間減圧乾燥し、目的とするフェニルホスホン酸o−フェニレンジアミン塩を白色粉末として得た。
【0040】
[合成例3]フェニルホスホン酸m−フェニレンジアミン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてm−フェニレンジアミン[東京化成工業(株)製]を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸m−フェニレンジアミン塩を白色粉末として得た。
【0041】
[合成例4]フェニルホスホン酸p−フェニレンジアミン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてp−フェニレンジアミン[東京化成工業(株)製]を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸p−フェニレンジアミン塩を白色粉末として得た。
【0042】
[合成例5]フェニルホスホン酸シクロヘキシルアミン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてシクロヘキシルアミン[東京化成工業(株)製]2.5g(25mmol)を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸シクロヘキシルアミン塩を白色粉末として得た。
【0043】
[合成例6]フェニルホスホン酸ベンジルアミン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてベンジルアミン[東京化成工業(株)製]2.7g(25mmol)を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸ベンジルアミン塩を白色粉末として得た。
【0044】
[比較合成例1]フェニルホスホン酸プロピルアミン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてプロピルアミン[東京化成工業(株)製]1.5g(25mmol)を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸プロピルアミン塩を白色粉末として得た。
【0045】
[比較合成例2]フェニルホスホン酸ジエチルアミン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてジエチルアミン[東京化成工業(株)製]1.9g(25mmol)を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸ジエチルアミン塩を白色粉末として得た。
【0046】
[比較合成例3]フェニルホスホン酸アニリン塩の合成
o−フェニレンジアミンに替えてアニリン[東京化成工業(株)製]2.3g(25mmol)を使用した以外は、合成例2と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸アニリン塩を白色粉末として得た。
【0047】
[実施例1]フェニルホスホン酸エチレンジアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
PLA100質量部をクロロホルム1,900質量部に溶かした溶液に、結晶核剤として合成例1で得られたフェニルホスホン酸エチレンジアミン塩1質量部を加え、室温(およそ25℃)で3時間撹拌した。この混合物に、超音波照射を30分間行った後、さらに3時間撹拌し、均一な分散液を得た。該分散液を、ガラスシャーレ上にキャストし、60℃のホットプレートで溶媒を揮発させた後、さらに110℃のオーブンで乾燥した。得られたPLA樹脂フィルムから約5mgを切り出し、DSCを用いて結晶化挙動を評価した。評価は、サンプルをDSC装置内で200℃の溶融状態で5分間保持した後、5℃/分で冷却したときに観察される、結晶化による発熱ピークの温度(Tc)を用いて評価した。なお、Tc値が高いほど結晶化速度が速いことを示す。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]フェニルホスホン酸o−フェニレンジアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として合成例2で得られたフェニルホスホン酸o−フェニレンジアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0049】
[実施例3]フェニルホスホン酸m−フェニレンジアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として合成例3で得られたフェニルホスホン酸m−フェニレンジアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0050】
[実施例4]フェニルホスホン酸p−フェニレンジアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として合成例4で得られたフェニルホスホン酸p−フェニレンジアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0051】
[実施例5]フェニルホスホン酸シクロヘキシルアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として合成例5で得られたフェニルホスホン酸シクロヘキシルアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0052】
[実施例6]フェニルホスホン酸ベンジルアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として合成例6で得られたフェニルホスホン酸ベンジルアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0053】
[比較例1]フェニルホスホン酸プロピルアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として比較合成例1で得られたフェニルホスホン酸プロピルアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0054】
[比較例2]フェニルホスホン酸ジエチルアミン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として比較合成例2で得られたフェニルホスホン酸ジエチルアミン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0055】
[比較例3]フェニルホスホン酸アニリン塩を含むPLA樹脂フィルム
結晶核剤として比較合成例3で得られたフェニルホスホン酸アニリン塩を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0056】
[比較例4]結晶核剤を含まないPLA樹脂フィルム
結晶核剤を使用しなかった以外は実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果より、結晶核剤として特定のフェニルホスホン酸アミン塩を用いたもの(実施例1〜6)は、その他のフェニルホスホン酸アミン塩を用いたもの(比較例1〜3)や、結晶核剤を加えないもの(比較例4)と比較して高いTcを示し、結晶化促進効果を有
することが確認された。
【0059】
[実施例7]フェニルホスホン酸エチレンジアミン塩を含むPLA樹脂組成物
PLA100質量部に対し、結晶核剤として合成例1で得られたフェニルホスホン酸エチレンジアミン塩1質量部を加え、185℃、150rpmで5分間溶融混練した。
得られたPLA樹脂組成物から約5mgを切り出し、DSCを用いて結晶化挙動を評価した。評価は、サンプルをDSC装置内で200℃の溶融状態で5分間保持した後、5℃/分で冷却したときに観察される、結晶化による発熱ピークの温度(Tc)を用いて評価した。また、得られた該組成物をクロロホルムに溶解しTHFで希釈した後、GPCを用いてPLAの重量平均分子量Mwを測定した。さらに、溶融混練後の該組成物の着色を目視で評価した。各結果を表2に併せて示す。なお、着色の評価基準は以下に従った。
[着色評価基準]
○:着色が見られない
△:わずかに着色している
×:茶色や黒色に着色している
【0060】
[実施例8]フェニルホスホン酸p−フェニレンジアミン塩を含むPLA樹脂組成物
結晶核剤として合成例4で得られたフェニルホスホン酸p−フェニレンジアミン塩を使用した以外は、実施例7と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0061】
[実施例9]フェニルホスホン酸シクロヘキシルアミン塩を含むPLA樹脂組成物
結晶核剤として合成例5で得られたフェニルホスホン酸シクロヘキシルアミン塩を使用した以外は、実施例7と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0062】
[比較例5]結晶核剤を含まないPLA樹脂組成物
結晶核剤を使用しなかった以外は実施例7と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2の結果より、工業的な成形加工の実施形態を模した溶融混練による評価においても、結晶核剤としてフェニルホスホン酸アミン塩を用いたもの(実施例7〜9)は、結晶核剤を加えないもの(比較例5)と比較して高いTcを示し、結晶化促進効果を有することが確認された。また、結晶核剤添加後の溶融混練によるPLAの加水分解の程度も、混練後の分子量に大きな減少がみられないことから、結晶核剤無添加の場合と同程度であることが確認された。
【0065】
[実施例10〜12]結晶核剤添加量の効果
結晶核剤の添加量を、それぞれ表3に記載の量に変更した以外は、実施例7と同様に操作し、DSCを用いて同様の条件で結晶化挙動を評価した。結果を表3に併せて示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、PLA100質量部に対して結晶核剤としてフェニルホスホン酸アミン塩を0.1質量部以上添加することにより、結晶化促進効果を有することが確認された。