【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の好気微生物による土壌/地下水の浄化方法である。
(1) 有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して浄化する方法であって、
処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスを供給して有機汚染物質を浄化する酸素含有ガス供給工程、
処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数および遺伝子数から選ばれる1種以上を測定する菌測定工程、ならびに
菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過したときに、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスに加えて、ガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質
を浄化する抑制物質供給工程を含
み、
ガス状硝化抑制物質がメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンから選ばれる1種類以上の物質であることを特徴とする好気微生物による土壌/地下水の浄化方法。
(2) 菌測定工程の測定がPCRによるものである上記(1)記載の方法。
(3) PCRがリアルタイムPCRまたはMPN−PCRによるものである上記(2)記載の方法。
(4) ガス状硝化抑制物質の供給している時間が、供給時間と停止時間の合計に対して、15%以上50%以下である上記(1)ないし
(3)のいずれかに記載の方法。
(5) ガス状硝化抑制物質が少なくともアセチレンを含み、かつ、供給するガス中のアセチレン濃度が100volppmから2.5vol%の範囲である上記(1)ないし
(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 処理対象地域の土壌および/または地下水に、窒素源を供給する上記(1)ないし
(5)のいずれかに記載の方法。
【0012】
本発明において、処理対象となる土壌および/または地下水は好気微生物により分解可能な有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水である。浄化の対象となる汚染物質は、好気微生物により好気的雰囲気で分解可能な有機汚染物質であり、一般的な有機物はこれに含まれる。炭水化物、蛋白質、脂肪等の通常の好気微生物により分解可能なBOD成分は、分解可能な有機汚染物質の代表的な例である。好気微生物による分解が困難な炭化水素、その他の有機汚染物質であっても、特別な好気微生物を馴養することにより、あるいはBOD成分等の他の易分解性の成分とともに浄化することなどにより、好気微生物による分解が容易になるものも本発明の対象に含まれる。本発明において、分解可能な有機汚染物質の好ましい例としては、ベンゼン、フェノール、シアン、油、その他のBOD成分などがあげられる。
【0013】
本発明において、処理対象となる土壌および/または地下水には、好気微生物により分解可能な有機汚染物質が含まれていればよく、これらの他に、さらに好気微生物により分解できない汚染物質が、浄化を目的としない汚染物質として含まれていてもよい。ここでさらに含まれている浄化を目的としない汚染物質が、好気微生物により分解できない場合は、前処理または後処理として、他の浄化法により浄化することができる。本発明において、「土壌/地下水」は「土壌および/または地下水」の意味で用いられる。
【0014】
上記のような有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に、酸素含有ガス供給工程として原位置で酸素含有ガスを供給すると、土壌および/または地下水に酸素が溶解し、好気微生物により有機汚染物質が分解され、浄化が行われる。この場合、好気微生物が有機汚染物質を基質として増殖するが、この増殖には補助栄養源として窒素源が必要である。窒素源としては、土壌および/または地下水中に蛋白質等の有機態窒素やアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素などが存在する場合は、これらが利用されるが、これらが存在しない場合には、外部から供給する。
【0015】
上記の有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に、補助栄養源としての窒素源の存在下に、原位置で酸素含有ガスを供給すると、土壌および/または地下水に酸素が溶解するため、好気微生物が有機汚染物質を基質として増殖する。これにより有機汚染物質が酸化分解され、浄化が行われる。このとき窒素源が補助栄養源として利用され、好気微生物が増殖するが、土壌/地下水中にアンモニア性窒素や有機態窒素が過剰になると、共存するアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌の働きによって硝化反応が起こり、過剰の窒素が亜硝酸性窒素や硝酸性窒素に硝化される。
【0016】
このような硝化細菌は処理対象地域の土壌および/または地下水中に、最初から生息す
る場合もあるが、通常の汚染地域では嫌気状態では、極めて低濃度でしか生息しない場合が多い。このような場合、酸素含有ガス供給工程において酸素含有ガスを供給して浄化を行うと、好気状態になるにつれてアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌が増殖し、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素が生成する。このようなアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌による硝化反応を防止するために、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質を浄化することができる。
【0017】
ところが浄化開始の初期、つまり酸素含有ガスの供給を開始した時点では、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌は少ないことが多く、実質的に硝化反応は起こらない。これらの硝化細菌が一定レベルまで増殖してから硝化反応が顕在化することから、それまでにガス状硝化抑制物質を供給するのは経済的に無駄である。そこで本発明では、菌測定工程において、処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数および遺伝子数から選ばれる1種以上を継続的に測定する。アンモニア酸化細菌の菌濃度および菌数については遺伝子数により測定することができる。この菌測定工程は、酸素含有ガス供給工程の開始と同時に開始することができるが、酸素含有ガス供給工程の開始後、一定時間、例えばアンモニア酸化細菌が増殖するのに必要な時間が経過した後に開始してもよい。菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過したときに、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給する抑制物質供給工程を開始するが、その後も菌測定工程を継続することができる。
【0018】
菌測定工程は遺伝子解析により処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを継続的に測定するが、この測定はPCR、特にリアルタイムPCRにより定量するのが好ましい。遺伝子解析においてはアンモニア酸化細菌に特有の遺伝子を対象として解析を行って遺伝子数を測定し、さらにその遺伝子数からアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数を測定する。遺伝子解析の方法としては、プライマーペアにより遺伝子を増幅するPCRが好ましく、特に遺伝子を増幅する際、ハイブリダイゼイションプローブを用いて定量するリアルタイムPCR、および最確数法と組合わせたMPN−PCRが好ましいが、他の解析方法でもよい。
【0019】
硝化細菌には、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に酸化するアンモニア酸化細菌、および亜硝酸性窒素を硝酸性窒素に酸化する亜硝酸酸化細菌などが含まれ、本発明ではアンモニア酸化細菌を測定対象とするが、これらは両方を測定対象としてもよい。すなわちアンモニア性窒素の酸化が最初に起こるので、アンモニア酸化細菌を測定対象とすることにより、硝化細菌全体の増殖を早い段階で検知し、迅速に対応措置を講じることができるので好ましいが、さらに亜硝酸酸化細菌をも測定対象としてもよい。アンモニア酸化細菌および亜硝酸酸化細菌は、それぞれ特異な酵素をコードする遺伝子を有し、またそれぞれの菌の菌学的特性も異なり、これによる特異的な遺伝子を有するので、これらを標的として遺伝子数を測定することができる。
【0020】
アンモニア酸化細菌としては、
Nitrosomonas属、
Nitrosococcus属、
Nitrosospira属、
Nitrosolobus属等に属する細菌が知られており、また亜硝酸酸化細菌としては、
Nitrobacter属、
Nitrococcus属等に属する細菌などが知られている。これらの硝化細菌はそれぞれ特異的な遺伝子として、アンモニアまたは亜硝酸の酸化に関わる酵素をコードする遺伝子を有している。アンモニア酸化細菌の場合は、アンモニア酸化酵素であるアンモニアモノオキシゲナーゼ遺伝子を有しており、この遺伝子はアンモニア酸化細菌に特有なものであるため、測定対象として好適である。亜硝酸酸化細菌にも同様の酵素遺伝子があるので、測定対象とすることができる。測定対象としては他の酵素遺伝子でもよく、また酵素遺伝子以外の他の遺伝子でもよく、またリボソーム遺伝子でもよい。
【0021】
上記のアンモニアモノオキシゲナーゼ遺伝子のように、アンモニア酸化細菌に特有の遺伝子であっても、細菌の属、種、菌株等により塩基配列が異なる部分があるので、それぞれに共通な塩基配列の部分をPCRのプライマーペアやハイブリダイゼイションプローブとして利用するのが好ましい。この場合、アンモニア酸化細菌以外の細菌が測定されないように、特異的な部分から共通な塩基配列を選択するようにするのが好ましい。このような選択を行うためには、アンモニア酸化細菌のみを選択的に抽出できるプライマーを、文献や遺伝子のデータベースから調べて設計することができる。亜硝酸酸化細菌の場合、あるいは他の遺伝子などの場合も同様である。上記のプライマーペアは、アッパープライマーおよびロアプライマーとしてPCRに利用される。またハイブリダイゼイションプローブは、放射性元素、蛍光物質、化学物質、抗原、抗体または酵素などの標識物質で標識して、PCRを行い、増幅された塩基配列の定量に利用される。
【0022】
アンモニア酸化細菌測定用のPCRのプライマーペアやハイブリダイゼイションプローブに制限はないが、以下の配列のものが使用できる。
(1)プライマーペア
配列番号1: GGHGACTGGGAYTTCTGG
配列番号2: CCTCKGSAAAGCCTTCTTC
(配列番号1において、HはA、CまたはTを意味し、YはCまたはTを意味する。また配列番号1において、KはGまたはTを意味し、SはGまたはCを意味する。)
(2)ハイブリダイゼーションプローブ
配列番号3: TTCTACTGGTGGTCRCACTACCCCATCAACT
(配列番号3において、RはAまたはGを意味する。)
【0023】
以下、アンモニア酸化細菌をPCRで測定する場合について説明する。アンモニア酸化細菌の遺伝子数は、対象土壌/地下水から抽出したDNAを鋳型として、定量性のあるPCR法(リアルタイムPCR、MPN−PCRなど)を行って得ることができる。すなわちアンモニア酸化細菌の遺伝子数は、対象土壌/地下水から抽出したDNAを鋳型とし、前記アンモニア酸化細菌測定用のプライマーセットを用いて、サーマル・サイクリングによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、アンモニア酸化細菌に特異的なDNA配列を増幅し、増幅されたDNAを検出することにより、アンモニア酸化細菌のDNA量(遺伝子数)を得ることができる。
【0024】
リアルタイムPCRは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法であり、エンドポイントでPCR増幅産物を確認する従来のPCR法に比べて、DNAやRNAの正確な定量ができるので好ましい。ただしリアルタイムPCRを行うには、DNAをPCR増幅するサーマルサイクラーとその増幅産物をモニタリングする分光蛍光光度計とを一体化したリアルタイムPCR専用のPCR装置が必要となる。リアルタイムPCRには、1本のチューブで1ステップで行う方法と、2ステップに分けて行う方法の2通りの実験方法があるが、正確性の高い2ステップPCRが好ましい。一方、MPN−PCRは、最確数法をPCR法に応用したものである。試料の希釈系列を複数本ずつ作製し、PCR後に目的の増幅産物が得られたものを陽性と判断する。そして最確数表により試料中の標的とする遺伝子量を算出する。
【0025】
本発明で用いるガス状硝化抑制物質は、好気微生物による有機汚染物質の好気性酸化が行われる条件において、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌による硝化反応を抑制する物質であって、ガス状で得られる物質であればよい。このようなガス状硝化抑制物質としては
非特許文献2に記載されたアセチレン以外のアセチレン化合物、その他のガス状の硝化抑制物質などであってもよいが、本発明ではメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンから選ばれる1種類以上の物質が
用いられる。特に好ましいガス状硝化抑制物質としては、アセチレンがあげられる。アセチレンはガス溶接等で一般に使われており、容易に入手できる。またメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンの中で、アセチレンは最も硝化抑制効果が高い。
【0026】
本発明ではガス状硝化抑制物質は、酸素含有ガスとともに処理対象地域の土壌および/または地下水に供給する。ガス状硝化抑制物質を供給する量は、硝化反応を抑制するのに必要な量である。この量は処理対象地域の土壌および/または地下水に存在する有機汚染物質および窒素源の種類、量、好気微生物および硝化反応に関与するアンモニア酸化細菌等の硝化細菌の種類、量ならびに供給するガス状硝化抑制物質の種類、純度などにより変わるので、予め試験により量を決めておくことが好ましい。本発明では、ガス状硝化抑制物質は酸素含有ガスとともに供給するが、ガス状硝化抑制物質と酸素含有ガスを混合状態で供給するのが好ましい。
【0027】
酸素含有ガスとしては通常空気が用いられるが、酸素富化空気、あるいは他の成分が混入した空気でもよい。酸素含有ガスは有機汚染物質の酸化のために供給するので、大量のガスが供給され、一般的には、0.05〜10m
3/h、好ましくは0.5〜5m
3/h程度の流量で供給されるが、ガス状硝化抑制物質はこれに比べると少量の供給となる。このため少量のガス状硝化抑制物質を大量の酸素含有ガスに混入して希釈した状態で供給することになる。このときの酸素含有ガス中のガス状硝化抑制物質の濃度は、酸素含有ガスおよびガス状硝化抑制物質の種類、純度、組成、ならびにこれらの供給すべき量などによって異なるが、濃度の下限は硝化抑制に最低限必要な濃度になり、上限は爆発限界により決まる。アセチレンは100volppm以上で有意に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制するので、100volppmが下限となり、爆発限界は2.5vol%であるので、2.5vol%が上限となる。またアセチレン濃度が極端に高い場合、アセチレンの微生物分解によって酸素が消費され、効果的に浄化できなくなる。
【0028】
酸素含有ガスを供給する際、常にガス状硝化抑制物質を混入して供給してもよいが、ガス状硝化抑制物質を間欠的に混入して供給するのが好ましい。ガス状硝化抑制物質を間欠的に供給する場合、ガス状硝化抑制物質の供給している時間が、供給時間と停止時間の合計に対して、15%以上50%以下であることが好ましい。例えば、合計時間が7日の場合、ガス状硝化抑制物質を供給している時間が1.33日以上、好ましくは1.33〜3.5日に設定することができる。ガス状硝化抑制物質を供給している時間中は混合ガスが供給され、ガス状硝化抑制物質の供給を停止している時間中は酸素含有ガスのみが供給される。ガス状硝化抑制物質の間欠供給は、数時間単位の繰り返し、数日単位の繰り返しを適宜設定して行うことができる。
【0029】
酸素含有ガスおよびガス状硝化抑制物質の供給方法は、これらのガスを土壌および/または地下水中に均一に分散させ、好気微生物を利用する好気性酸化反応および硝化反応の抑制ができる方法を採用する。好気性酸化反応には、汚染土壌や汚染地下水の全体に酸素を供給し、好気条件を保つことが重要であり、エアースパージングによるガスの供給が採用できる。この方法は処理対象地域に注入井戸を形成して、酸素含有ガスおよびガス状硝化抑制物質を供給し、土壌および/または地下水中に分散(sparge)させる方法である。注入井戸は処理対象地域に複数個、好ましくは格子状に分散させ、ガスの混合、供給装置に連絡するのが好ましい。
【0030】
ガス状硝化抑制物質の調製方法に制限はないが、土壌および/または地下水に供給する酸素を含むガスに、予めガス状硝化物質を混合しておく方法、酸素を含むガスの供給配管からガス状硝化抑制物質をライン注入し混合する方法、あるいは酸素を含むガスを供給する井戸やトレンチにガス状硝化抑制物質を直接吹き込んで井戸やトレンチ、土壌または地下水内で混合する方法等があげられる。
【0031】
土壌および/または地下水中に蛋白質等の有機態窒素やアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素などが存在する場合は、窒素源を外部から供給しなくてもよいが、これらが存在しない場合には、外部から窒素源を供給する。外部から供給する窒素源としては制限はないが、アンモニアやその塩、尿素、アミノ酸やその塩等が使用できる。亜硝酸やその塩、および硝酸やその塩は人体に有害なため、使用しないことが好ましい。窒素源を外部から供給する場合、窒素源は独立した供給路から供給してもよいが、ガスとともに供給してもよい。
【0032】
有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に、原位置で酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を供給すると、土壌および/または地下水に酸素が溶解し、好気微生物により有機汚染物質が分解され、浄化が行われるが、このときガス状硝化抑制物質により亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成が抑制され、土壌および/または地下水に存在する窒素源は好気微生物の増殖に効率的に用いられるとともに、有機汚染物質である亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の発生は防止される。
【0033】
有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に酸素含有ガスを供給して浄化する方法では、酸素が供給された部分においてのみ有機汚染物質が分解されるので、汚染土壌や汚染地下水の全体に酸素を供給することが重要である。同様に硝化反応も、酸素が供給された部分においてのみ進行し、亜硝酸性窒素あるいは硝酸性窒素が生成する。従って、酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を供給することにより、酸素ガスが供給される部分にだけ硝化抑制物質を供給することになり、効率的に硝化を抑制しつつ、汚染土壌や汚染地下水を浄化することが可能となる。
【0034】
特許文献2では、硝化抑制物質を注入して窒素源の分解を防ぐことにより、油汚染土壌/地下水の浄化を効率化することを目的としており、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成抑制は目的としていない。しかし特許文献2のように、固体または液体状の硝化抑制物質を用いると、酸素が供給される部分に適切に供給できず、逆に酸素が供給されない部分に拡散ないし漏洩することになり、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の抑制は非効率的である。
【0035】
硝化抑制物質はアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌に含まれる酵素と反応して失活させることにより、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成を抑制する。非特許文献2には、アセチレンが硝化細菌のアンモニアモノオキシゲナーゼ(AMO)によってエポキシ化され、AMOと反応して、共有結合することによって、AMOを失活させることが示されている。この場合、蛋白質のデノボ合成が必要となるため、AMOの活性回復には時間を要する。活性回復するまでは亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成は抑制される。このためAMOの活性が回復するまでの間は硝化抑制物質の供給を停止することができ、ガス状硝化抑制物質を間欠的に供給しても、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成を抑制することができ、これによりさらに効率よく浄化を行うことができる。
【0036】
このように菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過した後、抑制物質供給工程において、汚染土壌/汚染地下水へ酸素含有ガスに加えて、ガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質を浄化することができる。ここで抑制物質供給工程に移った後も菌測定工程を継続して、処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを測定することができる。この場合、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などはほぼ一定の範囲内におさまり、極端に増減しないことが多く、ガス状硝化抑制物質の供給量の増減は必要ないが、増減が激しい場合には、それに応じてガス状硝化抑制物質の供給量を増減することができる。
【0037】
アンモニア酸化細菌の増殖状態をモニタする上では、硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の濃度を検出するよりも、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを検出する方が感度よく正確に測定できる。またアンモニア酸化細菌が一定濃度以上に増殖した後に、実質的に問題となるレベルの硝化が起き、かつアンモニア性窒素の酸化が亜硝酸の酸化より先に起こるので、アンモニア酸化細菌を測定対象とすることにより、硝化細菌全体の増殖を早い段階で検知し、迅速にガス状硝化抑制物質を供給して対応措置を講じることができる。アンモニア酸化細菌の増殖から硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の濃度が高くなるまでにはタイムラグがあるため、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを検出してガス状硝化抑制物質を供給する方が、硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の濃度を検出する方法よりも、硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の生成を防止するのに有効である。このため遺伝子解析により菌濃度、菌数、遺伝子数などを測定することにより、アンモニア酸化細菌の存在を迅速に検出して、ガス状硝化抑制物質を供給することができ、これによりタイムラグにより硝酸性窒素濃度が高くなることを防止でき、ガス状硝化抑制物質の無駄なく、効率的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制できる。
【0038】
菌濃度、菌数の測定方法はPCR法など遺伝子数に基づく測定法が好ましく、これ以外の培養等の方法では硝化細菌の生育が遅いため実用性に乏しいが、PCR法以外に新しい菌濃度、菌数の測定方法が実現すればそれらによってもよい。PCR法の場合でも、測定に3日ほどかかる場合があるが、土壌中の地下水の流速は小さく、かつ硝化反応(代謝速度)が遅いので、抑制物質供給工程に移行するときの菌濃度、菌数の設定値を適切に選択することにより、PCR法でも十分モニタリングに耐えられる。