(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854468
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】非接触放電評価方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/67 20060101AFI20160120BHJP
G01R 31/12 20060101ALI20160120BHJP
H01T 15/00 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
G01N21/67 Z
G01R31/12 A
H01T15/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-13305(P2012-13305)
(22)【出願日】2012年1月25日
(65)【公開番号】特開2013-152155(P2013-152155A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108660
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 譲
(72)【発明者】
【氏名】大塚 信也
(72)【発明者】
【氏名】古川 真陽
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕貴
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−101671(JP,A)
【文献】
特開2011−099775(JP,A)
【文献】
特開2008−268083(JP,A)
【文献】
特開2008−304357(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0163743(US,A1)
【文献】
石野 隆一,「放電部分の発光面積を用いた漏れ電流推定手法の開発(その2) −試料片の測定結果に基づく配電用高分子がいしの漏れ電流推定−」,電力中央研究所システム技術研究所研究報告,2006年 5月 1日,No.R05008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/67
G01R 31/12
H01T 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象機器の放電を、それに基づく発光を光学測定することにより非接触で評価する非接触放電評価方法において、
放電源に、既知の電源より放電源に電圧を印加することにより放電発光させ、この放電発光の強度を時間の経過との関係で示す強度波形を、受光素子を用いて測定し、同時に放電電流値を時間の経過との関係で示す放電電流波形を、電流変換プローブ又は電流波形検出器で測定して、それらの波形を解析した解析データの関係を、前記放電源に印加した印加電源情報に基づいて記録したデータベースを作成し、
測定対象機器から発生した放電発光の強度波形を、前記受光素子と同一若しくは同一種の受光素子を用いて測定して、その波形を解析することにより求められた発光データを、前記データベースに記録されているデータと比較することにより、放電の大きさを値として推定する、
ことから成る非接触放電評価方法。
【請求項2】
使用する受光素子毎、及び対象とする絶縁系で生じる放電環境毎に、前記データベースを作成し、かつ、前記放電の大きさの推定を行う請求項1に記載の非接触放電評価方法。
【請求項3】
前記放電の大きさは、放電電流のピーク値、放電電流の積分値である電荷量、或いは放電エネルギー値である請求項1に記載の非接触放電評価方法。
【請求項4】
前記放電の大きさを、測定した光強度波形のピーク値或いは放電発光強度の積分値である光強度波形の面積で評価する請求項1に記載の非接触放電評価方法。
【請求項5】
測定対象機器の放電を、それに基づく発光を光学測定することにより非接触で評価する非接触放電評価装置において、
放電源に、既知の電源より放電源に電圧を印加することにより放電発光させ、この放電発光の強度を時間の経過との関係で示す強度波形を、受光素子を用いて測定し、同時に放電電流値を時間の経過との関係で示す放電電流波形を、電流変換プローブ又は電流波形検出器で測定して、それらの波形を解析した解析データの関係を、前記放電源に印加した印加電源情報に基づいて記録したデータベースと、
測定対象機器から発生した放電発光の強度波形を、前記受光素子と同一若しくは同一種の受光素子を用いて測定して、その波形強度を取得する波形強度取得装置と、
前記波形強度取得装置により取得した波形強度を解析する波形解析部と、
前記波形解析部での解析により求められた発光データを、前記データベースに記録されているデータと比較することにより、放電の大きさを値として推定する比較部と、
推定した結果を表示する表示部と、
から成る非接触放電評価装置。
【請求項6】
使用する受光素子毎、及び対象とする絶縁系で生じる放電環境毎に、前記データベースを作成し、かつ、前記放電の大きさの推定を行う請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【請求項7】
前記放電の大きさは、放電電流のピーク値、放電電流の積分値である電荷量、或いは放電エネルギー値である請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【請求項8】
前記放電の大きさを、測定した光強度波形のピーク値或いは放電発光強度の積分値である光強度波形の面積で評価する請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【請求項9】
前記受光素子は、放電源に対して空間的に対向して配置し、或いは、光導波路を用いて配置した請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【請求項10】
発光強度に応じた前記受光素子の感度の増減は、前記受光素子自体のゲインの増減、又はその受光素子と発光源の距離を増減し、又は光学フィルタを設置し、あるいは光導波路を使用することにより調整する請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【請求項11】
前記受光素子及び前記波形強度取得装置を電磁遮蔽シールドボックス内へ設置した請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【請求項12】
複数の受光素子を用い、各受光素子と前記波形強度取得装置までの配線距離を同一とするか、又は、その長さの差分だけ時間補正を行う請求項5に記載の非接触放電評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象機器の放電を、それに基づく発光を光学測定することにより非接触で評価する非接触放電評価方法及び装置に関する。本発明は、電力や電気機器などの高電圧、電気絶縁分野、電気電子機器などの静電気放電試験分野および自動車や電気エネルギー機器の製造および保守運用分野で用いることができる。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁異常の検出、評価として、絶縁破壊が発生する前の現象である部分放電の検出や評価が行われている。高電圧機器の絶縁試験の一つとして、部分放電試験が規定されている。放電の大きさは、電荷量(単位:クーロンC)で評価されるのが一般的である。従来は、放電電流を測定し電荷量換算するか、あるいは回路に電荷量評価装置を接続して測定していた。また、静電気放電試験では、静電気試験機(ESDガン)の発する電圧は立ち上がり時間が1ns以下と非常に急峻であり、放電発生をその試験機近傍で電気的に測定することは困難である。
【0003】
放電の大きさ(電荷量)およびエネルギーを非接触手法で評価することが、高電圧電力機器や電気で駆動や制御される電気エネルギー機器の製造現場や保守運用分野で望まれている。放電電流の測定を非接触で測定する技術が、安全性や試験の容易さ、適用範囲の拡大が見込まれる点から注目されている。放電の非接触検出として、放電の放射電磁波を検出するUHF法(UHF帯(300MHz〜3GHz)の放射電磁波測定)が注目されており、IEC規格として規格制定が進められている。
【0004】
一方で、電磁波計測は電磁ノイズ環境が悪いと電気的な計測が困難なこともある。特に、雷インパルス試験や静電気放電試験では、それら電源装置からノイズとなる強い電磁波が放射されており、劣悪な電磁ノイズ環境での計測となる。
【0005】
また、従来、容器内での発光を検知する光電子増倍管を用いて、部分放電を判別して検出する部分放電発生回数測定装置が知られている(特許文献1参照)。さらに、電気機器の高電圧部で発生する部分放電又は閃絡による発光を検出することによってこの電気機器の故障を監視する故障監視装置が知られている(特許文献2参照)。特許文献2は、電気信号に変換された検出光が一定値以上の強度を越えたとき容器内部で発光があり故障が発生したと判定するものである。
【0006】
しかし、光と放電エネルギーの関係は明確でない。放電発生回数とか発光そのものを検出するだけでなく、放電の大きさやエネルギーを光学測定により評価する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−204067号公報
【特許文献2】特許第2707823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような背景から、本発明は、放電の大きさ(電荷量や電流ピーク値)やエネルギーを、放射電磁波測定のように電気的に取得するのではなく、発光に基づく光学測定により取得して評価することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に基づく非接触放電評価方法及び装置は、測定対象機器の放電を、それに基づく発光を光学測定することにより非接触で評価する。放電源に、既知の電源より放電源に電圧を印加することにより放電発光させ、この放電発光の強度波形を受光素子を用いて測定し、同時に放電電流波形を電流変換プローブや電流波形検出器で測定して、それらの波形を解析した解析データとの関係を、前記放電源に印加した電圧値や印加電圧極性、あるいは放電発生時の電圧瞬時値やその発生時間(位相)などの印加電源情報を考慮して記録したデータベースと、測定対象機器から発生した放電発光の強度波形を、前記受光素子と同一若しくは同一種の受光素子を用いて測定して、その波形強度を取得する波形強度取得装置と、この波形強度取得装置により取得した波形強度を解析する波形解析部と、この波形解析部での解析により求められた発光データを、データベースに記録されているデータと比較することにより、放電の大きさを値として推定する比較部と、その結果を表示する表示部と、を備える。
【0010】
使用する受光素子毎、及び対象とする真空を含む空気やSF6ガスなどの絶縁ガス、あるいは絶縁油やシリコーン油などの絶縁液体などの絶縁系で生じる放電環境毎に、データベースを作成し、かつ、放電の大きさの推定を行う。放電の大きさは、放電電流のピーク値、放電電流の積分値である電荷量、或いは放電エネルギー値である。放電の大きさは、測定した放電発光強度波形のピーク値或いは放電発光強度波形の面積(積分値)で評価する。
【0011】
受光素子は、放電源に対して空間的に対向して配置し、或いは、光導波路を用いて配置する。発光強度に応じた受光素子の感度の増減は、受光素子自体のゲインの増減、又はその受光素子と発光源の距離を増減し、又は光学フィルタを設置し、あるいは光導波路を使用することにより調整する。受光素子及び波形強度取得装置を電磁遮蔽シールドボックス内へ設置することができる。また、複数の受光素子を用いることができ、この場合、各受光素子と波形強度取得装置までの配線距離を同一とするか、又は、その長さの差分だけ時間補正を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放電の大きさ(電荷量や電流ピーク値)やエネルギーを、非接触で電磁ノイズ環境の悪いところでも、発光に基づく光学測定により取得して評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に基づく非接触放電評価方法を例示する動作説明図である。
【
図3】(A)(B)は、互いに異なる例を示す非接触放電評価装置の回路構成図である。
【
図4】光導波路(光ファイバー)使用時の特性例を示す図である。
【
図5】受光素子の相違による影響を説明する図である。
【
図6】
図3(A)(B)にそれぞれ示されている波形解析、比較、評価の詳細図である。
【
図7】放電電流ピーク値ipの推定を説明する図であり、図中プロットは実測例を示し、かつ、図中ラインはデータベース作成用に修正した近似特性線である。
【
図8】放電電荷量qの推定を説明する図であり、図中プロットは実測例を示し、かつ、図中ラインはデータベース作成用に修正した近似特性線である。
【
図9】放電エネルギーEの推定を説明する図であり、図中プロットは実測例を示し、かつ、図中ラインはデータベース作成用に修正した近似特性線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、例示に基づき本発明を説明する。
図1は、本発明に基づく非接触放電評価方法を例示する動作説明図である。本発明は、最初に、対応する対象絶縁系環境(例えば、使用絶縁ガス空間)で使用する受光素子毎に、光信号(少なくとも、光強度波形のピーク値Lp、光強度波形の面積Lq)と放電の大きさ(放電電荷量qや放電電流ピーク値ip、放電エネルギーE)の相関を示すデータベースを、印加電源情報(少なくとも、印加電圧値や極性、放電発光の発生時の瞬時電圧や発生時間(あるいは位相))を考慮して作成する。絶縁系が異なる測定対象機器における放電を評価して、放電の大きさを推定する際には、このデータベースに記録されているデータを用いる。
【0015】
まず、データベースを作成するために、ステップS1において、試験用の放電源に、電源情報が既知の電源より電圧を印加することにより放電発光させる。ステップS2において、受光素子を用いて放電発光の強度波形と同時に、数GHzまでの周波数応答を有する電流変換プローブCTや電流波形検出器などを用いて放電電流波形を測定する。ステップS3において、それらの波形を解析し、ステップS4において、解析データの光強度波形のピーク値Lpや光強度波形の面積(積分値)Lqと放電の大きさ(放電電流ピーク値ipや放電電荷量q、あるいは放電エネルギーE)の関係を、印加電源情報を考慮して使用する受光素子毎、及び対象とする放電環境毎に作成して、データベースに記録する。なぜなら、放電環境により、放電電流波形と発光強度波形は異なるからである。
【0016】
次に、データベースに記録されているデータを用いて、測定した発光データから放電の大きさ(電流ピーク値や放電電荷量、および放電エネルギー)の評価を行ない、それらの値を推定する。ステップS11において、測定対象機器から発生した放電発光を検出する。放電なしの場合は、評価はせず、放電発生がないことを表示する。本発明は、電力機器や電気電子機器、あるいは電気自動車や航空機などの電気で駆動や制御される電気エネルギー機器の放電試験や電気絶縁異常のモニタリングに使用することができる。ステップS12,S13においては、データベース作成の際に用いた受光素子と同一若しくは同一種の受光素子を用いて放電発光の強度波形を測定して、その波形を解析する。この解析により求められた発光データを、ステップS14において、データベースに記録されているデータと比較することにより、放電電流のピーク値ip、放電電流の積分値である電荷量q、放電エネルギーEの値を推定する。
【0017】
図2は、波形の定義を説明する図である。横軸は時間を示している。図中の上側には、放電電流波形を、また、下側には同時に測定した放電発光強度波形をそれぞれ示している。本発明は、データベースに記録されているデータを用いて、測定した放電発光強度から、放電電流を評価する。具体的には、放電電流のピーク値ipを、光強度波形のピーク値Lpで評価する。あるいは光強度波形の面積Lqでも評価できる。また、放電電流の積分値である電荷量qは、光強度波形の面積(積分値)Lqで評価する。あるいは光強度ピークLpでも評価できる。また、放電エネルギーEは、光強度波形の面積(積分値)Lqで、あるいは光強度ピークLpで評価する。その評価の詳細は後述する。
【0018】
図3(A)(B)は、互いに異なる例を示す非接触放電評価装置の回路構成図である。(B)に示す回路構成図は、受光素子を光導波路を用いて接続し、かつ、受光素子と電流測定装置及びデジタルオシロスコープを電磁遮蔽シールドボックス内に配置した点でのみ、(A)に示す回路構成図とは相違している。
【0019】
上述したように、データベース作成の際には、試験用の放電源に対して、電源情報が既知の電源より電圧を印加する。電源電圧は、例えば静電気放電試験であればESDガンの出力電圧であったり、雷インパルス試験であれば雷インパルス電圧である。更に、交流や直流試験電圧である。いずれの場合も、印加電圧や印加電圧極性および放電発生時の瞬時電圧や発生時間(あるいは位相)は既知である。放電電流は、電流測定装置によって測定する。但し、データベース作成後の放電試験や保守運用時には、放電電流は測定せずに受光素子による発光強度波形の測定のみとなる。
【0020】
データベース作成の際、或いは測定対象機器の放電評価の際、同一の受光素子を用いるか、少なくとも同一種(即ち、同一特性)の受光素子を用いて、発生した発光を検出する。発光強度に応じて、各受光素子への入力光信号を減光したり、感度を増加させることを行う。感度の増減には、受光素子と発光源の距離を増減したり、光学フィルタを設置すること、あるいは光ファイバーなどの光導波路を使用したり、受光素子のゲインを調整することで行う。紫外から可視光領域に高い感度を有する受光素子は、例えば光電子増倍管PMTである。発光強度が強い場合は、光電子増倍管PMTの代わりにフォトダイオードでもよい。更に発光強度が強い場合は、減光フィルタを使用する。
【0021】
受光素子は、
図3(A)に示すように、放電源に対して空間的に対向して放電発生を検出する。或いは、受光素子は、
図3(B)に示すように、光ファイバーなどの光導波路を用いることにより、放電源と受光素子の位置関係を直線以外にも設定でき、離隔できる。これにより、受光素子への電源や放電源からの電気的ノイズの影響を抑制できる。
【0022】
使用する受光素子自体にノイズが誘起されるような特に強いノイズ源がある場合は、受光素子を放電発光部位から隔離し、その間を光ファイバーケーブルを用いて発光信号を伝送する。この際、発光信号は低下するために、光ファイバーケーブルでの発光強度の減衰を考慮して評価することになる。なお、光量が強い場合にも光ファイバーを使用してもよい(ファイバー通過により光強度は低下する)。光ファイバーなどの光導波路の使用により、電気的ノイズ対策としてだけでなく、発光部位(光源)と受光素子の位置を柔軟に配置することができる。
【0023】
図4は、光導波路(光ファイバー)使用時の特性例を示す図であり、(A)は放電発光強度と放電電流の関係を示し、(B)は放電発光積分値と放電電荷量の関係を示している。光ファイバー(石英ファイバーのバンドル仕様)を用いた場合の方が、発光強度は低下するため、
図4(A)に示すように、放電発光強度Lpの値は小さくなっている。しかし、放電発光強度Lpと放電電流ピーク値ipは光ファイバー有り無し何れも線形性が認められる。同様に、
図4(B)に示すように、放電発光積分値Lqと放電電荷量qは何れも線形性が認められる。光ファイバー使用時には、両特性が一致するように、光ファイバーを用いた場合の特性を用いない場合の特性に規格化する。
【0024】
さらに、
図3(B)に示すように、受光素子及びデジタルオシロスコープを電磁遮蔽シールドボックス内へ設置することで、さらに電気的ノイズの影響を抑制できる。例えば、光導波路がなければ、発光部位と受光素子は受光素子の視野角内の直線上にあることが必要であるが、光導波路を用いることで、受光素子は視野角内の直線上との制約なく、受光素子は遮蔽物の背後や任意の位置に設置した電磁遮蔽シールドボックス内などに自由に設置できる。なお、受光素子への電気的ノイズをより抑制するには、受光素子全面の電磁遮蔽シールドボックスには、電気的ノイズを透過させず光信号を透過させるメッシュ状の金属金網を配置することが効果的である。また、電流測定装置も、電磁遮蔽シールドボックス内に配置することが望ましい。
【0025】
以上は、一つの受光素子を対象に説明したが、複数の受光素子を用い、各受光素子とデジタルオシロスコープDOSC等の波形強度取得装置までの配線距離を同一とすることで(同一でない場合は、その長さの差分だけ波形出現位置の時間補正を行う)、複数の場所で放電発生する場合やその発生タイミングが異なる場合には、一度の実験観測で発生位置や発生時間差をより詳細に知ることができるようになる。光ファイバーなどの光導波路の直径は、放電発光の大きさが十分観測できる必要がある。なお、太い単線でも、複数の単線をバンドルしたものでもよい。光ファイバーなどの光導波路の設置位置は、放電発光を効率よく受光できる位置に配置する。そのために、発光波長全域を透過できるレンズ等を用い、集光してもよい。
【0026】
受光素子により観測される発光強度波形は、デジタルオシロスコープDOSCなどの波形取得装置で、波形観測するだけでなく、そのデータを取得する。この際、デジタルオシロスコープの周波数帯域とサンプリング周波数は、発光強度波形の変化に十分対応できることが必要である。例えば、周波数帯域では、500MHz以上、サンプリング周波数では1GS/s以上が望まれる。デジタルオシロスコープDOSCのトリガは、受光素子自身の信号を用いる。但し、静電気放電試験や雷インパルス試験においては、単発電圧あるいは単発電流印加による試験であるため、それら試験器(例えば静電気放電試験であればESDガンであったり、雷インパルス試験であれば雷インパルス電圧あるいは電流発生器)の駆動信号あるいはその出力印加信号をトリガ信号として使用してもよい。これら駆動信号や出力印加信号から放射される電磁波をアンテナで検出し、トリガ信号として使用してもよい。更に、交流や直流試験、あるいは、上記雷インパルス試験においても、特定の時間内や交流信号であれば特定の位相での観察を対象とする場合は、その時間や位相でトリガ信号を与えるような、遅延回路やパルス発生器を用いてもよい。
【0027】
デジタルオシロスコープDOSCなどの波形取得装置により取得された発光強度波形は、波形解析部で波形解析される。データベース作成の際、解析データの光強度波形のピーク値Lpや光強度波形の面積Lqと放電電流波形のピーク値ipや放電電流波形の積分値である放電電荷量qあるいは放電エネルギーEの関係を、印加電源情報(印加電圧や極性、放電発生時の瞬時電圧やその発生時間(あるいは位相))を考慮して、使用する受光素子毎、及び対象とする絶縁系の放電環境毎に作成して、データベースに記録する。そして、放電評価の際に、比較部では、解析により求められた発光データを、データベースに記録されているデータと比較することにより、放電の大きさ(電流ピーク値や放電電荷量、および放電エネルギー)を推定し、その結果を表示する。
【0028】
図5は、受光素子の相違による影響を説明する図である。同一放電発光を異なる種類の光電子増倍管PMTで測定した結果例を示している。使用する素子(光電子増倍管PMT)毎に発光強度が異なっていることがわかるが、使用する素子毎にデータベースを作成することで放電の大きさを定量的に評価できる。
【0029】
図6は、
図3(A)(B)にそれぞれ示されている波形解析、比較、評価の詳細図である。放電発光強度波形や放電電流波形の値は、デジタルオシロスコープDOSCから、波形解析部の積分回路と、ピーク検出回路に導かれる。積分回路は、受光素子出力波形の積分値Lqや電流変換プローブCTあるいは電流波形検出装置の出力波形の積分値qを算出し、かつ、ピーク検出回路は、受光素子出力波形のピーク値Lpや電流変換プローブCTあるいは電流波形検出装置の出力波形のピーク値ipを算出する。さらに演算回路で、積分回路からの出力qと印加電源情報としての発光発生時の電圧値Vとの積により放電エネルギーEを算出する。本発明は、この受光素子出力波形のピーク値Lpや積分値Lqにより、放電電流波形のピーク値ip、その面積(時間積分値)である放電電荷量q、および放電エネルギーEを評価する。特に、放電電流波形のピーク値ipは受光素子出力波形のピーク値Lpで、放電電荷量qは積分値Lqで評価する。放電エネルギーEはピーク値Lpと積分値Lqのどちらでもそれほど相違はないため、どちらで評価してもよい。
【0030】
図7は、発光強度波形のピーク値Lpや発光強度積分値Lqなどの発光信号を放電電流ピーク値と同時に測定して、この特性からLpやLqから放電電流ピークipの推定を説明する図であり、図中プロットは実測例を示し、かつ、図中ラインはデータベース作成用に修正した近似特性線である。このグラフの特性線上の各点が、表にしてデータベースに記録されている。放電電流波形のピーク値ipに対しては、出力波形のピーク値Lpの方が積分値Lqよりも線形的な対応となる。さらに物理的観点からも、放電電流波形のピーク値ipの推定には出力波形のピーク値Lpを使用する方が好ましい。なお、線形的に比例していない場合でも、近似特性線の関係に基づきピーク値ipの推定は行えるが、前記の表の関係に基づき、あるいは入力ピーク値Lpや積分値Lqに対する出力ピーク値ipの近似特性線を定式化してこの関数を求め、ピーク値Lpや積分値Lqの入力値に対する出力ピーク値ipが得られる。
【0031】
図8は、
図7と同様に、発光強度波形のピーク値Lpや発光強度積分値Lqなどの発光信号を放電電荷量と同時に測定して、この特性からピーク値Lpや積分値Lqから放電電荷量qの推定を説明する図であり、図中プロットは実測例を示し、かつ、図中ラインはデータベース作成用に修正した近似特性線である。このグラフの特性線上の各点が、表にしてデータベースに記録されている。放電電荷量qに対しては、積分値Lqの方がピーク値Lpよりも線形的な対応となる。さらに物理的観点からも、放電電荷量qの推定には積分値Lqを使用する方が好ましい。なお、線形的に比例していない場合でも、近似特性線の関係に基づき放電電荷量qの推定は行えるが、前記の表の関係に基づき、あるいは入力積分値Lqやピーク値Lpに対する出力電荷量qの近似特性線を定式化してこの関数を求め、積分値Lqやピーク値Lpの入力値に対する出力電荷量qが得られる。
【0032】
図9は、
図7や
図8と同様に、発光強度波形のピーク値Lpや発光強度積分値Lqなどの発光信号を放電エネルギーと同時に測定して、この特性から放電エネルギーEの推定を説明する図であり、図中プロットは実測例を示し、かつ、図中ラインはデータベース作成用に修正した近似特性線である。このグラフの特性線上の各点が、表にしてデータベースに記録されている。放電エネルギーEに対しては、積分値Lqの方がピーク値Lpよりも線形的な対応となる。さらに物理的観点からも、放電エネルギーEの推定には積分値Lqを使用する方が好ましい。なお、線形的に比例していない場合でも、近似特性線の関係に基づき放電エネルギーEの推定は行えるが、前記の表の関係に基づき、あるいは入力ピーク値Lpや積分値Lqに対する出力放電エネルギーEの近似特性線を定式化してこの関数を求め、ピーク値Lpや積分値Lqの入力値に対する出力放電エネルギーEが得られる。
【0033】
図10は、異なる絶縁系の例として、絶縁ガス種の相違例を説明する図である。絶縁ガス種毎の放電発光ピーク値Lpに対する放電電流ピーク値ipを示すグラフである。上記の評価は、放電環境(使用しているガス絶縁体や液体絶縁物)により異なるため、対象となる絶縁ガス種毎のデータを事前に取得しておく必要がある。なお、ここでは、放電発光ピーク値Lpと放電電流ピーク値ipの関係を示したが、同様に放電発光積分値Lqと放電電荷量qあるいは放電エネルギーEとの関係も放電環境により異なるため、対象となる絶縁系毎のデータを事前に取得しておく必要がある。
図10は、絶縁媒体(この例は絶縁ガス)の種類により特性が異なる例を示している。この他にも、放電形態が大きく変化するものは、放電形態毎のデータを用意しておくとより詳細に放電量を評価できる。
【0034】
光信号強度は、発光位置からセンサ位置の距離d依存性がある(距離dが大きくなるほど光信号強度は低下する)。そのため、この距離d依存性を考慮した補正をする。即ち、発光強度は距離dの二乗に反比例するため、この関係に基づき発光位置との距離dを考慮して発光強度を増減させる補正を行う。
【0035】
放電試験の場合、放電発生部位は電極位置となるため既知である。一方、保守診断では、放電発生部位は不明であるため、位置標定技術が必要となる。位置標定において、発光信号は、発生位置から受光素子までの距離の2乗に反比例して減衰するため、データベースに記録するデータ(発生源と受光素子の距離は、ある特定の長さで作成しておく)を距離補正する必要がある。なお、距離補正ができなくても、放電発光ピーク値Lpと放電電流ピーク値ipの関係や放電発光積分値Lqと放電電荷量qの関係など両者に線形性が認められる関係を用いることで、相対的な放電の大きさの変化は評価できる。