【実施例】
【0035】
以下、調整例および実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、調整例および実施例は本発明を限定するものではない。
【0036】
(調整例)
本調整例では、再生植物体製造、および、オオイタビ野生株とオオイタビ変異株とにおけるNO
2の吸収能力および同化作用能力についての比較を説明する。
【0037】
まず、無菌的に育てたオオイタビの野生株から、外植片(茎)を切り離した。なお、オオイタビの野生株の培養方法は、特許文献4に記載のヒメイタビの場合の方法と同様であり、培地にはMS培地(Murashige T., and Skoog F.、1962、A revised medium for a rapid growth and bioassay with tabacco tissue culture.、Physiol. Plant.15、473−497参照)にスクロースを2重量%、インドール−3−ブチル酸を0.1重量%となるように添加したものを使用し、また、培養は人工気象器(日本医化学器械社製、TCR-5P)に設置したプラスチック製容器(キリン社製、アグリポット)中において2ヶ月間行った。培養中の栽培温度は25±1度とし、光の照射条件は30〜40μmol photons/m
2/sとした。
【0038】
次に、切り離した外植片に、イオンビーム(
12C
5+、
12C
6+または
4He
2+)を照射した。イオンビーム照射は、AVF(Azimuthally Varying Field)サイクロトン(独立行政法人日本原子力研究開発機構内)を使用して行った(非特許文献1参照)。
【0039】
その後、イオンビームを照射した外植片およびイオンビームを照射していない外植片を、スクロース2重量%、ゲランガム0.3重量%、ベンジルアデニン1.78μMおよびチジアズロン46.7nMが添加され、pH5.8になるよう調整されたWP培地(Lloyd G., McCown B.、1980、Commercially-feasible micropropagation of mountain laurel, Kalmia latifolia, by use of shoot tip culture.、Intern Plant Prop Soc Proc 30、421−427参照)に移し替え、3ヶ月間培養した。
【0040】
当該WP培地での培養では、室温は25.0±0.3度、明:暗のサイクルは16:8時間のサイクルとした。光の照射条件は、40μmol photons /m
2/sの蛍光灯の下で行った。なお、3ヶ月間の培養の間、3週間毎に継代培養を行った。継代培養では、照射した外植片および照射していない外植片の両方から、約20mmの長さの芽を切り離した。切り離した芽は、スクロース2重量%およびインドール−3−ブチル酸0.1重量%を添加したMS培地(Murashige T., and Skoog F.、1962、A revised medium for a rapid growth and bioassay with tabacco tissue culture.、physiol. Plant. 15、473−497参照)から構成される発根培地に浸した製紙パルプおよびバーミキュライトの混合物(Florialite(登録商標)、日清紡)を含む試験管(直径3cm、長さ20cm)に植え替えた。
【0041】
これらを4週間程度培養させた。その後、滅菌蒸留水を週ごとに供給し、発根した外植片の若木をもう2週間育苗箱内において馴化させた。さらに、バーミキュライトとパーライトとを質量比1:1で含有し、温室内に置かれたプラスチックポットの中にこれらを移し、自然光の下で4〜6ヶ月育てた。外植片の若木には毎日水やりをし、週毎にハイポネックス(HYPONEX Japan)0.1重量%を与えた。
【0042】
次に、このようにして生長させたイオンビームを照射した外植片およびイオンビームを照射していない外植片(親株の外植片)の再生植物体を継代培養した。両方の再生植物体からそれぞれ3〜10個の外植片(3〜4cmの長さの茎)を切り離し、これを継代培養1代目とし、前述のMS培地での継代培養の方法、条件と同様に生長させた。
【0043】
さらに、前述のそれぞれの継代1代目の外植片の若木が25±5cmの長さの再生植物体まで生長した時点において、NO
2の吸収能力を比較した。NO
2を吸収させる手段として、22±0.3度、70±4%の相対湿度、0.03〜0.04%のCO
2が維持されるNO
2チャンバー(Model NC1000-SC、日本医化器械社製)を利用した。なお、当該チャンバー内において、日中(9am〜5pm、100μmol/mm/s)の8時間の間に
15NでラベルしたNO
2(1.0±0.1ppm、
15Nは51.6atom%)を吸収させた。
【0044】
ここで、NO
2の吸収量(μg TNNO2gm
−1dry weight)は、{(B−0.3663)/100}×A×100/C、の式により算出することができる。当該式において、AはNO
2ガス曝露後のオオイタビ中に含まれる
15Nおよび
14Nの質量の総量を示し、Bは試料中に含まれる全Nの質量中の
15Nの濃度(atom%
15N)を示し、Cは曝露したNO
2中の
15Nの濃度(atom%
15N)を示す。また、当該式において、0.3663は自然界に存在する全Nの質量中の
15Nの存在比(atom%
15N)である(Mariotti A.、Atmospheric nitrogen is a reliable standard for natural
15N abundance measurements.、1983、Nature 303、685−687参照)。
【0045】
NO
2由来の全窒素(「TNNO2」と示し、NO
2を吸収する植物の能力を表す)を調べる為、まず、それぞれの葉を収穫し、蒸留水で洗浄した(Morikawa H., Higaki A., Nohno M., Takahashi M., Kamada M., Nakata M., Toyohara G., Okamura Y., Matsui K., Kitani S., Fujita K., Irifune K., and Goshima N.、1998、More than 600-fold variation in nitrogen dioxide assimilation among 217 plant taxa.、Plant Cell Environ 21、180−190参照)。
【0046】
それぞれの植物体から収穫・洗浄した葉を凍結乾燥し、その後10〜70g程度粉砕し、TNNO2の解析を行った。なお、当該解析方法は、H. Morikawa et al.、2004、Planta、14−22に記載の方法と同様であり、質量分析装置(Thermo-Finnigan社製、Delta C)が直結した元素分析装置(Fisons Instruments社製、EA1108CHNS/O)を利用して解析を行った。具体的には、これらの装置により当該葉の粉末に含まれる全Nの量および
15Nの量、すなわち前述の式におけるAおよびBを算出した。また、前述の式におけるCは曝露したNO
2ガス中の
15Nの原子百分率となるから、前述したとおり51.6%である。
【0047】
図1は、調製例に係るオオイタビの継代培養1代目のNO
2吸収能力を示す図である。
図1に示すLine no.は前述の方法で継代培養した植物体の番号であり、Ionは外植片に照射したイオンビームのイオンであり、Dose(Gray)は照射したイオンビームのGyすなわち線量であり、NO
2uptake(μg TNNO2gm
−1dry weight)はイオンビームを照射した再生植物体のNO
2の平均吸収量(Irradiated)と野生株の再生植物体のNO
2の平均吸収量(Wild-type)およびその測定植物体数(n
1))であり、Fold Increaseは野生株の植物体の平均吸収量に対するイオンビームを照射した植物体の平均吸収量の倍増量を示している。
【0048】
図1に示すように、継代培養1代目では、オオイタビ野生株の植物体のNO
2吸収量に対し、イオンビームを照射した再生植物体では約0.8〜1.8倍まで変化していた。ここで、Line no.30−XXIII2−04および44−XXIII3−04は、野生株の植物体のNO
2吸収量と比較して有意に大きいNO
2吸収量を示し、それぞれ1.8倍および1.7倍であった。そこで、これら2つの再生植物体の外植片を前述と同様の方法で継代培養し、すなわち継代培養2代目とし、同様の方法でTNNO2、および、NO
2由来の還元窒素またはケルダール窒素(「RNNO2」と示し、NO
2による植物の同化作用能力を表す)の解析を行った。
【0049】
図2は、調整例に係るオオイタビの継代培養2代目のNO
2吸収能力および同化作用能力を示す図である。
図2に示すLine no.、NO
2uptake(μg TNNO2gm
−1dry weight)、Irradiated、Wild-typen
1)およびFoldは、
図1と同様の意味を示し、NO
2assimilation(μg RNNO2gm
−1dry weight)は継代培養2代目の再生植物体の同化作用能力を示している。なお、
図1および
図2に示すTNNO2およびRNNO2のデータの統計解析は、スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて行った解析結果である。
図2のLine no.において、30−XXIII2−04−1、30−XXIII2−04−2および30−XXIII2−04−3は30−XXIII2−04の外植片を継代培養したものであり、44−XXIII3−04−4、44−XXIII3−04−5および44−XXIII3−04−6は44−XXIII3−04を継代培養したものである。
【0050】
図2に示すように、
図1に示した30−XXIII2−04および44−XXIII3−04の有意に大きいNO
2吸収量は継代培養2代目にまで遺伝していた。さらに、44−XXIII3−04−5および44−XXIII3−04−6は、RNNO2も有意に大きく増加しており、すなわち、オオイタビ親株と比較して改良されるということがわかった。そこで、これら44−XXIII3−04変異株(継代培養した植物体も含む)を、オオイタビKNOX品種変異株と名づけた。
【0051】
(実施例)
本実施例では、オオイタビKNOX品種変異株を識別する為の、対合プライマーDNA多型解析について説明する。
【0052】
最初に、Kobayashi et al.(1998)の方法によって、オオイタビ親株の植物体と、
図1に示す44−XXIII3−04変異株、すなわちオオイタビKNOX品種変異株の植物体の葉から、全DNAを抽出した。その後、オオイタビ親株の植物体、および、オオイタビKNOX品種変異株の植物体の葉から抽出した全DNAについてPCRを行った結果、100個のランダムプライマー(BEX、Japan)の中で、配列番号1に記載のDNA配列を有するA02対合プライマー、および、配列番号2に記載のDNA配列を有するA80対合プライマーが、オオイタビKNOX品種変異株の植物体の全DNAについて多型を示すことが確認された。すなわち、オオイタビKNOX品種変異株を電気泳動によって容易に識別できるということが確認された。
【0053】
なお、詳細には、PCRでの増幅は、50ngの鋳型DNA、1.0μMのA02またはA80対合プライマー、1×LA Taq buffer、2.5mMのMgCl
2、1.6mMのdNTP mixture(等モルのdATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)、ならびに、0.05unitsのLA Taq polymerase(全てTAKARA、Japan)を使用した。条件としては、95度3分間の変性の後、95度30秒、50度30秒および72度3分間を40サイクル行い、DNAのサンプルを増幅した。その後、PCRでの増幅生産物を1.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動によって解析し、続いてエチジウムブロマイドでの染色を行った。
【0054】
図3は、実施例に係る対合プライマーA02およびA80を用いたPCRの電気泳動結果を示す図である。左のA02および右のA80のいずれの結果でも、1ないし3のレーンはオオイタビ親株の植物体のDNAの泳動結果を示し、4ないし8のレーンはオオイタビKNOX品種変異株の植物体のDNAの泳動結果を示す。
図3に示すように、A02およびA80の対合プライマーを用い、かつ当該条件でのRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)解析によると、それぞれ、2.1kbおよび2.3kbにおいて、オオイタビ親株と比較して有益な常緑蔓性植物であるオオイタビKNOX品種変異株を迅速に識別することが可能であることを確認できた。特に、A80の対合プライマーを用いたRAPD解析によると、2.3kbにおいてかなり明白なバンドで識別できる為、より好ましい。
【0055】
本発明は、上記発明の実施の形態、ならびに、調整例および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0056】
本明細書の中で明示した論文および公開特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。