特許第5854592号(P5854592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854592
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】抗酸化剤及び抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/121 20060101AFI20160120BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20160120BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20160120BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160120BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160120BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160120BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20160120BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   A61K31/121
   A61P1/16
   A61P39/02
   A61P17/00
   A61P29/00
   A61P29/00 101
   A61P43/00 111
   A61K8/35
   A61Q19/00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-251333(P2010-251333)
(22)【出願日】2010年11月9日
(65)【公開番号】特開2012-102041(P2012-102041A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】村上 敏之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正倫
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 弘恭
(72)【発明者】
【氏名】大戸 信明
【審査官】 田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01818060(EP,A1)
【文献】 特表2007−516937(JP,A)
【文献】 特開2006−348035(JP,A)
【文献】 特開2006−225268(JP,A)
【文献】 特開2006−298887(JP,A)
【文献】 特表2008−538586(JP,A)
【文献】 米国特許第04219569(US,A)
【文献】 Toxicology,2005年,Vol.208,pp.81-93
【文献】 漢方と免疫・アレルギー,2001年,Vol.15,pp.38-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/121
A61K 8/35
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするグルタチオン産生促進剤(抗酸化の用途を除く)
【請求項2】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤(アレルギー性疾患および喘息の予防、治療または改善の用途を除く)
【請求項3】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤(アレルギー性疾患および喘息の予防、治療または改善の用途を除く)
【請求項4】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤(アレルギー性疾患および喘息の予防、治療または改善の用途を除く)
【請求項5】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤(アレルギー性疾患および喘息の予防、治療または改善の用途を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤、抗炎症剤、及びダビジゲニンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体成分を酸化させる要因として活性酸素が注目されており、生体への悪影響が問題となっている。活性酸素は、主に生体細胞内におけるエネルギー代謝過程で生じるものであり、スーパーオキサイド(すなわち酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン:・O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシラジカル(・OH)及び一重項酸素()などがある。これらの活性酸素は、好中球やマクロファージなどの食細胞による細胞内殺菌機構に関与するものであり、ウイルスや癌細胞の除去に重要な役割を果たしているが、活性酸素が過剰に生成されると、活性酸素が細胞膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、各種疾患を誘発するおそれがある。
【0003】
例えば、過酸化水素は、炎症、過酸化脂質の生成、種々のタンパク質の変性・失活及びDNAの損傷などを引き起こすことが知られており、これらが原因となって誘発される疾患として、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、各種動脈硬化症(虚血性心疾患、心筋梗塞、脳虚血、脳梗塞等)、加齢に伴う老化現象、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病等)、癌化等が知られている。
【0004】
そのため、過酸化水素によって生じる細胞障害を予防・改善して、細胞の恒常性を高めることができれば、過酸化水素による酸化ストレスが原因となって誘発される上記の疾患群を予防・改善できるものと考えられる。このような過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を有するものとして、五斂子花部の抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【0005】
また、グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンの3つのアミノ酸からなるトリペプチドであり、細胞内の主要なシステイン残基を有する化合物である。細胞内におけるグルタチオンは、ラジカルの捕捉、酸化還元による細胞機能の調節、異物代謝、各種酵素のSH供与体としての機能を果たすものであり、抗酸化成分としても知られている。その作用発現は、システイン残基に由来すると考えられている。しかしながら、過剰な酸化ストレスや異物の付加、加齢などにより、細胞内のグルタチオン量が欠乏又は低下することが報告されており、このことが細胞の酸化ストレスに対する防御能を低下させ、細胞のDNA及びタンパク質等の構成成分にダメージを与える一因であると考えられている。
【0006】
このような、細胞内のグルタチオン量の低下又は欠乏が病態と関連することが知られている疾患として、酸化ストレスが原因となって誘発される上記の疾患群のほか、肝障害(アルコールの多飲、又は重金属や化学物質等の異物の摂取が原因となる)等が知られている。
【0007】
すなわち、グルタチオンの産生を促進することは、細胞の酸化ストレスに対する防御能を高め、細胞内のグルタチオン量が低下又は欠乏することに起因する上記の疾患群を予防・治療することができると考えられる。このようなグルタチオン産生促進作用を有するものとして、テンニンカ抽出物(特許文献1参照)、クチナシ属植物の抽出物(特許文献2参照)等が知られている。
【0008】
炎症性疾患、例えば、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等の原因及び発症機構は、多種多様である。その原因として、主にマクロファージから産生される腫瘍壊死因子(以下「TNF−α」と称することもある。)によるもの、ヒスタミンの遊離によるもの、及びシクロオキシゲナーゼ−2の活性の亢進によるもの等が知られている。
【0009】
TNF−αは、腫瘍を壊死させる因子として見出されたが、最近では腫瘍に対してだけでなく、正常細胞の機能を調節するメディエーター的な役割を担うサイトカインであると考えられている。TNF−αは、炎症の初発から終息までの過程において重要な役割を担っているが、その持続的かつ過剰な産生は、皮膚を含む組織の障害を引き起こし、全身的には発熱やカケクシアの原因となり、炎症の悪化を引き起こす。したがって、病的な炎症においては、TNF−αの過剰な産生を抑制することが重要となる。このようなTNF−α産生抑制作用を有するものとして、例えば、土貝母抽出液(特許文献3参照)、マルツロシルアルギニン及びフルクトシルアルギニン(特許文献4参照)等が知られている。
【0010】
ヒスタミン遊離は、肥満細胞内のヒスタミンが細胞外に遊離する現象であり、遊離されたヒスタミンが炎症反応を引き起こす。そのため、ヒスタミン遊離を阻害又は抑制する物質により、アレルギー性疾患及び炎症性疾患を予防又は治療する試みがなされている。しかし、ヒスタミンの遊離を直接的に評価することは困難であり、ヒスタミンの遊離と同時に遊離されることが確認されているヘキソサミニダーゼの遊離を指標にヒスタミンの遊離を評価することができる。したがって、ヘキソサミニダーゼの遊離を抑制することにより、同時にヒスタミンの遊離も抑制でき、これにより炎症性疾患等の予防、治療又は改善に効果があるものと考えられる。このようなヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する植物抽出物としては、藤茶からの抽出物(特許文献5参照)等が知られている。
【0011】
また、炎症は、発赤、浮腫、発熱、痛み、機能障害等の症状を示す複雑な反応である。微視的に見ると、炎症は、血漿漏出を起こす血管反応、白血球の浸潤、炎症性細胞による組織破壊等の共通する反応からなり、発熱反応や痛覚過敏等の中枢神経系も関与する、全身反応も引き起こす場合もある。このような炎症の個々の反応には、プロスタグランジンが重要な役割を果たしており、この炎症時におけるプロスタグランジンの産生には、主として誘導型のシクロオキシゲナーゼであるシクロオキシゲナーゼ−2が関与することが明らかとなっている。
【0012】
このため、炎症反応の防止及び予防を図る目的で、アスピリンに代表される多くのシクロオキシゲナーゼ阻害剤が用いられている(非特許文献1参照)。また、シクロオキシゲナーゼ阻害作用を有する植物抽出物としては、バーベリー抽出物等が知られている(特許文献6参照)。また、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を有する化合物としては、2−フェニル−1,2−ベンズイソセレナゾール−3(2H)−オン、その塩又はその水和物等が知られている(特許文献7参照)。
【0013】
しかしながら、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用又は抗炎症作用を有し、安価である過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤に対する消費者の要望は強く、さらなる新しい過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤の開発及び提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−285422号公報
【特許文献2】特開2006−347934号公報
【特許文献3】特開2006−56854号公報
【特許文献4】特開2010−90076号公報
【特許文献5】特開2003−12532号公報
【特許文献6】特開2004−346019号公報
【特許文献7】特開2000−16935号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「薬理学アトラス」,福原武彦監訳,文光堂,1995年,p.184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用又は抗炎症作用を有する化合物を見出し、それを有効成分とする過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用に優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進作用に優れたグルタチオン産生促進剤、抗酸化作用に優れた抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用に優れた腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用に優れたヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、又はシクロオキシゲナーゼ−2阻害作用に優れたシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤、抗炎症作用に優れた抗炎症剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、下記式で表されるダビジゲニンを有効成分として含有するものである。
【0020】
【化1】
【0021】
ダビジゲニンは、合成により製造することもできるし、ダビジゲニンを含有する植物の抽出物から単離・精製することにより製造することもできる。さらに、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン(イソリクイリチゲニン)を含有する植物の抽出物を還元処理し、当該抽出物に含まれる2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンをダビジゲニンに還元した後、単離・精製することにより製造することも可能である。
【0022】
ダビジゲニンを合成により製造する場合、公知の方法により合成することができる。例えば、p−ヒドロキシベンズアルデヒドと2,4−ジヒドロキシアセトフェノンとを塩基の存在化でアルドール縮合させ、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを得る。得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンにさらに水素を添加することによりダビジゲニンを得ることができる。
【0023】
アルドール縮合反応において使用し得る溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;n−ヘキサン、ベンゼン等の炭化水素系有機溶媒;ジメチルスルホキシド等が挙げられ、これらを1種又は2種以上の混合溶媒として使用することができる。また、アルドール縮合において触媒として使用し得る塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等が挙げられる。これらの塩基は、適宜溶媒に溶解して加えても良い。アルドール縮合における反応温度は−10〜80℃であることが好ましい。反応後、再結晶などの一般的な精製手法により、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを得ることができる。
【0024】
このようにして得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンに水素を添加する方法としては、接触還元を用いることができる。接触還元において使用する溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上の混合溶媒として使用することができる。接触還元において使用し得る触媒としては、パラジウム、パラジウムカーボン、白金、酸化白金などが挙げられる。接触還元における反応温度は−10〜80℃であることが好ましい。反応後、再結晶などの一般的な精製手法により、ダビジゲニンを得ることができる。
【0025】
なお、上記の方法において、p−ヒドロキシベンズアルデヒドと2,4−ジヒドロキシアセトフェノンとに代えて、これらの化合物に存在する1又は2以上のヒドロキシル基を保護基によりあらかじめ保護した化合物を用いてアルドール縮合を行い、得られた縮合物を還元する前又は還元した後に脱保護を行うことにより、ダビジゲニンを得ることとしても良い。
【0026】
また、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを含有する植物の抽出物を還元処理し、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンをダビジゲニンに還元した後、単離・精製することにより製造する場合、以下の方法により製造することができる。この方法により、後述する好ましい生理作用を有するダビジゲニンを、天然物から安価にかつ大量に製造することが可能となる。
【0027】
2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを含有する植物としては、例えば、甘草(Glychyrrhiza属)の植物が挙げられる。2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。例えば、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0028】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出溶媒に抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができ、得られた抽出液から溶媒を留去すると濃縮物が、さらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0029】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物に還元処理を行う方法としては、接触還元を用いることができる。接触還元において使用する溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。接触還元において使用し得る触媒としては、パラジウム、パラジウムカーボン、白金、酸化白金などが挙げられ、中でもパラジウムカーボンが好ましい。また、接触還元における反応温度は−10〜80℃であることが好ましい。
【0030】
以上のようにして還元処理を行った抽出物は、そのままダビジゲニンの単離・精製を行えば良い。なお、還元処理の前後に、酸又は塩基等を用いた加水分解処理を行うことで、ダビジゲニンの収量を高めてもよい。ダビジゲニンを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を、多孔質物質や多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付すことにより、ダビジゲニンを含有する画分として得ることができる。さらに、得られた画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0031】
以上のようにして得られるダビジゲニンは、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用及び抗炎症作用を有しているため、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤及び抗炎症剤の有効成分として用いることができる。
【0032】
本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、ダビジゲニンのみからなるものでもよいし、ダビジゲニンを製剤化したものでもよい。
【0033】
本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、他の組成物(例えば,皮膚外用剤,飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0034】
本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤を製剤化した場合、ダビジゲニンの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0035】
なお、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、必要に応じて、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用又は抗炎症作用を有する他の天然抽出物等を、ダビジゲニンとともに配合して有効成分として用いることができる。
【0036】
本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0037】
また、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0038】
本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤は、有効成分であるダビジゲニンが有する過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を通じて、過酸化水素の過剰生成が病態と関連していることが知られている疾患等の治療・予防の用途に使用することができる。このような疾患として、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、各種動脈硬化症(虚血性心疾患、心筋梗塞、脳虚血、脳梗塞等)、加齢に伴う老化現象、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病等)、癌化等が挙げられる。ただし、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤は、これらの用途以外にも、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0039】
本実施形態のグルタチオン産生促進剤は、有効成分であるダビジゲニンが有するグルタチオン産生促進作用を通じて、細胞内グルタチオン量の低下又は欠乏が病態と関連することが知られている疾患等を予防、治療又は改善することができる。このような疾患として、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、各種動脈硬化症(虚血性心疾患、心筋梗塞、脳虚血、脳梗塞等)、加齢に伴う老化現象、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病等)、癌化、肝障害(アルコールの多飲、又は重金属や化学物質等の異物の摂取が原因となる)等が挙げられる。ただし、本実施形態のグルタチオン産生促進剤は、これらの用途以外にも、グルタチオン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0040】
本実施形態の抗酸化剤は、ダビジゲニンが有するグルタチオン産生促進作用及び/又は過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を通じて、酸化ストレスにより誘発される各種疾患、すなわち過酸化水素の過剰生成又は細胞内グルタチオン量の低下若しくは欠乏が病態と関連することが知られている上記の疾患群を予防・改善することができる。ただし、ダビジゲニンが有する抗酸化作用は、上記作用に基づいて発揮される抗酸化作用に限定されるものではない。
【0041】
本実施形態の腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤は、有効成分であるダビジゲニンが有する腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態の腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤は、これらの用途以外にも、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0042】
本実施形態のヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤は、ダビジゲニンが有するヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤は、これらの用途以外にもヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
本実施形態のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤は、ダビジゲニンが有するシクロオキシゲナーゼ−2阻害作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤は、これらの用途以外にもシクロオキシゲナーゼ−2阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0044】
本実施形態の抗炎症剤は、ダビジゲニンが有する腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用及びシクロオキシゲナーゼ−2阻害作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、各種炎症性疾患、すなわち接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等を予防・改善することができる。ただし、ダビジゲニンが有する抗炎症作用は、上記作用に基づいて発揮される抗炎症作用に限定されるものではない。
【0045】
また、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用又は抗炎症作用を有するため、例えば、皮膚外用剤に配合するのに好適である。
【0046】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0047】
また、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用又は抗炎症作用を有するため、例えば、飲食品に配合するのに好適である。飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0048】
さらに、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、グルタチオン産生促進作用、抗酸化作用、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2阻害作用又は抗炎症作用を有するので、線維芽細胞や細胞外マトリックス等に関連する疾患の研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0049】
なお、本実施形態の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、グルタチオン産生促進剤、抗酸化剤、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤又は抗炎症剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ、ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0051】
〔製造例1〕ダビジゲニンの製造−1
甘草の一種であるグリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)の根茎部を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgをフラスコに取り、10Lの50容量%エタノール水溶液を加え、80℃で2時間抽出した後、ろ過した。得られたろ液を40℃以下の温度で減圧下濃縮した後、40℃で減圧乾燥を行い、黄褐色粉末である甘草根茎部50%エタノール抽出物(150g)を得た。
【0052】
このようにして得られた甘草根茎部50%エタノール抽出物10gに水25mLを加えて懸濁させ、次いでエタノール25mLおよび5質量%パラジウムカーボンを加えて撹拌し、室温にて懸濁液中に水素ガスを16時間吹き込んだ。次いで、ろ過により触媒を除去し、ろ液として甘草抽出物の還元処理物(10g)を得た。
【0053】
このようにして得られた甘草抽出物の還元処理物10gに95質量%硫酸5.0mLを加え、80℃で2時間反応させた。得られた反応液を多孔性樹脂(三菱化学社製,Diaion HP−20,500mL)上に付し、水2L、エタノール2Lの順で溶出させた。エタノール2Lで溶出させた画分からエタノールを留去し、エタノール溶出画分2.5gを得た。このエタノール溶出画分2.5gをメタノール:水=60:40(容量比)の混合液に溶解し、ODS(富士シリシア化学社製,クロマトレックスODS DM1020T)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、ODSに吸着させた。移動相としてメタノール:水=60:40(容量比)を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去し、ダビジゲニン濃縮液300mgを得た。得られたダビジゲニン濃縮液を、下記の条件で液体クロマトグラフィーを用いて分画した。
【0054】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0055】
ここで、保持時間40分〜50分に溶出する画分をリサイクルHPLCにより精製を行い、精製物を得た(220mg)。得られた精製物について、13C−NMRにより分析した結果を以下に示す。
【0056】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
205.6(C=O),166.4(4’−C),166.3(2’−C),156.7(4−C),133.7(6’−C),133.2(1−C),130.4(2,5−C),116.2(3,5−C),114.1(1’−C),109.1(5’−C),103.7(3’−C),40.9(α−C),31.0(β−C)
【0057】
以上の結果から、甘草抽出物の還元処理物を多孔性樹脂により分画し、ODSにより分離し、さらに液体クロマトグラフィーにより精製して得られた精製物が、下記式で表されるダビジゲニン(試料1)であることが確認された。
【0058】
【化2】
【0059】
〔製造例2〕ダビジゲニンの製造−2
48%質量水酸化ナトリウム水溶液10mLにイオン交換水10mLを加えて希釈した。これを60℃に加熱し、撹拌しながらp−ヒドロキシベンズアルデヒド1.2gを加えて溶解し、次いで2’,4’−ジヒドロキシアセトフェノン1.5gを加えて溶解した。この反応液を60℃に加熱したまま24時間撹拌し、さらに加熱を止めて室温で48時間撹拌した。得られた反応液を氷浴上で冷却しながら、水80mLを用いて希釈した後、あらかじめ調製した10%硫酸水溶液40mLを加えて黄色結晶を析出させた。この懸濁液からろ紙を用いたろ過によって沈殿部をろ取した。ろ取した沈殿を40℃にて減圧乾燥し、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン500mgを黄色結晶として得た。
【0060】
上記の反応を繰り返すことで得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン10gを、密封可能な反応容器内でエタノール50mLに溶解し、5質量%パラジウムカーボン1.0gを加えた。この懸濁液を激しく撹拌しながら、容器内を減圧しては水素ガスを吹き込む操作を数回繰り返し、容器内を水素ガスで充満させた。反応液を4時間激しく撹拌した後に、ろ過によって触媒を除去した。得られたろ液に水100mLを加えた。析出した白色結晶をろ紙ろ過によってろ取し、これを40℃にて減圧乾燥することで白色結晶を得た(9.5g)。
【0061】
得られた白色結晶を13C−NMRにより分析したところ、試料1の結果と一致し、得られた白色結晶がダビジゲニンであることが確認された。
【0062】
〔試験例1〕過酸化水素細胞障害の予防・改善試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、下記の試験方法により過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を試験した。
【0063】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.5×10cells/mLの細胞濃度になるように5%FBS含有α−MEM培地で希釈した後、48ウェルのマイクロプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0064】
培養後、培養液を除去し、1%FBS含有α−MEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を、各ウェルに200μLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS緩衝液で洗浄し、過酸化水素を溶解したHank’s緩衝液(過酸化水素最終濃度:1mM)を200μL添加し、2時間培養した。
【0065】
また、過酸化水素を溶解していないHank’s緩衝液を200μL添加し、同様の条件で培養した。さらに、試料溶液を添加せずに培養し、培養後、過酸化水素を溶解したHank’s緩衝液を200μL添加し、同様の条件で培養した。
【0066】
培養後、400μLのPBS緩衝液で洗浄し、1%FBS含有α−MEM培地で溶解した0.05mg/mLのニュートラルレッド溶液を、200μLずつ添加し、2.5時間培養した。この後、ニュートラルレッド溶液を除去し、エタノール・酢酸溶液(エタノール:酢酸:水=50:1:49)300μLを各ウェルに加え、色素を抽出した。その後、マイクロプレートリーダーを用い540nmでの吸光度を測定し、過酸化水素障害抑制率(%)を求めた。なお、過酸化水素障害抑制率は、下記の計算式により算出した。
【0067】
過酸化水素障害抑制率(%)={1−(C−A)}/(C−B)×100
上記式において、Aは「被験試料添加・過酸化水素処理」の吸光度を、Bは「試料無添加・過酸化水素処理」の吸光度を、Cは「試料無添加・過酸化水素無処理」の吸光度を、示す。
上記試験の結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、ダビジゲニン(試料1)は、高い過酸化水素障害抑制率を示した。この結果から、ダビジゲニンは、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を有することが確認された。
【0070】
〔試験例2〕グルタチオン産生促進作用試験
製造例1により得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0071】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有α−MEM培地で希釈した後、48ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0072】
培養後、1%FBS含有α−MEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表2を参照)を各ウェルに200μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS緩衝液にて洗浄後、150μLのM−PER(PIERCE社製)を使用して細胞を溶解した。
【0073】
このうちの100μLを使用して総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1Mのリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式によりグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0074】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「被験試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示すように、ダビジゲニン(試料1)は優れたグルタチオン産生促進作用を有することが確認された。
【0077】
〔試験例3〕TNF−α産生抑制作用試験
製造例1により得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてTNF−α産生抑制作用を試験した。
【0078】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、4時間培養した。
【0079】
培養終了後、培地を抜き、終濃度2%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表3を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解したリポポリサッカライド(DIFCO社製,LPS,E.coli0111;B4)を100μL加え、24時間培養した。培養終了後、各ウェルの培養上清中のTNF−α量を、サンドイッチELISA法を用いて測定し、測定結果から下記式によりTNF−α産生抑制率(%)を算出した。
【0080】
TNF−α産生抑制率(%)={(B−A)/B}×100
式中、Aは「被験試料添加時のTNF−α量」を表し、Bは「試料無添加時のTNF−α量」を表す。
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示すように、ダビジゲニン(試料1)は、優れたTNF−α産生抑制作用を有することが確認された。
【0083】
〔試験例4〕ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用試験
製造例1により得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を試験した。
【0084】
ラット好塩基球白血病細胞(RBL−2H3)を15%FBS添加S−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を4.0×10cells/mLの細胞密度となるように15%FBS添加S−MEM培地で希釈し、終濃度0.5μg/mLとなるようにDNP-specific IgEを添加した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0085】
培養終了後、培地を抜き、シリガリアン緩衝液500μLにて洗浄を2回行った。次に、同緩衝液30μL及び同緩衝液にて調製した被験試料(試料1,試料濃度は下記表4を参照)を10μL加え、37℃にて10分間静置した。その後、100ng/mLのDNP−BSA溶液10μLを加え、37℃にて15分間静置し、ヘキソサミニダーゼを遊離させた。
【0086】
その後、96ウェルプレートを氷上に静置することにより遊離を停止した。各ウェルの細胞上清10μL及び1mMのp−NAG(p−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミニド)溶液10μLを、新たな96ウェルプレートに添加し、37℃で1時間反応させた。
【0087】
反応終了後、各ウェルに0.1MのNaCO/NaHCO250μLを加え、波長415nmにおける吸光度を測定した。また、空試験として、細胞上清10μLと、0.1MのNaCO/NaHCO250μLとの混合液の波長415nmにおける吸光度を測定し、補正した。得られた測定結果から、下記式によりヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)を算出した。
【0088】
ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)={1−(B−C)/A}×100
式中、Aは「試料無添加での波長415nmにおける吸光度」を表し、Bは「被験試料添加での波長415nmにおける吸光度」を表し、Cは「被験試料添加・p−NAG無添加での波長415nmにおける吸光度」を表す。
結果を表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4に示す結果から、ダビジゲニン(試料1)は、優れたヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することが確認された。また、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の程度は、ダビジゲニンの濃度によって調節できることが確認された。
【0091】
〔試験例5〕シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)活性阻害作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を試験した。
【0092】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、18時間培養した。
【0093】
培養終了後、すでに存在するCOX−1及び少量発現しているCOX−2をアセチル化して失活させるため、培地を500μmol/Lアスピリン含有培地に交換し、4時間培養した。細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、終濃度0.5%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表5を参照)を各ウェルに150μLずつ添加した後、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解したリポポリサッカライド(DIFCO社製,LPS,E.coli 0111;B4)を50μL添加し、24時間培養した。
【0094】
培養終了後、各ウェルの培養上清中のプロスタグランジンE(PGE)量を、PGE EIA Kit(Cayman Chemical社製)を用いて定量した。定量結果から、下記式によりシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害率(%)を算出した。
【0095】
COX−2活性阻害率(%)={1−(A−C)/(B−C)}×100
式中、Aは「被験試料添加・LPS刺激時のPGE量」を表し、Bは「試料無添加・LPS刺激時のPGE量」を表し、Cは「試料無添加・LPS無刺激時のPGE量」を表す。
結果を表5に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
表5に示すように、ダビジゲニン(試料1)は、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を有することが確認された。また、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用の程度は、ダビジゲニンの濃度によって調節できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のグルタチオン産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤及び抗酸化剤は、酸化ストレスにより誘発される各種疾患の予防又は改善に大きく貢献できる。また、腫瘍壊死因子(TNF−α)産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤及び抗炎症剤は、各種炎症性疾患の予防又は改善に大きく貢献できる。