【実施例】
【0050】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0051】
〔製造例1〕ダビジゲニンの製造−1
甘草の一種であるグリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)の根茎部を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgをフラスコに取り、10Lの50容量%エタノール水溶液を加え、80℃で2時間抽出した後、ろ過した。得られたろ液を40℃以下の温度で減圧下濃縮した後、40℃で減圧乾燥を行い、黄褐色粉末である甘草根茎部50%エタノール抽出物(150g)を得た。
【0052】
このようにして得られた甘草根茎部50%エタノール抽出物10gに水25mLを加えて懸濁させ、次いでエタノール25mLおよび5質量%パラジウムカーボンを加えて撹拌し、室温にて懸濁液中に水素ガスを16時間吹き込んだ。次いで、ろ過により触媒を除去し、ろ液として甘草抽出物の還元処理物(10g)を得た。
【0053】
このようにして得られた甘草抽出物の還元処理物10gに95質量%硫酸5.0mLを加え、80℃で2時間反応させた。得られた反応液を多孔性樹脂(三菱化学社製,Diaion HP−20,500mL)上に付し、水2L、エタノール2Lの順で溶出させた。エタノール2Lで溶出させた画分からエタノールを留去し、エタノール溶出画分2.5gを得た。このエタノール溶出画分2.5gをメタノール:水=60:40(容量比)の混合液に溶解し、ODS(富士シリシア化学社製,クロマトレックスODS DM1020T)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、ODSに吸着させた。移動相としてメタノール:水=60:40(容量比)を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去し、ダビジゲニン濃縮液300mgを得た。得られたダビジゲニン濃縮液を、下記の条件で液体クロマトグラフィーを用いて分画した。
【0054】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0055】
ここで、保持時間40分〜50分に溶出する画分をリサイクルHPLCにより精製を行い、精製物を得た(220mg)。得られた精製物について、
13C−NMRにより分析した結果を以下に示す。
【0056】
<
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
205.6(C=O),166.4(4’−C),166.3(2’−C),156.7(4−C),133.7(6’−C),133.2(1−C),130.4(2,5−C),116.2(3,5−C),114.1(1’−C),109.1(5’−C),103.7(3’−C),40.9(α−C),31.0(β−C)
【0057】
以上の結果から、甘草抽出物の還元処理物を多孔性樹脂により分画し、ODSにより分離し、さらに液体クロマトグラフィーにより精製して得られた精製物が、下記式で表されるダビジゲニン(試料1)であることが確認された。
【0058】
【化2】
【0059】
〔製造例2〕ダビジゲニンの製造−2
48%質量水酸化ナトリウム水溶液10mLにイオン交換水10mLを加えて希釈した。これを60℃に加熱し、撹拌しながらp−ヒドロキシベンズアルデヒド1.2gを加えて溶解し、次いで2’,4’−ジヒドロキシアセトフェノン1.5gを加えて溶解した。この反応液を60℃に加熱したまま24時間撹拌し、さらに加熱を止めて室温で48時間撹拌した。得られた反応液を氷浴上で冷却しながら、水80mLを用いて希釈した後、あらかじめ調製した10%硫酸水溶液40mLを加えて黄色結晶を析出させた。この懸濁液からろ紙を用いたろ過によって沈殿部をろ取した。ろ取した沈殿を40℃にて減圧乾燥し、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン500mgを黄色結晶として得た。
【0060】
上記の反応を繰り返すことで得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン10gを、密封可能な反応容器内でエタノール50mLに溶解し、5質量%パラジウムカーボン1.0gを加えた。この懸濁液を激しく撹拌しながら、容器内を減圧しては水素ガスを吹き込む操作を数回繰り返し、容器内を水素ガスで充満させた。反応液を4時間激しく撹拌した後に、ろ過によって触媒を除去した。得られたろ液に水100mLを加えた。析出した白色結晶をろ紙ろ過によってろ取し、これを40℃にて減圧乾燥することで白色結晶を得た(9.5g)。
【0061】
得られた白色結晶を
13C−NMRにより分析したところ、試料1の結果と一致し、得られた白色結晶がダビジゲニンであることが確認された。
【0062】
〔試験例1〕過酸化水素細胞障害の予防・改善試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、下記の試験方法により過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を試験した。
【0063】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.5×10
5cells/mLの細胞濃度になるように5%FBS含有α−MEM培地で希釈した後、48ウェルのマイクロプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0064】
培養後、培養液を除去し、1%FBS含有α−MEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を、各ウェルに200μLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS緩衝液で洗浄し、過酸化水素を溶解したHank’s緩衝液(過酸化水素最終濃度:1mM)を200μL添加し、2時間培養した。
【0065】
また、過酸化水素を溶解していないHank’s緩衝液を200μL添加し、同様の条件で培養した。さらに、試料溶液を添加せずに培養し、培養後、過酸化水素を溶解したHank’s緩衝液を200μL添加し、同様の条件で培養した。
【0066】
培養後、400μLのPBS緩衝液で洗浄し、1%FBS含有α−MEM培地で溶解した0.05mg/mLのニュートラルレッド溶液を、200μLずつ添加し、2.5時間培養した。この後、ニュートラルレッド溶液を除去し、エタノール・酢酸溶液(エタノール:酢酸:水=50:1:49)300μLを各ウェルに加え、色素を抽出した。その後、マイクロプレートリーダーを用い540nmでの吸光度を測定し、過酸化水素障害抑制率(%)を求めた。なお、過酸化水素障害抑制率は、下記の計算式により算出した。
【0067】
過酸化水素障害抑制率(%)={1−(C−A)}/(C−B)×100
上記式において、Aは「被験試料添加・過酸化水素処理」の吸光度を、Bは「試料無添加・過酸化水素処理」の吸光度を、Cは「試料無添加・過酸化水素無処理」の吸光度を、示す。
上記試験の結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、ダビジゲニン(試料1)は、高い過酸化水素障害抑制率を示した。この結果から、ダビジゲニンは、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を有することが確認された。
【0070】
〔試験例2〕グルタチオン産生促進作用試験
製造例1により得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0071】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10
5cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有α−MEM培地で希釈した後、48ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0072】
培養後、1%FBS含有α−MEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表2を参照)を各ウェルに200μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS緩衝液にて洗浄後、150μLのM−PER(PIERCE社製)を使用して細胞を溶解した。
【0073】
このうちの100μLを使用して総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1Mのリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式によりグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0074】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「被験試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、ダビジゲニン(試料1)は優れたグルタチオン産生促進作用を有することが確認された。
【0077】
〔試験例3〕TNF−α産生抑制作用試験
製造例1により得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてTNF−α産生抑制作用を試験した。
【0078】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10
6cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、4時間培養した。
【0079】
培養終了後、培地を抜き、終濃度2%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表3を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解したリポポリサッカライド(DIFCO社製,LPS,E.coli0111;B4)を100μL加え、24時間培養した。培養終了後、各ウェルの培養上清中のTNF−α量を、サンドイッチELISA法を用いて測定し、測定結果から下記式によりTNF−α産生抑制率(%)を算出した。
【0080】
TNF−α産生抑制率(%)={(B−A)/B}×100
式中、Aは「被験試料添加時のTNF−α量」を表し、Bは「試料無添加時のTNF−α量」を表す。
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、ダビジゲニン(試料1)は、優れたTNF−α産生抑制作用を有することが確認された。
【0083】
〔試験例4〕ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用試験
製造例1により得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を試験した。
【0084】
ラット好塩基球白血病細胞(RBL−2H3)を15%FBS添加S−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を4.0×10
5cells/mLの細胞密度となるように15%FBS添加S−MEM培地で希釈し、終濃度0.5μg/mLとなるようにDNP-specific IgEを添加した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0085】
培養終了後、培地を抜き、シリガリアン緩衝液500μLにて洗浄を2回行った。次に、同緩衝液30μL及び同緩衝液にて調製した被験試料(試料1,試料濃度は下記表4を参照)を10μL加え、37℃にて10分間静置した。その後、100ng/mLのDNP−BSA溶液10μLを加え、37℃にて15分間静置し、ヘキソサミニダーゼを遊離させた。
【0086】
その後、96ウェルプレートを氷上に静置することにより遊離を停止した。各ウェルの細胞上清10μL及び1mMのp−NAG(p−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミニド)溶液10μLを、新たな96ウェルプレートに添加し、37℃で1時間反応させた。
【0087】
反応終了後、各ウェルに0.1MのNa
2CO
3/NaHCO
3250μLを加え、波長415nmにおける吸光度を測定した。また、空試験として、細胞上清10μLと、0.1MのNa
2CO
3/NaHCO
3250μLとの混合液の波長415nmにおける吸光度を測定し、補正した。得られた測定結果から、下記式によりヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)を算出した。
【0088】
ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)={1−(B−C)/A}×100
式中、Aは「試料無添加での波長415nmにおける吸光度」を表し、Bは「被験試料添加での波長415nmにおける吸光度」を表し、Cは「被験試料添加・p−NAG無添加での波長415nmにおける吸光度」を表す。
結果を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
表4に示す結果から、ダビジゲニン(試料1)は、優れたヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することが確認された。また、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の程度は、ダビジゲニンの濃度によって調節できることが確認された。
【0091】
〔試験例5〕シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)活性阻害作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を試験した。
【0092】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10
5cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、18時間培養した。
【0093】
培養終了後、すでに存在するCOX−1及び少量発現しているCOX−2をアセチル化して失活させるため、培地を500μmol/Lアスピリン含有培地に交換し、4時間培養した。細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、終濃度0.5%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEM培地で溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表5を参照)を各ウェルに150μLずつ添加した後、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解したリポポリサッカライド(DIFCO社製,LPS,E.coli 0111;B4)を50μL添加し、24時間培養した。
【0094】
培養終了後、各ウェルの培養上清中のプロスタグランジンE
2(PGE
2)量を、PGE
2 EIA Kit(Cayman Chemical社製)を用いて定量した。定量結果から、下記式によりシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害率(%)を算出した。
【0095】
COX−2活性阻害率(%)={1−(A−C)/(B−C)}×100
式中、Aは「被験試料添加・LPS刺激時のPGE
2量」を表し、Bは「試料無添加・LPS刺激時のPGE
2量」を表し、Cは「試料無添加・LPS無刺激時のPGE
2量」を表す。
結果を表5に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
表5に示すように、ダビジゲニン(試料1)は、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を有することが確認された。また、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用の程度は、ダビジゲニンの濃度によって調節できることが確認された。