(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854872
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】キャリア付銅箔、キャリア付銅箔の製造方法、積層体及びプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20160120BHJP
C25D 1/22 20060101ALI20160120BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20160120BHJP
H05K 3/24 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/22
H05K1/09 C
H05K3/24 A
【請求項の数】18
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-30936(P2012-30936)
(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公開番号】特開2013-166995(P2013-166995A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中願寺 美里
(72)【発明者】
【氏名】永浦 友太
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−076091(JP,A)
【文献】
特開2007−186797(JP,A)
【文献】
国際公開第2002/024444(WO,A1)
【文献】
特開2007−314855(JP,A)
【文献】
特開2005−254673(JP,A)
【文献】
特開2004−169181(JP,A)
【文献】
特開2007−186782(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/001552(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/118416(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0038049(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00−7/12
H05K 1/09
H05K 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔キャリアと、銅箔キャリア上に積層された中間層と、中間層上に積層された極薄銅層とを備えたキャリア付銅箔であって、
前記中間層は、前記銅箔キャリア上に、ニッケル又はニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金と、クロムとがこの順で積層されて構成されており、
前記中間層のニッケルの付着量が1000〜40000μg/dm2、ニッケル−リン合金の付着量が1000〜40000μg/dm2、ニッケル−コバルト合金の付着量が1000〜40000μg/dm2、クロムの付着量が10〜1000μg/dm2であり、
前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のクロムの原子濃度(%)をf(x)とし、ニッケルの原子濃度(%)をg(x)とし、銅の原子濃度(%)をh(x)とし、リンの合計原子濃度(%)をi(x)とし、コバルトの原子濃度(%)をj(x)とし、酸素の原子濃度(%)をk(x)とし、炭素の原子濃度(%)をl(x)とし、その他の原子濃度(%)をm(x)とすると、
前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[0、2.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が10〜40%、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜50%であり、[2.0、6.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が40%以上を満たすキャリア付銅箔。
【請求項2】
前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[2.0、6.0]において、∫h(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜20%である請求項1に記載のキャリア付銅箔。
【請求項3】
前記極薄銅層に絶縁基板を大気中、圧力:20kgf/cm2、195℃×2時間の条件化で熱圧着させ、前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のクロムの原子濃度(%)をf(x)とし、ニッケルの原子濃度(%)をg(x)とし、銅の原子濃度(%)をh(x)とし、リンの合計原子濃度(%)をi(x)とし、コバルトの原子濃度(%)をj(x)とし、酸素の原子濃度(%)をk(x)とし、炭素の原子濃度(%)をl(x)とし、その他の原子濃度(%)をm(x)とすると、
前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[0、2.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が10〜40%、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜50%であり、[2.0、6.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が40%以上となる請求項1又は2に記載のキャリア付銅箔。
【請求項4】
前記極薄銅層に絶縁基板を大気中、圧力:20kgf/cm2、195℃×2時間の条件化で熱圧着させ、前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[2.0、6.0]において、∫h(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜30%となる請求項1〜3のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項5】
前記中間層のニッケル−リン合金のリンの濃度が0〜20質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項6】
前記中間層のニッケル−コバルト合金のコバルトの濃度が0〜65質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項7】
前記中間層のクロム層上に銅−リン合金めっき層を有し、前記銅−リン合金めっき層上に前記極薄銅層を有する請求項1〜6のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項8】
前記銅−リン合金めっき層の厚みが0.1μm以下である請求項7に記載のキャリア付銅箔。
【請求項9】
前記銅箔キャリアが電解銅箔又は圧延銅箔で形成されている請求項1〜8のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項10】
前記極薄銅層表面に粗化処理層を有する請求項1〜9のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項11】
前記粗化処理層が、銅、ニッケル、コバルト及び亜鉛からなる群から選択されたいずれかの単体又はいずれか1種以上を含む合金からなる層である請求項10に記載のキャリア付銅箔。
【請求項12】
前記粗化処理層の表面に、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する請求項10又は11に記載のキャリア付銅箔。
【請求項13】
前記極薄銅層の表面に、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する請求項1〜9のいずれかに記載のキャリア付銅箔。
【請求項14】
銅箔キャリア上に、物理蒸着法又は電気めっきにより、ニッケル層又はニッケル−リン層又はニッケル−コバルト層を形成し、前記ニッケル層又はニッケル−リン層又はニッケル−コバルト層の上にクロム層を形成することで中間層を形成する工程と、前記中間層上に電解めっきにより極薄銅層を形成する工程とを含む請求項1〜13のいずれかに記載のキャリア付銅箔の製造方法。
【請求項15】
前記中間層のクロム層の上に銅−リン合金でストライクめっきを施し、前記ストライクめっきの上に極薄銅層を形成する請求項14に記載のキャリア付銅箔の製造方法。
【請求項16】
前記極薄銅層上に粗化処理層を形成する工程をさらに含む請求項14又は15に記載のキャリア付銅箔の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれかに記載のキャリア付銅箔と絶縁基板とを有する積層体。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれかに記載のキャリア付銅箔を用いてプリント配線板を製造するプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア付銅箔及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明はファインパターン用途のプリント配線板の材料として使用されるキャリア付銅箔及びその製造方法に関する。
【0002】
プリント配線板はここ半世紀に亘って大きな進展を遂げ、今日ではほぼすべての電子機器に使用されるまでに至っている。近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い、搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められており、特にプリント配線板上にICチップを載せる場合、L/S=20/20以下のファインピッチ化が求められている。
【0003】
プリント配線板は、まず、銅箔とガラスエポキシ基板、BT樹脂、ポリイミドフィルムなどを主とする絶縁基板を貼り合わせた銅張積層体として製造される。貼り合わせは、絶縁基板と銅箔を重ね合わせて加熱加圧させて形成する方法(ラミネート法)、または、絶縁基板材料の前駆体であるワニスを銅箔の被覆層を有する面に塗布し、加熱・硬化する方法(キャスティング法)が用いられる。
【0004】
ファインピッチ化に伴って銅張積層体に使用される銅箔の厚みも9μm、さらには5μm以下になるなど、箔厚が薄くなりつつある。ところが、箔厚が9μm以下になると前述のラミネート法やキャスティング法で銅張積層体を形成するときのハンドリング性が極めて悪化する。そこで、厚みのある金属箔をキャリアとして利用し、これに剥離層を介して極薄銅層を形成したキャリア付銅箔が登場している。極薄銅層の表面を絶縁基板に貼り合わせて熱圧着した後に、キャリアを剥離層を介して剥離するというのがキャリア付銅箔の一般的な使用方法である。
【0005】
キャリア付銅箔に関する技術として、例えば特許文献1には、キャリアの表面に、拡散防止層、剥離層、電気銅めっきをこの順番に形成し、剥離層としてCrまたはCr水和酸化物層を、拡散防止層としてNi、Co、Fe、Cr、Mo、Ta、Cu、Al、Pの単体または合金を用いることで加熱プレス後の良好な剥離性を保持する方法が開示されている。
【0006】
また、剥離層としてCr、Ni、Co、Fe、Mo、Ti、W、Pまたはこれらの合金またはこれらの水和物で形成することが知られている。さらに、加熱プレス等の高温使用環境における剥離性の安定化を図る上で、剥離層の下地にNi、Feまたはこられの合金層をもうけると効果的であることが特許文献2および3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−022406号公報
【特許文献2】特開2010−006071号公報
【特許文献3】特開2007−007937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
キャリア付銅箔においては、絶縁基板への積層工程前にはキャリアから極薄銅層が剥離することは避けなければならず、一方、絶縁基板への積層工程後にはキャリアから極薄銅層が剥離できる必要がある。また、キャリア付銅箔においては、極薄銅層側の表面にピンホールが存在するのはプリント配線板の性能不良に繋がり好ましくない。
【0009】
これらの点に関して、従来技術では十分な検討がなされておらず、未だ改善の余地が残されている。そこで、本発明は、絶縁基板への積層工程前にはキャリアから極薄銅層が剥離し難い一方で、絶縁基板への積層工程後には剥離可能なキャリア付銅箔を提供することを課題とする。本発明は更に、極薄銅層側表面におけるピンホールの発生が抑制されたキャリア付銅箔を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究を重ねたところ、キャリアとして銅箔を使用し、中間層を極薄銅層とキャリアとの間に形成し、この中間層を銅箔キャリア上から順にニッケル、ニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金と、クロムとで構成すること、ニッケル、ニッケル−リン合金、ニッケル−コバルト合金及びクロムの付着量を制御すること、及び、中間層表面部分のクロム及びニッケル原子濃度を制御することが極めて効果的であることを見出した。
【0011】
本発明は上記知見を基礎として完成したものであり、一側面において、銅箔キャリアと、銅箔キャリア上に積層された中間層と、中間層上に積層された極薄銅層とを備えたキャリア付銅箔であって、
前記中間層は、前記銅箔キャリア上に、ニッケル又はニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金と、クロムとがこの順で積層されて構成されており、
前記中間層のニッケルの付着量が1000〜40000μg/dm
2、ニッケル−リン合金の付着量が1000〜40000μg/dm
2、ニッケル−コバルト合金の付着量が1000〜40000μg/dm
2、クロムの付着量が10〜1000μg/dm
2であり、
前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のクロムの原子濃度(%)をf(x)とし、ニッケルの原子濃度(%)をg(x)とし、銅の原子濃度(%)をh(x)とし、リンの合計原子濃度(%)をi(x)とし、コバルトの原子濃度(%)をj(x)とし、酸素の原子濃度(%)をk(x)とし、炭素の原子濃度(%)をl(x)とし、その他の原子濃度(%)をm(x)とすると、
前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[0、2.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が10〜40%、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜50%であり、[2.0、6.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が40%以上を満たすキャリア付銅箔である。
【0012】
本発明に係るキャリア付銅箔の一実施形態においては、前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[2.0、6.0]において、∫h(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜20%である。
【0013】
本発明に係るキャリア付銅箔の別の一実施形態においては、前記極薄銅層に絶縁基板を大気中、圧力:20kgf/cm
2、195℃×2時間の条件化で熱圧着させ、前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のクロムの原子濃度(%)をf(x)とし、ニッケルの原子濃度(%)をg(x)とし、銅の原子濃度(%)をh(x)とし、リンの合計原子濃度(%)をi(x)とし、コバルトの原子濃度(%)をj(x)とし、酸素の原子濃度(%)をk(x)とし、炭素の原子濃度(%)をl(x)とし、その他の原子濃度(%)をm(x)とすると、
前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[0、2.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が10〜40%、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜50%であり、[2.0、6.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が40%以上となる。
【0014】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記極薄銅層に絶縁基板を大気中、圧力:20kgf/cm
2、195℃×2時間の条件化で熱圧着させ、前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[2.0、6.0]において、∫h(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜30%となる。
【0015】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記中間層のニッケル−リン合金のリンの濃度が0〜20質量%である。
【0016】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記中間層のニッケル−コバルト合金のコバルトの濃度が0〜65質量%である。
【0017】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記中間層のクロム層上に銅−リン合金めっき層を有し、前記銅−リン合金めっき層上に前記極薄銅層を有する。
【0018】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記銅−リン合金めっき層がストライクめっきにより設けられている。
【0019】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記銅箔キャリアが電解銅箔又は圧延銅箔で形成されている。
【0020】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記極薄銅層表面に粗化処理層を有する。
【0021】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記粗化処理層が、銅、ニッケル、コバルト及び亜鉛からなる群から選択されたいずれかの単体又はいずれか1種以上を含む合金からなる層である。
【0022】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記粗化処理層の表面に、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する。
【0023】
本発明に係るキャリア付銅箔の更に別の一実施形態においては、前記極薄銅層の表面に、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する。
【0024】
本発明は別の一側面において、銅箔キャリア上に、物理蒸着法又は電気めっきにより、ニッケル層又はニッケル−リン層又はニッケル−コバルト層を形成し、前記ニッケル層又はニッケル−リン層又はニッケル−コバルト層の上にクロム層を形成することで中間層を形成する工程と、前記中間層上に電解めっきにより極薄銅層を形成する工程とを含む
本発明のキャリア付銅箔の製造方法である。
【0025】
本発明に係るキャリア付銅箔の製造方法は一実施形態において、前記中間層のクロム層の上に銅−リン合金でストライクめっきを施し、前記ストライクめっきの上に極薄銅層を形成する。
【0026】
本発明に係るキャリア付銅箔の製造方法は別の一実施形態において、前記極薄銅層上に粗化処理層を形成する工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るキャリア付銅箔は、絶縁基板への積層工程前にはキャリアと極薄銅層との密着力が高い一方で、絶縁基板への積層工程後にはキャリアと極薄銅層との密着性が低下し、中間層を介してキャリア/極薄銅層間で容易に剥離でき、且つ、極薄銅層側表面におけるピンホールの発生を良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例5の基板貼り合わせ前の中間層表面の深さ方向のXPSデプスプロファイルである。
【
図2】比較例3の基板貼り合わせ前の中間層表面の深さ方向のXPSデプスプロファイルである。
【
図3】実施例5の基板貼り合わせ前の極薄銅層表面の深さ方向のXPSデプスプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1.キャリア>
本発明に用いることのできるキャリアとしては銅箔を使用する。キャリアは典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で提供される。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴からチタンやステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。銅箔の材料としてはタフピッチ銅や無酸素銅といった高純度の銅の他、例えばSn入り銅、Ag入り銅、Cr、Zr又はMg等を添加した銅合金、Ni及びSi等を添加したコルソン系銅合金のような銅合金も使用可能である。なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとする。
【0030】
本発明に用いることのできるキャリアの厚さについても特に制限はないが、キャリアとしての役目を果たす上で適した厚さに適宜調節すればよく、例えば12μm以上とすることができる。但し、厚すぎると生産コストが高くなるので一般には35μm以下とするのが好ましい。従って、キャリアの厚みは典型的には12〜70μmであり、より典型的には18〜35μmである。
【0031】
<2.中間層>
銅箔キャリア上には中間層を設ける。中間層は、銅箔キャリア上に、ニッケル、ニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金と、クロムとがこの順で積層されて構成されている。ニッケルと銅との接着力はクロムと銅の接着力よりも高いので、極薄銅層を剥離する際に、極薄銅層とクロムとの界面で剥離するようになる。また、中間層のニッケルにはキャリアから銅成分が極薄銅層へと拡散していくのを防ぐバリア効果が期待される。
キャリアとして電解銅箔を使用する場合には、ピンホールを減少させる観点からシャイニー面に中間層を設けることが好ましい。なお、中間層はめっき、スパッタリング、CVD、物理蒸着等の方法を用いて設けることができる。
【0032】
中間層のうちクロム層は極薄銅層の界面に薄く存在することが、絶縁基板への積層工程前にはキャリアから極薄銅層が剥離し難い一方で、絶縁基板への積層工程後にはキャリアから極薄銅層が剥離可能であるという特性を得る上で好ましい。ニッケル、ニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金層を設けずにクロム層をキャリアと極薄銅層の境界に存在させた場合は、剥離性はほとんど向上しないし、クロム層が無く、ニッケル、ニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金層と極薄銅層とを直接積層した場合は、ニッケル、ニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金層におけるニッケル量に応じて剥離強度が強すぎたり弱すぎたりして適切な剥離強度は得られない。
【0033】
また、クロム層がキャリアとニッケル、ニッケル−リン合金又はニッケル−コバルト合金層との境界に存在すると、極薄銅層の剥離時に中間層も付随して剥離されてしまう、すなわちキャリアと中間層との間で剥離が生じてしまうので好ましくない。このような状況は、キャリアとの界面にクロム層を設けた場合のみならず、極薄銅層との界面にクロム層を設けたとしてもクロム量が多すぎると生じ得る。これは、銅とニッケルは固溶しやすいので、これらが接触していると相互拡散によって接着力が高くなり剥離しにくくなる一方で、クロムと銅は固溶しにくく、相互拡散が生じにくいので、クロムと銅の界面では接着力が弱く、剥離しやすいことが原因と考えられる。また、中間層のニッケル量が不足している場合、キャリアと極薄銅層の間には微量のクロムしか存在しないので両者が密着して剥がれにくくなる。
【0034】
中間層において、ニッケルの付着量が1000〜40000μg/dm
2、ニッケル−リン合金の付着量が1000〜40000μg/dm
2、ニッケル−コバルト合金の付着量が1000〜40000μg/dm
2、クロムの付着量が10〜1000μg/dm
2である。ニッケルの付着量、ニッケル−リン合金の付着量、又は、ニッケル−コバルト合金の付着量が増えるにつれてピンホールの量が多くなる傾向にあるが、この範囲であればピンホールの数も抑制される。極薄銅層をムラなく均一に剥離する観点、及び、ピンホールを抑制する観点からは、ニッケルの付着量を1000〜10000μg/dm
2、ニッケル−リン合金の付着量を1000〜10000μg/dm
2、ニッケル−コバルト合金の付着量を1000〜10000μg/dm
2、クロムの付着量を20〜500μg/dm
2とすることが好ましく、ニッケルの付着量を2000〜9000μg/dm
2、ニッケル−リン合金の付着量を2000〜9000μg/dm
2、ニッケル−コバルト合金の付着量を2000〜9000μg/dm
2、クロムの付着量を25〜200μg/dm
2とすることがより好ましい。
【0035】
中間層のニッケル−リン合金のリンの濃度は0〜20質量%であるのが好ましく、0〜15質量%であるのがより好ましい。また、中間層のニッケル−コバルト合金のコバルトの濃度は0〜65質量%であるのが好ましく、0〜50質量%であるのがより好ましい。このような構成によれば、ニッケル−リン合金、ニッケル−コバルト合金の表面に安定な酸化物層が形成され、その表面にクロム層を形成することでより中間層と極薄銅層間での剥離が容易になる。
【0036】
<3.ストライクめっき>
中間層の上には極薄銅層を設ける。その前に極薄銅層のピンホールを低減させるために中間層のクロム層上に銅−リン合金によるストライクめっきを行ってもよい。ストライクめっきの処理液にはピロリン酸銅めっき液などを用いることができる。このように、銅−リン合金によるストライクめっきを行ったキャリア付銅箔は、中間層表面と極薄銅層表面の両方にリンが存在することとなる。このため、中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、中間層及び極薄銅層の表面からリンが検出される。また、ストライクめっきで形成されためっき層は薄くなるため、FIBやTEM等で断面観察をし、中間層の上の銅リンめっき層の厚みが0.1μm以下である場合にはストライクめっきであると判定することができる。
【0037】
<4.極薄銅層>
中間層の上には極薄銅層を設ける。極薄銅層は、硫酸銅、ピロリン酸銅、スルファミン酸銅、シアン化銅等の電解浴を利用した電気めっきにより形成することができ、一般的な電解銅箔で使用され、高電流密度での銅箔形成が可能であることから硫酸銅浴が好ましい。極薄銅層の厚みは特に制限はないが、一般的にはキャリアよりも薄く、例えば12μm以下である。典型的には0.5〜12μmであり、より典型的には2〜5μmである。
【0038】
<5.粗化処理>
極薄銅層の表面には、例えば絶縁基板との密着性を良好にすること等のために粗化処理を施すことで粗化処理層を設けてもよい。粗化処理は、例えば、銅又は銅合金で粗化粒子を形成することにより行うことができる。粗化処理は微細なものであっても良い。粗化処理層は、銅、ニッケル、コバルト及び亜鉛からなる群から選択されたいずれかの単体又はいずれか1種以上を含む合金からなる層であってもよい。また、粗化処理をした後、または粗化処理を行わずに、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛の単体または合金で二次粒子や三次粒子及び/又は防錆層を形成し、さらにその表面にクロメート処理、シランカップリング処理などの処理を施してもよい。すなわち、粗化処理層の表面に、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を形成してもよく、極薄銅層の表面に、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を形成してもよい。
【0039】
<6.キャリア付銅箔>
このようにして、銅箔キャリアと、銅箔キャリア上に形成された中間層と、中間層の上に積層された極薄銅層とを備えたキャリア付銅箔が製造される。キャリア付銅箔自体の使用方法は当業者に周知であるが、例えば極薄銅層の表面を紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の絶縁基板に貼り合わせて熱圧着後にキャリアを剥がし、絶縁基板に接着した極薄銅層を目的とする導体パターンにエッチングし、最終的にプリント配線板を製造することができる。本発明に係るキャリア付銅箔の場合、剥離箇所は主として中間層と極薄銅層の界面である。
【0040】
本発明のキャリア付銅箔は、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のクロムの原子濃度(%)をf(x)とし、ニッケルの原子濃度(%)をg(x)とし、銅の原子濃度(%)をh(x)とし、リンの合計原子濃度(%)をi(x)とし、コバルトの原子濃度(%)をj(x)とし、酸素の原子濃度(%)をk(x)とし、炭素の原子濃度(%)をl(x)とし、その他の原子濃度(%)をm(x)とすると、
前記中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、前記中間層表面からの深さ方向分析の区間[0、2.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が10〜40%、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜50%であり、[2.0、6.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が40%以上を満たす。
また、本発明のキャリア付銅箔は、極薄銅層に絶縁基板を大気中、圧力:20kgf/cm
2、195℃×2時間の条件化で熱圧着させ、中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のクロムの原子濃度(%)をf(x)とし、ニッケルの原子濃度(%)をg(x)とし、銅の原子濃度(%)をh(x)とし、リンの合計原子濃度(%)をi(x)とし、コバルトの原子濃度(%)をj(x)とし、酸素の原子濃度(%)をk(x)とし、炭素の原子濃度(%)をl(x)とし、その他の原子濃度(%)をm(x)とすると、中間層表面からの深さ方向分析の区間[0、2.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が10〜40%、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜50%であり、[2.0、6.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が40%以上となるのが好ましい。
このように、本発明のキャリア付銅箔は、中間層/極薄銅層間で剥離させたときの中間層の最表面にクロムが一定量以上で存在し、且つ、ニッケルが最表面よりも内部で濃度が高くなっている。このため、極薄銅層側表面におけるピンホールの発生が良好に抑制される。また、熱圧着後のキャリア付銅箔においても、銅箔キャリアを極薄銅層から剥離させたときの極薄銅層最表面にクロムが一定量以上で存在し、且つ、ニッケルが最表面よりも内部で濃度が高くなっている。このため、極薄銅層側表面におけるピンホールの発生が良好に抑制される。
【0041】
本発明のキャリア付銅箔は、中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、中間層表面からの深さ方向分析の区間[2.0、6.0]において、∫h(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜20%であることが好ましい。
また、本発明のキャリア付銅箔は、極薄銅層に絶縁基板を大気中、圧力:20kgf/cm
2、195℃×2時間の条件化で熱圧着させ、中間層/極薄銅層間で剥離させたとき、中間層表面からの深さ方向分析の区間[2.0、6.0]において、∫h(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx+ ∫k(x)dx+ ∫l(x)dx+ ∫m(x)dx)が1〜30%となるのが好ましい。
このように、本発明のキャリア付銅箔は、中間層/極薄銅層間で剥離させたときの中間層の内部に銅が一定量以上で存在している。このため、中間層中の銅濃度が高くなると、中間層/極薄銅層間の密着力が高くなる。そのため、ニッケル中の銅濃度を制御することにより剥離強度を制御できる。また、熱圧着後のキャリア付銅箔においても、銅箔キャリアを極薄銅層から剥離させたときの中間層の内部に銅が一定量以上で存在している。このため、熱圧着後の極端な剥離強度の低下を防止できる。
ニッケルをキャリアに電着させる際の電流密度を高く設定して単位時間あたりの電着速度を高めるほど、またキャリア銅箔の搬送速度を速くするほど、ニッケル層の密度が低下する。ニッケル層の密度が低下すると、キャリア銅箔の銅がニッケル層に拡散しやすくなり、ニッケル中の銅の濃度を制御することができる。またクロム層は、クロムをキャリアに電着させる際の電流密度を高くし、キャリア銅箔の搬送速度を遅くするとクロムの濃度が高くなり、クロムの濃度を制御することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
1.キャリア付銅箔の製造
銅箔キャリアとして、厚さ35μmの長尺の電解銅箔(JX日鉱日石金属社製JTC)及び厚さ33μmの圧延銅箔(JX日鉱日石金属社製C1100)を用意した。この銅箔のシャイニー面に対して、以下の条件でロール・トウ・ロール型の連続ラインでキャリア表面及び極薄銅層側について順に以下の条件で表1〜4に記載の中間層形成処理を行った。キャリア表面側と極薄銅層側との処理工程の間には、水洗及び酸洗を行った。
【0044】
・Niめっき
硫酸ニッケル:250〜300g/L
塩化ニッケル:35〜45g/L
酢酸ニッケル:10〜20g/L
クエン酸三ナトリウム:15〜30g/L
光沢剤:サッカリン、ブチンジオール等
ドデシル硫酸ナトリウム:30〜100ppm
pH:4〜6
浴温:50〜70℃
電流密度:3〜15A/dm
2
【0045】
・Crめっき
液組成:無水クロム酸200〜400g/L、硫酸1.5〜4g/L
pH:1〜4
液温:45〜60℃
電流密度:10〜40A/dm
2
【0046】
・Ni−Pめっき
硫酸ニッケル:200〜300g/L
塩化ニッケル:35〜50g/L
ほう酸:30〜50g/L
亜リン酸:1〜30g/L
pH:1〜3
浴温:40〜70℃
電流密度:3〜15A/dm
2
【0047】
・Ni−Coめっき
硫酸コバルト:50〜200g/L
硫酸ニッケル:50〜200g/L
クエン酸三ナトリウム:15〜30g/L
浴温:25〜60℃
電流密度:1〜15A/dm
2
時間:1〜10秒
【0048】
・スパッタリング(Ni、Cr)
装置:ロール・トウ・ロール式スパッタリング装置(神港精機社)
到達真空度:1.0×10
-5Pa
スパッタリング圧:0.25Pa
搬送速度:15m/min
イオンガン電力:225W
スパッタリング電力:200〜3000W
ターゲット:Ni、Ni−10wt%P、Ni−10wt%Co、Cr(3N)
【0049】
引き続き、ロール・トウ・ロール型の連続めっきライン上で、中間層の上に厚さ35μmの極薄銅層を以下の条件で電気めっきすることにより形成し、キャリア付銅箔を作製した。
・極薄銅層
銅濃度:30〜120g/L
H
2SO
4濃度:20〜120g/L
電解液温度:20〜80℃
電流密度:10〜100A/dm
2
【0050】
なお、実施例1、3、7、8、11については極薄銅層の表面に以下の粗化処理、防錆処理、クロメート処理、及び、シランカップリング処理をこの順に行った。また、実施例2については極薄銅層の表面に粗化処理を行わず、以下の防錆処理、クロメート処理、及びシランカップリング処理をこの順に行った。
・粗化処理
Cu:10〜20g/L
Co:1〜10g/L
Ni:1〜10g/L
pH:1〜4
温度:40〜50℃
電流密度Dk:20〜30A/dm
2
時間:1〜5秒
Cu付着量:15〜40mg/dm
2
Co付着量:100〜3000μg/dm
2
Ni付着量:100〜1000μg/dm
2
・防錆処理
Zn:0〜20g/L
Ni:0〜5g/L
pH:3.5
温度:40℃
電流密度Dk:0〜1.7A/dm
2
時間:1秒
Zn付着量:5〜250μg/dm
2
Ni付着量:5〜300μg/dm
2
・クロメート処理
K
2Cr
2O
7
(Na
2Cr
2O
7或いはCrO
3):2〜10g/L
NaOH或いはKOH:10〜50g/L
ZnO或いはZnSO
47H
2O:0.05〜10g/L
pH:7〜13
浴温:20〜80℃
電流密度:0.05〜5A/dm
2
時間:5〜30秒
Cr付着量:10〜150μg/dm
2
・シランカップリング処理
ビニルトリエトキシシラン水溶液
(ビニルトリエトキシシラン濃度:0.1〜1.4wt%)
pH:4〜5
時間:5〜30秒
【0051】
また、実施例16については中間層の上に以下の条件で銅−リンストライクめっきを行った後に極薄銅層の形成を行った。それ以外の条件は実施例13と同様である。
・銅−リンストライクめっき
Cu
2P
2O
7・3H
2O:20〜40g/L
K
4P
2O
7:250〜350g/L
pH:8
電流密度:1.5〜2.5A/dm
2
時間:20〜40秒
【0052】
2.キャリア付銅箔の各種評価
上記のようにして得られたキャリア付銅箔について、以下の方法で各種の評価を実施した。結果を表1〜4に示す。
【0053】
<付着量の測定>
ニッケル付着量、コバルト付着量、及び、リン付着量は、サンプルを濃度20質量%の硝酸で溶解してICP発光分析によって測定し、クロム付着量はサンプルを濃度7質量%の塩酸にて溶解して、原子吸光法により定量分析を行うことで測定した。
【0054】
<XPS分析>
キャリア付銅箔の極薄銅層側を絶縁基板上に貼り合わせて、20kgf/cm
2、195℃×2時間の条件下で圧着を行った後、銅箔キャリアを極薄銅層から引き剥がした。続いて、露出した中間層表面をXPS測定し、デプスプロファイルを作成した。XPSの稼働条件を以下に示す。
・装置:XPS測定装置(アルバックファイ社、型式5600MC)
・到達真空度:3.8×10
-7Pa
・X線:単色AlKαまたは非単色MgKα、エックス線出力300W、検出面積800μmφ、試料と検出器のなす角度45°
・イオン線:イオン種Ar
+、加速電圧3kV、掃引面積3mm×3mm、スパッタリングレート2.8nm/min(SiO
2換算)
また、上記熱圧着前のキャリア付銅箔についても、銅箔キャリアを極薄銅層から引き剥がし、露出した中間層表面をXPS測定し、デプスプロファイルを作成した。
なお、中間層と極薄銅層との間で剥離したかどうかは、中間層側同様に極薄銅層側のデプスプロファイルを作成することによって確認することができる。
図3のように極薄銅層側には、中間層側の構成元素であるニッケルとクロムはほとんど検出されない。極薄銅層側表面のニッケルおよびクロムの原子濃度が各々5at%以下の場合、中間層と極薄銅層との間で剥離していると判定した。
【0055】
<ピンホール>
民生用の写真用バックライトを光源にして、目視でピンホールの数を測定した。
【0056】
<剥離強度>
キャリア付銅箔の極薄銅層側を絶縁基板上に貼り合わせて、大気中、20kgf/cm
2、195℃×2時間の条件下で圧着を行った後、剥離強度は、ロードセルにて銅箔キャリア側を引っ張り、180°剥離法(JIS C 6471 8.1)に準拠して測定した。また、絶縁基板上に貼り合わせる前のキャリア付銅箔も同様に剥離強度を測定しておいた。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
(評価結果)
実施例1〜16は、いずれもピンホールが良好に抑制されており、さらに良好な剥離強度を示した。
比較例1、2は、中間層を形成しておらず、ニッケルとクロムの付着量が少なかったため、熱圧着前でも極薄銅層からキャリアを剥離することができなかった。
比較例4は、ニッケルの付着量が少なかったため、熱圧着前でも極薄銅層からキャリアを剥離することができなかった。
比較例3、5は、クロムの付着量が少なかったため、基板との貼り合わせ後にキャリアを剥離することができなくなった。
比較例6、10はニッケルとニッケル−コバルト合金の付着量が多すぎたため、極薄銅層のピンホールが増え、剥離強度が低くなり過ぎた。
比較例7〜9、11、12は表面から0〜2nmでのクロムの濃度が高くなりすぎたため、極薄銅層のピンホールが多くなった。比較例8はNi−P合金の付着量が少ないため、相対的にクロムの濃度が高くなっている。
比較例13は、表面のニッケル濃度が高すぎたため、ピンホールが多くなり、剥離強度が低くなりすぎた。
図1及び
図2に、それぞれ、実施例5及び比較例3の基板貼り合わせ前の中間層表面の深さ方向のXPSデプスプロファイルを示す。
図3に実施例5の基板貼り合わせ前の極薄銅層表面の深さ方向のXPSデプスプロファイルを示す。
なお、極薄銅層をキャリアから剥離することができた実施例、比較例については、いずれも中間層と極薄銅層との間で剥離していた。