(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854963
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】ガラス母材延伸装置
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20160120BHJP
【FI】
C03B37/012 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-223166(P2012-223166)
(22)【出願日】2012年10月5日
(65)【公開番号】特開2014-73946(P2014-73946A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】乙坂 哲也
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−183041(JP,A)
【文献】
特開2012−180245(JP,A)
【文献】
特開昭63−176330(JP,A)
【文献】
特開昭61−281038(JP,A)
【文献】
特開2011−116592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス母材吊下げ機構、加熱炉、多層円筒からなる伸縮式トップチャンバ及びトップチャンバ吊上げ機構を備え、前記多層円筒の最外管上部にフランジを有し、前記トップチヤンバ吊上げ機構は、前記フランジを下側から支持する円筒支持部材及び該円筒支持部材を吊りあげる円筒吊上げ部材を有し、前記多層円筒の上部に上蓋が載り、該上蓋が多層円筒に固定されていないことを特徴とするガラス母材延伸装置。
【請求項2】
前記多層円筒はガラス製である請求項1に記載のガラス母材延伸装置。
【請求項3】
前記ガラス母材吊下げ機構はXYテーブルを有し、前記上蓋の上部にXY方向に摺動可能なガスシール板を有する請求項1に記載のガラス母材延伸装置。
【請求項4】
前記ガラス母材吊下げ機構及び前記トップチャンバ吊上げ機構は、単一のキャリッジに取り付けられている請求項1に記載のガラス母材延伸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮式多層円筒製トップチャンバを有する光ファイバプリフォーム等のガラス母材延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの材料となる光ファイバプリフォーム(ガラスロッド)は、より大型の光ファイバ用ガラス母材から加熱延伸して製造される。ガラス母材の延伸装置として、特許文献1には伸縮式トップチャンバを有する延伸装置が開示されている。特許文献1の方法によれば、伸縮式トップチャンバを用いることで延伸装置全体の高さが抑えられ、大型母材を延伸する装置の小型化を図ることができる。
【0003】
さらに、特許文献2には、ガラス製トップチャンバを有する延伸装置が開示されている。特許文献2によれば、ガラス製トップチャンバを用いることでガラス母材上部テーパー部の蓄熱を抑え、延伸後半の外径制御性が向上する。特許文献2には、トップチャンバとして単一ガラス管によるものと、特許文献1と類似した伸縮式の多層円筒によるものが開示されている。
【0004】
一方、延伸して得られるガラスロッドの曲がりを低減するため、特許文献3,4には、延伸中のガラス母材のXY位置を一定に保つ方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-060259号公報
【特許文献2】特開2011-116592号公報
【特許文献3】特開平09-030827号公報
【特許文献4】特開2005-104763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載された伸縮式多層ガラス円筒トップチャンバを用いた延伸装置を、
図2を用いて説明する。図中、A〜Dは、順にガラス母材601の取付け、ガラス母材吊下げ機構と伸縮式トップチャンバの組付け、引取りダミー603の溶着を示している。
延伸装置は、大きく分けて昇降機構(図において符号100番台)、ガラス母材吊下げ機構(符号200番台)、加熱炉(符号300番台)、伸縮式トップチャンバ(符号400番台)、及び引取機構(符号700番台)からなり、ここにガラス母材ワーク(符号600番台)が取り付けられている。
【0007】
昇降機構は、コラム101に取り付けられたガイドレール102及びボールネジ103を用いて、キャリッジ104の昇降を担う。キャリッジ104には、ガラス母材吊下げ機構として吊下げシャフト202及び吊下げシャフト管203が接続されており、ガラス母材601がダミー捧602を介してシャフト管203に吊下げられる。
【0008】
加熱炉は、昇降機構の下部に設置されており、カーボン製のヒーター301、カーボン製の断熱材302、水冷のメインチャンバ303、及びヒーター301及び断熱材302からの発塵からガラス母材601を隔離するためのカーボン製のマッフルチューブ304、さらに下部からの大気の侵入を防ぐための開口径を調整することができるシャッター305、図示されていない電極、及び不活性ガス導入口から構成されている。
【0009】
加熱炉の上部には、多層ガラス円筒401からなる伸縮式トップチャンバが接続されている。多層ガラス円筒401の最外管の上部にフランジ404が設けられ、吊下げシャフト管203の上部には上蓋402が載せられている(
図2[A]参照)。ガラス母材601を下降させると、フランジ404の上に上蓋402が載せられ(
図2[B])、接続金具405によって結合される(
図2[C])。
多層ガラス円筒401には、それぞれその下部に内爪407及び上部に外爪406が設けられており、昇降機構を上昇させることにより、
図2[D]に示すように、外爪406が内爪407の上に乗る形で円筒が伸ばされて行く。
【0010】
引取り機構は、自由回転する把持/解放が可能なガイドローラー701、モーターにより駆動回転する把持/解放が可能な引取りローラー(上) 702及び引取りローラー(下)703からなっている。
図2 [D]に示すように、ガラス母材601の下端を加熱炉で加熱し、そこに引取りダミー603を溶着後、昇降機構を下降しつつ引取りダミーもしくは延伸されたガラスロッドを引取り機構により引き下げることで、ガラス母材601を所望の外径のガラスロッドに延伸することができる。
【0011】
延伸の進行につれ、伸縮式トップチャンバは次第に縮み、完全に縮むと、上蓋402と加熱炉との距離が近くなり、上蓋402や接続金具405が高温になる。上蓋402は、伸縮式トップチャンバの荷重を支えているため、ガラスやセラミックスといった脆性材料よりも金属を用いる方が好ましいが、高温になったときに上部がゆがみ、フランジ404に応力がかかって破損する問題があった。
【0012】
また、接続金具405の締め付けが弱い場合、上蓋402とフランジ404の問に隙間が生じ、加熱炉で加熱されて軽くなった炉内ガスが上昇して上に抜け、抜けたガスを補うように加熱炉下部から大気が侵入し、カーボン製のマッフルチューブ304を酸化損耗させる。他方、接続金具405を強く締めすぎるとフランジ404が破損したり、前述した高温時に破損の可能性が増すため、締め具合の調整が難しいという問題があった。
【0013】
さらに、特許文献3及び特許文献4に記載されているような、ガラス母材位置のXY制御を行った場合、ガラス母材と共に伸縮式トップチャンバも動くため、多層ガラス管同士がこすれて多層ガラス管の側面にキズが入る問題もあった。
【0014】
本発明の目的は、伸縮式トップチャンバに、フランジの破損やこすれによるキズが生じることなく、かつカーボン製のマッフルチューブの酸化損耗を防止し、安全にガラス母材を延伸することができるガラス母材延伸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のガラス母材延伸装置は、ガラス母材吊下げ機構、加熱炉、多層円筒からなる伸縮式トップチャンバ及びトップチャンバ吊上げ機構を備え、前記多層円筒の最外管上部にフランジを有し、前記トップチヤンバ吊上げ機構は、前記フランジを下側から支持する円筒支持部材及び該円筒支持部材を吊りあげる円筒吊上げ部材を
有し、前記多層円筒の上部に上蓋が載り、該上蓋が多層円筒に固定されていないことを特徴としている。
なお、多層円筒はガラス製と
するのが好ましい。ガラス母材吊下げ機構はXYテーブルを有するものとし、上蓋の上部にXY方向に摺動可能なガスシール板を設けるのが好ましい。さらに、ガラス母材吊下げ機構及びトップチャンバ吊上げ機構が単一のキャリッジに取り付けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明のガラス母材延伸装置を用いることで、多層ガラス管による伸縮式トップチャンバの破損を回避して安全に吊上げることができ、マッフルチューブの損耗の可能性もなくすことができる。さらに、ガラスロッドの曲がりを低減するため、ガラス母材のXY駆動を行っても伸縮式トップチャンバにこすれによるキズを生じることがない、等の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】A〜Dは、順に本発明のガラス母材延伸装置の動作機構を示す概略縦断面図である。
【
図2】A〜Dは、順に従来のガラス母材延伸装置の動作機構を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のガラス母材延伸装置は、ガラス母材を収容する多層ガラス円筒からなる伸縮式トップチャンバを有し、多層ガラス円筒の最外管上部に設けられたフランジを、下側から支持する円筒支持部材と該円筒支持部材を吊りあげる円筒吊上げ部材からなるトップチャンバ吊上げ機構を有している。このように、多層ガラス円筒のフランジを上蓋と固定せず、フランジを下から支持することで、金属部分の熱によるゆがみによってフランジが破損することがない。
【0019】
多層ガラス円筒の上部に上蓋が載り、該上蓋を多層円筒に固定しないことで、固定金具のゆがみによって上蓋やフランジに過大な応力がかかることがなくなり、破損の危険を回避することができる。また、このとき上蓋には石英ガラスなどの脆いが実質的に熱変形をしない材料を用いることができ、加熱による変形、それによって引き起こされるフランジと上蓋の隙間の発生を抑えることができる。
【0020】
ガラス母材吊下げ機構にXYテーブルを設け、上蓋の上部にXY方向に摺動可能なガスシール板を設けたことにより、ガラス母材を伸縮式トップチャンバと独立して水平方向に駆動することができ、延伸されたガラスロッドの曲がりの低減に寄与する。
さらに、ガラス母材吊下げ機構及びトップチャンバ吊上げ機構を単一のキャリッジに取り付け、トップチャンバ吊上げ機構を個別に設けないため、装置が簡略化し、装置コストを低減することができる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明にかかるガラス母材の延伸装置の一例を示したものである。延伸装置は、大きく分けて昇降機構(符号100番台)、ガラス母材吊下げ機構(符号200番台)、加熱炉(符号300番台)、伸縮式トップチャンバ(符号400番台)、トップチャンバ吊上げ機構(符号500番台)、引取り機構(符号700番台)からなり、ここにガラス母材ワーク(符号600番台)が取り付けられている。
【0022】
昇降機構は、
図1[A]に示すように、コラム101に取り付けられたガイドレール102及びボールネジ103を用いて、キャリッジ104を昇降させるものである。
キャリッジ104には、ガラス母材吊下げ機構として吊下シャフト202及び吊下げシャフト管203が接続されており、ガラス母材601がダミー棒602を介してシャフト管203に吊下げられる。吊下げシャフト202の上端にはXYテーブル201が設置されており、これによってガラス母材の水平位置を調整することができる。
【0023】
加熱炉は、昇降機構の下部に設置されており、カーボン製のヒーター301、カーボン製の断熱材302、水冷のメインチャンバ303、ヒーター及び断熱材からの発塵からガラス母材を隔離するためのカーボン製のマッフルチューブ304、下部からの大気の侵入を防ぐための開口径を調整することができるシャッター305、及び図示されていない電極及び不活性ガス導入口から構成されている。
【0024】
加熱炉の上部には、多層ガラス円筒401からなる伸縮式トップチャンバが接続され、多層ガラス円筒401の最外管の上部にはフランジ404が設けられている。
キャリッジには、ガラス円筒吊上げ部材503が取り付けられており、その外周には複数の支柱502が下に向けて取り付けられている。
図1[B],[C]に示すように、この支柱502と、フランジ404の下方に配置したガラス円筒支持部材501を接続することによって、フランジ404の下面をガラス円筒支持部材501で持ち上げることができる。
多層ガラス円筒を構成する個々のガラス円筒には、その上部に外爪406及び下部に内爪407が設けられており、昇降機構を上昇させることで、
図1[D] に示すように、外爪406が内爪407の上に乗る形で円筒が伸びて行く。
【0025】
上蓋402は、上蓋吊り治具504を介してガラス円筒吊上げ部材503に吊下げられており、上蓋402の内径は、吊下げシャフト202の水平方向への駆動量を確保するため、吊下げシャフト202の外径よりも大きくなっている。上蓋402と吊下げシャフト202の隙間から炉内ガスが漏れたり、大気が侵入するのを防ぐため、吊下げシャフト202の外径よりわずかに大きな内径を有するガスシール板403が上蓋402に乗っており、これによってガスシール性を損なうこと無くガラス母材の水平方向への駆動を実現している。
【0026】
図1から明らかなように、上蓋402は、フランジ404上に単に乗っているだけであり、上蓋402の重量以外の固定力は働いていない。このため、上蓋402及びフランジ404に金属部材のゆがみによる過大な力が働くことはなく、上蓋402及びフランジ404の破損を回避することができる。また、上蓋402に、石英ガラスなどの耐熱性及び高温における形状安定性に優れた材質を用いることで、温度が上昇したときにも上蓋402とフランジ404の問に隙間が生じることがなく、マッフルチューブの酸化損耗を防ぐことができる。
【0027】
引取り機構は、自由回転する把持/解放が可能なガイドローラー701、モーターにより駆動回転する把持/解放が可能な引取りローラー(上) 702及び引取りローラー(下)703からなっている。
図1[D] に示すように、ガラス母材601の下端を加熱炉で加熱し、そこに引取りダミー603を溶着後、昇降機構を下降しつつ引取りダミー603もしくは延伸されたガラスロッドを引取り機構により引き下げることで、ガラス母材を所望の外径のガラスロッドに延伸することができる。
ガラス母材吊下げ機構及びトップチャンバ吊上げ機構は、単一のキャリッジ104に取り付けられており、簡略で低コストの装置となっている。
【符号の説明】
【0028】
101.コラム
102.ガイドレール
103.ボールネジ
104.キャリッジ
201.XYテーブル
202.吊下げシャフト
203.吊下げシャフト管
301.ヒーター
302.断熱材
303.メインチャンバ
304.カーボン製のマッフルチューブ
305.シャッター
401.多層ガラス円筒
402.上蓋
403.ガスシール板
404.フランジ
405.接続金具
406.外爪
407.内爪
501.円筒支持部材
502.支柱
503.ガラス円筒吊上げ部材
504.上蓋吊り治具
601.ガラス母材
602.ダミー捧
603.引取りダミー
701.ガイドローラー
702.引取りローラー(上)
703.引取りローラー(下)