特許第5855101号(P5855101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5855101マルチビニルシロキサンオリゴマーベースのポリマー分散液およびその製造方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5855101
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】マルチビニルシロキサンオリゴマーベースのポリマー分散液およびその製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 230/08 20060101AFI20160120BHJP
   C08F 220/00 20060101ALI20160120BHJP
   C08F 218/08 20060101ALI20160120BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20160120BHJP
   C08L 43/04 20060101ALI20160120BHJP
   C08F 290/00 20060101ALI20160120BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20160120BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20160120BHJP
   C09D 125/04 20060101ALI20160120BHJP
   C09D 125/10 20060101ALI20160120BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20160120BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20160120BHJP
   C09J 125/04 20060101ALI20160120BHJP
   C09J 125/10 20060101ALI20160120BHJP
   C09J 109/06 20060101ALI20160120BHJP
   C09D 109/06 20060101ALI20160120BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20160120BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   C08F230/08
   C08F220/00
   C08F218/08
   C08F212/08
   C08L43/04
   C08F290/00
   C09D183/04
   C09D133/00
   C09D125/04
   C09D125/10
   C09J183/04
   C09J133/00
   C09J125/04
   C09J125/10
   C09J109/06
   C09D109/06
   C09J11/00
   C09K3/10 G
   C09K3/10 Z
   C09K3/10 Q
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-522216(P2013-522216)
(86)(22)【出願日】2011年7月29日
(65)【公表番号】特表2013-540830(P2013-540830A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2011063110
(87)【国際公開番号】WO2012016926
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年7月28日
(31)【優先権主張番号】61/370,128
(32)【優先日】2010年8月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】アーミン ブルクハート
【審査官】 杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−134308(JP,A)
【文献】 特開平11−124467(JP,A)
【文献】 特開平04−277507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00− 19/44
C08F 6/00−301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、および
Si−O−Si主鎖と少なくとも1つのアルコキシ基とを有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーおよび1つまたはそれより多くの追加的なモノマーから誘導されたポリマー
を含む水性ポリマー分散液であって、該ポリマーがアクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含み、
前記マルチビニルシロキサンオリゴマーが、式I
【化1】
[式中、
各々のA基は独立して、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、置換または非置換のC1〜C4−アルキル、または置換または非置換のC2〜C4−アルケニルから選択され、且つ、nは1〜10の整数である]
によって表される構造を有し、且つ、
前記ポリマーが、ポリマーの乾燥質量に対して0.01質量%〜1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導される、
前記分散液。
【請求項2】
前記1つまたはそれより多くの追加的なモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、アクリロニトリル、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーを含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーが、1つより多くのメトキシ基を含む、請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
前記少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーが、1つより多くのエトキシ基を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の分散液を含む製品であって、接着剤、コーティング、膜、塗料、コーキングまたは封止材を含む、前記製品。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液の製造方法であって、
Si−O−Si主鎖および少なくとも1つのアルコキシ基を有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーとを、乳化重合によって共重合させることを含み、該ポリマーがアクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベールのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含み、
前記マルチビニルシロキサンオリゴマーが、式I
【化2】
[式中、
各々のA基は独立して、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、置換または非置換のC1〜C4−アルキル、または置換または非置換のC2〜C4−アルケニルから選択され、且つ、nは1〜10の整数である]
によって表される構造を有し、且つ、
前記ポリマーが、ポリマーの乾燥質量に対して0.01質量%〜1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導される、
前記製造方法。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液の製造方法であって、
Si−O−Si主鎖および少なくとも1つのアルコキシ基を有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーとを共重合させて水性ポリマー分散液を製造することを含み、該ポリマーがアクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベールのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含み、
前記マルチビニルシロキサンオリゴマーが、式I
【化3】
[式中、
各々のA基は独立して、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、置換または非置換のC1〜C4−アルキル、または置換または非置換のC2〜C4−アルケニルから選択され、且つ、nは1〜10の整数である]
によって表される構造を有し、且つ、
前記ポリマーが、ポリマーの乾燥質量に対して0.01質量%〜1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導される、
前記製造方法。
【請求項8】
Si−O−Si主鎖および少なくとも1つのアルコキシ基を有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くのモノマーとから誘導されるポリマーを含む製品であって、該ポリマーが、アクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含み、該製品が接着剤、コーティング、膜、塗料、コーキング、または封止材であり
前記マルチビニルシロキサンオリゴマーが、式I
【化4】
[式中、
各々のA基は独立して、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、置換または非置換のC1〜C4−アルキル、または置換または非置換のC2〜C4−アルケニルから選択され、且つ、nは1〜10の整数である]
によって表される構造を有し、且つ、
前記ポリマーが、ポリマーの乾燥質量に対して0.01質量%〜1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導される、
前記製品。
【請求項9】
さらに、1つまたはそれより多くの添加剤を含む、請求項に記載の製品。
【請求項10】
前記1つまたはそれより多くの添加剤が、可塑剤、融合助剤、中和剤、分散剤、安定剤、顔料、充填材、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の製品。
【請求項11】
前記1つまたはそれより多くの添加剤が、炭酸カルシウムを含む、請求項または10に記載の製品。
【請求項12】
前記1つまたはそれより多くの追加的なモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、アクリロニトリル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項から11までのいずれか1項に記載の製品。
【請求項13】
前記少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーが、1つより多くのメトキシ基を含む、請求項から12までのいずれか1項に記載の製品。
【請求項14】
前記少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーが、1つより多くのエトキシ基を含む、請求項から13までのいずれか1項に記載の製品。
【請求項15】
接着剤が、床材用接着剤を含む、請求項から14までのいずれか1項に記載の製品。
【請求項16】
請求項8から15までのいずれか1項に記載の製品を製造する方法であって、
水、およびSi−O−Si主鎖と少なくとも1つのアルコキシ基とを有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーおよび1つまたはそれより多くの追加的なモノマーから誘導されるポリマーを含む水性ポリマー分散液を提供すること、および、
該水性ポリマー分散液を乾燥させること
を含み、該ポリマーが、アクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含み、
前記マルチビニルシロキサンオリゴマーが、式I
【化5】
[式中、
各々のA基は独立して、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、置換または非置換のC1〜C4−アルキル、または置換または非置換のC2〜C4−アルケニルから選択され、且つ、nは1〜10の整数である]
によって表される構造を有し、且つ、
前記ポリマーが、ポリマーの乾燥質量に対して0.01質量%〜1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導される、
前記方法。
【請求項17】
前記製品が、接着剤、コーティング、膜、塗料、コーキング、または封止材を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
接着剤が、床材用接着剤を含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
ポリマー分散液は、いくつかの消費者製品を製造するために使用され得る。これらの製品の機械的特性、例えば凝集強さ、柔軟性、付着性およびバリア特性に関して測定することができる。それらの特性を高めるために、いくつかの手段が使用されている。例えば、架橋剤を分散液に添加して、製品の凝集強さを高める。しかしながら、架橋剤が凝集強度の強化をもたらすことができる一方で、それらの薬剤はしばしば、製品の他の機械的特性(例えば柔軟性)を低下させる。さらには、それらの薬剤の使用、特に大量での使用は、製品のコストにおける著しい増加をもたらす。
【0002】
概要
マルチビニルシロキサンオリゴマーベースのポリマー分散液およびそれらの製造方法および使用が、ここで記載される。マルチビニルシロキサンオリゴマーベースのポリマー分散液は、水、およびSi−O−Si主鎖と少なくとも1つのアルコキシ基とを有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーおよび1つまたはそれより多くの追加的なモノマーから誘導されるポリマーを含むことができる水性のポリマー分散液である。該ポリマーは、アクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーであってよい。いくつかの例において、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、アクリロニトリル、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーを含む。
【0003】
いくつかの例において、少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーは、1つより多くのメトキシ基および/または1つより多くのエトキシ基を含む。該ポリマーは、ポリマーの乾燥質量に対して、10質量%以下の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導され得る。例えば、該ポリマーは、ポリマーの乾燥質量に基づき、0.005質量%から5質量%、または0.01質量%から1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導され得る。いくつかの例においては、水性ポリマー分散液は、さらに界面活性剤を含んでよい。
【0004】
水性ポリマー分散液の製造方法もここで記載される。該方法は、Si−O−Si主鎖および少なくとも1つのアルコキシ基を有する少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーとを共重合させて、水性ポリマー分散液を製造することを含むことがある。いくつかの例においては、共重合は乳化重合を使用して実施される。いくつかの例においては、該方法から製造されたポリマーは、アクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含む。
【0005】
該水性ポリマー分散液を含む製品もここで記載される。例えば、水性ポリマー分散液は、接着剤(例えば床材用接着剤)、コーティング、膜、塗料、コーキング、および封止材を含む、いくつかの用途のために使用できる。いくつかの例において、該製品は、例えば可塑剤、融合助剤、中和剤、分散剤、安定剤、顔料、充填材、およびそれらの混合物を含む、1つまたはそれより多くの接着剤を含んでよい。いくつかの例において、1つまたはそれより多くの添加剤は、炭酸カルシウムを含む。該製品の製造方法もここで記載される。該方法は、水性ポリマーを提供すること、および、該水性ポリマー分散液を乾燥させることを含む。
【0006】
1つまたはそれより多くの実施態様の詳細は、以降の明細書内で述べられる。他の特徴、課題、および利点は、明細書および特許請求の範囲から明らかになる。
【0007】
詳細な説明
マルチビニルシロキサンオリゴマーベースのポリマー分散液およびそれらの製造方法および使用が、ここで記載される。マルチビニルシロキサンオリゴマーベースのポリマー分散液を、水性ポリマー分散液として製造できる。該水性ポリマー分散液は、水と、少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーおよび1つまたはそれより多くのモノマーから誘導されるポリマーとを含むことができる。例えば、該ポリマーを、少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くのアクリレートモノマー、スチレン、またはブタジエンとから誘導して、アクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを形成することができる。
【0008】
マルチビニルシロキサンオリゴマーは、Si−O−Si主鎖を含むことができる。例えば、マルチビニルシロキサンオリゴマーは、式Iによって表される構造を有することができる:
【化1】
【0009】
式Iにおいて、各々のA基は独立して、水素、ヒドロキシ、アルコキシ、置換または非置換のC1〜C4−アルキル、または置換または非置換のC2〜C4−アルケニルから選択され、且つ、nは1〜50の整数(例えば10)である。
【0010】
ここで使用される場合、「アルキル」および「アルケニル」という用語は、直鎖または分枝鎖の一価の置換基を含む。例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、ビニル、アリル、およびその種のものを含む。「アルコキシ」という用語は、酸素原子を介して分子に結合されたアルキル基を含む。例は、メトキシ、エトキシおよびイソプロポキシを含む。「置換された」という用語は、主な置換基、1つまたはそれより多くの追加的な成分、例えばOHがそれに取り付けられていることを示す。
【0011】
式I中の各々のA基は、異なった基であっても同一の基であってもよい。式Iにおいても、Si−O−Si主鎖に結合された少なくとも2つの基はビニル基である(例えば、1つまたはそれより多くのA基がビニル基であってよい)。いくつかの実施態様において、式Iの繰り返し部分における少なくとも1つのA基はビニル基である。マルチビニルシロキサンオリゴマー中の多数のビニル基の存在により、オリゴマー分子がポリマー分散液中で架橋剤として作用することが可能になる。さらには、式Iにおいて、Si−O−Si主鎖に結合された少なくとも1つの基はアルコキシ基である。例えば、1つまたはそれより多くのA基は、メトキシ基、エトキシ基、またはそれらの組み合わせであってよい(即ち、少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーが、1つより多くのメトキシ基および/またはエトキシ基を含むことができる)。いくつかの実施態様において、A基の繰り返し部分中のA基の1つはビニル基であり、且つ、他のA基はアルコキシ基である。いくつかの実施態様において、全てのA基はビニル基またはアルコキシ基のいずれかである。
【0012】
いくつかの例において、マルチビニルシロキサンオリゴマーは、構造I−Aによって表される以下の構造を有することができる:
【化2】
【0013】
構造I−Aにおいて、nは1〜50(例えば10)の整数である。適したマルチビニルシロキサンオリゴマーのさらなる例は、DYNASYLAN 6490: ビニルトリメトキシシランから誘導されるマルチビニルシロキサンオリゴマー、およびDYNASYLAN 6498: ビニルトリエトキシシランから誘導されるマルチビニルシロキサンオリゴマーを含み、両方とも、Evonik Degussa GmbH (エッセン、ドイツ)から市販されている。他の適したマルチビニルシロキサンオリゴマーは、VMM−010: ビニルメトキシシロキサンホモポリマー、およびVEE−005、ビニルエトキシシロキサンホモポリマーを含み、両方とも、Gelest, Inc.(モリスビル、PA)から市販されている。
【0014】
いくつかの例において、マルチビニルシロキサンオリゴマーを、モノエチレン性不飽和シランモノマー(例えばビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシラン)の分縮によって調製できる。該縮合は、モノエチレン性不飽和シランモノマー上のアルコキシシラン基で生じることができ、従ってビニルシラン基が不変のままで残る。
【0015】
いくつかの例において、水性ポリマー分散液中に含まれるポリマーは、ポリマーの乾燥質量に対して10質量%以下の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導される。例えば、該ポリマーは、ポリマーの乾燥質量に基づき、0.005質量%〜5質量%、または0.01質量%〜1質量%の少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーから誘導され得る。
【0016】
ここに記載される分散液中に含まれるポリマーは、マルチビニルシロキサンオリゴマーの他に、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーから誘導される。1つまたはそれより多くの追加的なモノマーは、例えばアクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、アクリロニトリル、およびそれらの混合物を含むことができる。追加的なモノマーのさらなる例は、ビニルトルエン; 共役ジエン(例えば、1,3−ブタジエンおよびイソプレン); α,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸またはそれらの無水物(例えばイタコン酸、クロトン酸、ジメタクリル酸、エチルアクリル酸、アリル酢酸、ビニル酢酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、メチレンマロン酸、シトラコン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、およびメチルマロン酸無水物); 3〜6個の炭素原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と、1〜12個の炭素原子を有するアルカノールとのエステル(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、またはイタコン酸と、C1〜C12−、C1〜C8−、またはC1〜C4−アルカノールとのエステル、例えばエチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、および2−エチルヘキシルメタクリレート、ジメチルマレエートおよびn−ブチルマレエート); アクリルアミドおよびアルキル置換アクリルアミド (例えば、(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、およびN−メチル(メタ)アクリルアミド); ジアセトンアクリルアミド; (メタ)アクリロニトリル; ハロゲン化ビニルおよびビニリデン(例えば、塩化ビニルおよび塩化ビニリデン);C1〜C18−モノカルボン酸またはジカルボン酸のビニルエステル(例えば、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル およびステアリン酸ビニル);C3〜C6−モノカルボン酸またはジカルボン酸の、特にアクリル酸、メタクリル酸 またはマレイン酸のC1〜C4−ヒドロキシアルキルエステル、またはそれらの誘導体であって2〜50モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドまたはそれらの混合物でアルコキシル化されたもの、またはそれらの酸と、C1〜C18−アルコールであって2〜50モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドまたはそれらの混合物でアルコキシル化されたものとのエステル(例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびメチルポリグリコールアクリレート); シランモノマー; およびグリシジル基を含有するモノマー(例えば、グリシジルメタクリレート)を含む。ここで使用される場合、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレートとメタクリレートとの両方を含む。
【0017】
使用できる追加的なモノマーまたはコモノマーは、直鎖の1−オレフィン、分枝鎖の1−オレフィンまたは環式オレフィン(例えばエテン、プロペン、ブテン、イソブテン、ペンテン、シクロペンテン、ヘキセン、およびシクロヘキセン); アルキル基中に1〜40個の炭素原子を有するビニルおよびアリルアルキルエーテル、ここで、該アルキル基は例えば以下のさらなる置換基を有することができる: ヒドロキシル基、アミノまたはジアルキルアミノ基、または1つまたはそれより多くのアルコキシル化基(例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ビニル4−ヒドロキシブチルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、2−(ジ−n−ブチルアミノ)エチルビニルエーテル、メチルジグリコールビニルエーテル、および相応のアリルエーテル); スルホ官能性モノマー(例えばアリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホネート、アリルオキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびそれらの相応のアルカリ金属またはアンモニウム塩、スルホプロピルアクリレートおよびスルホプロピルメタクリレート); ビニルホスホン酸、ジメチルビニルホスホネート、および他のリンモノマー; アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートまたはアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドまたはそれらの四級化生成物(例えば2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、2−(N,N,N−トリメチルアンモニウム)エチル(メタ)アクリレートクロリド、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、および3−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリルアミドクロリド); C1〜C30−モノカルボン酸のアリルエステル; N−ビニル化合物(例えばN−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾリン、N−ビニルカプロラクタム、ビニルカルバゾール、2−ビニルピリジン、および4−ビニルピリジン)を含む。
【0018】
本発明によって使用されるモノマーは、架橋モノマー、例えば、ジビニルベンゼン; 1,4−ブタンジオールジアクリレート; メタクリル酸無水物; 1,3−ジケト基含有モノマー(例えばアセトアセトキシエチル (メタ)アクリレートまたはジアセトンアクリルアミド); およびウレア基含有モノマー(例えばウレイドエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミドグリコール酸、およびメタクリルアミドグリコレートメチルエーテル); およびシラン架橋剤(例えば3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランおよび3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を含んでよい。架橋剤のさらなる例は、3〜10個の炭素原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のN−アルキロールアミド、およびそれらと1〜4個の炭素原子を有するアルコールとのエステル(例えばN−メチロールアクリルアミドおよびN−メチロールメタクリルアミド); グリオキサールベースの架橋剤; 2つのビニル基を含有するモノマー; 2つのビニリデン基を含有するモノマー; および2つのアルケニル基を含有するモノマーを含む。例示的な架橋モノマーは、二価および三価のアルコールと、α,β−モノエチレン性不飽和のモノカルボン酸とのジエステルまたはトリエステル(例えばジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート)を含み、前記カルボン酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を用いることができる。2つの非共役のエチレン性不飽和二重結合を含有するかかるモノマーの例は、アルキレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、例えばエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレートおよびプロピレングリコールジアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレートおよびメチレンビスアクリルアミドである。コポリマー中で使用される場合の架橋剤モノマーは、モノマーの総質量に対して0.2〜5質量%の量で存在できる。
【0019】
特定の理論に縛られることを意図するものではないが、ここで記載されるポリマー内でのモノマーとして、マルチビニルシロキサンオリゴマーを使用することは、ポリマー主鎖内でシロキサンクラスターを含有するポリマー構造をもたらすことができると考えられる。これは、モノエチレン性不飽和シランモノマーから誘導されたポリマーとは異なり、なぜなら、それらのポリマーはポリマー鎖全体にわたってシラン官能基が本質的にランダムに分布していることを特徴としているからであると考えられる。
【0020】
上述のとおり、ポリマーはアクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーであってよい。例えば、アクリルベースのポリマーは、マルチビニルシロキサンオリゴマー、(メタ)アクリレートモノマー、および随意に1つまたはそれより多くの追加的なモノマーから誘導できる。例えば、アクリルベースのポリマーを、50%より多く、60%より多く、70%より多く、80%より多く、または90%より多くの(メタ)アクリレートモノマーと、0%より多くから10%までのマルチビニルシロキサンオリゴマーとから誘導できる。いくつかの例において、スチレンモノマーは、アクリレートモノマーおよびマルチビニルシロキサンオリゴマーと共重合されて、スチレン−アクリルベースのコポリマーを形成する。例えば、スチレン−アクリルベースのコポリマーは、0%より多くから100%未満までのスチレン、0%より多くから100%未満までの(メタ)アクリレート、0%より多くから10%までのマルチビニルシロキサンオリゴマー、および随意に1つまたはそれより多くの追加的なモノマー(例えば10〜60%のスチレン、30〜80%の(メタ)アクリレート、0〜10%のマルチビニルシロキサンオリゴマー、および0〜10%の追加的なモノマー)を含むことができる。他の実施態様において、ポリマーは、0%より多くから100%未満までのスチレン、0%より多くから100%未満までのブタジエン、0%より多くから10%までのマルチビニルシロキサンオリゴマー、および随意に1つまたはそれより多くの追加的なモノマー(例えば10〜80%のスチレン、10〜80%のブタジエン、0〜10%のマルチビニルシロキサンオリゴマー、および0〜10%の追加的なモノマー)から誘導されるスチレン−ブタジエンベースのコポリマーであってよい。
【0021】
ここに記載されるポリマーを、フリーラジカル乳化重合を使用してモノマーを重合することによって調製できる。乳化重合温度は一般に、30℃〜95℃または75℃〜90℃である。重合媒体は、水単独、または水と、水混和性の液体、例えばメタノールとの混合物を含んでよい。いくつかの実施態様において、水が単独で使用される。乳化重合を、バッチ法、半バッチ法、または連続法のいずれかで行うことができる。典型的には、半バッチ法が使用される。いくつかの実施態様において、モノマーの一部を重合温度に加熱し、且つ、部分的に重合し、且つ、重合バッチの残りを次に、重合ゾーンに連続的に、段階的に、または濃度勾配を重ね合わせて、供給することができる。選択的に、他のヘテロ相重合法、例えばミニエマルション重合を使用することができる。重合法のさらなる例は、例えばAntonietti et al, Macromol. Chem. Phys., 204:207〜219 (2003)内に記載されるものを含み、前記はここで参照をもって開示されるものとする。
【0022】
フリーラジカル乳化重合を、フリーラジカル重合開始剤の存在中で行うことができる。本方法において使用できるフリーラジカル重合開始剤は、アルカリ金属のペルオキシ二硫酸塩およびH22、またはアゾ化合物を含む、フリーラジカル水性乳化重合を開始できる全てのものである。少なくとも1つの有機還元剤および少なくとも1つのペルオキシドおよび/またはヒドロペルオキシド、例えばtert−ブチルヒドロペルオキシドおよびヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム金属塩または過酸化水素およびアスコルビン酸を含む、混合系も使用できる。追加的に、重合媒体中で可溶性であり且つ金属成分が1よりも高い酸化状態で存在し得る少量の金属化合物、例えばアスコルビン酸/硫酸鉄(II)/過酸化水素を含有する混合系も使用でき、ここで、アスコルビン酸を、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム金属塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムまたはナトリウム金属の重亜硫酸塩によって置き換えることができ、且つ、過酸化水素を、tert−ブチルヒドロペルオキシドまたはアルカリ金属のペルオキシ二硫酸塩および/またはペルオキシ二硫酸アンモニウムによって置き換えることができる。混合系において、炭水化物由来の化合物を還元成分として使用することもできる。一般に、用いられるフリーラジカル開始剤系の量は、重合されるべきモノマーの総量に対して0.1〜2%であってよい。いくつかの実施態様において、開始剤は、単独または混合系の成分として、アンモニウムおよび/またはアルカリ金属のペルオキシ二硫酸塩(例えば過硫酸ナトリウム)である。フリーラジカル開始剤系を、フリーラジカル水性乳化重合の間に重合反応器に添加する方式は決定的ではない。開始時に全てを重合反応器に導入してもよいし、連続的または段階式に、フリーラジカル水性乳化重合の間に消費された際に添加してもよい。詳細には、これは平均的な当業者に公知の方法において、開始剤系の化学的性質と、重合温度との両方に依存する。いくつかの実施態様においては、いくらかが開始時に導入され、且つ消費された際に残りが重合に添加される。フリーラジカル水性乳化重合を、過圧または減圧下で行うことも可能である。
【0023】
粒子の安定性を含む、分散液の特定の特性を改善するために、1つまたはそれより多くの界面活性剤を含むことがある。例えば、ラウレス硫酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはスルホネート界面活性剤を使用できる。市販の界面活性剤の例は、CALFOAM ES−303 (Pilot Chemical Company; Cincinnati, OH); DOWFAX 2A1、アルキルジフェニルオキシドジスルホネート界面活性剤(Dow Chemical Company(Midland, MI)製); およびALCOSPERSE 149、ポリアクリル酸ナトリウム界面活性剤(Akzo Nobel Surface Chemistry(Chicago, IL)製)を含む。一般に、用いられる界面活性剤の量は、重合されるべきモノマーの総量に対して0.01〜5%であってよい。
【0024】
少量(モノマーの総質量に対して例えば0.01〜2質量%)の分子量調節剤、例えばメルカプタンを随意に使用できる。かかる物質は好ましくは、重合されるべきモノマーとの混合物において、重合ゾーンに添加され、且つ、コポリマー中で使用される不飽和モノマーの総量の一部としてみなされる。
【0025】
いくつかの例において、ここで記載されるポリマーは、示差走査熱量測定によって測定して−10℃〜−50℃のガラス転移温度(Tg)を有する。例えば、ポリマーのTgは、−20℃〜−40℃、−25℃〜−35℃、および−28℃〜−32℃であってよい。ここで記載される水性ポリマー分散液は、典型的には10〜95%(例えば50〜70%)のパーセンテージの固形物を含むことができる。
【0026】
いくつかの例において、水性のポリマー分散液を含む組成物はさらに、顔料、粘着剤、湿潤剤、脱泡剤、殺生剤、難燃剤およびそれらの混合物からなる群から選択される1つまたはそれより多くの添加剤を含むことができる。ポリマー分散液を含む組成物は、さらに、充填材を含むことができる。
【0027】
ここで記載される水性分散液中で使用するために適した充填材の例は、炭酸カルシウム、すりガラス/再生ガラス(例えば、窓または瓶のガラス)、ミルドガラス、ガラス球、ガラスフレーク、粘土(例えば、カオリン)、長石、マイカ、タルク、活性炭、金属および合金(例えば、ニッケル、銅、アルミニウム、ケイ素、はんだ、銀、および金)、金属めっき粒子(例えば、銀めっき銅、銀めっきニッケル、および銀めっきガラス微小球)、ゾルゲルセラミックス(例えば、ゾルゲルSiO2、TiO2またはAl23)、沈降セラミックス(例えば、SiO2、TiO2またはAl23)、フューズドシリカ、フュームドシリカ、アモルファスフューズドシリカ、アルミニウム三水和物 (ATH)、砂、土砂(ground sand)、スレート粉、クラッシャーファイン(crusher fine)、赤泥、アモルファスカーボン(例えばカーボンブラック)、ウォラストナイト、アルミナ、ベントナイト、石英、ガーネット、サポナイト、バイデライト、花こう岩、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、霞石閃長岩、パーライト、珪藻土、パイロフィライト、ソーダアッシュ、トロナ、無機繊維、およびそれらの混合物を含む。
【0028】
ポリマー分散液の製造方法もここで記載される。いくつかの実施態様において、該方法は、少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーとを乳化重合によって共重合させることを含む。他の実施態様において、該方法は、少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと、1つまたはそれより多くの追加的なモノマーとを共重合させて、水性ポリマー分散液を製造することを含み、該ポリマーは、アクリル酸ベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含む。
【0029】
ここで記載される水性ポリマー分散液は、製品、例えば接着剤、コーティング、膜、塗料、コーキング、または封止材を含む製品内で使用することができる。いくつかの例において、該製品は、1つまたはそれより多くの添加剤を含む。製品中に含めるために適した添加剤の例は、可塑剤、融合助剤、中和剤、分散剤、安定剤、顔料、充填材(例えば炭酸カルシウム)、粘着剤、増粘剤、脱泡剤、湿潤剤、およびそれらの混合物を含む。いくつかの実施態様において、該製品は、フロアカバーの結合のために使用される床材用接着剤である。
【0030】
該製品は、水、および少なくとも1つのマルチビニルシロキサンオリゴマーと1つまたはそれより多くの追加的なモノマーとから誘導されるポリマーを含む水性ポリマー分散液を提供し、且つ、該水性ポリマー分散液を乾燥させることによって製造でき、ここで、該ポリマーはアクリルベースのポリマー、スチレン−アクリルベースのコポリマー、またはスチレン−ブタジエンベースのコポリマーを含む。
【0031】
ここで記載される方法によって製造される製品は、マルチビニルシロキサンオリゴマー含有ポリマーを用いないで製造された製品(例えば、重合工程におけるモノマーとしてモノエチレン性不飽和シランを使用して製造された製品)と比較して改善された機械的特性を有する。例えば、ここで記載される方法によって製造された製品は、少量のマルチビニルシロキサンオリゴマー(例えば0.2%)が使用された場合でも、マルチビニルシロキサンオリゴマーを用いずに製造されたポリマー製品と比較して高められた引っ張り強度を示す。
【0032】
以下の実施例は、ここに記載される方法および組成物の特定の態様をさらに説明することが意図されており、且つ、特許請求の範囲を限定することを意図しているわけではない。
【0033】
実施例
実施例1および比較例1〜2
水性ポリマー分散液の製造:
実施例1を、水205.3g、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の40%水溶液0.07g、およびアスコルビン酸0.7gを反応容器中で混合し、且つ、該混合物を90℃に加熱することによって製造した。水114.4gおよび過硫酸ナトリウム8.6gの開始剤原料から、10%を取り出し、且つ、反応混合物に添加した。引き続き、以下の3つの別途の原料を、一定の供給速度で以下のように添加した: (a) 開始剤原料の残りを、3.75時間のうちに添加した; (b) 水184.9g、15%の水性ラウリル硫酸ナトリウム53.0g、90%の水性LUTENSOL TDA−8 5.9g、10%の水性水酸化ナトリウム53.0g、t−ドデシルメルカプタン0.8g、エトキシ置換マルチビニルシロキサンオリゴマー(オリゴ−VTES)2.7g、スチレン91.4g、アクリル酸22.5g、およびn−ブチルアクリレート1148.8gからなるモノマーエマルション混合物原料23.4gを15分のうちに添加し、引き続き、他の70.3gを15分のうちに添加し、且つ、その残りを3.0時間のうちに添加した; 且つ、(c) 30分の遅延時間後、アクリロニトリル59.6gを2.5時間のうちに添加した。モノマーエマルション原料中で、モノマーの総質量に対して存在するエトキシ置換マルチビニルシロキサンオリゴマーの量は0.2%である。供給の時間全体の間、温度は90℃に保持された。供給段階の後、モノマーエマルションの容器を15.9gの水でフラッシングし、且つ、温度を85℃に低下させた。該分散液を、以下の2つの混合物を別々の原料として2時間にわたって添加することにより、後ストリッピングした: (a) 70%のtert−ブチルヒドロペルオキシド溶液6.5gおよび水33.5g、および(b) メタ重亜硫酸ナトリウム4.5g、アセトン2.6g、および水32.9g。その後、該ラテックスを冷却し、且つ、随意に後添加物(例えば殺生剤)を添加して実施例1を形成した。実施例1は、水性分散液の質量に対して65.2%の総固形物含有率、pH4.4、粘度491cps、およびTg−31℃を有する。
【0034】
比較例1を、モノマーエマルション混合物原料がオリゴマーのエトキシ置換マルチビニルシロキサンを含まないこと以外、実施例1に記載されたとおりに製造した。比較例1は、水性分散液の質量に対して66.4%の総固形物含有率、pH5.6、および粘度588cpsを有する。
【0035】
比較例2を、0.2%のオリゴマーのエトキシ置換マルチビニルシロキサンを0.2%のモノビニルトリエトキシシラン(VTES)で置き換えること以外、実施例1に記載されたとおりに製造した。比較例2は、水性分散液の質量に対して65.7%の総固形物含有率、pH4.6、および粘度136cpsを有する。
【0036】
膜の製造、および引っ張り強度、伸び、および動的機械温度分析測定:
実施例1、比較例1および比較例2を、水を用いて、40%の総固形物含有率に希釈し、且つ、膜をテフロン鋳型内にて、目標乾燥膜厚20ミルでキャストした。該膜を10日間、制御された温度および湿度の雰囲気中で乾燥させた(23℃、および相対湿度50%)。その後、該膜を50℃で、24時間または96時間のいずれかで硬化させた。該膜の引っ張りおよび伸び特性を、Instron (Instron Corp., Norwood, MA)によって、クロスヘッド速度設定7.9in/分且つギャップサイズ1インチで測定した。膜の試料を、幅0.1575インチのドックボーンに成形した。動的機械温度分析(DMTA)測定を、温度100℃および200℃で実施した。
【0037】
50℃で24時間および96時間硬化された膜の機械的特性を表1において比較する。これらの結果は、マルチビニルシロキサンオリゴマー含有ポリマーから製造された膜の引っ張り強度および複素弾性率が、モノビニルシラン含有ポリマーから、またはシランを除外したポリマーから製造された膜よりも高いことを実証する。
【0038】
【表1】
a. 50℃で24時間硬化させたポリマー膜; b. 50℃で96時間硬化させたポリマー膜。
【0039】
実施例2および比較例3
実施例2を、モノマーエマルション混合物中で使用されるオリゴ−VTESの量をモノマーの総質量に対して0.3%に増加したこと以外、実施例1に記載されたとおりに製造した。実施例2は、水性分散液の質量に対して65.3%の総固形物含有率、pH4.7、粘度193cps、およびTg−30℃を有する。比較例3を、モノマーエマルション混合物中で使用されるVTESの量をモノマーの総質量に対して0.3%に増加したこと以外、比較例2に記載されたとおりに製造した。比較例3は、水性分散液の質量に対して65.5%の総固形物含有率、pH4.8、および粘度172cpsを有する。50℃で24時間および96時間硬化された膜の機械的特性を表2において比較する。実施例1と同様に、それらの結果は、マルチビニルシロキサンオリゴマー含有ポリマーから製造された膜の引っ張り強度および複素弾性率が、モノビニルシラン含有ポリマーから製造された膜よりも高いことを実証する。
【0040】
【表2】
a. 50℃で24時間硬化させたポリマー膜; b. 50℃で96時間硬化させたポリマー膜。
【0041】
実施例3および比較例4
実施例3を、0.3%のオリゴマーのメトキシ置換マルチビニルシロキサン(即ち、オリゴVTMS)をモノマーエマルション混合物中で0.3%のオリゴ−VTESの代わりに使用したこと以外、実施例2において記載されたとおりに製造した。実施例3は、水性分散液の質量に対して65.2%の総固形物含有率、pH4.8、および粘度155cpsを有する。比較例4を、0.3%のモノビニルトリメトキシシラン(VTMS)をモノマーエマルション混合物中でVTESの代わりに使用したこと以外、比較例3において記載されたとおりに製造した。比較例4は、水性分散液の質量に対して66.6%の総固形物含有率、pH4.8、および粘度187cpsを有する。50℃で24時間および96時間硬化された膜の機械的特性を表3において比較する。実施例1および2において示されたように、それらの結果はさらに、マルチビニルシロキサンオリゴマー含有ポリマーから製造された膜の引っ張り強度および複素弾性率が、モノビニルシラン含有ポリマーから製造された膜よりも高いことを実証する。
【0042】
【表3】
a. 50℃で24時間硬化させたポリマー膜; b. 50℃で96時間硬化させたポリマー膜。
【0043】
実施例4および比較例5
実施例4を、モノマーエマルション混合物中で使用されるオリゴ−VTESの量をモノマーの総質量に対して0.6%に増加したこと以外、実施例2に記載されたとおりに製造した。実施例4は、水性分散液の質量に対して65.5%の総固形物含有率、pH4.5、および粘度108cpsを有する。比較例5を、モノマーエマルション混合物中で使用されるVTESの量をモノマーの総質量に対して0.6%に増加したこと以外、比較例3に記載されたとおりに製造した。比較例5は、水性分散液の質量に対して65.7%の総固形物含有率、pH4.7、粘度420cps、およびTg−29℃を有する。実施例4から製造された膜の、50℃、96時間の硬化後の引っ張り強度および伸びのデータは測定されなかった。さらに、複素弾性率のデータは実施例4の膜については測定されなかった。50℃で24時間および96時間硬化された比較例5の膜の機械的特性、および50℃で24時間硬化された実施例4についての膜の引っ張り強度および伸びのデータを、表4において比較する。先の実施例において示されたように、それらの結果は、マルチビニルシロキサンオリゴマー含有ポリマーから製造された膜の引っ張り強度および複素弾性率が、モノビニルシラン含有ポリマーから製造された膜よりも高いことを実証する。
【0044】
【表4】
a. 50℃で24時間硬化させたポリマー膜; b. 50℃で96時間硬化させたポリマー膜。
【0045】
比較例5および実施例1
比較例5から製造された膜(0.6%のVTESを用いた)および実施例1から製造された膜(0.2%のオリゴ−VTESを用いた)を、感圧性接着剤として使用するために、ステンレス鋼上での剪断値(shear value)について試験した。実施例1は、17000分より大きい剪断値を有した一方で、比較例5は同一の実験条件下で7000分の剪断力価しか有さなかった。これらの結果は、少量のマルチビニルシロキサンオリゴマーは、多量のモノビニルシロキサンモノマーよりも効果的であり得ることを実証する。
【0046】
結果としてモノビニルシランモノマー、例えばVTESおよびVTMSを、等しい、またはより低い重量ベースおける多数のビニル基を有するオリゴマーのもので置き換えることにより、誘導されたポリマー膜の凝集強さの強化がもたらされることが示された。
【0047】
添付の特許請求の範囲の分散液、製品および方法は、ここに記載される特定の分散液、製品および方法による範囲に限定されず、ここに記載される特定の分散液、製品および方法は特許請求の範囲のいくつかの態様の説明として意図されており、且つ、機能的に等価である全ての分散液、製品および方法が、特許請求の範囲内であることが意図されている。ここに示され且つ記載されたものの他に、分散液、製品および方法の様々な変更物が、添付の特許請求の範囲内であることが意図されている。さらには、ここで開示された一定の代表的な分散液材料および方法段階のみが特に記載されている一方で、分散液材料および方法段階の他の組み合わせも、特に述べられていなくても、添付の特許請求の範囲内であることが意図されている。従って、段階、要素、成分または構成要素の組み合わせは、ここで明確に言及されていていることもあるが、しかし、段階、要素、成分または構成要素の他の組み合わせが、明示的に述べられていなくても含まれる。ここで使用される用語「含む(comprising)」およびその変化形は、用語「含む(including)」およびその変化形と同義的に使用されており、且つ、開放型の、限定されない用語である。用語「含む(comprising)」および「含む(including)」は、ここで、様々な態様を記載するために使用されているのだが、用語「本質的に〜からなる」および「からなる」は、「含む(comprising)」および「含む(including)」の代わりに使用されて本発明のより特定の態様を提供することができ、且つ、それも開示されている。