特許第5859332号(P5859332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5859332
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月10日
(54)【発明の名称】電池廃材からの活物質の回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20160128BHJP
   H01M 6/52 20060101ALI20160128BHJP
【FI】
   H01M10/54
   H01M6/52
【請求項の数】21
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2012-22000(P2012-22000)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2012-186150(P2012-186150A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-30147(P2011-30147)
(32)【優先日】2011年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
(72)【発明者】
【氏名】松本 慎吾
【審査官】 松尾 俊介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−206132(JP,A)
【文献】 特開2005−026088(JP,A)
【文献】 特開2005−011698(JP,A)
【文献】 特開2006−004884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
H01M 6/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含むことを特徴とする、電池廃材からの活物質の回収方法。
(1)電池廃材から電極を分離し、該電極から活物質、導電材および結着材を含む電極合材を回収する電極合材回収工程
(2)回収した電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する活性化処理剤混合工程
(3)得られた混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、該混合物中に含まれる活物質を活性化する活性化処理工程
(4)活性化処理工程後、冷却して得られる混合物から活性化した活物質を回収する活物質回収工程
【請求項2】
前記活物質が、正極活物質である請求項1に記載の活物質の回収方法。
【請求項3】
前記正極活物質が、非水二次電池の正極活物質である請求項2に記載の活物質の回収方法。
【請求項4】
前記活物質が、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物である請求項2または3に記載の活物質の回収方法。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、Ca、Sr、Ba、Mg
【請求項5】
元素群2から選ばれる元素が、Liである請求項4に記載の活物質の回収方法。
【請求項6】
前記活物質の比表面積が5m2/g以上100m2/g以下である請求項1から5のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項7】
前記活性化処理剤に含まれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物が、前記活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含む請求項1から6のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項8】
前記活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物である請求項1から7のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項9】
前記水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物および超酸化物からなる群より選ばれる1種以上である請求項8に記載の活物質の回収方法。
【請求項10】
前記電極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材であって、かつ、
前記活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、活性化処理工程の保持温度において、前記炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物である請求項1から9のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項11】
前記酸化力を有するアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩およびモリブデン酸塩からなる群より選ばれる1種以上である請求項10に記載の活物質の回収方法。
【請求項12】
活性化処理剤混合工程において、前記活性化処理剤の添加量が、前記電極合材に含まれる活性化処理前の活物質の重量に対して、0.001〜100倍である請求項1から11のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項13】
前記電極合材に含まれる導電材が、比表面積が30m2/g以上の炭素系導電材のみからなる請求項1から12のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項14】
前記炭素系導電材がアセチレンブラックである請求項13に記載の活物質の回収方法。
【請求項15】
活物質回収工程が、
活性化処理工程後に得られる混合物に溶媒を加えてスラリーとするスラリー化工程と、
該スラリーを固相と液相とに分離する固液分離工程と、
固液分離後の固相を乾燥する乾燥工程と、
を含む請求項1から14のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項16】
さらに、固液分離後に得られた液相からフッ素成分を回収する工程を含む請求項15に記載の活物質の回収方法。
【請求項17】
さらに、固液分離後に得られた液相からアルカリ金属成分を回収する工程を含む請求項15または16に記載の活物質の回収方法。
【請求項18】
活物質回収工程が、
加熱により活物質以外の成分を気化して、活性化処理工程後に得られる混合物から活物質以外の成分を除去することにより、活物質を回収する工程である請求項1から14のいずれかに記載の活物質の回収方法。
【請求項19】
活物質回収工程において、活物質以外の成分を気化させる温度が、活性化処理工程における保持温度よりも高い請求項18に記載の活物質の回収方法。
【請求項20】
さらに、活物質以外の成分を気化させて生成した気体を冷却して得られた成分に溶媒を加えて得られた溶液から、フッ素成分を回収する工程を含む請求項18または19に記載の活物質の回収方法。
【請求項21】
さらに、フッ素成分を回収後の前記溶液から、アルカリ金属成分を回収する工程を含む請求項20に記載の活物質の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池廃材からの活物質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の活物質にはコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分が含有されており、特に非水電解質二次電池の正極活物質には、上記の希少金属成分を主成分とする化合物が利用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から、希少金属成分を回収する方法が求められている。
【0003】
従来から提案されている電池廃材から希少金属成分を回収し、再利用する方法として、集電体と電極合材からなる電極を、もしくは集電体から剥離した電極合材を、前記の希少金属成分を溶解する溶液に浸すことで、希少金属成分を溶液に抽出し、得られた溶液から不溶分を濾過して除去させて、そして希少金属成分を含む溶液のpHを調整することにより、希少金属の水酸化物や炭酸塩を析出させ回収することで活物質の原料を回収する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
この方法により回収された希少金属成分の水酸化物、炭酸塩、塩化物は再び活物質の原料として再利用される。
【0004】
しかしながら、希少金属成分を溶解し、析出させるためには、希少金属成分を溶解できる溶液と、さらにそれを析出させるための薬剤が必要となる。また水溶液への溶解度が大きなリチウムを析出させることは工業的に困難である。さらには遷移金属成分を析出させるために、ナトリウムやカリウムなどの他のアルカリ金属元素が含まれ薬剤を添加して、pH調整をすると該アルカリ金属元素とリチウムとを分離することは工業的に困難である。そのため、リチウムを単離して、回収することは工業的に実質困難である。さらには使用した溶液および薬剤の廃液が発生することから、その処理が必要になる。また回収された活物質の原料を活物質として再利用するためには、電池廃材から活物質の原料を回収する工程に加えて、さらに該活物質の原料から活物質を製造する工程が必要になる。そのため活物質の原料から活物質を製造するための製造コストや製造エネルギーを必要とすることになり、経済性および省エネルギーの観点で問題となる。
【0005】
一方、活物質の原料からの活物質の製造工程を経ることなしに、電池廃材から活物質を直接回収する方法が提案されている。
例えば、特許文献2には、電極を構成する活物質、導電材、結着材のうち、結着材のみを溶解する作用を有する溶剤として、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという場合がある。)やNMPを含む混合溶剤などの溶剤に、電極を浸漬することにより、結着材を溶剤に溶解して、集電体から活物質と導電材との混合物を分離回収し、さらに該混合物を焼成して導電材を燃焼することで、活物質を回収し、該活物質を再び二次電池の活物質として再利用する方法が開示されている。
活物質を溶解させ、それぞれの構成元素を含む溶液として再利用するのではなく、直接回収して、活物質として再利用できれば、活物質を直接回収できることから、活物質の原料からの活物質の製造工程にかかる製造コストや製造エネルギーが不要となるため、従来から提案されている電池廃材から活物質の原料を回収し、該活物質の原料から活物質を製造して再利用する方法よりも有利である。
しかしながら、特許文献2の電池廃材から活物質を回収し再利用する方法では、結着材を溶解するために、電極を浸漬する有機溶剤が必要になるとともに、使用した有機溶剤の廃液の処理が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3676926号公報
【特許文献2】特開2010−34021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況下、本発明の目的は、活物質の原料から活物質を製造するのに必要な製造コストや製造エネルギーを必要とせずに、かつ電池廃材からの活物質の回収に有機溶剤を使用せずに、電池廃材から活物質を直接回収することを特徴とする電池廃材からの活物質の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 下記工程を含む、電池廃材からの活物質の回収方法。
(1)電池廃材から電極を分離し、該電極から活物質、導電材および結着材を含む電極合材を回収する電極合材回収工程
(2)回収した電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する活性化処理剤混合工程
(3)得られた混合物を前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、該混合物中に含まれる活物質を活性化する活性化処理工程
(4)活性化処理工程後、冷却して得られる混合物から活性化した活物質を回収する活物質回収工程
<2> 前記活物質が、正極活物質である前記<1>に記載の活物質の回収方法。
<3> 前記正極活物質が、非水二次電池の正極活物質である前記<2>に記載の活物質の回収方法。
<4> 前記活物質が、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物である前記<2>または<3>に記載の活物質の回収方法。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、Ca、Sr、Ba、Mg
<5> 元素群2から選ばれる元素が、Liである前記<4>に記載の活物質の回収方法。
<6> 前記活物質の比表面積が5m2/g以上100m2/g以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<7> 前記活性化処理剤に含まれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物が、前記活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含む前記<1>から<6>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<8> 前記活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物である前記<1>から<7>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<9> 前記水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物および超酸化物からなる群より選ばれる1種以上である前記<8>に記載の活物質の回収方法。
<10> 前記電極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材であって、かつ、
前記活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、活性化処理工程の保持温度において、前記炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物である前記<1>から<9>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<11> 前記酸化力を有するアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩およびモリブデン酸塩からなる群より選ばれる1種以上である前記<10>に記載の活物質の回収方法。
<12> 活性化処理剤混合工程において、前記活性化処理剤の添加量が、前記電極合材に含まれる活性化処理前の活物質の重量に対して、0.001〜100倍である前記<1>から<11>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<13> 前記電極合材に含まれる導電材が、比表面積が30m2/g以上の炭素系導電材のみからなる前記<1>から<12>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<14> 前記炭素系導電材がアセチレンブラックである前記<13>に記載の活物質の回収方法。
<15> 活物質回収工程が、
活性化処理工程後に得られる混合物に溶媒を加えてスラリーとするスラリー化工程と、
該スラリーを固相と液相とに分離する固液分離工程と、
固液分離後の固相を乾燥する乾燥工程と、
を含む前記<1>から<14>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<16> さらに、固液分離後に得られた液相からフッ素成分を回収する工程を含む前記<15>に記載の活物質の回収方法。
<17> さらに、固液分離後に得られた液相からアルカリ金属成分を回収する工程を含む前記<15>または<16>に記載の活物質の回収方法。
<18> 活物質回収工程が、
加熱により活物質以外の成分を気化して、活性化処理工程後に得られる混合物から活物質以外の成分を除去することにより、活物質を回収する工程である前記<1>から<14>のいずれかに記載の活物質の回収方法。
<19> 活物質回収工程において、活物質以外の成分を気化させる温度が、活性化処理工程における保持温度よりも高い前記<18>に記載の活物質の回収方法。
<20> さらに、活物質以外の成分を気化させて生成した気体を冷却して得られた成分に溶媒を加えて得られた溶液から、フッ素成分を回収する工程を含む前記<18>または<19>に記載の活物質の回収方法。
<21> さらに、フッ素成分を回収後の前記溶液から、アルカリ金属成分を回収する工程を含む前記<20>に記載の活物質の回収方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の回収方法によれば、有機溶剤を使用せずに、電池廃材から活物質を直接回収することができる。さらに、本発明の回収方法では、電池廃材から活物質を失活させることなく回収することができ、さらに回収される活物質への活性化処理が施されるので、当該活物質を用いて作製される電池の放電容量は、未利用活物質に匹敵する性能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、炭素を酸化するために必要な酸化力とアルカリ金属化合物(ナトリウム化合物)が有する酸化力との関係を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の温度依存性を示す図である。
図2図2は、炭素を酸化するために必要な酸化力とアルカリ金属化合物(過酸化物、超酸化物)が有する酸化力との関係を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の温度依存性を示す図である。
図3図3は、炭素を酸化するために必要な酸化力とアルカリ金属化合物(硫酸塩)が有する酸化力との関係を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0013】
本発明は、下記工程を含む、電池廃材からの活物質の回収方法に関するものである。
(1)電池廃材から電極を分離し、該電極から活物質、導電材および結着材を含む電極合材を回収する電極合材回収工程
(2)回収した電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する活性化処理剤混合工程
(3)得られた混合物を、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、該混合物中に含まれる活物質を活性化する活性化処理工程
(4)活性化処理工程後、冷却して得られる混合物から活性化した活物質を回収する活物質回収工程
【0014】
通常、活物質は、電極合材に含まれる導電材および結着材と共に高温に加熱すると導電材および結着材に含まれる炭素やフッ素等の成分の作用によって失活する傾向にある。
本発明の回収方法の工程(3)において、回収した電極合材と上記活性化処理剤との混合物を加熱すると、該混合物に含まれる活性化処理剤が融解して液相を形成する該液相を形成する融解したアルカリ金属化合物と活物質が接触する。
融解したアルカリ金属化合物は、活性な活物質が安定となる溶融反応場を提供し、導電材および結着材と共に活物質を加熱しても失活することを回避することができる。その結果、回収される活物質を用いて作製される電池の放電容量は、未利用活物質に匹敵する性能となる。ここで、「電池の放電容量」とは、当該活物質を含む電極を備えた電池における、電極に起因する放電容量をいう。
さらに、融解したアルカリ金属化合物は、導電材や結着材に含まれる炭素材料や炭素含有化合物の分解を促進する作用を有する。
また、電極合材にフッ素含有高分子化合物である結着材やフッ化リン酸塩を含有する電解液由来のフッ素化合物が含まれていると、加熱することにより、フッ化水素などの腐食性ガスを発生するおそれがあるが、本発明の工程(3)において、上記活性化処理剤と共に上記溶融開始温度以上の保持温度に加熱しても、上記フッ素化合物は、融解したアルカリ金属化合物に安定な形態で取り込まれるため、有害なフッ化水素ガスなどの腐食性ガスの発生を抑制できる。
【0015】
また、本発明の回収方法では、電極合材に含まれる活物質を、その構成元素を含む活物質の原料化合物まで分解することなく、直接活物質そのものとして再使用することができ、さらには、電池廃材から活物質を回収するために有機溶剤を使用せず、その廃液の処理を必要としないため、原料化合物から活物質を製造する場合と比較して、コストや製造エネルギーを低減できる。
また、本発明の回収方法の対象が、リチウム二次電池の電池廃材である場合には、電池廃材から活物質を直接回収することにより、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、アルミニウム、リンなどの元素とリチウムとの複合酸化物としての回収が可能である。
【0016】
以下、本発明の電池廃材からの活物質の回収方法における各工程について詳細に説明する。
【0017】
工程(1):<電極合材回収工程>
工程(1)である電極合材回収工程は、電池廃材から電極を分離し、該電極から活物質、導電材および結着材を含む電極合材を回収する工程である。
【0018】
本発明において、「電池廃材」とは、電池を廃棄する過程や電池製造の過程で発生する廃棄物であって、少なくとも活物質を含むものである。例えば、廃棄された使用済みの電池や規格外品の電池およびその解体で発生する電極、電池の作製工程で発生する電極の端部や余分な電極合材、電池の作製に適しない規格外品の電極や電極合材などである。
【0019】
工程(1)では、まず、電池廃材から回収目的となる活物質を含む電極を分離し、次いで、分離された電極合材を回収する。
なお、電極合材と集電体とから構成される電極から電極合材から分離する方法としては、集電体から電極合材を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から電極合材を掻き落とす方法)、電極合材と集電体との界面に溶剤を浸透させて集電体から電極合材を剥離する方法、アルカリ性もしくは酸性の水溶液を用いて、集電体を溶解して電極合材を分離する方法などがある。好ましくは、集電体から電極合材を機械的に剥離する方法である。
【0020】
なお、工程(1)において、電池廃材から分離する電極は、正極あるいは負極のいずれでもよく、これらから正極合材あるいは負極合材を回収し、後工程に供することにより、正極活物質又は負極活物質のいずれも回収することができる。
ここで、本発明の活物質の回収方法は、正極活物質である場合に好適に適用される。
正極活物質の中でも、非水二次電池の正極活物質であることが好ましい。
【0021】
以下、工程(1)の回収対象である電極合材及びその構成成分について説明する。
<電極合材>
電池を構成する電極は、電極合材が集電体であるアルミニウム箔や銅箔などの金属箔に塗着された構造となっており、電極合材は、活物質と導電材と結着材とから構成される。
電池廃材から分離された電極に含まれる活物質、導電材および結着材(以下、それぞれ「活性化処理前活物質」、「活性化処理前導電材」および「活性化処理前結着材」と呼ぶ場合がある。)として、具体的には、例えば使用済みの電池の解体に伴って発生する電極や電極合材に含まれる活物質、導電材および結着材、電池の作製工程で発生する電極、電極合材、電極合材ペーストに含まれる活物質、導電材および結着材、電池の作製に適しない規格外の電池、電極、電極合材、電極合材ペーストに含まれる活物質、導電材および結着材を挙げることができる。
【0022】
<活物質>
電池廃材に含まれる活物質(活性化処理前活物質)のうち、正極活物質として、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物が挙げられる。
また、負極活物質として、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物が挙げられる。
なお、活物質(活性化処理前活物質)は単一化合物でもよいし、複数の化合物から構成されていてもよい。
【0023】
本発明における好適な対象となる正極活物質としては、リチウム、酸素、ナトリウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、リン、硫黄、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、コバルト、ガリウム、モリブデン、インジウム、タングステンなどを構成元素とした複合化合物が挙げられる。
また、本発明における好適な対象となる非水二次電池の正極活物質としては、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の金属とを含有する複合酸化物が挙げられる。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、Ca、Sr、Ba、Mg
この中でも、元素群1がNi、Co、Mn、Fe及びPから選ばれる1種以上であり、元素群2がLiであるリチウム遷移金属複合酸化物や、元素群2がNaであるナトリウム遷移金属複合酸化物が好ましく、特にリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
具体的には、リチウム遷移金属複合酸化物として、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni,Co)O2、Li(Ni,Mn)O2、Li(Ni,Mn,Co)O2、LiMn24、Li(Mn,Fe)24、Li2MnO3、Li2NiO3、Li2(Ni,Mn)O3、LiF
ePO4、LiMnPO4などを挙げることができ、これらは1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
ナトリウム遷移金属複合酸化物として、具体的には、NaCoO2、NaNiO2、Na(Ni,Co)O2、Na(Ni,Mn)O2、Na(Ni,Mn,Co)O2、NaMn24、Na(Mn,Fe)24、NaFePO4、NaMnPO4などを挙げることができ、これらは1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
活物質としての上記複合酸化物の結晶構造には、特に制限はないが、好ましい結晶構造として、層状構造が挙げられる。さらに好ましくは、六方晶型または単斜晶型の結晶構造が好ましい。
前記六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P−6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcmおよびP63/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
前記単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
さらには、六方晶型の結晶構造に含まれるR−3mまたは単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
なお、活性化処理前活物質の結晶構造はCuKα線を線源とする粉末エックス線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定される。
【0025】
本発明で回収対象となる活物質の比表面積は、通常、0.01〜200m2/gである。本発明の回収方法は、比表面積が5〜100m2/gである活物質に好ましく適用できる。なお、前記比表面積は、窒素ガスを用いるBET比表面積である。
【0026】
本発明で回収対象となる活性化処理前の活物質の粒子径には特に制限はない。通常、電池廃材に含まれる、活性化処理前活物質の粒子径は、0.001〜100μm程度である。なお、活性化処理前活物質の一次粒子の粒径は、電子顕微鏡写真にて測定できる。
【0027】
<導電材>
電池廃材に含まれる導電材(活性化処理前導電材)としては、金属粒子等の金属系導電材や炭素材料からなる炭素系導電材が挙げられ、通常、炭素系導電材である。
炭素系導電材として、具体的には黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料(例えば黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ)を挙げることができる。
炭素系導電材は単一の炭素材料でもよいし、複数の炭素材料から構成されていてもよい。
また、炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、通常0.1〜500m2/gである。
炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、かつ、より低い温度で処理が可能となることから、炭素系導電材の比表面積は、30m2/g以上であると本発明の回収方法が好ましく適用される。
そのため、導電材は30m2/g以上の炭素系導電材のみからなることが好ましく、より好ましくは30m2/g以上のカーボンブラックであり、特に好ましくは30m2/g以上のアセチレンブラックである。
なお、後述する酸化力のあるアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を用いることで、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素材料であっても酸化処理することができる。
【0028】
<結着材>
電池廃材に含まれる結着材(活性化処理前結着材)としては、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(以下、SBRということがある。);が挙げられ、これらの二種以上を混合して用いられる場合もある。
【0029】
電極合材中の活物質、導電材及び結着材の配合量としては一概にはいえないが、結合剤の配合量としては、正極活物質100重量部に対し、通常、0.5〜30重量部程度、好ましくは2〜30重量部程度であり、導電剤の配合量としては、正極活物質100重量部に対し、通常、1〜50重量部程度、好ましくは1〜30重量部程度であり、溶剤の配合量としては、正極活物質100重量部に対し、通常、50〜500重量部程度、好ましくは100〜200重量部程度である。
【0030】
工程(2):<活性化処理剤混合工程>
工程(2)は、工程(1)にて回収した電極合材に1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程である。
【0031】
工程(1)にて回収した電極合材と活性化処理剤との混合は、乾式混合、湿式混合のいずれでもよく、また、これらの混合方法の組み合わせでもよく、その混合順序も特に制限されない。
混合の際には、ボールなどの混合メディアを備えた混合装置を用いて、粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより混合効率を向上させることができる。
より簡便に混合が行える点で乾式混合が好ましく、乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミルまたはこれらの装置の組み合わせを用いることができる。
好適な粉体混合装置としての、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機として具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)を挙げることができる。
【0032】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0033】
<活性化処理剤>
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する。アルカリ金属化合物は活物質と接触することにより、活物質を活性化する作用を有し、活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物が特に溶融部分を含む場合には、該溶融部分と活物質との接触性が向上することで、活物質の活性化がより促進される。
また、電極廃材には、結着材や電解液に由来するフッ素を含む化合物を含むことがあるが、該フッ素を含む化合物と活性化処理剤とを接触させることで、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化するため、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを抑制することができる。なお、フッ化水素は活物質の活性を落とすことからも発生を防止することが望ましい。
【0034】
活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類や、対象となる活物質の種類等に考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤全重量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上(100重量%含む)である。
【0035】
活性化処理剤の成分となるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
アルカリ金属化合物を構成するアルカリ金属元素としては、アルカリ金属元素であればよく、リチウム、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。なお、活性化処理剤の成分として、2種以上のアルカリ金属化合物が含まれる場合、異なるアルカリ金属元素を含むアルカリ金属化合物であってもよい。
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO2、NaBO2、KBO2、RbBO2、CsBO2等のホウ酸化物;
Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、RbCO3、CsCO3等の炭酸塩;
Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O等の酸化物;
Li22、Na22、K22、Rb22、Cs22等の過酸化物;
LiO2、NaO2、KO2、RbO2、CsO2等の超酸化物;
LiNO3、NaNO3、KNO3、RbNO3、CsNO3等の硝酸塩;
Li3PO4、Na3PO4、K3PO4、Rb3PO4、Cs3PO4等のリン酸塩;
Li2SO4、Na2SO4、K2SO4、Rb2SO4、Cs2SO4等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO3、NaVO3、KVO3、RbVO3、CsVO3等のバナジウム酸塩;
Li2MoO4、Na2MoO4、K2MoO4、Rb2MoO4、CsMoO4等のモリブデン酸塩;
Li2WO4、Na2WO4、K2WO4、Rb2WO4、CsWO4等のタングステン酸塩;が挙げられる。
【0036】
ここで、より活物質の活性化効果を高めるため、活性化処理剤に含まれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物が、回収対象の活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことが好ましい。
すなわち、上記の中でも、回収対象の活物質がリチウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物(2種以上の場合はその少なくとも1種)は、リチウム化合物であることが好ましい。好適なリチウム化合物としては、LiOH、LiBO2、Li2CO3、Li2O、Li22、LiO2、LiNO3、Li3PO4、Li2SO4、LiCl、LiVO3、LiBr、Li2MoO4、Li2WO4が挙げられる。
また、活物質がナトリウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物(2種以上の場合はその少なくとも1種)はナトリウム化合物であることが好ましい。好適なナトリウム化合物としては、NaOH、NaBO2、Na2CO3、Na2O、Na22、NaO2、NaNO3、Na3PO4、Na2SO4、NaCl、NaVO3、NaBr、Na2MoO4、Na2WO4が挙げられる。
【0037】
活性化処理剤は、必要に応じてアルカリ金属化合物以外の化合物を含んでいてもよい。
アルカリ金属化合物以外の化合物として、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含有される。
また、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、上述の溶融したアルカリ金属化合物に由来する効果を著しく抑制しない範囲で選択され、活性化処理剤全重量の50重量%未満である。
【0038】
電極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の添加量は、電極合材が含む活物質の重量に対して、0.001〜100倍であることが好ましく、より好ましくは、0.05〜1倍である。
前記混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、電池廃材からの活物質の回収にかかる費用を低減できること、炭素系導電材や結着材の酸化分解処理速度を高めることができる。また、活性化処理工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができ、さらには得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができる。
【0039】
また、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。
なお、このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤は、純水に溶解した際に、該溶液のpHが7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
本発明において、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、活性化処理工程(工程(3))における腐食性ガスの発生をより抑制することができるため、回収される活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素系導電材や結着材の処理速度を高めることもできる。
【0040】
アルカリ性の活性化処理剤に含まれる水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物が挙げられ、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物である。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH;Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、RbCO3、CsCO3;Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O;Li22、Na22、K22、Rb22、Cs22;LiO2、NaO2、KO2、RbO2、CsO2;が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を活性化処理剤に含ませてもよい。
【0041】
また、回収された電極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材である場合には、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、活性化処理工程の保持温度において、前記炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であることが好ましい。なお、このようなアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を、以下、「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素材料である導電材の二酸化炭素へ酸化を促進し、炭化水素材料である結着材の二酸化炭素と水蒸気へと酸化を促進することに特に効果を発揮し、得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができ、さらに活性化処理工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる。
【0042】
炭素系導電材および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩を挙げられる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
具体的には、Li22、Na22、K22、Rb22、Cs22;LiO2、NaO2、KO2、RbO2、CsO2;LiNO3、NaNO3、KNO3、RbNO3、CsNO3
Li2SO4、Na2SO4、K2SO4、Rb2SO4、Cs2SO4;LiVO3、NaVO3、KVO3、RbVO3、CsVO3;Li2MoO4、Na2MoO4、K2MoO4、Rb2MoO4、CsMoO4;が挙げられる。
【0043】
炭素材料である導電材を二酸化炭素へと酸化するための酸化力と、活性化処理剤が有する酸化力は、酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を用いて推定できる。
以下、これらの関係についての理論を示す。
【0044】
(i)導電材を酸化させるために必要な酸化力
炭素を二酸化炭素へと酸化させるために必要な酸化力を説明する。炭素を二酸化炭素へと酸化する平衡は次のように与えられる。
【数1】
平衡(a)の平衡定数(Keq(a))には下記式(1)の関係がある。
【数2】
また、平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、次のように与えられる。
【数3】
ここで式(2)の右辺第1項である、
【数4】
は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャルを表し、右辺第2項である、
【数5】
は、その酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャルの変化を表す。
各種の酸化還元系の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を比較する上では、右辺第1項である、
【数6】
は、右辺第2項である、
【数7】
よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の変化に与える影響が大きい。そこで、平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を式(2)の右辺第1項のlog[Keq(a)]のみで表す。
すなわち平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、式(3)で与えられる。
【数8】
ここでlog[Keq(a)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrGT゜[J/mol]により計算される。
【数9】
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
自由エネルギー変化ΔrGT゜[J/mol]は、反応に関与する物質の所定の温度における生成自由エネルギーΔfGT゜により計算される。平衡(a)においては、次のように計算される。
【数10】
式(5)における、各物質の生成自由エネルギーΔfGT゜は熱力学データベースより調べることができる。また、ΔfGT゜は熱力学計算ソフトで計算できる。熱力学データベースおよび熱力学計算ソフトとしては、例えばMALT2(著作権者:日本熱測定学会、発売元:株式会社科学技術社)を使用できる。
【0045】
(ii)添加剤が有する酸化力
添加剤が有する酸化力の計算例として、アルカリ金属化合物としてNa2SO4を含有する添加剤が有する酸化力を示す。
アルカリ金属化合物としてNa2SO4を含有する添加剤では、平衡(b)で表されるNa2SO4/Na2Sの酸化還元平衡が生ずる。
0.5Na2SO4=0.5Na2S+O2・・・平衡(b)
平衡(b)の平衡定数(Keq(b))には下記の関係がある。
【数11】
Na2SO4/Na2Sの酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、次のように与えられる。
【数12】
ここで、式(7)の右辺第1項である、
【数13】
は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を表し、右辺第2項である、
【数14】
は、その酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の変化を表す。
各種の酸化還元系に酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を比較する上では、右辺第1項である
【数15】
は、右辺第2項である、
【数16】
よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の変化に与える影響が大きい。そこで、Na2SO4/Na2Sの酸化還元平衡の有する酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を式(7)の右辺第1項log[Keq(b)]のみで表す。
すなわち、Na2SO4/Na2Sの酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は式(8)で与えられる。
【数17】
ここでlog[K(Na2SO4/Na2S)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrGT゜[J/mol]により計算される。
【数18】
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
【数19】
ここでlog[Keq(b)]は例えば熱力学データベースソフトMALT2を使用して計算される。
【0046】
添加剤が有する酸化力の計算例として、アルカリ金属化合物としてNa22を含有する添加剤が有する酸化力を示す。
アルカリ金属化合物としてNa22を含有する添加剤では、平衡(c)で表されるNa22/Na2CO3の酸化還元平衡が生ずる。
【数20】
平衡(c)の平衡定数(Keq(c))には下記の関係がある。
【数21】
Na22/Na2CO3の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、次のように与えられる。
【数22】
ここで、式(12)の右辺第1項である、
【数23】
は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を表し、右辺第2項と右辺第3項である、
【数24】
は、その酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の変化を表す。
各種の酸化還元系に酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を比較する上では、右辺第1項である、
【数25】
は、右辺第2項と右辺第3項である、
【数26】
よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O2)])の変化に与える影響が大きい。そこで、Na22/Na2CO3の酸化還元平衡の有する酸素ポテンシャル(log[P(O2)])を式(12)の右辺第1項log[Keq(c)]のみで表す。
すなわち、Na22/Na2CO3の酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は式(13)で与えられる。
【数27】
ここでlog[K(Na22/Na2CO3)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrGT゜[J/mol]により計算される。
【数28】

ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
【数29】
【数30】
ここでlog[Keq(c)]は例えば熱力学データベースソフトMALT2を使用して計算される。
【0047】
炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力と、各種アルカリ金属化合物が有する酸化力を、酸素ポテンシャル(log[P(O2)])で示し、その温度依存性を図1図2および図3に示した。各温度における炭素および炭化水素の酸化力は、炭素(C)で示される曲線である。各温度において該曲線よりも酸素ポテンシャル(log[P(O2)])が高いときに、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有することを示す。
【0048】
図1には、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物として、過酸化ナトリウム(Na22)、超酸化ナトリウム(NaO2)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、バナジウム酸ナトリウム(NaVO3)を示す。
これらのアルカリ金属化合物の酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])よりも高い温度領域がある。
すなわち過酸化ナトリウム、超酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、バナジウム酸ナトリウムおよびモリブデン酸ナトリウムは、炭素を二酸化炭素へと酸化する酸化力を有する。
【0049】
図2には、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物として、過酸化リチウム(Li22)、過酸化ナトリウム(Na22)、超酸化ナトリウム(NaO2)、過酸化カリウム(K22)、超酸化ナトリウム(KO2)を示す。これらのアルカリ金属化合物の酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])よりも高い温度領域がある。
すなわちアルカリ金属の過酸化物、超酸化物は炭素を二酸化炭素へと酸化する酸化力を有する。
【0050】
図3には、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物として、硫酸リチウム(Na2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カリウム(Na2SO4)、を示す。これらのアルカリ金属化合物の酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])は、炭素および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O2)])よりも高い温度領域がある。
すなわちアルカリ金属の硫酸塩は炭素を二酸化炭素へと酸化する酸化力を有する。
【0051】
工程(3):<活性化処理工程>
次いで、工程(3)について説明する。
工程(3):活性化処理工程は、工程(2)にて得られた混合物(以下、「活性化処理前混合物」と呼ぶ場合がある。)を活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、該混合物中に含まれる活物質を活性化する工程である。
【0052】
なお、「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
本発明において、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、上記混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
また、活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。電極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度は、活性化処理剤の融点より低くなる。
本発明において、活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、当該活性化処理剤5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0053】
工程(3)では、上述のように上記混合物を、活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、融解状態の活性化処理剤と活物質と接触させることにより、電極合材中の活物質を失活させることなく、安定化させることができる。
また、融解状態の活性化処理剤と活物質が炭素系導電材や結着材と接触することにより酸化分解の速度が向上し、融解状態の活性化処理剤と活物質が結着材や電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分をアルカリ金属フッ化物として安定化し、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止する効果を発揮できる。
【0054】
活性化処理工程の保持温度は、電極合材を構成する活物質、導電材、結着材、および活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより最適な温度を設定する。通常、100〜1500℃の範囲である。
【0055】
活性化処理工程の保持時間は、電極合材を構成する活物質、導電材、結着材、および活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより最適な時間を設定する。通常、10分〜24時間程度である。
【0056】
活性化処理工程における雰囲気は、電極合材を構成する活物質、導電材及び結着材、並びに活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより、最適な雰囲気を設定する。
活物質の活性化処理を促進し、炭素系導電材等に由来する炭素の酸化を促進するという観点から、空気等、酸素を含む酸化性雰囲気が好ましい。
【0057】
さらに前記保持温度が、前記活性化処理剤が含有するアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。なお、アルカリ金属化合物の融点は複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0058】
工程(4):<活物質回収工程>
工程(4):活物質回収工程とは、工程(3)の活性化処理工程後、冷却して得られる混合物(以下、「活性化処理後混合物」と称す場合がある。)から活性化した活物質を回収する工程である。
活性化処理後混合物には、活性化した活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属等)、未分解の導電材や結着材、その他の電池廃材の未分解物が含まれる。また、電池廃材にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
該混合物から活物質を分離回収する方法としては、該混合物に水などの溶媒を加えてスラリー化させた後に固液分離するスラリー化固液分離法や、該混合物を加熱して活物質以外の成分を気化して分離する気化分離法などが挙げられる。
以下、活物質回収工程における好適な方法である、スラリー化固液分離法及び気化分離法につき、詳細に説明する。
【0059】
<スラリー化固液分離法>
まず、活物質回収工程の好適な方法のひとつである、スラリー化固液分離法について各工程を説明する。
スラリー化固液分離法による活物質回収工程は、活性化処理工程後に得られる混合物に溶媒を加えてスラリーとするスラリー化工程と、該スラリーを固相と液相とに分離する固液分離工程と、固液分離後の固相を乾燥する乾燥工程と、を含む。
この方法は、特に水に不溶性の活物質の回収に適した方法である。
【0060】
スラリー化工程とは、上記活性化処理後混合物に溶媒を加えて、スラリーを作製する工程である。
スラリー化工程に用いる溶媒は、活性化処理工程後混合物に含まれる活物質以外の成分を溶解できる溶液であれば制限はない。溶媒としては安価で工業的に使用しやすい水が好ましい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために水以外の成分を添加して、pHを調整してもよい。
スラリー化工程では、活物質からなる固相と、活物質以外の水溶性成分からなる液相とで構成されるスラリーができる。なお、液相には、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分や活性化処理前結着材や電解液に由来するフッ素成分が含まれる。
【0061】
活性化処理後混合物に添加される溶媒の量は、活性化処理後混合物に含まれる活物質と、活物質以外の水溶性成分のそれぞれの量を考慮して決定される。
【0062】
スラリー化工程で形成されたスラリーは、次いで、固液分離工程に供される。
固液分離工程とは、前記スラリーを構成する液相と固相を分離する工程である。
固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0063】
乾燥工程とは固液分離工程後に得られる活物質を乾燥して、溶媒(水分)を除去する工程である。
乾燥の保持温度としては溶媒(水分)を除去するために100℃以上が好ましい。さらに十分に水分を除去するために150℃以上とすることが好ましい。特に250℃以上の温度では、得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量がさらに高まることから好ましい。乾燥工程における温度は、一定でもよく、また段階的もしくは連続的に変化させてもよい。
【0064】
なお、上記固液分離工程において、液相に活性化処理前結着材や電解液に由来するフッ素成分が含まれる場合には、液相中のフッ素成分を回収する工程を含むことが好ましい。
具体的には、固液分離工程において得られる液相に、沈殿剤を添加したり、溶媒(水分)を蒸発させることでフッ素成分を回収できる。例えば、カルシウムイオンを発生させる沈殿剤を液相に添加することで、フッ素成分をフッ化カルシウムとして回収できる。フッ素回収工程で回収したフッ素成分は、フッ素製品の原料として再資源化できる。
【0065】
また、上記固液分離工程において、液相に活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分が含まれる場合には、液相中のアルカリ金属成分を回収する工程を含むことが好ましい。
固液分離工程後の液相、あるいはフッ素回収工程に液相の水分を蒸発させることでアルカリ金属成分を回収できる。回収したアルカリ金属成分は、好ましくは工程(2)活性化処理混合工程における活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物として再利用する。
【0066】
次いで、活物質回収工程の好適な方法のひとつである、気化分離法について各工程を説明する。
気化分離法による活物質回収工程とは、活性化処理後混合物を加熱することにより活物質以外の成分を気化して、活物質以外の成分と活物質とを分離する気化分離工程を含む活物質回収工程である。
気化分離操作による活物質回収工程を用いることで、活物質に水を接触させることなく活物質を回収できる。そのため、水と接触することで劣化してしまう活物質の回収に適する。
【0067】
気化分離工程の温度としては、活物質以外の成分の種類によって調整する。活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の分解温度もしくは沸点以上であることが好ましい。
活性化処理工程と気化分離工程とは、同時に行ってもよいし、また連続的に行ってもよいし、また別々に行ってもよい。
より好ましくは、活性化処理工程の後に引き続いて、気化分離工程を行うことである。このとき活性化処理工程の保持温度よりもさらに高い温度で気化分離工程を行うことが好ましい。活性化処理工程に加え、さらに加熱して気化分離工程を行う二段階の処理を行うことで、エネルギー効率が向上し、腐食性ガスの発生がより抑制される。また、回収される活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができる。
【0068】
気化分離法において、気化分離工程で生成する気体を冷却して得られる活物質以外の成分に含まれる活性化処理前結着材や電解質に由来するフッ素成分を回収する工程を有することが好ましい。
気化分離法におけるフッ素成分を回収する工程は、活物質以外の成分を気化させて生成した気体を冷却して得られた成分に溶媒を加えて得られた溶液から、フッ素成分を回収する工程を含む。
具体的には、気化分離工程で生成した気体をデミスターにより回収し、冷却し、固化することで、活性化処理後混合物中に含まれる活物質以外の成分を回収できる。回収された活物質以外の成分を水溶液に溶解して、フッ素成分を選択的に沈殿できる沈殿剤を添加して、フッ素成分を沈殿し、ろ過などの方法により固液分離することにより、固相として、フッ素成分を回収できる。
活物質以外の成分を溶解する溶媒としては、活性化処理工程後混合物に含まれる活物質以外の成分を溶解できる溶媒であれば制限はない。溶媒としては安価で工業的に使用しやすい水が好ましい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするためにpHを調整してもよい。
例えば、カルシウムイオンを発生させる沈殿剤を使用すると、フッ素成分をフッ化カルシウムとして回収できる。フッ素成分を回収する操作で回収したフッ素成分は、フッ素製品の原料として再資源化できる。
【0069】
なお、気化分離法においても、活物質以外の成分に含まれる活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分を回収することが好ましい。
ここで、気化分離工程で生成する気体をデミスターにより回収し、冷却し、固化することで、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分を含む活物質以外の成分を回収する方法でもよいが、特にフッ素成分を回収後の前記溶液から、アルカリ金属成分を回収する工程を含むことが好ましい。具体的には、フッ素成分を回収する操作で固液分離後に得られる液相の水分を蒸発させることによりに、アルカリ金属成分を回収することができる。
回収したアルカリ金属成分は、好ましくは活性化処理剤のアルカリ金属化合物として利用する。
【0070】
「回収した活物質を用いる電極の製造」
本発明の活物質の回収方法を用いることで電池廃材から得られた活物質は、未使用活物質と同様に再利用することができる。活物質における遷移金属に対するアルカリ金属のモル比率は、活性化処理前活物質における該モル比と等しいかもしくは大きいことが好ましい。アルカリ金属の比率を高めることで、得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量を高められる。
以下、回収した活物質を用いて、電極合材および電極を製造する方法として、非水電解質二次電池用の電極合材(正極合材)および電極(正極)を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0071】
<正極>
電極(正極)は、活物質、導電材およびバインダーを含む電極合材を集電体に担持させて製造する。
前記活物質としては電池廃材からの活物質の回収方法で得られる活物質を含有していればよい。必要に応じて未利用活物質を添加してもよい。
前記導電材としては炭素材料を用いることができ、炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料を挙げることができる。
電極中の導電材の割合を高めることで、電極の導電性が高くなり、充放電効率およびレート特性を向上させることができる。電極中の導電材の割合が大きすぎると、電極合材と正極集電体との結着性が低下して、内部抵抗が増大することがある。通常、電極合材中の導電材の割合は、活物質100重量部に対して1〜20重量部である。
導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。またカーボンブラックは、少量を電極合材中に添加することで、電極内部の導電性を高め、充放電効率およびレート特性を向上させることができる。
【0072】
前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;が挙げられる。
また、これらの二種以上を混合して用いてもよい。
また、バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤100重量%中の該フッ素樹脂の割合が1〜10重量%、該ポリオレフィン樹脂の割合が0.1〜2重量%となるように含有させることによって、正極集電体との結着性に優れた正極合剤を得ることができる。
【0073】
前記集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの導電体を用いることができる。さらに、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でアルミニウム(Al)が好ましい。
集電体に電極合材を担持させる方法としては、加圧成型する方法や電極合材ペーストを固着する方法が挙げられる。
活物質、導電材、バインダーおよび溶媒を用いて、電極合材ペーストが作製される。該電極合材ペーストを集電体上に塗布し、そして乾燥後プレスするなどして固着させる。
該溶媒としては、水系溶媒または有機溶媒を用いることができる。
溶媒には必要に応じて増粘剤を添加してもよい。該増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCということがある。)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンが挙げられる。
該有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0074】
電極合材を集電体へ塗布する方法としては、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。以上に挙げた方法により、非水電解質二次電池用電極を製造することができる。
【0075】
前記の電極を用いて、非水電解質二次電池を製造する方法として、リチウム二次電池を製造する場合を例に挙げて、次に説明する。
セパレータ、負極および正極を、積層および巻回することにより電極群を作製する。該電極群を電池ケース内に収納し、電解液を含浸させることで、リチウム二次電池は製造される。
【0076】
前記電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形などの形状を挙げることができる。
また、電池の形状としては、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0077】
前記負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極または負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。これらの負極活物質を混合して用いてもよい。
【0078】
<負極>
前記負極活物質につき、以下に例示する。
前記炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体などを挙げることができる。
前記酸化物として、具体的には、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V25、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe34、Fe23、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti512、LiVO2などのリチウムとチタンおよび/またはバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
前記硫化物として、具体的には、Ti23、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V34、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe34、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo23、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb23など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se53、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
前記窒化物として、具体的には、Li3N、Li3-xxN(ここで、AはNiおよび/またはCoであり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用して用いてもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持して、電極として用いられる。
【0079】
また、前記金属として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属が挙げられる。
また、前記合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0080】
前記負極活物質の中で、電位平坦性が良好である、平均放電電位が低い、サイクル性が良いために、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状または微粉末の凝集体のいずれでもよい。
【0081】
前記負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0082】
前記負極集電体としては、銅、ニッケル、ステンレスなどの導電体を挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、銅を用いればよい。
負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型する方法や負極合剤ペーストを固着する方法が挙げられる。
【0083】
<セパレータ>
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができ、また、前記材質を2種以上用いてセパレータとしてもよいし、前記材料が積層されていてもよい。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報などに記載のセパレータを挙げることができる。セパレータの厚みは電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄くした方がよく、通常5〜200μm程度、好ましくは5〜40μm程度である。
【0084】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。非水電解質二次電池においては、通常、正極−負極間の短絡などが原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましい。ここで、シャットダウンは、通常の使用温度を越えた場合に、セパレータにおける多孔質フィルムの微細孔を閉塞することによりなされる。そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持することが好ましい。かかるセパレータとしては、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムが挙げられ、該フィルムをセパレータとして用いることにより、本発明における二次電池の耐熱性をより高めることが可能となる。ここで、耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されていてもよい。
【0085】
以下、前記耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムについて説明する。
【0086】
前記積層フィルムにおいて、耐熱多孔層は、多孔質フィルムよりも耐熱性の高い層であり、該耐熱多孔層は、無機粉末から形成されていてもよいし、耐熱樹脂を含有していてもよい。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有することにより、塗工などの容易な手法で、耐熱多孔層を形成することができる。
耐熱樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドを挙げることができる。耐熱性をより高めるためには、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドが好ましい。より好ましくは、ポリアミド、ポリイミドまたはポリアミドイミドである。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミドなどの含窒素芳香族重合体である。とりわけ好ましくは芳香族ポリアミドであり、製造面で、特に好ましいのは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、パラアラミドということがある。)である。
また、耐熱樹脂として、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状オレフィン系重合体を挙げることもできる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、積層フィルムの耐熱性、すなわち、積層フィルムの熱破膜温度をより高めることができる。
【0087】
前記積層フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存し、使用場面、使用目的に応じ、選択使用される。より具体的には、耐熱樹脂として、前記含窒素芳香族重合体を用いる場合には400℃程度に、ポリ−4−メチルペンテン−1を用いる場合には250℃程度に、環状オレフィン系重合体を用いる場合には300℃程度に、夫々、熱破膜温度をコントロールすることができる。また、耐熱多孔層が、無機粉末からなる場合には、熱破膜温度を500℃以上にコントロールすることも可能である。
【0088】
前記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレンなどのような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。
具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体などのパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0089】
前記芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。
該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンおよび3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンおよび1,5−ナフタレンジアミンが挙げられる。
また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0090】
前記芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、ならびに、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸およびテレフタル酸が挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸が挙げられる。
芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0091】
また、イオン透過性をより高めるために、耐熱多孔層の厚みは、1〜10μm、さらには1〜5μm、特に1〜4μmが好ましい。また、耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔径は、通常3μm以下であり、好ましくは1μm以下である。
また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は後述のフィラーを含有することもできる。
【0092】
前記積層フィルムにおいて、多孔質フィルムは、微細孔を有し、シャットダウン機能を有することが好ましい。この場合、多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。
多孔質フィルムにおける微細孔のサイズは通常3μm以下であり、好ましくは1μm以下である。
多孔質フィルムの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。
熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを用いた非水電解質二次電池では、通常の使用温度を越えると、熱可塑性樹脂が軟化して、微細孔を閉塞する。
【0093】
前記熱可塑性樹脂には、非水電解質二次電池における電解液に溶解しないものが選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせるためには、ポリエチレンを含有することが好ましい。
前記ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレンおよび分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。
前記多孔質フィルムを構成する熱可塑性樹脂には、該フィルムの突刺し強度をより高めるために、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。
また、多孔質フィルムの製造面において、熱可塑性樹脂には、重量平均分子量1万以下の低分子量のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0094】
また、積層フィルムにおける多孔質フィルムの厚みは、通常、3〜30μmであり、さらに好ましくは3〜25μmである。また、本発明において、積層フィルムの厚みとしては、通常40μm以下、好ましくは20μm以下である。
また、耐熱多孔層の厚みをAμm、多孔質フィルムの厚みをBμmとしたときには、A/Bの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。
【0095】
また、耐熱多孔層に耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層には1種以上のフィラーを含有していてもよい。フィラーは、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物のいずれから選ばれるものであってもよい。フィラーを構成する粒子の平均粒子径は0.01〜1μmであることが好ましい。
【0096】
前記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチルなどの単独または2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドなどのフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート;が挙げられる。
該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0097】
前記無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩などの無機物からなる粉末が挙げられる。これらの中でも、導電性の低い無機物からなる粉末が好ましく用いられる。
具体的に該無機粉末を例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタンまたは炭酸カルシウムからなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。
より好ましくは、フィラーがアルミナ粒子のみで構成されることである。さらに好ましくは、フィラーを構成するアルミナ粒子の一部または全部が略球状をしていることである。
耐熱多孔層が無機粉末から構成される場合には、前記例示の無機粉末を用いればよく、必要に応じてバインダーと混ぜて用いればよい。
【0098】
フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、耐熱多孔層の総重量を100重量部としたときには、フィラーの重量は、通常5〜95重量部であり、20〜95重量部であることが好ましい。より好ましくは30〜90重量部である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0099】
フィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状および繊維状が挙げられ、いずれの粒子も用いることができる。さらに、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1〜1.5である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真から測定することができる。
【0100】
イオン透過性を高めるために、前記セパレータのガーレー法による透気度は、50〜300秒/100ccであることが好ましい。さらに好ましくは、50〜200秒/100ccである。
また、セパレータの空孔率は、通常30〜80体積%であり、好ましくは40〜70体積%である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0101】
<電解液および固体電解質>
二次電池において、電解液は、通常、電解質および有機溶媒から構成される。
電解質としては、アルカリ金属をカチオンとする過塩素酸塩、六フッ化リン塩、六フッ化ヒ素塩、六フッ化アンチモン塩、四フッ化ホウ素塩、トリフルオロメタンスルホナート塩、スルホンアミド化合物のトリフルオロメタンスルホン酸塩、ホウ素化合物塩およびホウ酸塩が挙げられる。これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
リチウム塩について例を示すと、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C49SO3)、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalate)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられる。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いる。
【0102】
また前記電解液において、有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物;が挙げられる。
または、前記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができる。
通常は前記有機溶媒のうちの二種以上を混合して用いる。
中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。
また、特に安全性を向上する効果があることから、LiPF6などのフッ素を含むアルカリ金属塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0103】
前記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。
固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
また、Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機系固体電解質を用いてもよい。
これら固体電解質を用いて、安全性をより高めることができることがある。
また、本発明の非水電解質二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
活物質(活性化処理前活物質、又は未使用活物質)の物性の測定、該活物質を正極活物質として用いた電池による充放電試験は、次のようにして行った。
【0105】
(1)組成分析
試料を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(以下ICP−AESということがある。)(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS3000を使用)を用いて組成分析を行った。
【0106】
(2)粉末X線回折測定
試料の粉末X線回折測定には株式会社リガク製RINT2500TTR型を用いた。X線の線源にはCuKα線源を用いた。活物質を専用のホルダーに充填し、回折角2θ=10〜90°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。
【0107】
(3)比表面積の測定
試料0.5gを窒素雰囲気中150℃、15分間乾燥した後、マイクロメリティックス製フローソーブII2300を用いてBET比表面積を測定した。前記方法で測定された比表面積を活物質の比表面積とした。
【0108】
(4)活物質の平均粒子径の測定
試料粉末0.1gを、0.2wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、該試料粉末を分散させた分散液を試料とし、これについてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得、微小粒子側から50%累積時の粒子径(D50)の値を粉末の平均粒子径とした。
【0109】
(5)活物質の平均一次粒子径の測定
粒子状の試料をサンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せ、日本電子株式会社製JSM−5510を用いて、加速電圧が20kVの電子線を照射してSEM観察を行った。平均一次粒子径は、SEM観察により得られた画像(SEM写真)から任意に50個の一次粒子を抽出し、それぞれの粒子径を測定し、その平均値を算出することにより測定した。
【0110】
(6)活性化処理剤のpHの測定
純水70gに活性化処理剤3.5gを入れて、スターラーにより十分に攪拌し、ガラス電極によるpHメーターを用いて、pHを測定した。
【0111】
(7)示差熱測定(DTA)による活性化処理剤の融点の測定
活性化処理剤の融点は、下記の条件による示差熱測定(DTA)において、活性化処理剤の部分的な融解による吸熱ピークが表れる最も低い温度とした。
示差熱測定(DTA)の測定条件
装置 :示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6200)セイコーインス
ツルメンツ社製
パン :白金
初期試料量:5mg
雰囲気 :空気
昇温速度 :10℃/min
【0112】
(8)熱重量測定(TG)による燃焼性物質の含有量の測定
電極合材および活性化処理後混合物に得られる活物質に含有する燃焼性物質の重量割合を熱重量分析装置(TG)を用いて測定した。下記の条件で測定し、200〜1000℃の温度領域で見られた重量減少割合を燃焼性物質の含有量とした。
熱重量測定(TG)の測定条件
装置 :示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6200)セイコーインス
ツルメンツ社製
パン :白金
初期試料量:5mg
雰囲気 :空気
昇温速度 :10℃/min
【0113】
(9)水溶液に含まれるフッ素の測定
活物質回収工程にスラリー化固液分離法を用いると、電池廃材に含まれる結着材や電解液に由来するフッ素成分が固液分離工程においてろ液に抽出される。スラリー化工程の溶液に水溶液を用いた場合の固液分離工程で得られるろ液で回収されたフッ素を、フッ素イオンメーター(フッ化物イオン電極6561−10C、カスタニーLAB pH/イオンメーターF−24、いずれも株式会社堀場製作所製)を用いて下記の手順に従って測定した。
マイクロピペットを用いて被測定溶液1mLを採取し、50mLの純水に入れた。溶液を攪拌し、溶液のpHをpHメーターにより測定した。溶液のpHが6〜7の範囲になるようにKOH溶液(pH12)もしくはHCl溶液(pH1)を添加して調整した。さらに純水を追加して100mLとした。
溶液のフッ素濃度をフッ素イオンメーターを用いて測定した。溶液のフッ素濃度から、ろ液において回収されたフッ素量に換算した。
【0114】
<充放電試験>
1.電極(正極)の作製
<電極の作製>
活物質の放電容量のために、下記の手順に従って電極(正極)を作製した。
電極の作製には、放電容量を評価する活物質に加えて、下記の導電材及び結着材を用いた。
(a)活物質(正極活物質)
所定の活物質
(b)導電材
アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、品番:デンカブラック HS100)と黒鉛(SECカーボン株式会社製、品番:グラファイトパウダー SNO−3)との重量比9:1の混合物
(c)結着材
PVdF#7300(株式会社クレハ社製)

上記活物質と導電材とバインダー溶液とを調整して、活物質:導電材:バインダーの重量比がそれぞれ87:10:3として、これらをメノウ乳鉢を用いて混練して、正極合材ペーストを作製した。なお、バインダー溶液としては、結着材であるPVdFを溶解したNMP溶液を使用した。正極合材ペースト中の活物質と導電材とバインダーの重量の合計が50重量%となるようにNMPを添加して調整した。
該正極合剤ペースト1gをAl箔集電体(3×5cm)に、電極合材量が9mg/cm2となるように塗布した後、150℃で8時間真空乾燥して、正極を得た。
【0115】
2.電池の作製
上述の正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて、非水電解質二次電池(コイン型電池R2032)を作製した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとをそれぞれ体積比で30:35:35とした混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したものを使用した。
セパレータとしてポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した。
また、負極として金属リチウムを使用した。
【0116】
3.充放電試験
作製したコイン型電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。充放電試験は、放電時の放電電流を変えて放電容量を測定した。
充電最大電圧:4.3V
充電時間:8時間
充電電流:0.2mA/cm2
放電時は放電最小電圧を2.5Vで一定とし、各サイクルにおける放電電流を下記のように変えて放電を行った。
1サイクル目の放電(0.2C):放電電流0.2mA/cm2
2サイクル目の放電(0.2C):放電電流0.2mA/cm2
3サイクル目の放電(1C) :放電電流1.0mA/cm2
4サイクル目の放電(2C) :放電電流2.0mA/cm2
5サイクル目の放電(5C) :放電電流5.0mA/cm2
6サイクル目の放電(10C) :放電電流10mA/cm2
なお、0.2Cの放電容量が大きいほど高い定格容量が得られ、5Cの放電容量が大きいほど、高い出力特性が得られることを示す。
【0117】
<I.導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極からの活物質の回収>
「A.導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極の作製(電池廃材用)」
活物質13.5kgと導電材0.75kgと結着材0.75kgと溶媒15kgとをT.K.ハイビスミックス(プライミクス株式会社製)で混合し、その後T.K.フィルミックス 56―50型(プライミクス株式会社製)を用いて分散し、そして、T.K.ハイビスミックス(プライミクス株式会社製)で脱泡処理して、正極合材ペーストを作製した。
該活物質としては、ICP発光分析により測定される組成がLi1.07Ni0.47Mn0.48Fe0.052であり、粉末X線回折測定により測定される結晶構造がR−3mであり、BET比表面積が10m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径が200nmである正極活物質を用いた。活物質(未利用活物質)を正極活物質として用いたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は138mAh/gであり、5C放電容量は106mAh/gであった。
該導電材としては、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製)を使用した。該アセチレンブラックのBET比表面積は40m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径は50nmであった。
該結着材と溶媒としては、結着材であるPVdF#7300を5重量%含むNMP溶液(株式会社クレハ社製)にさらにNMP溶媒を追加投入して所定の比率とした。
該正極合材ペーストを厚さ20μmのリチウムイオン2次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に,スリットダイ方式二次電池用コーターを用いて塗工し、乾燥し、電極を得た。アルミニウム箔上の電極合材量は15mg/cm2であった。
【0118】
「B.電極廃材からの活物質の回収」
上記で作製した導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極を用いて、以下の実施例及び比較例による活物質の回収を行った。
【0119】
(1)電極合材の回収
上記で作製した導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極から、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。
【0120】
(2)活性化処理剤混合工程
所定量の電極合材に所定量の活性化処理剤を加えて、乳鉢を用いて混合し、混合物を得た。
【0121】
(3)活性化処理工程
得られた混合物(活性化処理前混合物)をアルミナ製焼成容器に入れて電気炉に設置した。空気雰囲気の電気炉内において、所定の保持温度、保持時間で加熱した。加熱速度は200℃/時間とし、冷却は自然冷却とした。室温まで冷却された後に、活性化処理後混合物を回収した。
【0122】
(4−1)スラリー化工程
活性化処理後混合物を粉砕し、蒸留水を加えてスラリー化して、攪拌した後、デカンテーションを行なった。
(4−2)固液分離工程
該スラリーをろ過することで、固相を分離した。
(4−3)乾燥工程
該固相を300℃で6時間乾燥して、活物質を得た。
【0123】
(5−1)フッ素成分の回収
固液分離工程で固相をろ過した後に得られる液相に含有するフッ素イオン濃度を、フッ素イオンメーターを用いて測定した。さらに液相に塩化カルシウム水溶液を添加し、液相中に生成した沈殿物をろ過することで、フッ素成分を回収する操作による回収物を得た。
(5−2)アルカリ金属成分の回収
(5−1)フッ素成分の回収で、沈殿物をろ過して回収した後の液相を、80℃で水分を蒸発させて析出させることでアルカリ金属成分を回収する操作による回収物を得た。
【0124】
「比較例1−1:活性化処理剤なし」
導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極から取り出した電極合材5gに活性化処理剤を混合せずに、700℃で4時間、加熱した。処理条件を表1−Aに示す。
回収物の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
回収物はR3−mおよびR3−mとは異なる構造を含む結晶構造であった。0.2Cと5Cの放電容量は低かった。
【0125】
「実施例1−1:K2CO3・Na2CO3活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてK2CO3とNa2CO3を電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して混合物(活性化処理前混合物)を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、活性化処理した。回収された活性化処理後混合物をスラリー化、ろ過、乾燥し、活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0126】
「実施例1−2:Li2CO3・K2CO3活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてLi2CO3とK2CO3を電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、活性化処理した。回収された活性化処理後混合物をスラリー化、ろ過、乾燥し、活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0127】
「実施例1−3:Li2CO3・K2SO4活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてLi2CO3とK2SO4を電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理の条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0128】
「実施例1−4:NaOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてNaOHを電極合材中の正極活物質1モルに対して0.2モルを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度400℃、保持時間4時間で活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0129】
「実施例1−5:NaOH・KOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてNaOHとKOHを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度400℃、保持時間4時間で活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0130】
「実施例1−6:LiOH・KOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてLiOHとKOHを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度400℃、保持時間4時間で活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。回収された活性化処理後混合物をスラリー化、ろ過、乾燥し、活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0131】
「実施例1−7:LiOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてLiOHを電極合材中の正極活物質1モルに対して0.3モルを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度500℃、保持時間4時間で活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
フッ素成分を回収する操作による回収物を、粉末X線回折測定により同定したところ、フッ化カルシウムに相当するピークが含まれた。すなわちフッ素成分を回収する操作により、フッ素成分を回収できた。
アルカリ金属成分を回収する操作による回収物を、粉末X線回折測定により同定したところ、塩化リチウムに相当するピークが含まれた。すなわちフッ素成分を回収する操作により、アルカリ金属成分としてリチウム成分を回収できた。
【0132】
「実施例1−8:KOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材5gに活性化処理剤としてKOHを電極合材中の正極活物質1モルに対して0.1モルを混合して、混合物を得て、該混合物を保持温度500℃、保持時間4時間で活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
フッ素成分を回収する操作による回収物を、粉末X線回折測定により同定したところ、フッ化カルシウムに相当するピークが含まれた。すなわちフッ素成分を回収する操作により、フッ素成分を回収できた。
【0133】
「実施例1−9:Li22・NaOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi22とNaOHを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと1モルを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度350℃、保持時間12時間で、活性化処理して、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
固液分離工程において活物質と分離されたろ液に含まれるフッ素イオンを測定したところ37mgが水溶液として回収できていた。これは処理前の電極合材に含まれるフッ素成分の63%の回収率に相当した。
【0134】
「実施例1−10:LiNO3活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLiNO3を電極合材中の正極活物質1モルに対して0.2モルを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度350℃、保持時間12時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0135】
「実施例1−11:KNO3活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてKNO3を電極合材中の正極活物質1モルに対して0.1モルを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度350℃、保持時間12時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0136】
「実施例1−12:KNO3・KOH活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてKNO3とKOHを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度250℃、保持時間12時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度であった。
【0137】
「実施例1−13:Li2CO3・Na2CO3活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3を電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質よりも高い放電容量が得られた。
【0138】
「実施例1−14:Li2CO3・Na2CO3・Na2SO4活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3とNa2SO4とを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質よりも高い放電容量が得られた。
【0139】
「実施例1−15:Li2CO3・Na2CO3・NaVO3活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3とNaVO3とを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高い放電容量が得られた。
【0140】
「実施例1−16:Li2CO3・Na2CO3・K2MoO4活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3とK2MoO4とを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質と同程度の放電容量が得られた。
【0141】
「実施例1−17:Li2CO3・Na2CO3・K2PO4活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3とK2PO4とを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高い放電容量が得られた。
【0142】
「実施例1−18:Li2CO3・Na2CO3・K2WO4活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3とK2WO4とを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高く、未利用活物質よりも高い放電容量が得られた。
【0143】
「実施例1−19:Li2CO3・Na2CO3・B23活性化処理剤」
比較例1−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2CO3とB23とを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間で、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表1−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および得られた活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表1−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例1−1よりも高い放電容量が得られた。
【0144】
【表1-A】
【0145】
【表1-B】
【0146】
<II.参考例:活性化処理工程における導電材と結着材のそれぞれの影響>
参考例1及び参考例2では、活性化処理工程における導電材と結着材のそれぞれの影響について検討した。
【0147】
「参考例1:活性化処理工程における導電材の影響」
比較例1−1で用いた未利用活物質を評価用の活物質として使用した。未利用活物質5gに、導電材としてアセチレンブラック0.263gを添加して、正極活物質と導電材との混合物を作製した。該混合物は電極合材を有機溶媒に浸して、結着材を溶解した後に回収される混合物に相当する。該混合物に活性化処理剤を添加せずに、保持温度700℃、保持時間4時間で、加熱した。
加熱処理後の回収物の結晶構造、平均粒子径、比表面積、該回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表2に示す。
該回収物の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は未利用活物質と同程度であった。
【0148】
「参考例2:再利用方法への結着材の影響」
比較例1−1で用いた未利用活物質を評価用の活物質として使用した。未利用活物質5gに、結着材としてPVdFが5重量%含むNMP溶液を5.26g混合して、さらに150℃で8時間真空乾燥することにより脱溶媒して、正極活物質と結着材との混合物を作製した。該混合物に活性化処理剤を添加せずに、保持温度700℃、保持時間4時間で、加熱した。
加熱処理後の回収物の結晶構造、平均粒子径、比表面積、該回収物をそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表2に示す。
該回収物はR3−mとは別の構造を含む結晶構造であった。0.2Cと5Cの放電容量は未利用活物質よりも低かった。
【0149】
【表2】
【0150】
<III.黒鉛系導電材を含む正極からの活物質の回収>
「A.黒鉛系導電材を含む正極の作製」
活物質と導電材と結着材とを重量比が85:10:5となるように秤量し、NMP溶媒で粘度を調整してからディスパーマット(VAM−GEZTMANN社製)で混合することで正極合材ペーストを作製した。
該活物質としては、ICP発光分析により測定される組成がLiNi0.44Co0.10Mn0.462であり、粉末X線回折測定により測定される結晶構造がR−3mであり、BET比表面積が8m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径が200nmである正極活物質を用いた。なお、活物質(未利用活物質)を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は153mAh/gであり、5C放電容量は114mAh/gであった。
該導電材としては、アセチレンブラックと黒鉛系導電材を含有する導電材を使用した。アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製)と黒鉛C−NERGY SFG6L(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製)と黒鉛C−NERGY KS6L(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製)とを重量比で4:3:3となるように混合して使用した。HS100とSFG6LとKS6LのそれぞれのBET比表面積は40m2/gと17m2/gと20m2/gであり、平均一次粒子径はそれぞれ50nmと3.5μmと3.5μmであった。
該結着材と溶媒としては、結着材であるPVdF#7300を5重量%含むNMP溶液(株式会社クレハ社製)にさらにNMP溶媒を追加投入して粘度を調整した。
該正極合材ペーストを厚さ20μmのリチウムイオン2次電池 正極集電体用 アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に,二次電池用コーターを用いて塗工し、乾燥し、電極を得た。アルミニウム箔上の電極合材量は16mg/cm2であった。
【0151】
「B.電極廃材からの活物質の回収」
上記で作製した黒鉛系導電材を含む正極を用いて、以下の実施例及び比較例による活物質の回収を行った。
【0152】
「比較例3−1:活性化処理剤なし」
上述の黒鉛系導電材を含む正極から機械的に剥離された電極合材2gに活性化処理剤を混合せずに、保持温度600℃、保持時間4時間、で加熱した。処理条件を表3−Aに示す。
回収物の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表3−Bに示す。
回収物には燃焼性物質が残存した。回収物はR3−mとは別の構造を含む結晶構造であった。0.2Cと5Cの放電容量は低かった。
【0153】
「実施例3−1:Li2CO3・Na2SO4活性化処理剤」
比較例3−1と同じ黒鉛系導電材を含む正極から機械的に剥離された電極合材に活性化処理剤としてLi2CO3とNa2SO4を電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度600℃、保持時間4時間で、活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表3−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表3−Bに示す。
得られた活物質には燃焼性物質は含有しなかった。活物質の結晶構造はR3−mのみであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例3−1よりも高かった。0.2Cは未利用活物質と同程度であった。
【0154】
【表3-A】
【0155】
【表3-B】
【0156】
<IV.使用済み電池から取り出した正極を用いた活物質の回収>
充放電サイクルを繰り返した使用済み電池を解体し、正極を取り出した。該使用済み電池から取り出した正極を電池廃材として、該正極より活物質を回収した。
【0157】
「A.使用済み電池から取り出した正極の構成」
使用済み電池から取り出した正極の構成は以下の通りであった。該正極は、正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に電極合材が積層されていた。該電極合材は、以下の活物質、導電材及び結着材にて構成されていた。
使用済み電池から取り出した正極を構成する活物質としては、未利用活物質としてICP発光分析により測定される組成がLi1.07Ni0.47Mn0.48Fe0.052であり、粉末X線回折測定により測定される結晶構造がR−3mであり、BET比表面積が10m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径が200nmである正極活物質を使用されていた。活物質(未利用活物質)を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は138mAh/gであり、5C放電容量は106mAh/gであった。
使用済み電池から取り出した正極では、活物質の組成がLi0.79Ni0.47Mn0.48Fe0.052であり、電池の使用により活物質のリチウムの組成が低下していた。また使用済み電池から回収された正極を用いてコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は56mAh/gであり、5C放電容量は15mAh/gであり、電池の使用により活物質の0.2Cおよび5C放電容量は未利用活物質に対して低下していた。
使用済み電池から回収された正極を構成する該導電材は、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)と黒鉛SNO−3(SECカーボン株式会社製、グラファイトパウダー)と黒鉛KS15(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製)と黒鉛KS4(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製)との重量比10:1.5:2.0:1.5の混合物であった。アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)と黒鉛SNO−3(SECカーボン株式会社製、グラファイトパウダー)と黒鉛KS15(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製)と黒鉛KS4(ティムカル・グラファイト・アンド・カーボン社製)とのBET比表面積はそれぞれ40m2/g、16m2/g、12m2/g、26m2/gでありSEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径はそれぞれ50nm、3μm、8μm、3μmであった。
該結着材としてはPVdF#7300(株式会社クレハ社製)が使用されていた。
該電極合材の構成比率は、活物質:導電材:結着材の重量比がそれぞれ80:15:5であった。
【0158】
「B.電極廃材からの活物質の製造」
上述の使用済み電池から回収した正極を用いて、以下の実施例及び比較例による活物質の製造を行った。
【0159】
「比較例4−1:活性化処理剤なし」
上述の使用済み電池から取り出した正極から機械的に剥離して得られた電極合材2gに活性化処理剤を混合せずに、保持温度400℃、保持時間4時間で、加熱した。処理条件を表4−Aに示す。
回収物の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表4−Bに示す。
回収物はR3−mと黒鉛の結晶構造が観測された。0.2Cと5Cの放電容量は低かった。
【0160】
「実施例4−1:LiOH・NaOH活性化処理剤」
比較例4−1と同じ使用済み電池から取り出した正極から得られた電極合材を用いて、活性化処理剤としてLiOHとNaOHを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.2モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度400℃、保持時間4時間で、活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表4−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表4−Bに示す。
結晶構造はR3−mと黒鉛が観察された。活性化処理して得られた活物質のリチウム組成は、使用済み電池を構成していた活物質に向上していた。0.2Cと5Cの放電容量は比較例4−1よりも高かった。
【0161】
「実施例4−2:LiOH・NaOH活性化処理剤」
比較例4−1と同じ使用済み電池から取り出した正極から得られた電極合材を用いて、活性化処理剤としてLiOHとNaOHとを電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ1モルと1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度400℃、保持時間12時間で、活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表4−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表4−Bに示す。
結晶構造はR3−mと黒鉛が観察された。活性化処理して得られた活物質のリチウム組成は、使用済み電池を構成していた活物質に向上していた。0.2Cと5Cの放電容量は比較例4−1よりも高かった。
【0162】
「実施例4−3:LiOH活性化処理剤」
比較例4−1と同じ使用済み電池から取り出した正極から得られた電極合材に活性化処理剤としてLiOHを電極合材中の正極活物質1モルに対して2モルを混合して混合物を得て、該混合物を処理温度500℃、処理時間6時間で、活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表4−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表4−Bに示す。
結晶構造はR3−mのみが観察された。活性化処理剤にリチウムが含まれていたことから、使用済み電池を構成していた活物質に比較してリチウム組成が向上した。0.2Cと5Cの放電容量は比較例4−1よりも高かった。
【0163】
【表4-A】
【0164】
【表4-B】
【0165】
<V.活物質回収工程に気化分離法を用いた正極からの活物質の回収>
気化分離法による活物質回収工程を用いて、導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極から活物質を回収した。
【0166】
「導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極の作製(電池廃材用)」
実施例1−1と同じ方法で導電材としてアセチレンブラックのみを含む正極を作製した。
【0167】
「A.電極廃材からの活物質の製造」
上記で作製した正極を用いて、以下の実施例及び比較例による活物質の製造を行った。
【0168】
(1)電極合材の回収
実施例1−1と同様に作製した電極から、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。
【0169】
(2)活性化処理剤混合工程
実施例1−1と同様に、所定量の電極合材に所定量の活性化処理剤を加えて、乳鉢を用いて混合し、混合物(活性化処理前混合物)を得た。
【0170】
(3)活性化処理工程
実施例1−1と同様に、得られた混合物をアルミナ製焼成容器に入れて、アルミナ製の管状電気炉の内に設置した。管内に空気を所定の流量で流し、所定の保持温度、保持時間の条件で加熱した。加熱速度は200℃/時間とした。
【0171】
(4)気化分離工程
活性化処理工程後、電気炉の温度を所定の値まで高め、所定の時間保持した。管内に空気を所定の流量で流した。加熱速度は200℃/時間とした。その後、自然冷却した。室温まで冷却された後に、活物質を回収した。
【0172】
(5)フッ素成分の回収
気化分離工程において管状電気炉内から排出されたガスを100mLの純水を通過させてガス中のフッ素成分を捕集した。気化分離工程が終了した後、溶液中に含有するフッ素イオン濃度をフッ素イオンメーターを用いて測定した。
【0173】
「比較例5−1:活性化処理剤なし」
正極から取り出した電極合材2gに活性化処理剤を混合せずに、空気流量1L/分において、保持温度400℃、保持時間4時間で、加熱した。その後、さらに温度を900℃に上げて、1時間、加熱した。その後、炉内を自然冷却して、回収物を回収した。処理条件を表5−Aに示す。
回収物の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、および回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表5−Bに示す。
0.2Cと5Cの放電容量は低かった。
【0174】
「実施例5−1:LiNO3活性化処理剤」
比較例5−1と同じ電極合材に活性化処理剤としてLiNO3をそれぞれ電極合材中の正極活物質1モルに対して0.1モルを混合して混合物を得た。活性化処理工程として、該混合物を保持温度400℃、保持時間4時間で、活性化処理した。その後、気化分離工程として、さらに温度を900℃まで上げて1時間、加熱した。その後、自然冷却し、活物質を回収した。処理条件を表5−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表5−Bに示す。
結晶構造はR3−mであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例5−1よりも高かった。
【0175】
「実施例5−2:LiNO3活性化処理剤」
気化分離工程の条件として、700℃で1時間加熱した以外は実施例5−1と同様にして、電極合材から活物質を回収した。処理条件を表5−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表5−Bに示す。
結晶構造はR3−mであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例5−1よりも高かった。
【0176】
【表5-A】
【0177】
【表5-B】
【0178】
<VI.使用済み電池から回収した正極からのLiCoO2活物質の回収>
活物質にLiCoO2が用いられた電池を充放電サイクルを繰り返して、使用済み電池とした。該使用済み電池を解体し、正極を取り出した。該使用済み電池から取り出した電極正極を電池廃材として、該正極よりLiCoO2活物質を回収した。
【0179】
「A.活物質にLiCoO2が用いられた使用済み電池から回収した正極の構成」
活物質にLiCoO2が用いられた使用済み電池から回収された正極の構成は以下の通りであった。該電極は、正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に電極合材が積層されていた。該電極合材は、以下の活物質、導電材、結着材、及び増粘剤にて構成されていた。
電極合材を構成する活物質としては、未利用活物質としてICP発光分析により測定される組成がLiCoO2であり、粉末X線回折測定により測定される結晶構造がR−3mであり、BET比表面積が0.2m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径が10μmである正極活物質が用いられていた。活物質(未利用活物質)を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は150mAh/gであり、5C放電容量は101mAh/gであった。
活物質にLiCoO2が用いられた使用済み電池から取り出した正極を用いてコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は149mAh/gであり、5C放電容量は5mAh/gであった。使用済み電池から回収した正極では、活物質の5C放電容量は未利用活物質に対して低下していた。
活物質にLiCoO2が用いられた使用済み電池から回収された電極を構成する該導電材は、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)が使用されていた。アセチレンブラックのBET比表面積は40m2/gであり、平均一次粒子径は50nmであった。
該結着材としてはPTFEが使用されていた。
該増粘剤としてはCMCが使用されていた。
該電極合材の構成比率は、活物質:導電材:結着材:増粘剤の重量比がそれぞれ92:2.7:4.55:0.75であった。
【0180】
「B.電極廃材からの活物質の回収」
上記で使用済み電池から回収した正極を用いて、以下の実施例及び比較例による活物質の回収を行った。
【0181】
「比較例6−1:活性化処理剤なし」
活物質にLiCoO2が用いられた使用済み電池から取り出された電極合材2gに活性化処理剤を混合せずに、保持温度700℃、処理時間4時間で加熱し、他の条件は比較例1−1と同様にして、回収物を得た。処理条件を表6−Aに示す。
回収物の結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表6−Bに示す。
回収物の粉末X線回折測定により、R3−mの結晶構造に加えて、Co34に一致する結晶構造が観測された。0.2C放電容量は低かった。
【0182】
「実施例6−1:Li2CO3・Na2SO4活性化処理剤」
比較例6−1と同じ電極合材2gに活性化処理剤としてLi2CO3とNa2SO4を電極合材中の正極活物質1モルに対してそれぞれ0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持温度4時間で、活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表6−Aに示す。
得られた活物質の組成、結晶構造、平均粒子径、比表面積、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表6−Bに示す。
回収物の粉末X線回折測定により、R3−mの結晶構造に加えて、CoOに一致する結晶構造が観測された。0.2Cと5Cの放電容量は比較例6−1よりも高かった。
固液分離工程において活物質と分離されたろ液に含まれるフッ素イオンを測定したところ34mgが水溶液として回収できていた。これは処理前の電極合材に含まれるフッ素成分の49%に相当した。
【0183】
【表6-A】
【0184】
【表6-B】
【0185】
<VII.正極からの活物質LiNi1/3Co1/3Mn1/32の回収>
「LiNi1/3Co1/3Mn1/32を活物質とする正極の作製」
活物質にLiNi1/3Co1/3Mn1/32が用いられた正極を以下に示す方法で作製した。
活物質135gと導電材7.5gと結着材7.5gと溶媒150gとをディスパーマット(VAM−GEZTMANN社製)で混合することで正極合材ペーストを作製した。
該活物質としては、ICP発光分析により測定される組成がLiNi1/3Co1/3Mn1/32であり、粉末X線回折測定により測定される結晶構造がR−3mであり、BET比表面積が0.4m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径が8μmである正極活物質を用いた。活物質(未利用活物質)を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C放電容量は154mAh/gであり、5C放電容量は130mAh/gであった。
該導電材としては、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製)を使用した。該アセチレンブラックのBET比表面積は40m2/gであり、SEM観察により得られた画像から測定される平均一次粒子径は50nmであった。
該結着材と溶媒としては、結着材であるPVdF#7300を5重量%含むNMP溶液(株式会社クレハ社製)にさらにNMP溶媒を追加投入して所定の比率とした。
該正極合材ペーストを厚さ20μmのリチウムイオン2次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に、二次電池用コーターを用いて塗工し、乾燥し、電極を得た。アルミニウム箔上の電極合材量は15mg/cm2であった。
【0186】
「電極廃材からの活物質の製造」
上記で作製した正極を用いて、以下の実施例及び比較例による活物質の製造を行った。
【0187】
「比較例7−1:活性化処理剤なし」
上述した活物質にLiNi1/3Co1/3Mn1/32が用いられた正極から機械的に電極合材を剥離した。該電極合材2gに活性化処理剤を混合せずに、保持温度700℃、保持時間4時間で加熱し、他の条件を比較例1−1と同様にして回収物を得た。処理の条件を表7−Aに示す。
回収物の結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量および回収物を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表7−Bに示す。
回収物の結晶構造はR3−mであった。0.2Cと5Cの放電容量は低かった。
【0188】
「実施例7−1:Li2CO3・Na2SO4活性化処理剤」
比較例7−1と同じ活物質にLiNi1/3Co1/3Mn1/32が用いられた正極から回収した電極合材2gに、活性化処理剤としてLi2CO3とNa2SO4を電極合材中の正極活物質1モルに対して0.1モルと0.1モルとを混合して混合物を得て、該混合物を保持温度700℃、保持時間4時間、活性化処理し、他の条件を実施例1−1と同様にして活物質を得た。処理条件を表7−Aに示す。
得られた活物質の結晶構造、平均粒子径、比表面積、燃焼性物質の含有量、フッ素回収量(回収率)および活物質を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cと5Cの放電容量を表7−Bに示す。
活物質の結晶構造はR3−mであった。0.2Cと5Cの放電容量は比較例7−1よりも高かった。0.2Cの放電容量は未利用活物質と同程度であった。
【0189】
【表7-A】
【0190】
【表7-B】
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明の製造方法によれば、活物質の原料から活物質を製造するのに必要な製造コストや製造エネルギーを必要とせずに、かつ電池廃材からの活物質の回収に有機溶剤を使用せずに、電池廃材から活物質を直接製造することができるため、工業的に有望である。
図1
図2
図3