(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術においては、第1層及び第2層に対して、それぞれ乾燥工程を必要とするので、乾燥設備が大型化し、生産効率も低下する問題があった。
また、活物質や結着材等を溶媒に混練してペースト状にして塗工した後に、溶媒を乾燥工程で蒸発させる方法であるので、蒸発させる溶媒自体及び乾燥エネルギーが無駄でもある。
【0005】
そこで、本発明者らは、集電体表面に、溶媒に結着材を分散してなる結着材溶液を薄く塗工し、その上に、活物質と結着材とを少なくとも含む粉末成分を堆積させ、その後に集電体上の結着材溶液および粉末成分の堆積層をローラで加熱しつつ加圧することにより製造する、リチウムイオン二次電池の新たな製造方法を検討している。この製造方法によって、大型の乾燥工程は不要となって生産効率が向上し、溶媒及び乾燥エネルギーに関する費用を大幅に低減できる。
【0006】
しかし、上述したリチウムイオン二次電池の新たな製造方法は、結着材塗液を集電体表面に全面塗工する方法であるので、結着材の上に供給する活物質及び結着材を含有する粉末成分(粉末状の合剤)の堆積層を加熱、加圧しても、集電体表面に塗工した結着材が、集電体と活物質との間に薄い絶縁被膜として残留し、電極板における垂直方向の電気抵抗(以下、「貫通抵抗」といい、特に低温環境下で測定するセルの反応抵抗を「低温反応抵抗」という)が増大する恐れがあった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、生産効率が良く、集電体と活物質との剥離強度を高く維持しつつ、電極板の貫通抵抗を低減できるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、次のような構成を有している。
(1)少なくとも正極活物質又は負極活物質と結着材とを含む合剤層を、集電体上に結着材を介して形成させた電極板を有するリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記集電体表面に結着材塗液をパターン塗工して結着材塗布部及び結着材非塗布部を規則的に形成する結着材塗布工程と、
前記結着材塗布部及び結着材非塗布部上に合剤粒子の粉体を供給して前記合剤層を前記集電体上に形成させる合剤層形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、集電体表面に結着材塗液をパターン塗工して結着材塗布部及び結着材非塗布部を規則的に形成する結着材塗布工程を備えているので、集電体の表面には、結着材が塗工されている結着材塗布部と結着材が塗工されていない結着材非塗布部とが、規則的に形成されている。ここで、パターン塗工とは、ドットや列などの特定のパターン形状で結着材塗液を集電体表面に塗工することを指す。
そのため、集電体の表面に規則的にパターン塗工されている結着材によって、その上から供給される合剤粒子の粉体を集電体上に積層させることができる。すなわち、集電体の表面には結着材が特定のパターン形状で規則的に塗工されているので、その結着材の上に供給された合剤粒子を特定のパターン形状で規則的に集電体に結着させることができる。
【0010】
また、合剤粒子は、少なくとも正極活物質又は負極活物質と結着材とを含有しているので、正極活物質同士又は負極活物質同士は、合剤粒子の粉体に含有されている結着材によって、互いに結着させることができる。
その結果、集電体の表面に特定のパターン形状で規則的に塗工された結着材によって集電体と活物質は結着されるとともに、活物質同士も合剤粒子の粉体に含有される結着材によって結着されることができる。言い換えると、集電体の表面に結着されない活物質は、隣接する活物質同士の結着によって、合剤層全体として集電体上に結着されることができる。
したがって、集電体上に互いに結着された活物質を有する合剤層が形成され、集電体に対する合剤層の剥離強度を確保できる。
【0011】
一方、集電体には、結着材非塗布部も規則的に形成されている。結着材非塗布部は、結着材に覆われていない集電体表面の露出部を構成している。そのため、集電体表面の露出部において、集電体と活物質とを直接的に当接させることができる。その結果、集電体表面の露出部においては、集電体と活物質との間に絶縁体となる結着材を介在させることなく、導電パスを形成することができ、電極板における貫通抵抗(低温反応抵抗)の低減に寄与できる。
【0012】
また、本発明においては、結着材塗布部及び結着材非塗布部上に合剤粒子の粉体を供給して合剤層を集電体上に形成させる合剤層形成工程を備えているので、合剤をペースト状に混練するための溶媒及びその溶媒を蒸発させる乾燥工程を必要としない。
そのため、溶媒材料及び乾燥エネルギーの無駄を大幅に低減できる。また、合剤粒子の粉体を供給する粉体供給装置は必要であるが、一般に大型となる乾燥装置を省略できるので、全体として設備費や設備スペースを大幅に低減でき、効率的な生産が可能となる。
【0013】
本発明において、パターン塗工する結着材塗布部における塗布膜厚は、1.5μm程度で、合剤粒子の粉体を供給して積層する堆積層の膜厚は、100〜120μm程度である。堆積層は加圧成形されて、80μm程度の膜厚に圧縮される。そのとき、活物質と結着材とが密着されて合剤層が形成される。ここで、パターン塗工する結着材塗布部における塗布膜厚をより詳細に述べると、乾燥前のWet膜厚が1.0〜6.0μm(狙いは1.5μm)で、乾燥後のDry膜厚が0.1〜3.0μm(狙いは0.7μm)であることが、好ましい。
なお、結着材塗布部における塗布膜厚が、1.5μm程度であると、パターン塗工後の乾燥工程は不要となる。使用している溶媒の量が少ないので、合剤層形成工程の加圧成形で、溶媒が粉体側に吸収され揮発するからである。よって、電極板を一層効率良く生産することができる。
【0014】
(2)(1)に記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記パターン塗工は、凹版グラビア塗工により行うことを特徴とする。
【0015】
本発明においては、パターン塗工は、凹版グラビア塗工により行うので、結着材塗布部における塗布膜厚が数μm程度の薄塗り高速塗工を実現できる。そのため、結着材を精度よく薄塗り塗工でき、必要以上に厚く塗工することがない。したがって、合剤粒子の粉体を積層してからローラ加圧したとき、集電体上で結着材が必要以上に拡張されることが少ない。
その結果、集電体表面の露出部において、絶縁体となる結着材を介在させることなく、集電体と活物質との間に確実に導電パスを形成することができ、電極板の貫通抵抗の低減に一層有効である。
また、凹版グラビア塗工に適用できる塗液の粘度範囲は、数cps〜3000cps程度と広いため、例えば、粘度の高い塗液を使うとノズル詰まりが生じやすいインクジェット方式に比べて有利である。
【0016】
(3)(2)に記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記結着材塗布部の平面形状は、前記集電体の搬送方向と平行な方向の長さが搬送方向と垂直な方向の長さより大きいことを特徴とする。
【0017】
本発明においては、結着材塗布部の平面形状は、集電体の搬送方向と平行な方向の長さが搬送方向と垂直な方向の長さより大きいので、グラビアロールに彫刻された凹版内に空気を巻き込みにくい効果がある。
すなわち、グラビアロールが回転して、搬送されてくる集電体の表面に結着材塗液を塗布する際、例えば、版の凹部が真円であると、凹版内に入った空気の逃げ道がないので、そのまま残ってしまい、凹版内の結着材塗液が集電体の表面に精度よく転写されない恐れがある。
【0018】
これに対して、本発明においては、結着材塗布部の平面形状は、集電体の搬送方向と平行な方向の長さが搬送方向と垂直な方向の長さより大きいので、搬送方向と平行な方向に空気の逃げ道ができ、グラビアロールの凹版内に空気を巻き込みにくい。その結果、凹版内の結着材塗液が集電体の表面に精度よく転写される。
例えば、搬送方向に長い菱形や搬送方向に長い楕円などが該当する。また、凹版の形状は、搬送方向に平行な縦線、搬送方向に傾斜する傾斜線、搬送方向に長い格子模様であってもよい。
【0019】
(4)(2)に記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロールには、互いに交差する交差部を有する複数の溝状凹部が彫刻され、
前記結着材塗布部は、前記溝状凹部に補液される前記結着材塗液が前記交差部に液収縮して散点状に塗工されることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロールには、互いに交差する交差部を有する複数の溝状凹部が彫刻され、結着材塗布部は、溝状凹部に補液される結着材塗液が交差部に液収縮して散点状に塗工されるので、集電体上に散点状の結着材塗布部を均一に形成することができる。
すなわち、凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロールに彫刻された溝状凹部の交差部は、溝延伸方向に壁面がなく開放されているので、空気が溝延伸方向に逃げ、溝状凹部内に結着材塗液が入り込みやすい。また、溝状凹部の交差部は、溝延伸方向に開放され、散点状凹部のように全周が壁面で囲まれていないので、液保持性が低い。特に、溝状凹部の交差部における液保持性は、溝状凹部の一般部における液保持性より低くなる。
【0021】
一方、溝状凹部内の結着材塗液は、溝状凹部の壁面からの界面張力が最小となる交差部に集まって散点状に液収縮する性質がある。
そのため、交差部に集まって散点状に液収縮した結着材塗液は、交差部における液保持性が一般部より低いので、集電体上に確実に転写されやすい。
したがって、凹版グラビア塗工において、集電体上に散点状の結着材塗布部を均一に形成することができる。
【0022】
(5)(4)に記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記溝状凹部は、溝幅が10〜40μm、溝ピッチが23〜40μm、溝深さが5〜20μmの格子状に形成され、
前記集電体上に前記結着材塗液を滴下したときの液滴の前記集電体表面での接線と前記集電体表面とのなす接触角が50度以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、溝状凹部は、溝幅が10〜40μm、溝ピッチが23〜40μm、溝深さが5〜20μmの格子状に形成され、集電体上に結着材塗液を滴下したときの液滴の集電体表面での接線と集電体表面とのなす接触角が50度以上であるので、集電体上に散点状の結着材塗布部を、より一層均一に形成することができる。
具体的には、溝幅を10〜40μmとしたのは、溝幅が10μm未満では結着材塗液が一部に偏析して、均一な大きさの結着材塗布部を形成しにくく、溝幅が40μmを超過すると壁面に沿って液収縮して、一定の散点状を形成しにくくなるからである。
また、溝ピッチを23〜40μmとしたのは、溝ピッチが23μm未満では隣接する結着材塗液同士が合体して、均一な大きさの結着材塗布部を形成しにくく、溝ピッチが40μmを超過すると液収縮する散点状が不均一になるからである。
また、溝深さを5〜20μmとしたのは、溝深さが5μm未満では必要なWet膜厚を形成できず、溝深さが20μmを超過すると液保持性が高くなり、結着材塗液の一部が転写されない可能性が高くなるからである。
【0024】
さらに、集電体上に結着材塗液を滴下したときの液滴の集電体表面での接線と集電体表面とのなす接触角が50度以上としたのは、接触角が50度未満では結着材塗液の濡れ性が高く、溝状凹部の交差部に液収縮しにくい傾向があるからである。ここで、結着材塗液に増粘剤(例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース))を添加すると接触角が増大し、界面活性剤を添加すると接触角が減少する傾向がある。したがって、結着材塗液にCMC(カルボキシメチルセルロース)を所定量(0.2〜0.4wt%程度)添加することで、液収縮性を向上させ、均一な散点形状の結着材塗布部を形成することができる。
【0025】
なお、本発明者らは、試行錯誤する中で、凹版グラビア塗工に用いるグラビアロールに彫刻された溝状凹部は、溝深さが5〜20μm、溝幅が10〜40μm、溝ピッチが23〜40μmの格子状に形成され、集電体上に結着材塗液を滴下したときの液滴の集電体表面での接線と集電体表面とのなす接触角が50度以上であることが、乾燥前のWet膜厚を1.0〜6.0μm(狙いは1.5μm)とする上で好ましいことを実験的に発見したのである。
【0026】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記結着材塗液に用いられる結着材のガラス転移温度は、−50℃〜30℃の範囲内にあることを特徴とする。
【0027】
本発明においては、結着材塗液に用いられる結着材のガラス転移温度は、−50℃〜30℃の範囲内にあるので、結着材が乾燥しても柔軟性や密着性が確保される。そのため、合剤層形成工程のときに室温で加圧する場合、結着材が乾燥していても集電体と活物質との結着力及び活物質同士の結着力を高めて、電極板の剥離強度や導電パスの形成に有効に作用する。なお、発明者らの実験によれば、結着材をSBR(スチレン・ブタジエン・ゴム)とし、そのガラス転移温度を−50℃以上とすると、−50℃未満とした場合に比較して、90度剥離強度が約4倍に上昇することを確認できた。
【0028】
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記パターン塗工における前記集電体の露出面積比率は、10〜85%の範囲内であることを特徴とする。
【0029】
本発明においては、パターン塗工における集電体の露出面積比率は、結着材塗液の塗布部及び非塗布部の占める面積に対する、非塗布部の占める面積の比率を意味する。パターン塗工における集電体の露出面積比率は、10%以上であるので、電極板の−30℃における低温反応抵抗を従来の塗布電極以下とすることができる。また、露出面積比率が10%程度の場合、露出面積比率が0%(結着材溶液を全面塗布)のときに比較して、−30℃における低温反応抵抗が、約20%低減することを、本発明者らは実験で確認した。
【0030】
また、パターン塗工における集電体の露出面積比率は、85%以下であるので、集電体上に形成する合剤層の90度剥離強度を所定の基準値(例えば、1.5N/m程度:従来の塗布電極のレベル)以上に確保することができる。
したがって、パターン塗工における集電体の露出面積比率を10〜85%とすることによって、電極板の剥離強度と貫通抵抗とを従来の塗布電極以上の水準で両立させることができる。
なお、パターン塗工における集電体の露出面積比率を50〜70%とすると、更に好ましい。この場合における−30℃における低温反応抵抗は、従来の塗布電極のレベルより約30%低減できる。この値は、例えば、負極電極においてカーボンコート処理した集電体に合剤粒子の粉体を積層する方法と同レベルである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、生産効率が良く、集電体と活物質との剥離強度を高く維持しつつ、電極板の貫通抵抗を低減できるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、リチウムイオン二次電池の構造を簡単に説明した後で、集電体の片面に合剤層を形成する第1の実施形態を詳述する。次に、集電体の両面に合剤層を形成する第2の実施形態を詳述する。最後に、凹版グラビアロールに互いに交差する交差部を有する溝状凹部を彫刻し、溝状凹部に補液される結着材塗液が交差部に液収縮して、集電体上に散点状の結着材塗布部を形成する第3の実施形態を詳述する。
【0034】
<リチウムイオン二次電池の構造>
まず、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構造について説明する。
図1に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の断面図を示す。
図2に、
図1に示すリチウムイオン二次電池100の電極詳細図(B部の拡大断面図)を示す。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池100は、電極体101と、電解液103と、これらを収容する電池ケース104とを備える。電池ケース104は電池ケース本体1041と封口板1042とを備えている。また,封口板1042は,絶縁部材1043と安全弁1044とを備えている。
【0035】
電極体101は、ウェブ状の集電体Zに正極活物質又は負極活物質を結着材等で結着した合剤層を形成して正極板1011及び負極板1012を作製し、正極板1011及び負極板1012の間にセパレータ105を挟んで捲回してから、扁平形状にしたものである。正極板1011及び負極板1012を総称して、電極板1010とも言う。図面右手に、正極板1011の外部端子T1が封口板1042から突出し、図面左手に、負極板1012の外部端子T2が封口板1042から突出している。電池ケース本体1041の下部には、電解液103が貯留され、正極板1011及び負極板1012は、電解液103に浸漬している。
【0036】
図2に示すように,正極板1011は、正極集電体であるアルミニウム箔ZAの両面に、正極合剤層Sを形成したものである。一方、負極板1012は,負極集電体である銅箔ZCの両面に負極合剤層Fを形成したものである。正極板1011と負極板1012とは、それぞれに用いられる活物質の材料が異なるが、基本的には類似の構造をしている。そのため、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極板1011及び負極板1012に適用することができる。
【0037】
(第1の実施形態)
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の中で、技術的特徴である集電体の片面に合剤層を形成する方法について説明する。
図3に、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造装置の一部を示す。
【0038】
図3に示すように、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造装置10には、凹版グラビアロール1、液パン2、バックアップロール3、放熱機4、粉体フィーダ5、加圧ローラ6、7、搬送ローラ8を備えている。
凹版グラビアロール1は、集電体Zの表面に結着材塗液21をパターン塗工する円柱状ロールである。集電体Zは、厚さ20μm程度である。円柱状ロールの塗工外周面には、所定のパターン形状を彫刻された凹版11が形成されている。凹版11のパターン形状については、後で詳細に説明する。凹版グラビアロール1は、高速回転時の剛性や凹版11の耐摩耗性等を考慮して、直径、硬度、材質等を選定する。
【0039】
液パン2は、凹版グラビアロール1でパターン塗工する結着材塗液21を貯留する容器である。結着材塗液21は、SBR水分散液である。SBRの濃度は、10.0〜40wt%である。SBRのガラス転移温度は、−50℃〜30℃の範囲内である。結着材塗液21には、塗液の粘度やぬれ性を調整するために、増粘剤や界面活性剤を含んでいてもよい。増粘剤や界面活性剤としては、公知のものを使用することができる。また、結着材は、SBR以外にも、水系のポリアクリル酸(PAA)や、有機溶媒系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを用いてもよい。
【0040】
液パン2に貯留された結着材塗液21内に、凹版グラビアロール1の下端が浸漬されている。結着材塗液21は、凹版グラビアロール1の回転に伴い、凹版11内に補液される。液パン2の上方には、凹版グラビアロール1の凹版内に補液された結着材塗液21の液だれを防止するため、スクレーパ12が凹版グラビアロール1の外周面に当接して、外周面に付着した余分の結着材塗液21を掻き落としている。
【0041】
凹版グラビアロール1に対向して、ゴム製のバックアップロール3が配置されている。凹版グラビアロール1とバックアップロール3との隙間を、ウェブ状の集電体Zが通過するとき、集電体Zの片方の表面には、凹版11内に補液された結着材塗液21が塗工される。一定速度で塗工することによって、集電体Z上に凹版11のパターン形状に対応する結着材塗布部ZT1と結着材非塗布部ZT2が規則的に形成される。パターン塗工における集電体Zの露出面積比率は、10〜85%程度の範囲内である。集電体Zへの塗工速度は、30〜60m/分程度である。結着材塗布部ZT1の膜厚は、数μm(好ましくは、1.5μm)程度である。
【0042】
結着材塗液21をパターン塗工された集電体Zは、搬送ローラ8で搬送方向を垂直方向から水平方向へ変更してから、放熱機4によって乾燥される。本実施形態では、結着材であるSBRのガラス転移温度は、−50℃以上であるので、放熱機4で乾燥させてドライ状態にすることによって、密着性を高めながら低温反応抵抗を下げることができる。なお、結着材塗布部ZT1の膜厚が薄い場合(例えば、1.5μm程度)には、放熱機4による乾燥を省略することができる。水分量が少ないので、その後の粉体成形にて揮発させることができるからである。
【0043】
放熱機4に隣接して、搬送方向後ろ側には粉体フィーダ5が配設されている。粉体フィーダ5は、結着材塗液21をパターン塗工された結着材塗布部ZT1上に、活物質及び結着材等を含有する合剤粒子の粉体51を所定の厚みで連続的に供給する装置である。合剤粒子の粉体51は,活物質と結着材にそれぞれ粉末状のものを用い、これらを混ぜ合わせることにより製造されたものである。なお、合剤粒子に用いる結着材は、結着材塗液に用いる結着材と同じ種類であっても、違う種類であっても良い。活物質には、負極活物質として、例えば、アモルファスコート黒鉛を用いることができる。また、結着材には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。合剤粒子の粉体51は、黒鉛とPTFEとを,98:2程度の比率(wt%)で配合したものである。
【0044】
なお、合剤粒子の粉体51は、活物質と結着材と増粘剤とを溶媒に溶かして混練し、乾燥させて造粒する方法で製造してもよい。この場合における活物質と結着材と増粘剤との混合比率(wt%)は、97.3:2.0:0.7程度である。
ここで、合剤粒子の粉体51の堆積量は10mg/cm
2程度であり、堆積層52の厚さは100〜120μm程度である。
【0045】
粉体フィーダ5を通過した集電体Zは、加圧ローラ6、7の間を通過する。加圧ローラ6、7は、粉体フィーダ5によって堆積した合剤の堆積層52を加圧して、所定の密度の合剤層53を形成する装置である。加圧成形することによって、合剤層53は、結着材を密着させて剥離強度を高め、かつ、集電体表面の露出部から活物質へと繋がる導電パスを形成して貫通抵抗を低減できる。加圧後の合剤層53の厚さは、80μm程度である。
【0046】
加圧ローラ6、7は、合剤層53を100〜150℃程度に加熱することもできる。加熱は、合剤層53と集電体Zとの密着性を高めるとともに、合剤層53に含まれる揮発物質(溶媒や湿気)などの不純物を除去する効果を有する。
以上のように、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、電極板1010における集電体Zの片面に合剤層53を形成することができる。なお、電極板1010における集電体Zの両面に合剤層53を形成する場合には、上記製造方法を2回繰り返すことになる。
【0047】
<凹版のパターン形状>
次に、第1の実施形態に係る製造方法に適用する凹版11のパターン形状について説明する。
図4に、
図3に示す製造装置における凹版のパターン形状事例を示す。
図4(a)〜(e)に示すように、パターン塗工された結着材塗布部の平面形状は、散点状模様又は線状模様であって、集電体の搬送方向と平行な方向の長さが搬送方向と垂直な方向の長さより大きく形成されている。搬送方向は、図面上下方向(矢印の方向)である。
【0048】
図4(a)の示す模様は、集電体の搬送方向に長い楕円形状である。楕円形状は、所定の間隔で、搬送方向と垂直な方向に横一列に配列されている。また、楕円形状は、前の横一列に対して搬送方向で千鳥状に位置をずらして、後の横一列が形成されている。搬送方向における横一列同士の間隔は、隣接する楕円形状が交差しない程度であればよい。1つの楕円形状における長軸の長さ(長径)は、数十μm程度で、短軸の長さ(短径)に対して2〜3倍程度が好ましい。
【0049】
図4(b)の示す模様は、集電体の搬送方向に長い菱形形状である。菱形形状は、所定の間隔で、搬送方向と垂直な方向に横一列に配列されている。また、菱形形状は、前の横一列に対して搬送方向で千鳥状に位置をずらして、後の横一列が形成されている。搬送方向における横一列同士の間隔は、菱形形状が交差しない程度であればよい。1つの菱形形状における搬送方向と平行な対角線長さは、数十μm程度で、直交する対角線長さに対して2〜3倍程度が好ましい。
【0050】
図4(c)の示す模様は、搬送方向に平行な縦線形状である。縦線の幅及び縦線同士の間隔は、数十μm程度である。また、縦線は、本図では直線であるが、曲線とすることも可能である。また、隣接する縦線の幅は、本図では一定であるが、規則的に大小させることも可能である。
【0051】
図4(d)の示す模様は、搬送方向に傾斜する傾斜線形状である。傾斜線の幅及び傾斜線同士の間隔は、数十μm程度である。また、傾斜線は、本図では直線であるが、曲線とすることも可能である。また、隣接する傾斜線の幅は、本図では一定であるが、規則的に大小させることも可能である。
【0052】
図4(e)の示す模様は、搬送方向に傾斜する傾斜線を交差させた格子模様の形状である。格子模様を構成する傾斜線の幅及び傾斜線同士の間隔は、数十μm程度である。ただし、傾斜線の幅が50μm以上であると、傾斜線が交差する角部付近で塗液が凝集してパターンの乱れが生じやすくなるので、傾斜線の幅は、10〜40μm程度が好ましい。また、格子模様を構成する傾斜線は、本図では直線であるが、曲線とすることも可能である。また、隣接する傾斜線の幅は、本図では一定であるが、規則的に大小させることも可能である。
【0053】
なお、
図4には、凹版グラビアのパターン形状として好適な事例を示すが、必ずしも、これらに限定されるものではない。例えば、楕円形状を搬送方向に連続するように形成してもよいし、楕円形状と菱形形状を組み合わせてもよい。
以上、第1の実施形態においては、結着材塗布部の平面形状は、集電体の搬送方向と平行な方向の長さが搬送方向と垂直な方向の長さより大きいので、搬送方向と平行な方向に空気の逃げ道ができ、グラビアロールの凹版内に空気を巻き込みにくい。その結果、凹版内の結着材塗液が集電体の表面に精度よく転写される。
【0054】
<合剤層の剥離強度と貫通抵抗の両立メカニズム>
次に、第1の実施形態に係る製造方法により製造したリチウムイオン二次電池の電極板において、合剤層の剥離強度と貫通抵抗とを両立させるメカニズムについて説明する。
図5に、第1の実施形態に係る合剤層の模式的断面図を示す。
図6に、集電体の露出面積比率を10%未満とした場合の合剤層の模式的断面図を示す。
【0055】
図5に示すように、集電体Zの表面には、結着材B1が所定幅でパターン塗工されて、結着材B1の結着材塗布部が断続的に形成されている。結着材B1が塗工されていない集電体Zの表面ZNは、結着材非塗布部(露出部)となっている。結着材B1の結着材塗布部及び結着材非塗布部上には、粒子状の活物質Kが、粒子状の結着材B2と共に堆積される。
活物質Kと結着材B2の堆積層が加圧ローラによって加圧されると、活物質Kの一部は、結着材塗布部の結着材B1を介して集電体Z表面に結着される。また、活物質Kの他の一部は、集電体Zの結着材非塗布部(露出部)に直接的に密着される。
【0056】
したがって、活物質Kは集電体Z上に結着材B1によって結着されて、集電体Zと活物質Kとの剥離強度が高められる。同時に、活物質Kは、集電体Z上に直接密着して電子dが伝達される導電パスD1〜D3を数多く形成する。
【0057】
また、加圧ローラによって加圧されて活物質K同士が密着するとき、その隙間に介在する粒子状の結着材B2を押し潰して、活物質Kの一部は、押し潰された結着材B2によって、隣接する活物質Kに結着される。また、活物質Kの他の一部は、粒子状の結着材B2を介さず、隣接する活物質Kに直接的に密着される。
したがって、積層された活物質K同士は、結着材B2によって結着されて剥離強度を高めると同時に、活物質K同士も直接密着して導電パスD1〜D3を合剤層Gの上端まで形成する。この導電パスD1〜D3を集電体Zの表面から合剤層Gの上端まで数多く形成することによって、電極板の貫通抵抗を低減することができる。
【0058】
よって、第1の実施形態に係る製造方法によれば、製造したリチウムイオン二次電池の電極板における合剤層Gの剥離強度と貫通抵抗とを両立させることができる。
なお、
図6に示すように、集電体の露出面積比率を10%未満とした場合には、活物質Kの多くは、結着材塗布部の結着材B1を介して集電体Z表面に結着される。加圧ローラによって活物質Kと結着材B2の堆積層を加圧しても、集電体Zと活物質Kとの大半の間に結着材B1が薄膜として残留する。結着材B1自体は絶縁体であるため、形成される導電パスD1は、僅かに残る露出部に限定されることになる。その結果、合剤層Gの剥離強度は高く確保されるが、貫通抵抗は増大してしまう。
よって、リチウムイオン二次電池の電極板における合剤層Gの剥離強度と貫通抵抗とをより良く両立させるためには、集電体の露出面積比率を10%以上とすることが好ましく、集電体の露出面積比率を50〜70%程度の範囲内とするのが更に好ましい。
【0059】
<集電体の露出面積比率と低温反応抵抗の関係>
次に、第1の実施形態に係る製造方法により製造したリチウムイオン二次電池の電極体において、集電体の露出面積比率と低温反応抵抗の関係について説明する。
図7に、第1の実施形態に係る負極板において、集電体の露出面積比率と低温反応抵抗との関係のグラフを示す。
図7は、凹版グラビアのパターン形状を変化させて、集電体の露出面積比率を徐々に増加させ、その時に形成された電極板の合剤層における−30℃での低温反応抵抗を測定した結果をプロットし、挙動を示したものである。
【0060】
図7に示すように、第1の実施形態に係る製造方法により製造したリチウムイオン二次電池の電極板における集電体の露出面積比率が、10〜85%程度の範囲内であるときには、−30℃における低温反応抵抗を従来の塗布電極より低い値にすることができる。ここで、従来の塗布電極とは、集電体表面に活物質と結着材等とを溶媒に混練してスラリー状にしたペーストを薄膜状に塗工し、その後、乾燥・プレスすることによって製造した電極である。
【0061】
集電体の露出面積比率が10%程度のとき、−30℃における低温反応抵抗は、従来の塗布電極と略同レベルであったが、集電体の露出面積比率が10%程度より増加するに従って、−30℃における低温反応抵抗は、更に低下する。
集電体の露出面積比率が20〜70%程度の範囲内では、−30℃における低温反応抵抗は、従来の塗布電極のレベルより約30%低減でき、カーボンコート処理した集電体に合剤粒子の粉体を積層・加圧したカーボンコート/粉体電極と略同レベルとなり、略一定に安定している。
【0062】
集電体の露出面積比率が70%程度より増加するに従って、−30℃における低温反応抵抗は、徐々に増加する。集電体の露出面積比率が85%程度のとき、−30℃における低温反応抵抗は、従来の塗布電極と略同レベルとなる。ここで、低温反応抵抗が増加する原因は、電極板を形成後、必要なサイズに切断するときの衝撃によって、一部の合剤層が滑落することが考えられる。
よって、−30℃における低温反応抵抗をより安定して、低い値に維持するためには、集電体の露出面積比率が、50〜70%程度の範囲内であることが好ましい。
【0063】
<パターン塗工する結着材のガラス転移温度の影響>
次に、パターン塗工する結着材のガラス転移温度の影響について説明する。なお、パターン塗工する結着材とは、結着材塗液に用いられる結着材が示すところと同義である。
一般に、結着材は乾燥してしまうと、密着性を発現しにくくなるため、結着材乾燥後に、活物質と結着材の堆積層を加圧成型しても、必要な剥離強度は得られない。
【0064】
そのため、結着材が乾燥する前の湿った状態で、活物質と結着材の堆積層を加圧形成する。しかし、結着材が湿った状態では、活物質と結着材の堆積層を加圧成形するときに、結着材も広がるため、貫通抵抗の上昇要因となっていた。
そこで、本発明者らは、各種結着材で実験を試みたところ、結着材のガラス転移温度を−50℃以上にすると、一度結着材を乾燥させても、活物質と結着材の堆積層を加圧成型したとき集電体と活物質との密着性が得られ、電池性能としても優れていることを発見した。なお、結着材のガラス転移温度を30℃以下にすると、乾式(Dry)で張り合わせたときの剥離強度を大きくすることができる。
【0065】
図8に、第1の実施形態に係る負極板で、パターン塗工する結着材の含有量が少ない場合において、乾式(Dry)、湿式(Wet)の差異が、−30℃における低温反応抵抗に与える影響に関するグラフを示す。この場合の結着材は、ガラス転移温度が−50℃〜30℃の範囲内のSBRである。SBRの塗液含有量は、0.0176mg/cm
2の場合と0.1080mg/cm
2の場合の2種類を用いた。
図8に示すように、結着材の含有量が0.0176mg/cm
2の場合には、乾式と湿式とで、−30℃における低温反応抵抗の差異は約14%であり、乾式と湿式が与える影響はそれほど大きくない。
【0066】
これに対して、結着材の含有量が0.1080mg/cm
2の場合には、−30℃における低温反応抵抗の差異は約32%であり、乾式と湿式が与える影響はかなり大きいことが分かった。また、乾式の場合には、−30℃における低温反応抵抗が、前述したカーボンコート/粉体電極と略同レベルに低減できている。
よって、パターン塗工する結着材の含有量が少ない場合(例えば、0.1080mg/cm
2)においても、結着材のガラス転移温度を−50℃以上にすれば、一度結着材を乾燥させても、活物質と結着材の堆積層を加圧成型したとき集電体と活物質との密着性が得られ、電池性能としても優れている知見を得ることができた。
【0067】
(第2の実施形態)
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の中で、技術的特徴である集電体の両面に合剤層を形成する方法について説明する。
図9に、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造装置の一部を示す。
なお、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、凹版グラビアのパターン形状など、集電体の両面に合剤層を形成する方法以外の点については、第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は割愛する。
【0068】
図9に示すように、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造装置20には、第1凹版グラビアロール1B1、第2凹版グラビアロール1B2、第1液パン2B1、第2液パン2B2、第1バックアップロール3B1、第2バックアップロール3B2、放熱機4B、第1粉体フィーダ5B1、第2粉体フィーダ5B2、加圧ローラ6B、7B、案内ロール81、82を備えている。
【0069】
第1凹版グラビアロール1B1及び第2凹版グラビアロール1B2は、集電体Zの表面に結着材塗液21をパターン塗工する円柱状ロールである。集電体Zのコイル巻き戻し機ZMから送られてくる集電体Zの送り方向外周側を、第1凹版グラビアロール1B1によってパターン塗工し、集電体Zの送り方向内周側を、第2凹版グラビアロール1B2によってパターン塗工する。各凹版11B1、11B2のパターン形状については、第1の実施形態と同様である。
【0070】
第1液パン2B1及び第2液パン2B2は、各凹版グラビアロール1B1、1B2でパターン塗工する結着材塗液21B1、21B2を貯留する容器である。それぞれの結着材塗液21B1、21B2は、SBR水分散液である。SBRの濃度、ガラス転移温度等は、第1の実施形態と同様である。
第1凹版グラビアロール1B1及び第2凹版グラビアロール1B2に対向して、第1バックアップロール3B1、第2バックアップロール3B2が配置されている。第2バックアップロール3B2は、既にパターン塗工された集電体Zの送り方向外周側を押圧するので、放熱機4Bにより乾燥させるが、非粘着ロールを用いる。
集電体Zの送り方向外周側及び送り方向内周側の両面には、凹版のパターン形状に対応する結着材塗布部ZT1C、ZT1Dと結着材非塗布部ZT2C、ZT2Dが規則的に形成される。パターン塗工における集電体の露出面積比率は、10〜85%程度の範囲内である。集電体Zへの塗工速度は、30〜60m/分程度である。結着材塗布部ZT1C、ZT1Dの膜厚は、1.5μm程度である。
【0071】
集電体Zの送り方向外周側及び送り方向内周側の両面にパターン塗工した後、第1粉体フィーダ5B1と第2粉体フィーダ5B2とによって、加圧ローラ6B、7B上に粉末粒子状の活物質と結着材を含有する粉体を積層させる。加圧ローラ6B、7Bは、集電体Zを狭んで対向する位置に配置され、積層された堆積層を集電体Zに加圧しながら回転して、集電体Zの両面に合剤層52B、52Cを形成する。
【0072】
以上のように、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、集電体Zの両面に、同時に合剤層52B、52Cを形成することによって、生産の効率化を一層図ることができる。
また、第1の実施形態のように、集電体の片面に合剤層を形成する方法では、集電体の両面に合剤層を形成するためには、先に形成した合剤層を、後に形成する加圧ローラで、再加圧することになる。その場合、再加圧された合剤層の活物質が変形・劣化する恐れがあり、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、これを防止する効果を有する。
【0073】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロールには、互いに交差する交差部を有する溝状凹部が彫刻され、溝状凹部に補液される結着材塗液が交差部に液収縮して、集電体上に結着材塗布部が散点状に塗工される結着材塗布工程について説明する。
図10に、凹版グラビアロールに散点状の凹部を彫刻し、結着材塗液を集電体上に塗工する様子を説明する模式図を示す。
図11に、固体上に液体を滴下したときの液滴の接触角を表す断面図を示す。
図12に、互いに交差する交差部を有する溝状凹部内の結着材塗液が交差部に向かって液収縮する様子を説明する模式図を示す。
図13に、第3の実施形態に係る溝状凹部の上面図を示す。
図14に、
図13に示すA−A断面図を示す。
この結着材塗布工程は、上述した第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法、及び第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法に適用することができる。
【0074】
<散点状の結着材塗布部を形成する逆転の発想>
集電体上に結着材塗液の凹版グラビア塗工を行うにあたり、円形や菱形パターンのように散点状の結着材塗布部(以下、「散点状の塗布部」ともいう。)を形成すれば、合剤層の剥離強度や電極板の貫通抵抗において優れていることが、本発明者らの実験によって判明した。
ところが、
図10に示すように、集電体Z上に散点状の塗布部Dを形成すべく、凹版グラビアロール1に散点状の凹部13を彫刻すると、散点状の凹部13には空気が入り込みやすく、かつ、結着材塗液21が入り込みにくい問題があった。
また、散点状の凹部13は、結着材塗液21を壁面で全周包囲して液保持性が高いため、結着材塗液21が矢印m、nの方向に引っ張られて散点状の凹部13に残留して集電体Z上に転写されにくい問題があった。
そこで、本発明者らは、試行錯誤の結果、集電体Z上に散点状の塗布部Dを形成するため、凹版グラビアロール1に散点状の凹部13を彫刻するのではなく、凹版グラビアロール1に互いに交差する交差部を有する複数の溝状凹部を彫刻し、溝状凹部に補液される結着材塗液が交差部に液収縮することで、集電体Z上に転写された結着材塗布部ZT1を散点状に形成するという逆転の発想に至った。
【0075】
<散点状の塗布部を形成するメカニズム>
以下に、この逆転の発想を生み出した散点状の塗布部を形成するメカニズムについて説明する。
図11に示すように、一般に、固体V上に液体を滴下したときの液滴Wは、自らの表面張力で半球状に丸くなる性質を有している。ここで、固体の表面張力をS、液体の表面張力をU、固体と液体の界面張力をTとすると、
S=U×cosθ+T・・・・・(1)
の関係式が成立する。(1)の式を「Youngの式」という。この液滴の接線と固体表面とのなす角度θを「接触角」といい、液体の固体表面に対する濡れ性を表す指標となっている。接触角θが小さくなると、濡れ性は増大し、液滴は扁平になって液収縮しにくくなるが、接触角θが大きくなると、濡れ性は減少し、液滴は隆起して液収縮しやすくなる。
また、(1)の式から、固体と液体の界面張力Tを小さくすると、接触角θは大きくなる。固体と液体の界面張力Tは、液体が固体と接触する面積を小さくすることによって減少させることができる。
とすれば、凹版グラビアロールに彫刻する凹部の壁面を一方向において開放すれば、補液された結着材塗液の界面張力Tが一方向において減少して、接触角θが増大し、一方向に向かって液収縮させることができることになる。
【0076】
図12は、互いに交差する交差部を有する溝状凹部に結着材塗液が補液され、交差部を中心にして十字状に補液された結着材塗液が、交差部に向かって液収縮するイメージ図である。
図12(a)は、交差部を中心にして十字状に補液された結着材塗液21a0〜21d0が、液収縮する前の段階である。結着材塗液21a0〜21d0は、液幅が溝状凹部の溝幅と等しく、溝状凹部の延伸方向に長く伸びた状態である。溝状凹部は、延伸方向の壁面が開放されている。そのため、結着材塗液21a0〜21d0には、溝状凹部の延伸方向において作用する界面張力が低下している。したがって、結着材塗液21a0〜21d0には、交差部に向かって液収縮する力e1〜e4が作用している。
図12(b)、
図12(c)は、十字状に補液された結着材塗液21a1〜21d1、21a2〜21d2が、交差部に向かって徐々に液収縮する途中の段階である。結着材塗液21a1〜21d1、21a2〜21d2は、液収縮するに従って液幅が増大し、長さが短くなっている。
図12(d)は、十字状に補液された結着材塗液21a0〜21d0が、最終的に交差部に集合するよう液収縮して、散点状の塊を形成した段階である。この交差部に集合して散点状の塊を形成した結着材塗液22が、集電体上に散点状の塗布部として転写される。このとき、交差部には周囲を囲む壁面が存在しないので、交差部の結着材塗液22の液保持性は、一般部より低下している。したがって、結着材塗液22が、集電体上に散点状の結着材塗布部として確実に転写されやすいことになる。
【0077】
<凹版グラビアロールの溝状凹部>
上述した散点状の結着材塗布部を形成する塗工原理(メカニズム)を実現する凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロール1の凹版形状を説明する。
図13に示すように、凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロール1には、互いに交差する交差部15を有する複数個の溝状凹部14が格子状に彫刻されている。溝状凹部14は、所定の溝幅aと溝深さcを有する。溝状凹部14は、直線状の溝が所定の溝ピッチbで形成されている。互いに隣接する溝状凹部14と溝状凹部14の間は、平坦な凸状部16が形成されている。互いに交差する交差部15では、凸状部16に角rが形成されている。溝状凹部14は、空気抜きを考慮して、凹版グラビアロール1の回転方向Rに対して、45度程度の角度で傾斜して形成されている。溝状凹部14の溝幅aは、液抜きを考慮して、上端の寸法が下端の寸法より僅かに大きく形成されている。
なお、
図13では、2つの溝状凹部14が直交する格子状溝が形成されているが、交差する角度は、任意の角度でよく、必ずしも直角である必要はない。また、2つ以上の溝状凹部14が放射状に交差する放射状溝を形成しても良い。
【0078】
例えば、溝状凹部14の形状は、溝幅aが10〜40μm、溝ピッチbが23〜40μm、溝深さcが5〜20μmの格子状に形成されていることが好ましい。また、集電箔Z上に結着材塗液を滴下したときの液滴の集電箔表面での接線と集電箔表面とのなす接触角が50度以上であることが好ましい。
【0079】
溝状凹部14の形状において、溝幅aを10〜40μmとしたのは、溝幅aが10μm未満では結着材塗液が一部に偏析して、均一な大きさの結着材塗布部を形成しにくく、溝幅aが40μmを超過すると壁面に沿って液収縮して、一定の散点状模様を形成しにくくなるからである。
また、溝ピッチbを23〜40μmとしたのは、溝ピッチbが23μm未満では隣接する結着材塗液同士が合体して、均一な大きさの結着材塗布部を形成しにくく、溝ピッチbが40μmを超過すると液収縮する散点状模様が不均一になるからである。
また、溝深さcを5〜20μmとしたのは、溝深さcが5μm未満では必要なWet膜厚を形成できず、溝深さcが20μmを超過すると液保持性が高くなり、結着材塗液の一部が転写されない可能性が高くなるからである。
さらに、集電箔Z上に結着材塗液を滴下したときの液滴の集電箔表面での接線と集電箔表面とのなす接触角が50度以上としたのは、接触角が50度未満では結着材塗液の濡れ性が高く、溝状凹部の交差部に液収縮しにくい傾向があるからである。
【0080】
ここで、結着材塗液に増粘剤(例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース))を添加すると接触角が増大し、界面活性剤を添加すると接触角が減少する傾向がある。したがって、結着材塗液にCMC(カルボキシメチルセルロース)を所定量(0.2〜0.4wt%程度)添加することで、液収縮性を向上させ、均一な散点状模様の結着材塗布部を形成することができる。
なお、試行錯誤する中で、凹版グラビア塗工に用いる凹版グラビアロールに彫刻された溝状凹部は、溝幅が10〜40μm、溝ピッチが23〜40μm、溝深さが5〜20μmの格子状に形成され、集電箔Z上に結着材塗液を滴下したときの液滴の接線と集電箔表面とのなす接触角が50度以上であることが、乾燥前のWet膜厚を1.0〜6.0μm(狙いは1.5μm)とする上で好ましいことを実験的に発見したのである。
【0081】
<散点状の塗布部の実施例>
次に、上述した凹版グラビアロール1の溝状凹部を用いて結着材を集電箔Z上に散点状に塗工した結着材塗布部ZT1の実施例を説明する。この結着材塗布部ZT1は、集電箔上に平面視で散点状模様22a、22b、22cに形成されている。
図15は、散点状模様の幅が10μm、ピッチが23μm、厚さが5μmのときにおける、集電箔上に塗工した結着材塗液のSEM像を模式的に描写した上面図である。
図16は、散点状模様の幅が20μm、ピッチが40μm、厚さが5μmのときにおける、集電箔Z上に塗工した結着材塗液のSEM像を模式的に描写した上面図である。
図17は、散点状模様の幅が40μm、ピッチが40μm、厚さが5μmのときにおける、集電箔Z上に塗工した結着材塗液のSEM像を模式的に描写した上面図である。
【0082】
図15に示す結着材塗布部ZT1においては、大部分の散点状模様22aが、略一定の大きさで規則的に形成されている。また、結着材非塗布部ZT2が、略一定の幅で規則的に形成され、結着材塗布部ZT1において隣接する散点状模様22aが、合体して一部に偏析する様子は見られない。
【0083】
また、
図16に示す結着材塗布部ZT1においては、
図15の散点状模様22aに比較して、散点状模様22bの大きさが、多少不揃いに形成されている。溝幅と溝ピッチが拡大すると、1つ1つの塊となった結着材塗液が、分離して島状に液収縮するためと考えられる。その結果、散点状模様は、幅が10〜15μmで、かつピッチが23〜40μmであることが好ましい。
【0084】
また、
図17に示す結着材塗布部ZT1においては、
図15の散点状模様22aに比較して、散点状模様22cの形状が、鉤型に湾曲して形成されている。溝幅が更に拡大すると、1つ1つの塊となった結着材塗液が、壁面に沿って液収縮するためと考えられる。
【0085】
以上のように、散点状模様の幅、ピッチを増大すると、結着材塗布部ZT1が、集電箔Z上に大小のバラつきを持って形成され可能性がある。しかし、その場合は、結着材塗布部の厚さを20μm程度まで増大させることで、液収縮を改善できることを確認している。
【0086】
よって、集電箔Z上に散点状の結着材塗布部ZT1を形成するため、凹版グラビアロールに散点状凹部を彫刻するのではなく、凹版グラビアロールに互いに交差する交差部を有する複数の溝状凹部を彫刻し、溝状凹部に補液される結着材塗液が交差部に液収縮することで、集電箔Z上に転写された結着材塗布部を散点状模様に形成する方法の有効性を確認することができた。