(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶液が、さらにFe塩を含み、その含有量は、Li:Mn:Fe:Si:Al=2:xy:y−xy:1:1−y(0.75≦x<1、0.9≦y<1)のモル比となるようにすることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のリチウムシリケート化合物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウム二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されてきており、IT機器の発展、普及に伴い、現在もその需要が世界的な規模で伸びている。
これらの小型電池には主として、LiCoO
2、LiCoNiMnO
2、LiNiAlO
2などの層状岩塩化合物からなる正極活物質が用いられている。
さらに、これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池として、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
【0003】
こうした需要環境の中、産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極材料には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。
そして、高い安全性と優れたサイクル性能を示し、低価格で製造可能なLiFePO
4が、LiCoO
2やLiMn
2O
4等の代替正極材料として注目されている。このLiFePO
4は、リン酸の強固な骨格を有するため、安全で放電容量が高く、サイクル寿命の良い材料である。しかし、LiFePO
4の実容量は170mAh/gと理論値に達しており、更なる高容量化は困難である。
【0004】
そこで、高安全性を維持しつつ更なる高容量化が期待される材料として、金属ケイ酸リチウム塩(Li
2MSiO
4:Mは、Mn、Fe等の遷移金属)が提案されている(例えば、特許文献1)。このケイ酸金属リチウム塩を正極活物質として用いた場合、遷移金属(M)1モルに対し、2モルのLiを含有することから、容量の理論値は330mAh/gに達する。
しかしながら、Li
2MSiO
4は、LiFePO
4と比べ、まだ電子伝導性が低く、得られている容量は理論値より大幅に低いため、粒子を微細化するとともに、さらに黒鉛などの導電性材料の被覆・複合化することにより、導電性を改善することが試みられている。
【0005】
これまでケイ酸金属リチウム塩の合成方法としては、固相法、水熱法、ゾル−ゲル法等が知られている。固相法では、ケイ酸リチウムと2価の遷移金属原料として蓚酸塩を、溶媒中で混合し焼成することにより高純度のケイ酸金属リチウム塩が得られることが報告されている(例えば、非特許文献1)。しかし、蓚酸塩は価格が高く、また強い毒性があるために人体や環境面でも好ましくなく、多量に合成する方法も確立されていない。
さらに、一般的に固相法では反応に必要な温度が高いために、1次粒子が粗大化し、凝集成長しやすく、粒子径が大きくなる。また、このようにして得られたLi
2MSiO
4は、粒子が粗大で導電性が低いために、強力な微細化処理が必要となる。
また、蓚酸塩を用いることのないケイ酸金属リチウム塩として、水熱法により高純度のケイ酸金属リチウム塩が得られると報告されている(例えば、非特許文献2)。そして、ケイ酸金属リチウム塩の結晶構造が斜方晶であるとされている。ただし、水熱法では圧力容器が必要であり、装置のサイズに対して得られる製品の量が少なく大量生産することができない。
【0006】
さらに、短時間で効率的なケイ酸金属リチウム塩の製造方法として、アルカリ金属、遷移金属およびケイ素の供給源となる化合物を混合、加熱して溶融した後、徐冷することが提案されている(例えば、特許文献2)。この提案においては、原料を溶融状態にまで加熱するため、得られるケイ酸金属リチウム塩は粗大粒子となり、微粒化することが困難といわれている。
上記のように、固相法には、高純度のケイ酸金属リチウム塩を得ることができるという利点があるものの、一般的に出発原料の粒径が数μm程度であることから、イオン拡散性に問題が有り、反応に長時間が必要であること、元素の種類によってはドープが極めて困難であること、さらに、反応温度が高いことによるリチウム欠陥等が懸念され、電池材料としてのリチウムシリケート化合物の合成には不向きである。
【0007】
リチウムシリケート化合物は、その結晶構造上の特徴より導電性が劣るため、電池特性発現の為にはカーボンコートによる導電性付与が必須であり、合成効率、省エネルギー的観点から、リチウムシリケート化合物の合成と同時に一括でカーボンコートする方法が渇望されている。
しかし、固相法反応によるリチウムシリケートにおいては、一般的に出発原料の粒径が数μm程度であることからイオン拡散性に問題が有り反応に長時間が必要であること、さらに、反応を進めるためには高温が必要であり、有機物を用いたカーボンコートを同時処理にて行うことは極めて困難である。
【0008】
一方、液相法によるリチウムシリケート合成は、出発原料の水溶液或いは水分散体を乾燥、加熱することにより行われる。本出願人も、原料ケイ酸金属塩の溶液とケイ酸イオンを含む溶液を特定のpH条件下、混合して共沈殿物を晶析させ、固液分離後、水洗、乾燥することを提案した(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
ところが従来のリチウムシリケート化合物は、容量が高温環境下において高々1.2電子反応に相当する190mAh/g程度であり、室温環境下では十分な電池充放電反応をさせることが困難である。そのため、リチウムシリケート化合物の結晶構造上の問題を解決した、液相法による導電性に優れたリチウムシリケート化合物の出現が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、リチウム二次電池用正極活物質として用いられる本発明のリチウムシリケート化合物、その製造方法などについて詳細に説明する。
【0020】
1.[リチウムシリケート化合物]
本発明のリチウムシリケート化合物は、Li
2MnSiO
4組成を構成する金属元素の少なくとも一部がAl元素で置換したリチウムシリケート化合物であって、結晶構造がLi
2MnSiO
4と同等であり、かつCuKα線を用いた条件で測定される粉末XRD測定パターンの最大強度ピークが、回折角2θ=32.5度〜33.0度であることを特徴とする。
【0021】
本発明のリチウムシリケート化合物は、結晶骨格となるLi
2MnSiO
4組成中の金属元素、すなわちLi,MnまたはSiのうち少なくとも一部がAl元素で置換した構造を有している。特に、Si
4+イオンとAl
3+イオンはその共有結合性およびイオン半径が近似していることから、リチウムシリケート化合物では、置換させることが可能であるが、これまでこのようなリチウムシリケート化合物は知られていない。
【0022】
本発明では、後で詳述するように、特に水溶性プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)等の乾燥時に脱水縮合を経る珪素源を用いてリチウムシリケート化合物を合成した際には、濃縮されたAl
3+イオンが縮合反応に加わりやすい傾向があるため、効率的にSiO
4中Si元素をAl元素でAl−同形置換した構造を得ることが可能となった。また、Li,Mnは、イオン半径が比較的近いという理由で、Al元素で置換した構造をとることがある。
【0023】
本発明のリチウムシリケート化合物は、CuKα線を用いた条件で測定される粉末XRD測定パターンによると、主に最大強度ピークが空間群Pmn21であるLi
2MnSiO
4と同等の結晶構造、すなわち斜方晶における(210)面に帰属され、その回折角が2θ=32.5度〜33.0度である。
【0024】
ここで、主にとは、Li
2MnSiO
4と同等の結晶構造、すなわち斜方晶が80%以上であることを意味する。本発明のリチウムシリケート化合物には、斜方晶以外の結晶構造、すなわち単斜晶などが少量含まれても構わない。単斜晶は、リチウムシリケート化合物の合成条件、例えば焼成温度の上昇などによって生じることがある。ただし、電池とした場合の容量を考慮すると、斜方晶が90%以上であることが好ましい。
【0025】
本発明のリチウムシリケート化合物において、Alがドープされることにより容量が高くなる理由は、リチウムシリケート化合物の結晶骨格となるSiO
4中のSiをAl元素で置換することで格子体積が大きくなり、結晶中のリチウム移動経路が広くなるためと考えられる。また、MnがAl元素で置換する場合は、材料全体の電荷バランスを取るためにLiサイトの空孔ができ、イオン導電性が向上するためと考えられる。一方、LiがAl元素で置換すると、イオン導電性を増加することができる。
ここで、Alドープ量は10モル%以下である。5モル%を越えると電荷バランスを保つために結晶構造中に取り込まれないLiが異相を形成するなどして電池とした場合の容量が減少する。より好ましいAlドープ量は5モル%以下である。
【0026】
2.[リチウムシリケート化合物の製造方法]
本発明のリチウムシリケート化合物は、Mn塩とLi塩とを含む水溶液、及びAl塩を含む水溶液に、Si源の溶液を、Li:Mn:Si:Alが特定のモル比となるように混合し、乾燥後、不活性雰囲気または還元雰囲気で焼成する事により製造される。
【0027】
(1)原料金属成分、有機酸の種類
原料金属成分として使用するMn塩、Li塩は、リチウム二次電池用正極活物質の製造に通常用いられているものであれば特に制限はないが、水溶性のものが好ましい。Mn塩、Li塩は蒸留水、イオン交換水などの純水に溶解することが好ましい。
【0028】
Mn塩としては、酢酸マンガン、硝酸マンガンなどのマンガン化合物を用いることができ、また、Li塩としては、水酸化リチウム、酢酸リチウム物、硝酸リチウムなどのリチウム化合物を用いることができる。いずれの金属塩も、特に安価で取扱いが容易な酢酸塩を用いることが好ましい。
また、上記Mn塩に対して、その一部を、Fe塩、Co塩、Ca塩、Zn塩、Mg塩、などの遷移金属塩やアルカリ土類金属塩で置換することができる。中でも好ましいのは、電池特性を向上しうるという観点からFe塩であり、酢酸鉄、硝酸鉄、クエン酸鉄などを用いることができる。
本発明では、原料金属成分に加えて、Al塩として、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウムなどを用いる。このうち、特に安価で取扱いが容易な酢酸塩を用いることが好ましい。Al塩を用いることで、リチウムシリケート化合物の格子定数が大きくなり、特にリチウム拡散性の観点からは格子体積を大きくすることが高容量化に有効となる。
【0029】
さらに、本発明では、Si源は特に制限されるわけではないが、例えばプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)、ポリエチレングリコール修飾シラン(PEGMS)、グリセリン修飾シラン(GMS)などの水溶性珪素や、テトラエチルオルトシリケート、テトラメチルオルトシリケートなどが挙げられる。これらは単独で用いても混合して用いてもよい。ほかにも任意の濃度に溶解したテトラエトキシシランのエタノール溶液、フュームドシリカなどがあげられる。
【0030】
水溶性珪素化合物としては、プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)が好ましい。プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)は、珪素に結合している官能基、すなわちプロピレングリコールが分子内に親水性のOH基を持つため、水に任意の割合で溶解し、安定性が高いという特性を有する点で好ましい水溶性珪素化合物である。
また、テトラエチルオルトシリケート、テトラメチルオルトシリケートは、同様に乾燥により脱水縮合を生じる珪素化合物であり、シランの重縮合の際に、Al
3+イオンが縮合反応に加わりやすい傾向があるため、効率的にSiO
4中Si元素をAl元素でAl−同形置換した構造を得られやすい。さらに、水溶性珪素化合物(例えばプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)など)を併用すると、水溶液で取り扱うことができるため、より好ましい。
【0031】
上記のプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)は、水に任意の割合で溶解し、安定性が高いという特性を有するからである。このプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)は、例えば特開2010−7032に記載のとおり、特定のケイ素化合物の縮合物と、分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物とを接触させた後に、酸性物質を接触させることで製造することができる。
プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)は、例えば、下記反応式(1)で示されるように、テトラエトキシシラン(TEOS)のエトキシ基をプロピレングリコール(PG)でエステル交換することにより作製される。
【0032】
[化1]
Si(OEt)
4 + 4C
3H
6(OH)
2 → Si(OC
3H
6OH)
4 + 4EtOH ・・・(1)
【0033】
反応前のTEOSは疎水性であるが、4つのエトキシ基のうち、3つ以上がPGとエステル交換反応するため、生成物のPGMSは少なくとも3つ以上のPGを分子内に持つこととなり、水溶性となる。
【0034】
(2)原料金属成分の混合、溶解
次に、Mn塩とLi塩とAl塩を含む水溶液に、Si源である水溶性珪素化合物の溶液を金属元素比率が、Li:Mn:Si:Al=2:y:1:1−y(0.9≦y<1)となるように混合する。金属元素比率はLi:Mn:Si:Al=2:y:1:1−y(0.95≦y<1)とすることが好ましい。
【0035】
Mn塩に対して、その一部を、Fe塩などの遷移金属塩(M塩)で置換するときは、金属元素比率がLi:Mn:Fe:Si:Al=2:xy:y−xy:1:1−y(0.75≦x<1、0.9≦y<1)となるように混合する。金属元素比率をこの範囲とすることにより容量特性、サイクル特性の優れた活物質を製造することができる。ここで、好ましいx、yの範囲は、0.80≦x<1、0.95≦y<1である。
最初に、各種原料塩を所定比になるように配合し、混合する。混合方法は、各原料が均一に混ざればよく、ライカイ機やボールミル等で粉砕混合する。ここで、原料に水溶性の塩を用いると、溶液中で均一に混合されるため好ましい。さらに、シリケートの重縮合の際に、Al
3+イオンが取り込まれやすいため、好ましい。
【0036】
また、各種原料塩と同時に炭素源を混合してもよい。炭素源は、この後に行われる熱処理により各リチウムシリケート化合物粒子をカーボンコートする。
炭素源として、分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つか、カルボキシル基を2個以上有する有機酸、たとえば、クエン酸[CH
2−COOH(HO−C−COOH)CH
2−COOH]、酒石酸[COOH(CHOH)
2COOH]、マロン酸[HOOC−CH
2−COOH]、乳酸[CH
3CH(OH)COOH]、グリコール酸などを例示できる。これらクエン酸などの有機酸は、リチウムや遷移金属を1分子中に1個より多く配位して保持することができ、リチウム塩と遷移金属塩の組成が常時安定し、乾燥や熱分解反応の効率を高めることができる。
炭素源として、融点が250℃以下の水溶性の有機化合物が好ましく、特にクエン酸が好ましい。
【0037】
Mn塩、Li塩、Al塩の水溶液とSi源の溶液との混合は、原料金属成分が均一に混合できればよく、通常の混合機を用いることができる。これら成分は、室温〜80℃の温度で、1〜120分間攪拌することにより容易に溶解する。好ましいのは、室温で10〜60分攪拌することである。
Mn塩は水溶液のpH、ORPによっては酸化マンガンとして固相に析出する。これを防ぐためには、Mn塩は酸性溶液中では安定なので、酸を混合溶液に添加し、pH6以下に調整することが好ましい。より好ましくはpHを4以下に調整する。pHが6を超えると、Mn塩は十分に安定化されないため固相として析出することがある。pHの調整に用いる酸は、Mn塩などの溶液中に含まれる元素と反応し、固体を析出しないものならば種類によって限定されず、塩酸、硝酸などを用いることができる。
【0038】
(3)乾燥
次に、上記原料を混合した水溶液或いは水分散体は乾燥、固化される。その際、ゲル状になるように、水溶性珪素化合物を加水分解、重縮合させると、各種原料元素が原子レベルで均一に混合したゲル体が得られるため好ましい。乾燥は、水溶液から水分を蒸発することができる条件であればよく、加熱温度や雰囲気、乾燥装置の種類などによって特に制限されない。効率的に乾燥するには、大気、不活性ガス、真空の雰囲気とし60〜200℃で加熱するのが好ましい。
【0039】
次に得られた原料の混合粉あるいはゲル体は、乾燥した後、加熱処理によりカーボンコートされる。乾燥方法としては、特に制限はないが、粒子が凝集しない方法が好ましく、例えば凍結乾燥することが好ましい。凍結乾燥を採用すると、不溶性のMnの有機酸錯体が形成されることなく原料物質が均一に混合された固化物が得られるやすい。
凍結乾燥は、前記水分散体をゲル状態となる前に凍結させ、−30〜0℃、かつ4〜48時間の減圧条件で行われることが好ましい。より好ましいのは、凍結後、−30〜−10℃、かつ4〜36時間の減圧条件で行うことである。水分散体がゲル状態になるまで凍結しないと、有機酸とMnが反応して、有機酸Mn塩の凝集物が生成するので好ましくない。凍結乾燥には、通常の冷却・減圧機能を有する凍結乾燥装置を使用することができる。
【0040】
(4)加熱処理
得られた固化物及び/またはゲル体は、次に窒素、または水素のいずれか一種以上を含む雰囲気中、500〜900℃の温度で1〜24時間加熱処理して、本発明のリチウムシリケート化合物を得る。
【0041】
加熱処理炉は、雰囲気制御が可能な炉であればよいが、ガスの発生がない電気炉が好ましく、管状炉、マッフル炉などの静置炉やプッシャー炉、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、流動床炉などの連続炉が使用できる。
この際、水溶性珪素化合物の分解物が炭素源となり、リチウムシリケート化合物粒の表面にカーボンコート層を形成し、導電性を付与することができる。このように、本発明では固化物及び/またはゲル体の焼成時に同時にカーボンコートがされるため、製造工程を簡略化することができる。
【0042】
カーボンコートされた混合物を非酸化性雰囲気中で500〜900℃、好ましくは600〜800℃で焼成することにより良好な結晶性で微細なリチウムシリケート化合物を得ることができる。焼成温度が500℃未満では材料の結晶性が低く、リチウム二次電池正極活物質として用いた場合、容量が低下してしまう。また、900℃より高くなるとリチウムの蒸散が顕著となり、目的の組成比の材料を得ることが困難になってしまう。
【0043】
焼成時の雰囲気は、リチウムシリケート化合物中のAl、Fe元素および炭素源の酸化を抑制するため、加熱処理も含めて窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気あるいは還元雰囲気中とすることが好ましく、還元雰囲気中とすることがより好ましい。還元雰囲気としては、水素を含有した不活性ガス、特に水素を含有した窒素雰囲気とすることが好ましく、水素含有量は、2〜4%とすることが好ましい。
焼成時間は、特に限定されるものではなく、上記温度範囲で十分に結晶化したリチウムシリケート化合物が得られる時間とするが、例えば、1〜20時間とすることが好ましい。1時間未満では、リチウムシリケート化合物の結晶性が十分でないことがあり、20時間を超えると、リチウムシリケート化合物粒子の焼結が進行して微細な粒子が得られないことがある。
【0044】
また、Mn塩の一部をFe塩などの添加元素(M)塩に置換することで、一般式Li
2Mn
xyAl
1−yM
y−xySiO
4(MはFeまたはCo、Ca、Zn、Mgなどの遷移金属やアルカリ土類金属であり、0.75≦x<1、0.9≦y<1)で表されるリチウムシリケート化合物を合成することができ、充放電容量の増加、サイクル性の向上などの効果を得ることができる。添加元素(M)の添加量は、Mnのモル数に対して25%以下であることが好ましい。25%より多いと母材であるLi
2MnSiO
4の結晶構造が維持できず、副生成物を多く含んだ材料となるため、好ましくない。
【0045】
本合成法で得られた材料は、一次粒子の平均径が1000nmの粒子状であり、必要があれば粉砕して300nm以下の微粒子とする。しかし、Si源にPGMSを用いていれば、PGMSに含まれるカーボンが焼結を阻害するため、別途粉砕して微粒子化する工程を必要としない。
【0046】
また、Si源にPGMSを用いていると、カーボンは焼成終了後も約0.5〜2.0質量%残留する。残留したカーボンは粒子の表面に存在し、リチウム二次電池材料として用いた時、電子伝導を補助し電池の特性を向上させる。その結果63.66MPa加圧時の粉体抵抗で測定される導電率が1.0×10
−7S/cm以上の導電性を示す。製造条件を最適化することで、導電率が1.0×10
−6S/cm以上のカーボン被覆リチウムシリケート化合物を合成することも可能である。
【0047】
本合成法で、材料に0.5〜2.0質量%のカーボンが含まれるようにすれば従来のようなカーボン担持工程を省略できる。さらに多くのカーボンを担持させ導電性補助効果を増大させてもよい。カーボンコートの方法は手段を問わず、焼成前の原料に前記のような有機化合物を混ぜて不活性雰囲気で焼成することで、カーボンを析出させる方法、焼成後の材料に導電性カーボンをボールミル等で機械的に付着させる方法などを用いることができる。
通常リチウムシリケート化合物粒子は導電性が劣るため、カーボンコートによりリチウムシリケート化合物粒子は導電性が改善され、電池特性を発現することができる。
【0048】
3.[リチウム二次電池]
本発明のリチウム二次電池は、上記リチウムシリケート化合物を正極活物質として用いたものである。リチウムイオン電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の構成要素から構成される。
【0049】
以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は例示にすぎず、本発明のリチウム二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0050】
(a)正極
正極は、本発明のリチウムシリケート化合物を用いた正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤をさらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。必要に応じて正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために添加することができる。
このような正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は60〜95質量%、導電材は1〜20質量%、結着剤は1〜20質量%とすることが望ましい。
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
【0051】
(b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。
このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0052】
(c)セパレータ
正極と負極の間にはセパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
【0053】
(d)非水電解質
非水電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiASF
6、LiN(CF
3SO
2)
2など、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0054】
本発明のリチウム二次電池は、以上のように構成されるが、その形状は円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。
本発明のリチウム二次電池においては、上記のリチウムシリケート化合物を含む正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、2.0〜4.5Vの電位で充放電を行うことで、従来のリチウム金属複合酸化物よりも安全性がきわめて高く、さらに高容量を兼ね備えたリチウム二次電池を工業的に実現できる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は実施例によってのみ限定されるものではない。なお、得られたリチウムシリケート化合物の物性、これを用いて製造した電池の特性は次の要領で測定した。
【0056】
(1)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PROMRD)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(2)カーボン量:
リチウムシリケート化合物の表面に形成されたカーボン量は、LECO社製炭素分析装置(CS−600)を用いて、高周波燃焼赤外吸収法で行った。なお、助燃剤として銅と鉄のチップを用いて正極活物質0.2を高周波炉内で酸素気流中にて燃焼を行い、その際にCO
2となった炭素を赤外線のエネルギー量で測定した。
【0057】
(3)電池評価
得られたリチウムシリケート化合物を10分間乳鉢にて解砕した後、導電助剤としてのアセチレンブラック/ファイバー状グラファイト、バインダとしてのPVDF、および溶媒としてのNMPとを所定比率で混合、分散処理を施すことで電極ペーストを得た。このペーストをドクターブレードにて、狙い目付け2mg/cm
2でAl基材上へと塗布し評価用電極を得た。なお、電極合材部は、合成サンプル/導電助剤/バインダ=80/10/10(質量%)の重量比となるよう設計した。
得られた評価用電極の電池特性は、対極としてLi金属、セパレータとしてポリオレフィン微多孔膜、電解液としてLiPF
6をEC/EMC/DMCの炭酸エステル系混合溶媒へと溶解させた非水電解液を用いた2032型コインセルにて評価した。
作製された2032型コインセルによる合成粉の評価は以下の通り行った。リチウムシリケート化合物の理論容量から計算される1/20Cレートにて、CC−CV充電(4.5V,3hours or1/200C cut)、CC放電(2.0Vcut)を5サイクル繰り返した際の合成サンプルの容量変化を室温、および60℃で測定した。充放電装置としては、HJ−SM8(北斗電工社製)を用いた。
【0058】
(実施例1)
まず、水溶性珪素プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)を次のように作製した。テトラエトキシシラン:TEOS(関東化学株式会社製)とプロピレングリコール(関東化学株式会社製99%)をそれぞれ22.4ml、29.3ml秤量し、80℃で1時間混合した。更に混合液に塩酸を100μl加えて室温で1時間攪拌した。この攪拌液に蒸留水を常温に戻し、100mlのメスフラスコで希釈して1Mの水溶性珪素を作製した。
次に、この水溶性珪素15ml、2M酢酸リチウム(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15ml及び1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液13.5ml、硝酸アルミニウム九水和物(関東化学株式会社製、特級)1.5mmol、塩酸(関東化学株式会社、特級)160μlを混合し室温で30分間攪拌した。
その後、得られた水溶液を−30℃にて凍結し、減圧しながら凍結乾燥を行った。得られた乾燥ゲルに対して700℃で窒素ガス雰囲気下において5時間焼成を行った。粉末の一次粒子径は平均500nmであった。焼成後の粉末のXRD測定結果を
図1に示す。また、CuKα線を用いた条件で測定される粉末XRD測定パターンの最大強度ピークが回折角2θ=32.9度であった。
これによりLi
2MnSiO
4組成を構成する金属元素の一部がAl元素で置換した構造を有し、空間群Pmn21であるLi
2MnSiO
4と同等の結晶構造であるリチウムシリケート化合物の微粒子が得られていることが確認できた。また、カーボン量を測定すると1.0質量%のカーボンが含有されていた。さらに、前記の方法で電池を構成し、特性を評価した。これら導電率などの測定結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
実施例1で用いた、1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液13.5ml、硝酸アルミニウム九水和物(関東化学株式会社製、特級)1.5mmolに代えて、1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15mlを用い、硝酸アルミニウム九水和物を用いなかった以外、実施例1と同様の方法でサンプルを作製した。XRD測定結果および電池評価結果とを表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
(実施例2)
実施例1で用いた、1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液13.5mlを1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液12ml、0.5Mクエン酸鉄(関東化学株式会社、1級)水溶液1.5mlに変え、また、塩酸(関東化学株式会社、特級)160μlを1Mクエン酸((和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15mlに変えた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。XRD測定結果および電池評価結果とを表2に示す。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で、硝酸アルミニウム九水和物(関東化学株式会社製、特級)1.5mmolを0.5Mクエン酸鉄(関東化学株式会社、1級)水溶液3.0mlに変更してサンプルを作製した。XRD測定結果および電池評価結果とを表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
「評価」
上記結果を示す表1から、実施例1,2では本発明により、少なくともMn塩、Al塩とLi塩を含む水溶液に、Si源を特定の金属元素比率となるように混合し、乾燥後、その固化物を焼成することで、特定の結晶構造を有するリチウムシリケート化合物が得られている。これにより、リチウムイオン電池の正極活物質として使用すると、室温容量だけでなく高温容量も向上できることが分かる。
これに対して、比較例1、2では、金属成分としてAl塩を用いなかったので、電池として十分な特性が得られなかった。