(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861024
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】多価アルコールからのグリコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/143 20060101AFI20160202BHJP
C07C 29/60 20060101ALI20160202BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20160202BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20160202BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20160202BHJP
【FI】
C07C29/143
C07C29/60
C07C31/20 Z
B01J23/89 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-4734(P2011-4734)
(22)【出願日】2011年1月13日
(65)【公開番号】特開2012-144491(P2012-144491A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2014年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591110241
【氏名又は名称】クラリアント触媒株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100090516
【弁理士】
【氏名又は名称】松倉 秀実
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】木崎 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 敬三
(72)【発明者】
【氏名】陳 新
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
【審査官】
上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/150278(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0088317(US,A1)
【文献】
米国特許第03360567(US,A)
【文献】
ZHOU,J. et al.,Selective hydrogenolysis of glycerol to propanediols on supported Cu-containing bimetallic catalysts,Green Chemistry,2010年,Vol.12,p.1835-1843
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/143
C07C 29/60
C07C 31/20
C07B 61/00
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する水酸基を有する多価アルコールからグリコールを製造する方法であって、
銀及び銅の両方を含有した触媒を用いることにより、多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記反応で生成したヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が、1つの反応系で連続的に進行し、かつ
前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及びヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応の圧力条件が、1MPa以下であることを特徴とする、多価アルコールからグリコールを製造する方法。
【請求項2】
前記銀及び銅の両方を含有した触媒が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムからなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む触媒担体に担持および/または複合物化された触媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記多価アルコールがグリセリンであって、前記グリコールがプロピレングリコールである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が、280℃以下で行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が、気相で行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が、気相流通反応装置を用いて行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンなどの多価アルコールから、プロピレングリコールなどのグリコール類を高い収率で効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレングリコールに代表されるグリコール類はポリエステル原料、有機溶媒、反応中間体などとして用いられ、化学工業上重要な物質である。
従来、プロピレングリコールは、プロピレンオキサイドを水和することにより合成されていた。
プロピレンオキサイドの原料であるプロピレンは、ナフサを主原料とした化石資源由来の化合物であるが、昨今の地球温暖化等の環境問題への対策の観点から、化石資源由来の原料を用いないプロピレングリコールの製造方法の開発が望まれていた。
【0003】
そのような中、近年プロピレンを原料として使用しないヒドロキシケトンからグリコールを製造する方法(特許文献1参照)、多価アルコールからヒドロキシケトンを経由しグリコールを製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。当該方法は多段階の反応であり、収率も十分でないことから、効率の面で改善の余地を残す方法であった。
【0004】
一方、水素共存下でグリセリンから直接プロピレングリコールを製造する方法も既に報告されている(非特許文献1〜4、特許文献3,4参照)。これらの製造方法は、グリセリンをヒドロキアセトンに変換する脱水反応の触媒機能、及び生成したヒドロキシアセトンに水素添加する触媒機能を併せ持つ銅触媒などを用いることで、2段階の反応を1つの反応系で進行させて、直接プロピレングリコールを生成していると考えられる。しかしながら、得られるプロピレングリコールの選択率及び収率は十分であるとは言えない。特に、液相反応においては転化率が低く、非効率的であった(非特許文献2)。また、反応圧力が高く、反応装置に耐圧性が要求されるという問題点を有していた。他方、大気圧下での反応を行う方法も開示されているが、同様にプロピレングリコールの選択率及び収率は十分ではない(非特許文献3)、または大過剰の水素を必要とする(非特許文献4)のが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−255157号公報
【特許文献2】米国特許第5426249号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/053705号
【特許文献4】特開2007−283175号公報
【特許文献5】特開2009−298734号広報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Catalysis A 281 2005 225−231
【非特許文献2】Green Chemistry 2010,DOI:10.1039/c0gc00058b
【非特許文献3】Journal of Chemical Technology and Biotechnology 2008,DOI:10.1002/jctb
【非特許文献4】Applied Catalysis A 371 2009 60−66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3,4で提案されている、脱水反応の触媒能及び水素添加能を持ち合わせる銅などの触媒を用いてグリコールを合成する方法では、多価アルコールから直接グリコールを合成できるものの、多価アルコールからヒドロキシケトンに変換する脱水反応において副生成物を生じ易く、結果最終生成物であるグリコールの収率が低くなるという問題を有していた。
即ち本発明の目的は、上記従来の技術課題を解決することであり、多価アルコールからグリコールを高い選択率で収率よく製造することができる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、銀触媒を用いることにより、多価アルコールから高い反応率及び選択率で、グリコール合成の中間体であるヒドロキシケトンを合成できることを見出した。一方、銀触媒では水素添加能に乏しく、生成したヒドロキシケトンを十分にグリコールに変換することができないことも判明した。そこで、水素添加触媒を用いたヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応と組合せて、グリコールを収率良く製造できることを見出した。更に、銀触媒と水素添加触媒を共存させることによって、グリコールに至るまでの2段階の反応を、1つの反応系で連続的に収率良く進行させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のグリコールの製造方法は、以下のとおりである。
(1)隣接する水酸基を有する多価アルコールからグリコールを製造する方法であって、
銀及び銅の両方を含有した触媒を用いることにより、多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及
び前記反応で生成したヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応
が、1つの反応系で連続的に進行し、かつ前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及びヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応の圧力条件が、1MPa以下であることを特徴とする、多価アルコールからグリコールを製造する方法。
(2)前記
銀及び銅の両方を含有した触媒が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムからなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む触媒担体に担持および/または複合物化され
た触媒である
、(1)に記載の製造方法。
(3
)前記多価アルコールがグリセリンであって、前記グリコールがプロピレングリコールである(1)
又は(2)に記載の製造方法。
(
4)前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が
、280℃以下で行われ
る、(1)〜(
3)のいずれかに記載の製造方法。
(
5)前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が
、気相で行われ
る、(1)〜(
4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び前記ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が、気相流通反応装置を用いて行われる、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、隣接する水酸基を有する多価アルコールから、グリコールを収率良く効率的に製造することができる。また、銀触媒及び水素添加触媒を共存させることによって、多価アルコールからグリコールを1つの反応系で連続的に合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の製造方法の反応機構)
本発明の製造方法は、隣接する水酸基を有する多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応(多価アルコールの脱水反応)及び合成したヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応(ヒドロキシケトンの水素添加反応)を含む。
多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応では、多価アルコール中の隣接した水酸基が、脱水反応を起こしてC=O基(カルボニル基)を形成し、ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応では、形成したヒドロキシケトンのC=O基(カルボニル基)が、水素によりC−OH基(水酸基)に還元されて、グリコールが生成する。
総体として、多価アルコールの1つの水酸基が、水素によって置換される反応である。
【0012】
(本発明の製造方法に用いる原料)
隣接する水酸基を有する多価アルコールとしては、3価以上の多価アルコール、特にはグリセリンや1,2,3−ブタントリオールなどが挙げられる。グリセリンを原料とする場合、プロピレングリコールが生成し、1,2,3−ブタントリオールを原料とする場合、2,3−ブタンジオールまたは1,2−ブタンジオールが生成する。
当該多価アルコールは、水分を含んでいてもよい。水分を含む場合には、その含有量は特段の限定はないが、通常0重量%よりも大きく98重量%以下であり、好ましくは20重量%以上80重量%以下である。水分を含む場合、上記範囲とすることで、グリコールを高い選択率で合成することができる。
【0013】
(多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応)
本発明の製造方法は、隣接する水酸基を有する多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応において、銀触媒を用いることを特徴としている。多価アルコールからグリコールを合成する際に用いられる代表的な触媒として銅が知られているが、本発明者らは銅触媒を用いた場合にヒドロキシケトン以外の副生成物が生じ易く、その結果最終生成物であるグリコールの収率の低下を招くという知見を得た(非特許文献4)。
【0014】
そこで、検討を重ねたところ、本発明者らは多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応において、銅触媒よりも銀を触媒として用いた方が、収率良くヒドロキシケトンを合成できることを見出した。
【0015】
(ヒドロキシケトンを合成する反応における触媒)
本反応で用いる銀触媒は、市販品をそのまま或いは、市販品を還元したものを用いることができる。また、本発明の銀触媒は、触媒担体に公知の含浸法等により担持されていてもよく、また公知の共沈法等により複合物化されていてもよい。銀触媒が担持および/または複合物化される担体としては、通常触媒の担体として用いられるものであれば特段限定されず、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカアルミナなどが例示される。特に酸化ケイ素を担体として用いる場合、比表面積が高く、効率的にヒドロキシケトンを合成できるため好ましい。
【0016】
銀触媒を調製する場合には、銀は触媒機能を発揮する程度に含有させればよく、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。上記範囲とする場合には、
十分な銀の触媒性能を得ることができる。
【0017】
(ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応)
本発明の製造方法は、別途水素添加触媒を用いて、合成したヒドロキシケトンから最終目的物であるグリコールを合成する反応を必要とする。銅のように脱水反応の触媒能及び水素添加能を持ち合わせる触媒を用いた場合には、多価アルコールからグリコールが直接得られるため、別途反応を必要としない。しかしながら、本願発明の特徴である銀触媒は水素添加能に乏しく、ヒドロキシケトンからグリコールを収率良く合成することができない。
【0018】
そこで、水素添加触媒を用いてヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応を設けることとした。本発明者らは、銀触媒を用いて多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び水素添加触媒を用いてヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応を組合せることによって、最終的に収率良くグリコールを合成できることを見出した。
【0019】
(グリコールを合成する反応における触媒)
ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応における触媒は、水素添加能を持つものであれば何れの触媒でも用いることができるが、特に銅、コバルト、ニッケル又はルテニウム、パラジウム、ロジウム、白金などの白金族元素が活性が高いため好ましい。これらの触媒は市販品、市販品を還元したもの、市販の金属塩から金属酸化物を沈殿させ、その沈殿を焼成し還元を経て調製したもの、或いは市販の金属塩を含浸、共沈などの公知の方法により調製したものなどを用いることができる。
また、当該水素添加触媒は、複合化物として触媒の表面積を高くすることが好ましい。
【0020】
水素添加触媒を調製する場合には、水素添加機能を十分に発揮する程度に金属を含有させればよく、通常1〜90重量%、好ましくは20〜80重量%である。上記範囲とする場合には、十分な触媒活性能を得ることができる。
【0021】
(2つの反応が1つの反応系で連続的に進行する製造方法)
本発明者らは、銀触媒及び水素添加触媒を1つの反応系に共存させることによって、多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及びヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応が連続的に進行し、多価アルコールからグリコールが直接得られることを見出し、本願発明に想到した。
【0022】
(銀触媒及び水素添加触媒の共存)
銀触媒及び水素添加触媒を1つの反応系に共存させる方法は特に限定されるものではないが、比表面積の高い触媒担体に銀及び水素添加触媒成分を両方担持したものを例示することができる。触媒の調製方法は、銀触媒に水素添加触媒成分を担持する方法、水素添加触媒に銀を担持する方法、水素添加触媒成分金属の可溶性塩(例えば硝酸銅)と可溶性銀塩(例えば硝酸銀)とを同時に触媒担体へ含浸させて得る方法、或いは水素添加触媒成分金属の可溶性塩(例えば硝酸銅)と可溶性銀塩(例えば硝酸銀)とを公知である共沈法により得る方法等が例示できる。
【0023】
銀触媒及び水素添加触媒を両方含有した触媒として、銀と銅を両方含有した触媒(以下、銀−銅触媒という。)が、活性が高く特に好ましい。
【0024】
銀触媒と水素添加触媒を1つの触媒に共存させる場合において、銀触媒と水素添加触媒の成分である金属との含有重量比は、両方の触媒の機能が発揮される程度に含有されていればよく、通常1:1000から1:5の範囲であり、好ましくは1:500から1:50の範囲であり、更に好ましくは1:200から1:25の範囲である。上記範囲とする
場合には、多価アルコールからグリコールを効率よく合成することできる。
【0025】
(各反応の反応条件)
本発明のグリコール製造方法で使用される反応装置は特に限定されないが、工業的には、原料をガス化して適当な触媒層を通過させておこなう形式の気相流通反応装置が好ましい。気相流通反応装置を用いる場合、たとえば、気相流通反応装置内の反応系に所定の触媒を入れ、これを公知の方法で前処理することにより活性な触媒層を装置内の反応系に形成させる。また気相流通反応装置内の反応系は、1つ又は複数あってもよい。例えば、多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及び合成したヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応を分離して別の反応系で進行させる場合には、銀触媒を流通系の上流側に設置することが好ましい。原料の多価アルコールをガス化して供給し、反応系で目的の反応を進行させて、最終的にグリコールを製造することが可能である。
【0026】
上記触媒の前処理は、触媒層を活性化させることができる公知の方法を用いることができ、例えば、水素気流中、200℃で30分〜1時間程度熱処理を行う等により、触媒層を活性化させることが挙げられる。
【0027】
本発明の多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及びヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応の圧力条件は、大気圧下でもよく、加圧下でもよい。本発明における大気圧とは、絶対圧でおよそ1気圧(約0.1MPa)をいうが、厳密に1気圧のみの条件に限られるものではなく、大気圧の範囲と当業者が理解する範囲は、本発明でいう大気圧の範囲である。一方、加圧下とは、絶対圧でおよそ1気圧よりも高い圧力をいい、その上限は特段設けないが、反応装置のコストが増大しない圧力範囲として通常5MPa以下、好ましくは2MPa以下、より好ましくは1MPa以下、極めて好ましくは0.6MPa以下である。
【0028】
また、ヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応に用いる水素の導入方法は、特に限定されないが、キャリアガスとして、又はキャリアガスに共存させて導入することが好ましい。また、水素は多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応において、触媒の活性を保つ役割を果たす。特に2つの反応を連続的に進行させるときには、水素が含まれるキャリアガスを用いると、上記観点から反応が効率的であり好ましい。キャリアガスの流入量は反応装置の大きさや、触媒体積に対する単位時間当たりの原料の液空間速度(LHSV:Liquid Hourly Space Velocity;単位、h
-1)などにより適宜設定される。通常キャリアガスと原料の比はモル比で1:1〜100であり、好ましくは1:5〜50である。
【0029】
本発明の多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応及びヒドロキシケトンからグリコールを合成する反応の反応温度は、圧力条件にもよるが、通常多価アルコールが気相状態として存在する温度で行うことが好ましい。具体的には、通常180℃以上280℃以下で行われ、200℃から240℃で行われることが好ましい。また、圧力が高い場合には多価アルコールが反応装置内で液化して反応効率を悪化させるため、これを考慮した温度・圧力設定が必要である。
【0030】
本発明に用いる触媒の量及びグリコール製造の反応時間は、気相流通反応の場合、触媒体積に対する単位時間当たりの液空間速度(LHSV:Liquid Hourly Space Velocity;単位、h
-1)で表される接触時間が、0.1から5.0h
-1の範囲で利用可能であり、触媒の寿命及び収率の観点から好ましくは、0.15から3.0h
-1の範囲であり、更に好ましくはLHSV値で、0.2から2.0h
-1の範囲である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例、比較例及び参考例の評価には、内径28mm、全長1000mmの固定床加圧気相流通反応装置内に150mmの触媒層を設けたものを反応器として用いた。該反応器は、上端にキャリアガス導入口と原料流入口を有し、下端に背圧弁を介してガスが排出される反応粗液捕集容器(冷却)を有するものである。捕集容器に捕集された反応粗液は、ガスクロマトグラフィーにて測定し、検量線補正後、グリセリンなどの原料の残量、ヒドロキシアセトン、プロパンジオールなどの生成物の収量を決定し、この値から反応率(モル%)、選択率(モル%)及び収率(モル%)を求めた。
【0032】
<参考例>
(銀触媒によるヒドロキシアセトンの合成)
多価アルコールからヒドロキシケトンを合成する反応(グリセリン→ヒドロキシアセトン)における、銀触媒の触媒活性評価を行った。
銀触媒は、市販の二酸化ケイ素(富士シリシア化学製、キャリアクトQ10)に銀担持量が10重量%になるように、硝酸銀(和光純薬製、特級試薬)を用いた含浸法にて触媒前駆体を調製し、その後触媒前駆体を空気雰囲気下500℃で3時間焼成して得た。
上記調製した触媒7.8mLを気相反応装置内に設置し、上部から大気圧で水素ガスを30mL/minの流速で流し、220℃30分間の前処理を施した。前処理後、水素流入量を700mL/minに増やし、80重量%グリセリン水溶液を0.25h
-1の液空間速度で触媒層に供給し、ヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0033】
<比較例1>
触媒調製において、硝酸銀に替え、硝酸銅(和光純薬製、特級試薬)を用いて銅を担体に担持した以外は参考例と同様にヒドロキシアセトン合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の結果に示されるように、グリセリンからヒドロキシアセトンを合成する反応において、銀触媒を用いることにより(参考例)、高い反応率及び選択率でヒドロキシアセトンを合成できることが明らかである。
【0036】
<実施例1,2,3>
(銀−銅触媒によるプロピレングリコールの合成)
グリセリン(多価アルコール)からプロピレングリコール(グリコール)を合成する製造方法における、銀触媒及び水素添加触媒(銅触媒)が共存した銀−銅触媒の活性評価を行った。
銀−銅触媒は、銅クロム触媒(T−4419、ズードケミー触媒(株))に、含浸法にて表2に記載の添加量の銀を加えて担持したものを用いた。各種反応条件、反応率、ヒドロ
キシアセトンの選択率、プロピレングリコールの選択率及び収率を表2に示す。
【0037】
<比較例2>
比較例として、何も添加していない銅クロム触媒(T−4419、ズードケミー触媒(株))を用い、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2の結果に示されるように、銀−銅触媒を用いた場合(実施例1,2,3)、いずれの添加量においても、銅のみの触媒に比べて(比較例2)、収率よくプロピレングリコールを合成できることが明らかである。また、銅触媒のみの場合、ヒドロキシアセトン、プロピレングリコール以外の副生成物が生成する割合が高いのに対し、銀−銅触媒を用いた場合は、副生成物が少なく、高い収率でプロピレングリコールを合成できることが明らかである。
【0040】
<実施例4〜10>
(プロピレングリコールの合成における圧力依存性)
銀−銅触媒を用いたプロピレングリコール合成における、圧力依存性結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
(プロピレングリコールの合成における温度依存性)
<実施例11〜13>
銀−銅触媒を用いたプロピレングリコール合成における、温度依存性結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
表3,4の結果に示されるように、銀−銅触媒を用いた場合には、圧力・温度条件がグリセリンの液化条件に近い高圧・低温の場合であっても、プロピレングリコールの収率は低下せず、良好に反応が進行することが明らかである。