【実施例】
【0069】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
まず、以下の実施例、比較例における、磁気記録媒体用ガラス基板の評価方法、及び、ガラス基板表面に磁性層などの薄膜を成膜した磁気記録媒体の評価方法について説明する。
(1)接触角
研磨キャリア表面、および、研磨キャリアの第1の面、第2の面を構成する材料について純水に対する接触角の測定を行った。
【0071】
測定はJIS R 3257に準ずる方法により行った。具体的には、接触角計(協和界面科学社株式会社製 型式: CA−A)により、液滴法にて測定を行った。
【0072】
測定手順としては、まず測定対象物(研磨キャリアまたは樹脂シート)表面に油分や汚れがないように洗浄を行った。
【0073】
次に、測定装置のサンプル台上に測定対象物をセットし、測定装置付属の注射器内に純水を充填し、液滴調整器のマイクロメータを操作してサンプル台に載せた被測定物の上に1〜2μリットルの液滴を形成した後、光学鏡のピントを液滴に合わせて接触角を測定した。
【0074】
研磨キャリア表面の純水に対する接触角を測定する場合には、後述する各実施例の手順により作製した研磨キャリアを測定対象物としてその上下面(第1の面、第2の面)について測定した。
【0075】
また、研磨キャリアを構成する材料の純水に対する接触角を測定する場合には、プリプレグの原料として用いた各樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等)をそれぞれ縦10cm、横10cm、深さ1cmの直方体の型に、厚さ約2mmになるように流し込んだ。次いでこれを180℃、60分間加熱し、得られた試料(試験片)について上記手順により測定を行った。
(2)表面粗さ(算術平均粗さ)Ra
表面粗さはJIS B 0601−2001に準ずる方法により測定を行った。
【0076】
測定はレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製 型番:VK−9710、VK−9700)を用いて行った。
【0077】
具体的な測定条件としては、測定波長を408nm、対物レンズとして10倍のものを用いて行い、カットオフλs(短波長カットオフ)を2.5μm、カットオフλc(長波長カットオフ)を80μmとして行った。
(例1〜9について)
直径65mm、内径20mm、厚さ約0.64mmであり、ラップ処理、内外周端面について研磨済みの磁気記録媒体用ガラス基板について以下の手順で主平面研磨を2次研磨工程まで行い、その際の研磨キャリア、ガラス基板の研磨パッドへの貼り付きの状態について評価を行った。
【0078】
1次研磨工程、2次研磨工程共に以下の例1〜9それぞれの研磨キャリアを用いている。
【0079】
(1次研磨工程)
ガラス基板は研磨具として硬質ウレタン製の研磨パッドと酸化セリウム砥粒を含有する研磨液(平均粒子直径、以下、平均粒径と略す、約1.3μmの酸化セリウムを主成分した研磨液組成物)を用いて、16B型両面研磨装置(スピードファム社製、製品名:DSM16B−5PV−4MH)により上下主平面を1次研磨した。
【0080】
そして、1次研磨工程終了後のガラス基板は、酸化セリウムを洗浄除去した後、以下の2次研磨工程を行った。
【0081】
(2次研磨工程)
研磨具として軟質ウレタン製の研磨パッドと、1次研磨工程の酸化セリウム砥粒よりも平均粒径が小さい酸化セリウム砥粒を含有する研磨液(平均粒径約0.5μmの酸化セリウムを主成分とする研磨液組成物)を用いて行った。16B型両面研磨装置(スピードファム社製、製品名:DSM16B−5PV−4MH)により上下主平面を2次研磨し、研磨終了後には酸化セリウムを洗浄除去した。
【0082】
2次研磨のメイン研磨加工圧力は8.5MPa、定盤回転数は30rpm、研磨時間は総研磨量が上下主平面の厚さ方向で計6μmとなるように設定し、ガラス基板を研磨した。
【0083】
このとき、研磨キャリアは、以下に説明する例1〜9に示すものを、それぞれ5枚研磨装置内にセットして用いた。両面研磨装置に研磨キャリアをセットする際には、表1中の第1の面が研磨装置の上定盤と、第2の面が研磨装置の下定盤と対向するように配置した。
【0084】
研磨は各例について10バッチ行い、各研磨バッチで研磨終了後、上定盤を上げた際に、研磨キャリアが上定盤の研磨パッドに貼りついて一緒に上がった枚数、および上には上がらないが下定盤から若干一部が浮き上がり、ディスクとの位置関係がずれたキャリアの枚数を記録した。
【0085】
例1〜例9では、以下の条件で研磨キャリアを作製した。上記磁気記録媒体用ガラス基板の2次研磨工程において使用し、評価を行った。まず、例1〜例9の研磨キャリアの作製手順について説明する。
(例1)
ガラスクロス(ガラス繊維の織布)にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを準備し、
図2(A)、(B)に示すようにプリプレグ6枚を積層し、上下面を鏡面板ではさみ、プレスにかけ、180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧して厚さ0.5mmの積層板を作製した。その後、それぞれのキャリアの上下1対の面のうち、一方の面(第2の面)のみをアルゴンガスのプラズマを用いたプラズマエッチング処理して親水性を高めた。そして、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例2)
ガラスクロスに含浸させる樹脂としてポリイミド樹脂を用いた以外は例1と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例3)
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、ガラスクロスにフェノール樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを積層した。この際、
図2(A)中21(a)〜21(c)がエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ、21(d)〜(f)がフェノール樹脂を含浸させたプリプレグとなるように積層した。そして、プリプレグの積層体24を、上下を鏡面板ではさみ、プレスにかけ、180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧して厚さ0.5mmの積層板を作製した。積層板を作成した後、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例4)
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、ガラスクロスに不飽和ポリエステル樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを用いた点以外は例3と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例5)
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、ガラスクロスにポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを用いた点以外は例3と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例6)
ガラスクロスにポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、ガラスクロスにフェノール樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを用いた点以外は例3と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例7)
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、ガラスクロスにフェノール樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを積層した。この際、
図2(A)中21(a)〜21(c)がエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ、21(d)〜(f)がフェノール樹脂を含浸させたプリプレグとなるように積層した。
【0086】
次いで、下面、すなわち、
図2(B)における22bを鏡面板、上面、すなわち、
図2(B)における22aが表面粗さ約15μmのエンボスパターンを付与したニッケルメッキ板および補強用の鉄板を順次挟み込んだ。そして、これをプレスにかけ180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧し、厚さ0.5mmの積層板を作成した。その後、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例8)
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを準備し、
図2(A)、(B)に示すように合計6枚を積層し、上下面を鏡面板ではさみ、プレスにかけ、180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧して厚さ0.5mmの積層板を作製した。そして、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例9)
ガラスクロスにポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグを用いた以外は例8と同様にして研磨キャリアを作製した。
【0087】
作製した研磨キャリアの純水に対する接触角(キャリア表面について、構成する材料について)、表面粗さRaの測定結果、および上記のように2次研磨工程終了後、上定盤の研磨パッドに研磨キャリアが貼り付いた枚数、ガラス基板と位置ずれを起こした研磨キャリアの枚数を表1に示す。
【0088】
なお、上記のように1バッチあたり5枚の研磨キャリアを両面研磨装置にセットして研磨を行っており、これを10バッチ行っている。そして、1枚の研磨キャリアあたり20枚のガラス基板をセットしているため、10バッチ行うことにより1000枚のガラス基板の研磨を行っている。
【0089】
【表1】
表1によると研磨キャリア表面の純水に対する接触角が、第1の面の方が第2の面より大きく、その差が10度以上になっている例1〜7については、上定盤への研磨キャリアの貼り付き枚数が50枚中(5枚×10バッチ)1枚以下、ガラス基板と位置ずれを起こした研磨キャリアの枚数は4枚以下となっている。これに対して、上記要件を満たさない比較例である例8、9は上定盤への研磨キャリアの貼り付き枚数の合計が10枚以上、ガラス基板と位置ずれを起こした研磨キャリアの枚数は20枚以上であり、その差が大きくなっていることが分かる。
【0090】
例1〜9の中でも特に、例3、4、7については研磨キャリアの第1の面と第2の面の表面粗さの差が0.5μm以上になっている。この場合には上定盤への研磨キャリアの貼り付き枚数、ガラス基板と位置ずれを起こした研磨キャリアの枚数共に0枚となっており、高い効果が確認できた。
(例10〜18について)
上記例3の2次研磨工程を行ったガラス基板について、2次研磨工程終了後さらに以下の条件により3次研磨工程を行い3次研磨工程における研磨パッドと研磨キャリア、ガラス基板の貼り付きの評価、および、得られたガラス基板について表面検査を行った。
【0091】
まず、3次研磨工程の手順について説明する。
【0092】
上記例3の条件で2次研磨工程を行ったガラス基板について3次研磨工程を行った。
【0093】
3次研磨工程は研磨具として軟質ウレタン製の研磨パッドとコロイダルシリカを含有する研磨液(一次粒子の平均粒径が20〜30nmのコロイダルシリカを主成分とする研磨液組成物)を用いて、16B型両面研磨装置(スピードファム社製、製品名:DSM16B−5PV−4MH)によりガラス基板の上下主平面について3次研磨を行った。
【0094】
3次研磨は、上下主平面の厚さ方向での総研磨量が1μmとなるように研磨時間を設定して実施した。メイン研磨加工圧力は9.0MPaとした。
【0095】
このとき、研磨キャリアは、以下に説明する例10〜18に示すものを、それぞれ1バッチあたり5枚研磨装置内にセットして用いた。両面研磨装置に研磨キャリアをセットする際には、表2中の第1の面が研磨装置の上定盤と、第2の面が研磨装置の下定盤と対向するように配置した。
【0096】
研磨は各例について10バッチ行い、各研磨バッチで研磨終了後、上定盤を上げた際に、研磨キャリアが上定盤の研磨パッドに貼りついて一緒に上がった枚数、および上には上がらないが下定盤から若干一部が浮き上がり、ディスクとの位置関係がずれたキャリアの枚数を記録した。
【0097】
3次研磨を行ったガラス基板は、アルカリ性洗剤によるスクラブ洗浄、アルカリ性洗剤溶液に浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄、を順次行い、イソプロピルアルコール蒸気にて乾燥した。
【0098】
上記のようにして3次研磨、洗浄、乾燥された全てのガラス基板(1バッチ100枚×10バッチの1000枚)について10万ルクスの光源下で、目視検査し、キズの発生率を確認した。この検査では、長さがほぼ10μm以上のキズを検出でき、全ガラス基板のうちキズを生じていたガラス基板の発生確率を示している。
【0099】
評価結果は表2に示す。
【0100】
例10〜例18の研磨キャリアの作製手順について説明する。
(例10)
アラミド繊維の不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを準備し、
図2(A)、(B)に示すようにそれぞれ6枚を積層し、上下面を鏡面板ではさみ、プレスにかけ、180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧して厚さ0.5mmの積層板を作製した。その後、キャリアの上下1対の面のうち、一方の面(第2の面)のみをプラズマエッチング処理して親水性を高めた。そして、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例11)
アラミド繊維の不織布に含浸させる樹脂としてポリイミド樹脂を用いた以外は例1と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例12)
アラミド繊維の不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、アラミド繊維の不織布にフェノール樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを積層した。この際、
図2(A)中21(a)〜21(c)がエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ、21(d)〜(f)がフェノール樹脂を含浸させたプリプレグとなるように積層した。そして、プリプレグの積層体24を、上下を鏡面板ではさみ、プレスにかけ、180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧して厚さ0.5mmの積層板を作製した。積層板を作成した後、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例13)
アラミド繊維の不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、アラミド繊維の不織布に不飽和ポリエステル樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを用いた点以外は例12と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例14)
アラミド繊維の不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、アラミド繊維の不織布にポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを用いた点以外は例12と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例15)
アラミド繊維の不織布にポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、アラミド繊維の不織布にフェノール樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを用いた点以外は例12と同様にして研磨キャリアを作製した。
(例16)
アラミド繊維の不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ3枚、アラミド繊維の不織布にフェノール樹脂を含浸させたプリプレグを3枚準備し、これら計6枚のプリプレグを積層した。この際、
図2(A)中21(a)〜21(c)がエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグ、21(d)〜(f)がフェノール樹脂を含浸させたプリプレグとなるように積層した。
【0101】
次いで、下面、すなわち、
図2(B)における22bを鏡面板、上面、すなわち、
図2(B)における22aが表面粗さ約7.5μmのエンボスパターンを付与したニッケルメッキ板および補強用の鉄板を順次挟み込んだ。そして、これをプレスにかけ180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧し、厚さ0.5mmの積層板を作成した。その後、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例17)
アラミド繊維の不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを準備し、
図2(A)、(B)に示すように合計6枚を積層し、上下面を鏡面板ではさみ、プレスにかけ、180℃に加熱、4.0MPaの圧力で、60分間加圧して厚さ0.5mmの積層板を作製した。そして、16B型両面研磨装置の仕様にあう形状に加工し、研磨キャリアとした。
(例18)
アラミド繊維の不織布にポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグ樹脂を用いた以外は例17と同様にして研磨キャリアを作製した。
【0102】
作製した研磨キャリアの純水に対する接触角(キャリア表面について、構成する材料について)、表面粗さRaの測定結果、および上記のように2次研磨工程終了後、上定盤の研磨パッドに研磨キャリアが貼り付いた回数、研磨キャリア、ガラス基板の位置ずれ回数、キズの発生率を表2に示す。
【0103】
なお、上記のように1バッチあたり5枚の研磨キャリアを両面研磨装置にセットして研磨を行っており、これを10バッチ行っている。そして、1枚の研磨キャリアあたり20枚のガラス基板をセットしているため、10バッチ行うことにより1000枚のガラス基板の研磨を行っている。
【0104】
【表2】
表2によると研磨キャリア表面の純水に対する接触角が、第1の面の方が第2の面より大きく、その差が10度以上になっている例10〜16については、上定盤への研磨キャリアの貼り付き枚数が1枚以下、研磨キャリアとガラス基板の位置ずれ枚数は5枚以下となっている。これに対して、上記要件を満たさない比較例である例17、18は上定盤への研磨キャリアの貼り付き枚数が14枚以上、研磨キャリアとガラス基板の位置ずれ枚数は23枚以上であり、その差が大きくなっていることが分かる。
【0105】
例10〜16の中でも特に、キャリア表面の純水に対する接触角が第1の面と第2の面との間で差が大きい例12、13、16については上定盤への研磨キャリアの貼り付き枚数が0枚となっており、高い効果が確認できた。
【0106】
さらに、例13、16については研磨キャリアの第1の面と第2の面の表面粗さRaの差が0.5μm以上となっており、キズの発生率が0.5%以下になるなど高い効果を確認できた。