(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861535
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法
(51)【国際特許分類】
B65G 3/02 20060101AFI20160202BHJP
C10L 5/00 20060101ALI20160202BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
B65G3/02 F
B65G3/02 E
C10L5/00
C09K3/18 101
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-74339(P2012-74339)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203525(P2013-203525A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 たかし
【審査官】
加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−088695(JP,A)
【文献】
特開2009−102616(JP,A)
【文献】
特開昭62−131084(JP,A)
【文献】
特開昭49−031589(JP,A)
【文献】
特開昭60−093008(JP,A)
【文献】
特開昭62−084110(JP,A)
【文献】
特開昭55−036297(JP,A)
【文献】
特開2001−040339(JP,A)
【文献】
特開平07−228611(JP,A)
【文献】
特開2000−096039(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0177655(US,A1)
【文献】
特開2001−342201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 3/02
C09K 3/18
C10L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇を防止する方法において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜3μmで、標準偏差が0.2μm以上の粒度を有するエマルジョン樹脂溶液を野積み堆積物に散布することを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【請求項2】
請求項1において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜0.6μmであることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【請求項3】
請求項1又は2において前記エマルジョン樹脂がアクリル系共重合樹脂であることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記野積み堆積物が、石炭の野積み堆積物であることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野積み堆積物に、エマルジョン樹脂溶液を散布してコーティング膜を形成することにより、野積み堆積物の粉塵発生や水分上昇を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所や発電所、紙パルプ工場などでは、石炭、鉄鉱石、スラグ、ダストなどの粉体を野積みしている。野積みされた粉体からは粉塵が発生し、環境問題となる。また、豪雨等により山崩れ、流炭(石炭の含水率が上がりスラリー状となることで野積み石炭から流れ崩れる現象)などが発生する。また、降雨等により雨水が浸透し、含水率が上昇する。野積み石炭の含水率の上昇は、燃料として使用する際に水分蒸発のために余分のエネルギーを消費させ、経済的に大きな損失を招くと共にCO
2発生量の増加につながる上に、原料炭の場合はコークス製造工程において種々の悪影響を及ぼす。
【0003】
この問題に対して、エマルジョン樹脂の希釈液を、野積み堆積物の表層に散布して、野積み堆積物の粉体とエマルジョン樹脂の固結体を形成させて粉塵の発生や水分の上昇を防止する方法が知られており、従来、野積み堆積物のコーティング処理としていくつかの提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、野積み堆積物の疎水化処理剤として、アクリル系樹脂のエマルジョンを用いることが開示されているが、この疎水化処理剤では膜厚が薄くなりやすいため、膜にひび割れが生じ、雨水等が浸透してしまう問題がある。
また、特許文献2では、エチレン−酢酸ビニル系共重合体エマルジョンに撥水剤を含有させて遮水性を発揮させる処理法が開示されているが、この技術では野積み堆積物表面に緻密な膜を形成し難いため、水分が浸透する問題がある。
更に、特許文献3には、樹脂エマルジョン100重量部に対し撥水性付与剤を3〜15重量部含有させた野積み石炭の含水率上昇抑制剤が開示されているが、このものは、経済性や造膜性の点で問題がある。
【0005】
このように樹脂エマルジョンを用いてコーティングを行う場合、野積み堆積物に対して薄い膜しか形成し得ないと、膜に亀裂が入り粉塵が発生したり、雨水が浸透し、石炭などの野積み粉体の水分を上昇させたりする等の問題を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平01−38723号公報
【特許文献2】特許第4032149号公報
【特許文献3】特公平6−62971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来法では、雨水などが浸透しないように、野積み堆積物の表層にコーティング膜を形成させようとすると、膜が薄くなり、亀裂が入り易く、雨水が浸透し易く、また、粉塵も発生し易くなる。また、雨水が浸透すると、野積み粉体がスラリー化して流炭などの現象を引き起こす。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、野積み堆積物にエマルジョン樹脂溶液を散布してコーティング膜を形成して野積み堆積物の粉塵発生ないしは水分上昇を防止する方法において、膜厚が厚く、高強度で亀裂が入り難いコーティング膜を形成して、野積み堆積物の粉塵の発生ないしは水分上昇を確実に防止する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリマー粒子の粒子径が大きく、粒子径分布に広がりをもったエマルジョン樹脂溶液を用いることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇を防止する方法において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜3μmで、標準偏差が0.2μm以上の粒度を有するエマルジョン樹脂溶液を野積み堆積物に散布することを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【0012】
[2] [1]において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜0.6μmであることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【0013】
[3] [1]又は[2]において前記エマルジョン樹脂がアクリル系共重合樹脂であることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれか1項において、前記野積み堆積物が、石炭の野積み堆積物であることを特徴とする野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明で用いるエマルジョン樹脂溶液は、ポリマー粒子の粒子径が大きく、粒子径分布に広がりをもったものであり、このようなエマルジョン樹脂溶液を野積み堆積物に散布すると、エマルジョン樹脂は、野積み粉体の表層に広がって、膜厚が厚く、緻密で強固なコーティング膜を形成することができる。
このコーティング膜は、強固で亀裂が入り難いことから、粉塵の発生を確実に防止し得ると共に、ポリマー粒子の粒子径を更に制御することにより水分も浸透し難いコーティング膜とすることができ、野積み堆積物の水分上昇を確実に防止することができ、流炭防止にも有効である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇防止方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明においては、野積み堆積物の発塵及び/又は水分上昇を防止する方法において、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜3μm、好ましくは0.3〜0.6μmで、標準偏差が0.2μm以上の粒度を有するエマルジョン樹脂溶液を野積み堆積物に散布する。
なお、本発明において、エマルジョン樹脂溶液中のポリマー粒子の平均粒子径及び標準偏差は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD−7000)により求められたものである。
【0018】
<野積み堆積物>
本発明において、処理対象とする野積み堆積物とは、石炭、鉱石、コークス、スラグ、ダスト、木くず、ペーパースラッジ等を屋外貯蔵ヤードに山積みされたものをさす。
【0019】
<エマルジョン樹脂溶液>
本発明において、野積み堆積物に散布するエマルジョン樹脂溶液は、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜3μm、好ましくは0.3〜0.6μmで、標準偏差が0.2μm以上の、粒子径が比較的大きく、また、粒子径分布に広がりをもつものである。
【0020】
即ち、水を浸透させないことと、厚い膜を形成して強度を上げることを両立させるために、エマルジョン樹脂溶液中のポリマー粒子の粒子径分布を一定以上の範囲で大きくすることが必要となる。
ポリマー粒子の平均粒子径が小さ過ぎると、膜厚の薄い膜しか形成し得ず、平均粒子径が大き過ぎ、標準偏差も大きくないものであると、膜厚の厚い膜を形成できても、緻密な膜を形成し得ないため、水が浸透してしまう。
【0021】
本発明では、ポリマー粒子の粒度が、平均粒子径0.3〜3μmで、標準偏差0.2μm以上であるため、厚い膜を形成して発塵を防止することができ、特にポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜0.6μmであれば、より一層厚く強度が高い膜を形成して遮水性をも確実に得ることができる。なお、ポリマー粒子の標準偏差の上限については、およそ1μm以下であることから、通常0.7μm以下である。また、ポリマー粒子の粒子径分布は極大値が一つでも複数あっても良い。
【0022】
本発明で用いるエマルジョン樹脂溶液のエマルジョン樹脂としては、特に限定されず、アクリル系樹脂、アクリル系共重合樹脂、酢酸ビニル系樹脂、合成ゴム、ウレタン樹脂、アスファルト(乳化剤)などを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
なお、形成されるコーティング膜の遮水性を高めるために、エマルジョン樹脂に疎水性の高いモノマーを使用したり、エマルジョン樹脂溶液にワックス等の撥水剤を添加するなどの手段を講じてもよい。
【0024】
本発明で用いるエマルジョン樹脂溶液は、通常、上述のようなエマルジョン樹脂の水性エマルジョンであるが、その固形分濃度としては、20〜60重量%程度であることがエマルジョン樹脂溶液の粘度及び経済性の面から好ましく、このような濃度の水性エマルジョンを水で5〜30重量%程度の固形分濃度に希釈して野積み堆積物に散布することが好ましい。
【0025】
<散布方法>
野積み堆積物へのエマルジョン樹脂溶液の散布方法としては特に制限はなく、散水車から堆積物に向けて散布したり、野積み用スタッカー上から散布したりし、その都度適当なポンプ、ノズルを選定して実施される。
【0026】
また、散布量は、用いたエマルジョン樹脂や野積み堆積物に要求される粉塵ないしは水分上昇防止の程度により適宜決定されるが、上述の希釈エマルジョン樹脂溶液を野積み堆積物の表面積当たり、1〜3L/m
2程度散布することが好ましい。
【0027】
エマルジョン樹脂溶液の散布後は、自然乾燥して造膜させる。
【0028】
このようにして形成されるコーティング膜は、膜厚が厚く強固な膜であるため、粉塵防止効果が高い。また、亀裂が入り難いことから、水分も浸透しにくく、水分上昇防止効果にも優れる。その結果、流炭防止にも有効である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0030】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
<膜厚の評価>
縦15cm、横25cm、高さ10cmの容器に、−2mm粒度の石炭50%と2〜5mm粒度の石炭を50%混合した石炭を詰め、この状態で、容器を高さ1cm程度の高さから10回自然落下させ、石炭の充填層高さが5cmとなるように調整し、充填層の上面は平滑になるようならした。
このようにして作製した石炭層の上面に、表1に示すエマルジョン樹脂溶液を、石炭層の上面の面積に対して2L/m
2となるように霧吹きで散布し、その後自然乾燥させて、形成されたコーティング膜の膜厚を測定した。
結果を表1に示す。
【0031】
<石炭含水率の評価>
野積み石炭の傾斜面を模擬するために、円筒を斜めに切断した斜面円筒容器(内径75mm、斜面下部高さ83mm、斜面上部高さ140mm、安息角約37゜)を準備した。容器の下部は石炭が流れないよう、30mesh程度の網を設けた。この野積み石炭の傾斜面を模擬した斜面円筒容器に石炭を詰め、傾斜面の石炭上に表1に示すエマルジョン樹脂溶液を石炭表面の面積当たり2L/m
2となるように霧吹きで散布し、室内に1週間静置させて造膜させた。その後、人工降雨装置内にこの円筒容器を設置した。
用いた人工降雨装置は、天井に設置された針より水滴を垂らすもので、均一な降雨が再現できる装置である。本試験では50mm/hrの降雨量にて、5時間の試験時間とし、試験後の石炭の含水率を斜面円筒容器の重量変化により測定した。結果を表1に示す。
【0032】
防水性のある膜が形成されている場合には、石炭の含水率は上昇せず、十分に膜が形成されていない場合や防水性のある膜が形成されていない場合には石炭の含水率が上昇する。
石炭含水率が上昇しない膜が形成されているということは、エネルギーロスの防止に繋がり、表面の石炭粒子が十分に膜で被覆されているということになるため、発塵が防止される。また、流炭は石炭の含水率が上がりスラリー状となることで野積み石炭から流れ崩れる現象であるが、これも石炭の含水率を上昇させないことで防止が可能である。
【0033】
<総合評価>
膜厚10〜20mmの膜が形成されている場合を「○」とし、膜厚がそれよりも薄い場合を「×」とした。
また、石炭含水率5重量%以下を「○」とし、含水率が5重量%を超える場合を「×」とした。
膜厚及び石炭含水率が両方とも「○」であるものを総合評価「○」とし、膜厚が「○」で石炭含水率が「×」のものを「△」とし、それ以外を「×」とし、結果を表1に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
以上の結果から、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜3μmで、標準偏差が0.2μm以上の粒度を有するエマルジョン樹脂溶液を用いる本発明によれば、野積み堆積物に、膜厚が厚く、粉塵発生の防止効果に優れたコーティング膜を形成することができ、特に、ポリマー粒子の平均粒子径が0.3〜0.6の範囲であれば、膜厚が厚く、かつ水不透性に優れ、粉塵の発生のみならず、水分の上昇の防止効果にも優れたコーティング膜を形成することができることが分かる。