(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861593
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/00 20060101AFI20160202BHJP
H01B 11/06 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
H01B11/00 G
H01B11/06
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-180897(P2012-180897)
(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2014-38777(P2014-38777A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2014年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
【審査官】
神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−234025(JP,A)
【文献】
特開平05−190025(JP,A)
【文献】
特開2002−319319(JP,A)
【文献】
特開2011−198677(JP,A)
【文献】
特開2008−243644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号を伝送する一対の中心導体と、
該中心導体の周囲を覆う絶縁体と、
少なくとも導体層を含み、前記導体層が外側となるように前記絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、
該シールドテープの周囲に、粘着面が内側となるように螺旋状に巻回され、前記シールドテープに直接接着された絶縁テープと、
前記シールドテープと前記絶縁テープとの間に、前記シールドテープの外周の周方向の一部を覆うように長手方向に沿って設けられると共に、前記シールドテープに対して非接着に設けられた非接着性テープと、
を備え、ドレイン線を備えていないことを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記非接着性テープは、前記シールドテープの幅方向の端部同士を重なり合わせたオーバーラップ部と対向する位置に配置される
請求項1記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体は、前記一対の中心導体を一括して被覆するように設けられ、
前記非接着性テープは、前記中心導体の配列方向における前記絶縁体の幅よりも狭い幅に形成される
請求項2記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記シールドテープは、
絶縁体層と、該絶縁体層の一方の面に設けられた前記導体層とからなる
請求項1〜3いずれかに記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記シールドテープは、前記導体層のみからなる
請求項1〜3いずれかに記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
複数の差動信号伝送用ケーブルを撚り合わせ、その周囲に保護用のジャケットを設けた多芯ケーブルにおいて、
前記差動信号伝送用ケーブルの少なくとも1つに、請求項1〜5いずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルを用いた
ことを特徴とする多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドテープが縦添え巻きされた構造の差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、差動信号を伝送する一対の中心導体の周囲に絶縁体を設け、その絶縁体の周囲に、絶縁体層の一方の面に導体層を設けたシールドテープを巻き付けた構造の差動信号伝送用ケーブルが知られている。
【0003】
このような差動信号伝送用ケーブルにおいて、絶縁体の周囲にシールドテープを螺旋状に巻き付けた場合、絶縁体層と導体層がケーブル長手方向に沿って周期的に配置されることとなるため、シールドテープの巻き付けピッチに起因して共振現象(サックアウト)が発生し、使用できる周波数帯域が制限されてしまうという問題がある。このような問題を避けるため、絶縁体の周囲にシールドテープを縦添え巻きした差動信号伝送用ケーブルが提案されている。
【0004】
シールドテープを縦添え巻きした構造の差動信号伝送用ケーブルでは、シールドテープを絶縁体に密着させて巻き付け、シールドテープの緩みを防止する手段が必要となる。
【0005】
特許文献1では、シールドテープの周囲に、押さえ巻き用の絶縁テープを横巻きした(螺旋状に巻き付けた)構造の差動信号伝送用ケーブルが提案されている。特許文献1では、シールドテープの周囲に接着面が外側となるように絶縁テープを螺旋状に巻き付け、さらにその外側に、接着面が内側となるように絶縁テープを螺旋状に、両絶縁テープの巻き方向が互いに反対となるように巻き付けており、2層の絶縁テープの接着面同士を接着させることで両者を固定して、シールドテープの緩みを防止している。
【0006】
特許文献2では、シールドテープの外側に絶縁材料をシースとして被せた差動信号伝送用ケーブルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7790981号明細書
【特許文献2】米国特許第6677518号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、シールドテープの導体層を接地するためのドレイン線を有さない差動信号伝送用ケーブルにおいては、シールドテープの導体層を接地するために、端末にてシールドテープの導体層を露出させる端末処理を行う必要がある。
【0009】
特許文献2では、シールドテープの外側に絶縁材料をシースとして被せているため、端末にてシールドテープの導体層を露出させることが困難である。
【0010】
これに対して、特許文献1では、シールドテープと絶縁テープが直接接着されていないため、シールドテープの導体層を露出させるのが容易である。
【0011】
しかし、特許文献1では、1層目の絶縁テープを巻いた後、2層目の絶縁テープを巻かなければ絶縁テープが固定されないため、製造時に絶縁テープが緩みやすく、その結果、シールドテープが緩んで伝送特性が劣化してしまうおそれがある。このような製造時の絶縁テープの緩みを防止するためには、2層の絶縁テープを1工程で巻く必要があり、製造工程が複雑となり製造コストが高くなってしまう。
【0012】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、製造が容易であり、シールドテープの緩みを防止して伝送特性の劣化を防止でき、かつ、端末にてシールドテープを容易に露出できる差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、差動信号を伝送する一対の中心導体と、該中心導体の周囲を覆う絶縁体と、
少なくとも導体層を含み、前記導体層が外側となるように前記絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、該シールドテープの周囲に、粘着面が内側となるように螺旋状に巻回され
、前記シールドテープに直接接着された絶縁テープと、前記シールドテープと前記絶縁テープとの間に、前記シールドテープの外周の周方向の一部を覆うように長手方向に沿って設けられると共に、前記シールドテープに対して非接着に設けられた非接着性テープと、を備え
、ドレイン線を備えていない差動信号伝送用ケーブルである。
【0014】
前記非接着性テープは、前記シールドテープの幅方向の端部同士を重なり合わせたオーバーラップ部と対向する位置に配置されてもよい。
【0015】
前記絶縁体は、前記一対の中心導体を一括して覆うように設けられ、前記非接着性テープは、前記中心導体の配列方向における前記絶縁体の幅よりも狭い幅に形成されてもよい。
【0016】
前記シールドテープは、絶縁体層と、該絶縁体層の一方の面に設けられた
前記導体層とから
なってもよい。
【0017】
前記シールドテープは、導体層のみからなってもよい。
【0018】
また、本発明は、複数の差動信号伝送用ケーブルを撚り合わせ、その周囲に保護用のジャケットを設けた多芯ケーブルにおいて、前記差動信号伝送用ケーブルの少なくとも1つに、本発明の差動信号伝送用ケーブルを用いた多芯ケーブルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造が容易であり、シールドテープの緩みを防止して伝送特性の劣化を防止でき、かつ、端末にてシールドテープを容易に露出できる差動信号伝送用ケーブル及び多芯ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a),(b)は、本発明の一実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図である。
【
図2】
図1の差動信号伝送用ケーブルの横断面図である。
【
図3】(a)は
図1の差動信号伝送用ケーブルの端末にてシールドテープを露出させたときの斜視図、(b)はさらに端末処理端子を設けたときの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
図1(a),(b)は、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図であり、
図2はその横断面図である。
【0023】
図1,2に示すように、差動信号伝送用ケーブル1は、差動信号を伝送する一対の中心導体2と、中心導体2の周囲を覆う絶縁体3と、絶縁体3の周囲に縦添え巻きされたシールドテープ4と、シールドテープ4の周囲に、粘着面5aが内側となるように螺旋状に巻回された絶縁テープ5と、を備えている。
【0024】
本実施の形態では、平行に配置した一対の中心導体2を一括して覆うように絶縁体3を設けてツイナックスコア6を形成し、そのツイナックスコア6の周囲に縦添え巻きでシールドテープ4を設けるようにしている。なお、これに限らず、例えば、中心導体2を絶縁体3で被覆した2本の絶縁電線を平行、あるいは撚り合わせて配置したコアとすることも可能である。
【0025】
本実施の形態では、絶縁体3は、断面視で楕円形状に形成され、その短軸方向における一方の頂部の近傍に、シールドテープ4の幅方向の端部同士を重なり合わせた部分であるオーバーラップ部4aが位置するよう、シールドテープ4が縦添え巻きされている。
【0026】
また、本実施の形態では、シールドテープ4として、PET(ポリエチレンテレフタレート)などからなる絶縁体層と、絶縁体層の一方の面に設けられた導体層とからなるものを用い、導体層が外側となるようにシールドテープ4を絶縁体3の周囲に縦添え巻きした。ただし、これに限らず、シールドテープ4として、導体層のみからなるもの(つまり金属箔)を用いるようにしてもよい。シールドテープ4として導体層のみからなるものを用いることで、絶縁体層の誘電率が内部の電磁界に影響を与えてしまうことがなくなり、伝送特性をより良好にすることができる。
【0027】
シールドテープ4の導体層としては、銅を用いることが望ましい。通常、シールドテープ4の導体層として軽量なアルミニウムが用いられることが多いが、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1はドレイン線を備えておらず、シールドテープ4の導体層に接地用の電線や端子(後述する端末処理端子)等を接続する必要がある。このときの導体層への半田付けを容易とするため、導体層として銅を用いることが望ましい。さらに、導体層に用いる銅としては、伸びや曲げに対する強度が大きい圧延銅箔、あるいは電解銅箔を用いることが望ましい。
【0028】
さて、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1は、シールドテープ4と絶縁テープ5との間に、シールドテープ4の外周の周方向の一部を覆うように長手方向に沿って設けられると共に、シールドテープ4に対して非接着に設けられた非接着性テープ7を備えている。
【0029】
非接着性テープ7としては、非粘着性のものを用いることが望ましい。ただし、シールドテープ4に対する剥離性が十分に確保できるのであれば、多少の粘着性を有するものを用いてもよい。非接着性テープ7としては、例えば、フッ素樹脂テープ、テフロンテープ、テフロン含有ガラスクロステープ、フッ素樹脂含有ガラスクロステープなどを用いることができる(テフロンは登録商標)。
【0030】
非接着性テープ7を設けた位置では、シールドテープ4に対して絶縁テープ5が接着されないことになる。なお、シールドテープ4のオーバーラップ部4a上に非接着性テープ7を設けると、シールドテープ4の幅方向の端部が接着固定されず、シールドテープ4が緩み易くなるので、非接着性テープ7は、シールドテープ4のオーバーラップ部4a以外の位置に設けることが望ましい。後述する端末処理端子の設置し易さや加工のし易さを考慮すると、オーバーラップ部4aと対向する位置、すなわち、断面視で楕円形状の絶縁体3における短軸方向の他方の頂部の近傍に、非接着性テープ7を設けることが望ましい。
【0031】
また、非接着性テープ7の幅を広くしすぎると、絶縁テープ5とシールドテープ4の接着面積が減りシールドテープ4を保持する力が弱まるので、非接着性テープ7は、中心導体2の配列方向における絶縁体3の幅よりも狭い幅に形成されることが望ましい。
【0032】
差動信号伝送用ケーブル1の端末処理を行う際には、
図3(a)に示すように、非接着性テープ7を形成した位置において、絶縁テープ5を非接着性テープ7ごと剥き取る。このとき、非接着性テープ7はシールドテープ4に接着されていないので、容易に剥き取ることができる。
【0033】
絶縁テープ5や非接着性テープ7は、CO
2レーザなどのレーザにより切断することが可能である。また、シールドテープ4の導体層として用いる銅は、絶縁テープ5や非接着性テープ7と比較してレーザにより切断されにくい。よって、所望の位置の絶縁テープ5と非接着性テープ7をレーザにより切り取り、シールドテープ4の導体層を露出(表出)させるようにすればよい。
【0034】
この露出した導体層の表面に、例えば
図3(b)に示すような端末処理端子31を半田付けすることで、端末処理端子31を介して、シールドテープ4の導体層をプリント配線板などの外部媒体に電気的に接続することができる。
【0035】
ここでは、一例として、シールドテープ4の導体層の表面に半田付けされる突起32が形成された水平部33と、水平部33の両端部からそれぞれ垂直に下方(差動信号伝送用ケーブル1側)に延びる垂直部34と、両垂直部34からそれぞれ前方(接続方向、中心導体2の延出方向)に延び、外部媒体に接続される円柱状の端子部35と、からなる端末処理端子31を用いたが、端末処理端子31の形状はこれに限定されるものではない。
【0036】
本発明の差動信号伝送用ケーブル1を複数本撚り合わせ、その周囲に保護用のジャケットを設けると、本発明の多芯ケーブルが得られる。なお、多芯ケーブルに含まれる全ての差動信号伝送用ケーブルに本発明の差動信号伝送用ケーブル1を用いなければならないというわけではなく、多芯ケーブルに含まれる差動信号伝送用ケーブルの少なくとも1つに、本発明の差動信号伝送用ケーブル1を用いていればよい。
【0038】
本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、シールドテープ4と絶縁テープ5との間に、シールドテープ4の外周の周方向の一部を覆うように長手方向に沿って設けられると共に、シールドテープ4に対して非接着に設けられた非接着性テープ7を備えている。
【0039】
非接着性テープ7で覆われた部分のシールドテープ4は、絶縁テープ5に接着されていないので、この部分の非接着性テープ7と絶縁テープ5を局所的に除去することが可能であり、シールドテープ4の導体層を端末にて容易に露出させることが可能になる。
【0040】
また、差動信号伝送用ケーブル1では、非接着性テープ7で覆われた部分以外では、シールドテープ4と絶縁テープ5が直接接着固定されているため、絶縁テープ5がほつれてシールドテープ4と絶縁体3との密着性が損なわれることがなく、シールドテープ4の緩みを防止して伝送特性の劣化を防止することが可能である。
【0041】
シールドテープと絶縁テープが直接接着されていない特許文献1では、例えば、シールドテープの導体層を外部の機器等に接続した後にケーブルを引っ張る方向に力が働いた場合などに、シールドテープのみに応力が集中してシールドテープが破断してしまうおそれもあるが、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、シールドテープ4と絶縁テープ5が直接接着固定されているため、絶縁テープ5がシールドテープ4を補強する役割を果たし、シールドテープ4の破断を抑制することが可能になる。
【0042】
さらに、差動信号伝送用ケーブル1では、従来のように2層の絶縁テープを1工程で巻くような複雑な工程が必要なく、製造が容易であり、製造コストも抑制できる。
【0043】
さらにまた、差動信号伝送用ケーブル1では、シールドテープ4のオーバーラップ部4aと対向する位置に非接着性テープ7を配置しているため、非接着性テープ7と絶縁テープ5を剥き取る際にシールドテープ4のオーバーラップ部4aが開いてしまうことがなく、端末処理による特性劣化を抑制することができる。
【0044】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
1 差動信号伝送用ケーブル
2 中心導体
3 絶縁体
4 シールドテープ
5 絶縁テープ
7 非接着性テープ