特許第5861694号(P5861694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5861694-マンガンの溶出抑制方法 図000002
  • 特許5861694-マンガンの溶出抑制方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861694
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】マンガンの溶出抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20160202BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20160202BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20160202BHJP
   C22B 47/00 20060101ALN20160202BHJP
【FI】
   C02F11/00 JZAB
   C22B23/00 102
   C22B3/08
   !C22B47/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-259175(P2013-259175)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-112590(P2015-112590A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2015年10月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】横川 友彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖匡
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−207674(JP,A)
【文献】 特開平09−248576(JP,A)
【文献】 特開2004−049933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00〜11/20
C22B 3/00〜 3/46
C22B 23/00〜23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿池に貯留したマンガン及びアルミニウムの沈殿物、並びにニッケル及びコバルトを含むスラリー中の該マンガン沈殿物からマンガンが溶出することを抑制するマンガンの溶出抑制方法であって、
沈殿池中の上記スラリーのpHを8.0〜9.0とし、
上記スラリーは、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出する高圧酸浸出法で生じる排水であり、
上記排水は、沈殿剤の石灰石及び消石灰により生成された上記マンガン及びアルミニウムの沈殿物を含むものであり、
得られるスラリー中のマンガン濃度は、1mg/L未満となることを特徴とするマンガンの溶出抑制方法。
【請求項2】
上記沈殿池での上記スラリーの貯留期間は、30日以下であることを特徴とする請求項1記載のマンガンの溶出抑制方法。
【請求項3】
上記沈殿池から上澄みをポンプアップして外部に放出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマンガンの溶出抑制方法。
【請求項4】
上記スラリーを上記沈殿池に放出する放出時に、該スラリーのpHが8.0〜10.0であることを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか1項記載のマンガンの溶出抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈殿池に貯留したマンガン沈殿物を含むスラリーにおいてマンガン沈殿物からマンガンが溶出することを抑制するマンガンの溶出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法としては、硫酸を用いた高圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、この方法では、ニッケル品位を50質量%程度まで上昇したニッケルとコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケル・コバルト混合硫化物」ともいう。)を得ることができるという利点を有している。
【0003】
この高圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石を所定の大きさに粉砕等してスラリーとする鉱石処理工程と、鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す(高圧酸)浸出工程と、浸出スラリーを多段洗浄する前に中和(以下、「予備中和」ともいう。)処理を施す予備中和工程と、予備中和処理を施して得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら、浸出残渣とニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液とに固液分離する固液分離工程(以下、「CCD工程」ともいう。)と、得られた浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離し、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程と、中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を形成して分離しニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成させるニッケル回収工程と、ニッケル回収工程における排液(ろ液)やCCD工程の残渣を混合して中和処理を施す最終中和工程とを有する(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
高圧酸浸出法は、低品位のニッケル酸化鉱から金属を回収する方法として実用化されている。浸出時には、浸出スラリーにニッケルやコバルトといった回収目的の元素以外にも、マンガン、マグネシウム等の不純物成分が浸出される。浸出したマンガン等は、ニッケルやコバルトを回収した後、アルカリを添加して中和処理される。マンガン等の沈殿物は、最終的にスラリーとしてテーリングダムと呼ばれる沈殿池に移送される。沈殿池では、沈殿物を沈降分離し、上澄み液が海に放出される。
【0005】
このような中和処理では、多くの場合、マンガンの除去が問題となる。これは、ニッケル酸化鉱石に含まれるマンガンの含有量が多く、沈殿させることが難しいからである。このような問題に対して、例えば特許文献2には、マンガンを選択的に効率良く沈殿させる方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、中和処理した後、即ちマンガンを沈殿した後、沈殿池での固液分離時のマンガンの濃度変化についての有用な知見が存在していない。特許文献3には、中和処理の際に重金属無機化合物を添加して凝集沈殿を促進する方法が記載されている。しかしながら、特許文献3には、沈殿後、固液分離時における重金属の濃度の挙動については言及されていない。
【0007】
沈殿池では、通常、マンガン濃度について環境に影響を与えない濃度に管理がされている。しかしながら、沈殿池では、マンガン濃度が急変動、特に濃度上昇することがあり、その原因が分っていない。このため、マンガン濃度の制御が困難になる。そこで、沈殿池では、固液分離時のマンガンの濃度変化について知見に基づいてマンガン濃度を制御することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【特許文献2】特開平9−248576号公報
【特許文献3】特開2012−250226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、沈殿池にてマンガン沈殿物からマンガンが溶出することを抑制するマンガンの溶出抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマンガンの溶出抑制方法は、沈殿池に貯留したマンガン及びアルミニウムの沈殿物、並びにニッケル及びコバルトを含むスラリー中の該マンガン沈殿物からマンガンが溶出することを抑制するマンガンの溶出抑制方法であって、沈殿池中の上記スラリーのpHを8.0〜9.0とし、上記スラリーは、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出する高圧酸浸出法で生じる排水であり、上記排水は、沈殿剤の石灰石及び消石灰により生成された上記マンガン及びアルミニウムの沈殿物を含むものであり、得られるスラリー中のマンガン濃度は、1mg/L未満となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、沈殿池に貯留したマンガン沈殿物を含むスラリーのpHを8.0〜9.0とすることで、マンガン沈殿物からマンガンが溶出することを抑制でき、マンガン沈殿物を沈降させて得られた上澄み液のマンガン濃度を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】沈殿池に貯留したスラリーのマンガン濃度及びpHの変化の関係を示す図である。
図2】沈殿池から固形分を除去したスラリーのマンガン濃度及びpHの変化の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るマンガンの溶出抑制方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0014】
マンガンの溶出抑制方法は、沈殿池に貯留したマンガン沈殿物を含むスラリーのpHを8.0〜9.0とすることで、マンガン沈殿物からマンガンが溶出することを抑制する方法である。
【0015】
沈殿池に貯留されるスラリーとしては、例えばニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを高圧酸浸出させた際に生じる浸出残渣や浸出液からニッケルやコバルトを回収した後のろ液を中和処理設備にて石灰石パウダー及び消石灰パウダーで中和処理して生成した沈殿物を含むスラリーである。即ち、マンガン溶出抑制方法は、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬で生じた浸出残渣やろ液を含む排水を中和処理した後、沈殿池に貯留した排水のマンガン濃度が高まることを防止するため、マンガンの溶出を抑制するのに適用することができる。
【0016】
ニッケル酸化鉱石には、ニッケルやコバルトの他に不純物としてマンガン、アルミニウム等が含まれている。このため、浸出残渣やろ液を石灰石パウダーや消石灰パウダーで中和処理した場合には、マンガンやアルミニウム等の沈殿物が生成される。
【0017】
中和処理する際には、浸出残渣やろ液を含む排水のpHを8.0〜10.0とすることが好ましい。排水のpHが低過ぎる場合には、マンガンの沈殿不良が起こる。pHが高過ぎる場合には、中和剤の使用量が多くなり好ましくない。
【0018】
マンガンやアルミニウム等の沈殿物を含むスラリーは、海や川に排出する前に一度沈殿池に貯留される。ここで、沈殿池とは、ダムも含むものである。沈殿池では、マンガン沈殿物を含むスラリーをしばらく貯留してマンガン沈殿物等の沈殿物を沈降させる。そして、沈殿物を沈降させた後に、無害化された上澄みを例えばポンプアップして海や川等の外部に放流する。
【0019】
沈殿池では、環境への負荷を抑制するために無害化された上澄みを海や川等に放流する必要がある。沈殿池では、例えばマンガンが沈殿物として沈殿し、上澄みに溶け込んでいないことが好ましいが、上澄み中のマンガン濃度が上昇している。
【0020】
マンガン濃度の上昇は、スラリーのpHが関係している。マンガン濃度は、スラリーのpHが低下すると上昇する。スラリーのpHは、空気中の二酸化炭素が溶け込みプロトンを発生することで低下すると考えられる。
【0021】
マンガンは、スラリーのpHが低下すると、沈殿物から溶出する。スラリーのpHとマンガン濃度との関係は、図1に示すスラリーのpH及びマンガン濃度の測定結果からもわかる。
【0022】
図1は、約70日間に亘って沈殿池中のスラリーのpHとマンガン濃度を測定した結果である。二酸化炭素の溶解による到達pHは、7.7程度である。図1に示すように、スラリーのpHが8.5を下回った時点でマンガンの溶出が開始し、pHが8.0を下回った時点でマンガンの濃度は1mg/Lを越えている。この1mg/Lは、例えばフィリピン国の国家公害規制委員会(National Pollution Control Commission: NPCC)で定められている規定値である。したがって、スラリー中のマンガン濃度を1mg/L未満に抑える必要がある。
【0023】
また、図1に示す結果から、スラリーのpHが8.5に達する時間はおよそ20日であり、20日以降はpHの低下に起因するマンガンの溶出が急激に始まり、30日目にはマンガンの濃度が1mg/Lに達することがわかる。
【0024】
したがって、沈殿池からの放流は、貯留しているスラリーのpHが8.0、好ましくは8.25を下回る前に行う。即ち、スラリーのpHが8.0〜9.0の範囲内で維持、好ましく8.25〜8.75の範囲内で維持できれば、マンガンの溶出が抑えられており、マンガン濃度が1mg/LでありNPCCの規定値を満たした状態で放流することができる。
【0025】
沈殿池では、スラリーのpHが8.0、好ましく8.25を下回るようにする方法としてはスラリーの貯留時間を30日以下、好ましく20日以下とする。貯留時間が30日以下では、マンガンの溶出が抑えられおり、マンガン濃度が1mg/L未満を満たすことができる。
【0026】
ここで、スラリーのpHの低下と二酸化炭素との関係について、固形分(沈殿物)がない状態においてスラリーのpHを測定して別途調べた。その結果を図2に示す。なお、スラリーから沈殿物を除去したものの、全て取り除くことはできず、微量のマンガンが検出された。
【0027】
図2に示す結果から、スラリーから固形分(沈殿物)を除去した後、大気中に保持した場合でも、上述した固形分を含む場合と同様にスラリーのpHが7.7まで低下することがわかる。即ち、固形分の有無に関わらず、スラリーを大気中に保持するとスラリーのpHは7.7程度まで低下することがわかる。スラリーのpHの低下は、固形分がないと溶出するものがないため早くなる。したがって、スラリーのpHの低下は、上述したように空気中に含まれる酸性ガスの二酸化炭素のスラリーへの溶解が起因していることがわかる。
【0028】
マンガンの溶出抑制方法では、スラリーを沈殿池に払い出す際にスラリーのpHが8.0〜10.0であること好ましい。マンガンの溶出抑制方法では、スラリーのpHを8.0〜10.0とすることにより、マンガンが溶出しておらず、マンガンの濃度が非常に低い状態で沈殿池にスラリーを放出することができる。
【0029】
以上のことから、マンガンの溶出抑制方法は、海や川への放流前のスラリーを外気と触れる沈殿池に貯留してもマンガン濃度が上昇することを抑制できる。これにより、マンガンの溶出抑制方法は、環境への影響を抑制できその効果は非常に大きいものである。
【実施例】
【0030】
本発明を適用した実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
<実施例>
実施例では、先ず、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出する高圧酸浸出にて生じるマンガンを含む排水に石灰石パウダーと消石灰パウダーを添加して中和処理を行い、マンガンの沈殿物を含むスラリーを得た。
【0032】
次に、実施例では、スラリーを沈殿池に払い出した。スラリーを沈殿池に払い出し時のスラリーのpHは9.10であり、マンガン濃度は0.3mg/Lであった。
【0033】
次に、実施例では、大気雰囲気下の沈殿池にスラリーを15日間静置した。その後、上澄み液をポンプアップで海に放出した。このときのスラリーのpHは、8.5であり、マンガン濃度は、0.1mg/Lであった。
【0034】
したがって、実施例では、マンガンの溶出が抑えられている。
【0035】
<比較例>
比較例では、実施例と同様に高圧酸浸出法にて生じるマンガンを含む排水を中和処理した。次に、比較例では、スラリーのpHが9.15の状態で沈殿池にスラリーを払い出した。
【0036】
次に、比較例では、大気雰囲気下の沈殿池にスラリーを40日間静置した。スラリーのマンガン濃度は、2.5mg/Lであった。
図1
図2