特許第5861698号(P5861698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5861698高飽和ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861698
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】高飽和ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20160202BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20160202BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20160202BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20160202BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20160202BHJP
   F16G 1/06 20060101ALI20160202BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   C08L9/02
   C08L77/00
   C08K5/14
   C09K3/10 Z
   F16J15/10 Y
   C09K3/10 C
   F16G1/06
   F16L11/04
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-507711(P2013-507711)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058308
(87)【国際公開番号】WO2012133618
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2011-77180(P2011-77180)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正人
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−251452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/02
C08K 5/14
C08L 77/00
C09K 3/10
F16G 1/06
F16J 15/10
F16L 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位15〜60重量%、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を15〜60重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(A2)と、
融点が、100〜300℃であるポリアミド樹脂(B)とを含有し、
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との含有割合が、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1):高飽和ニトリルゴム(A2)」の重量比で、2:98〜98:2である高飽和ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位が、マレイン酸のモノアルキルエステル単位である請求項1に記載の高飽和ニトリルゴム組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との合計量に対する、前記ポリアミド樹脂(B)の含有量が、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との合計量:ポリアミド樹脂(B)の含有量」の重量比で、95:5〜50:50である請求項1または2に記載の高飽和ニトリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の高飽和ニトリルゴム組成物に、有機過酸化物架橋剤(C)を配合してなる架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項に記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項6】
シール材、ガスケット、ベルトまたはホースである請求項に記載のゴム架橋物。
【請求項7】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位15〜60重量%、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を15〜60重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(A2)と、
融点が、100〜300℃であるポリアミド樹脂(B)とを含有し、
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との含有割合が、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1):高飽和ニトリルゴム(A2)」の重量比で、2:98〜98:2である高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法であって、
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、前記高飽和ニトリルゴム(A2)および前記ポリアミド樹脂(B)を、200℃以上の温度で混練する工程を備える高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混練する工程において、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、前記高飽和ニトリルゴム(A2)および前記ポリアミド樹脂(B)を、200℃以上の温度で、二軸押出機を用いて混練する請求項7に記載の高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法によって得られる高飽和ニトリルゴム組成物に、有機過酸化物架橋剤(C)を配合する工程を有する架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法によって得られる架橋性ニトリルゴム組成物を架橋する工程を有するゴム架橋物の製造方法。
【請求項11】
前記ゴム架橋物が、シール材、ガスケット、ベルトまたはホースである請求項10に記載のゴム架橋物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール加工性に優れ、かつ、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れたゴム架橋物を与えることのできる高飽和ニトリルゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム)は、耐燃料油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴムのポリマー主鎖中の炭素−炭素二重結合を水素化した水素化ニトリルゴム(高飽和ニトリルゴム)はさらに耐熱性に優れるため、ベルト、ホース、シール材、ガスケット、ダイアフラム等のゴム部品に使用されている。
【0003】
近年、自動車用ゴム部品に対する要求特性が厳しくなり、ベルト、ホース、シール材、ガスケット、ダイアフラム等のゴム部品においては、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強さ等の更なる改善が求められている。
【0004】
かかる状況に対して、特許文献1では、水素添加NBRエラストマーマトリックス中にナイロンよりなる微粒子が分散して存在し、官能基含有エチレン系共重合体を含有するゴム組成物が開示されている。この特許文献1に記載のゴム組成物によれば常態物性がそれなりに改善された架橋物が得られるものの、ロール加工性(ロールへの巻き付き性)が悪いという問題や、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−251452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ロール加工性に優れ、かつ、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れたゴム架橋物を与えることのできる高飽和ニトリルゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、高飽和ニトリルゴムとして、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有するカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下である高飽和ニトリルゴム(A2)とを特定割合で併用し、これらに、ポリアミド樹脂(B)を配合してなるゴム組成物が、ロール加工性に優れ、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れたゴム架橋物を与えることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位15〜60重量%、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を15〜60重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(A2)と、ポリアミド樹脂(B)とを含有し、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との含有割合が、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1):高飽和ニトリルゴム(A2)」の重量比で、2:98〜98:2である高飽和ニトリルゴム組成物が提供される。
【0009】
好ましくは、前記ポリアミド樹脂(B)の融点が、100〜300℃である。
好ましくは、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位が、マレイン酸のモノアルキルエステル単位である。
好ましくは、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との合計量に対する、前記ポリアミド樹脂(B)の含有量が、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と前記高飽和ニトリルゴム(A2)との合計量:ポリアミド樹脂(B)の含有量」の重量比で、95:5〜50:50である。
好ましくは、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、前記高飽和ニトリルゴム(A2)および前記ポリアミド樹脂(B)を、200℃以上の温度で混練して得られたものであり、より好ましくは、これらを、200℃以上の温度で、二軸押出機で混練して得られたものである。
【0010】
また、本発明によれば、上記いずれかの高飽和ニトリルゴム組成物に、有機過酸化物架橋剤(C)を配合してなる架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、上記架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。該ゴム架橋物は、シール材、ガスケット、ベルトまたはホースであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法は、上記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、上記高飽和ニトリルゴム(A2)および上記ポリアミド樹脂(B)を、200℃以上の温度で混練することが好ましく、二軸押出機で混練することが特に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロール加工性に優れ、かつ、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強さに優れたゴム架橋物を与えることのできる高飽和ニトリルゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られ、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れたゴム架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
高飽和ニトリルゴム組成物
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位15〜60重量%、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を15〜60重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(A2)と、ポリアミド樹脂(B)とを含有する。
【0015】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位15〜60重量%、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有し、ヨウ素価が120以下のゴムである。本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、15〜60重量%であり、好ましくは18〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性および耐燃料油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。これらのなかでも、マレイン酸モノアルキルエステルが好ましく、アルキルの炭素数が2〜6のマレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0019】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、1〜60重量%であり、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは2〜10重量%である。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が少なすぎると、ロール加工性が低下するとともに、得られるゴム架橋物が高温下における引張強度に劣るものとなってしまう。一方、多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が悪化するおそれがある。
【0020】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、得られるゴム架橋物がゴム弾性を有するものとするために、共役ジエン単量体単位をも含有することが好ましい。
【0021】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0022】
共役ジエン単量体単位(水素添加等により飽和化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは25〜84重量%、より好ましくは25〜80重量%、さらに好ましくは40〜78重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0023】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)には、本発明の効果を損なわない範囲において、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体を共重合したものであってもよい。
【0024】
このようなカルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;などが挙げられる。
【0025】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0026】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、共役ジエン単量体および、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を有さないもの)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0027】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0028】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0029】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのジアルキルアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0030】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0031】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0032】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0033】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を120以下とすることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0034】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜110である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0035】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは0.006〜0.116ephr、より好ましくは0.012〜0.087ephr、特に好ましくは0.023〜0.058ephrである。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のカルボキシル基含有量が少なすぎると、ロール加工性が低下するとともに、得られるゴム架橋物が高温下における引張強度に劣るものとなってしまう。一方、多すぎると耐圧縮永久歪み性および耐熱性が低下する可能性がある。
【0036】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを水素化することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0037】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0038】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0039】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0040】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0041】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0042】
なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、ヨウ素価を120以下とするために、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0043】
高飽和ニトリルゴム(A2)
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を15〜60重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下のゴムである。本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0044】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを用いることができる。高飽和ニトリルゴム(A2)中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、15〜60重量%であり、好ましくは18〜55重量%、さらに好ましくは20〜50である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性および耐燃料油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0045】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、得られるゴム架橋物がゴム弾性を有するものとするために、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合する単量体として、共役ジエン単量体を用いることが好ましい。共役ジエン単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを用いることができる。高飽和ニトリルゴム(A2)中における、共役ジエン単量体単位(水素添加等により飽和化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは39.1〜85重量%、より好ましくは44.5〜82重量%、さらに好ましくは50〜80重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0046】
さらに、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様に、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を有さないもの)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0047】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、共重合可能なその他の単量体として、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体を用いてもよいが、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、0.9重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以下であり、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0重量%であることが特に好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が悪化するおそれがある。なお、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを挙げることができる。
【0048】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)には、本発明の効果を損なわない範囲において、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体を共重合したものであってもよい。ただし、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、カルボキシル基含有単量体単位の含有量が0重量%であることが特に好ましい。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が悪化するおそれがある。また、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを挙げることができる。
【0049】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を120以下とすることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0050】
高飽和ニトリルゴム(A2)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜110である。高飽和ニトリルゴム(A2)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0051】
また、高飽和ニトリルゴム(A2)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、高飽和ニトリルゴム(A2)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは0.005ephr以下、より好ましくは0.003ephr以下であり、0ephrであることが特に好ましい。高飽和ニトリルゴム(A2)のカルボキシル基含有量が多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が悪化する可能性がある。
【0052】
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物中における、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との含有割合は、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1):高飽和ニトリルゴム(A2)」の重量比で、2:98〜98:2の範囲であり、好ましくは3:97〜50:50の範囲、より好ましくは5:95〜40:60の範囲である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の含有割合が多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が低下する傾向にあり、また、高飽和ニトリルゴム(A2)の含有割合が多すぎると、ロール加工性が低下するとともに、得られるゴム架橋物の常態物性および高温下における引張強度が低下するおそれがある。
なお、高飽和ニトリルゴム(A2)を全く使用しない場合には、耐圧縮永久歪み性および高温下における引張強度が、かなり悪化する。
【0053】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)の製造方法は、特に限定されないが、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様とすることができる。
【0054】
ポリアミド樹脂(B)
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、および高飽和ニトリルゴム(A2)に加えて、ポリアミド樹脂(B)を含有する。本発明においては、高飽和ニトリルゴムとして、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が所定範囲にあるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が所定量以下である高飽和ニトリルゴム(A2)との2種類のゴムを併用し、これに、ポリアミド樹脂(B)を配合することにより、ゴム組成物をロール加工性に優れたものとすることができ、さらには、架橋後のゴム架橋物を、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れたものとすることができるものである。
【0055】
なお、高飽和ニトリルゴムの耐油性、耐燃料油性を改善するために高飽和ニトリルゴムにポリアミド樹脂を混合することが有効であるが、単に、高飽和ニトリルゴムに、ポリアミド樹脂を混合した場合には、ロール加工性が悪化し、得られるゴム架橋物の引張強度が低下し、硬さが高くなりすぎてしまうという不具合が発生する場合がある。
これに対して、本発明では、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、高飽和ニトリルゴム(A2)とを併用し、これらに、ポリアミド樹脂(B)を配合することにより、ロール加工性を向上させることができるとともに、ゴム架橋物とした際における耐油性、耐燃料油性、常態物性および高温下での引張強度を向上させることができ、また硬さが高くなりすぎることを抑制できるものである。
【0056】
本発明で用いるポリアミド樹脂(B)は、酸アミド結合(−CONH−)を有する重合体であれば限定されないが、例えば、ジアミンと二塩基酸との重縮合により得られる重合体、ジホルミルなどのジアミン誘導体と二塩基酸との重縮合により得られる重合体、ジメチルエステルなどの二塩基酸誘導体とジアミンとの重縮合により得られる重合体、ジニトリルまたはジアミドとホルムアルデヒドとの反応により得られる重合体、ジイソシアナートと二塩基酸との重付加により得られる重合体、アミノ酸またはその誘導体の自己縮合により得られる重合体、ラクタムの開環重合により得られる重合体などが挙げられる。また、これらのポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックを含有していてもよい。
【0057】
ポリアミド樹脂(B)の具体例としては、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、のような脂肪族ポリアミド樹脂;ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、キシレン含有ポリアミドのような芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより一層顕著になることから、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11およびナイロン12がより好ましく、ナイロン6、ナイロン11およびナイロン12がさらに好ましく、ナイロン6およびナイロン12が特に好ましい。
【0058】
また、本発明で用いるポリアミド樹脂(B)は、融点が、100〜300℃であることが好ましく、より好ましくは120〜280℃、さらに好ましくは150〜250℃である。融点が低すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が低下するおそれがあり、一方、融点が高すぎると、ロール加工性が低下するおそれがある。
【0059】
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物中における、ポリアミド樹脂(B)の含有割合は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計(以下、「ニトリルゴムの合計量」とする。)に対して、「ニトリルゴムの合計量:ポリアミド樹脂(B)の含有量」の重量比で、好ましくは95:5〜50:50の範囲、より好ましくは90:10〜60:40の範囲である。ニトリルゴムの合計量が多すぎると、耐油性、耐燃料油性が低下するおそれがある。一方、ポリアミド樹脂(B)の含有量が多すぎると、ロール加工性が悪化し、硬さが高くなるおそれがある。
【0060】
架橋性ニトリルゴム組成物
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を含む高飽和ニトリルゴム組成物と、有機過酸化物架橋剤(C)とを含有してなるものである。発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、架橋剤として、有機過酸化物架橋剤(C)を用いることにより、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が向上し、また、得られるゴム架橋物が、常態物性および高温下での引張強度に優れる。
【0061】
有機過酸化物架橋剤(C)としては、従来公知のものを用いることができ、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらのなかでも、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0062】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、有機過酸化物架橋剤(C)の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは2〜10重量部である。有機過酸化物架橋剤(C)の配合量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがある。一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐疲労性が悪化する可能性がある。
【0063】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、上記以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックやシリカ、短繊維などの補強剤、炭酸カルシウムやクレイなどの充填材、架橋促進剤、多官能性メタクリレートモノマーなどの架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0064】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)以外のその他の重合体を配合してもよい。その他の重合体としては、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。その他の重合体を配合する場合における、架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0065】
高飽和ニトリルゴム組成物の製造
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を、好ましくは200℃以上の温度で混練する。
これらを混練する方法としては、特に限定されないが、一軸押出機、二軸押出機などの押出機;ニーダー、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターナルミキサなどの密閉型混練機;ロール混練機;などの混練機で混合する方法などが挙げられる。これらのなかでも、特に、生産効率および分散効率が高いという理由より、二軸押出機で混練する方法が好ましい。
【0066】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を混練する際の混練温度は、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。また、混練温度の上限は、好ましくは400℃以下、特に好ましくは350℃以下である。混練温度を上記範囲とすることにより、溶融状態のポリアミド樹脂(B)と、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、および高飽和ニトリルゴム(A2)とを、より良好な形態に混合することができる。そして、これにより、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0067】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を混練する際には、老化防止剤などの各種配合剤や、その他のゴムを同時に混合してもよい。
【0068】
架橋性ニトリルゴム組成物の調製
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物の調製方法は、特に限定されないが、上記のようにして得られる本発明の高飽和ニトリルゴム組成物に、架橋剤および熱に不安定な成分を除いた各成分を、好ましくは、10〜200℃、より好ましくは20〜170℃で、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターミキサ、ニーダーなどの混合機で混練し、ロールなどに移して架橋剤や熱に不安定な架橋助剤などを加えて、好ましくは10〜80℃の条件で、二次混練することにより調製できる。
【0069】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、ゴム架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜6時間である。
【0070】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0071】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0072】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋して得られるものであるため、常態物性、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れるものである。
【0073】
このため、本発明のゴム架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置及びボールねじ等)用のシール、バルブ及びバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板及び負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、油中ベルトなどの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、及び医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明のゴム架橋物は、シール材、ガスケット、ベルトまたはホースとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0075】
ゴム組成
高飽和ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn−ブチル単位およびメタクリル酸単位の含有割合は、2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn−ブチル単位またはメタクリル酸単位の量に換算することにより算出した。
1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の含有割合は、高飽和ニトリルゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6383に従い、ケルダール法により、高飽和ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
【0076】
ヨウ素価
高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0077】
カルボキシル基含有量
2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0078】
ムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)
高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。
【0079】
ロール加工性
ゴム組成物をオープンロールで混練する際の、ロール加工性を以下の方法によって評価した。
6インチオープンロールを用い、回転比1:1.4、ロール間隙1.4mm、ロール温度50℃で、バックロールにてゴム組成物を混練し、以下の評価基準にて5点満点にて実施した。点数が高いほどロールへの巻き付き性がよく、ロール加工性に優れる。なお、以下において「バギング」とはロール加工時にゴムがロールにしっかりと巻き付かず、垂れ下がった状態となる現象のことである。
(評価基準)
点数5:バギングが全くなく、ロール巻き付き性が抜群に良好。
点数4:バギングがほとんどなく、ロール巻き付き性が良好。
点数3:若干のバギングはあるが、ロール巻き付き性はやや良好。
点数2:ロールに巻き付けることは何とか可能だが、すぐにバギングが発生してしまうか、あるいは、ゴムがロールから外れてしまうため、ロール加工性は悪い。
点数1:ロールに巻き付けるのはほぼ困難で、ロール加工性は非常に悪い。
【0080】
常態物性(引張強度、伸び、硬さ)
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強度、および伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いてゴム架橋物の硬さをそれぞれ測定した。
【0081】
高温引張試験
上記常態物性の評価と同様にしてシート状のゴム架橋物を得た後、得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251およびに準じ、恒温槽付き引張試験機を用いて、100℃において引張試験を実施し、高温環境下における、ゴム架橋物の引張強度、および伸びを測定した。
【0082】
耐燃料油試験
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6258に従い、該ゴム架橋物を、温度40℃、72時間の条件で、イソオクタン/トルエン=50/50(体積比)の試験燃料油(Fuel−C)中に浸漬することにより耐燃料油試験を行った。そして、試験燃料油に浸漬前後のゴム架橋物の体積を測定し、浸漬後の体積変化率△V(単位:%)を「体積変化率△V=([浸漬後の体積−浸漬前の体積]/浸漬前の体積)×100」にしたがって算出することで、耐燃料油性の評価を行った。体積変化率△Vの値が小さいほど、燃料油による膨潤の度合いが小さく、耐燃料油性に優れると判断できる。
【0083】
耐油試験
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6258に従い、該架橋物を、温度150℃、72時間の条件で、試験油(IRM903)に、72時間浸漬することにより、耐油試験を行った。具体的には、試験油に浸漬前後のゴム架橋物の体積を測定し、浸漬後の体積変化率△V(単位:%)を「体積変化率△V=([油浸漬後の体積−油浸漬前の体積]/油浸漬前の体積)×100」にしたがって算出することで、耐油性の評価を行った。体積変化率△Vの値が小さいほど、油による膨潤の度合いが小さく、耐油性に優れると判断できる。
【0084】
耐圧縮永久歪み性
架橋性ニトリルゴム組成物を、金型を用いて、温度170℃で25分間プレスすることにより一次架橋し、直径29mm、高さ12.5mmの円柱型のゴム架橋物を得た。そして、得られたゴム架橋物を用いて、JIS K6262に従い、ゴム架橋物を25%圧縮させた状態で、150℃の環境下に72時間置いた後、圧縮永久歪みを測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
【0085】
合成例1(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、マレイン酸モノn−ブチル6部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン57部を仕込んだ。反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら16時間重合反応を継続した。次いで、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0086】
次いで、上記にて得られたラテックスに、ラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対して、パラジウム量が1,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)のラテックスを得た。
【0087】
そして、得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、ろ過して固形物(クラム)を取り出し、これを60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を得た。得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の組成は、アクリロニトリル単位35.6重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)59.0重量%、マレイン酸モノn―ブチル単位5.4重量%であり、ヨウ素価は7、カルボキシル基含有量は3.1×10−2ephr、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は55であった。
【0088】
合成例2(高飽和ニトリルゴム(a2)の合成)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、それに脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル42部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン58部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、温度を5℃に保ちながら16時間重合反応を行なった。次いで、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ−タを用いて残留単量体を除去して、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0089】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴムを得た。そして、得られたニトリルゴムを、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なって高飽和ニトリルゴム(a2)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(a2)の組成は、アクリロニトリル単位40.5重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)59.5重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は100であった。また、高飽和ニトリルゴム(a2)について、上記方法にしたがって、カルボキシル基含有量を測定したところ、検出限界以下であり、カルボキシル基を実質的に含有しないものであった。
【0090】
合成例3(メタクリル酸単位含有高飽和ニトリルゴムの合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、メタクリル酸4部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン59部を仕込んだ。反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら16時間重合反応を継続した。次いで、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、メタクリル酸単位含有ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0091】
次いで、得られたラテックスについて、上述した合成例1と同様にして、水素添加反応を行い、メタクリル酸単位含有高飽和ニトリルゴムのラテックスを得て、これを凝固・ろ過して、真空乾燥することにより、メタクリル酸単位含有高飽和ニトリルゴムを得た。得られたメタクリル酸単位含有高飽和ニトリルゴムの組成は、アクリロニトリル単位36重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)61重量%、メタクリル酸単位3重量%であり、ヨウ素価は9、カルボキシル基含有量は3.5×10−2ephr、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は68であった。
【0092】
実施例1
合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)21部、合成例2で得られた高飽和ニトリルゴム(a2)49部、およびナイロン12(商品名「UBESTA 3014U」、宇部興産社製、融点180℃、なおポリアミド樹脂の融点とは、JIS K7121にて定義される、示差走査熱量分析(DSC)によって測定される融解ピーク温度である。)30部を、二軸押出機を用いて220℃にて混練することで、高飽和ニトリルゴム組成物を得た。
【0093】
そして、バンバリーミキサを用いて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム組成物100部に、MTカーボン(商品名「Thermax MT」、Cancarb社製、カーボンブラック)40部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル「商品名「アデカサイザーC−8」ADEKA社製、可塑剤)10部、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内振興化学社製、老化防止剤)1.5部、および、ステアリン酸1部を添加して混練し、次いで、混合物をロールに移して、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup 40KE」、GEO Specialty Chemicals Inc製、有機過酸化物架橋剤)7部を添加して混練することで、架橋性ニトリルゴム組成物を得た。
【0094】
そして、上述した方法により、ロール加工性、常態物性、高温引張試験、耐燃料油性、耐油性、耐圧縮永久歪み性の各評価・試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
実施例2
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、二軸押出機を用いて、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)、高飽和ニトリルゴム(a2)、およびナイロン12を混練する際の温度を、220℃から320℃に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
実施例3
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、ナイロン12の代わりに、同量のナイロン6(商品名「UBEナイロン P1011U」、宇部興産社製、融点220℃)を配合した以外は、実施例2と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
実施例4
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の配合量を21部から10.5部に、高飽和ニトリルゴム(a2)の配合量を49部から59.5部に、それぞれ変更した以外は、実施例2と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
実施例5
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の配合量を21部から24部に、高飽和ニトリルゴム(a2)の配合量を49部から56部に、ナイロン12の配合量を30部から20部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
比較例1
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を配合せず、高飽和ニトリルゴム(a2)の配合量を49部から70部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
比較例2
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際における混練温度を、220℃から320℃に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
比較例3
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、ナイロン12の代わりに、同量のナイロン6を配合した以外は、比較例2と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
比較例4
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の代わりに、合成例3で得られたメタクリル酸単位含有高飽和ニトリルゴムを同量使用した以外は、実施例2と同様にして架橋性ゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
比較例5
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を配合せず、高飽和ニトリルゴム(a2)の配合量を49部から80部に、ナイロン12の配合量を30部から20部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
比較例6
架橋性ニトリルゴム組成物を調製する際に、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)およびナイロン12を使用せず、高飽和ニトリルゴム(a2)100部をバンバリーミキサに直接供給した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。すなわち、比較例6においては、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)およびナイロン12を使用していないために、二軸押出機による高飽和ニトリルゴムとポリアミド樹脂(ナイロン12)の混練は行わなかった。
【0105】
比較例7
架橋性ニトリルゴム組成物を調製する際に、ナイロン12を使用せず、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)30部および高飽和ニトリルゴム(a2)70部をバンバリーミキサに直接供給した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。すなわち、比較例7においては、ナイロン12を使用していないために、二軸押出機による高飽和ニトリルゴムとポリアミド樹脂(ナイロン12)の混練は行わなかった。
【0106】
比較例8
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、高飽和ニトリルゴム(a2)を配合せず、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の配合量を21部から70部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1より、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)、高飽和ニトリルゴム(a2)およびポリアミド樹脂を含有してなる高飽和ニトリルゴム組成物を用いた場合には、ロール加工性に優れ、また、得られるゴム架橋物は、架橋物の硬さが高くなりすぎることを抑制でき、耐油性、耐燃料油性および高温下における引張強度に優れる結果となった(実施例1〜5)。
【0109】
一方、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を配合しなかった場合には、ロール加工性が劣り、得られるゴム架橋物は、引張強さ、および高温下での引張強さに劣る結果となり(比較例1〜3、5)、硬さも高くなってしまった(比較例1〜3)。
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の代わりに、メタクリル酸単位含有高飽和ニトリルゴムを使用した場合には、ロール加工性が劣り、得られるゴム架橋物は、硬さが高くなってしまい、引張強度、および高温下での引張強度に劣る結果となった(比較例4)。
さらに、ポリアミド樹脂を配合しなかった場合には、得られるゴム架橋物は、高温下における引張強さ、耐油性および耐燃料油性に劣る結果となった(比較例6、7)。
そして、高飽和ニトリルゴム(a2)を配合しなかった場合には、高温下における引張強さ、および、耐圧縮永久歪み性が劣る結果となった(比較例8)。