特許第5861699号(P5861699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5861699
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】段付鍛造材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/12 20060101AFI20160202BHJP
   B21J 1/06 20060101ALI20160202BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   B21K1/12
   B21J1/06 Z
   B21J5/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-512372(P2013-512372)
(86)(22)【出願日】2012年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2012060974
(87)【国際公開番号】WO2012147742
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-96961(P2011-96961)
(32)【優先日】2011年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 慎也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦夫
【審査官】 野口 義弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−190941(JP,A)
【文献】 特開平4−276042(JP,A)
【文献】 特開平6−93389(JP,A)
【文献】 特開2003−251429(JP,A)
【文献】 特開2006−334607(JP,A)
【文献】 特開2008−36698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/12
B21J 1/06
B21J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼よりなる鍛造用柱状素材を1000〜1080℃に加熱し、その後加熱することなく、該素材を鍛造装置に対して軸方向一方端から他端に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により、該素材の全長を鍛造比1.5以上で円柱状に鍛造して一次鍛造材を得るステップと、
再加熱することなく、該一次鍛造材の表面温度が前記素材の加熱温度より200℃以上低くならない温度で鍛造を開始し、該一次鍛造材を前記鍛造装置に対して、軸方向一方端から所定位置に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により小径の軸部を形成していき、最終鍛造部分の表面温度が前記素材の加熱温度より300℃以上低くなる前に鍛造を終了して、大径のフランジ部と小径の軸部とを形成した二次鍛造材を得るステップと、
該二次鍛造材を1040〜1100℃で30分以上加熱して固溶化熱処理を行うステップと、
を具備することを特徴とする段付鍛造材の製造方法。
【請求項2】
一次鍛造材を得る鍛造比を1.5〜1.9、一次鍛造材から二次鍛造材の小径の軸部を得る鍛造比を3.0以下とすることを特徴とする請求項1に記載の段付鍛造材の製造方法。
【請求項3】
鍛造は、被鍛造材の軸の半径方向であって直交する4方向から同時に鍛造するとともに、前記軸を回動させつつ軸方向に送ることで鍛造する四面鍛造装置により行うことを特徴とする請求項1または2に記載の段付鍛造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼を鍛造してフランジ部と小径の軸部とを形成する段付鍛造材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オーステナイト系ステンレス鋼よりなるフランジ部と小径の軸部を有する部品は、航空機、原子力といった分野の機械部品等に利用されており、特に優れた靭性と強度を要求される場合がある。
フランジ部と小径の軸部とを有する形状に鍛造する、いわゆる段付鍛造を実施する上で、靭性と強度を両立するために必要なのは、合金組織の適正化である。例えば特開平4−190941号公報(特許文献1)によれば、1ヒートのみ、すなわち鍛造途中で再加熱しないで鍛造する場合の加工熱による組織の粗大化の問題、あるいは鍛造途中で再加熱した場合による細粒組織の不均一の発生といった課題を指摘している。そして、特許文献1では、この問題を解決するために、4面鍛造機を適用するとともに、小径部分の鍛伸を一度に行わず、2段階以上の鍛伸に分けて行い、かつ、鍛伸を一方向のみに行う手法を開示している。
また、特開2003−334633号公報(特許文献2)によれば、フランジ部と軸部とを歩留まり良く短時間で形成する手法として、2個、4個取りといった鍛造方案も提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−190941号公報
【特許文献2】特開2003−334633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が指摘する課題は、特に段付鍛造における小径部の組織に着目した手法である。
ところで、本発明者等のオーステナイト系ステンレス鋼の段付鍛造の検討によれば、加工熱による組織粗大化の課題は、加熱温度と鍛造比の最適化によって解決を図ることが可能であるが、特に大径のフランジ部の組織の微細化を達成することが困難であるという課題に直面した。
詳しく言うと、柱状の素材からの製造においては、大径であるフランジ部に比べて、小径である軸部は、鍛造比を大きく取ることができ、形成時の温度と鍛造比の調整において、歪を蓄積させることができ、鍛造後の固溶化熱処理において、微細な再結晶粒を有する組織を得ることができる。ところが、大径であるフランジ部は、小径の軸部に比べて鍛造比を大きくすることができず、均一微細な組織が得にくい。
また、小径の軸部の形成の前、あるいはその途中で加熱工程が入った場合は、鍛造後の固溶化熱処理によりフランジ部の組織が粗大化してしまうといった問題が発生したのである。
本発明の目的は、組織が粗大化しやすい大径であるフランジ部を均一微細な組織とすることができ、小径の軸部の組織をも均一微細な組織とすることができる段付鍛造材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、フランジ部を鍛造形成する前に加熱した以降は、鍛造工程においては加熱を行わない工程を適用し、この工程に適合した均一微細組織を得ることのできる鍛造条件を見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼よりなる鍛造用柱状素材を1000〜1080℃に加熱し、その後加熱することなく、該素材を鍛造装置に対して軸方向一方端から他端に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により該素材の全長を鍛造比1.5以上で円柱状に鍛造して一次鍛造材を得るステップと、
再加熱することなく、該一次鍛造材の表面温度が前記素材の加熱温度より200℃以上低くならない温度で鍛造を開始し、該一次鍛造材を前記鍛造装置に対して、軸方向一方端から所定位置に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により小径の軸部を形成していき、最終鍛造部分の表面温度が前記素材の加熱温度より300℃以上低くなる前に鍛造を終了して、大径のフランジ部と小径の軸部とを形成した二次鍛造材を得るステップと、
該二次鍛造材を1040〜1100℃で30分以上加熱して固溶化熱処理を行うステップと、
を具備する段付鍛造材の製造方法である。
【0006】
本発明において、好ましくは一次鍛造材を得る鍛造比を1.5〜1.9、一次鍛造材から二次鍛造材の小径の軸部を得る鍛造比を3.0以下とする。
また、本発明に適用する鍛造は、被鍛造材の軸の半径方向であって直交する4方向から同時に鍛造するとともに、前記軸を回動させつつ軸方向に送ることで鍛造する四面鍛造装置により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の段付鍛造材の製造方法によれば、段付鍛造材の全長にわたって均一微細な組織を得ることができるため、高信頼性を要求される航空機、原子力といった分野の機械部品を得るために有効な手段となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明方法により得られる段付鍛造材の一例を示す図である。
図2】本発明により製造された段付鍛造材のフランジ部の結晶粒径観察の一例を示す顕微鏡組織写真である。
図3】本発明により製造された段付鍛造材の軸部の結晶粒径観察の一例を示す顕微鏡組織写真である。
図4】比較例により製造された段付鍛造材のフランジ部の結晶粒径観察の一例を示す顕微鏡組織写真である。
図5】比較例により製造された段付鍛造材の軸部の結晶粒径観察の一例を示す顕微鏡組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述したように、本発明の重要な特徴はフランジ部を鍛造形成する前に加熱した以降は、鍛造工程においては加熱を行わない工程を適用し、この工程に適合した鍛造条件を見出したことにある。以下、詳しく説明する。
本発明においては、対象をオーステナイト系ステンレス鋼とする。オーステナイト系ステンレス鋼は、たとえば日本工業規格のG4303や3214のうち、オーステナイト系に分類される組成の合金やその改良合金である。
これらのオーステナイト系ステンレス鋼は、炭素を低く規制された鋼であり、耐食性に優れ多くの航空機、原子力分野の機械部品として利用されている材質である。そして、オーステナイト系ステンレス鋼は、熱間加工工程において微量に存在する炭素によってCr炭化物が析出するため、これを固溶させ耐食性を増大させる固化熱処理を適用する必要がある。固溶熱処理の温度は再結晶温度よりも高いため、熱間加工工程において残留する歪により再結晶が起こる。固溶化熱処理の前に十分に歪が残留するようにしないと、組織が粗大化してしまい、強度と靭性がともに優れた均一微細組織を得ることができなくなる。
本発明は、最終的に組織を決定するこの固溶化熱処理において、均一微細な組織を得ることのできる工程を見出したものである。
【0010】
本発明においては、まず鍛造用柱状素材を1000〜1080℃に加熱し、その後加熱することなく、該素材を鍛造装置に対して軸方向一方端から他端に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により該素材の全長を鍛造比1.5以上で円柱状に鍛造して一次鍛造材を得る。
本発明において、鍛造前の加熱温度が1080℃を超えると加熱温度が高すぎて歪が開放されてしまい、鍛造において得るべき大径のフランジ部に十分な歪を残留させることができない。また、鍛造前の加熱温度が1000℃未満では材料を十分に軟化することができず、鍛造時に割れが発生しやすくなる。また、大径部の結晶粒度があれて混粒組織になる。そこで、本発明では、加熱温度を1000〜1080℃に規定した。
【0011】
また、本発明において、鍛造工程中で加熱を行うと、少なからず歪が開放されてしまい固溶化熱処理において微細な組織を得ることができなくなる。従い、鍛造工程中で加熱しないことは本発明における基本的な要件である。
また、本発明においては、鍛造装置に対して軸方向一方端から他端に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す。このように往復鍛造により鍛造していくことで、全体を均一に鍛造することができる。往復鍛造することによって、一方向に行う鍛造よりも鍛造時間が短くなり、一定の温度範囲内で鍛造することが出来、均一な歪を残留させることができる。
この本発明に適用する鍛造装置としては、被鍛造材の軸の半径方向であって直交する4方向から同時に鍛造するとともに、前記軸を回動させつつ軸方向に送ることで鍛造する四面鍛造装置が有効である。4面鍛造機は直交上の4方向から同時に加圧することが出来、円柱状の形状を作ることに対して2面鍛造機より優れているからである。
また、本発明における大径のフランジ部を決定するこのステップにおいては、十分な歪を残留付与させるために鍛造比1.5以上が必要である。
なお、鍛造比が大きすぎるということは、もともとの素材を大きくするということであり、効率的ではなく、鍛造比の上限としては、1.9とすることが好ましい。
【0012】
次に、得られた一次鍛造材を再加熱することなく、一次鍛造材の表面温度が前記素材の加熱温度より200℃以上低くならない温度で鍛造を開始し、前記一次鍛造材を前記鍛造装置に対して、軸方向一方端から所定位置に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により小径の軸部を形成していき、最終鍛造部分の表面温度が前記素材の加熱温度より300℃以上低くなる前に鍛造を終了して、大径のフランジ部と小径の軸部とを形成した二次鍛造材を得る。
二次鍛造材を得る上で、鍛造温度が低くなり、フランジ部を形成する一次鍛造材を得る鍛造温度条件と大きく異なってくると延性低下による鍛造疵の問題が発生する。これを避けるため本発明では、小径の軸部を形成する二次鍛造材を得るステップでは、一次鍛造材の表面温度が前記素材の加熱温度より200℃以上低くならない温度で鍛造を開始するものとし、前記加熱温度より300℃以上低くなる前に鍛造を終了するものとしている。
二次鍛造材を得るステップにおいて、一次鍛造材を得るステップと同様な往復鍛造を適用したのは、均一な歪を残留させるためである。
【0013】
また、本発明における小径の軸部を決定する上記ステップにおいては、円柱状部材の端面から所定位置までの鍛造比は3.0以下とすることが好ましい。鍛造比が大きくなりすぎると、疵、割れなどが発生しやすくなる。そのため、本発明では柱状部材の端面から所定位置までの鍛造比は3.0以下とする。
なお、ここでいう鍛造比とは、円柱状部材からの鍛造比のことを表す。
【0014】
次に、二次鍛造材を1040〜1100℃で30分以上加熱する固溶化熱処理を行う。上述したとおりこの固溶化熱処理のステップは、Cr炭化物を固溶させ耐食性を増大させる重要なステップである。固溶化処理の温度が低い場合、再結晶が十分に進まず、結晶粒の微細化が困難となる。一方、固溶化処理の温度が高い場合、結晶粒があれてしまい、結晶粒の微細化が困難となる。固溶化処理の時間は30分以上が必要である。
【実施例】
【0015】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
JIS G3214 SUS316鋼よりなる鍛造用柱状素材から図1に示す段付鍛造材を製造した。先ず、8角320mm×1700mmLの鍛造用素材を1050℃に加熱し、その後加熱することなく、4面鍛造装置で鍛造を開始した。用いた4面鍛造機は、4方向にラムシリンダーを具備しており、1ストローク当りの送り速度50mm、回転角30°で鍛造を行うものとした。
上記素材を4面鍛造装置に対して軸方向一方端から他端に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返して、鍛造比1.6で該素材の全長を往復鍛造して直径260mm、長さ2700mmの一次鍛造材を得た。
【0016】
次に、再加熱することなく、一次鍛造材の表面温度を表1に示す温度で鍛造を開始し、鍛造装置に対して、軸方向一方端から長手方向3/4の位置に向かって送り、次いで逆方向に送る鍛造動作を繰り返す往復鍛造により、一次鍛造材に対して鍛造比2.3で直径170mmの小径の軸部を形成した。このとき、最終鍛造部分の表面温度が表1の温度になる前に鍛造を終了し、本発明の二次鍛造材を得た。
【0017】
【表1】
【0018】
また、比較例として、本発明と同様に一次鍛造材を得た後に、1050℃の3時間の加熱保持で再加熱を行い、そのまま小径の軸部を形成する鍛造を開始した。その後の鍛造条件は本発明と同様として、比較例の二次鍛造材を得た。
得られた本発明および比較例の二次鍛造材を1050℃で120分保持して固溶化熱処理を行って段付鍛造材とした。
図1に得られた段付鍛造材の概略図を示す。図1に示すA,Bの部分からそれぞれ金属組織観察用試験片を採取した。本発明、比較例の平均の結晶粒度番号を表1に、代表的(本発明No.1及び比較例)な金属組織の写真を図2〜5に示す。
【0019】
【表2】
【0020】
表2、図2および図3に示すように、本発明では、組織が粗大化しやすい大径であるフランジ部を均一微細な組織とすることができ、小径の軸部の組織をも均一微細な組織とすることができた。また、鍛造疵の発生も確認されなかった。
一方、比較例では、表2、図4及び図5に示すようにフランジ部の結晶粒度は2.0と粗い結果となった。また、軸部の結晶粒度も本発明と比較して粗く、ばらつきも大きいことが確認され、本発明に対して劣る組織となっていた。
【符号の説明】
【0021】
1 フランジ部
2 軸部
図1
図2
図3
図4
図5