【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周に転写パターンが形成されており、中心軸を回転中心にして回転する第1のローラと、前記第1のローラの中心軸と平行な中心軸を回転中心にし前記第1のローラと同期して回転する第2のローラとで基材を挟み込み、前記各ローラの回転によって前記基材をこの長手方向に移動し前記基材に前記転写パターンを転写する転写方法において、
前記各ローラでの前記基材の挟み込み力をほぼ一定にするように、ローラ間距離調整部で前記各ローラ間の距離を調整しつつ前記各ローラを低速回転し前記基材に前記転写パターンを転写しているときにおける前記各ローラ間の距離の変化のパターンを取得する変化パターン取得工程と、
前記各ローラを高速回転させて前記基材に前記転写パターンを転写するときに前記各ローラでの前記基材の挟み込み力をほぼ一定にすべく、前記変化パターン取得工程で取得した変化のパターンの位相を進めた指令値を前記ローラ間距離調整部に送り、この送られてきた指令値に基づいて、前記ローラ間距離調整部が前記各ローラ間の距離を調整し転写を行う転写工程と、
を有することを特徴とする転写方法。
【背景技術】
【0002】
近年、電子線描画法などで石英基板等に超微細な転写パターンを形成して型(モールド)を作製し、被成型品に前記型を所定の圧力で押圧して、当該型に形成された転写パターンを転写するナノインプリント技術が研究開発されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0003】
ナノオーダーの微細なパターン(転写パターン)を低コストで成型する方法としてリソグラフィ技術を用いたインプリント法が考案されている。この成型法は大別して熱インプリント法とUVインプリント法とに分類される。
【0004】
熱インプリント法では、型を基板に押圧し、熱可塑性ポリマからなる樹脂(熱可塑性樹脂)が十分に流動可能となる温度になるまで加熱して微細パターンに樹脂を流入させたのち、型と樹脂をガラス転移温度以下になるまで冷却し、基板に転写された微細パターンを固化したのち型を引き離す。
【0005】
UVインプリント法では、光を透過できる透明な型を使用し、UV硬化性液に型を押しつけてUV放射光を加える。適当な時間放射光を加えて液を硬化させ微細パターンを転写したのち型を引き離す。
【0006】
上述したインプリント(転写)を、基板ではなく繊維状の基材に行う場合がある。この場合の転写パターンの大きさは、従来と同様か従来よりも大きくなる。
【0007】
繊維状基材に転写パターンを転写することにより、たとえば、繊維状基材に電気配線や液体流路等のパターン形成がなされる(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
また、従来、
図9で示すように、2つの円筒状モールド(ローラ)203,205を同期回転して、繊維状の長い基材211の表面に転写パターンを転写する転写装置201が知られている。
【0009】
転写装置201では、Y軸方向(各ローラ203,205がお互いに接近もしくは離反する方向)の荷重(各ローラ203,205が基材211を挟み込む荷重)を監視している。そして、転写装置201は、上記荷重を一定に保つように、たとえば、円筒状モールド205をY軸方向に駆動している。
【0010】
基材211を各ローラ203,205で挟み込む荷重を一定に保つ理由は、荷重が基材211への転写パターンの転写深さを変化させるパラメータになっているからである。そして、荷重を一定にしないと、荷重の変化に応じて転写パターンの転写深さ(基材211への転写深さ)がばらついてしまい、不良品が生成されてしまうからである。
【0011】
転写装置201について詳しく説明する。転写装置201では、Y軸方向の中央に繊維状の基材211を配置し、基材211を上下方向から挟むようにして2つのローラ(円筒状モールド)203,205を配置してある。
【0012】
各ローラ203,205のそれぞれは、図示しないサーボモータによってZ軸方向に延びている軸C11,C12を回転中心にして、矢印A92,A93の方向に回転するようになっている。そして、各ローラ203,205で基材211を挟み込み各ローラ203,205が回転することで、基材211がX軸方向で矢印A91の方向に移動するようになっている。
【0013】
ローラ205の外周面には、微細な転写パターンが形成されている。
図9に示す参照符号207は微細な転写パターンが形成されている部位であり、参照符号209は微細な転写パターンが形成されていない部位である。微細な転写パターンそのものものは、細かすぎて
図9には表しきれないので、
図9での表示を省略してある。
【0014】
図9に示すものでは、微細な転写パターンが形成されている部位207と、微細な転写パターンが形成されていない部位209とがローラ205の周方向で交互に形成されているが、ローラ205の全周にわたって、微細な転写パターンが形成されている場合もある。
【0015】
図9に示すものでは、微細な転写パターンが形成されている部位207の外径が、微細な転写パターンが形成されていない部位209の外径に比べて大きく描かれているが、実際には、微細な転写パターンが形成されている部位207の外径と、微細な転写パターンが形成されていない部位209の外径との差はごく僅かであり、各部位207,209の外径はお互いがほとんど等しくなっている。
【0016】
また、
図9に示すものでは、ローラ205に微細な転写パターンを形成してあるが、ローラ205に微細な転写パターンを形成してあることに代えてもしくは加えて、ローラ203に微細な転写パターンを形成してある場合もある。
【0017】
ローラ205は、Y軸方向で移動位置決め自在になっている。そして、ローラ205がローラ203に近づく方向に移動し、ローラ203と協働して基材211を挟み込むことで転写がなされるとともに、各ローラ203,205が回転することで、基材211が矢印A91の方向に移動するようになっている。
【0018】
ちなみに、基材211の移動方向上流側(
図9で各ローラ203,205よりも左側)に存在している基材211には転写パターンが転写されておらず、下流側(
図9で各ローラ203,205よりも右側)に存在している基材211には転写パターンが転写されている。
【0019】
上側のローラ205は、ローラ支持部材208に回転自在に支持されている。ローラ支持部材208には、ボールネジのナット(図示せず)が一体的に設けられている。上記ナットには、ボールネジのボールネジ軸221が螺合している。ボールネジ軸221は、サーボモータ219の回転出力軸に一体的に設けられており、サーボモータ219の回転出力軸が回転すると、上側のローラ205がY軸方向で移動位置決めされるようになっている。
【0020】
図9に示すものでは、上側のローラ205のみがY軸方向で移動位置決めされるようになっているが、ローラ205をY軸方向で移動位置決めすることに代えてもしくは加えて、下側のローラ203をY軸方向で移動位置決めするようになっている場合もある。
【0021】
また、下側のローラ203は、ローラ支持部材213に回転自在に支持されている。下側のローラ支持部材213にはロードセル215が設けられており、上記転写をするときにおける各ローラ203,205による基材211の挟み込み力(押圧力;プレス力)を検出(検知)することができるようになっている。なお、ロードセル215を下側のローラ支持部材213に設けることに代えて、上側のローラ支持部材208に設け、プレス力を検知するように構成してある場合もある。
【0022】
そして、基材211に転写をしているときに、ロードセル215が検知した荷重(プレス力)が、PLC(Programmable Logic Controller;制御装置)223に送られ、PLC223でプレス力が一定になるような監視をするようになっている。すなわち、PLC223は、ロードセル215が検知したプレス力に基づいて、プレス力がほぼ一定になるように、サーボモータ219を制御し、上側ローラ205(回転中心軸C11)と下側ローラ203(回転中心軸C12)との間の距離を適宜変えるようになっている。
【0023】
なお、ローラを用いて細長い基材に転写をする装置として、たとえば、特許文献2に記載のものを掲げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の実施形態に係る転写装置1は、
図1に示すように、第1のローラ(円筒モールド)3と第2のローラ(円筒モールド)5とで基材(細長い基材;繊維状の基材;紐状の基材)11を挟み込んで、各ローラ3,5の回転によって基材11をこの長手方向に移動し、基材11に転写パターン(たとえばローラ3に形成されている転写パターン)を転写する装置である。
【0047】
以下、基材11の長手方向をX軸方向とし、X軸方向に対して直交する方向であって各ローラ3,5が基材11を挟み込む方向(転写のために基材11を挟み込むべく第1のローラ3が移動する方向)をY軸方向(たとえば、上下方向)とし、X軸方向とY軸方向に直交する方向をZ軸方向とする。
【0048】
上記機能を達成するために、転写装置1は、第1のローラ3と第2のローラ5とローラ間距離調整部2とメモリ29と制御装置(制御部;PLC;Programmable Logic Controller)27とを備えて構成されている。
【0049】
第1のローラ(下側ローラ)3の外周には、転写パターン(図示せず)が形成されている。第1のローラ3は、Z軸方向に延びた中心軸C1を回転中心にして、図示しないサーボモータ等のアクチュエータにより、制御装置27の制御の下、たとえば一定の角速度で矢印A1の方向に回転(自転)するようになっている。
【0050】
第1のローラ3は、転写パターンが形成されている型を構成しており、円筒状もしくは円柱状に形成されている。転写パターンは、第1のローラ3の外周(円筒や円柱の側面の少なくとも一部)に形成されている。また、転写パターンは、微細な凹凸で構成されている。凹凸の高さ寸法やピッチは、可視光線の波長程度、もしくはさらに広い範囲(紫外線の波長程度〜1mm程度)になっている。
【0051】
図1に示す参照符号7は微細な転写パターンが形成されている部位であり、参照符号9は微細な転写パターンが形成されていない部位である。微細な転写パターンそのものものは、細かすぎて
図1には表示しきれないので、
図9の場合と同様に省略してある。
【0052】
図1に示すものでは、微細な転写パターンが形成されている部位7と、微細な転写パターンが形成されていない部位9とが第1のローラ3の周方向で交互に形成されているが、第1のローラ3の全周にわたって、微細な転写パターンが形成されていてもよい。
【0053】
また、
図1に示すものでは、微細な転写パターンが形成されている部位7の外径が、微細な転写パターンが形成されていない部位9の外径に比べて大きく描かれているが、実際には、微細な転写パターンが形成されている部位7の外径と、微細な転写パターンが形成されていない部位9の外径との差はごく僅かであるか差が無い形態になっている。したがって、各部位7,9での外径はお互いがほとんど等しくなっている。
【0054】
第2のローラ(下側ローラ)5は、第1のローラ3からY軸方向下側に離れて設けられており、第1のローラ3の中心軸C1と平行な中心軸(Z軸方向に延びた中心軸)C2を回転中心にし、第1のローラ3と同期して矢印A2の方向に回転(自転)するようになっている。第2のローラ5も、第1のローラ3と同様に、図示しないサーボモータ等のアクチュエータにより制御装置27の制御の下で回転(自転)するようになっているが、第2のローラ5が、サーボモータ等のアクチュエータを用いることなく、第1のローラ3から回転力を得て従動する構成であってもよい。
【0055】
第2のローラ5が第1のローラ3と同期して回転することで、第1のローラ3の外周の周速度と第2のローラ5の外周の周速度とはお互いが等しくなっている。
【0056】
また、
図1に示すものでは、第1のローラ3にのみ微細な転写パターンを形成してあるが、第1のローラ3に微細な転写パターンを形成してあることに代えてもしくは加えて、第2のローラ5に微細な転写パターンを形成してあってもよい。
【0057】
ローラ間距離調整部2は、各ローラ3,5間の距離を調整するものである。各ローラ3,5間の距離の調整は、各ローラ3,5で基材11を適宜の力(所定のほぼ一定の力)で挟み込むためになされるものである。各ローラ3,5で基材11を適宜の力で挟み込み、各ローラ3,5が回転することで、基材11がこの長手方向(矢印A3の方向)に、たとえば一定の速度で移動し(送り)、基材11(基材11の表面)に転写パターン(第1のローラ3の転写パターン)が転写されるようになっている。
【0058】
すなわち、ローラ間距離調整部2で各ローラ3,5間の距離(Y軸方向の寸法)を適宜の値にすることで、各ローラ3,5が所定のほぼ一定の力で基材11を挟み込み、各ローラ3,5を回転することで、基材11がこの長手方向(X軸方向)に、各ローラ3,5の周速度と同じ速度で送られ、基材11に転写パターンが転写されるようになっている。
【0059】
基材11は、樹脂やガラス等の素材で小径の細長い線状に形成されており可撓性を備えている。基材11の断面(長手方向に対して直交する平面による断面)は、所定の形状になっている。たとえば、基材11の断面は、直径が3mm程度の円形状になっている。また、図示はしていないが基材11が円筒状等の筒状に形成されていてもよい。この場合、筒状の基材11の内部空間は空洞になっているが、この空洞に導電性材料等の材料が入っていてもよい。また、導電性材料が、内部空間の総てに充填されていてもよいし、所定の間隔をあけて設けられていてもよいし、さらに他の態様で設けられていてもよい。
【0060】
さらに、基材11の断面形状が、矩形状等の他の形状になっていてもよい。たとえば、基材11が帯状(長手方向に対して直交する平面による断面が細長い矩形状)になっており、細長い矩形における一対の長辺が各ローラ3,5に接触して少なくとも一方の長辺に対応する部位に転写がなされるようになっていてもよい。
【0061】
メモリ29は、各ローラ3,5で基材11を挟み込み、各ローラ3,5を低速回転(たとえば、基材11の送り速度や各ローラ3,5の周速が1m/minの回転速度)しているときにおける、各ローラ3,5間の距離の変化のパターンを予め記憶しているものである。
【0062】
変化のパターンは、各ローラ3,5での基材11の挟み込み力(転写のときのプレス力)をほぼ一定にするように(各ローラ3,5の1回転の周期で現れる挟み込み力の変動量を極力小さくするように)、ローラ間距離調整部2で各ローラ3,5間の距離を調整しつつ各ローラ3,5を低速回転し基材11に転写パターンを転写しているときにおける、各ローラ3,5間の距離の変化のパターンである。
【0063】
詳しく説明すると、各ローラ3,5の芯間の距離(軸C1と軸C2との間の距離)を一定にしておいて(設計上一定にしておいて)、各ローラ3,5で基材11を挟み込み、各ローラ3,5を回転して基材11に転写パターンの転写をしているとき、様々な要因によって、各ローラ3,5が基材11を挟み込む力が変動する。
【0064】
この挟み込み力(プレス力)の変動は、長周期変動成分と短周期変動成分とを含んでいる。長周期変動成分は、正弦波状になっており、各ローラ3,5での1回転の周期で繰り返して現れる。長周期変動成分の要因として、各ローラ3,5の形状精度(幾何精度)のばらつき(たとえば円筒度のばらつき)、各ローラ3,5の回転精度のばらつき等を掲げることができる。各ローラ3,5が機械部品である以上、各ローラ3,5の形状精度のばらつきや各ローラ3,5の回転精度のばらつき等を無くすことは不可能といってよいのである。
【0065】
長周期変動成分は、短周期変動成分に比べて振幅が大きく、基材11の転写の深さに与える影響が大きい。したがって、長周期変動成分の振幅は極力小さくしなければならない。振幅を極力小さくするとは、転写がされた基材11の転写深さを、製品として許容できる範囲内にすることである。
【0066】
一方、短周期変動成分は、各ローラ3,5の固有振動等によって発生するものであり、振幅が長周期変動成分に比べて小さく、しかも、周期が長周期変動成分に比べて相当に短いので、基材11の転写の深さに与える影響が小さく、無視してもほぼ差し支えないのである。
【0067】
基材11の転写深さを製品としての許容値内におさめるために、転写装置1では、長周期変動成分の変化に合わせて各ローラ3,5間の距離をローラ間距離調整部2で調整するようになっている。たとえば、各ローラ3,5が低速回転しているときであって、基材11の挟み込み力が目標値よりも大きくなったとき(閾値から上方にはみ出した場合)には、この大きくなった量に応じた量だけ各ローラ3,5間の距離を大きくし、基材11の挟み込み力が目標値よりも小さくなったとき(閾値から下方にはみ出した場合)には、この小さくなった量に応じた量だけ各ローラ3,5間の距離を小さくするのである。
【0068】
基材11の転写深さを製品としての許容値内におさめるためにプレス力(各ローラ3,5で基材11を挟み込む力)の長周期変動成分の変化に合わせて各ローラ3,5間の距離を調整するに際し、各ローラ3,5が低速で回転していれば(基材11をこの長手方向に1m/min程度に速度で送り転写をしているのであれば)、単にフィードバック制御をすればよい。すなわち、プレス力の長周期変動成分をロードセル等のセンサで検出し、この検出した値に基づいて、各ローラ3,5間の距離をサーボモータ等のアクチュエータで調整すれば、プレス力の長周期成分の変動をほぼ無くすことができる(
図10参照)。
【0069】
しかし、基材11への転写を効率よく行うために各ローラ3,5を高速回転させることがある。すなわち、基材11をこの長手方向に5m/min以上の速度、さらには20m/min程度の速度で送りつつ転写をする場合がある。このように各ローラ3,5が高速回転していると、ロードセルで検出したプレス力の値を用いて各ローラ3,5間の距離を調整しても、アクチュエータ(
図1で示すサーボモータ19や
図9で示すサーボモータ219)が追従できなくなる等の要因によって、各ローラ3,5による挟み込み力を制御することができなくなり(
図11参照)、各ローラ3,5による挟み込み力が変動し、基材11の転写深さが製品としても許容値を超えてしまう。
【0070】
そこで、制御部27は、各ローラ3,5が高速回転して基材11に転写パターンを転写するときに(転写しているときに)各ローラ3,5での基材11の挟み込み力をほぼ一定にすべくメモリ29に記憶されている変化のパターン(各ローラ3,5が低速回転しているときの変化のパターン)の位相を進めた指令値(指令信号)をローラ間距離調整部2に送るようになっている。なお、高速回転している各ローラ3,5による基材11の挟み込み力の値は、たとえば、低速回転している各ローラ3,5による基材11の挟み込み力の値と等しくなっている。
【0071】
また、上記指令値は、各ローラ3,5間の距離を変えるための信号(駆動信号)であり、1回転毎に繰り返す変化のパターンを各ローラ3,5の低速回転における角速度と高速回転における角速度との比に応じて時間の方向で縮めるとともに、この縮めた変化のパターンの位相を進めたものである。
【0072】
ここで、時間の方向で縮めるとは、変化のパターンを時間軸の方向でのみ縮めることをいう。たとえば、変化のパターンが、「y=P+Asinωt」であるとすると、これを「y=P+Asinkωt」にすることをいう。ここで、「y」は、各ローラ3,5の芯間距離を示しており、「P」は、各ローラ3,5の芯間距離のデフォルト値(定数)を示しており、「A」は、各ローラ3,5の芯間距離の変動分の振幅を示しており、「t」は時刻を示しており、「k」は、各ローラ3,5の高速回転における角速度を、各ローラ3,5の低速回転における角速度で除した値(「1」よりも大きい)を示している。
【0073】
また、位相を進めるとは、「y=P+Asinkωt」を、「y=P+Asin(kωt+α)」にすることをいう。αは所定の角度である。なお、各ローラ3,5の角速度が一定であるので、角度ではなくて時間Δtだけ進めた信号(α=kωΔt)をローラ間距離調整部2に送るようにしてもよい。
【0074】
位相が進められた駆動信号を受け取ったローラ間距離調整部2は、この受け取った駆動信号に基づいて、各ローラ3,5間の距離を変更するようになっている。実際の各ローラ3,5間の距離は、ローラ間距離調整部2のアクチュエータの追従の遅れ等の要因によって、あたかも、位相を進めていない駆動信号を受け取ったようにして変動するようになっている。すなわち、各ローラ3,5が高速回転しているときにおいては、基材11のプレス力が一定になるように、各ローラ3,5間の距離が適宜変動するのである。
【0075】
また、転写装置1には、
図1に示すように挟み込み力測定部(プレス力測定部)4と第1のローラ回転状態検出部6と第2のローラ回転状態検出部8とが設けられている。
【0076】
挟み込み力測定部4は、各ローラ3,5での基材11の挟み込み力を測定するものである。第1のローラ回転状態検出部6は、第1のローラ3の回転状態を検出するものであり、第2のローラ回転状態検出部8は、第2のローラ5の回転状態を検出するものである。
【0077】
第1のローラ回転状態検出部6は、たとえば、原点センサ25を備えて構成されている。すなわち、第1のローラ3の所定の位置(たとえば、基材11に接する部位から離れた外周の1箇所)に被検出部(図示せず)を設け、この被検出部を原点センサ25で検出することで、第1のローラ3が1回転する毎に1回の信号を検出するようになっている。信号を検出した時における第1のローラ3の回転角度が、第1のローラ3の回転角度の原点になるものとする。この回転角度の原点から、一定の方向に1回転(360°)回転すれは、第1のローラ3の回転角度は再び原点になる。
【0078】
なお、第1のローラ回転状態検出部6をロータリエンコーダで構成してもよい。そして、第1のローラ3の回転角度を、360°よりも細かい分解能(たとえば、5°や1°の分解能)で検出するようにしてもよい。
【0079】
また、第1のローラ3の角速度が一定であれば、第1のローラ回転状態検出部6を原点センサ25等で構成しておき、原点検出後の時刻の経過に応じて、第1のローラ3の回転角度を細かくもとめてもよい。たとえば、第1のローラ3の角速度が720°/secである場合において、第1のローラ回転状態検出部6の原点センサ25で原点を検出したときの第1のローラの回転角度を0°とし、上記原点を検出した時から0.01秒経過後の第1のローラ3の回転角度7.2°をもとめてもよい。
【0080】
第2のローラ回転状態検出部8も第1のローラ回転状態検出部6と同様に、原点センサ23を備えて構成されている。また、第2のローラ回転状態検出部8の構成を第1のローラ回転状態検出部6の場合と同様に変更してもよい。
【0081】
ここで、挟み込み力測定部4、第1のローラ回転状態検出部6、第2のローラ回転状態検出部8を設けてあることで、各ローラ3,5が低速回転しプレス力をほぼ一定にして基材11に転写パターンを転写しているときに、各ローラ回転状態検出部6,8で検出した各ローラ3,5の回転状態(たとえば、ローラ回転状態検出部6,8で検出した各ローラ3,5の回転角度の原点とこの原点を検出したときからの時刻の経過とによってもとめられる回転角度)と、各ローラ3,5間の距離とによって、制御部27が、各ローラ3,5間の距離の変化のパターンをもとめ、このもとめた変化のパターンをメモリ29に記憶する制御を行うようになっていてもよい。
【0082】
なお、各ローラ3,5間の距離は、制御部27によるサーボモータ(ローラ間距離調整部2を構成するサーボモータ)19への指令値から得られるのであるが、第1のローラ3の位置をリニアエンコーダ(図示せず)で検出することで、各ローラ3,5間の距離を得るようにしてもよい。
【0083】
また、挟み込み力測定部4、第1のローラ回転状態検出部6、第2のローラ回転状態検出部8を設けてあることで、各ローラ3,5が基材11を挟み込んで低速回転をすることで転写を開始してから、各ローラ回転状態検出部6,8で各ローラ3,5が2回転目に突入したことを検出したときに以降に(後に)、制御部27が、各ローラ3,5間の距離を各ローラ3,5が回転する毎に複数回測定し、これらの測定した挟み力の変化のパターンの平均をもとめ、このもとめた変化のパターンの平均をメモリ29に記憶する制御を行うようになっていてもよい。
【0084】
さらに説明すると、前述したように、第1のローラ回転状態検出部6(第2のローラ回転状態検出部8)は、第1のローラ3(第2のローラ5)が1回転する毎に1回の信号を得ることができるようになっている。
【0085】
各ローラ3,5が基材11を挟み込んで低速回転を開始することで転写を開始してから、第1のローラ回転状態検出部6(第2のローラ回転状態検出部8)が1回目の信号を得たときに、第1のローラ3(第2のローラ5)は、1回転目に突入したものとする。以後、第1のローラ回転状態検出部6(第2のローラ回転状態検出部8)が2回目の信号を得たときに、第1のローラ3(第2のローラ5)は、2回転目に突入したものとする。同様にして、第1のローラ回転状態検出部6(第2のローラ回転状態検出部8)がn回目の信号を得たときに、第1のローラ3(第2のローラ5)は、n回転目に突入したものとする。ただし、「n」は3以上の自然数である。
【0086】
制御装置27は、第1のローラ回転状態検出部6(第2のローラ回転状態検出部8)が2回目の信号を得たときに、各ローラ3,5間の距離の取得を開始する。この取得を3回転目の信号を得るまで行って、取得した各ローラ3,5間の距離(各ローラ3,5の2回転目における各ローラ3,5間の距離)の変化のパターンをメモリ29に記憶する。なお、各ローラ3,5間の距離を取得するときのサンプリングタイムは、たとえば、0.01秒程度である。
【0087】
また、制御装置27は、2回転目の場合と同様にして、3回転目の信号を得てから4回転目の信号を得るまで各ローラ3,5間の距離(各ローラ3,5の3回転目における各ローラ3,5間の距離)を取得し、この取得した各ローラ3,5間の距離(各ローラ3,5の3回転目における各ローラ3,5間の距離)の変化のパターンをメモリ29に記憶する。
【0088】
同様にして、各ローラ3,5のm回転目(「m」は4以上の自然数)における各ローラ3,5間の距離の変化のパターンをメモリ29に記憶する。
【0089】
そして、メモリ29に記憶した各ローラ3,5間の距離の変化のパターン(「m」が11である場合、各ローラ3,5間の距離の変化のパターンは10個存在する。)の平均を制御装置27でもとめ、このもとめた変化のパターン(変化のパターンの平均)をメモリ29に記憶する。なお変化の平均パターン(変化のパターンの平均)は、上記各サンプリングタイム毎にもとめる。
【0090】
そして、メモリ29に記憶されている変化の平均パターンを位相を進める等して用い、各ローラ3,5を高速回転させ、基材11への転写を行うようになっている。
【0091】
なお、各ローラ3,5間の距離の取得を3回転目以降から開始してもよい。また、各ローラ3,5間の距離の取得を各回転毎に連続して行うのではなく、断続的に行ってもよい。たとえば、2回転目、4回転目という具合に、偶数回転目にのみ行ってもよい。
【0092】
また、転写装置1において、メモリ29に、転写をするときの高速回転における各ローラ3,5の回転速度(角速度)の値に応じた変化のパターンの位相の進め量(位相の進め角;進め時間)を予め記憶しておいてもよい。
【0093】
そして、制御部27が、各ローラ3,5の回転速度(角速度)に応じて、メモリ29に記憶されている変化のパターンの位相の進め量だけ位相を進めた指令値をローラ間距離調整部2に送る制御をするようにしてもよい。ローラ3,5の回転速度は、制御部27指令信号からもとめたものでもよいし、ローラ回転状態検出部6,8で検出したものでもよい。
【0094】
なお、変化のパターンの位相の進め量の値は、各ローラ3,5の回転速度が速くなるにつれて大きくなっている。
【0095】
また、転写装置1において各ローラ3,5が交換可能な場合、メモリ29に、ローラ3,5の種類(一対のローラ3,5の型式)に応じた複数種類の変化のパターンを記憶しておいてもよい。そして、制御部27が、図示しない入力部(たとえばタッチパネル)から入力したローラ(一対のローラ)3,5の種類に応じた変化のパターンをメモリ29に記憶されているものから選択し、この選択された変化のパターンの位相を進めた駆動信号をローラ間距離調整部2に送る制御をしてもよい。
【0096】
また、転写装置1において、制御部27が、各ローラ3,5が低速回転して基材11に転写パターンを転写しているときに、変化のパターン(挟み込み力をほぼ一定にするときの各ローラ3,5間の距離の変化のパターン)をもとめ(たとえば、1日に1回もとめ;1時間等所定の時間毎に1回でもよい)、このもとめた変化のパターンをメモリ29に記憶するようにしてもよい。
【0097】
そして、制御部27が、各ローラ3,5が高速回転して基材11に転写パターンを転写するときに各ローラ3,5での基材11の挟み込み力をほぼ一定にすべく、メモリ29に記憶した変化のパターン(メモリに記憶した最新の変化のパターン)の位相を進めた駆動信号をローラ間距離調整部2に送る制御をするようにしてもよい。
【0098】
つまり、一対のローラ3,5を交換することなく使用して基材11に転写をし続ける場合であっても、メモリ29に記憶する変化のパターンを時刻の経過とともに、たとえば、上書きして変更してもよい。
【0099】
ここで、転写装置1についてさらに詳しく説明する。
【0100】
転写装置1の上側のローラ3は、軸C2を回転中心にしてローラ支持部材(上側ローラ支持部材)17に回転自在に支持されている。ローラ支持部材17には、ボールネジのナット(図示せず)が一体的に設けられている。上記ナットには、ボールネジのボールネジ軸21が螺合している。ボールネジ軸21は、サーボモータ19の回転出力軸に一体的に設けられており、サーボモータ19の回転出力軸が回転すると回転するようになっている。これによって、上側ローラ3がY軸方向で移動位置決めされるようになっている。
【0101】
なお、サーボモータ19の筐体は、図示しないフレームに一体的に設けられており、ローラ支持部材17は図示しないリニアガイドベアリングを介して上記フレームに支持されており、Y軸方向にのみ移動するようになっている。
【0102】
なお、
図1に示す転写装置1では、上側ローラ3のみがY軸方向で移動位置決めされるようになっているが、上側ローラ3をY軸方向で移動位置決めすることに代えてもしくは加えて、下側ローラ5をY軸方向で移動位置決めするように構成してもよい。
【0103】
転写装置1の下側ローラ5は、軸C2を回転中心にしてローラ支持部材(下側ローラ支持部材)13に回転自在に支持されている。ローラ支持部材13は、ロードセル15を介して、上記フレームに支持されている。
【0104】
これにより、ローラ間距離調整部2とプレス力測定部4が構成されており、ロードセル15で基材11に転写をするときにおける各ローラ3,5による基材11の挟み込み力(押圧力;プレス力)を検出(検知)することができるようになっている。
【0105】
なお、ロードセル15を下側のローラ支持部材13に設けることに代えて、上側のローラ支持部材17に設け、プレス力を検知するように構成してもよい。
【0106】
そして、各ローラ3,5が低速回転して基材11に転写をしているときに、ロードセル15が検知した荷重(プレス力)が、制御部27に送られ、制御部27でプレス力が一定になるような制御(各ローラ3,5間の距離を上述したように適宜変える制御)をするようになっている。また、各ローラ3,5間の距離の変化のパターンをメモリ29に記憶するようになっている。
【0107】
基材11は、X軸方向に長く延びており、各ローラ3,5の回転に同期してX軸方向に移送されるようになっている。なお、基材11の長手方向の一端部(
図1の左側の端部)には、転写前の基材11が巻かれている原反ロール(図示せず)が存在しており、基材11の長手方向の他端部(
図1の右側の端部)には、転写後の基材11が巻かれている巻き取りロール(図示せず)が存在しているものとする。
【0108】
原反ロールと巻き取りロールとの間で、基材11が所定の張力をもって直線状に延伸し、原反ロール側から巻き取りロール側に移送されるようになっている。直線状に延伸している基材11が各ローラ3,5で挟まれて、基材11に転写がなされるようになっている。
【0109】
なお、基材11への転写は、たとえば、熱インプリント法でなされるようになっている。この場合、転写装置1には、直線状に延伸している基材11を加熱する加熱部(図示せず)が設けられている。上記加熱部は、たとえば、第1のローラ3や第2のローラ5の内部に設けられたヒータ、各ローラ3,5の近傍(原反ロール側の近傍;基材11の移動方向における上流側の近傍)に設けられているヒータの少なくともいずれかで構成されている。
【0110】
ここで、各ローラ3,5を高速回転して基材11に転写をするときの転写荷重(プレス荷重)を分析してみる。
【0111】
図11は、従来の転写装置201(転写装置1でも同様である)で、検出したプレス力に応じて(フィードバックして)プレス軸位置を適宜変化させ、各ローラ3,5(203,205)を高速回転しつつ基材11に転写をしたときにおける、プレス力の変化を示す図である。
【0112】
図11の横軸は時刻の経過を示しており、
図11の縦軸は、プレス力(プレス荷重)と各ローラ3,5間の距離を示している。
図11のグラフGI1は、各ローラ3,5間の距離の変動を示しており、
図11のグラフGI2は、各ローラ3,5によるプレス力の変動を示している。
【0113】
グラフGI2を見ると、サンプリング点毎に変動する短周期成分(短周期変動成分)と、それよりもはるかに長い周期で変動する長周期成分(長周期変動成分)とで成り立っていることがわかる。また、長周期成分の変動幅(振幅)は、グラフGI2全体の変動幅の半分程度よりも大きいことがわかる。また、長周期成分は、決まった周期でほぼ同様の変動を繰り返すことがわかる。
【0114】
図11のグラフGI3は、プレス力の変動の長周期成分を抽出するために測定したプレス力変動の移動平均を示しているが、その周期は、940ミリ秒であり、各ローラ3,5の回転周期とよく一致している。
【0115】
この事実から、高速送り(各ローラ3,5を高速回転させての基材11への転写)における荷重変動(プレス荷重の変動)の長周期成分は各ローラ3,5の回転と深い関係があることが予測される。
【0116】
各ローラ3,5の周期変動(長周期成分)については、ローラ3,5の型部分と回転軸とが一体でなく、都度、締結・開放を繰り返し可能な構造になっていること、また、モールド(ローラ3,5の外周)そのものも厳密に言えば真円ではないことが要因であると考えられる。つまり、上述したごとく、ローラ3,5自体に幾何精度(円筒度)およびローラ3,5を装置(転写装置1)に組み付けるときに生じる回転軸のずれ(偏心)が主たる要因であると考えられる。
【0117】
また、転写装置1(201)においては、
図1(
図9)で示すように、2つのローラ3,5を組み合わせて使用するので、装置としての周期変動は、2つのローラ3,5の周期変動を合成したものであると予測できる。
【0118】
なお、前述したように、各ローラ3,5を低速回転して基材11に転写をする場合には、
図10で示すように、安定した荷重制御が可能である。
【0119】
図10は、上述したように、従来の転写装置201(転写装置1でもよい)で、検出したプレス力に応じてプレス軸位置を適宜変化させ、各ローラ3,5を低速回転しつつ基材11に転写をしたときにおける、プレス軸位置とプレス力の変化を示している。
【0120】
図10の横軸は時刻の経過を示しており、
図10の縦軸は、プレス力(プレス荷重)と各ローラ3,5間の距離を示している。
図10のグラフGH1は、各ローラ3,5間の距離の変動を示しており、
図10のグラフGH2は、各ローラ3,5によるプレス力の変動を示している。
【0121】
図10の各グラフGH1,GH2から、各ローラ3,5間の距離を周期的に適宜変動させることで、安定したプレス力が得られている。また、グラフGH1は、2つのローラ3,5の周期変動を合成したものと相関関係があると考えられる。
【0122】
上述した仮説を検証するために、次の実験を行った。
【0123】
まず、転写装置に組み込んだ状態での、ダミー円筒モールド(ダミーローラ)の回転中心と、ダミー円筒モールドの外周表面との距離変動を測定した。てこ式ダイヤルゲージを用いて測定を行い、ダミー円筒モールドの円周を8等分した45°毎の合計8箇所について、各箇所で5回測定し、その平均値をもとめ、この平均値を測定値とした。
【0124】
図12(a)は、上側のダミー円筒モールドの測定値を示しており、
図12(b)は、下側のダミー円筒モールドの測定値を示している。
【0125】
2つのダミー円筒モールドの測定値を、モールドの位相の組み合わせを変えて合成した。
【0126】
図13〜
図15に合成した結果を示す。
図13〜
図15に示す点が、2つのダミー円筒モールドの測定値を加算したものであり、グラフGJ1、GK1、GL1は、近似曲線である。
【0127】
2つのダミー円筒モールドの組み合わせは、
図13に示すものが上側ダミーモールドを90°、上側ダミーモールドを0°の位相で接するように組み合わせたたものであり、
図14に示すものが上側ダミーモールドを0°、上側ダミーモールドを0°の位相で接するように組み合わせたものであり、
図15に示すものが上側ダミーモールドを270°、上側ダミーモールドを0°の位相で接するように組み合わせたものである。
【0128】
図13〜
図15から理解されるように、位相の組み合わせに応じて合成された測定値のパターンが変わるが、いずれの場合においても、その変動周期は、ダミーモールドの円周360°と一致している。
【0129】
さらに、
図13〜
図15の3通りの位相の組み合わせにおいて、低速回転で荷重制御(各ダミーローラを低速回転して各ダミーローラの挟み込み荷重を一定する制御)を行った結果を、
図16〜
図18に示す。
図16〜
図18のグラフGM1、GN1、GO1は、挟み込み荷重を示しており、
図16〜
図18のグラフGM2、GN2、GO2は、各ダミーローラ間の距離の変動を示している。また、グラフGM2、GN2、GO2は、各ダミーローラの10周分を位相に合わせて重ね書きしたものである。
【0130】
得られた軸位置の変動パターン(各ダミー円筒モールド間の距離の変動パターン;
図16〜
図18参照)と、
図12に示す測定結果を合成したダミー円筒モールドの変動値の近似曲線(
図13〜
図15参照)を比較するために、10周分の軸位置の平均値と測定・合成したダミー円筒モールドの変動値の近似曲線を重ね合わせたものを
図19〜
図21に示す。
図19〜
図21のグラフGP1、GQ1、GR1は、得られた軸位置の変動パターンを示しており、
図19〜
図21のグラフGP2、GQ2、GR2は、合成したダミー円筒モールドの変動値の近似曲線を示している。
図19〜
図21を参照するに、両者の変動傾向がお互いによく一致していることがわかる。
【0131】
以上の結果から、転写のときのプレス力の長周期変動成分は、主にモールド(ローラ3,5)の周期変動成分(1回転の周期で現れる変動成分)に対応していることがわかった。
【0133】
まず、各ローラ3,5による基材11の挟み込み力をほぼ一定にするように、ローラ間距離調整部2で各ローラ3,5間の距離を調整しつつ各ローラ3,5を低速回転し、基材11に転写パターンを転写しているときにおける各ローラ3,5間の距離の変化のパターンを取得し(
図2(a)参照)、この取得した変化のパターンをメモリ29に記憶する。
【0134】
なお、
図2の横軸は、時刻の経過を示しており、
図2の縦軸は、プレス力(プレス荷重)と各ローラ3,5間の距離を示している。
図2(a)のグラフGA1は、各ローラ3,5によるプレス力を示している。
図2(a)のグラフGA2は、各ローラ3,5間の距離の変動を示している。
【0135】
続いて、各ローラ3,5を高速回転させて基材11に転写パターンを転写するときに各ローラ3,5による基材11の挟み込み力をほぼ一定にすべく、メモリ29に記憶した変化のパターンの位相を進めた指令値をローラ間距離調整部2に送り、この送られてきた指令値に基づいて、ローラ間距離調整部2が各ローラ3,5間の距離を調整し転写を行う(
図2(b)参照)。
【0136】
なお、
図2(b)のグラフGA5は、各ローラ3,5によるプレス力を示している。
図2(b)のグラフGA3は、
図2(a)のグラフGA2を時間軸で縮めた(低速回転における各ローラ3,5の角速度と高速回転における各ローラ3,5の角速度との比に応じて縮めた)ものであり、
図2(b)のグラフGA4の変化のパターンは、グラフGA3の位相を時間Δtだけ進めたものである。グラフGA4が、指令値としてローラ間距離調整部2に送られると、ローラ間距離調整部2が、各ローラ3,5の距離を適宜制御する。このときの各ローラ3,5間の実際の距離の変動が、グラフGA3のようになる。グラフGA3のように各ローラ3,5間の距離が変動することで、各ローラ3,5によるプレス力がほぼ一定になる(長周期変動成分がほぼ除去される)。
【0137】
転写装置1によれば、各ローラ3,5が高速回転して基材11に転写パターンを転写するときに各ローラ3,5での基材11の挟み込み力をほぼ一定にすべく、メモリ29に記憶されている変化のパターンの位相を進めた駆動信号をローラ間距離調整部2に送るように構成されているので、各ローラ3,5が高速回転することで上側ローラ3をY軸方向に駆動するサーボモータ19等の追従の遅れが生じても、各ローラ3,5で基材11を挟み込む荷重をほぼ一定にすることができ(位相を進めた分だけ追従が遅れることで各ローラ3,5による挟み込み荷重を安定させることができ)、基材11への転写パターンの転写を正確にしかも効率良く行うことができる。そして、不良品の発生を無くすことができる。
【0138】
ここで、転写装置1におけるプレス力の変動について、
図3〜
図8を参照して説明する。
【0139】
図3は、転写装置1での、荷重制御下(各ローラ3,5における基材11の挟み力をほぼ一定にする制御下)におけるプレス軸位置の変化(各ローラ3,5間の距離の変化)を示す図である。
図3の横軸は、時刻の経過を示しており、
図3の縦軸は、各ローラ3,5間の距離を示している。
図3の各ローラ3,5は、63秒程度で1回転している。
【0140】
図3のグラフGB1は、各ローラ3,5の1回転目における各ローラ3,5間の距離の変動を示しており、同様にして、グラフGB2〜GB5は、各ローラ3,5の2回転目〜5回転目における各ローラ3,5間の距離の変動を示している。
【0141】
図4〜
図8の横軸は、時刻の経過を示しており、
図4〜
図8の横軸は、各ローラ3,5による基材11の挟み力と、各ローラ3,5間の距離とを示している。
【0142】
図4は、各ローラ3,5を高速回転(20m/minの送り速度)し、しかも各ローラ3,5間の距離を一定にしておいて、基材11に転写をした場合を示している。
図4のグラフGC1は、各ローラ3,5間の距離を示しており、これは一定になっている。
図4のグラフGC2は、各ローラ3,5による基材11の挟み力の変化を示している。
図4から理解されるように、各ローラ3,5間の距離を一定にした場合には、各ローラ3,5による基材11の挟み力に長周期変動成分を主とする大きな変化が現れている。この標準偏差は、6.86Nである。
【0143】
図5は、各ローラ3,5を高速回転(20m/minの送り速度)し、しかも各ローラ3,5間の距離を、
図2で説明したように(
図2(b)参照;メモリ29に記憶されている変化のパターンの位相を進めた制御をして)適宜変動させて、基材11に転写をした場合を示している。
図5のグラフGD1は、各ローラ3,5間の距離の変動を示している。
図6のグラフGD2は、各ローラ3,5による基材11の挟み力の変化を示している。グラフGD2から理解されるように、各ローラ3,5間の距離を適宜変動させた場合には、各ローラ3,5による基材11の挟み力における長周期変動成分を主とする変化がほぼ消滅している。この標準偏差は、2.80Nである。また、位相の進め角度(
図2(b)のΔtに相当)は、360°×(16/256)である。
【0144】
図6〜
図8は、
図5の場合と同様に、各ローラ3,5を高速回転(20m/minの送り速度)し、しかも各ローラ3,5間の距離を変動させた場合を示している。ただし、
図6では、位相の進め角度が360°×(0/256)になっており、
図7では、
図5の場合と同様に位相の進め角度が360°×(16/256)になっており、
図8では、位相の進め角度が360°×(32/256)になっている。
【0145】
図6〜
図8に示すグラフGE1、GF1、GG1は、各ローラ3,5間の距離の変動を示している。
図6〜
図8に示すグラフGE2、GF2、GG2は、各ローラ3,5による基材11の挟み力の変化を示している。
【0146】
図6に示す状態では、位相遅れが生じていることで、各ローラ3,5による基材11の挟み力が大きく変動しており、
図8に示す状態では、位相が進みすぎていることで、各ローラ3,5による基材11の挟み力が大きく変動しており、
図7で示す状態がちょうどよい状態であって、各ローラ3,5による基材11の挟み力における長周期変動成分を主とする変化がほぼ消滅している。
【0147】
また、転写装置1によれば、各ローラ3,5が低速回転して基材11基材に転写パターンを転写しているときに、各ローラ回転状態検出部6,8で検出した各ローラ3,5の回転状態と、挟み込み力測定部4で測定した挟み込み力とによって、荷重(プレス力)の変化のパターンをもとめ、このもとめた変化のパターンをメモリ29に記憶するように構成されているので、別途、変化のパターンを測定する必要が無くなり、効率良く転写装置1を稼動させることができる。
【0148】
すなわち、第1のローラ3の形状精度(長周期変動成分に変動をおよぼす主な要因)を測定する際、第1のローラ3の外周に、てこ式ダイヤルゲージ等の測定子を当接させる必要が無いので、第1のローラ3の外周に形成されている転写パターンが変形したり破損したりするおそれを無くすことができる。
【0149】
また、転写パターンの変形や破損を無くすべく非接触で各ローラ(転写装置1にすでに組みつけられている各ローラ)3,5の形状精度を測定するとなると、上下2系統の測定器が必要になり、しかも、測定した値を加算する必要があるが、転写装置1のように構成することで、上述した煩雑な構成(上下2系統の測定器等を設ける構成)になることを回避することができる。
【0150】
つまり、転写装置1によれば、荷重制御下(各ローラ3,5による基材11の挟み込み力を一定にする制御をしている状態)で、軸変動(各ローラ3,5の距離の変動)を測定するのに、上下2つのモールド(各ローラ)3,5の変動成分を合成した変動成分(長周期変動成分に影響をおよぼす変動成分)を演算してもとめる必要が無く、簡素な構成で一度に軸変動を測定することができ、しかも、第1のローラ3の表面にテコ式ダイヤルゲージの測定子を当接させる必要が無いので、転写パターンが変形したり破損したりするおそれを無くすことができる。
【0151】
また、プレス軸位置として,モールド(各ローラ)3,5の回転位相が「0°」であるとき(たとえば、第1のローラ回転状態検出部6の原点センサ25と第2のローラ回転状態検出部8の原点センサ23とが各ローラ3,5に設けられている被検出部を検出する回転角度に各ローラ3,5がなっているとき)の各ローラ3,5間の距離(たとえば各ローラ3,5の中心軸C1,C2間の距離に対する、ローラ1周内の任意の計測点における各ローラ間3,5の距離との差)の相対値を測定値として記憶させると良い。
【0152】
これは、次の様な変動要因があっても,一つの計測データテーブルで対応可能にするためである。すなわち、実際には、転写対象である基材11が弾性を備えていることで、転写を行う場合の転写回転開始前の初期荷重(各ローラ3,5による基材11のプレス力)によりプレス軸位置(各ローラ3,5間の距離)の絶対値が変動する。しかし、ローラ3,5の1周分の相対変動パターンは不変共通である。したがって、初期荷重を変更した場合であっても、回転開始前のプレス軸位置に、メモリ29に記憶した測定値(変化のパターン)を加算したものを指令値にすればよく、初期荷重を変更する毎に変化のパターンを測定してメモリ29に記憶する必要がなく、便利になり、転写を一層効率良く行うことができるのである。
【0153】
また、転写装置1によれば、各ローラ3,5の1回転目の各ローラ3,5間の距離の変化を除いた平均をもとめることで、転写開始直後の非定常値を除外することができ(
図3のグラフGB1のものを除外することができ)、各ローラ3,5間の距離の変化のパターンの標準偏差を小さくすることができる。なお、各ローラ3,5間の距離の変化の平均を求めることで、短周期変動成分は、かなり消えるが、別途フィルタを設けて短周期変動成分を除いてもよい。
【0154】
また、転写装置1において、メモリ29に、高速回転における各ローラ3,5の回転速度の値に応じた変化のパターンの位相の進め量を予め記憶しておき、各ローラ3,5の回転速度に応じて、メモリ29に記憶されている変化のパターンの位相の進め量だけ位相を進めた駆動信号をローラ間距離調整部2に送るように構成すれば、各ローラ3,5の回転速度を変えた場合においても、基材11への転写パターンの転写を正確にしかも効率良く行うことができる。
【0155】
さらに、転写装置1において、メモリ29にローラ3,5の種類に応じた複数種類の変化のパターンを記憶し、入力部から入力したローラ3,5の種類に応じた変化のパターンをメモリ29に記憶されているものから選択し、この選択された変化のパターンの位相を進めた駆動信号をローラ間距離調整部2に送るように構成すれば、ローラ3,5の種類を変えたときであっても、基材11への転写パターンの転写を正確にしかも効率良く行うことができる。
【0156】
また、転写装置1において、所定の時間が経過する毎に変化のパターンをもとめ、このもとめた変化のパターンをメモリ29に記憶し、各ローラ3,5が高速回転して基材11に転写パターンを転写するときに各ローラ3,5による基材11の挟み込み力をほぼ一定にすべく、メモリ29に記憶した変化のパターン(メモリ29に記憶した最新の変化のパターン)の位相を進めた駆動信号をローラ間距離調整部2に送るようにすれば、経年変化や温度変化が生じた場合であっても、基材11への転写パターンの転写を正確にしかも効率良く行うことができる。
【0157】
なお、上述した転写装置1を用いた転写の手順を次に示す転写方法として把握してもよい。
【0158】
すなわち、外周に転写パターンが形成されており、中心軸を回転中心にして回転する第1のローラと、前記第1のローラの中心軸と平行な中心軸を回転中心にし前記第1のローラと同期して回転する第2のローラとで基材を挟み込み、前記各ローラの回転によって前記基材をこの長手方向に移動し前記基材に前記転写パターンを転写する転写方法であって、前記各ローラでの前記基材の挟み込み力をほぼ一定にするように、ローラ間距離調整部で前記各ローラ間の距離を調整しつつ前記各ローラを低速回転し前記基材に前記転写パターンを転写しているときにおける前記各ローラ間の距離の変化のパターンを取得する変化パターン取得工程と、前記各ローラを高速回転させて前記基材に前記転写パターンを転写するときに前記各ローラでの前記基材の挟み込み力をほぼ一定にすべく、前記変化のパターン取得工程で取得した変化のパターンの位相を進めた指令値を前記ローラ間距離調整部に送り、この送られてきた指令値に基づいて、前記ローラ間距離調整部が前記各ローラ間の距離を調整し転写を行う転写工程とを有する転写方法として把握してもよい。
【0159】
この場合において、前記第1のローラの回転状態を検出する第1のローラ回転状態検出工程と、前記第2のローラの回転状態を検出する第2のローラ回転状態検出工程とを加え、変化パターン取得工程を、前記各ローラが低速回転して前記基材に前記転写パターンを転写しているときに、前記各ローラ回転状態検出工程で検出した各ローラの回転状態と、前記ローラ間距離調整部で調整された各ローラ間の距離とによって、前記変化のパターンを取得する工程としてもよい。
【0160】
また、前記変化パターン取得工程を、前記各ローラが前記基材を挟み込んで低速回転を開始することで転写を開始してから、前記各ローラが2回転目に突入した後に、前記各ローラ間の距離を前記各ローラが回転する毎に複数回測定し、これらの測定した挟み力の変化のパターンの平均をもとめ、このもとめた変化のパターンの平均を前記各ローラ間の距離の変化のパターンとする工程としてもよい。
【0161】
さらに、前記転写工程で、前記各ローラの回転速度に応じて、前記変化のパターンの位相を所定量進め、この位相を進めた指令値を前記ローラ間距離調整部に送るようにしてもよい。
【0162】
また、前記変化パターン取得工程を、複数種類の前記各ローラ(一対のローラ)のそれぞれにおける前記各ローラ間の距離の変化のパターンを取得する工程とし、前記転写工程を、ローラ(一対のローラ)の種類に応じた変化のパターンを選択し、この選択された変化のパターンの位相を進めた駆動信号を前記ローラ間距離調整部に送る工程としてもよい。
【0163】
また、前記変化パターン取得工程を、前記各ローラが低速回転して前記基材に前記転写パターンを転写しているときに、前記各ローラ回転状態検出部で検出した各ローラの回転状態によってもとめられる回転角度と、前記挟み込み力測定部で測定した挟み込み力とによって、所定の時間が経過する毎に前記変化のパターンをもとめる工程とし、前記転写工程を、前記各ローラが高速回転して前記基材に前記転写パターンを転写するときに前記各ローラでの前記基材の挟み込み力をほぼ一定にすべく、前記前記変化パターン取得工程で取得した変化のパターン(最新の変化のパターン)の位相を進めた駆動信号を前記ローラ間距離調整部に送る工程としてもよい。