特許第5862299号(P5862299)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5862299結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862299
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/08 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   C08G61/08
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-290366(P2011-290366)
(22)【出願日】2011年12月29日
(65)【公開番号】特開2013-139513(P2013-139513A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】早野 重孝
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−249555(JP,A)
【文献】 特開2002−249554(JP,A)
【文献】 特開2004−352896(JP,A)
【文献】 特開2002−249553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物を用いてなる重合触媒により、ノルボルネン系単量体を開環重合し、得られたノルボルネン系開環重合体が存在する系に、下記の式(2)で表されるルテニウム化合物を水素化触媒として添加し、次いで、さらに水素を添加することにより、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化する、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Mは周期表第6族遷移金属原子から選択される原子を表し、Rは炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、R〜Rは互いに結合して環構造を形成してもよい。また、Xは独立にハロゲン原子から選択される原子を表し、nはであり、mはである。)
【化2】
(式(2)中、R10〜R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、Zは、独立に、ハロゲン原子、アルコキシ配位子、およびエステル配位子から選択される配位子を表し、pは0〜2の整数であり、qは0〜2の整数であり、rは1または2であり、sは1〜3の整数である。また、4≦p+q+r+s≦6である。)

【請求項2】
重合触媒が、さらに、式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物以外の有機金属化合物を共触媒として用いてなるものである請求項1に記載の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法に関し、さらに詳しくは、溶融成形などによる熱履歴を経た後であっても高い融点が維持される耐熱性に優れた結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を与えることができる、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されるようなジシクロペンタジエンなどのノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、いわゆるシクロオレフィンポリマーの一種であり、透明性、低複屈折性、成形加工性などに優れることから、光学用途をはじめとして、種々の用途に適用できる材料として用いられている。
【0003】
特許文献1に記載されたものもそうであるように、ジシクロペンタジエンの開環重合体水素化物は、アタクチックな構造を有する非晶性の重合体として得られることが一般的である。しかし、アタクチックな構造を有する非晶性のジシクロペンタジエンの開環重合体水素化物は、その用途によっては、耐熱性、機械強度、耐溶剤性などが不十分となる場合があるものである。そこで、それらの性能を改良する手法として、ジシクロペンタジエンの開環重合体水素化物に立体規則性を有させることにより、結晶性を付与することが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の置換基を有する周期表第6族遷移金属化合物を主成分とする重合触媒を用いて、ジシクロペンタジエンを開環重合すると、立体規則性を有し、それに基づいて結晶性を有する開環重合体が得られ、さらに、その開環重合体中の炭素−炭素二重結合を、ニッケルアセチルアセトナートなどを水素化触媒として用いて水素化することによって、結晶性を有する開環重合体水素化物が得られることが開示されている。また、特許文献2には、芳香族ジオキシ基を配位子として有する周期表第4〜6族の遷移金属化合物を主成分とする重合触媒を用いて、ジシクロペンタジエンを開環重合すると、立体規則性を有し、それに基づいて結晶性を有する開環重合体が得られ、さらに、その開環重合体中の炭素−炭素二重結合を、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリドなどを水素化触媒として用いて水素化することによって、結晶性を有する開環重合体水素化物が得られることが開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、タングステンイミドビフェノラートなどの特定の開環重合触媒を用いてエンド−ジシクロペンタジエンを開環重合すると、アイソタクチック立体規則性を有する開環重合体が得られ、該重合体が存在する系中にRu(CyP)Cl(=CHOEt)のようなルテニウムカルベン化合物を水素化触媒として添加して、開環重合体中の炭素−炭素二重結合を水素化すると、結晶性を有するエンド−ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−124429号公報
【特許文献2】国際公開第01/014446号パンフレット
【特許文献3】特開2002−249553号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shigetaka Hayano、他4名、“Hydrogenated Ring-Opened Poly(endo-dicyclopentadiene)s Made via Stereoselective ROMP Catalyzed by Tungsten Complexes: Crystalline Tactic Polymers and Amorphous Atactic Polymer”、Macromolecules、2006年、第39巻、p.4663−4670
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が改めて検討したところによると、特許文献2および3や非特許文献1に具体的に記載された結晶性のジシクロペンタジエン開環重合体水素化物は、高い融点を有するものであるものの、一度溶融させた後、冷却して凝固させたものについて、再度融点を測定すると、溶融前の測定に比べて、大幅に融点が低下してしまうことが明らかとなった。融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下は、溶融成形により重合体を成形すると、その耐熱性が低下してしまうことを意味するものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、融点が高く、しかも、融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下を殆ど生じさせない、溶融成形により成形を行った後も優れた耐熱性を示す、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、特定構造のイミド基を中心金属上の置換基として有する周期表第6族遷移金属化合物を用いてなる重合触媒により、ジシクロペンタジエンなどのノルボルネン系単量体を開環重合し、得られたノルボルネン系開環重合体が存在する系に、特定の構造を有するルテニウムヒドリド化合物を水素化触媒として添加し、さらに水素を添加することにより、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化すると、融点が高く、しかも、融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下を殆ど生じさせない結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物が得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0011】
かくして、本発明によれば、下記の式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物を用いてなる重合触媒により、ノルボルネン系単量体を開環重合し、得られたノルボルネン系開環重合体が存在する系に、下記の式(2)で表されるルテニウム化合物を水素化触媒として添加し、次いで、さらに水素を添加することにより、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化する、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法が提供される。
【0012】
【化1】
(式(1)中、Mは周期表第6族遷移金属原子から選択される原子を表し、Rは炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、R〜Rは互いに結合して環構造を形成してもよい。また、Xは独立にハロゲン原子から選択される原子を表し、nは1または2であり、mは0または2である。)
【0013】
【化2】
(式(2)中、R10〜R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、Zは、独立に、ハロゲン原子、アルコキシ配位子、およびエステル配位子から選択される配位子を表し、pは0〜2の整数であり、qは0〜2の整数であり、rは1または2であり、sは1〜3の整数である。また、4≦p+q+r+s≦6である。)
【0014】
上記の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、重合触媒が、さらに、式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物以外の有機金属化合物を共触媒として用いてなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法によれば、融点が高く、しかも、融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下を殆ど生じさせない、溶融成形により成形を行った後も優れた耐熱性を示す、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法は、式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物用いてなる重合触媒により、ノルボルネン系単量体を開環重合し、得られたノルボルネン系開環重合体が存在する系に、下記の式(2)で表されるルテニウム化合物を水素化触媒として添加し、次いで、さらに水素を添加することにより、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化する、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を製造するものである。
【0017】
本発明で用いる単量体であるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環構造を有する化合物であって、最終的に得られるノルボルネン系開環重合体水素化物に結晶性を有させることができるものである限りにおいて特に限定されず、例えば、ノルボルネン類やノルボルネン環に縮合したノルボルネン環以外の環構造を有するノルボルネン誘導体を挙げることができる。
【0018】
本発明において、ノルボルネン系単量体として用いられうるノルボルネン類の具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネンなどの無置換またはアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネンなどの芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイトなどの酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類などが挙げられる。
【0019】
また、本発明において、ノルボルネン系単量体として用いられうるノルボルネン環に縮合したノルボルネン環以外の環構造を有するノルボルネン誘導体の具体例としては、ジシクロペンタジエン;トリシクロ[4.3.12,5.0]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.12,5.0]ウンダ−3−エン、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]トリデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう);テトラシクロ[6.6.12,5.01,6.08,13]テトラデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンともいう);テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセンなどの無置換またはアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセンなどの環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセンなどの芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、などの酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセンなどのけい素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセンなどの無置換またはアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセンなどの環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセンなどの芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセンなどの酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセンなどのけい素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類などが挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、ノルボルネン系開環重合体水素化物の耐熱性を特に良好なものとし、また、その結晶化速度を速いものとする観点から、ノルボルネン系単量体として、ジシクロペンタジエンを含むものを用いることが好ましい。ノルボルネン系単量体中において、ジシクロペンタジエンが占める割合は特に限定されないが、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。
【0021】
また、本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、ノルボルネン系単量体に他の単量体を組み合わせて用いることもできる。ノルボルネン系単量体に組み合わせて用いることができる他の単量体としては、単環のシクロアルケンを例示することができる。この単環のシクロアルケンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,4−シクロオクタジエン、シクロデセンなどを挙げることができる。但し、本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、ノルボルネン系開環重合体水素化物の耐熱性を特に良好なものとし、また、その結晶化速度を速いものとする観点から、ノルボルネン系単量体以外の単量体の使用量は、単量体全体に対して、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、以上述べたようなノルボルネン系単量体を、下記の式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物を用いてなる重合触媒により開環重合するものである。
【0023】
【化3】
(式(1)中、Mは周期表第6族遷移金属原子から選択される原子を表し、Rは炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、R〜Rは互いに結合して環構造を形成してもよい。また、Xは独立にハロゲン原子から選択される原子を表し、nは1または2であり、mは0または2である。)
【0024】
すなわち、本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、ノルボルネン系単量体を開環重合させる重合触媒の成分として、式(1)で表される、特定のイミド基および特定のビフェノラート構造を有する配位子を有する周期表第6族遷移金属化合物を用いるものである。本発明において、重合触媒の成分として用いられる周期表第6族遷移金属化合物の中心金属(式(1)のM)は、周期表第6族遷移金属原子から選択される原子であればよいが、重合触媒の活性を高める観点からは、W原子またはMo原子が好ましく用いられる。
【0025】
また、本発明で用いる周期表第6族遷移金属化合物は、中心金属原子上にイミド基を有するものであり、イミド基中の窒素原子が有する置換基(式(1)のR)は、炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基である。この炭素数1〜12のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれのものであってもよく、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などの炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロヘキシル基、アダマンチル基などの炭素数3〜20のシクロアルキル基を挙げることができる。また、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基または2、3、4、5、6位の少なくとも1つに置換基を有する1〜5置換のフェニル基を挙げることができ、より具体的な例としては、フェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニルなどの炭素数6〜24のアリール基を挙げることができる。また、アリール基が有しうる置換基は特に限定されるものではないが、その具体例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、アルコキシ基、アミノ基、イミノ基を挙げることができる。
【0026】
また、本発明で用いる周期表第6族遷移金属化合物は、さらに、1個または2個のビフェノラート構造を有する配位子を有するものである。ビフェノラート構造を有する配位子は、無置換のビフェノラート配位子であってもよいし、ビフェニル環上に置換基を有するものであってもよい。この配位子が有するビフェニル環上の置換基(式(1)のR〜R)は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基であり、これらは互いに同じものであっても異なるものであってもよい。また、これらのビフェニル環上の置換基は、その複数が結合して環構造を形成してもよい。なお、この置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基や置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基が有しうる置換基の具体例としては、イミド基中の窒素原子が有する置換基の具体例として挙げたものと同じものを挙げることができる。また、この周期表第6族遷移金属化合物がビフェノラート構造を有する配位子を1個有するものである場合は、該金属化合物は、中心金属原子上の置換基として、2個のハロゲン原子を有する必要がある。このハロゲン原子は、任意のハロゲン原子であればよいが、塩素原子であることが好ましい。また、2個のハロゲン原子は同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0027】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、ノルボルネン系開環重合体水素化物の耐熱性を特に良好なものとし、また、その結晶化速度を速いものとする観点から、周期表第6族遷移金属化合物のビフェノラート構造を有する配位子において、その3位と3’位の置換基、すなわち式(1)のRおよびRは、嵩高い置換基であることが好ましく、具体的には、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭素数3〜12の分岐アルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12の環状アルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基であることがより好ましく、イソプロピル基、t−ブチル基、フェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、(1−フェニル−1−メチル)エチル基、1,1−ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、(1,1−ジメチル−2,2−ジメチル)プロピル基、およびアダマンチル基から選択される基であることが特に好ましい。
【0028】
本発明で用いる周期表第6族遷移金属化合物の具体例としては、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(フェニルイミド)モリブデン(VI)、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(2,6−ジイソプロピルフェニルイミド)モリブデン(VI)、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(シクロヘキシルイミド)モリブデン(VI)、{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(フェニルイミド)モリブデン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(フェニルイミド)モリブデン(VI)、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(2,6−ジイソプロピルフェニルイミド)モリブデン(VI)、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(アダマンチルイミド)モリブデン(VI)、{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(フェニルイミド)モリブデン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(フェニルイミド)タングステン(VI)、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(2,6−ジイソプロピルフェニルイミド)タングステン(VI)、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(シクロヘキシルイミド)タングステン(VI)、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(エチルイミド)タングステン(VI)、{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}(フェニルイミド)タングステン(VI)ジクロリド、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(フェニルイミド)タングステン(VI)、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(2,6−ジイソプロピルフェニルイミド)タングステン(VI)、ビス{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(アダマンチルイミド)タングステン(VI)、{3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシ}(フェニルイミド)タングステン(VI)ジクロリドを挙げることができる。
【0029】
本発明で用いる周期表第6族遷移金属化合物の合成方法は、それが得られるものである限りにおいて特に限定されるものではないが、周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物とビフェノール金属塩とを反応させることにより合成することが好ましい。周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物としては、重合触媒として用いる周期表第6族遷移金属化合物に有させる金属原子およびイミド基を有するものを用いればよく、また、そのハロゲン配位子は、特に限定されず任意のハロゲン原子から選択すればよいが、反応性や汎用性の観点からは塩素原子であることが好ましい。用いられうる周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物の具体例としては、フェニルイミドモリブデン四塩化物、2,6−ジイソプロピルフェニルイミドモリブデン四塩化物、シクロヘキシルイミドモリブデン四塩化物、アダマンチルイミドモリブデン四塩化物、フェニルイミドタングステン四塩化物、2,6−ジイソプロピルフェニルイミドタングステン四塩化物、シクロヘキシルイミドタングステン四塩化物、エチルイミドタングステン四塩化物、アダマンチルイミドタングステン四塩化物を挙げることができる。なお、これらの周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物は、1当量の電子供与性の塩基が配位したものであってもよい。この電子供与性の塩基としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ピリジン、2,6−ルチジン、トリエチルアミンを例示することができる。
【0030】
また、ビフェノール金属塩としては、重合触媒として用いる周期表第6族遷移金属化合物に有させるビフェノラート構造を有する配位子に対応する構造のものを用いればよく、金属塩を構成する金属原子としては、アルカリ金属原子が好適である。用いられうるビフェノール金属塩の具体例としては、3,3’−ジ(イソプロピル)−2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’,5,5’−テトラ(t−ブチル)−2,2’−ビフェノキシナトリウム、3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’−ジフェニル−2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’−ジトリチル−2,2’−ビフェノキシリチウム、3,3’−ジアダマンチル−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシカリウム、3,3’−ジ(イソプロピル)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシリチウム、3,3’−ジ(t−ブチル)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシリチウム、3,3’−ジ(t−ブチル)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシナトリウム、3,3’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシリチウム、3,3’−ジアダマンチル−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジオキシリチウムを挙げることができる。
【0031】
周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物とビフェノール金属塩とを反応させるにあたり、これらを混合する方法は特に限定されないが、有機溶媒に溶解または分散した周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物と有機溶媒に溶解または分散したビフェノール金属塩とを混合する方法が好ましく用いられる。この方法において用いる有機溶媒は、周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物およびビフェノール金属塩を溶解もしくは分散させることが可能であり、これらの反応に対して悪影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、汎用される有機溶媒を用いることができる。
【0032】
有機溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒;ピリジン、ルチジンなどの芳香族アミン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素を挙げることができる。これらの有機溶媒の中でも、周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物およびビフェノール金属塩の溶解性に優れ、その後の反応への影響を小さくする観点からは、芳香族炭化水素系溶媒またはエーテル系溶媒が好ましく用いられる。また、周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物含む溶液およびビフェノール金属塩を含む溶液中の周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物およびビフェノール金属塩の濃度は任意に選択できる。
【0033】
周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物とビフェノール金属塩とを反応させるにあたっての混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、この混合は、周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物を含む溶液にビフェノール金属塩を含む溶液を加えることにより行ってもよいし、その反対でもよい。また、両者を同時に別の容器に加えて混合してもよい。ビフェノール金属塩の周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物に対するモル比は、1〜10倍が好ましく、1〜8倍がより好ましく、1〜3倍が特に好ましい。ビフェノール金属塩の周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物に対するモル比が1倍未満では、未反応の周期表第6族遷移金属イミドハロゲン化物が残り、重合に影響があるので好ましくなく、またこのモル比が大きすぎると、未反応のビフェノール金属塩が重合に影響したり、副反応が起こったりするので好ましくない。反応温度は特に限定されないが、一般的には、−100℃〜100℃の間で行う。温度が低すぎると反応の進行が遅すぎ、高すぎると副反応が起こったり、生成物が分解したりするので好ましくない。反応温度の好ましい範囲は−80℃〜80℃で、−70℃〜70℃がさらに好ましい。混合は0℃以下の低温で行い、その後、徐々に室温に上げながら、反応させるのも好ましい。反応時間は、1分間〜1週間の間であれば、特に限定されない。
【0034】
例えば以上のようにして得られる反応液から、本発明で用いる周期表第6族遷移金属化合物を回収するにあたっては、目的の周期表第6族遷移金属化合物が不溶な有機溶媒、例えば、ペンタンなどの飽和炭化水素に反応物を加えて、目的の化合物を析出させたり、反応に用いた溶媒を留去して目的の化合物を回収したりすることもできる。また、反応液をそのまま、重合触媒として用いることもできる。
【0035】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、例えば以上で述べたように得られる周期表第6族遷移金属化合物を用いてなる重合触媒により、ノルボルネン系単量体を開環重合するが、この重合触媒は、周期表第6族遷移金属化合物以外の他の成分を組み合わせて用いたものであってもよい。特に、重合触媒が、さらに、式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物以外の有機金属化合物を共触媒として用いてなるものであると、重合触媒の活性を高くなるので、好ましい。この共触媒として用いられる有機金属化合物としては、炭素数1〜20の炭化水素基を有する、周期表第1、2、12、13および14族いずれかの有機金属化合物が好適に用いられ、特にそのなかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく用いられ、さらにそのなかでも、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物が好ましく用いられる。有機リチウム化合物の具体例としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムが挙げられる。有機マグネシウム化合物の具体例としては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドが挙げられる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛が挙げられる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジエトキシドが挙げられる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズが挙げられる。共触媒として用いられる有機金属化合物の添加量は、周期表第6族遷移金属化合物の中心金属に対して、0.1〜100モル倍の量で用いることが好ましく、0.2〜50モル倍の量で用いることがより好ましく、0.5〜20モル倍の量で用いることが特に好ましい。添加量が少なすぎると重合活性が十分に向上しないおそれがあり、多すぎると、副反応が起こりやすくなるおそれがある。
【0036】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法において、ノルボルネン系単量体を開環重合するためには、ノルボルネン系単量体と重合触媒とを混合すればよい。ノルボルネン系単量体に対する重合触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、(重合触媒中の周期表第6族遷移金属化合物の遷移金属:ノルボルネン系単量体)のモル比が、1:10〜1:2,000,000である範囲が好ましく、1:200〜1:1,000,000である範囲がより好ましく、1:500〜1:500,000である範囲が特に好ましい。重合触媒の使用量が多すぎると重合触媒の除去が困難となるおそれがあり、少なすぎると十分な重合活性が得られないおそれがある。
【0037】
重合反応は、無溶媒系で行うこともできるが、反応を良好にコントロールする観点からは、有機溶媒中で行うことが好ましい。この際用いられる有機溶媒は、生成される開環重合体を溶解または分散させることができ、重合反応に悪影響を与えないものであれば、特に限定されない。用いられうる有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテルを挙げることができる。これらのなかでも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル、または芳香族エーテルが特に好ましく用いられる。
【0038】
重合反応を有機溶媒中で行う場合、反応系中の単量体の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜50重量%であることが好ましく、2〜45重量%であることがより好ましく、3〜40重量%であることが特に好ましい。単量体の濃度が低すぎると生産性が悪くなるおそれがあり、高すぎると重合反応後の反応溶液の粘度が高くなりすぎて、その後の水素化反応が困難となるおそれがある。
【0039】
重合温度は特に限定されないが、通常−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。また、重合時間も特に限定されないが、通常1分間〜100時間の範囲で選択される。
【0040】
重合反応を行うにあたり、得られる開環重合体の分子量を調整する目的で、重合反応系に、ビニル化合物またはジエン化合物を添加してもよい。この分子量調整の目的で用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物、ビニルトリメチルシラン、ビニルトリメトキシシランなどのケイ素含有ビニル化合物などを例示することができる。また、分子量調整の目的で用いるジエン化合物も特に限定されないが、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、または1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを例示することができる。添加するビニル化合物またはジエン化合物の量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、通常、単量体に対して、0.1〜10モル%の範囲で選択される。
【0041】
本発明では、上述したような式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物を用いてなる重合触媒により、上述したような条件でノルボルネン系単量体の開環重合反応を行うことにより、アイソタクチック立体規則性を有するノルボルネン系開環重合体を得ることができる。次に述べるように水素化反応を行えば、水素化反応により重合体のタクチシチーが変化することはないので、このアイソタクチック立体規則性を有するノルボルネン系開環重合体を水素化反応に供することにより、アイソタクチック立体規則性を有することに基づいて結晶性を有する、ノルボルネン系開環重合体水素化物を得ることができる。なお、ノルボルネン系開環重合体は、反応液中から回収して水素化反応に供してもよいが、ノルボルネン系開環重合体を含む反応液をそのまま水素化反応に供することもできる。
【0042】
水素化反応に供するノルボルネン系開環重合体のH−NMRによって測定される数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、1,000〜1,000,000であることが好ましく、2,000〜800,000であることがより好ましい。このような数平均分子量を有するノルボルネン系開環重合体を水素化反応に供することによって、特に成形加工性と耐熱性とのバランスに優れたノルボルネン系開環重合体を得ることができる。ノルボルネン系開環重合体の数平均分子量は、重合時に用いる分子量調整剤の添加量などを調節することにより、調節することができる。
【0043】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法は、以上のようにして得られたノルボルネン系開環重合体が存在する系に、下記の式(2)で表されるルテニウム化合物を水素化触媒として添加し、次いで、さらに水素を添加することにより、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化することにより、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を得るものである。
【0044】
【化4】
(式(2)中、R10〜R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基を表し、Zは、独立に、ハロゲン原子、アルコキシ配位子、およびエステル配位子から選択される配位子を表し、pは0〜2の整数であり、qは0〜2の整数であり、rは1または2であり、sは1〜3の整数である。また、4≦p+q+r+s≦6である。)
【0045】
すなわち、本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法は、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化させるための水素化触媒として、式(2)で表される特定のルテニウム化合物(ルテニウムヒドリド化合物)を用いるものである。また、本発明では、水素化反応を行うにあたり、この式(2)で表されるルテニウム化合物そのものを、ノルボルネン系開環重合体が存在する系に添加することが重要である。本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法は、このように、式(2)で表される特定のルテニウム化合物をノルボルネン系開環重合体が存在する系に添加し、次いで、さらに水素を添加することによって、融点が高く、しかも、融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下を殆ど生じさせない、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を得ることを可能とするものである。
【0046】
本発明において、水素化触媒として用いられるルテニウム化合物は、式(2)で表されるように、ルテニウム原子に結合した置換基または配位子として、1分子あたり、1個または2個の水素原子と、1〜3個のホスフィン配位子とを有し、さらに、任意に存在しうるルテニウム原子に結合した置換基または配位子として、0〜2個のカルボニル配位子と、0〜2個のハロゲン原子、アルコキシ配位子、およびエステル配位子から選択される配位子とを有するものである。また、式(2)で表されるルテニウム化合物における配位数(式(2)におけるp+q+r+sの値)は、4〜6の整数である。
【0047】
式(2)で表されるルテニウム化合物中のホスフィン配位子が有する置換基(式(2)のR10〜R12)は、炭素数1〜12のアルキル基および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選択される基であり、これらは互いに同じものであっても異なるものであってもよい。なお、この炭素数1〜12のアルキル基や置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基の具体例としては、イミド基中の窒素原子が有する置換基の具体例として挙げたものと同じものを挙げることができる。また、式(2)で表されるルテニウム化合物が有するハロゲン原子、アルコキシ配位子、およびエステル配位子から選択される配位子は、特に限定されるものではないが、ハロゲン原子の例として、塩素原子、臭素原子を、アルコキシ配位子の例として、メトキシ配位子、エトキシ配位子を、エステル配位子の例として、アセチルオキシ配位子を、それぞれ挙げることができる。
【0048】
本発明において、水素化触媒として用いられる、式(2)で表されるルテニウム化合物の具体例としては、RuHCl(CO)(PPh、RuHCl(CO)[P(p−Me−Ph)、RuHCl(CO)(PCy、RuHCl(CO)[P(n−Bu)、RuHCl(CO)[P(i−Pr)、RuH(CO)(PPh、RuH(CO)[P(p−Me−Ph)、RuH(CO)(PCy、RuH(CO)[P(n−Bu)RuH(OCOCH)(CO)(PPh、RuH(OCOPh)(CO)(PPh、RuH(OCOPh−CH)(CO)(PPh、RuH(OCOPh−OCH)(CO)(PPh、RuH(OCOPh)(CO)(PCy)が挙げられる。
【0049】
水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で行う。用いられうる不活性有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環族炭化水素;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;などが挙げられる。
【0050】
本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法では、ノルボルネン系開環重合体および水素化触媒が存在している系に、さらに水素を添加することにより、ノルボルネン系開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合を水素化する。水素化反応は、使用する水素化触媒によっても適する条件範囲が異なるが、反応温度は通常−20℃〜+250℃、好ましくは−10℃〜+220℃、より好ましくは0℃〜200℃である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、高すぎると副反応が起こる場合がある。水素圧力は、通常0.01〜20MPa、好ましくは0.05〜15MPa、より好ましくは0.1〜10MPaである。水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなりすぎる場合があり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となる点において装置上の制約が生じる。反応時間は所望の水素化率とできれば特に限定されないが、通常0.1〜10時間である。水素化反応後は、常法に従って目的の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を回収すればよく、重合体の回収にあたっては、ろ過などの手法により、触媒残渣を除去することができる。
【0051】
開環重合体の水素化反応における水素化率(水素化された主鎖二重結合の割合)は、特に限定されないが、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、特に好ましくは99.5%以上である。水素化率が高くなるほど、最終的に得られる結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の耐熱性が良好なものとなる。
【0052】
また、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の立体規則性の有無は、重合体が結晶性を有するもの(すなわち、融点を有するもの)となる限りにおいて特に限定されるものではないが、本発明の製造方法では、通常、アイソタクチック規則性を有する結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物が得られる。より具体的には、ノルボルネン系単量体の繰り返し単位についてのラセモ・ダイアッドの割合が、20%以下のものを得ることが可能であり、10%以下のものを得ることも可能である。
【0053】
以上のような本発明の製造方法で得られる、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物は、融点が高く、しかも、融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下を殆ど生じさせないものである。したがって、この結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物は、溶融成形により成形を行った後も優れた耐熱性を示すものであるといえ、耐熱性が要求される成形体の材料として特に好適に使用することができる。成形体の用途は、特に限定されるものではないのが、例えば、光反射体、絶縁材料、光学フィルム、コネクター、食品包装材、ボトル、パイプ、ギヤー類、繊維・不織布などを例示することができる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0055】
なお、各例における測定や評価は、以下の方法により行った。
(1)ノルボルネン系開環重合体の数平均分子量
H−NMR測定に基づき、重合体鎖末端に存在する水素原子の数と末端以外の重合体鎖中に存在する水素原子の数の比を求め、その比に基づいてノルボルネン系開環重合体の数平均分子量を算出した。
(2)ノルボルネン系開環重合体の水素化反応における水素化率
H−NMR測定に基づいて求めた。
(3)結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の融点
示差走査熱量計を用いて、10℃/分で昇温して測定した。
(4)結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物のラセモ・ダイアッドの割合
オルトジクロロベンゼン−dを溶媒として、150℃で13C−NMR測定を行い、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比に基づいて決定した。
(5)結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物のハンダ浸漬評価
試料となる結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を10mm×100mm×1mmの形状に熱プレスで成形することにより作製したサンプル片を、260℃のハンダに20秒間浸漬し、その変形の有無を評価した。視認できる変形を生じさせないものは耐熱性に優れるといえる。
(6)結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物のカール値
ハンダ浸漬評価を行ったサンプル片の端面を水平面に設置し、このサンプル片の長軸方向の逆側の端面と水平面との距離を測定し、その値をカール値とした。カール値が小さいものほど耐熱性に優れるといえる。
【0056】
〔合成例〕(ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}フェニルイミドタングステン(VI)の合成)
攪拌機付きガラス反応器に、タングステンフェニルイミドテトラクロリドジエチルエーテル錯体(W(=NPh)Cl4(EtO))を2.90gおよびジエチルエーテル30mlを添加し、これを−78℃に冷却した。そして、さらに3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシリチウム4.19gをジエチルエーテル30mlに溶解したものを添加した。この混合物を徐々に室温に戻し、18時間反応を行った。反応後、反応混合物よりジエチルエーテルを留去したのちにトルエン/ヘキサンの重量比1/3混合溶媒に溶解し、白色沈殿物をセライトにより濾別し、溶液から溶媒を全て留去することにより、赤色固体を96%の収率で得た。これを−30℃に冷却し静置、再結晶させることにより、赤色針状微結晶の固形物を得た。得られた固形物の収量は4.63g(収率80%)であった。この固形物は、H−NMR、13C−NMRおよび元素分析により、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}フェニルイミドタングステン(VI)と同定された。
【0057】
〔実施例1〕
攪拌機付きガラス反応器に、合成例で得たビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}フェニルイミドタングステン(VI)0.0556gおよびトルエン4mlを添加し、これを−78℃に冷却した。そして、さらにn−ブチルリチウム0.00726gをヘキサン1mlに溶解したものを添加して、これを室温まで戻し、15分間反応させた。次いで、得られた反応混合物に、ジシクロペンタジエン7.5g、シクロヘキサン27gおよび1−ヘキセン0.32gを添加し、80℃において重合反応を行った。重合反応開始後、速やかに白色の沈殿物が析出した。2時間反応させた後、重合反応液に大量のアセトンを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は7.4gであり、数平均分子量は17,800であった。次に、攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体3.0gおよびシクロヘキサン47gを加えた。そして、シクロヘキサン10mlにRuHCl(CO)(PPh0.00157gを分散させたものをさらに添加し、水素圧4.0MPa、160℃で8時間水素化反応を行った。この水素化反応液を多量のアセトンに注いで生成した開環重合体水素化物を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であった。そして、減圧乾燥した開環重合体水素化物を300℃で10分間加熱して十分に溶融させた後に、それを10℃/分で降温して室温まで冷却させ、十分に結晶化させたものを試料(以下、溶融後試料という場合がある)として用いて測定された融点(以下、溶融後融点という場合がある)は289℃であった。また、この溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
〔実施例2〕
攪拌機付きガラス反応器に、3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノール0.0401g、トルエン5mlおよびジエチルエーテル5mlを添加し、これを−78℃に冷却した。そして、さらにn−ブチルリチウム0.00726gをn−ヘキサン1.5mlに溶解したものを添加し、徐々に室温に戻すことに溶液を調製した。次に、別の攪拌機付きガラス反応器に、タングステンフェニルイミドテトラクロリドジエチルエーテル錯体を0.0282g、トルエン10mlおよびジエチルエーテル10mlを添加し、これを−78℃に冷却した。これに、前述の溶液の全量を添加し、その混合物を徐々に室温に戻した。室温に戻した後、さらに50℃で30分間攪拌し、次いで、この溶液を−78℃に冷却し、この溶液にn−ブチルリチウム0.00726gをn−ヘキサン0.75mlに溶解したものを添加し、30分かけて徐々に室温に戻すことにより、触媒溶液を調製した。そして、得られた触媒溶液に、ジシクロペンタジエン7.5g、シクロヘキサン27gおよび1−ヘキセン0.32gを添加し、80℃において重合反応を行った。重合反応開始後、速やかに白色の沈殿物が析出した。2時間反応させた後、重合反応液に大量のアセトンを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は7.4gであり、数平均分子量は17,900であった。次に、攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体3.0gおよびシクロヘキサン47gを加えた。そして、シクロヘキサン10mlにRuHCl(CO)(PPh0.00157gを分散させたものをさらに添加し、水素圧4.0MPa、160℃で8時間水素化反応を行った。この水素化反応液を多量のアセトンに注いで生成した開環重合体水素化物を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であり、溶融後融点は289℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0060】
〔実施例3〕
攪拌機付きガラス反応器に、合成例で得たビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}フェニルイミドタングステン(VI)0.0556gおよびトルエン4mlを添加し、これを−78℃に冷却した。そして、さらにn−ブチルリチウム0.00726gをヘキサン1mlに溶解したものを添加して、これを室温まで戻し、15分間反応させた。次いで、得られた反応混合物に、ジシクロペンタジエン7.5g、シクロヘキサン27gおよび1−ヘキセン0.32gを添加し、80℃において重合反応を行った。重合反応開始後、速やかに白色の沈殿物が析出した。2時間反応させた後、重合反応液に大量のアセトンを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は7.4gであり、数平均分子量は17,500であった。次に、攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体3.0gおよびシクロヘキサン47gを加えた。そして、シクロヘキサン10mlにRuHCl(CO)(PCy0.00165gを分散させたものをさらに添加し、水素圧4.0MPa、160℃で8時間水素化反応を行った。この水素化反応液を多量のアセトンに注いで生成した開環重合体水素化物を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であり、溶融後融点は289℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0061】
〔比較例1〕
水素化触媒としてRuHCl(CO)(PPhに代えて、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187gおよびエチルビニルエーテル0.45gの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であり、溶融後融点は268℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0062】
〔比較例2〕
水素化触媒としてRuHCl(CO)(PPhに代えて、酢酸ニッケル0.05gおよびトリイソブチルアルミニウム0.20gの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は270℃であり、溶融後融点は269℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0063】
〔比較例3〕
重合触媒としてビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}フェニルイミドタングステン(VI)とn−ブチルリチウムとの反応物に代えて、2,6−ジイソプロピルフェニルイミドモリブデナム(VI)ネオフィリデン{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノラート}0.0085gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であり、溶融後融点は280℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0064】
〔比較例4〕
水素化触媒としてRuHCl(CO)(PPhに代えて、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187gおよびエチルビニルエーテル0.45gの混合物を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は272℃であり、溶融後融点は270℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0065】
〔比較例5〕
水素化触媒としてRuHCl(CO)(PPhに代えて、酢酸ニッケル0.05gおよびトリイソブチルアルミニウム0.20gの混合物を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であり、溶融後融点は273℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0066】
〔比較例6〕
攪拌機付きガラス反応器に、ビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}オキシモリブデナム(VI)0.092gおよびトルエン4mlを添加し、これを−78℃に冷却した。そして、さらにn−ブチルリチウム0.0145gをヘキサン1mlに溶解したものを添加して、これを室温まで戻し、15分間反応し、触媒溶液とした。そして、重合触媒としてビス{3,3’−ジ(t−ブチル)−5,5’,6,6’−テトラメチル−2,2’−ビフェノキシ}フェニルイミドタングステン(VI)とn−ブチルリチウムとの反応物に代えて、以上のようにして得られた触媒溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は290℃であり、溶融後融点は272℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0067】
〔比較例7〕
水素化触媒としてRuHCl(CO)(PPhに代えて、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187gおよびエチルビニルエーテル0.45gの混合物を用いたこと以外は、比較例6と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は273℃であり、溶融後融点は270℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0068】
〔比較例8〕
水素化触媒としてRuHCl(CO)(PPhに代えて、酢酸ニッケル0.05gおよびトリイソブチルアルミニウム0.20gの混合物を用いたこと以外は、比較例6と同様にして、開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体水素化物の水素化率は99%以上であり、ラセモ・ダイアッドの割合は5%以下であった。また、減圧乾燥した開環重合体水素化物をそのまま試料として用いて測定された融点は275℃であり、溶融後融点は260℃であった。また、溶融後試料について、ハンダ浸漬評価およびカール値の測定を行った。それらの結果は表1に示す。
【0069】
表1から明らかなように、式(1)で表される周期表第6族遷移金属化合物に該当する化合物を用いてなる重合触媒と式(2)で表されるルテニウム化合物である水素化触媒とを組み合わせて、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を製造すると、溶融後融点が高く、溶融後の耐熱性に優れる結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物が得られる(実施例1〜3)。一方、重合触媒および水素化触媒の少なくともいずれか一方が前述の条件を満たさない場合には、得られる結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物は、溶融後融点が低く、溶融後の耐熱性に劣る(比較例1〜8)。したがって、本発明の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物の製造方法によれば、融点を超える熱履歴を経た後の融点の低下を殆ど生じさせない、溶融成形により成形を行った後も優れた耐熱性を示す、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を得ることができるといえる。