(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂(A)に、配位子(C1)が配位した金属錯体(B)、及び配位子(C1)より大気圧下での沸点が高い配位子(C2)を配合した後に、配位子(C1)の沸点以上及び配位子(C2)の沸点以下の温度で加熱混合する熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
前記配位子(C2)が分子中に金属との化学結合形成可能な官能基を1または2個有し、かつ金属との間に物理的な相互作用が可能な非共有電子対を1または2個有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
金属錯体(B)の中心金属がBe、Mg、Zn、Al、Cu、Pt、Eu、Ga、In、CoおよびIrから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で使用される熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂及びフッ素樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0014】
熱可塑性樹脂(A)としては60〜300℃で溶融状態にある熱可塑性樹脂が好ましい。60〜300℃で溶融状態にある熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂及びポリエステル樹脂が挙げられる。これらの中で、得られる発光体の発光性の点で、アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂及びポリカーボネート樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
【0015】
アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA);メチルメタクリレート(MMA)にスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリレート、MMA以外のメタクリレート等の他の単量体を共重合させて得られるMMA系共重合体;MMA単位以外のメタクリレート単位又はアクリレート単位を主成分とする重合体;及びアクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム等のゴムを主成分とする重合体に(メタ)アクリレート等の単量体をグラフト共重合させて得られるアクリル系グラフト共重合体が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。尚、本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」又は「メタクリレート」を示す。
【0016】
スチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、MMA−スチレン共重合体(MS)、MMA−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、スチレン−メタクリル酸共重合体(SMAA)、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体及び上記の樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とのアロイが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
アクリロニトリル−スチレン共重合体としては、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体(SAN)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(AAS)、アクリロニトリル−スチレン−塩素化ポリエチレン共重合体(ACS)、アクリロニトリル−スチレン−エチレン−プロピレンゴム共重合体(AES)及びアクリロニトリル−スチレン−エチレン−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。また、これら共重合体中のスチレン部分をα−メチルスチレンに置き換えたα−メチルスチレン系アクリロニトリル共重合体が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
オレフィン樹脂としては、例えば、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂;酢酸ビニル単位含有量が0.1〜25質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体;アクリル酸単位含有量が0.1〜25質量%のエチレン−アクリル酸共重合体;ポリプロピレン;エチレン単位含有量が2〜40質量%のエチレン−プロピレンブロック共重合体;エチレン単位含有量が0.5〜10質量%のエチレン−プロピレンランダム共重合体;ポリブテン;エチレン−プロピレンゴム;エチレン−プロピレン−ジエンゴム;及びシクロオレフィン樹脂(COP)が挙げられる。これらの中で、得られる発光体の機械特性に優れる点で、COP、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば、二価フェノールとカルボニル化剤とを界面重縮合法や溶融エステル交換法などで反応させることにより得られるもの、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法などで重合させることにより得られるもの、環状カーボネート化合物を開環重合法で重合させることにより得られるものが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)が挙げられる。カルボニル化剤としては、例えば、ホスゲン等のカルボニルハライド、ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル及び二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメートが挙げられる。
【0020】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル;塩化ビニルにエチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル等の他の単量体を共重合させて得られた塩化ビニル共重合体;及び上記のポリ塩化ビニル樹脂中にMBS、ABS、ニトリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレンビニルアルコール−塩化ビニルグラフト共重合体若しくは各種可塑剤等が添加された改質ポリ塩化ビニル樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明における配位子(C1)は後述する金属錯体(B)に配位しているものである。配位子(C1)としては、配位子交換により金属錯体(B)から脱離後の除去が容易な点で、沸点が60〜200℃であるものが好ましい。熱可塑性樹脂(A)への分散性に優れる点で、芳香環を含まないものがより好ましい。
【0022】
沸点が60〜200℃である配位子(C1)としては、例えば、アセチルアセトン(沸点140℃)、トリフルオロアセチルアセトン(沸点105℃)、ヘキサフルオロアセチルアセトン(沸点70℃)等のβ−ジケトン化合物;メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、プロパノール(沸点97℃)、イソプロパノール(沸点82℃)、ブタノール(沸点117℃)等のアルコール;ギ酸(沸点100℃)、酢酸(沸点117℃)、プロピオン酸(沸点141℃)等のカルボン酸;及びアセト酢酸メチル(沸点170℃)、アセト酢酸エチル(沸点180℃)等のアセト酢酸エステルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中で、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル及びイソプロパノールが、金属錯体(B)の樹脂への分散性と脱離後の除去が容易な点で、好ましい。
【0023】
本発明で使用される金属錯体(B)は上述の配位子(C1)が金属に配位したものである。金属錯体(B)中の金属としては、例えば、周期表において水素を除く1族、2族、ランタノイド及びアクチノイドを含む3族、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、ホウ素を除く13族、炭素を除く14族、窒素とリンと砒素を除く15族及び酸素と硫黄とセレンとテルルを除く16族に属する各元素が挙げられる。
【0024】
金属錯体(B)中の金属の具体例としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb及びBiが挙げられる。これらの金属は後述する本発光体の発光色に応じて適宜選択することができる。また、これらの金属は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの金属の中で、本発光体の発光性の点で、Be、Mg、Zn、Al、Cu、Pt、Eu、Ga、In、Co及びIrが好ましく、Al及びZnがより好ましい。
【0025】
金属錯体(B)としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート(融点:195℃)、アルミニウムイソプロポキシド(融点:131℃)、アルミニウムエトキシド(融点:140℃)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド(室温で液体)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)(融点:75℃)、亜鉛アセチルアセトナート(融点:138℃)、酢酸亜鉛(融点:237℃)、マグネシウムジエトキシド(融点:270℃)、コバルト(II)アセチルアセトナート(融点:170℃)、コバルト(III)アセチルアセトナート(融点:210℃)、銅(II)アセチルアセトナート(融点:288℃)、トリス(アセチルアセトナート)インジウム(III)(融点:189℃)、イリジウムアセチルアセトナート(融点:271℃)、ガリウムアセチルアセトナート(融点:198℃)、ユーロピウムアセチルアセトナート(融点:140℃)及びプラチナアセチルアセトナート(融点:252℃)が挙げられる。樹脂中への分散性を考慮すると、中心金属の価数は2価以上が好ましい。更には中心金属の価数が3価以上だと、金属錯体の構造が立体的になり、金属錯体同士の凝集が弱くなり、また、中心金属が配位子で取り囲まれ易く、水の配位も生じにくくなり、樹脂への分散性がより良好となる。そのため、金属錯体(B)の中心金属の価数は3価以上がより好ましい。金属錯体(B)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明で使用される配位子(C2)は、配位子(C1)より沸点が高い配位子である。特に、配位子(C1)の沸点より30℃以上高い沸点を有する配位子が好ましい。また、分子中に金属との化学結合形成可能な官能基を1または2個有し、かつ金属との間に物理的な相互作用が可能な非共有電子対を1または2個有する配位子が好ましい。ここで、金属との化学結合とは、金属と分子中の元素間で化学的に形成している結合のことである。金属との化学結合形成可能な官能基としては、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、アセチルアセトナート(ケト−エノール互変異性)基、チオール基などが挙げられる。金属との間に物理的な相互作用が可能な非共有電子対を有する構造としては、窒素原子、テトラヒドロフランのようなエーテル酸素、ニトリル基、カルボニル基、イミダゾール中の水素と結合していない窒素、スルホニル基、ニトロ基、ニトロソ基などを有するものが挙げられる。
【0027】
加熱混合時の温度を配位子(C1)の沸点より高温で且つ配位子(C2)の沸点以下の温度に設定することにより、金属錯体(B)から配位子(C1)が配位子(C2)と配位子交換され、且つ脱離した配位子(C1)を系外に排出することが容易となり、配位子交換反応を促進することが可能となる。このような点から、配位子(C2)の大気下での沸点が配位子(C1)の大気下での沸点より30℃以上高いことが好ましい。また、配位子(C2)の化学構造中に金属との化学結合形成可能な官能基を1または2個有し、かつ金属との間に物理的な相互作用が可能な非共有原子対を1または2個有するものが、配位子交換した際に、配位子(C2)による金属錯体間の架橋が抑制でき、樹脂への分散性が良好となる点で好ましい。
【0028】
配位子(C2)としては、例えば、2−キノリノール、3−キノリノール、4−キノリノール、5−キノリノール、6−キノリノール、7−キノリノール、8−キノリノール(沸点267℃)、2−アルキル−8−キノリノール、3−アルキル−8−キノリノール、4−アルキル−8−キノリノール、5−アルキル−8−キノリノール、6−アルキル−8−キノリノール、7−アルキル−8−キノリノール(アルキル基は炭素数1〜4までの直鎖状又は分岐状炭化水素基(いずれも沸点200〜267℃))、ジベンゾイルメタン(沸点357℃)、4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオン(沸点104℃/9mmHg、大気圧下での沸点240℃)、1−フェニル−1,3−ブタンジオン(沸点262℃)、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタジオン(沸点80℃/12mmHg、大気圧下での沸点200℃)、2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール(沸点338℃)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。例えば、8−キノリノールの場合、金属との化学結合は、OH基と金属との反応により形成される結合が1つ、窒素原子の非共有電子対を介した物理的な相互作用が1つである。配位子(C2)は、ポリアルキレングリコール以外の化合物が好ましい。
【0029】
配位子(C2)としては、発光体の発光性の点で、沸点が200℃以上のものが好ましく、特に沸点が200℃以上500℃以下もの、例えば、8−キノリノール、2−アルキル−8−キノリノール、2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾールが好ましく、8−キノリノール及び2−アルキル−8−キノリノールがより好ましい。
【0030】
本熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)に配位子(C1)が配位した金属錯体(B)及び配位子(C1)より沸点が高い配位子(C2)を配合した後に、配位子(C1)の沸点以上及び配位子(C2)の沸点以下の温度で加熱混合することにより得られる熱可塑性樹脂組成物である。
【0031】
本熱可塑性樹脂組成物中の金属錯体(B)の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.001〜30質量部、より好ましくは0.005〜10質量部、特に好ましくは0.01〜10質量部である。金属錯体(B)の配合量が0.001質量部以上で、得られる発光体の発光強度に優れる。また、金属錯体(B)の配合量が30質量部以下で、加熱混合時の金属錯体(B)の配位子交換により生成する配位子(C1)又は配位子(C1)由来の分解生成ガスの処理が容易となる。本熱可塑性樹脂組成物中の金属の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して10〜20000ppm(質量部、以下単にppmともいう。)が熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる発光体の透明性及び発光特性の点で好ましく、100〜5000ppmがより好ましい。
【0032】
本熱可塑性樹脂組成物中の配位子(C2)の配合量としては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.0001〜1,000質量部、より好ましくは0.01〜100質量部、特に好ましくは0.1〜30質量部である。配位子(C2)の配合量が0.0001質量部以上で、得られる発光体の発光性に優れる。また、配位子(C2)の配合量が1,000質量部以下で、得られる発光体の透明性と発光性に優れる。
【0033】
本熱可塑性樹脂組成物中の配位子(C2)の最大配合量w
C2(熱可塑性樹脂100質量部に対する質量部)としては、配位子(C2)の分子量M
C2、金属錯体(B)の分子量M
B、金属錯体(B)の最大配位数n及び金属錯体(B)の配合量w
Bにより下式(1)で示すことができる。
【0034】
w
c2=w
B/M
B×n×M
C2 ・・・(1)
【0035】
配位子(C2)の配合量としては、金属錯体(B)中の配位子(C1)との交換を充分に促進させることができ、且つ未反応の配位子(C2)を系外に排出も容易にできる点で、最大配合量w
C2の2倍以下にすることが好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂(A)に金属錯体(B)及び配位子(C2)を加熱混合する温度は配位子(C1)の沸点以上及び配位子(C2)の沸点以下の温度である。加熱混合する温度が金属錯体(B)の融点以下の温度であっても、加熱混合する温度で金属錯体(B)が熱可塑性樹脂(A)に分散すればよい。金属錯体(B)が熱可塑性樹脂(A)に分散しにくい場合は、金属錯体(B)の融点以上で加熱混合することが好ましい。
【0037】
例えば、熱可塑性樹脂(A)としてPMMA、金属錯体(B)として配位子(C1)がアセチルアセトン(沸点140℃)であるアルミニウムアセチルアセトナート(融点:195℃)及び配位子(C2)として8−キノリノール(沸点126℃/10mmHg(267℃相当))を使用する場合、加熱混合温度は配位子(C1)であるアセチルアセトンの沸点140℃以上となる。また、熱可塑性樹脂(A)であるPMMAは200℃以上で混練することが好ましいので、上記の加熱混合温度は200℃以上が好ましい。
【0038】
更に、配位子(C2)である8−キノリノールの沸点は126℃/10mmHg(大気圧下での沸点:267℃)なので、前記の加熱混合温度は140〜267℃に設定される。熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の加熱混合温度を140〜267℃にすることで配位子(C2)が加熱混合中に気化せず、安定した状態で金属錯体(B)中の配位子(C1)との交換反応に寄与することができるため好ましい。
【0039】
本発明においては、必要に応じて熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の加熱混合後に、更に配位子(C2)の沸点以上に温度を上げて再加熱混合して未反応の配位子(C2)を系外に排出することができる。
【0040】
本発明においては、熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の加熱混合中に単離された配位子(C1)を系外に効率よく排出することにより反応を促進させるために、減圧下で熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の加熱混合を実施することができる。
【0041】
熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の加熱混合の時間は、熱可塑性樹脂(A)の溶融状態と、配位子(C2)と金属錯体(B)の反応状態によって適宜設定できる。好ましくは0.5〜60分である。加熱混合の時間が0.5分以上で金属錯体(B)中の配位子の交換が促進され、本発光体の発光強度が良好となる。また、加熱混合の時間が60分以下で熱可塑性樹脂(A)の分解を抑制することができ、熱可塑性樹脂(A)本来の性質を損なわないようにすることができる。
【0042】
熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)を加熱混合するための混合装置としては、例えば、単軸押出機、二軸以上の多軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー及びロールが挙げられる。これらの混合装置の中で、成形材料及び発光体中での金属錯体(B)と配位子(C2)との反応生成物の分散性が良好となり、得られる発光体の発光強度に優れる点で、単軸押出機及び二軸以上の多軸押出機が好ましい。
【0043】
混合装置として押出機を用いる場合の熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の加熱混合の方法としては、例えば、上流側の原料投入ホッパーから熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)を投入して混合する方法並びに原料投入ホッパーから熱可塑性樹脂(A)を投入して加熱溶融させ、押出機の途中から金属錯体(B)及び配位子(C2)又は有機溶媒に希釈した金属錯体(B)及び配位子(C2)を注入して混合する方法が挙げられる。
【0044】
本成形材料は本熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。本成形材料の形状としては、ペレット状物、発泡ビーズ、フィルム又はシート状物及び発泡した、フィルム又はシート状物が挙げられる。
【0045】
ペレット状物を得る為には、例えば、混合装置として、公知の混合装置を用いることができる。ペレット化の方法としては、例えば、単軸、二軸以上の多軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどを用い、混合装置から排出されるストランド状物を短冊状に切断してペレット化する方法が挙げられる。
【0046】
フィルム又はシート状物を得る方法としては、例えば、(共)押出法、プレス法及びキャスト法が挙げられる。
【0047】
本発光体は本熱可塑性樹脂組成物又は本成形材料を成型して得られるものである。本発光体を得るための成型方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、真空成形法、圧縮成形法及び発泡成形法が挙げられる。
【0048】
本発光体は発光性に優れていることから、ブラックライトのような低エネルギーの励起光源を用いても実用的に充分な発光が得られる。
【0049】
本発光体の励起光源として使用できるブラックライトとしては、例えば、波長350nm付近にピーク波長を有するブラックライトが挙げられる。また、本発光体に使用できる励起光源として波長400nm付近にピークを有する可視光を使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を説明する。尚、以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。また、得られた発光体の透過率及び量子収率は以下に示す方法により測定した。
【0051】
(1)透過率
得られた発光体の試験片の波長400nm、600nm及び800nmにおける透過率を分光光度計((株)日立製作所製、商品名:U−3300)を用いて測定し、発光体における熱可塑性樹脂(A)中の金属錯体(B)の分散性の指標とした。
【0052】
(2)発光色、内部量子収率及びピーク波長
得られた発光体の試験片の表面(10mm×20mm)を絶対量子収率測定装置(大塚電子(株)製、商品名:PE−1100)の積分球内にセットし、励起波長365nmの励起光を使用したときの発光スペクトルを測定した。得られたデータから発光色及び発光色のピーク波長を特定し、発光体から発光する光子数を、照射した励起光のうち発光体に吸収された光子数で除した値である内部量子収率を算出し、発光性の指標とした。
【0053】
[合成例1]
15%トリエチルアルミニウムのトルエン溶液6.66mL(トリエチルアルミニウム7.3mmol)に8−キノリノール3.19g(22mmol)のトルエン溶液30mLを、撹拌下、室温で1時間かけて滴下し、トリス(8−ヒドロキシキノリノレート)アルミニウム(Alq3)のトルエン分散液を得た。得られたAlq3のトルエン分散液を室温下で一晩放置した後、沈殿している固体を濾別した。次いで、得られた濾液を減圧濃縮して析出した粉体を少量のトルエンで洗浄後、乾燥させてAlq3の粉体2.8g(収率88%)を得た。
【0054】
[合成例2]
100mlのナスフラスコに冷却管、攪拌子をセットし、その中に亜鉛アセチルアセトナート2.8g(11mmol)(東京化成工業(株)製)、ジメチルホルムアミド50mL及び8−キノリノール3.19g(22mmol)を入れ、ビス(8−ヒドロキシキノリノレート)亜鉛(II)(Znq2)のジメチルホルムアミド分散液を得た。この分散液を1000mlの水に少しずつ滴下し、析出した固体を濾別、回収した。回収した固体を少量のメタノールで洗浄後、乾燥させて、Znq2の粉体2.5g(収率64%)を得た。
【0055】
[実施例1]
熱可塑性樹脂(A)としてポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製、商品名:VHK)100部、金属錯体(B)としてアルミニウムアセチルアセトナート(東京化成工業(株)製)0.25部(樹脂に対する金属含有量208ppm)及び配位子(C2)として8−キノリノール(関東化学(株)製)0.34部を小型射出成形機(Custom Scientific Instruments Inc.製、商品名:CS−183MMX)に投入し、温度250℃で5分間混合してペレットを得た。
【0056】
得られたペレットを重水素化クロロホルムに濃度5%となるように溶解し、
1H−NMR測定器(日本電子製、商品名:JNM−EX270)で測定したところ、7.2から9.0ppmにアルミニウムに結合したキノリノール骨格由来のプロトンのピークが観測された。また、アルミニウムに結合したアセチルアセトナート骨格由来のプロトンのピークが5.5ppmに観測された。以上から、得られたペレットは、アルミニウムアセチルアセトナートが8−キノリノールと配位子交換していることが確認され、ペレット中では、アルミニウムアセチルアセトナート、トリス(8−ヒドロキシキノリノレート)アルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリノレート)アセチルアセトナートアルミニウム、ビス(アセチルアセトナート)−8−ヒドロキシキノリノレートアルミニウムの混合物となっていた。
【0057】
得られたペレットを再度上記の小型射出成形機に投入し、温度250℃で1分間混練した後、その小型射出成形機を用いて成型し、10mm×20mm×2mmの発光体の試験片を得た。得られた試験片を研磨機(丸本工業(株)製、タイプ:5629型)で表面を鏡面研磨し、10mm×20mm×1.5mmの発光体の試験片を得た。評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例2〜15]
熱可塑性樹脂(A)、金属錯体(B)及び配位子(C2)の種類と配合量、加熱混合温度、加熱混合時間を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして発光体の試験片を得た。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
金属錯体(B)としてAlq3を0.35部(樹脂に対する金属含有量208ppm)使用し、配位子(C2)を使用しない以外は実施例1と同様にして発光体の試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0060】
[比較例2〜9]
金属錯体(B)の種類と配合量、加熱混合温度、加熱混合時間を表2のように変更した以外は、比較例1と同様にして発光体の試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2に記載の略号は以下の化合物を示す。
【0064】
PMMA:ポリメチルメタクリレート(商品名:VHK、三菱レイヨン(株)製)
MS:メチルメタクリレート−スチレン共重合体(商品名:BR−52、三菱レイヨン(株)製)
PS:ポリスチレン(商品名:トーヨースチロールG200C、東洋スチレン(株)製)
B−1:アルミニウムアセチルアセトナート(東京化成工業(株)製)[配位子アセチルアセトンの沸点140℃]
B−2:亜鉛アセチルアセトナート(東京化成工業(株)製)[配位子アセチルアセトンの沸点140℃]
B−3:エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド(商品名:ALCH 川研ファインケミカル(株)製)[配位子アセト酢酸エチルの沸点180℃]
C2−1:8−キノリノール(関東化学(株)製、沸点267℃)
C2−2:2−メチル−8−キノリノール(東京化成工業(株)製、沸点267℃)
【0065】
実施例1〜11で得られた発光体は比較例1〜9で得られた発光体、すなわち熱可塑性樹脂に対して金属錯体のみを配合して押出しし、成形して得られた発光体と比べると、同じ金属含有量における発光体の透過率及び内部量子収率が高く、また、波長400nmの可視光を光源として使用しても良好な発光色への変換が行なわれていることが明らかである。