(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
食塩電解用のイオン交換膜、固体高分子形燃料電池用電解質膜および触媒層に含まれる電解質材料には、化学的安定性が要求される。該電解質材料としては、下式(1)で表される化合物とテトラフルオロエチレン(以下、TFEと記す。)とを重合して得られたポリマーの−SO
2F基を加水分解し、酸型化して−SO
3H基(スルホン酸基)に変換したペルフルオロポリマーが知られている。
CF
2=CF(OCF
2CFY)
pO
q(CF
2)
rSO
2F ・・・(1)。
ただし、Yは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、pは、0〜3の整数であり、qは、0または1であり、rは、1〜12であり、p+q>0である。
【0003】
該ペルフルオロポリマーを含む固体高分子形燃料電池用電解質膜には、プロトン伝導性および機械的強度の両立が求められる。しかし、プロトン伝導性を高めるために、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有率を高めると、機械的強度が低下する問題がある。そのため、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有率は、通常、10〜30モル%(−SO
3H基に変換した後のポリマーのイオン交換容量にして、0.7〜1.5ミリ当量/g乾燥樹脂に相当する。)が好適とされている。
【0004】
また、固体高分子形燃料電池には、除熱を容易にして発電効率を高めるために、高温運転(たとえば、120℃以上での運転)が求められている。しかし、前記ペルフルオロポリマーは軟化温度が低くいため、100℃以上で運転すると該ペルフルオロポリマーを含む電解質膜が変形し、充分な性能を発揮できない。そのため、現状では60〜80℃の温度で固体高分子形燃料電池を運転せざるを得ない。よって、電解質材料には、得られる電解質膜が高温においても高い機械的強度を有するために、軟化温度が高いことが求められている。
【0005】
軟化温度が高いペルフルオロポリマーとしては、下式(2)で表される化合物とTFEとを重合して得られたポリマーの−SO
2F基を−SO
3H基に変換したペルフルオロポリマーが提案されている(特許文献1)。
CF
2=CFCF
2OCF
2CF
2SO
2F ・・・(2)。
【0006】
該ペルフルオロポリマーは、従来のペルフルオロポリマーよりも軟化温度が30℃以上高いとされている。また、特許文献1の実施例にイオン交換容量が1.18ミリ当量/g乾燥樹脂のペルフルオロポリマーが記載されており、該ペルフルオロポリマーによれば、従来のペルフルオロポリマーと同等のプロトン伝導性を有する電解質膜を得ることができる。
【0007】
しかし、該ペルフルオロポリマーには、下記の問題がある。
(i)固体高分子形燃料電池の出力特性をさらに向上させるには、イオン交換容量をさらに高くする(具体的には、1.20ミリ当量/g乾燥樹脂以上とする。)必要があるが、式(2)で表される化合物が重合しにくいため、式(2)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有率を高くできない。
(ii)式(2)で表される化合物とTFEとを重合して得られたポリマーの分子量が、式(1)で表される化合物とTFEとを重合して得られたポリマーに比べ低いため、得られる電解質膜の機械的強度が不充分である。
(iii)式(2)で表される化合物の重合速度が、式(1)で表される化合物の重合速度に比べ遅いため、工業的生産性が低い。
【0008】
分子量、軟化温度およびイオン交換容量が高いペルフルオロポリマーを生産性よく製造できる製造方法としては、式(2)で表される化合物とTFEとを、ラジカル重合開始剤として(CH
3)
3C−O−O−C(CH
3)
3を用いて100〜200℃の温度で重合し、得られたポリマーの−SO
2F基を−SO
3H基に変換する方法が提案されている(特許文献2)。
【0009】
ラジカル重合開始剤として(CH
3)
3C−O−O−C(CH
3)
3を用いることによって、式(2)で表される化合物とTFEとを100〜200℃の高温で重合させることができるため、式(2)で表される化合物の反応性が高くなり、分子量が高いポリマーを生産性よく製造できる。また、式(2)で表される化合物とTFEとを100〜200℃の高温で重合させているため、式(2)で表される化合物の割合を増やすことができ、その結果、イオン交換容量が高いポリマーを製造できる。また、式(2)で表される化合物に基づく単位を有するポリマーは、軟化温度が高くなる。
【0010】
しかし、該ペルフルオロポリマーには、下記の問題がある。
(iv)ポリマーの−SO
2F基を加水分解する際にポリマーの分解が起こり、ポリマーの質量が減少したり、ポリマーの分子量が低下したりする。そのため、電解質膜の厚さが不足したり、電解質膜の機械的強度が不充分となったりする。
(v)固体高分子形燃料電池の長時間の運転によってポリマーの分解が進むため、該ポリマーを含む電解質膜は劣化しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書においては、式(m1)で表される化合物を化合物(m1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
また、本明細書においては、式(u1)で表される繰り返し単位を単位(u1)と記す。他の式で表される繰り返し単位も同様に記す。
本明細書において、繰り返し単位は、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位である。繰り返し単位は、モノマーの重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
また、モノマーは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。
【0024】
<ポリマーの製造方法>
本発明のポリマーの製造方法は、下記の工程(a)を有し、必要に応じて工程(b)、工程(c)を有する方法である。
(a)化合物(m1)および化合物(m2)の少なくとも一方と、TFEとを含むモノマー成分を、ラジカル重合開始剤として化合物(i−1)を用いて80〜150℃の温度で重合させ、−SO
2F基を有するポリマー(以下、ポリマー(F)と記す。)を得る工程。
(b)必要に応じて、工程(a)の後、ポリマー(F)とフッ素ガスとを接触させ、ポリマー(F)の不安定末端基をフッ素化する工程。
(c)必要に応じて、工程(a)または工程(b)の後、ポリマー(F)の−SO
2F基を加水分解し、ついで酸型化して−SO
3H基に変換し、−SO
3H基を有するポリマー(以下、ポリマー(H)と記す。)を得る工程。
【0026】
ただし、Q
1は、単結合またはペルフルオロアルキレン基(エーテル性の酸素原子を有していてもよい。)であり、Q
21、Q
22は、それぞれ単結合またはペルフルオロアルキレン基(エーテル性の酸素原子を有していてもよい。)であって、同時に単結合ではなく、Y
2は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基である。
【0027】
(工程(a))
化合物(m1):
Q
1のペルフルオロアルキレン基がエーテル性の酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子−炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、ポリマーのイオン交換容量の低下が抑えられ、電解質膜のプロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0028】
化合物(m1)としては、化合物(m11)が好ましく、ポリマーの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、化合物(m11−1)がより好ましい。
【0030】
ただし、xは、1〜12の整数である。
化合物(m11−1)は、特許文献1、2に記載された方法にしたがって、下記のスキームAに示す合成ルートにより製造できる。
【0032】
化合物(m2):
Q
21、Q
22のペルフルオロアルキレン基がエーテル性の酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子−炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、原料の含フッ素モノマーの沸点が低くなり、蒸留精製が容易となる。また、炭素数が6以下であれば、ポリマーのイオン交換容量の低下が抑えられ、電解質膜のプロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0033】
Q
22は、エーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。Q
22がエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であれば、Q
22が単結合である場合に比べ、長期にわたって固体高分子形燃料電池を運転した際に、発電性能の安定性に優れる。
Q
21、Q
22の少なくとも一方は、エーテル性の酸素原子を有する炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。エーテル性の酸素原子を有する炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基を有する含フッ素モノマーは、フッ素ガスによるフッ素化反応を経ずに合成できるため、収率が良好で、製造が容易である。
【0034】
Y
2としては、フッ素原子、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖のペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0035】
化合物(m2)としては、化合物(m21)が好ましく、ポリマーの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、化合物(m21−1)がより好ましい。
【0037】
ただし、R
F11は、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、R
F12は、炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。
化合物(m21)は、たとえば、下記の合成ルートにより製造できる。
【0039】
他のモノマー:
モノマー成分は、ポリマーの物性を調整するために、化合物(m1)、化合物(m2)およびTFE以外の他のモノマーを含んでいてもよい。
他のモノマーとしては、下記のものが挙げられる。
CF
2=CFCF
2O(CF
2)
n1F、
CF
2=CF(CF
2)
n2F、
CF
2=CFCF
2[OCF
2CF(CF
3)]
n3OCF
2CF
2CF
3、
CF
2=CFO(CF
2)
n4CF
3、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)O(CF
2)
n5CF
3、
CF
2=CF[OCF
2CF(CF
3)]
n6O(CF
2)
3F、
【0041】
ただし、n1は1〜4の整数であり、n2は1〜11の整数であり、n3は1または2であり、n4は1〜9の整数であり、n5は1〜9の整数であり、n6は2または3であり、n7は1〜6の整数である。
モノマー成分中の他のモノマーの割合は、化合物(m1)、化合物(m2)およびTFEのいずれよりも少ないことが好ましい。
【0042】
ラジカル重合開始剤:
本発明においては、ラジカル重合開始剤として化合物(i−1)(ペルフルオロ(ジtert−ブチル)ペルオキシド)を用いる。ラジカル重合開始剤として化合物(i−1)を用いることによって、イオン交換容量が高く、かつ分解しにくいポリマーを生産性よく製造できる。
【0043】
ラジカル重合開始剤の濃度は、化合物(m1)および化合物(m2)の合計の質量に対して、0.1〜10000ppmが好ましく、1〜1000ppmがより好ましく、30〜300ppmが特に好ましい。ラジカル重合開始剤の濃度が低くすぎると、未反応モノマーの残存量が多くなり、ポリマーの収量も少なくなる。ラジカル重合開始剤の濃度が高すぎると、ラジカル濃度が高くなり、ラジカル同士のカップリング反応により生長反応が停止しやすくなるため、分子量が充分に上がらない。
【0044】
ラジカル重合開始剤は、重合温度とラジカル重合開始剤の10時間半減期温度とを考慮して、重合開始時に一括添加してもよく、重合中に連続添加または逐次添加してもよい。ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度よりも10℃以上低い温度で重合を行う場合、ラジカル重合開始剤を重合開始時に一括添加するのが好ましい。一括添加は、連続添加または逐次添加に比べ、操作、制御が簡便である。ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度よりも10℃以上高い温度で重合を行う場合、ラジカル重合開始剤またはその溶液を、一括添加の場合より低濃度で、連続添加または逐次添加するのが好ましい。該場合では、一括添加より高温で重合できるため、化合物(m1)や化合物(m2)の重合しやすい条件を選択できる。
【0045】
重合:
重合法としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合方法、乳化重合法等が挙げられ、重合溶媒の連鎖移動性に起因するポリマーの分子量の低下が避けられる点から、重合溶媒を実質的に用いないバルク重合法が好ましい。
溶液重合法を採用する場合、連鎖移動定数の低い重合溶媒を用いることが好ましい。該重合溶媒としては、炭素原子、フッ素原子、酸素原子および窒素原子以外の原子を有しない化合物が挙げられる。具体的には、ペルフルオロトリブチルアミン、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロドデカン、ペルフルオロ(2,7−ジメチルオクタン)、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロ(1,3−ジメチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ(1,3,5−トリメチルシクロヘキサン)、ペルフルオロジメチルシクロブタン(構造異性を問わない。)、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、ペルフルオロベンゼン、液化二酸化炭素、超臨界二酸化炭素等が挙げられる。
【0046】
また、重合溶媒として、水素原子の数が少ないハイドロフルオロカーボン、水素原子の数が少ないハイドロクロロフルオロカーボン、水素原子の数が少ないハイドロフルオロエーテルを用いてもよい。
水素原子の数が少ないハイドロフルオロカーボンとしては、1H−ペルフルオロヘキサン、1H−ペルフルオロオクタン、1H,4H−ペルフルオロブタン、2H,3H−ペルフルオロペンタン、3H,4H−ペルフルオロ(2−メチルペンタン)等が挙げられる。
水素原子の数が少ないハイドロクロロフルオロカーボンとしては、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
水素原子の数が少ないハイドロフルオロエーテルとしては、HCF
2CF
2OCH
2CF
3、n−C
3F
7OCH
3、n−C
3F
7OCHFCF
3、n−C
3F
7OCH
2CF
3、n−C
4F
9OCH
3、iso−C
4F
9OCH
3、n−C
4F
9OCH
2CF
3、CF
3OCF(CF
3)CF
2OCH
3、n−C
3F
7OCF(CF
3)CF
2OCHFCF
3等が挙げられる。
水素原子を有しないクロロフルオロカーボンも技術的には使用可能である。
【0047】
重合温度は、80〜150℃である。
化合物(m1)および化合物(m2)のTFEに対する反応性は、低温では低いが、高温では高くなると推定される。高温ではTFEの反応性も高まるが、化合物(m1)および化合物(m2)の反応性の温度による上昇率がより大きいと考えられる。80℃未満の低温では、化合物(m1)および化合物(m2)の反応性が低いため、ポリマーの生長反応速度に比較して、生長ラジカルの停止反応の方が相対的に速く、充分な分子量のポリマーを得ることができない。したがって、重合温度は、80℃以上であり、100℃以上が好ましい。150℃超の高温では、ラジカル重合開始剤の分解速度が速くなりすぎ、重合の制御が難しく実用的でない。また、150℃超ではTFEの圧力が2MPaG(ゲージ圧、以下同様。)以上、窒素ガスでの希釈を行うと3MPaG以上となり、それ以上に昇圧可能なTFE供給装置と安全上の措置が必要とされ、プロセス上好ましくない。したがって、重合温度は、150℃以下であり、140℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましい。
なお、80〜150℃の温度でTFEの重合を行う場合、TFEの不均化反応が起こるおそれがあるため、窒素ガス等の不活性ガスでTFEを15〜40体積%に希釈することで不均一化反応を回避できる。
【0048】
重合圧力は、重合温度に応じて適宜設定され、TFEの分圧として0.2〜1.8MPaGが好ましい。重合圧力が低すぎると、重合速度が遅く、ポリマーの収率が大幅に低くなる。重合圧力が高すぎると、生成するポリマーのTFEの含有率が高くなり、充分なイオン交換容量のものが得られない。重合圧力は、0.4〜1.6MPaGがより好ましい。
【0049】
TFEは、連続で供給してもよく、初期に一括で仕込んでもよい。TFEの反応性は、化合物(m1)および化合物(m2)より大幅に高いため、系中の化合物(m1)および化合物(m2)の濃度変化に対してTFEの濃度変化が大きくなることが考えられる。よって、ポリマー組成の均一化の点から、一定の重合圧力を保ちつつTFEを連続で供給する方法が好ましい。
【0050】
(工程(b))
ポリマー(F)の不安定末端基をフッ素化して安定化することにより、ポリマーの分解がさらに抑えられ、電解質膜の耐久性がさらに向上する。
不安定末端基とは、連鎖移動反応によって形成される基、ラジカル開始剤に由来する基等であり、具体的には、−COOH基、−CF=CF
2基、−COF基、−CF
2H基等である。
【0051】
なお、本発明の製造方法によれば、ポリマー(F)の末端基は比較的安定しているため、本発明の製造方法によって得られたポリマー(F)については、必ずしも工程(b)を行う必要はない。また、工程(b)を行うと、ポリマーの製造コストが高くなる。
【0052】
フッ素ガスは、不活性ガス(窒素、ヘリウム、二酸化炭素等)で希釈することが好ましい。
ポリマー(F)とフッ素ガスとを接触させる際の温度は、150〜200℃が好ましく、170〜190℃がより好ましい。
ポリマー(F)とフッ素ガスとの接触時間は、1分〜1週間が好ましく、1〜50時間がより好ましい。
【0053】
(工程(c))
加水分解は、たとえば、溶媒中にてポリマー(F)と塩基とを接触させて行う。
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。溶媒としては、水、水と極性溶媒との混合溶媒等が挙げられる。極性溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
酸型化は、たとえば、スルホン酸塩を有するポリマーを、酸の水溶液に接触させて行う。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。
加水分解および酸型化は、通常、0〜120℃にて行う。
【0054】
ポリマー中の残存有機物による燃料電池の耐久性への影響をなくすために、ポリマー(F)またはポリマー(H)を過酸化水素処理してもよい。過酸化水素の濃度は、1〜30質量%が好ましい。処理温度は、20〜95℃が好ましい。処理時間は、1〜200時間が好ましい。
【0055】
(ポリマー)
工程(c)で得られるポリマー(H)は、単位(u1)および単位(u2)の少なくとも一方と、TFEに基づく繰り返し単位とを有する。
【0057】
ただし、Q
1は、単結合またはペルフルオロアルキレン基(エーテル性の酸素原子を有していてもよい。)であり、Q
21、Q
22は、それぞれ単結合またはペルフルオロアルキレン基(エーテル性の酸素原子を有していてもよい。)であって、同時に単結合ではなく、Y
2は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基である。
【0058】
単位(u1):
単位(u1)としては、単位(u11)が好ましく、ポリマーの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位(u11−1)がより好ましい。
【0060】
ただし、xは、1〜12の整数である。
【0061】
単位(u2):
単位(u2)としては、単位(u21)が好ましく、ポリマーの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位(u21−1)がより好ましい。
【0063】
ただし、R
F11は、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、R
F12は、炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。
【0064】
他の単位:
ポリマー(H)は、ポリマーの物性を調整するために、単位(u1)、単位(u2)およびTFEに基づく繰り返し単位以外の他の単位を有してもよい。
他の単位としては、上述の他のモノマーに基づく繰り返し単位が挙げられる。
ポリマー(H)中の他の単位の割合は、単位(u1)、単位(u2)およびTFEに基づく繰り返し単位のいずれよりも少ないことが好ましい。
【0065】
イオン交換容量:
ポリマー(H)のイオン交換容量は、0.90〜1.80ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。イオン交換容量が0.90ミリ当量/g乾燥樹脂以上であれば、電解質膜のプロトン伝導性が高くなる(電気抵抗が低くなる)ため、膜電極接合体の出力特性が良好となる。イオン交換容量が1.80ミリ当量/g乾燥樹脂以下であれば、分子量の高いポリマーの合成が容易であり、また、ポリマーが過度に水で膨潤しないため、電解質膜の機械的強度を保持できる。
イオン交換容量が0.90〜1.80ミリ当量/g乾燥樹脂のポリマーは、本発明の製造方法によって容易に得られる。
【0066】
TQ:
TQは、ポリマーの溶融流動性の指標であり、該TQによってポリマーの分子量および軟化温度を評価できる。TQは、加水分解、酸型化される前のポリマー(F)の段階で測定される。TQは、容量流速100mm
3/秒を示す温度(℃)と定義される。容量流速とは、ポリマー(F)を2.94MPa加圧下、長さ1mm、内径1mmのノズルから溶融流出させ、流出するポリマー(F)をmm
3/秒の単位で示したものである。通常、TQが高いほど分子量は大きく、軟化温度が高い。
【0067】
本発明におけるポリマー(F)のTQは、150〜400℃が好ましい。ポリマー(F)のTQが該範囲内であれば、ポリマー(F)から得られるポリマー(H)が充分な分子量および軟化温度を有することとなる。電解質膜として実用上充分な機械的強度および軟化温度を有するには、ポリマー(F)のTQは180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。
一方、ポリマー(F)のTQの上限は、電解質膜の製造方法に依存する。ポリマー(F)を溶融成形して電解質膜を製造する場合、350℃付近から−SO
2F基の分解が始まるため、TQは350℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。キャスト法によりポリマー(H)の電解質膜を製造する場合、溶媒への溶解性または分散性を確保する点から、TQは350℃以下がより好ましい。
【0068】
(作用効果)
以上説明した本発明のポリマーの製造方法にあっては、ラジカル重合開始剤として化合物(i−1)を用いているため、化合物(m1)および化合物(m2)の少なくとも一方とTFEとを含むモノマー成分を、80〜150℃の高温で重合させることができる。そのため、化合物(m1)および化合物(m2)の反応性が高くなり、分子量が高いポリマーを生産性よく製造できる。また、化合物(m1)および化合物(m2)の少なくとも一方を80〜150℃の高温で重合させているため、モノマー成分中の化合物(m1)および/または化合物(m2)の割合を増やすことができ、その結果、イオン交換容量が高いポリマーを製造できる。また、化合物(m1)および化合物(m2)のようなアリルエーテル化合物に基づく単位を有するポリマーは、従来のビニルエーテル化合物に基づく単位を有するポリマーに比べ、軟化温度が高くなる。また、ラジカル重合開始剤として化合物(i−1)を用いているため、得られるポリマーの末端に化合物(i−1)に由来する基が存在する。そのため、特許文献2のようにラジカル重合開始剤として(CH
3)
3C−O−O−C(CH
3)
3を用いた場合に比べ、ポリマーの末端基が安定であり、ポリマーが分解しにくい。
【0069】
<電解質膜>
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質膜(以下、電解質膜と記す。)は、本発明の製造方法によって得られたポリマー、および必要に応じて補強体を含むものである。電解質膜は、複数の膜を接合した多層構造のものであってもよい。
【0070】
電解質膜の厚さは、5〜70μmが好ましく、7.5〜50μmがより好ましい。電解質膜の厚さが5μm未満では、電解質膜の機械的強度が不充分となる。電解質膜の厚さが70μmを超えると、膜抵抗が大きくなり充分な電池出力が得られなくなる。
【0071】
(補強体)
補強体の形態としては、多孔質体、繊維、織布、不織布等が挙げられる。補強体の形態としては、強度の点から多孔質体が好ましい。
補強体の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)、TFE−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、TFE−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、TFE−エチレン共重合体(以下、ETFEと記す。)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。補強体の材料としては、化学的な耐久性の点から、PTFE、TFE−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、TFE−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ETFE、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系材料が好ましい。
補強体としては、補強体の形態、材料において、強度、化学的な耐久性の点から、PTFEからなる多孔質体が好ましい。
【0072】
多孔質体の空隙率は、40〜98%が好ましく、60〜95%がより好ましい。空隙率が低いと、電解質膜の抵抗が高くなる。また、空隙率が高すぎると、充分な補強効果が得られない。多孔質体の空隙は、空隙内部に接しうる最大の球の直径が1nm〜2mm、特に5nm〜500μmである大きさの空隙を主体としていることが好ましい。
上記のような空隙を有する多孔質体は、たとえば、延伸法、微孔形成抽出法、相転移法等によって得られる。延伸法は、PTFEからなる多孔質体を得るのに好適である。微孔形成抽出法は、すべての材料の多孔質体に適用できる。相転移法は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドからなる多孔質体を得るのに有効である。
【0073】
(他の成分)
電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群から選ばれる1種以上の原子を含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する。セリウム、マンガンは、イオンとして電解質膜中に存在することが好ましく、イオンとして存在すれば電解質膜15中でどのような状態で存在しても構わない。
電解質膜は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカ、ヘテロポリ酸(リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等)を含んでいてもよい。
【0074】
(電解質膜の製造方法)
電解質膜は、たとえば、下記の方法によって製造される。
(x−1)ポリマー(F)を膜状に成形した後、前記工程(c)を行う方法。
(x−2)前記工程(c)で得られたポリマー(H)を膜状に成形する方法。
【0075】
方法(x−1):
ポリマー(F)を膜状に成形する方法としては、ポリマー(F)が溶融流動性に優れる点から、押出成形法、加圧プレス成形法、延伸法等が挙げられる。
【0076】
方法(x−2):
ポリマー(H)を膜状に成形する方法としては、ポリマー(H)の液状組成物を基材に塗工、乾燥する方法(キャスト法)が挙げられる。
液状組成物は、水酸基を有する有機溶媒および水を含む分散媒に、ポリマー(H)を分散させた分散液である。
【0077】
水酸基を有する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、3,3,3−トリフルオロ−1−プロパノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキサノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール等が挙げられる。
水酸基を有する有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
電解質膜を安定化させるために、熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、ポリマーの種類にもよるが、130〜200℃が好ましい。熱処理の温度が130℃以上であれば、ポリマーが過度に含水しなくなる。熱処理の温度が200℃以下であれば、−SO
3H基の熱分解が抑えられ、電解質膜のプロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0079】
(作用効果)
以上説明した本発明の電解質膜にあっては、分子量、軟化温度およびイオン交換容量が高く、かつ分解しにくい本発明の製造方法によって得られたポリマーを含むため、高温においても高い機械的強度を有し、プロトン伝導性が高く、かつ劣化しにくい。
【0080】
<膜電極接合体>
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(以下、膜電極接合体と記す。)は、触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、アノードの触媒層とカソードの触媒層との間に配置された電解質膜とを有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であり、電解質膜、アノードの触媒層およびカソードの触媒層の少なくとも1つが、本発明の製造方法によって得られたポリマーを含む。
【0081】
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される電解質膜15とを具備する。
【0082】
(電解質膜)
電解質膜15は、イオン性基を有するポリマーを含む膜である。
イオン性基を有するポリマーとしては、ポリマー(H)が好ましい。
【0083】
(触媒層)
触媒層11は、触媒と、イオン性基を有するポリマーとを含む層である。
触媒としては、カーボン担体に白金または白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。
イオン性基を有するポリマーとしては、ポリマー(H)、式(1)で表される化合物とTFEとを重合して得られるポリマー、または、WO2010/137627、WO2011/013577、WO2011/013578に記載のポリマーのうち、少なくとも一種類以上のポリマーを用いるのが好ましい。
【0084】
(ガス拡散層)
ガス拡散層12は、触媒層11に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。
ガス拡散層12としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。
ガス拡散層12は、PTFE等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0085】
(中間層)
膜電極接合体10は、
図2に示すように、触媒層11とガス拡散層12との間に中間層16を有していてもよい。
中間層16としては、補強層、カーボン層等が挙げられる。
【0086】
補強層は、多孔質のシート状補強材と、カーボンナノファイバーと、イオン性基を有するポリマーとを含む層である。補強層は、機械的強度が高く、かつ導電性とガス拡散性を有する。
シート状補強材の材料としては、PTFEからなる多孔質フィルム、ポリマー(ポリプロピレン、含フッ素ポリマー、ポリアミド等。)からなる不織布等が挙げられる。
イオン性基を有するポリマーとしては、ポリマー(H)が好ましい。
【0087】
カーボン層は、カーボン(カーボン粉体、カーボンナノファイバー等)と非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。カーボン層を配置することにより、触媒層11の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
非イオン性含フッ素ポリマーとしては、PTFE等が挙げられる。
【0088】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体10は、たとえば、下記の方法にて製造される。
(a−1)キャリアフィルム上に触媒層11を形成した後、該触媒層11を電解質膜15の両面に転写して膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
(a−2)電解質膜15の両面に触媒層11を形成して膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
(a−3)ガス拡散層12上に触媒層11を形成して電極(アノード13、カソード14)とし、電解質膜15を該電極で挟み込む方法。
(a−4)キャリアフィルム上に触媒層11、電解質膜15、触媒層11を順に形成して膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
【0089】
膜電極接合体10がカーボン層を有する場合、膜電極接合体10は、たとえば、下記の方法にて製造される。
(b−1)ガス拡散層12上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、(a−1)または(a−2)の方法における膜触媒層接合体を、カーボン層を有するガス拡散層12で挟み込む方法。
(b−2)キャリアフィルムの表面に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、カーボン層上に触媒層11を形成し、触媒層11と電解質膜15とを貼り合わせ、キャリアフィルムを剥離して、カーボン層を有する膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
【0090】
(触媒層の形成方法)
触媒層11の形成方法としては、下記方法が挙げられる。
触媒層形成用液を、キャリアフィルム、電解質膜15、中間層16またはガス拡散層12上に塗布し、乾燥させる方法。
【0091】
触媒層形成用液は、イオン性基を有するポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用液は、たとえば、前記液状組成物と、触媒の分散液とを混合することにより調製できる。
【0092】
(作用効果)
以上説明した本発明の膜電極接合体にあっては、電解質膜、アノードの触媒層およびカソードの触媒層の少なくとも1つが、分子量、軟化温度およびイオン交換容量が高く、かつ分解しにくいポリマーを含むため、出力特性に優れ、かつ高温運転に適し、かつ長時間安定して発電できる。
【0093】
<固体高分子形燃料電池>
本発明の膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを配置することにより、固体高分子形燃料電池が得られる。
セパレータとしては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
該固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給することにより、発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、膜電極接合体を適用できる。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1は実施例であり、例2〜6は比較例である。
【0095】
(イオン交換容量)
ポリマー(H)のイオン交換容量は、下記の方法により求めた。
0.7モル/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて、60℃で40時間かけてポリマー(H)を中和し、0.1モル/Lの塩酸で未反応の水酸化ナトリウムを滴定することで、イオン交換容量を求めた。
【0096】
(TQ)
TQ(単位:℃)は、ポリマー(H)の分子量および軟化温度の指標であり、長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、2.94MPaの押出し圧力の条件でポリマー(F)の溶融押出しを行った際の押出し量が100mm
3/秒となる温度である。
フローテスタCFT−500D(島津製作所社製)を用い、温度を変えてポリマー(F)の押出し量を測定し、押出し量が100mm
3/秒となるTQを求めた。
【0097】
(加水分解による質量減少率)
ジメチルスルホキシドの5質量%と水酸化カリウムの30質量%を含む水溶液に95℃にてポリマー(F)のフィルムを1時間浸漬し、浸漬前後の乾燥質量の変化から質量減少率を算出した。浸漬前の−SO
2F基は、−SO
3K基に換算して計算した。
○:質量減少率が0.3%未満である。
×:質量減少率が0.3%以上である。
【0098】
(耐久性)
膜電極接合体を発電用セルに組み込み、加速試験として下記の開回路試験(OCV試験)を実施した。
電流密度0.2A/cm
2に相当する水素(利用率50%)および空気(利用率50%)を、それぞれアノードおよびカソードに常圧で供給した。セル温度は120℃、アノードのガス露点は73℃、カソードのガス露点は73℃として、発電は行わずに開回路状態で運転した。その際、排出されるガスを、0.1モル/Lの水酸化カリウム水溶液に24時間バブリングし、排出されるフッ化物イオンを補足した。そして、イオンクロマトグラフでフッ化物イオン濃度を定量し、フッ化物イオンの累積排出量を算出した。
開回路試験を開始してから、200時間後のフッ化物イオンの累積排出量から下記の基準にて耐久性の評価を行った。
○:フッ化物イオンの累積排出量が30μg/cm
2未満である。
×:フッ化物イオンの累積排出量が30μg/cm
2以上である。
【0099】
(化合物(m11−1)の合成)
特許文献1の実施例に記載の方法にしたがって、上述のスキームAに示す合成ルートで化合物(m11−1)を合成した。
【0100】
〔例1〕
(工程(a))
内容積2575mLのステンレス製オートクレーブを減圧にしてから、窒素ガスで加圧パージを3回繰り返し行った後、再度減圧にして化合物(m11−1)の1959gを仕込んだ。その後、120℃に昇温して、系内に窒素ガスを導入して38MPaGとした。そこへTFEを0.46MPa加えて、全圧を0.84MPaGとした。
ラジカル開始剤として、化合物(i−1)を化合物(m11−1)に5質量%で溶かした溶液の3.91gを添加して、反応を開始した。圧力を0.84MPGを維持したまま、1時間毎に化合物(i−1)の5質量%溶液の2.41gを逐次的に4回添加して、1時間毎の開始剤濃度が一定になるようにして反応を5時間継続した。4回目を添加した後、1時間経過した後に、オートクレーブを冷却して系内のガスをパージし、反応を終了させた。添加したラジカル開始剤を合計すると、0.6775gであった。
C
6F
13H ・・・(s−1)。
【0101】
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これに化合物(s−2)を添加し、ポリマー(F)を凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマー(F)を撹拌し、化合物(s−2)で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥した。収量323gであった。ポリマー(F)のTQを測定した。また、ポリマー(F)を加水分解し、酸型化した後、イオン交換容量を滴定により測定した。結果を表1に示す。
CF
3CH
2OCF
2CF
2H ・・・(s−2)。
【0102】
(工程(c))
ポリマー(F)を、TQ温度で加圧プレス成形によってポリマーフィルム(厚さ:125μm)に加工した。ついで、ジメチルスルホキシドの5質量%と水酸化カリウムの30質量%を含む水溶液に95℃にてポリマーフィルムを1時間浸漬させることによって、ポリマーフィルム中の−SO
2F基を加水分解し、−SO
3K基に変換した。加水分解による質量減少率を表1に示す。
さらに該ポリマーフィルムを、3モル/Lの塩酸水溶液に、50℃で2時間浸漬した後、塩酸水溶液を交換する酸型化処理を4回繰り返した。ついで、該ポリマーフィルムをイオン交換水で充分に水洗し、該ポリマーフィルム中の−SO
3K基が−SO
3H基に変換されたポリマーフィルムを得た。該ポリマーフィルムを粉砕してポリマー(H)とした。
【0103】
(電解質膜の製造)
ポリマー(H)を、エタノール、プロパノールおよび水の混合溶媒(35/35/30質量比)に分散させ、140℃で6時間攪拌した後、水を加えて120℃で1時間撹拌して、エタノール、プロパノールと水の混合溶媒(25/25/50質量比)で、固形分が17質量%の液状組成物(L)を得た。
セリウムイオン(3価)を10質量%添加した電解質膜を得るために、以下の操作を行った。まず、液状組成物(L)の100gに、炭酸セリウム水和物(Ce
2(CO
3)
3・8H
2O)の0.22gを加え、室温で24時間撹拌した。撹拌開始よりCO
2発生による気泡が確認されたが、最終的には均一で透明な液状組成物(L−1)を得た。
ついで、該液状組成物(L−1)を、厚さ100μmのETFEからなるシート(旭硝子社製、商品名:アフレックス100N)(以下、単にETFEシートと記す。)上に、ダイコータにて塗工して製膜し、これを80℃で30分間乾燥し、さらに190℃で30分間の熱処理を施し、厚さ25μmの電解質膜を形成した。
【0104】
(膜電極接合体の製造)
内容積230mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m3)の100.4g、溶媒として化合物(s−1)の55.0g、およびラジカル重合開始剤として化合物(i−6)の15.5mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、70℃に昇温して、TFEを系内に導入し、圧力を1.0MPaGに保持した。8.7時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
【0105】
【化13】
【0106】
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これに化合物(s−2)を添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、化合物(s−2)で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−2)を得た。収量は32.1gであった。
ポリマー(F−2)を例1と同様の方法で処理し、ポリマー(H−2)を得た。ポリマー(H−2)のイオン交換容量は、1.10ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
【0107】
ポリマー(H−2)に、エタノールおよび水の混合溶媒(エタノール/水=70/30質量比)を加え、固形分濃度を20質量%に調整し、オートクレーブを用い125℃で8時間、撹拌した。さらに水を加え、固形分濃度を15質量%に調整し、該酸型ポリマーが分散媒に分散した液状組成物(L−2)を得た。分散媒の組成は、エタノール/水=35/65(質量比)であった。
【0108】
カーボンブラック粉末に白金を50質量%担持した触媒20gに水105gを添加し、超音波を10分かけて均一に分散させた。これに液状組成物(L−2)40gを添加し、さらにエタノール115gを添加して固形分が10質量%の触媒層形成用液を得た。該触媒層形成用液を別途用意したETFEシート上に塗布、乾燥し、白金量が0.2mg/cm
2の触媒層を2枚作製した。
【0109】
先に得られた電解質膜の両側から前記触媒層の2枚で挟み、プレス条件:150℃、5分、1.5MPaで加熱プレスして、膜の両面に触媒層を接合し、ETFEシートを剥離して電極面積25cm
2の膜触媒層接合体を得た。
該膜触媒層接合体を、2枚のカーボンペーパーからなるガス拡散層で挟み込んで膜電極接合体を得た。該カーボンペーパーは、片側の表面にカーボンとPTFEとからなるカーボン層を有しており、該カーボン層が膜触媒層接合体の触媒層と接触するように配置した。膜触媒層接合体の耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
〔例2〕
ラジカル重合開始剤を化合物(i−2)に変更し、重合条件を表1に示す条件に変更した以外は、例1と同様にしてポリマーを製造し、電解質膜および膜触媒層接合体を得た。結果を表1に示す。
【0111】
【化14】
【0112】
〔例3〕
工程(a)と工程(c)の間に下記の工程(b)を行った以外は、例2と同様にしてポリマーを製造し、電解質膜および膜触媒層接合体を得た。結果を表1に示す。
【0113】
(工程(b))
ポリマー(F)をニッケル製の反応器に投入し、9体積%のフッ素ガスと91体積%の窒素ガスを導入し、190℃に昇温した。ポリマー(F)とフッ素ガスとを190℃で5時間接触させ、ポリマー(F)の不安定末端基をフッ素化した。
【0114】
〔例4〕
ラジカル重合開始剤を化合物(i−3)に変更し、重合条件を表1に示す条件に変更した以外は、例1と同様にしてポリマーを製造し、電解質膜および膜触媒層接合体を得た。結果を表1に示す。
【0115】
【化15】
【0116】
〔例5〕
ラジカル重合開始剤を化合物(i−4)に変更し、重合条件を表1に示す条件に変更して、所定重合温度に到達後に窒素ガスを導入しないで、開始剤は初期一括添加とした以外は、例1と同様にしてポリマーを製造し、電解質膜および膜触媒層接合体を得た。結果を表1に示す。
【0117】
【化16】
【0118】
〔例6〕
ラジカル重合開始剤を化合物(i−5)に変更し、重合条件を表1に示す条件に変更して、所定重合温度に到達後に窒素ガスを導入しないで、開始剤は初期一括添加とした以外は、例1と同様にしてポリマーを製造し、電解質膜および膜触媒層接合体を得た。結果を表1に示す。
【0119】
【化17】
【0120】
【表1】