特許第5862472号(P5862472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5862472エピタキシャルウェーハの製造方法及びエピタキシャルウェーハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862472
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】エピタキシャルウェーハの製造方法及びエピタキシャルウェーハ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20160202BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20160202BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/30
   H01L33/00 184
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-135734(P2012-135734)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-3061(P2014-3061A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100095751
【弁理士】
【氏名又は名称】菅原 正倫
(72)【発明者】
【氏名】篠原 政幸
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−023578(JP,A)
【文献】 特開2001−036136(JP,A)
【文献】 特開2009−212112(JP,A)
【文献】 特開平08−335715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/30
H01L 33/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、エピタキシャル成長によってn型層と、該n型層上にp型層とを形成し、該エピタキシャル成長の際に、前記n型層および前記p型層形成時に窒素ドープ用ガスを、前記p型層形成時にp型ドーパントドープ用ガスを導入するエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記n型層および前記p型層としてピーク発光波長が585±10nmのGaAsPまたはGaPを形成し、
前記p型層として、キャリア濃度が2〜5×1017cm―3であって、かつ厚さが10〜20μmである第1p型層を形成し、前記第1p型層の形成後にキャリア濃度が1.0×1019cm―3第2p型層を形成することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
基板と、該基板上にエピタキシャル成長によって形成されたn型層および該n型層上にp型層とを有するエピタキシャルウェーハにおいて、
前記n型層および前記p型層はピーク発光波長が585±10nmのGaAsPまたはGaPであり、
前記p型層は第1p型層と該第1p型層上に該第1p型層よりキャリア濃度の高い第2p型層とを有し、
前記第1p型層は、キャリア濃度が2〜5×1017cm―3であって、かつ厚さが10〜20μmであり、
前記第2p型層は、キャリア濃度が1.0×1019cm―3であることを特徴とするエピタキシャルウェーハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハ及びその製造方法に関し、具体的には、発光ダイオード(以下、LEDと言う)用の半導体エピタキシャルウェーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体が光半導体素子材料として多く利用されている。そして、この半導体材料としては、単結晶基板上に所望の半導体結晶の層をエピタキシャル成長したものを用いている。これは、現在入手可能なもので基板として用いられる結晶は、欠陥が多く、純度も低いため、そのまま発光素子として使用することが困難なためである。そのため、基板上に所望の発光波長を得るための組成の層をエピタキシャル成長させている。主としてこのエピタキシャル成長層は、3元混晶層が用いられている。そしてエピタキシャル成長は、通常、気相成長ないし液相成長法が使用されている。気相成長法では、石英製のリアクター内にグラファイト製、または石英製のホルダーを配置して基板を保持し、原料ガスを流し加熱する方法によってエピタキシャル成長を行っている。
【0003】
III−V族化合物半導体は、可視光、赤外の波長に相当するバンドギャップを有するため、発光素子への応用がなされている。その中でも、GaAsP、GaPは特にLED材料として広く用いられている。
【0004】
GaAs1−xを例にとって説明すると、GaAs1−x(0.45<x<1)は伝導電子を捕獲するアイソ・エレクトロニック・トラップとして窒素(N)をドープすることにより、LEDとしての光出力を10倍程度向上させることができる。そのため、通常、GaP基板上に成長したGaAs1−x(0.45<x<1)には窒素をドープする。
【0005】
このようなGaAs1−xは、一般的に気相成長法によって製造される。この気相成長法では、反応器中に原料ガスを流し、n型のGaP基板上にn型エピタキシャル層を成長させる。この場合、基板とエピタキシャル層の格子定数の違いによる格子歪が発生しないように、組成を段階的に変化させた組成変化GaAsP層を中間層として設けて一定組成GaAsP層、アイソ・エレクトロニック・トラップとして窒素(N)をドープした一定組成NドープGaAsP層を順次形成する。その後の加工工程で熱拡散により高濃度に亜鉛を拡散させて、エピタキシャル層表面に4〜10μm程度のp型層を形成する。
【0006】
近年では、より高輝度・長寿命のLEDの要求が強くなってきている。pn接合部界面では、ドーパントの種類及び濃度が異なり、ミスフィット転位等の欠陥が発生するため、この欠陥がウェーハをLEDとしたときに発光輝度を下げる要因になっており、また、時間の経過と共に発光輝度が低下してしまっていた。この問題点を解消するために、例えば特許文献1では、p型層を、平均キャリア濃度が0.05〜2.2×1018cm−3の第1p型層と、平均キャリア濃度が0.5〜4.5×1018cm―3でかつ第1p型層の平均キャリア濃度の2倍以上の第2p型層とで構成している。この特許文献1の実施例によれば、室温にて電流密度240A/cmで168時間通電後の光出力の残光率が87%であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−36136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この種のLEDの発光輝度や残光率はp型層のキャリア濃度だけでなく厚さによっても変わってくると考えられる。この点、特許文献1の発明では、p型層(第1p型層、第2p型層)のキャリア濃度の好適範囲は示されているものの、厚さとの関係の知見はない。そのため、たとえ好適範囲内のキャリア濃度を採用したとしても、発光輝度や残光率が思ったほど向上できない場合がある。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、従来のエピタキシャルウェーハに比べて、結晶性が良好であり、また発光輝度を向上させるとともに、長寿命のエピタキシャルウェーハの製造方法及びエピタキシャルウェーハを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは、発光強度が低下することや、寿命が短くなる原因について鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、p型層を形成する際に、pn接合に近い層のキャリア濃度及び厚さによる影響を調査し、本発明を完成させた。すなわち、本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法は、基板上に、エピタキシャル成長によってn型層と、該n型層上にp型層とを形成し、該エピタキシャル成長の際に、前記n型層および前記p型層形成時に窒素ドープ用ガスを、前記p型層形成時にp型ドーパントドープ用ガスを導入するエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記n型層および前記p型層としてピーク発光波長が585±10nmのGaAsPまたはGaPを形成し、
前記p型層として、キャリア濃度が2〜5×1017cm―3であって、かつ厚さが10〜20μmである第1p型層を形成し、前記第1p型層の形成後にキャリア濃度が1.0×1019cm―3第2p型層を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、第1p型層のキャリア濃度が2〜5×1017cm−3で、かつ第1p型層の厚さが10〜20μmであれば、発光輝度や残光率を向上できることを見出した。このように、第1p型層をキャリア濃度が2〜5×1017cm-3であり、かつ厚さが10〜20μmであるように形成することにより、格子定数の違いに起因する結晶欠陥がp型層に導入されることを抑制することができ、よってp型層の結晶性を良好なものとすることができると同時に電流の拡散性を良好にすることができる。よって、本発明で製造されたエピタキシャルウェーハを用いれば、発光輝度が向上し、また長時間の発光による発光輝度の低下を抑制する、つまり長寿命のLEDとすることができる。
【0012】
本発明のエピタキシャルウェーハは、基板と、該基板上にエピタキシャル成長によって形成されたn型層および該n型層上にp型層とを有するエピタキシャルウェーハにおいて、
前記n型層および前記p型層はピーク発光波長が585±10nmのGaAsPまたはGaPであり、
前記p型層は第1p型層と該第1p型層上に該第1p型層よりキャリア濃度の高い第2p型層とを有し、
前記第1p型層は、キャリア濃度が2〜5×1017cm―3であって、かつ厚さが10〜20μmであり、
前記第2p型層は、キャリア濃度が1.0×1019cm―3であることを特徴とする。
【0013】
これによって、本発明の製造方法と同様の効果、すなわち発光輝度が向上し、また長時間の発光による発光輝度の低下を抑制して、長寿命のLEDとすることができるという効果が得られる。
【0014】
なお、本発明のエピタキシャルウェーハ及びその製造方法のいずれにおいて、第1p型層のキャリア濃度が2〜3×1017cm―3であって、かつ厚さが13〜17μmとすることができる。また、第2p型層のキャリア濃度は、第1p型層のキャリア濃度の10〜100倍、好ましくは20〜50倍とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法によって作製されるエピタキシャルウェーハ10の断面概略図の一例である。
図2】気相成長装置201の一例を示した図である。
図3】第1p型層のキャリア濃度及び厚さを変えたときの、各キャリア濃度ごとに厚さと残光率の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法によって作製されるエピタキシャルウェーハ10の断面概略図の一例である。図1において、エピタキシャルウェーハ10は、n型単結晶基板11と該単結晶基板11上にエピタキシャル成長されたバッファ層12a、組成変化層12b、組成一定層12c、窒素ドープ層12dからなるn型層12、また該n型層12より上に形成されたp型層13とを有している。
【0017】
単結晶基板11の種類は特に制限されるものではないが本実施形態ではGaP基板を採用している。なお、単結晶基板11としてGaAs基板を採用しても良い。
【0018】
その単結晶基板11の上に形成されるn型層12とp型層13は、GaAsPまたはGaPからなる。具体的には、n型層12の最下層となるバッファ層12aは、単結晶基板11と同一結晶、つまりGaPからなる。そのバッファ層12aは特に形成しなくても良いが、ミスフィット転位の発生を抑制して安定な高輝度を得るためには、バッファ層12aを形成するのが好ましい。
【0019】
組成変化層12bは、単結晶基板11からの距離に応じて組成が変化する層である。具体的には、組成変化層12bは、例えばn型のGaAs1−x(0.45<x<1)の層であり、単結晶基板11から遠ざかるにつれて混晶率xが1から低下するように構成することができる。その混晶率xは0.45<x<1の間で変化させるのが好ましい。基板11と組成一定層12cの格子定数の差が大きいため、この組成変化層12bを形成することでより結晶欠陥の少ない組成一定層12cを得ることができる。
【0020】
組成一定層12cは例えばn型のGaAs1−x0x0の層であり、その組成(混晶率x0)が一定の層とされる。組成一定層12cがGaAs1−x0x0である場合、混晶率x0として、LEDの発光波長に対応する値が選択される。
【0021】
窒素ドープ層12dは、組成一定層12cと同一組成の層(例えばn−GaAs1−x0x0の層)であり、アイソ・エレクトロニック・トラップとして窒素(N)がドープされた層である。間接遷移型のバンドギャップを持つGaAsPに窒素をドープすることで、LEDの光出力を向上させることができる。また、窒素ドープ層12dの表面がpn接合を形成している。
【0022】
p型層13は、窒素ドープ層12d上に形成された第1p型層13aと、第1p型層13a上に形成された第2p型層13bとを有している。本発明ではそのp型層13(特に第1p型層13a)に特徴がある。p型層13(第1p型層13a、第2p型層13b)は例えばp型のGaAsPの層とされる。第1p型層13aは、窒素ドープ層12dとの間でpn接合を形成している。そのため、第1p型層13aはLEDの発光(発光輝度、残光率)に寄与する。例えば、第1p型層13aのキャリア濃度が高すぎる場合には、発光領域からn型層12にかけてp型キャリアが流れ込み易くなり、その結果、pn接合が壊されて発光輝度や残光率が低下すると考えられる。反対に、第1p型層13aのキャリア濃度が低すぎる場合には電流が流れにくくなることから発熱量が大きくなり、その結果、pn接合が壊されて発光輝度や残光率が低下すると考えられる。
【0023】
また例えば、第1p型層13aの厚さが薄すぎる場合には、第2p型層13bからのキャリア拡散の影響をpn接合近傍で受けやすくなるため、キャリアの流れ込みによりpn接合が壊されて発光輝度や残光率が低下すると考えられる。反対に、第1p型層13aの厚さが厚すぎる場合には、第1p型層13aが光の吸収層として作用してくるため、発光効率が低下してくると考えられる。
【0024】
このように、LEDの発光輝度や残光率を向上するためには、第1p型層13aのキャリア濃度及び厚さの双方を最適な値にする必要があり、具体的には、第1p型層13aはキャリア濃度が2〜5×1017cm−3であって、かつ厚さが10〜20μmに形成されている。これによって、pn接合を構成する相手側の層(窒素ドープ層12d)との間のドーパントの種類及び濃度の違いによるミスフィット転位等の欠陥を抑制できる。つまり、p型層13(第1p型層13a)の結晶性を従来より良好にでき、よって発光輝度を従来より強くすることができる。また、長時間の発光による発光輝度の低下を抑制する、つまり長寿命のLEDとすることができるエピタキシャルウェーハ10となる。
【0025】
第2p型層13bは、第1p型層13aよりもキャリア濃度が高い層とされる。これによって、電流の拡散性を良好にでき、発光輝度を向上させることができる。また、第2p型層13bに電極を直接形成する場合にはその電極との間で良好なオーミック接触を得られやすくできる。
【0026】
次に、図1のエピタキシャルウェーハ10の製造方法を図2を参照して説明する。なお、図2は気相成長装置201の一例を示した図である。まずGaPの単結晶基板11および高純度ガリウム(Ga)を、Ga溜め用石英ボート208付きのエピタキシャル・リアクター204内の所定の場所に、それぞれ設置する。次に、窒素(N)ガスを該リアクター204内に導入し、空気を十分置換除去した後、キャリヤ・ガスとして高純度水素(H)を導入し、Nの流れを止め昇温工程に入る。そして上記Ga入り石英ボート208設置部分および単結晶基板11の設置部分の温度が、所定の温度に一定に保持されていることを確認した後に、単結晶基板11と同組成のバッファ層12aの気相成長を開始する。
【0027】
最初、n型ドーパントドープ用ガスをリアクター204内に導入し、周期律表第III族元素成分原料としてのGaClを生成させるために、高純度塩化水素ガス(HCl)を上記石英ボート208中のGa溜209に吹き込み、Ga溜上表面より吹き出させる。他方、周期律表第V族元素成分として、高純度りん化水素ガス(PH)を導入しつつ、第1層であるバッファ層12aを単結晶基板11上に成長させる。
【0028】
次に、HClの導入量を変えることなく、高純度ひ化水素ガス(AsH)の導入を開始し、また同時にn型ドーパントドープ用ガスおよびPHの導入量を減少させて、第2層となるn型層−組成変化層12b(GaAs1−xエピタキシャル層)をバッファ層12a上に成長させる。
【0029】
次に、HCl、AsH、PHの導入量を変えることなく、n型ドーパントドープ用ガスの導入量を徐々に減少させて、第3層となるn型層−組成一定層12c(GaAs1−x0x0エピタキシャル層)を組成変化層12b上に成長させる。
【0030】
次に、HCl、PH、AsHの導入量を変えることなく、これに窒素アイソ・エレクトロニック・トラップ添加用として窒素ドープ用ガスを導入して、また同時にn型ドーパントドープ用ガスの導入をやめてから、第4層となるn型層−窒素ドープ層12dを組成一定層12c上に成長させる。ここで、窒素ドープ用ガスとしては、通常アンモニア(NH)が用いられる。このように、高純度の原料が得られ、扱い易いアンモニアを窒素ドーパントガスとして用いることによって、高純度のエピタキシャルウェーハをより容易に得ることができる。
【0031】
そして、次にHCl、PH、AsHガスの導入量を変えることなく、p型ドーパントをドープするためにp型ドーパントドープ用ガスを導入し、また窒素ドープ用ガスの導入量を該層の成長途中で減少させながら、第5層となる第1p型層13aを窒素ドープ層12d上に成長させる。第1p型層13aは、キャリア濃度を2〜5×1017cm−3の範囲で制御し、厚さを10〜20μmの範囲で成長させるようにする。ここで、p型ドーパントドープ用ガスを、ジメチル亜鉛とすることができる。このように、高純度の原料が得られるジメチル亜鉛をp型ドーパントガスとして用いることによって、より高純度のエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【0032】
最後に、HCl、PH、AsHの量を変えることなく、p型ドーパントドープ用ガスの導入量を増加させ、かつ窒素ドープ用ガスの導入を該層の成長が終了するまでにやめて、第6のp型のGaAs1−xエピタキシャル層(第2p型層13b)を第5のGaAs1−xエピタキシャル層上に成長させ、気相成長を終了する。これによって、エピタキシャルウェーハ10を得ることができる。
【0033】
このように、本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法によれば、pn接合部の結晶性を良好なものとすることができ、電流拡散も良好とすることができる。そのため、発光輝度を従来より強くすることができ、また長時間の発光による発光輝度の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、もちろん本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
GaP基板および高純度ガリウム(Ga)を、Ga溜め用石英ボート付きのエピタキシャル・リアクター内の所定の場所に、それぞれ設置した。GaP基板はテルル(Te)が3〜10×1017/cm添加され、直径50mmの円形で、(100)面から〔011〕方向に10°偏位した面をもつGaP基板を用い、これらを同時にサセプター上に配置した。次に、窒素(N)ガスを該リアクター内に20分間導入し、空気を十分置換除去した後、キャリヤ・ガスとして高純度水素(H)を6500sccm導入し、N2の流れを止め昇温工程に入った。上記Ga入り石英ボート設置部分およびGaP単結晶基板設置部分の温度が、それぞれ800℃および930℃一定に保持されていることを確認した後、ピーク発光波長585±10nmのGaAs1−x0x0エピタキシャル膜の気相成長を開始した。
【0036】
最初、濃度50ppmに水素ガスで希釈したn型不純物となる硫黄を導入するための硫化水素ガス(HS)を328sccm導入した。また周期律表第III族元素成分原料としてのGaClを118sccm生成させるため、高純度塩化水素ガス(HCl)を上記石英ボート中のGa溜に118sccm吹き込み、Ga溜上表面より吹き出させた。他方、周期律表第V族元素成分として、高純度りん化水素ガス(PH)を49sccm導入しながら、45分間にわたり第1層となるGaPバッファ層をGaP単結晶基板上に成長させた。
【0037】
次に、HClの導入量を変えることなく、高純度ひ化水素ガス(AsH)の導入を開始し、導入量を4.7sccmまで徐々に増加させ、また同時にHSの導入量を191sccmに、PHの導入量を47sccmに減少させながら、42分間にわたり第2層となるGaAs1−xエピタキシャル層(n型層−組成変化層)を第1のGaPバッファ層上に成長させた。
【0038】
次に、HCl、AsH、PHの導入量を変えることなく、HSの導入量を191sccmから65sccmまで徐々に減少させながら、32分間にわたり第3層となるGaAs1−xエピタキシャル層(n型層−組成一定層)を第2のGaAs1−xエピタキシャル層上に成長させた。
【0039】
次の30分間は、HCl、PH、AsHの導入量を変えることなく、これに窒素アイソ・エレクトロニック・トラップ添加用として161sccmまで導入量を漸増させて高純度アンモニアガス(NH)を窒素ドープ用ガスとして導入して、また同時にH2Sガスの導入を0sccmにして、第4層となるGaAs1−xエピタキシャル層(n型層−窒素ドープ層)を第3のGaAs1−xエピタキシャル層上に成長させた。このときの窒素ドープ量は3×1018/cmであった。
【0040】
そして、次の100分間はHCl、PH、AsHの導入量を変えることなく、Hガスによって0.4%に希釈したDMZnガスをp型ドーパントドープ用ガスとして1.7sccm導入して、またNHガスの導入量を0sccmまで徐々に減少させながら、第5層となるp型のGaAs1−xエピタキシャル層(第1p型層)を第4のGaAs1−xエピタキシャル層上に成長させた。
【0041】
そして、最後の30分間はHCl、PH、AsHの導入量を変えることなく、DMZnガスの導入量を200sccmに徐々に増加させながら、第6層となるp型のGaAs1−xエピタキシャル層(第2p型層)を第5のGaAs1−xエピタキシャル層上に成長させ、気相成長を終了し、エピタキシャルウェーハを作製した。
【0042】
作製したエピタキシャルウェーハの第1p型層、第2p型層のキャリア濃度、膜厚はそれぞれ2.0×1017/cm、15μm、1.0×1019/cm、4μmであった。また窒素濃度は第1p型層が3.0×1018/cm〜0/cm、第2p型層が0/cmであった。
【0043】
このように作製したエピタキシャルウェーハの発光輝度および発光時間に対する発光輝度の残光率(発光開始時の発光輝度を1としたときの発光輝度の割合)を評価するため、以下のような手順の評価を行った。
【0044】
作製したエピタキシャルウェーハを取り出し、裏面ラップを行った。その後、ウェーハ裏面にn型電極を形成し、表面のエピ層にp型電極を形成した。そして、300μmピッチでChipサイズにカットした。その後、ウェーハの外周側から5mm付近(オリエンテーションフラット部(OF部)及びOF部の反対側の部分(反OF部))と、ウェーハ中心部の3箇所から2個ずつ計6個Chipを取り出した。取り出したChipからLEDランプを作製した。その後、室温、通常湿度状態で作製したLEDランプに直流電流20mAを流した時の全方位光出力(発光輝度)を積分球にて測定した。また、残光率の測定は、全方位光出力の測定が終了したLEDランプに室温、通常湿度状態にて直流電流95mAを流し、300時間経過後、直流電流20mAを流したときの全方位光出力を積分球にて測定し、先の作製直後の時の値と比較することによって行った。
【0045】
(比較例1)
実施例1において、第1p型層の形成を、キャリア濃度、膜厚はそれぞれ2.0×1017/cm、6μmに設定した以外は実施例1と同様の条件でエピタキシャルウェーハの作製を行い、同様の評価を行った。
【0046】
発光輝度は、比較例1と実施例1とでほぼ同じであったが、6個のChipの平均の残光率は、比較例1が76.8%に対し、実施例1は、90.3%と大幅に改善できることが分かった。
【0047】
(他の実施例、比較例)
第1p型層のキャリア濃度を2.0×1017/cmに固定し、第1p型層の厚さを4μm、6μm、10μm、15μm、20μmに変えたときに、残光率がどのようになるかを調べた。なお、第1p型層以外は実施例1と同様の条件でエピタキシャルウェーハの作製を行った。表1はその結果を示している。
【表1】
【0048】
表1で示すように、第1p型層の厚さが10μm、15μm、20μmのときには85%以上の高い残光率となる。これに対し、第1p型層の厚さが4μm、6μmのときには、第1p型層のキャリア濃度が好適範囲内の2.0×1017/cmであるのにもかかわらず、残光率が80%を下回ってしまう。
【0049】
さらに、第1p型層の厚さを15μmに固定し、第1p型層のキャリア濃度を2.0×1017/cm、5.0×1017/cm、10.0×1017/cm、30.0×1017/cmに変えたときに、残光率がどのようになるかを調べた。なお、第1p型層以外は実施例1と同様の条件でエピタキシャルウェーハの作製を行った。表2はその結果を示している。
【表2】
【0050】
表2で示すように、第1p型層のキャリア能濃度が2.0×1017/cm、5.0×1017/cmのときには85%以上の高い残光率となる。これに対し、第1p型層のキャリア濃度は10.0×1017/cm、30.0×1017/cmのときには、第1p型層の厚さが好適範囲内の15μmであるのにもかかわらず、残光率が80%を下回ってしまう。
【0051】
図3は上記実験結果のグラフであり、具体的には、第1p型層のキャリア濃度及び厚さを変えたときの、各キャリア濃度ごとに厚さと残光率の関係をプロットしたグラフである。なお、第1p型層以外の条件は実施例1と同様である。図3に示すように、残光率が85%を超えるときの第1p型層の条件は、図3の破線で囲まれた領域50の条件、つまりキャリア濃度が2.0×1017/cm、5.0×1017/cmで、かつ厚さが10μm、15μm、20μmの条件である。これを一般化すると、第1p型層のキャリア濃度が2〜5×1017cm―3であって、かつ厚さが10〜20μmのときに、85%を超えるような高い残光率になる。なお、表1、表2、図3の残光率は、6個のChipの残光率の平均値である。
【0052】
また、上記表1で示すように、厚さが15μmのときに特に高い残光率(表1では90%を超えている)となることから、10〜20μmの範囲の中でも特に15μm付近の範囲、具体的には13μm〜17μmとするのが好ましい。また、上記表2で示すように、第1p型層のキャリア濃度が2.0×1017/cmのときに特に高い残光率(表2では90%を超えている)となることから、2〜5×1017cm―3の範囲の中でも特に2.0×1017/cm付近の範囲、具体的には2.0〜3.0×1017/cmとするのが好ましい。
【0053】
また、第1p型層のキャリア濃度2〜5×1017cm―3と第2p型層のキャリア濃度1.0×1019/cmの比をとると、第2p型層のキャリア濃度は第1p型層のキャリア濃度の20〜50倍となる。よって、第2p型層のキャリア濃度は第1p型層のキャリア濃度よりも10〜100倍(20〜50倍を少し拡張した範囲)、好ましくは20〜50倍とするのが好ましい。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。例えば、上記実施形態では、p型層、n型層としてGaAsPの例を説明したが、GaPでp型層、n型層を形成しても良い。
【符号の説明】
【0055】
10 エピタキシャルウェーハ
11 単結晶基板
12 n型層
12a バッファ層
12b 組成変化層
12c 組成一定層
12d 窒素ドープ層
13 p型層
13a 第1p型層
13b 第2p型層
図1
図2
図3