(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルシウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させ、次いで、密閉容器内で100℃以上200℃以下に加熱して、前記フッ化カルシウム微粒子を作製する工程を含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載のCaF2系透光性セラミックスの製造方法。
希土類化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させ、次いで、密閉容器内で100℃以上200℃以下に加熱して、前記希土類フッ化物微粒子を作製する工程を含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載のCaF2系透光性セラミックスの製造方法。
前記湿式混合では、前記フッ化カルシウム微粒子および前記希土類フッ化物微粒子のそれぞれにおける一次粒子同士の凝集力を低下させた後、前記フッ化カルシウム微粒子および前記希土類フッ化物微粒子を含む懸濁液にアルカリ溶液を添加し、次いで、遠心分離する、請求項13または14に記載のCaF2系透光性セラミックスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスおよびその製造方法について説明する。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0026】
[CaF
2系透光性セラミックス]
CaF
2などのフッ化物は、大気中で高温に加熱すると、フッ素が離脱して酸化することによって、透明度(透過率)が低下する。そこで、CaF
2をアルゴンなどの不活性雰囲気中で圧力をかけながら焼結したり、真空中で焼結したりするが、焼結温度をおよそ1000℃以上にすると、得られたCaF
2系透光性セラミックスは僅かに白濁する傾向があることを本発明者は見出した。
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、実質的にフッ化カルシウム(CaF
2)と希土類フッ化物(RF
3)が固相反応を起こして生成したCa−R−F系化合物の多結晶体であって、光を透過可能な透光性を有するものである。本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、希土類として、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群より選択される少なくとも2種を含んでいる。
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、特に、可視域で吸収の少ない無色透明なCaF
2系透光性セラミックスを得るために、La、Eu、Tb、Dy、Tm、YbおよびLuからなる群より選択される2種類を含むことができる。
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、内部に光を透過させる部材として使用可能である。特に、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、レーザー結晶や蛍光体粒子を分散させる無機母材に使用可能である。
【0027】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、カルシウム希土類フルオライドと総称される一連の化合物群が含有されてなる多結晶体である。
カルシウム希土類フルオライドは、(Ca
1−xR
x)F
2+xにより示される組成比(原子比)を有する。この組成比は、蛍光X線分析や、各種の化学分析法により精度よく測定することができる。(Ca
1−xR
x)F
2+xにより示されるカルシウム希土類フルオライドにおいて、Rは希土類を表し、このRは、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群より選択される少なくとも2種である。
Xは0.002(0.2mol%)以上0.059(5.9mol%)以下の数とすることができる。
【0028】
カルシウム希土類フルオライドは、結晶系が立方晶であるため、粒界における結晶構造の整合性が確保され、光の散乱を実質的になくすことができる。よって、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、カルシウム希土類フルオライドを含有させることにより、セラミックスであっても透過率が高くなる。
【0029】
上記(Ca
1−xR
x)F
2+xにより示される組成比において、X1(希土類イオンの総量(希土類の合計濃度))は、0.002(0.2mol%)以上0.059(5.9mol%)以下とすることができ、好ましくは0.005(0.5mol%)以上0.04(4.0mol%)以下である。
X1が0.002(0.2mol%)未満では、焼結助剤としてのRF
3の効果が得られず、CaF
2系透光性セラミックスの透過率を高めることが難しくなることがある。一方、X1が0.059(5.9mol%)を超えると、焼結温度を1000℃以下にした場合、CaF
2とRF
3を完全に反応させることが難しいことがあり、焼結体内部に組成の斑が生じてしまい、結果として、透過率が高いCaF
2系透光性セラミックスを得ることが難しくなることがある。
【0030】
また、上記(Ca
1−xR
x)F
2+xにより示される組成比において、Rが少なくとも2種の希土類であるので、X2(少なくとも2種の希土類それぞれの量(少なくとも2種の希土類それぞれの濃度))は、0.001(0.1mol%)以上0.058(5.8mol%)以下とすることができ、好ましくは0.005(0.5mol%)以上0.03(3.0mol%)以下である。
X2が0.001(0.1mol%)未満では、焼結助剤としてのRF
3の効果が得られず、CaF
2系透光性セラミックスの透過率を高めることが難しくなることがある。一方、X2を0.059(5.9mol%)より大きくすると、焼結温度を1000℃以下にした場合、CaF
2とRF
3を完全に反応させることが難しくなることがあり、結果として、透過率が高いCaF
2系透光性セラミックスを得ることが難しくなることがある。
【0031】
また、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、蛍光体母材またはレーザー結晶として用いられる場合、希土類として、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbからなる群より選択される少なくとも1種の希土類を含むことができる。
【0032】
さらに、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、蛍光体母材として用いられる場合、蛍光体粒子を含むことができる。
蛍光体粒子は、Y
3Al
5O
12:Ce(YAG:Ce)、CaS:EuおよびSrS:Euからなる群より選択される少なくとも1種とすることができる。
【0033】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、光を透過可能な透光性を有する。この透光性は、CaF
2系透光性セラミックスの用途に応じて、希土類の種類および含有量を調整することによって、適宜調整することができる。例えば、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、使用時に透過させる波長の光の透過率を50%以上とすることができる。本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスが白色LED用の蛍光体母材として用いられる場合、透過率は50%以上とすることができ、70%以上であることが好ましいので、大気中で焼結して製造してもよい。
なお、本実施形態における透過率とは、両面光学研磨した厚さ3mmの試料を測定したときの波長550nmにおける直線透過率のことである。
白色LED用の蛍光体母材が、従来のエポキシ樹脂やシリコーンなどの樹脂封止材料から、無機材料である本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスに置き換えられると、青色LEDからの高熱に対する耐熱性が著しく向上する。これにより、白色LEDを備えた照明装置の寿命が向上したり、現状より照度の高い白色LEDを備えた照明装置を実現したりすることができるといった効果が得られる。しかも、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、大気中、1000℃以下でCaF
2微粒子とRF
3微粒子の混合物微粒子を焼結することによって製造することができるので、製造コストを低く抑えることができるとともに、製造エネルギーも少なくすることができるといった効果が得られる。
【0034】
また、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスがレンズやレーザー結晶などのように、80〜85%以上の高い透過率が必要とされる用途に適用される場合、大気中での焼結に加えて、熱間等方圧加圧装置(HIP)を用いた高温、高圧処理(以下、「HIP処理」と言う。)を行うことができる。
HIP処理では、例えば、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中、500kg/cm
2以上3000kg/cm
2以下の圧力を加えながら、700℃以上1000℃以下に加熱して、CaF
2系透光性セラミックスを焼結する。
【0035】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、そのまま用いてもよいが、所定形状の光学部材として用いることもできる。例えば、CaF
2系透光性セラミックスを、光の入射面や放射面が、球面形状、非球面形状、平面形状、格子形状など、各種の形状を有する光学部材に加工することができる。光学部材の表面には、目的に応じて反射防止膜や波長選択膜などの種々のコーティングを施しても良い。さらに、同様のCaF
2系透光性セラミックスにより形成された1つまたは2以上の光学部材を組合せて用いることもできる。
また、CaF
2系透光性セラミックスからなる光学部材を、他の材料により形成された光学部材と組合せて光学系を構成することもできる。例えば、CaF
2系透光性セラミックスからなる少なくとも1つの光学部材と、光学ガラス、光学プラスチック、光学結晶などから選択される材料からなる少なくとも1つの光学部材とを、組み合わせて用いることができる。
【0036】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、良好な透光性が付与されたカルシウム希土類フルオライドの焼結体からなる新規なセラミックスである。そして、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスや本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスにより形成された光学部材は、CaF
2結晶やGdF
3結晶の光学特性とは異なる光学特性を有し、従来にない屈折率とアッベ数をもつフッ化物材料となる。具体的には、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、蛍石と実質的に同じ程度に高いアッベ数を有すると共に、蛍石より僅かに高い屈折率を有している。
【0037】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスは、多結晶体であるので、温度上昇時に熱膨張歪が結晶方位に依存する異方性を示すことがなく、等方的に熱膨張歪が生じる。そのため、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスを加工する際には歪みによる破損が生じ難い。また、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスに光を透過して使用する際には、気温変化による結像性能の低下を生じ難い。
【0038】
ところで、CaF
2に1種類のRF
3を添加しても透光性が得られるが、本実施形態のように、CaF
2に異なる2種類のRF
3を添加することによって、透光性を安定させることができ、しかも透過率を高くすることができる。CaF
2の単結晶を用いた研究では、CaF
2に希土類イオン(R
3+)を添加すると、Ca
2+のサイトの一部がR
3+に置換され、同時に電気的中性を保つためにF
−が形成されることが報告されている。しかし、数週間かけてゆっくり育成する単結晶と異なり、焼結のように反応が数時間で終了する場合、2価のCaサイトに、3価の希土類イオンを置換させることは基本的に困難である。そこで、本実施形態では、CaF
2に異なる2種類のRF
3を添加することにより、結晶中の電気的中性を保ち、Ca
2+のサイトの一部をR
3+によって安定に置換している。このようにCa
2+のサイトの一部がR
3+よって安定に置換される理由は、2種類のR
3+うち、一方のR
3+が他方のR
3+のバッファーイオンとなり、両者が安定に存在できるからであると推測される。
【0039】
[CaF
2系透光性セラミックスの製造方法]
次に、本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスの製造方法について説明する。
CaF
2系透光性セラミックスを製造するには、CaF
2微粒子と、このCaF
2微粒子とは別に作製されたRF
3微粒子とを含有するセラミックス形成用組成物を準備し、このセラミックス形成用組成物を出来る限り均一に混合して微粒子混合物を調製し、この微粒子混合物を焼結し、透明化する。また、必要に応じて、微粒子混合物の焼結体を、二次焼結(HIP処理)する。
【0040】
セラミックス形成用組成物は、加熱、加圧など適宜の処理を施すことでセラミックスを形成可能な材料であって、焼結可能なCaF
2微粒子およびRF
3微粒子を含有するものである。セラミックス形成用組成物に含有されるCaF
2微粒子およびRF
3微粒子は、他の成分の含有量を抑えた高純度の微粒子とすることができる。
【0041】
セラミックス形成用組成物に含有されるCaF
2微粒子と、RF
3微粒子とは、それぞれ別に製造されたものが用いられる。例えば、カルシウム化合物とランタン化合物両方を含む混合溶液にフッ素化合物を添加することにより、CaF
2とRF
3を同時に生成させた微粒子混合物、あるいは、これらの成分を両方含む複合微粒子は、本実施形態では用いられない。このような方法では、焼結性に優れたCaF
2微粒子およびRF
3微粒子を得ることが難しいことがある。
【0042】
セラミックス形成用組成物に用いられるCaF
2微粒子の一次粒子は、平均粒径が200nm以下とすることができ、好ましくは平均粒径が150nm以下の微粒子である。
セラミックス形成用組成物に用いられるRF
3微粒子の一次粒子は、平均粒径が100nm以下とすることができ、好ましくは平均粒径が70nm以下の微粒子である。
平均粒径が100nmを超える微粒子がセラミックス形成用組成物に含まれると、焼結後のCaF
2系透光性セラミックスにおいて、希土類濃度が局所的に異なる部位が形成されやすくなる傾向がある。
なお、セラミックス形成用組成物の材料が、平均粒径が200nmを超える微粒子を含んでいても、微粒子混合物を調製する過程で、平均粒径が200nm以下となるように微粒子が細粒化されればよい。
【0043】
CaF
2微粒子およびRF
3微粒子には、複数の一次粒子が凝集した凝集体(二次粒子)が含まれている。微粒子混合物を調製する過程において、二次粒子を解砕して分散することにより、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の一次粒子を均一に混合することができる。その結果、焼結によるCaF
2微粒子とRF
3微粒子間の固相反応がより低温で進行し、透明度の高いCaF
2系透光性セラミックスが得られる。
仮に、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子が二次粒子の形態のままで混合された微粒子混合物を焼結すると、焼結時にCaF
2微粒子とRF
3微粒子との接触面積が少なくなり易い。この場合、CaF
2微粒子とRF
3微粒子間の固相反応が十分に起こり難くなる。
結果として、最終的に得られるCaF
2系透光性セラミックスにおいて、微視的にCaF
2結晶相とRF
3結晶相とが生じ、微視的に組成の斑が生じる。また、それを解決するために焼結温度を高くすると、フッ化物からのフッ素の離脱が起こり、透過率を低下させる原因になる。
【0044】
「CaF
2微粒子の作製」
CaF
2微粒子は、カルシウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させ、次いで、密閉容器内で100℃以上200℃以下に加熱して作製することができる。
【0045】
CaF
2微粒子の作製に用いられるカルシウム化合物としては、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、アスコルビン酸塩、アルギン酸塩、安息香酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、パントテン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、酒石酸塩、グリセリン酸塩、トリフルオロ酢酸塩などのカルシウムの有機酸塩、カルシウムの塩化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩などの無機塩が挙げられる。これらのカルシウム化合物の中でも、水への溶解度が高く、CaF
2微粒子中に硫酸塩や塩化物のような不純物イオンが残り難いことから、酢酸カルシウムを用いることができる。
【0046】
フッ素化合物としては、フッ化水素酸(フッ酸)などが用いられる。フッ素化合物としてフッ酸を用いることにより、CaF
2微粒子中に不純物イオンが残り難くなる。
【0047】
カルシウム化合物とフッ素化合物との反応は、それぞれを溶解して水溶液を調製し、常温、常圧下で、カルシウム化合物水溶液中に、フッ素化合物水溶液を徐々に注入することによって行うことができる。
【0048】
カルシウム化合物とフッ素化合物との反応時には、反応混合物中に存在する、希土類イオンや遷移金属イオンなどの他のイオン量を出来る限り少なくすることができる。反応混合物中に、Caイオンおよびフッ素イオンと、これら以外の他のイオンとが共存すると、形成されるCaF
2微粒子に、これらのイオンが取り込まれることにより、CaF
2の結晶性が低下し、粒子が凝集し易くなる。そのため、後述する焼結において、強く凝集された粒子が解離できず、CaF
2系透光性セラミックス中にボイドが残留して密度が低下するなどの問題を生じ、焼結性が悪化し易くなる。また、焼結において、焼結条件の僅かな変化でも高密度の焼結体が得られなくなることが多くなる。このように、Caイオンおよびフッ素イオン以外のイオンは焼結性に敏感に影響して焼結性を悪化させるため、含有量を出来る限り少なく抑えることができる。
【0049】
また、カルシウム化合物とフッ素化合物との反応時に、フッ素化合物の添加量を、カルシウム化合物に対する化学当量(CaF
2に換算した場合の化学当量)より多い過剰量とすることができる。これにより、形成されるCaF
2微粒子の結晶性が向上し、凝集を抑えることができる。その結果、フッ素欠損が少なく、結晶性の高いCaF
2微粒子が形成される。
【0050】
また、カルシウム化合物水溶液中に、フッ素化合物水溶液を注入する際に、カルシウム化合物水溶液とフッ素化合物水溶液の混合溶液の攪拌を行い、さらに、注入終了後もその混合溶液の攪拌を続けることができる。これにより、生成されるCaF
2結晶からなる一次粒子の凝集を抑えることができる。ところで、一次粒子が強く凝集した状態でCaF
2微粒子が生成された場合、焼結および透明化の際に加熱、加圧しても、その凝集を解離できず、CaF
2系透光性セラミックス中にボイドが残留し、緻密なセラミックスが得られ難くなることがある。そのため、CaF
2結晶生成期間中は十分に、上記の混合溶液の攪拌を行うことができる。
【0051】
上記のように、常温、常圧下でカルシウム化合物とフッ素化合物とを反応させた後、反応混合物を密閉容器に収納し、100℃以上200℃以下で加熱・加圧処理を行う水熱反応処理を行うことができる。
常温、常圧下でカルシウム化合物とフッ素化合物とを反応させるだけでは、この反応は十分に進行せず、結晶はフッ素欠損の多いフッ化物となっている。そのため、このままでは、得られる反応混合物中の結晶の化学量論比はCaが1に対して、Fが2より小さく、結晶性が低く、凝集し易くなる。
【0052】
そこで、常温、常圧下でカルシウム化合物とフッ素化合物とを反応させた後、さらに、100℃以上200℃以下で加熱・加圧処理を行う水熱反応処理を行い、カルシウム化合物とフッ素化合物の反応を完結させることができる。
水熱反応処理に用いられる容器は特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製のオートクレーブなどの密閉容器が用いられる。
水熱反応処理の温度は、120℃以上180℃以下とすることができる。
水熱反応処理の圧力は、120℃以上180℃以下の温度範囲における水の飽和蒸気圧である0.2MPa以上1.0MPa以下とすることができる。
【0053】
これにより、CaF
2微粒子において、Ca1に対するFの割合を実質的に2にでき、結晶性の高いCaF
2微粒子を形成できる。そのため、CaF
2微粒子の表面が安定になり、微粒子間の凝集力を小さくできる。その結果、比較的低温でも高密度に焼結し易く、焼結性に優れたCaF
2微粒子が得られる。
なお、上記の作製方法によれば、例えば、一次粒子の平均粒径が100nm以上200nm以下のCaF
2微粒子が得られる。
【0054】
「RF
3微粒子の作製」
RF
3微粒子は、CaF
2微粒子の作製とほぼ同様に、希土類化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させ、次いで、密閉容器内で100℃以上200℃以下に加熱して作製することができる。
【0055】
RF
3微粒子の作製に用いられる希土類化合物としては、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、アスコルビン酸塩、アルギン酸塩、安息香酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、パントテン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、酒石酸塩、グリセリン酸塩、トリフルオロ酢酸塩などの希土類の有機酸塩、希土類の塩化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩などの無機塩が挙げられる。これらの希土類化合物の中でも、酢酸塩を用いることができる。
【0056】
フッ素化合物としては、フッ化水素酸(フッ酸)などが用いられる。フッ素化合物としてフッ酸を用いることにより、RF
3微粒子中に不純物イオンが残り難くなる。
【0057】
希土類化合物とフッ素化合物との反応は、それぞれを溶解して水溶液を調製し、常温、常圧下で、希土類化合物水溶液中に、フッ素化合物水溶液を徐々に注入することによって行うことができる。
ここでは、希土類化合物を十分に溶解させるために、微量の硝酸などの無機酸を添加してもよい。
【0058】
希土類化合物とフッ素化合物との反応時には、反応混合物中に存在する、Caイオンなどの他のイオン量を出来る限り少なくすることができる。これにより、形成されるRF
3微粒子の結晶性の低下を抑制し、焼結性を向上させることができる。
また、希土類化合物とフッ素化合物との反応時に、フッ素化合物水溶液の注入量を、希土類化合物水溶液(例えば、酢酸イッテルビウム水溶液)に対する化学当量(RF
3に換算した化学当量)より多い過剰量とすることができる。これにより、形成されるRF
3微粒子の結晶性の低下を抑制し、微粒子間の凝集力を弱くすることができる。
さらに、希土類化合物水溶液中に、フッ素化合物水溶液を注入する際およびその後に、希土類化合物水溶液とフッ素化合物水溶液の混合溶液の攪拌を行うことにより、生成されるRF
3結晶からなる一次粒子の凝集を抑えることができる。
【0059】
そこで、常温、常圧下で希土類化合物とフッ素化合物とを反応させた後、さらに、100℃以上200℃以下、好ましくは120℃以上180℃以下で加熱・加圧処理を行う水熱反応処理を行い、希土類化合物とフッ素化合物の反応を完結させる。
これにより、フッ素欠損を抑え、RF
3微粒子の結晶性を高くすることができる。そのため、粒子が凝集し難くすることができ、比較的低温で焼結しても高密度のRF
3微粒子を形成することができる。
なお、上記作製方法によれば、例えば、一次粒子の平均粒径50nm以上100nm以下のRF
3微粒子が得られる。
【0060】
このようにして得られたCaF
2微粒子を含有する反応混合物およびRF
3微粒子を含有する反応混合物は、何れも強酸性の水溶液中に結晶の微粒子が分散された懸濁液となっている。そのため、これらの反応混合物を遠心分離機などにより固液分離し、室温以上200℃以下の温度で乾燥することによって、乾燥粉末を得る。このように、固液分離と乾燥によって強酸性の水溶液を分離することで、その後の処理や保管時において取扱が容易になる。さらに、液相中への不純物の混入も抑制できる。また、CaF
2微粒子とRF
3微粒子の両者を一定の割合で混合する際に、粉末であれば正確に秤量できるので屈折率などの光学性能が安定する。
【0061】
「セラミックス形成用組成物の調製」
セラミックス形成用組成物は、乾燥粉末状のCaF
2微粒子とRF
3微粒子とを混合することにより調製することができる。セラミックス形成用組成物は、焼結および透明化することで、透光性セラミックスを形成可能な材料である。セラミックス形成用組成物は、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子を所定の質量比で正確に含有していればよく、均一に混合されていてもよい。また、セラミックス形成用組成物は、粉末状であってもよく、スラリーなどのように分散液中に分散あるいは懸濁されていてもよい。
【0062】
セラミックス形成用組成物を調製するには、CaF
2微粒子とRF
3微粒子の粉末を準備した後、これらを所定の質量比で正確に秤量し、容器に投入する。
次いで、容器内に蒸留水を加えて、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子を含む懸濁液を調製する。
さらに、この懸濁液を湿式分散装置にかけて湿式混合する。これにより、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の凝集粒子を解砕し、一次粒子にまで分散させて、両方の粒子を均一混合状態にする。湿式混合により混合すると、乾式混合よりも粒子を均一に混合できる上に、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の一次粒子に、過剰な応力による損傷を与え難くすることができる。
【0063】
二次粒子の凝集状態を解離するのに有効な手段としては、化学的処理による凝集力低下と機械的処理による凝集粒子破壊が挙げられる。
化学的処理による凝集力低下においては、水熱処理を終了したCaF
2微粒子およびRF
3微粒子のスラリーを乾燥させる際、分散液を蒸留水から、プロパノールなどの高級アルコールに置換し、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子を高級アルコールで洗浄してから乾燥させると、凝集力を弱くすることができ、その後の機械的処理による凝集粒子破壊が容易になる。
【0064】
機械的処理による凝集粒子破壊においては、攪拌羽根などによる攪拌、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速旋回機、超音波分散などの分散機を用いて、凝集破壊を行うことができる。
【0065】
機械的処理による凝集粒子破壊の場合、過剰な応力を与えると、一次粒子に応力が残留したり、一次粒子が破損したりするため、焼結の段階でCaF
2系透光性セラミックスが割れたり、反りを生じる易くなる。また、ビーズミルなどのメディアタイプの装置を用いた場合、ビーズ自体あるいは装置の摩耗に起因するコンタミネーションが問題になることがある。そこで、ビーズとしては、一般的に用いられている、部分安定化ジルコニアより窒化珪素または炭化珪素のビーズを用いることができる。好ましくは、ビーズなどの分散媒体を使用しない、すなわち、メディアレスタイプの装置である高圧ホモジナイザーを用いて凝集粒子破壊を行うことができる。
【0066】
その後、分散液中にCaF
2微粒子およびRF
3微粒子が均一に混合された微粒子混合物を遠心分離機により固液分離する。
ここで、凝集粒子が破壊されて一次粒子にまで分散されると、遠心分離による固液分離が困難になる場合がある。そこで、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子を含む懸濁液に、アルカリ溶液を添加して、その懸濁液のpHをアルカリ性にすると、一次粒子が再凝集して容易に遠心分離できるようになる。
【0067】
アルカリ液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機アルカリ溶液、テトラメチルアンモニムハイドロオキサイド(TMAH)や2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどの有機アルカリ溶液などが用いられる。
有機アルカリ溶液を用いれば、無機アルカリ溶液のように、ナトリウムやカリウムなどの不純物が分散液中に混入する問題が生じない。また、有機アルカリ溶液は、加熱することで容易に分解・離脱するため、CaF
2系透光性セラミックス中に残留し難い。懸濁液のpHを7以上のアルカリ性にすると、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子が遠心沈降するようになるが、12以上13.5以下にすると均一な焼結体を得ることができる。
【0068】
この場合の再凝集は、CaF
2微粒子とRF
3微粒子の一次粒子が均一混合された後に起こる現象であるから、粉末全体としては組成の均一性が保たれている。したがって、遠心分離して、上澄み液を捨ててから100℃で乾燥させると、所定の質量比でCaF
2微粒子とRF
3微粒子を含む乾燥粉末が得られる。あるいは、遠心分離機を用いずに、凍結乾燥法や噴霧乾燥法などにより直接乾燥しても、所定の質量比でCaF
2微粒子とRF
3微粒子を含む乾燥粉末が得られる。
【0069】
上記の凝集解離により、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子のそれぞれ80%以上(個数比)、好ましくは95%以上を一次粒子とすることができる。
このようにして、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の凝集を解離し、破壊することで、ほぼ一次粒子にまで分散させながら湿式混合を行えば、各々の一次粒子をより均一に混合できる。これにより、焼結後のCaF
2系透光性セラミックスにおいて、内部の組成の斑を少なくすることができ、内部均質性に優れたCaF
2系透光性セラミックスが得られる。
【0070】
上記のように、湿式混合を行うことにより、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の一次粒子が出来る限り均一に混合された状態の微粒子混合物を調製することができる。微視的に見ると、湿式混合により微粒子混合物中で、CaF
2微粒子とRF
3微粒子の一次粒子が接近して存在するようになると、CaF
2微粒子とRF
3微粒子間の固相反応がより低温で進行する利点もある。その結果、焼結時に起こるフッ素欠損を抑制でき、透過率を向上することができる。
【0071】
「微粒子混合物の成形および焼結」
次に、上記のようにして得られた微粒子混合物の乾燥粉末を、金型一軸プレス装置などにより加圧して、成形体を作製する。
さらに、静水圧プレスにかけると、金型一軸プレスでしばしば発生するラミネーション(プレス方向と垂直方向に層状に剥離する現象)を防ぐことができ、大型の成形体を作製するのに有利である。
【0072】
この成形体を、大気中で750℃以上900℃以下の温度で加熱して焼結することができ、800℃以上900℃以下の温度で加熱して焼結することが好ましい。
このとき、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の一次粒子の凝集が破壊されているとともに、CaF
2微粒子およびRF
3微粒子の結晶性が高いので、高密度に焼結でき、相対密度の高い焼結体を得ることができる。
焼結温度が750℃未満では、緻密な焼結体を得ることが難しいことがある。一方、焼結温度が900℃を超えると、CaF
2結晶やRF
3結晶からフッ素が脱離する現象が顕著となり、透明度の高いCaF
2系透光性セラミックスが得られ難くなることがある。
【0073】
さらに、必要に応じて、HIP処理による二次焼結を行う。
上記の成形体を大気中で焼結(一次焼結)した段階で、その焼結体は透光性になるので、残留気孔が少なくなっている。よって、HIP処理における温度も比較的低くてよく、700℃以上1000℃以下とすることができ、800℃以上950℃以下であることが好ましい。また、HIP処理は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中で行われるが、その不活性雰囲気による圧力は、500kg/cm
2以上3000kg/cm
2以下とすることができ、1000kg/cm
2以上2000kg/cm
2以下であることが好ましい。このHIP処理により、得られた焼結体は、十分に透明化される。すなわち、HIP処理において加熱、加圧される間に一次焼結によって得られた焼結体内部に残留していた気孔が外部に押し出されて透明になり、一次焼結時よりさらに高密度化し、より高い相対密度の透明な焼結体が得られる。これにより、CaF
2系透光性セラミックスの製造が完了する。
【0074】
本実施形態のCaF
2系透光性セラミックスの製造方法では、CaF
2微粒子と、このCaF
2微粒子とは別に作製されたRF
3微粒子とを混合して微粒子混合物とし、この微粒子混合物を焼結および透明化する。このようなCaF
2系透光性セラミックスの製造方法によれば、微粒子混合物の焼結性を確保し易い。したがって、通常1400〜1600℃以上の高温で焼結することによって透光性が得られる酸化物セラミックスと比べると、大幅に低い焼結温度で透光性のセラミックスを得ることができる。
【0075】
「光学装置」
図11は、本実施形態におけるCaF
2系透光性セラミックスを母材とするレンズ4(光学素子)を備えた撮像装置1(光学機器)を示している。
この撮像装置1は、レンズ交換式カメラであり、この撮像装置1は、カメラボディ2のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒3が着脱自在に取り付けられ、このレンズ鏡筒3のレンズ4を通した光がカメラボディ2の背面側に配置されたマルチチップモジュール7のセンサチップ(固体撮像素子)5上に結像される。このセンサチップ5は、いわゆるCMOSイメージセンサ等のベアチップである。
マルチチップモジュール7は、例えばセンサチップ5がガラス基板6上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
本実施形態の光学素子を備えた撮像装置は、レンズ交換式カメラに限られず、コンパクトカメラ、工業用カメラ、スマートフォン用カメラモジュール等の撮像手段を備えた種々の光学機器が含まれる。また、本実施携帯の光学素子を備えた光学機器としては、撮像装置に限らず、プロジェクタ、カメラ用交換レンズ、顕微鏡、各種レーザ機器等を挙げることができる。光学素子としては、レンズに限らず、プリズムを挙げることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実験例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実験例に限定されるものではない。
【0077】
「CaF
2微粒子の作製」
酢酸カルシウム水和物180.4g(1mol)に蒸留水を640gと硝酸10mlを加えて、酢酸カルシウム水和物を完全に溶解し、酢酸カルシウム水溶液を調製した。
濃度50%のフッ化水素酸(フッ酸)163.8g(4mol)に同じ質量の蒸留水を加えてフッ酸水溶液を調製した。
【0078】
羽根付き攪拌棒(羽根径10cm)を300rpmで回転させ、酢酸カルシウム水溶液を攪拌しながら、酢酸カルシウム水溶液にフッ酸水溶液をゆっくり注入した。このとき、酢酸カルシウム水溶液を収納するプラスチックビーカー(直径13cm)の側面に、フッ酸水溶液の注入口を取り付け、ローラーチューブポンプで吸い出したフッ酸水溶液を酢酸カルシウム水溶液の中に約1時間かけて注入した。
フッ酸水溶液の注入が終了した後、そのまま攪拌を6時間続け、凝集した粒子を破壊して粒径を小さくしつつ、CaF
2スラリーを調製した。
【0079】
得られたCaF
2スラリーを、ポリテトラフルオロエチレン製のオートクレーブに入れて密閉し、145℃で24時間加熱、加圧することにより水熱反応を行い、CaF
2微粒子が懸濁されたスラリーを得た。
このスラリーを遠心分離機にかけて微粒子を沈降させ、上澄み液を捨てた後、イソプロピルアルコールを加えて粒子を再分散させた。再び遠心分離機にかけ、上澄み液を捨てた。この操作をもう一度繰り返し、沈降した微粒子を100℃で乾燥してCaF
2微粒子の乾燥粉末を得た。このようにアルコール置換と遠心分離を繰り返すことにより、CaF
2微粒子をイソプロピルアルコールでよく洗浄し、乾燥時に起こる一次粒子同士の凝集力を出来る限り弱めた。
【0080】
「RF
3微粒子の作製」
RF
3微粒子の一例であるYbF
3を、CaF
2微粒子とほぼ同様な方法で作製した。
酢酸イッテルビウム水和物50g(0.17mol)に蒸留水を1000g加え、さらに、硝酸15mlを加えて、酢酸イッテルビウム水和物を完全に溶解し、酢酸イッテルビウム水溶液を調製した。
濃度50%のフッ化水素酸(フッ酸)183.8g(5mol)に同じ質量の蒸留水を加えてフッ酸水溶液を調製した。
【0081】
CaF
2微粒子の作製と同様に、酢酸イッテルビウム水溶液を攪拌しながら、酢酸イッテルビウム水溶液にフッ酸水溶液をゆっくり注入した。フッ酸水溶液の注入が終了した後、そのまま攪拌を続け、凝集した粒子を破壊して粒径を小さくしつつ、YbF
3スラリーを調製した。
さらに、得られたYbF
3スラリーに、CaF
2スラリーと同様にして水熱反応処理を行い、YbF
3微粒子が懸濁されたスラリーを得た。
このスラリーを、CaF
2微粒子の作製と同様に遠心分離機にかけて粒子を沈降させ、遠心沈降した粒子を100℃で乾燥してYbF
3微粒子の乾燥粉末を得た。
【0082】
得られたYbF
3微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を
図1に示す。
図1から、YbF
3微粒子の一次粒子径は約70nmであった。また、TEMを用いて高倍率で観察すると、粒子内に格子像が見られたことから、YbF
3微粒子は、よく結晶化していることが確認された。また、TEMを用いて低倍率で観察すると、YbF
3微粒子は、多数の一次粒子が凝集した二次粒子を形成しており、二次粒子径は最大で10μm程度となっていた。
【0083】
YbF
3と同様にして、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luを含む希土類フッ化物も作製した。
【0084】
「湿式混合」
CaF
2微粒子が懸濁されたスラリーに、少量のRF
3微粒子が懸濁されたスラリーを添加して、セラミックス形成用組成物を調製した。
1種類のRF
3微粒子を添加する場合、CaF
2微粒子と1種類のRF
3微粒子の合計が100mol%となるように秤量して、上記のスラリーを混合した。同様に、2種類のRF
3微粒子を添加する場合、CaF
2微粒子と2種類のRF
3微粒子の合計が100mol%となるように秤量して、上記のスラリーを混合した。
【0085】
CaF
2微粒子とRF
3微粒子の混合粉末の質量比が20%となるように、セラミックス形成用組成物に蒸留水を加え、市販の湿式分散装置(ナノマイザー(登録商標)、NM2−L200、吉田機械興業社製)で200MPaの圧力をかけて分散し、CaF
2微粒子とRF
3微粒子の凝集粒子を破壊し、CaF
2微粒子とRF
3微粒子を含む懸濁液を得た。
その後、この懸濁液は静置しても沈降しなかったことから、懸濁液中でCaF
2微粒子とRF
3微粒子が均一に分散された状態を実現できた。
この懸濁液に15%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を添加してpHを13にすることにより、CaF
2微粒子とRF
3微粒子を再凝集させた。
その後、遠心分離によりCaF
2微粒子とRF
3微粒子を沈降させ、沈降した微粒子を100℃で乾燥して、CaF
2微粒子とRF
3微粒子の微粒子混合物の乾燥粉末を得た。
【0086】
「微粒子混合物の成形および焼結」
微粒子混合物の乾燥粉末3gを直径20mmの金型を用いて一軸プレス成形して成形体(一次成形体)とし、さらに、その成形体を100MPaで静水圧プレスして成形体(二次成形体)を作製した。
この成形体を、大気中、800℃で1時間保持し、一次焼結した。
さらに、この焼結体を、HIP処理により二次焼結する場合、この焼結体を熱間等方圧加圧(HIP)装置(O
2−Dr.HIP(登録商標)、神戸製鋼所製)により、1000kg/cm
2の高圧アルゴン雰囲気下、800〜950℃の各温度で2時間加熱した。
【0087】
「組成」
表1および表2に示すように、CaF
2微粒子にRF
3微粒子を1成分(実験例1〜15)あるいは2成分(実験例16〜46)添加した微粒子混合物を調製した(添加量はmol%)。
これらの微粒子混合物の成形体は全て800℃で1時間大気中焼結し、一部はさらにHIP処理まで行い、円板状のCaF
2系透光性セラミックスを得た。
得られた円板状の透光性セラミックスの両面を研磨して厚さを3mmとし、波長550nmにおける透過率を測定した。また、波長356nmの紫外線を照射した時に発する蛍光色を観察した。これらの結果を表1および表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
「透過率」
表1および表2の結果から、HIP処理なしの場合、RF
3微粒子を1種類添加した実験例1〜13では、CaF
2系透光性セラミックスが全て白濁した。これに対して、HIP処理なしで、RF
3微粒子を2種類添加した実験例16、18、21、25、29、31では、5%の高濃度YbF
3を添加した実験例21と1%のGdF
3を添加した実験例31において、CaF
2系透光性セラミックスがやや白濁したのを除いて、全て透明であった。つまり、RF
3微粒子を2種類添加すれば、大気中、800℃の焼結のみで、ほぼ透明にすることができることが確認された。一方、RF
3微粒子を1種類しか添加しないと、大気中、800℃の焼結のみでは、CaF
2系透光性セラミックスが透明にならず、実験例14および15のようにHIP処理しても透明化が困難であった。
【0091】
また、
図2に示すように、HIP処理なしの実験例1〜13、16、18、21、25、29、31について、透過率を比較すると、RF
3微粒子を1種類添加した実験例1〜13では、平均透過率が64.2%であった。これに対して、RF
3微粒子を2種類添加した実験例16、18、21、25、29、31では、平均透過率が80.3%であり、RF
3微粒子を1種類添加した場合よりも透過率が高くなった。
したがって、外観および透過率の比較から、RF
3微粒子を1種類添加するより2種類添加した方がCaF
2系透光性セラミックスの透明度が向上することが明らかになった。
【0092】
また、HIP処理を行うことにより、実験例17、19、22、23、26、30では、透過率を90%以上にすることができた。CaF
2の透過率の理論限界が約93%であることから、実験例17、19、22、23、26、30のCaF
2系透光性セラミックスは、残留気孔がほとんどなく、極めて緻密に焼結されていることが分かった。
さらに、RF
3を2種類添加した実験例17、19、20、22〜24、26〜28、30、32〜46では、焼結温度(HIP処理温度)を950℃以下に下げることができ、フッ素の揮発に起因するCaF
2系透光性セラミックスの曇りの発生を抑えることができた。
以上の結果から、実験例17、19、20、22〜24、30、32、34、35、38、40〜46で得られたCaF
2系透光性セラミックスは、レンズとして用いることができる無色透明なものであると言える。
【0093】
「蛍光発光」
表1および表2の結果から、可視域で蛍光発光するのは、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tmのいずれかを含む実験例3〜8、13〜15、29、30、33、35〜38、40〜46のCaF
2系透光性セラミックスであり、肉眼で発色を認識できた。
一方、La、Pr、Nd、Yb、Gd、Luのいずれかのみを含む実験例1、2、9〜12、16〜28、31、32、34のCaF
2系透光性セラミックスは、蛍光発光しないか、または、近赤外域で発光するので、肉眼で発色を認識できなかった。
また、実験例6では希土類としてDyのみが含まれ、実験例7では希土類としてHoのみが含まれるが、これら実験例6および7のCaF
2系透光性セラミックスは、非常に弱い発光しか示さなかった。これに対して、希土類としてDyまたはHoに加えて、LaまたはYbが含まれる、実験例33、35、43のCaF
2系透光性セラミックスは、発光強度が高くなった。
以上の結果から、RF
3微粒子を2種類添加すると、CaF
2系透光性セラミックスの透明度が高くなるだけでなく、R
3+が結晶中に安定に存在できることから、蛍光の発光強度も高くなることが分かった。
【0094】
「機械的強度」
図3に、実験例6で得られたDyF
3が3%含まれるCaF
2系セラミックス、希土類が含まれない(無添加)CaF
2を大気中、800℃で焼結した焼結体、および、この焼結体をさらに処理温度1050℃でHIP処理した焼結体の3点曲げ試験の結果を示す。
図3の結果から、実験例6のCaF
2系セラミックスは、内部に気孔がほとんど含まれていないので透明であり、粒成長もほとんどしていないので機械的強度が最も高くなった。
また、無添加CaF
2の焼結体は、内部に気孔が多く含まれているため不透明であり、実験例6のCaF
2系セラミックスよりも機械的強度が低かった。
また、1050℃でHIP処理したCaF
2の焼結体は、内部に含まれていた気孔がほぼ除去されて透明になっているが、粒成長しているため、機械的強度が最も低かった。
図4に、実験例6のCaF
2系セラミックスの内部微細構造を示す。
図4から、実験例6では、焼結温度が800℃と極めて低いので、CaF
2系セラミックスを構成するCaF
2微粒子やDyF
3微粒子の粒子径が1〜2μmと非常に小さく、ほとんど粒成長していないことが確認された。
【0095】
「白色蛍光体の母材」
実施例18と同様に、LaF
3微粒子が1%とYbF
3微粒子が1%添加されたCaF
2微粒子に、硫化物蛍光体としてCaS:EuおよびSrS:Eu、酸化物蛍光体としてY
3(Al、Ga)
5O
12:Ce(YAG:CeのAlの一部をGaに置き換えた蛍光体)をそれぞれ1質量%添加し、エタノールを加えて乳鉢でよく混合した。この混合物を乾燥させて、乾燥した混合粉末から成形体を作製し、その成形体を800℃から1000℃の各温度で1時間焼結して、厚さ1mmのCaF
2系透光性セラミックスを作製した。
このCaF
2系透光性セラミックスを、青色LED(商品名:OS−DP3−B1、主波長470nm、三菱電機オスラム社製)の上に置いて、CaF
2系透光性セラミックスの裏面に青色光を照射して、発光を確認した。結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3の結果から、CaS:Euを添加したもののうち、焼結温度が950℃までのものは蛍光発光することが確認された。一方、SrS:Euを添加したもののうち、焼結温度が900℃までのものは蛍光発光することが確認された。また、Y
3(Al、Ga)
5O
12を添加したものは、焼結温度が1000℃まで青っぽい白色の蛍光発光が確認された。
焼結体(CaF
2系透光性セラミックス)の透光性は、焼結温度が800℃の場合に最も高くなり、それよりも焼結温度を高くすると低下したので、800℃で1時間の焼結条件が最適であった。
【0098】
実施例18と同様に、LaF
3微粒子が1%とYbF
3微粒子が1%添加されたCaF
2微粒子に、蛍光体としてCaS:Euを0.3質量%とYAG:Ceを1質量%添加し、エタノールを加えて乳鉢でよく混合した。この混合物を乾燥させて、乾燥した混合粉末から成形体を作製し、その成形体を800℃で1時間焼結して、厚さ1mmのCaF
2系透光性セラミックスを作製した。
このCaF
2系透光性セラミックスを、青色LED(商品名:OS−DP3−B1、主波長470nm、三菱電機オスラム社製)の上に置いて、CaF
2系透光性セラミックスの裏面に青色光を照射した。すると、CaF
2系透光性セラミックスの表面から、白色の蛍光が発光した。CaF
2系透光性セラミックスからの蛍光の全光束を、Sphere Optics社製のLED評価システムLCD−100および大型積分球を用いて測定した。
また、この比較例として、蛍光体としてYAG:Ceのみを1質量%添加して作製したCaF
2系透光性セラミックスについても、同様の全光束測定を行った。
以上の全光束測定の結果を
図5に示す。
【0099】
図5の結果から、xy色度、色温度(K)、演色性指数(Ra)を求めた。結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4の結果から、蛍光体としてYAG:Ceのみを添加した場合、青色LEDから発光された青色光と、YAG:Ceから蛍光発光した黄色光が合成されて、CaF
2系透光性セラミックスの表面から擬似白色光が発光されるため、色温度が高く、演色性指数(Ra)が低くなった。
これに対して、蛍光体としてCaS:EuとYAG:Ceを添加した場合、650nm付近に赤色が追加されて演色性が向上し、色温度が低下し、演色性指数(Ra)が著しく向上した。
【0102】
「レーザー結晶」
図6に、実験例20のLaF
3微粒子が1%とYbF
3微粒子が3%添加されたCaF
2微粒子で作製されたCaF
2系透光性セラミックスの透過率スペクトルを示す。
図6から、実験例20のCaF
2系透光性セラミックスは、970nm付近に大きな吸収ピークが存在していた。
また、
図7に示す光学系を用いて、実験例20のCaF
2系透光性セラミックスに波長976nmの励起光を照射したところ、中心波長1047nmのレーザー光を発振した。
また、
図8に示すように、このときの吸収パワーとレーザー出力パワーとの関係をグラフにしたところ、吸収パワー対レーザー出力パワーの比(スロープ効率)は20.1%であった。
【0103】
図9に、実験例28のLaF
3微粒子が1%とNdF
3微粒子が0.5%添加されたCaF
2微粒子で作製されたCaF
2系透光性セラミックスの透過率スペクトルを示す。
また、
図7に示す光学系を用いて、実験例28のCaF
2系透光性セラミックスに波長790nmの励起光を照射したところ、中心波長1065.6nmと1066.0nmのレーザー光を発振した。
図10に示すように、このときの吸収パワーとレーザー出力パワーとの関係をグラフにしたところ、吸収パワー対レーザー出力パワーの比(スロープ効率)は1.3%であった。
【0104】
「光学恒数」
実施例19及び実施例28のCaF
2系透光性セラミックスの光学恒数を求めた。結果を表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
表5の結果から、実施例19及び実施例28のCaF
2系透光性セラミックスが、フッ化カルシウム単結晶と同様の低屈折率・低分散を有することが明らかになった。
【0107】
「比較例」
CaF
2微粒子とRF
3微粒子とを別々に作製する代わりに、酢酸カルシウムと1mol%の希土類酢酸塩を同時に溶解した水溶液に、フッ化水素酸(フッ酸)を加えて反応させて微粒子を得たこと以外は、実験例1と同一にしてセラミックスを作製した。
希土類酢酸塩としては、希土類として、Yb、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luを含むものを用いた。
その結果、全ての希土類において透光性セラミックスが得られなかった。