【実施例】
【0046】
或る特定のバイアス電圧においてヘリウムイオンおよびホウ素イオンに対するレジストのイオン停止特性を決定する実験が行われた。
【0047】
ヘリウムイオン打込み:バイアス電圧7kVおよび2kVでのヘリウムイオン注入について実験が行われた。7kVでは、ヘリウムイオンのレジスト層の貫通を阻止するために必要なレジスト厚さは約120nmであった。パターンの選択領域のレジスト厚さは、45nmとすることができ、パターンの選択領域に近接した厚さ20nmのCoベースの磁気薄膜に依然としてヘリウムイオンを貫通させうる。2kVでは、ヘリウムイオンのレジスト層の貫通を阻止するのに必要なレジスト厚さは約85nmであった。パターンの選択領域でのレジスト厚さは、10nmとすることができ、パターンの選択領域に近接した厚さ20nmのCoベースの磁気薄膜に依然としてヘリウムイオンを貫通させうる。
【0048】
ホウ素イオン打込み:バイアス電圧9kVでのホウ素イオン注入について実験が行われた。9kVでは、レジスト層をホウ素イオンが貫通することを阻止するために必要なレジスト厚さは約65nmであった。パターンの選択領域のレジスト厚さは、10nmとすることができ、パターンの選択領域に近接した厚さ20nmのCoベースの磁気薄膜に依然としてホウ素イオンを貫通させうる。
磁気特性
実施例1a:
【0049】
約100nmのFeNi合金軟質下層をスパッタされたガラス基板が使用された。約20nmのCoCrPt合金磁気薄膜層が、FeNi合金軟質下層上にスパッタされた。上で説明されたように準備されたサンプルは、ドーパントガスのヘリウムをプロセスチャンバの中へ送り込むことによって、ヘリウムイオンを含有するプラズマに供された。プロセスチャンバの圧力は、約15ミリトルであり、RFバイアス電圧は約2kVであり、電源電力は約500ワットであり、ドーパントガスのヘリウムは約300sccmの流量で送り込まれ、打込み時間は約25秒であった。随意に、プラズマの生成を支援するために不活性ガスも送り込まれることがある。例えば、約16sccmの流量のアルゴンも送り込まれることがある。
【0050】
サンプル中へのHeイオンの侵入の分布が、上で説明されたプロセスパラメータでシミュレーションプログラムを使用して調べられた。TRIMとして知られているシミュレーションプログラムが、シミュレーションを行うために使用可能である。TRIMプログラムは、www.srim.orgから、SRIMとして知られているプログラムのグループの一部として入手可能である。
図7Aおよび7Bは、シミュレーションの結果を示す。ここで
図7Aを参照すると、厚さ約85nmのレジストは、高エネルギーHeイオンがCoCrPt磁気薄膜層の中へ侵入するのを阻止するのに十分であることが明らかである。ここで
図7Bを参照すると、約10nmのレジスト層と約28オングストロームの炭素層が高エネルギーイオンによってうまく貫通され、さらに高エネルギーイオンは、約20nmのCoCrPt磁気薄膜層の実質的に全体にわたって侵入していることが明らかである。
【0051】
Heイオン注入に供されなかったサンプルについて、磁気膜の磁気特性が、物理特性測定システムを使用して測定されて、ベースラインが設定された。サンプルをHeイオン注入に供した後で、Heイオン注入に供された磁気膜の部分の磁気特性が、物理特性測定システムを使用して測定された。
図7Cは、Heイオン注入に供されなかった磁気膜の磁化曲線を示す。飽和磁気(Ms)が約1.36テスラであることが、
図7Cから明らかである。
図7Dは、Heイオン注入に供された磁気膜の部分の磁化曲線を示す。Heイオン注入に供された磁気膜の部分の飽和磁気(Ms)は、Heイオン注入に供されなかったベースライン磁気薄膜に比べて、約0.1テスラまで落ちている。したがって、磁気薄膜は、適切なプロセス条件の下でHeイオン注入に供されて、選択部分が相当に異なる磁気特性を示す状態に磁気特性を実質的に変えることがある。
実施例1b:
【0052】
サンプルが熱アニールに供されたことを除いて、実施例1aで使用されたのと同様なサンプルが、実施例1bで使用された。熱アニールは、摂氏約100度と摂氏約200度の両方で、約10トルから約5トルの圧力の真空中で約1時間行われた。
【0053】
サンプルを熱アニールに供した後で、Heイオン注入と熱アニールの両方に供された磁気膜の部分の磁気特性が、物理特性測定システムを使用して測定された。Heイオン注入に供されなかった磁気膜のベースライン磁気曲線は、約1.36テスラの飽和磁気(Ms)を示す。Heイオン注入と摂氏100度での熱アニールの両方に供された磁気膜の部分の磁化曲線は、約0.01テスラの飽和磁気(Ms)を示した。Heイオン注入と摂氏200度での熱アニールの両方に供された磁気膜の部分の磁化曲線は、約0.03テスラの飽和磁気(Ms)を示した。実施例1aおよび1bのサンプルの結果に基づいて、サンプルを熱アニールすることで、アニールに供された磁気薄膜の部分の飽和磁気(Ms)はさらに下がったことが明らかである。したがって、磁気薄膜は、適切なプロセス条件の下でHeイオン注入と熱アニールの両方に供されて、選択的部分が相当に異なる磁気特性を示す状態に磁気特性を実質的に変えることがある。実験は、約2kVのバイアス電圧で行われたが、バイアス電圧は、1kVから11kVの範囲、好ましくは1kVから3kVの範囲である可能性がある。
実施例2:
【0054】
実施例1aで使用されたのと同様なサンプルが、ホウ素イオンの侵入について使用された。上で説明されたように準備されたサンプルは、ドーパントガスBF3をプロセスチャンバの中へ送り込むことによって、ホウ素イオンを含有するプラズマに供された。プロセスチャンバの圧力は約15ミリトルに維持され、RFバイアス電圧は約9kVであり、電源電力は約500ワットであり、ドーパントガスBF3は約300sccmの流量で送り込まれ、さらに打込み時間は約20秒であった。随意に、プラズマの生成を支援するために、不活性ガスも送り込まれることがある。例えば、約16sccmの流量のアルゴンも送り込まれることがある。
【0055】
サンプル中へのホウ素イオンの侵入の分布が、上で説明されたプロセスパラメータでシミュレーションプログラムを使用して調べられた。
図8Aおよび8Bは、シミュレーションの結果を示す。ここで
図8Aを参照すると、厚さ約65nmのレジストは、高エネルギーホウ素イオンがCoCrPt磁気薄膜層の中へ侵入するのを阻止するのに十分であることが明らかである。
図8Aから明らかなことであるが、約10nmのレジスト層および約28オングストロームの炭素層が高エネルギーイオンによってうまく貫通されることがある。高エネルギーイオンは、さらに、約20nmのCoCrPt磁気薄膜層の実質的に全体にわたって侵入することができる。
【0056】
図8Cを参照すると、ホウ素原子およびCo原子の濃度は、二次イオン質量分光器(SIMS)を使用して決定された。
図8Cから、Co濃度は実質的にもとのままであったことが明らかである。また、明らかなことであるが、ホウ素濃度は、深さ約10nmにわたって一定のままであり、その後で徐々に減少した。
【0057】
ホウ素イオン注入に供されなかったサンプルについて、磁気膜の磁気特性が、物理特性測定システムを使用して測定されて、ベースラインが設定された。サンプルをホウ素イオン注入に供した後で、ホウ素イオン注入に供された磁気膜が、物理特性測定システムを使用して測定された。
図8Dは、ホウ素イオン注入に供されなかった磁気膜の磁化曲線を示す。
図8Dから明らかなように、飽和磁気(Ms)は約1.36テスラである。
図8Eは、ホウ素イオン注入に供された磁気膜の部分の磁化曲線を示す。
図8Eから明らかなように、ホウ素イオン注入に供された磁気膜の部分の飽和磁気(Ms)は、ホウ素イオン注入に供されなかった磁気薄膜に比べて、約0.5テスラまで落ちている。これらの実験条件の下でホウ素イオン注入は、磁化を約50%だけ引き下げた。
【0058】
したがって、磁気薄膜は、或るプロセス条件の下でホウ素イオン注入に供されて、異なる磁気特性を示すように選択部分の磁気特性を変えることがある。例えば、選択部分の磁気特性は、ホウ素イオン注入に供されなかった部分よりも弱い磁気特性を示すように変えられることがある。実験は、約9kVのバイアス電圧で行われたが、バイアス電圧は1kVから11kVの範囲、好ましくは7kVから11kVの範囲であることがある。
実施例3
【0059】
約20nmのCo合金層をスパッタされたシリコン基板が、この実施例のサンプルとして準備された。準備されたサンプルは、ドーパントガスSiH4をプロセスチャンバの中へ送り込むことによって、珪素イオンを含有するプラズマに供された。プロセスチャンバの圧力は約30ミリトルであり、RFバイアス電圧は約9kVであり、電源電力は約500ワットであり、ドーパントガスSiH4は約75sccmの流量で送り込まれ、打込み時間は約20秒であった。
【0060】
サンプルの中への珪素イオンの侵入の分布が、上で説明されたようなプロセスパラメータでシミュレーションプログラムを使用して調べられた。
図9Aは、シミュレーションの結果を示す。ここで
図9Aを参照すると、Siは約5〜6nmの深さに侵入し、いくらかの裾が深さ10nmまであることが明らかである。
【0061】
サンプルを珪素イオン注入に供した後で、20nmのCo膜中のSi打込みの深さ分布がSIMSを使用して測定された。
図9Bは、Si打込みの深さ分布を示す。Siイオンが深さ約5〜6nmまで侵入したことが、
図9Bから明らかである。シミュレーションプログラムを使用して調べられたSiイオン侵入深さの分布が、Si侵入深さの実際の測定と良好な相関関係にあることは注目に値する。
【0062】
いくつかの実施形態では、イオン注入後に、磁気薄膜は、例えば熱アニールによって、熱励起に供されることがある。熱アニールは、実施例1bから明らかなように、熱励起に供された磁気薄膜の部分の飽和磁気(Ms)をさらに引き下げるかもしれないことは予想される。
【0063】
上の実施例から明らかなことであるが、高エネルギーイオンがレジスト層を貫通して磁気薄膜に衝突するのを阻止するために必要なレジスト厚さは、使用される元素種と、プロセスパラメータと、帯電イオンの貫通を可能にする、レジスト層の選択領域に近接した磁気薄膜中へのイオンの所望の侵入深さと、に依存している。帯電イオンの貫通を可能にする、レジスト層の選択領域の寸法が小さくなるにつれて、パターン生成中に効果的なナノリソグラフィプロセスを可能にするようにレジスト厚さを減らす必要がある。レジスト厚さが減少するときに、レジスト層は、選択領域以外の領域で高エネルギーイオンの貫通をもはや阻止することができない可能性がある。
【0064】
この問題を克服する1つのやり方は、帯電イオンの貫通に対する抵抗を大きくするドーパントをレジストに加えることである。例えば、帯電イオンのレジストの貫通に対して抵抗を大きくする珪素含有化合物が、レジストにドープされることがある。帯電イオンの貫通に対して抵抗を大きくするために使用可能な他のドーパントには、硫黄および燐を含む化合物がある。一実施形態では、帯電イオンの貫通に対する抵抗を調節するために添加物としてナノ粒子が加えられることがある。例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化珪素(SiO2)、セリア(CeO2)、および二酸化チタン(TiO2)のナノ粒子が、帯電イオンの貫通に対する抵抗を調節するために使用されることがある。
【0065】
上の実施例から明らかなことであるが、異なる元素種は、プロセスパラメータと、磁気薄膜中へのイオンの所望の侵入深さとに基づいて、磁気特性に対して異なる効果を持っている。例えば、1つまたは複数の元素は、磁気膜の磁気特性を修正するように有利に使用されることがある。例として、ヘリウムとホウ素の組合せは、追加の利益を実現することがある。例えば、分子量のより小さなヘリウムは、より小さなバイアス電圧を使用して磁気薄膜の中へより深く侵入し磁気特性を変えることができる。より大きな分子量のホウ素は、ヘリウムの侵入の前か後かのどちらかで使用されて、磁気薄膜の磁気特性にさらに影響を及ぼし、また時間の経過につれて磁気薄膜からヘリウムイオンが逃げ出すのを防ぐ障壁として作用することがある。
【0066】
ヘリウムとホウ素の組合せが説明されたが、当業者は理解することだが、磁気特性の修正の維持および強化に好都合な磁気特性および他の特性を引き出すように、元素の様々な他の置換および組合せが連続してまたは一緒に使用されることがある。
【0067】
また、上の実施例から明らかなことであるが、異なる元素種が、磁気薄膜の磁気特性を修正するために使用されることがある。例えば、イオン注入で薄膜の磁気特性を高める元素を含有する化合物が使用されることがある。例えば、白金イオン注入は、磁気薄膜の磁気特性を高めることがある。
【0068】
本開示は、様々なタイプの磁気記録媒体に使用可能である。例えば、本開示の教示は、粒状磁気構造を有する記録媒体で使用されることがある。本開示は、また、多層の磁気薄膜にも使用されることがある。磁気薄膜は、また、連続した磁気膜であることがあり、またパターン化された媒体で使用されることがある。パターン媒体は、ビットパターン媒体またはトラックパターン媒体であることがある。一実施形態では、磁気薄膜は、熱支援磁気記録に適した高異方性磁気材料から作られることがある。
【0069】
本開示は、非常に短いプロセス時間を見込んでいる。例えば、ディスクに打ち込むのに約10秒かかることがある。入力および出力真空ロードロックによって、チャンバに出し入れするディスクの高速移送ができるようになり、ポンプ故障の喪失時間が無くなり、したがって、非常に高い処理量が見込まれる。当業者は、自動移送システム、ロボットおよびロードロックシステムがどのようにして本開示のプラズマイオン注入装置と一体化できるかを理解するだろう。
【0070】
或る実施形態では、本開示は、磁気媒体の磁気薄膜の部分の磁気特性を選択的に修正する方法を提供する。選択的修正は、磁気媒体の面密度、書込み能力、SNRおよび熱安定性のような望ましい特性の1つまたは複数を高めるために有利に使用可能である。
【0071】
本開示は、特に、好ましい実施形態に関連して説明されたが、本開示の精神および範囲から逸脱することなく形状および細部の変更および修正が行われる可能性があることは、当業者には容易に明らかなはずである。添付の特許請求の範囲はそのような変更および修正を網羅する意図である。