(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
(グラフェン基板の製造方法)
本発明に係るグラフェン基板の製造方法は、導電性又は半導体基板上においてグラフェン炭素源を電解重合し、グラフェン層を形成する形成工程を包含している。
【0013】
本発明においてグラフェン層を形成する基板として、導電性基板又は半導体基板を使用する。導電性基板として、例えば、銅、チタン、金、銀等の金属基板を使用することができ、半導体基板として、シリコン等を使用することができる。
【0014】
本発明において用いられるグラフェン炭素源は、下記一般式(1)−1又は一般式(1)−2に示される化合物であり得る。
【0017】
(一般式(1)−1及び一般式(1)−2中、R
1は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表しており、R
2からR
5は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表しており、X
1は、硫黄原子又は酸素原子を表している。)
R
1は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表している。R
1における炭化水素基として、好ましくは、炭素数1〜4の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基及び炭素数2〜4の直鎖状又は分枝鎖状のアルケニル基が挙げられる。R
1におけるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、tert‐ブチル基等が挙げられ、R
1におけるアルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基等が挙げられる。
【0018】
R
1における置換基を有する炭化水素基としては、上述したアルキル基やアルケニル基の水素原子の1個又は2個以上が適当な置換基で置換されたものを挙げることができるが、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アシル基等で置換されたものが好ましい。ここで、ハロゲノアルキル基として、例えば、クロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2‐ブロモプロピル基などが挙げられる。
【0019】
R
2〜R
5は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表している。R
2〜R
5における炭素数1〜5のアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などの炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基である。X
1は、硫黄原子又は酸素原子を表している。
【0020】
一般式(1)−1及び一般式(1)−2に表される化合物の具体例としては、例えばピロール、チオフェン、フラン、及びこれらの誘導体が挙げられる。なお、グラフェン炭素源としてピロールを用いた場合、電解重合により得られるポリピロールは、重合度3〜5であることが好ましい。
【0021】
ここで、グラフェンとは、二次元のシートを形成する単層の六方晶系配置のカーボン原子であるが、本実施の形態において、グラフェン層は、二次元のシートを形成する単層又は数層の六方晶系配置のカーボン原子も含むものである。換言すると、グラフェン層は、グラフェンを一層又は数層含むことを意味するものであり、好ましくは1〜20層のグラフェンを含むものである。つまり、本実施の形態においては、二次元のシートを形成する単層の六方晶系配置のカーボン原子が数層積層されたものもグラフェン層とみなす。
【0022】
なお、上述したグラフェン一層の厚さは、約0.3nmであるため、形成したグラフェン層におけるグラフェンの層数は、グラフェン層の厚さを測定し、当該厚さから算出することができる。
【0023】
本発明においては、導電性又は半導体基板上に、電解重合によりグラフェン炭素源を堆積させ、グラフェン層を形成する。導電性又は半導体基板上においてグラフェン炭素源を電解重合する方法としては、例えば、グラフェン炭素源の溶液に導電性又は半導体基板を浸漬して、導電性又は半導体基板に電圧を印加する方法が挙げられる。
【0024】
グラフェン炭素源の溶液としては、上述したグラフェン炭素源を、水等の溶媒に溶解させたものを用いることができる。また、グラフェン炭素源の溶液は、界面活性剤をさらに含有することが好ましい。グラフェン炭素源の溶液に含有させる界面活性剤として、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、等が挙げられる。
【0025】
グラフェン炭素源の溶液における当該グラフェン炭素源の濃度は、グラフェン炭素源の種類、形成するグラフェン層等に応じて適宜選択することができるが、0.1〜10mmol/Lであることが好ましい。また、グラフェン炭素源の溶液における界面活性剤の濃度は、グラフェン炭素源又は界面活性剤の種類、形成するグラフェン層等に応じて適宜選択することができるが、0.5〜5mmol/Lであることが好ましい。
【0026】
グラフェン炭素源を電解重合するとき、例えばグラフェン層を形成させる導電性又は半導体基板を陰極、他の導電性基板(例えば、銅基板等)を陽極として、これらの基板をグラフェン炭素源の溶液中に浸漬し、これらの基板の間に電圧を印加する。グラフェン炭素源を電解重合するときの電圧及び電流密度は、グラフェン炭素源の種類、形成するグラフェン層等に応じて適宜選択することができる。
【0027】
本実施の形態においては、電解重合により導電性又は半導体基板上に堆積させたグラフェン炭素源を焼成することによって、グラフェン層を形成する。グラフェン炭素源の焼成は、グラフェン炭素源が堆積した導電性又は半導体基板を、不活性ガスと水素ガスとの混合ガスが存在する還元雰囲気下において行うことができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン等を好適に利用可能である。混合ガス中の水素ガスの含有比率は特に限定されないが、0.1〜10%であることが好ましい。グラフェン炭素源の焼成温度及び焼成時間は、グラフェン炭素源の種類、形成するグラフェン層等に応じて適宜選択することができるが、焼成温度400〜1200℃、焼成時間10〜120分であることが好ましい。
【0028】
なお、導電性又は半導体基板上にグラフェン層が形成されたか否かは、ラマン分光法のような従来公知の方法又は装置を用いて確認することができる。
【0029】
本発明に係るグラフェン基板の製造方法において、導電性又は半導体基板の表面には、パターニングされたレジストマスクが形成されていてもよい。このように、予めパターンニングされたレジストマスクが形成された導電性又は半導体基板上に、電解重合によりグラフェン炭素源を堆積させることによって、パターニングされたグラフェン層を形成することができる。
【0030】
レジストマスクは、導電性又は半導体基板の表面に、所望のパターンにレジスト材料を塗布して焼成し、露光及び現像することによって形成することができる。レジスト材料としては、公知のレジスト材料を適宜使用可能であり、ポジ型であってもネガ型であってもよい。
【0031】
また、本発明は、グラフェン層を形成する形成工程の後に、レジストマスクを除去する除去工程をさらに包含してもよい。レジストマスクの除去方法としては、例えば、使用したレジスト材料に応じて選択される溶液中に導電性又は半導体基板を浸漬し、レジストマスクを溶解させる方法が挙げられる。
【0032】
このように、パターニングされたレジストマスクが予め形成された導電性又は半導体基板の表面に、電解重合によりグラフェン炭素源を堆積させることによって、所望のパターンのグラフェン層を形成することができる。したがって、グラフェン層の形成後にリソグラフィ等によりパターニングする必要がなく、製造が容易であり、かつパターニング残渣が生じない。すなわち、より高精度にパターニングされたグラフェン層を有するグラフェン基板を製造することができる。
【0033】
上述したように、本発明に係るグラフェン基板の製造方法によれば、基板上にグラフェン層形成のための触媒を塗布する必要がなく、グラフェン層を直接基板上に形成することができるので、しわ、ゆがみ、破れ等が生じにくく、均一なグラフェン層を形成することができる。
【0034】
(グラフェン基板)
本発明に係るグラフェン基板は、導電性又は半導体基板の表面にグラフェン層が直接付着している。すなわち、上述したグラフェン基板の製造方法は、本発明に係るグラフェン基板を製造するための方法の一実施形態であり、本発明にかかるグラフェン基板の一実施形態は、上述した実施の形態の説明に準ずる。
【0035】
したがって、本発明に係るグラフェン基板において、グラフェン層は、パターニングされていてもよい。パターニングされたグラフェン層が導電性又は半導体基板上に直接付着したグラフェン基板は、上述したレジストマスクを用いたグラフェン炭素源の電解重合により製造することができる。
【0036】
また、本発明に係るグラフェン基板におけるグラフェン層は、厚さ0.3〜10nmであり得る。上述したように、グラフェン層は、グラフェンを一層又は数層含むものであり、好ましくはグラフェンを1〜20層含む。
【0037】
本発明に係るグラフェン基板は、グラフェン層形成のための触媒を用いずに、グラフェン層が直接基板上に形成されたものである。すなわち、グラフェン基板上に触媒が存在しない。したがって、本発明に係るグラフェン基板は、しわ、ゆがみ、破れ等のない均一なグラフェン層を有している。また、グラフェン層がパターニングされた本発明に係るグラフェン基板は、グラフェン層の形成後にリソグラフィ等によりパターニングしたものではないので、パターニング残渣が生じず、より高精度にパターニングされている。
【実施例】
【0038】
本発明に係るグラフェン基板の製造方法により、パターニングされたグラフェン層が形成されたグラフェン基板を製造した。
【0039】
まず、インチオーダーのシリコン基板上に、膜厚1μmでポジ型のレジスト材料(東京応化工業株式会社製)を塗布し、90℃で90秒間プリベークした。その後、露光機 NSR−2205i14(ニコン社製)を用いて、波長365nm(NA0.57、s0.67)、露光量460msで露光した。90℃で90秒間再度プリベークした後、現像液(TMAH2.38%)中において、23℃で60秒間現像した。これにより、シリコン基板上にポジパターンが形成された。形成されたポジパターンは、1〜5μmのL/Sパターンであり、ライン:スペースの寸法比が1:1〜1:10のパターンを含んでいた。
【0040】
レジストマスクが形成されたシリコン基板を、4センチ四方にカットした。4センチ四方のシリコン基板を陰極、銅基板(厚さ約0.05mm)を陽極として、溶液が導入された200ccのビーカー中に浸漬した。各基板を直流供給電源に接続した。ビーカー中の溶液は、グラフェン炭素源として濃度10mmol/Lのピロール水溶液と、界面活性剤として濃度2mmol/Lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液とを含み、全体で概ね100ccになるように調製した。各基板が浸漬したビーカーにおいて、電圧1.5v、電流密度1.5mA/cm
2で1分間電解反応させた。
【0041】
その結果、陰極のシリコン基板上にポリピロールのフィルムが析出した。ポリピロールのフィルムの膜厚を原子間力顕微鏡(Nano Scope V :Veeco社製)により測定した結果、3nm〜30nmであり、特に基板の中心部は0.3nm、端部は10nmであった。
【0042】
ポリピロールのフィルム形成後に、レジストマスクを除去した。レジストマスクの除去は、シリコン基板を50wt%のエタノール水溶液に浸漬することによって行った。エタノール水溶液に浸漬したシリコン基板において、レジストマスクが溶解し、ポリピロールのフィルムのネガポジ反転パターンが得られた。
【0043】
ポリピロールフィルムパターンが形成されたシリコン基板を、4%水素含有窒素雰囲気下において、750℃で30分間焼成した。その結果、20層以下の結晶性の良いグラフェンからなる薄膜を得た。シリコン基板上にグラフェン層が形成されたことを、ラマン分光測定装置NRS−1000(日本分光社製)により確認した。
【0044】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。