特許第5864312号(P5864312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864312
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】S−ニトロソ物質の質量分析法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20160204BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-55345(P2012-55345)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-190251(P2013-190251A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 正広
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真
(72)【発明者】
【氏名】岩本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝明
(72)【発明者】
【氏名】田中 耕一
(72)【発明者】
【氏名】泉 俊輔
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−527449(JP,A)
【文献】 特開2005−326391(JP,A)
【文献】 特表2007−502980(JP,A)
【文献】 特開2004−045292(JP,A)
【文献】 特表2005−517954(JP,A)
【文献】 特開2006−003167(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/048087(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0243899(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−ニトロソ物質の質量分析法であって、
マトリックス添加剤としてポルフィリン化合物又はレチノイン酸を用い、且つ、マトリックス支援紫外線紫外レーザー脱離イオン化質量分析により、前記S−ニトロソ物質に由来するS−ニトロシル基含有イオンを検出する方法。
【請求項2】
前記S−ニトロソ物質がS−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記ポルフィリン化合物がテトラフェニルポルフィリンである、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記ポルフィリン化合物が、2,5−ジヒドロキシ安息香酸及び3−ヒドロキシ4−ニトロ安息香酸からなる群から選ばれるマトリックスとともに用いられる、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記レチノイン酸が、2,5−ジヒドロキシ安息香酸及び3−ヒドロキシ4−ニトロ安息香酸からなる群から選ばれるマトリックスとともに用いられる、請求項1又は2の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S−ニトロソ物質の質量分析法に関する。より具体的には、マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化質量分析を用いたS−ニトロソ物質の直接的検出法に関する。本発明は、特に、S−ニトロシル化ペプチドの翻訳後修飾解析に適用される。
【背景技術】
【0002】
タンパク質のS−ニトロシル化は、システイン残基のチオール基に特異的に一酸化窒素(NO)が結合し、S−ニトロソチオール(R−S−NO)を形成する翻訳後修飾の態様である。
最近では、S−ニトロシル化は、代謝、細胞骨格の形成、シグナリング等に関わるタンパク質(酵素)の活性を調節する翻訳後修飾の1つの態様であることがわかってきた。例えば、家族性のパーキンソン病の原因遺伝子として同定されたParkinは、S−ニトロシル化により活性が低下するということが報告されている(非特許文献1)。このように、S−ニトロシル化の詳細解析は、リン酸化や糖鎖付加等の翻訳後修飾と同様に、生命現象や疾患のメカニズムの解析に非常に重要な意味を持つと考えられる。
【0003】
これまで、S−ニトロシル化タンパク質の検出には、ビオチン置換法が主に用いられてきた(非特許文献2、非特許文献3)。この手法は、システイン残基における側鎖−S−NO基を還元によりを除去した後、生じた側鎖チオール基をマレイミドビオチンなどのビオチンタグで置換し、アビジン結合試薬を用いてウェスタンブロットや細胞/組織染色により検出するものである。
【0004】
一方、質量分析装置を用いたS−ニトロシル化タンパク質の解析も試みられてきた。しかしながら、S−NO基におけるS−N結合が非常に弱い結合であり、分子のイオン化の段階でNO基が脱離するため、MSにおいてS−ニトロシル化タンパク質をS−ニトロシル化の態様で直接検出することは不可能であった(非特許文献4)。
【0005】
最近のS−ニトロシル化タンパク質のMS解析においては、脱離しやすいNO基を前述のビオチンに置換し、MSで測定する手法が用いられてきている(非特許文献5)。
【0006】
他方、MALDIのイオン源に赤外レーザーを使用するIR−MALDIによって、S−ニトロシル化部位の脱離を抑えたイオン化に成功した報告がされている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA 2004; 101(29):10810-4
【非特許文献2】Nitric Oxide, 11, 216 (2004)
【非特許文献3】Nat Cell Biol., 3, 46 (2001)
【非特許文献4】J. Mass Spectrom. 2003; 38: 526-530
【非特許文献5】Sci STKE. 2001;86:l1
【非特許文献6】Anal Chem 2009; 81:6750-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献4においては、特に、MALDIのイオン源に紫外レーザーを使用するUV−MALDI−MSの場合において検出できるピークがNO基の脱離したピークのみであることがわかっている。
非特許文献5においては、ビオチン置換法におけるS−NO基に対する還元反応の特異性に疑いがあることが報告されている。つまり、タンパク質の還元反応において、S−NO基だけでなくジスルフィド結合(−S−S−)も還元されることがわかっている。このため、S−NO基由来のチオール基だけでなくジスルフィド基由来のチオール基もビオチン置換されてしまう。結果として、S−NO基を有していないシステインをS−ニトロシル化システインとして誤同定してしまう可能性がある。
非特許文献6の方法においては、IR−MALDIがUV−MALDIに比べて感度が低く、装置自体も大型であるという問題がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、S−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質等のS−ニトロソ物質の質量分析法において、ビオチン置換法やIR−MALDIを用いることなく、S−ニトロシル化基を有するイオンをUV−MALDIで直接的に検出することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポルフィリン化合物やレチノイン酸をマトリックス添加剤として用い、又は、レチノイン酸をマトリックスとして用い、且つ、マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化(UV−MALDI)質量分析装置を用いることによって、上記本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の発明を含む。
(1)
S−ニトロソ物質の質量分析法であって、
マトリックス添加剤としてポルフィリン化合物又はレチノイン酸を用い、且つ、マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化質量分析により、前記S−ニトロソ物質に由来するS−ニトロシル基含有イオンを検出する方法。
(2)
前記S−ニトロソ物質がS−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質である、(1)の方法。
(3)
前記ポルフィリン化合物がテトラフェニルポルフィリンである、(1)又は(2)の方法。
(4)
前記ポルフィリン化合物が、2,5−ジヒドロキシ安息香酸及び3−ヒドロキシ−4−ニトロ安息香酸からなる群から選ばれるマトリックスとともに用いられる、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)
前記レチノイン酸が、2,5−ジヒドロキシ安息香酸及び3−ヒドロキシ4−ニトロ安息香酸からなる群から選ばれるマトリックスとともに用いられる、(1)又は(2)の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、S−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質等のS−ニトロソ物質の質量分析法において、ビオチン置換法やIR−MALDIを用いることなく、S−ニトロシル化基を有するイオンをUV−MALDIで直接的に検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMSスペクトル(a)を、ポルフィリン無添加のマトリックス溶液を用いた場合のMSスペクトル(b)及び(c)、並びにニトロシル化されていないペプチドのMSスペクトル(d)と比較して示したものである。
図2】実施例1で得られた、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトル(a)を、ニトロシル化されていないペプチドのMS/MSスペクトル(b)と比較して示したものである。
図3】実施例2で得られた、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMSスペクトル(a)を、ポルフィリン無添加のマトリックス溶液を用いた場合のMSスペクトル(b)及び(c)、並びにニトロシル化されていないペプチドのMSスペクトル(d)と比較して示したものである。
図4】実施例2で得られた、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトル(a)を、ニトロシル化されていないペプチドのMS/MSスペクトル(b)と比較して示したものである。
図5】実施例3で得られた、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMSスペクトル(a)を、ポルフィリン無添加のマトリックス溶液を用いた場合のMSスペクトル(b)及び(c)、並びにニトロシル化されていないペプチドのMSスペクトル(d)と比較して示したものである。
図6】実施例3で得られた、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトル(a)を、ニトロシル化されていないペプチドのMS/MSスペクトル(b)と比較して示したものである。
図7】実施例4で得られた、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMSスペクトル(a)を、ポルフィリン無添加のマトリックス溶液を用いた場合のMSスペクトル(b)及び(c)、並びにニトロシル化されていないペプチドのMSスペクトル(d)と比較して示したものである。
図8】実施例4で得られた、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いたS−ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトル(a)を、ニトロシル化されていないペプチドのMS/MSスペクトル(b)と比較して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.ポルフィリン化合物]
ポルフィリン化合物は、ポルフィリン環を基本骨格とする化合物であればよく、無置換体及び置換体を問わない。ポルフィリン化合物が置換体である場合、置換基としては、置換又は非置換のアリール基(例えばフェニル基、ジカルボキシフェニル基等)が挙げられる。一例として、ポルフィリン化合物は、テトラフェニルポルフィリンでありうる。また、ポルフィリン化合物は金属錯体であってもよい。この場合、金属としては、鉄、マグネシウム及びマンガン等が挙げられる。
【0015】
ポルフィリン化合物は、単独では測定対象のイオン化能力はないため、マトリックスとしては機能しない。しかしながら、マトリックスと混合して使用されることによって、測定対象であるS−ニトロソ物質のイオン化において、S−ニトロシル基の脱離を抑制することができる。
【0016】
ポルフィリン化合物と共に使用されるマトリックスとしては特に限定されず、S−ニトロソ物質の種類に応じて当業者によって適宜選択されてよいが、紫外レーザー光のエネルギーを吸収することによりS−NO基におけるS−N結合の解離エネルギーよりも低い内部エネルギー、例えば1eV程度を生じさせるマトリックスが好ましい。例えば、2,5−ジヒドロキシ安息香酸や3−ヒドロキシ−4−ニトロ安息香酸等の、所謂、クールマトリックスから選ばれることができる。
【0017】
ポルフィリン化合物とマトリックスとの組み合わせの比率は特に制限はないが、例えば、ポルフィリン化合物が質量分析用マトリックスの0.1〜1倍、好ましくは0.1〜0.5倍のモル比の量的関係となるように組み合わせることができる。
【0018】
より具体的には、ポルフィリン化合物は、通常、マトリックスとの混合溶液として調製されて使用される。マトリックスとポルフィリン化合物との混合溶液は、通常、マトリックス溶液とポルフィリン化合物溶液とをそれぞれ調製しておき、両溶液を混合することによって調製することができる。この場合、ポルフィリン化合物溶液の溶媒としては、ヘキサンやトルエン等、当業者によって適宜選択されてよい溶媒が用いられる。ポルフィリン化合物溶液におけるポルフィリン濃度は例えば0.32〜3.2mM、好ましくは0.8〜1.6mMでありうる。また、マトリックス溶液の溶媒としては、当業者によって適宜選択されてよい。例えば、アセトニトリル、水、トリフルオロ酢酸、メタノール及びエタノールからなる群から選ばれる。好ましくは、アセトニトリル水溶液が用いられる。この場合におけるアセトニトリルの濃度は例えば10〜90体積%、好ましくは40〜60体積%である。マトリックス溶液におけるマトリックス濃度は例えば0.4〜3.2mM、好ましくは0.8〜1.6mMでありうる。ポルフィリン化合物溶液とマトリックス溶液とは、例えば1:1〜5:1の体積比で混合することができる。
【0019】
[2.レチノイン酸]
レチノイン酸は、シス型及びトランス型を問わない。
レチノイン酸は、単独でもマトリックスとして機能することもあるが、レチノイン酸以外のマトリックスと混合して添加剤として使用されることによって、測定対象であるS−ニトロソ物質のイオン化において、S−ニトロシル基の脱離を抑制することができる。
【0020】
レチノイン酸と共に使用されるマトリックスとしては特に限定されず、S−ニトロソ物質の種類に応じて当業者によって適宜選択されてよいが、紫外レーザー光のエネルギーを吸収することによりS−NO基におけるS−N結合の解離エネルギーよりも低い内部エネルギー、例えば1eV程度を生じさせるマトリックスが好ましい。例えば、2,5−ジヒドロキシ安息香酸や3−ヒドロキシ4−ニトロ安息香酸等の、所謂、クールマトリックスから選ばれることができる。
【0021】
より具体的には、レチノイン酸は、通常、マトリックスとの混合溶液として調製されて使用される。マトリックスとレチノイン酸との混合溶液は、通常、マトリックス溶液とレチノイン酸溶液とをそれぞれ調製しておき、両溶液を混合することによって調製することができる。この場合、レチノイン酸溶液の溶媒は、水、アセトニトリル、エタノール及びメタノールからなる群から選ばれることができる。レチノイン酸溶液におけるレチノイン酸濃度は例えば飽和濃度の1/10希釈濃度〜飽和濃度(室温、例えば20℃±15℃)でありうる。また、マトリックス溶液の溶媒としては、当業者によって適宜選択されてよい。例えば、アセトニトリル、水、トリフルオロ酢酸、メタノール、及びエタノールからなる群から選ばれることができる。好ましくは、アセトニトリル水溶液が用いられる。この場合におけるアセトニトリルの濃度は例えば10〜90体積%、好ましくは40〜60体積%である。マトリックス溶液におけるマトリックス濃度は例えば0.4〜3.2mM、好ましくは0.8〜1.6mMでありうる。レチノイン酸溶液とマトリックス溶液とは、例えば1:1〜1:10の体積比で混合することができる。
【0022】
[3.S−ニトロソ物質]
本発明の測定対象となるS−ニトロソ物質に特に制限はない。例えば、S−ニトロソ物質は分子量100〜1,000,000の分子であり、生体分子及び非生体分子を問わない。より好ましくは、S−ニトロソ物質は、S−ニトロシル化システイン残基を含むペプチド又はS−ニトロシル化システイン残基を含むタンパク質(以下、S−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質と表記する)でありうる。S−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質におけるS−ニトロシル基は、翻訳後修飾によって生じたものであってよい。S−ニトロシル化ペプチド又はS−ニトロシル化タンパク質は、例えば分子量が500〜3,000、好ましくは500〜10,000でありうる。また、S−ニトロソ物質は、例えば分子量が100〜1,000、さらには100〜700の低分子物質であってもよい。
【0023】
[4.質量分析装置]
本発明において使用される質量分析装置としては、UV−MALDI(マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化)法に基づくイオン源と組み合わされたものであれば特に限定されない。例えば、UV−MALDI−TOF(マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化−飛行時間)型質量分析装置、UV−MALDI−IT(マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化−イオントラップ)型質量分析装置、UV−MALDI−IT−TOF(マトリックス支援紫外レーザー脱離イオン化−イオントラップ−飛行時間)型質量分析装置、等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0025】
[実施例1]
配列VFDARDC(NO)RSAQ(N末端から7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号1)を有するS−ニトロシル化ペプチドをイオン交換水に溶解し、5 pmol/μLのサンプル溶液を調製した。
別途、DHBA (2,5-dihydroxybenzoic acid) 溶液(0.5 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)に対してテトラフェニルポルフィリン溶液(1 mg/mL、ヘキサン中)を等量添加し、マトリックス溶液(ポルフィリン添加マトリックス溶液)を調製した。
MALDIプレート上に上記サンプル溶液0.5 μLと上記マトリックス溶液0.5 μLとを塗布して乾燥した後、UV-MALDI-TOF MS(AXIMA Performance, Shimadzu/Kratos, UK)によるMS測定を行った。測定モードはReflectron mode (positive ion mode)であった。
【0026】
得られたMSスペクトルを図1(a)に示す。図1においては、比較用として、ポルフィリン無添加のDHBAマトリックス溶液(0.5mg/mL)を用いた場合(図1(b))、ポルフィリン無添加の4-CHCA (α-cyano-4-hydroxy cinnamic acid)マトリックス溶液(1 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)を用いた場合(図1(c))及びニトロシル化されていないペプチド(VFDARDCRSAQ(配列番号2))を4-CHCAマトリックス溶液を用いて測定した場合(図1(d))も示している。
図に示されるように、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いた場合(図1(a))、NO基の脱離ピーク(m/z 1267.7)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z 1296.7)についての検出を確認した。一方、ポルフィリン無添加の場合(図1(b)、(c))においては、NO基非脱離ピークが全く検出されないことを確認した。この場合、MS/MS解析においてもNO基非脱離ピークが全く検出されないことを確認した。)
【0027】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/Kratos, UK)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図2(a)に示す。図2においては、比較用として、ニトロシル化されていないペプチド(VFDARDCRSAQ(配列番号2))のMS/MSスペクトルも図2(b)に示している。S-ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトルにおいて、y5、y6、y8及びy10フラグメントイオンが29 Daのマスシフトを示していたのに対して、y4フラグメントイオンはそのようなマスシフトを示していなかった。このことは、このマスシフトがシステイン残基に由来し、システイン残基がS-ニトロシル化されていることを示している。つまり、MS/MS解析することによって、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
【0028】
[実施例2]
S−ニトロシル化ペプチドとして、配列EMFTYIC(NO)NHIK(N末端から7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号3)を用いたことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。
【0029】
得られたMSスペクトルを図3(a)に示す。図3においては、図1と同様に、比較用として、ポルフィリン無添加のDHBAマトリックス溶液(0.5mg/mL)を用いた場合(図3(b))、ポルフィリン無添加の4-CHCA (α-cyano-4-hydroxy cinnamic acid) マトリックス溶液を用いた場合(図3(c))及びニトロシル化されていないペプチド(EMFTYICNHIK(配列番号4))を4-CHCAマトリックス溶液を用いて測定した場合(図3(d))のMSスペクトルも示している。図に示されるように、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いた場合(図3(a))、NO基の脱離ピーク(m/z1398.7)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z 1427.7)についての検出を確認した。
【0030】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/UK, Kratos)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図4(a)に示す。図4においては、図2と同様に、比較用として、ニトロシル化されていないペプチド(EMFTYICNHIK(配列番号4))のMS/MSスペクトル図4(b)も示している。S-ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトルにおいて、y5、y6、y7、y8及びy9フラグメントイオンが29 Daのマスシフトを示していたのに対して、y4フラグメントイオンはそのようなマスシフトを示していなかった。このことは、このマスシフトがシステイン残基に由来し、システイン残基がS-ニトロシル化されていることを示している。つまり、MS/MS解析することによって、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
【0031】
[実施例3]
マトリックス溶液として、DHBA (2,5-dihydroxybenzoic acid) 溶液(0.5 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)に対してレチノイン酸飽和溶液(50v/v% アセトニトリル水溶液中)を等量添加して調製したマトリックス溶液(レチノイン酸添加マトリックス溶液)を用いたことを除いて、配列VFDARDC(NO)RSAQ(7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号1)を有するS−ニトロシル化ペプチドについて実施例1と同じ操作を行った。
【0032】
得られたMSスペクトルを図5(a)に示す。図5においては、図1と同様に比較用のMSスペクトル図5(b)〜図5(d)も示している。図に示されるように、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いた場合(図5(a))、NO基の脱離ピーク(m/z1267.9)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z 1296.5)についての検出を確認した。
【0033】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/Kratos, UK)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図6(a)に示す。図6においては、図2と同様に比較用のMS/MSスペクトル図6(b)も示している。図に示されるように、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
【0034】
[実施例4]
S−ニトロシル化ペプチドとして、配列EMFTYIC(NO)NHIK(7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号3)を用い、マトリックス溶液として、DHBA (2,5-dihydroxybenzoic acid) 溶液(0.5 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)に対してレチノイン酸飽和溶液(50v/v% アセトニトリル水溶液中)を等量添加して調製したマトリックス溶液(レチノイン酸添加マトリックス溶液)を用いたことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。
【0035】
得られたMSスペクトルを図7(a)に示す。図7においては、図3と同様に比較用のMSスペクトル図7(b)〜図7(d)も示している。図に示されるように、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いた場合(図7(a))、NO基の脱離ピーク(m/z1398.9)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z1427.0)についての検出を確認した。
【0036】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/Kratos, UK)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図8(a)に示す。図8においては、図4と同様に比較用のMS/MSスペクトル図8(b)も示している。図に示されるように、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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