【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0025】
[実施例1]
配列VFDARDC(NO)RSAQ(N末端から7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号1)を有するS−ニトロシル化ペプチドをイオン交換水に溶解し、5 pmol/μLのサンプル溶液を調製した。
別途、DHBA (2,5-dihydroxybenzoic acid) 溶液(0.5 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)に対してテトラフェニルポルフィリン溶液(1 mg/mL、ヘキサン中)を等量添加し、マトリックス溶液(ポルフィリン添加マトリックス溶液)を調製した。
MALDIプレート上に上記サンプル溶液0.5 μLと上記マトリックス溶液0.5 μLとを塗布して乾燥した後、UV-MALDI-TOF MS(AXIMA Performance, Shimadzu/Kratos, UK)によるMS測定を行った。測定モードはReflectron mode (positive ion mode)であった。
【0026】
得られたMSスペクトルを
図1(a)に示す。
図1においては、比較用として、ポルフィリン無添加のDHBAマトリックス溶液(0.5mg/mL)を用いた場合(
図1(b))、ポルフィリン無添加の4-CHCA (α-cyano-4-hydroxy cinnamic acid)マトリックス溶液(1 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)を用いた場合(
図1(c))及びニトロシル化されていないペプチド(VFDARDCRSAQ(配列番号2))を4-CHCAマトリックス溶液を用いて測定した場合(
図1(d))も示している。
図に示されるように、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いた場合(
図1(a))、NO基の脱離ピーク(m/z 1267.7)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z 1296.7)についての検出を確認した。一方、ポルフィリン無添加の場合(
図1(b)、(c))においては、NO基非脱離ピークが全く検出されないことを確認した。この場合、MS/MS解析においてもNO基非脱離ピークが全く検出されないことを確認した。)
【0027】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/Kratos, UK)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを
図2(a)に示す。
図2においては、比較用として、ニトロシル化されていないペプチド(VFDARDCRSAQ(配列番号2))のMS/MSスペクトルも
図2(b)に示している。S-ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトルにおいて、y
5、y
6、y
8及びy
10フラグメントイオンが29 Daのマスシフトを示していたのに対して、y
4フラグメントイオンはそのようなマスシフトを示していなかった。このことは、このマスシフトがシステイン残基に由来し、システイン残基がS-ニトロシル化されていることを示している。つまり、MS/MS解析することによって、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
【0028】
[実施例2]
S−ニトロシル化ペプチドとして、配列EMFTYIC(NO)NHIK(N末端から7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号3)を用いたことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。
【0029】
得られたMSスペクトルを
図3(a)に示す。
図3においては、
図1と同様に、比較用として、ポルフィリン無添加のDHBAマトリックス溶液(0.5mg/mL)を用いた場合(
図3(b))、ポルフィリン無添加の4-CHCA (α-cyano-4-hydroxy cinnamic acid) マトリックス溶液を用いた場合(
図3(c))及びニトロシル化されていないペプチド(EMFTYICNHIK(配列番号4))を4-CHCAマトリックス溶液を用いて測定した場合(
図3(d))のMSスペクトルも示している。図に示されるように、ポルフィリン添加マトリックス溶液を用いた場合(
図3(a))、NO基の脱離ピーク(m/z1398.7)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z 1427.7)についての検出を確認した。
【0030】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/UK, Kratos)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを
図4(a)に示す。
図4においては、
図2と同様に、比較用として、ニトロシル化されていないペプチド(EMFTYICNHIK(配列番号4))のMS/MSスペクトル
図4(b)も示している。S-ニトロシル化ペプチドのMS/MSスペクトルにおいて、y
5、y
6、y
7、y
8及びy
9フラグメントイオンが29 Daのマスシフトを示していたのに対して、y
4フラグメントイオンはそのようなマスシフトを示していなかった。このことは、このマスシフトがシステイン残基に由来し、システイン残基がS-ニトロシル化されていることを示している。つまり、MS/MS解析することによって、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
【0031】
[実施例3]
マトリックス溶液として、DHBA (2,5-dihydroxybenzoic acid) 溶液(0.5 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)に対してレチノイン酸飽和溶液(50v/v% アセトニトリル水溶液中)を等量添加して調製したマトリックス溶液(レチノイン酸添加マトリックス溶液)を用いたことを除いて、配列VFDARDC(NO)RSAQ(7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号1)を有するS−ニトロシル化ペプチドについて実施例1と同じ操作を行った。
【0032】
得られたMSスペクトルを
図5(a)に示す。
図5においては、
図1と同様に比較用のMSスペクトル
図5(b)〜
図5(d)も示している。図に示されるように、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いた場合(
図5(a))、NO基の脱離ピーク(m/z1267.9)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z 1296.5)についての検出を確認した。
【0033】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/Kratos, UK)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを
図6(a)に示す。
図6においては、
図2と同様に比較用のMS/MSスペクトル
図6(b)も示している。図に示されるように、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。
【0034】
[実施例4]
S−ニトロシル化ペプチドとして、配列EMFTYIC(NO)NHIK(7番目のシステイン残基がニトロシル化されている)(配列番号3)を用い、マトリックス溶液として、DHBA (2,5-dihydroxybenzoic acid) 溶液(0.5 mg/mL、50v/v% アセトニトリル水溶液中)に対してレチノイン酸飽和溶液(50v/v% アセトニトリル水溶液中)を等量添加して調製したマトリックス溶液(レチノイン酸添加マトリックス溶液)を用いたことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。
【0035】
得られたMSスペクトルを
図7(a)に示す。
図7においては、
図3と同様に比較用のMSスペクトル
図7(b)〜
図7(d)も示している。図に示されるように、レチノイン酸添加マトリックス溶液を用いた場合(
図7(a))、NO基の脱離ピーク(m/z1398.9)も観測されたものの、目的のNO基非脱離ピーク(m/z1427.0)についての検出を確認した。
【0036】
更に、NO基非脱離ピークをプリカーサーとしてMALDI-QIT-TOF MS(AXIMA Resonance, Shimadzu/Kratos, UK)を用いたCID(collision induced decay)によるMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを
図8(a)に示す。
図8においては、
図4と同様に比較用のMS/MSスペクトル
図8(b)も示している。図に示されるように、S-ニトロシル化修飾部位を同定できることを確認した。