【実施例】
【0059】
<試験系列1:バインダー処理を行う場合>
[材料]
1.抗菌剤:エトキシシラン系第4級アンモニウム塩であるオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(マナック社製、商品名ESi−QAC)に水を加えて所定の濃度にした溶液を用いた。
2.バインダー:下表1に示す、ヒドロキシル基を含有する(カルボキシル基を含有しない)バインダーa〜d、及び、カルボキシル基を含有するバインダー1〜5を用いた。
3.物品:布帛(ポリエステル布帛、ウール布帛、難燃加工(ザプロ加工)ウール布帛、綿布帛。目付等は各例に記載)、ポリプロピレン樹脂成形物、ニトリルゴムフィルムを用いた。
【0060】
【表1】
【0061】
[試験方法]
1.抗菌剤の検出:布帛に付着した抗菌剤の検出には、ブロモフェノールブルーとアンモニウム塩とのカチオン性の呈色反応を用いた。
具体的には、抗菌剤の固定処理後の布帛、又は、当該布帛を所定回数洗濯した後の布帛について、2.5cm×5cmのサンプル片を切り出し、ブロモフェノールブルーの呈色反応(反応剤濃度:0.03%sol、反応時間:30秒又は180秒)を行い、乾燥した後、呈色後の試験布の明度及びΔEを、SMカラーコンピューター(スガ試験機株式会社製)にて測定、算出した。測定及び算出方法は、JIS Z 8729に準じた。抗菌剤の保持率は、抗菌剤の固定化処理後(つまり、洗濯回数0回)の布帛のΔEを100として、所定回数洗濯後のΔEの値の割合を算出し、抗菌剤の保持率とした。
2.洗浄方法A:JIS L 0217 No.103 2項(普通)洗浄方法に準拠した。洗剤は、アタックALLin(花王社製)を用いた。
3.洗浄方法B:JIS L 0217 No.103 2項(普通)洗浄方法に準拠した。洗剤は、JAFET標準洗剤を用いた。
4.抗菌性能試験:JIS L 1902、菌液吸収法に準拠した。
【0062】
[試験1:ポリエステル系布帛への抗菌剤の固定化(耐久性)]
(試験1−1)
表1に示した、ヒドロキシル基を含有する(カルボキシル基を含有しない)バインダーa〜dを用いてポリエステル布帛へ抗菌剤を固定化した。
抗菌剤を固定化した布帛の作成は次の通りとした。質量390g/m
2のポリエステル原布Aからタテ、ヨコ各20cmの布帛片を切り出し、所定のバインダー溶液に浸漬した後、マングルにて絞った。この時の布帛のピックアップ率は70%であった。その後、ヒートセッターを用い、設定温度150℃で乾燥した。この時の各布帛へのバインダーの付着量については、表2に示す。
その後、抗菌剤有効成分であるオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが0.3%となるように調製した抗菌剤溶液に浸漬した後、ヒートセッターを用い、設定温度150℃で乾燥した。この時の各布帛への抗菌剤の付着量は0.82g/m
2であった。
洗濯は前記の洗浄方法Aを用い、洗濯0回、1回、3回後の各布帛について抗菌剤の付着量を測定した。抗菌剤の検出は上述の呈色反応を用い、ブロモフェノールブルーの呈色時間は30秒とした。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示されるとおり、ヒドロキシル基を含有する(カルボキシル基を含有しない)バインダーである、バインダーa〜dを用いた場合、洗濯3回後の抗菌剤保持率は6.9〜10.3%であり、十分な抗菌剤保持率を得ることができなかった。
【0065】
(試験1−2)
表1のヒドロキシル基を含有する(カルボキシル基を含有しない)バインダーa、d及び、ヒドロキシル基及びカルボキシル基を有するバインダー1を用いて、ポリエステル布帛に抗菌剤を固定化した。
布帛への抗菌剤の固定化は、抗菌剤の有効成分(オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド)を0.03〜0.3%の各濃度(表3に示す)とした以外は試験1−1と同様の条件で行った。洗濯は前記の洗浄方法Aを用い、洗濯0回、1回、3回後の各布帛について抗菌剤の付着量を測定した。抗菌剤の付着量の検出は上述の方法を用い、ブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒とした。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示されるとおり、ヒドロキシル基及びカルボキシル基を含有するバインダー1を用いた実施例1〜3では、3回洗濯後の抗菌剤保持率が31.6〜46.5%となり、ヒドロキシル基を有するバインダーを用いた比較例5〜10よりも保持率が高かった。また、抗菌剤付与時の付着量(洗濯0回の場合)は、布帛の明度が、比較例では57.88〜71.03であるのに対して実施例1では57.94〜68.96であり、顕著な差は見られなかった。
【0068】
(試験1−3)
カルボキシル基を含有するバインダー2〜5を使用して、試験1−2と同様の方法にて抗菌剤をポリエステル布帛Aに付着させた。抗菌剤の有効成分濃度はいずれも0.3%solとした。洗濯は前記の洗浄方法Aを用い、洗濯0回、1回、3回後の各布帛について抗菌剤の付着量を測定した。抗菌剤の付着量の検出は上述の方法を用い、ブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒とした。結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
表4に示されるとおり、カルボキシル基を含有するバインダー2〜5を用いた実施例4〜7では、3回洗濯後の抗菌剤保持率が46.4〜73.6%となり、ヒドロキシル基を有するバインダーa〜dを用いるよりも抗菌剤保持率が高く、洗濯耐久性に優れる。中でも、メタクリル酸を含むバインダーであるバインダー2を用いた実施例4では、高い抗菌剤保持率が得られた。
【0071】
(試験1−4)
カルボキシル基を有するバインダー2、ヒドロキシル基を有するバインダーa及びd、また、バインダーを用いずに、試験1−2と同様の方法にて抗菌剤をポリエステル布帛Aに付着させた。抗菌剤の有効成分濃度はいずれも0.3%とした。洗濯は、洗浄方法Bを用い、洗濯0回、1回、3回後の各布帛について抗菌剤の付着量を測定した。抗菌剤の付着量の検出は上述の方法を用い、ブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒とした。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示されるとおり、ヒドロキシル基を有するバインダーa、d(比較例11、12)及びバインダー不使用(比較例13)の場合のいずれでも、洗濯3回後の抗菌剤の保持率は8.2〜16.0%であった。一方、カルボキシル基(メタクリル酸)を含むバインダー2を使用した場合(実施例8)は3回洗濯後の抗菌剤保持率が76.6%と高い値を示した。
【0074】
[試験2:各材質の布帛に対する抗菌剤の固定化(洗濯耐久性)]
綿、ポリエステル、ウール、難燃加工(ザプロ加工)ウールの各布帛に抗菌剤を固定化し、洗濯10回(ウール及び難燃加工ウールについては洗濯7回)後の抗菌剤の付着量を確認した。各布帛について、バインダーを使用しない場合、カルボキシル基を含有するバインダー(バインダー2)を使用する場合のそれぞれについて試験を行った。
綿原布への抗菌剤の固定化は、バインダーを使用しない場合、質量84g/m
2の綿原布からタテ、ヨコ各20cmの布帛片を切り出し、所定の抗菌剤溶液に浸漬した後、マングルにて絞った。この時の布帛のピックアップ率は89%であった。その後、ヒートセッターを用い、設定温度150℃で乾燥した。この時の布帛への抗菌剤の付着量は0.22g/m
2であった。
バインダーを使用する場合、まず、所定のバインダー溶液に浸漬した後、マングルにて絞った。この時の布帛のピックアップ率は70%であった。その後、ヒートセッターを用い、設定温度150℃で乾燥した。布帛へのバインダーの付着量は表6に示す。その後、所定の抗菌剤溶液(抗菌剤の有効成分濃度0.3%)に浸漬した後、ヒートセッターを用い、設定温度150℃で乾燥した。
ポリエステル原布への抗菌剤の固定化は、ポリエステル原布として質量390g/m
2のポリエステル布帛Aを用いた以外は、綿原布と同様の方法とした。ピックアップ率は70%であった。
ウール原布への抗菌剤の固定化は、ウール原布として質量118g/m
2のものを用いた以外は、綿原布と同様の方法とした。ピックアップ率は63%であった。
難燃加工ウールへの抗菌剤の固定化は、難燃加工原布として質量366g/m
2のものを用いた以外は、綿原布と同様の方法とした。ピックアップ率は58%であった。
洗濯は、洗浄方法Bを用い、洗濯0回、1回、3回、5回、10回(但し、ウール及び難燃加工ウールは7回)後の各布帛について抗菌剤の付着量を測定した。抗菌剤の付着量の検出は上述の方法を用い、ブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒とした。結果を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
表6に示されるとおり、綿、ポリエステル、ウール、難燃加工ウールのいずれにおいても、カルボキシル基を有するバインダー2を使用すると、バインダーを使用しない場合と比較して、洗濯耐久性が顕著に向上した。
【0077】
[試験3:抗菌剤の処理温度]
カルボキシル基を有するバインダー2を用いて、浸漬処理後の乾燥温度を110〜180℃の各温度として、ポリエステル布帛Aに対して抗菌剤の固定化を行った。処理温度以外の条件は試験1−2と同様とした。洗濯は、洗浄方法Bを用い、洗濯0回、1回、3回、5回後の各布帛について抗菌剤の付着量を測定した。抗菌剤の付着量の検出は上述の方法を用い、ブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒とした。結果を下表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
表7に示されるとおり、110〜180℃のいずれの温度においても、洗濯5回後の抗菌剤保持率は71.0〜80.5%と良好であった。この結果はいずれの温度においても問題なく処理が行えることを示している。つまり、比較的低温度域(110〜130℃)の乾燥温度であっても好適に処理が行えるほか、110〜160℃の範囲でより好適に抗菌剤の固定化処理が行えることを示している。
【0080】
[試験4:抗菌性能試験]
カルボキシル基を有するバインダー2を用いて抗菌剤を固定化したポリエステル布帛A、バインダーを用いずに抗菌剤処理したポリエステル布帛A(いずれも10回洗濯後)、及び、未処理の綿布帛について、抗菌性能を確認した。布帛の処理方法及び洗濯方法は、試験1−2と同様とした。抗菌性能試験方法はJIS L 1902、菌液吸収法に準じて行った。結果を表8に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表8に示されるとおり、カルボキシル基を有するバインダー2を用いて抗菌剤を固定化したポリエステル布帛A(実施例21)は、良好な静菌活性値を示した。一方、バインダーを用いなかったポリエステル布帛A(比較例18)では静菌活性が十分ではなく、未処理の綿布帛(比較例19)は静菌活性を示さなかった。
【0083】
[試験5:摩擦耐久性試験]
カルボキシル基を有するバインダー2を用いて抗菌剤を固定化したポリエステル布帛A、及び、バインダーを用いずに抗菌剤処理したポリエステル布帛Aについて、抗菌剤の摩擦耐久性を確認した。
試験片として、タテ230mm、ヨコ30mmのポリエステル布帛A(バインダー及び抗菌剤処理のもの、抗菌剤のみ処理のもの)を準備した。
JIS L 0849に規定する摩擦試験機IIを用い、JIS L 0803の綿帆布10番(50mm角)を荷重500gの摩擦子に取り付けた。その後、JIS L 0849に準じて、試験片を試験機に取り付け、試験片上100mm間を毎分30往復の速度で、10〜1000回の回数(表中に記載)で摩擦する。各回数の摩擦終了後、綿帆布を取り外し、綿帆布についてブロモフェノールブルーの呈色反応を行い、ポリエステルから綿帆布に脱落移行した抗菌剤を検出した。
評価は、明度、ΔE(摩擦10回時の値を基準としたΔEの悪化量)、及び級数(綿帆布の呈色反応結果を汚染色用グレースケール(JIS L 0805に準拠)にて読み取った値)で行った。結果を表9に示す。
【0084】
【表9】
【0085】
表9に示されるとおり、カルボキシル基を有するバインダー2を用いて抗菌剤を固定化したポリエステル布帛A(実施例22)は、10〜1000回のいずれの時点においても、バインダーを用いなかったもの(比較例20)と比較して、明度が高く、ΔEは低く、級数の低下が少なかった。このことは、摩擦によるポリエステル布帛からの綿布への抗菌剤の移行が少ないこと、すなわち、カルボキシル基を有するバインダー2を用いたポリエステル布帛は抗菌剤の脱落が少なく、耐摩擦性に優れることを示している。
【0086】
[試験6−1:ポリプロピレン樹脂成型品への抗菌剤の固定化1]
カルボキシル基を有するバインダー2を用いて抗菌剤を固定化したプラスチック成型品、及び、バインダーを用いずに抗菌剤処理したプラスチック成型品について、抗菌剤の付着性を確認した。
試験片として、ポリプロピレン製プラスチック成型品を準備した。
ポリプロピレン製プラスチック成型品をバインダー2の溶液に1分間浸漬した後、取り出し、ドライヤーで熱風乾燥した。その後、抗菌剤溶液(有効成分濃度0.3%溶液)に1分間浸漬した後、取り出し、ドライヤーで熱風乾燥した。比較例として、バインダー処理を行わずに抗菌剤処理のみを行った試験片を作成した。
バインダー及び抗菌剤処理をした試験片(実施例23)、バインダー処理も抗菌剤処理も行っていない試験片(比較例21)、バインダー処理せずに抗菌剤処理のみを行った試験片(比較例22)についてブロモフェノールブルーの呈色反応を行い、各々の試験片に付着した抗菌剤を検出した。結果を表10に示す。なお、ΔEは、ポリプロピレン製プラスチック成型品の未試験品(ブロモフェノールブルー呈色反応なし)の値に対する変化量を示している。
【0087】
【表10】
【0088】
表10に示されるとおり、バインダーを用いて抗菌剤を固定化した実施例23は、比較例21、22と比較して明度が低く、ΔEの値が大きくなっており、抗菌剤が付着していることを示した。なお、比較例21と比較例22との結果には顕著な差がないが、このことは、バインダー無しではポリプロピレンには抗菌剤が付着しないことを示しており、従来、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩をポリプロピレン製品に固定化することは困難だと考えられてきたことと一致する結果である。
【0089】
[試験6−2:ポリプロピレン樹脂成型品への抗菌剤の固定化2]
カルボキシル基を有するポリオレフィン系バインダーである、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(酸価3.0)をバインダーとして用い、ポリプロピレンフィルムに対する抗菌剤の付着性及びバインダーの成型品との接着性を確認した。
試験片として、ポリプロピレンフィルム(厚さ0.20mm)を準備した。
ドクターナイフでバインダーをポリプロピレンフィルム上に塗布し、90℃×10分間乾燥した後、フィルムへの塗布量を測定した。このフィルムを幅70mm、長さ300mmの大きさにカットした。
フィルムの大きさと同じサイズのウレタンフォームを下に添えて、平面摩耗機の両端にサンプルを固定し、1Kgfの荷重で摩擦子を140mmの間を60±10回の速度で往復50回摩擦させた。平面摩耗機は、株式会社大栄科学精器製作所製、耐摩耗平面摩擦試験機No.E9660を用いた。
摩擦後のポリプロピレンフィルムをカットし、抗菌剤処理及び抗菌剤の検出を行った。
抗菌処理は所定の抗菌剤溶液(有効成分濃度0.3%)に浸漬した後、ギアオーブンを用い、設定温度90℃で乾燥した。抗菌剤の検出は前述のブロモフェノールブルーの呈色反応(反応時間180秒)により行った。測色は、スガ試験機株式会社製、SMカラーコンピュータを用いて、各サンプルに白版を重ねて測定し、バインダーも抗菌剤も付与していないブランクフィルムに対するΔEを測定した。その結果を下表に示す。
【0090】
【表11】
【0091】
表11に示されるとおり、ポリプロピレンフィルムに対して無水マレイン酸変性ポリプロピレンをバインダーとして用いた例(実施例201、202)は、表面摩耗後であっても抗菌剤を付着しており、ポリプロピレンフィルムに対する接着性が高いことが示された。
【0092】
[試験7:フィルム製品への抗菌剤の固定化と摩擦耐久性]
カルボキシル基を有するバインダー2を用いて抗菌剤を固定化した厚膜ニトリルゴムフィルム、及び、バインダーを用いずに抗菌剤処理した厚膜ニトリルゴムフィルムについて、抗菌剤抗菌剤摩擦耐久性を確認した。
試験片として、タテ50mm、ヨコ50mm、厚み90μmの厚膜ニトリルゴムフィルムを準備した。
ニトリルゴムフィルムをバインダー2の溶液に1分間浸漬した後、取り出し、ドライヤーで熱風乾燥した。その後、抗菌剤溶液(有効成分濃度0.3%溶液)に1分間浸漬した後、取り出し、ドライヤーで熱風乾燥した。比較例として、バインダー処理を行わずに抗菌剤処理のみを行った試験片を作成した。
バインダー及び抗菌剤処理をした試験片、及び、バインダー処理せずに抗菌剤処理のみを行った試験片について、ブロモフェノールブルーの呈色反応(反応時間:180秒)を行い、乾燥した後、摩擦耐久性試験を行った。
摩擦耐久性試験は、JIS L 0849に規定する摩擦試験機II型を用い、JIS L 0803の綿帆布10番(50mm角)を荷重500gの摩擦子に取り付けた。さらにその上に、ニトリルゴムフィルムである試験片を取り付け、JIS L 0803の綿帆布10番をタテ230mm、ヨコ30mmの長さに切ってJIS L 0849に規定する試験機に取り付け、綿帆布上100mm間を毎分30往復の速度で50回摩擦した。50回摩擦後、摩擦子に取り付けた試験片を取り外し、摩擦によって試験片から綿帆布に移行した抗菌剤を測定した。
抗菌剤の保持率は、抗菌剤の固定化処理後(つまり、摩擦耐久試験前)のニトリルゴムフィルムのΔEを100として、摩擦耐久試験後のΔEの値の割合を算出し、抗菌剤の保持率とした。結果を表12に示す。
【0093】
【表12】
【0094】
表12に示されるとおり、バインダー2及び抗菌剤処理を行ったニトリルゴムフィルム(実施例24)は、抗菌剤処理のみを行ったニトリルゴムフィルム(比較例23)よりも抗菌剤の保持率が高い。つまり、抗菌剤の脱落が少なく、摩擦耐久性に優れることが示された。
【0095】
[試験8−1:ポリエステル系布帛への抗菌剤の固定化2(バインダー組成のさらなる検討)]
カルボキシル基を有するバインダーとして、前述以外の様々なバインダーを用いて、カルボキシル基の効果を確認した。
[材料]
1.抗菌剤:エトキシシラン系第4級アンモニウム塩であるオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(マナック社製、商品名ESi−QAC)に水を加えて所定の濃度にした溶液を用いた。
2.バインダー:下表13に示す、カルボキシル基を含有するバインダー6〜9、及び、比較としてカルボキシル基を含有しないバインダーeを用いた。
3.物品:試験例1で用いたものと同じポリエステル布帛Aを用いた。
【0096】
【表13】
【0097】
[試験方法]
抗菌剤の付与、検出、布帛の洗浄は試験例1と同様の方法で行った。抗菌剤の検出におけるブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒間、布帛の洗浄には洗浄方法Aを用いた。
【0098】
上記の各種バインダー及び抗菌剤を付与した布帛の、1回洗浄後から10回洗浄後までの、布帛に残存する抗菌剤の検出結果を次表に示す。
【表14】
【0099】
表14に示されるとおり、カルボキシル基を含有するバインダーであるバインダー6〜9を用いた例(実施例101〜104)は、カルボキシル基を有さないバインダーであるバインダーeを用いた例(比較例101)やバインダーを用いない例(比較例102)よりも、洗濯1回後の明度が低かった。これは、実施例の布帛はいずれも、布帛により多くの抗菌剤が付着していることを示している。
また、洗濯10回後と洗濯1回後の△Eの割合は、実施例101〜104では0.76〜1.00であり、△E値の減少が少ないのに対して、比較例101及び102では0.42〜0.52であり、ΔE値が大幅に低下した。このことは、実施例の布帛はいずれも抗菌剤の脱落が少なく、洗濯耐久性を有することを示している。
【0100】
[試験8−2:ポリエステル系布帛への抗菌剤の固定化3(バインダー組成のさらなる検討)]
カルボキシル基を有するバインダーとして、前述以外の様々なバインダーを用いて、カルボキシル基の効果を確認した。
[材料]
1.抗菌剤:エトキシシラン系第4級アンモニウム塩であるオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(マナック社製、商品名ESi−QAC)に水を加えて所定の濃度にした溶液を用いた。
2.バインダー:既述のバインダー2(酸価250)、及び、カルボキシル基を含有するバインダーである、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(酸価3.0)バインダー(バインダー10)、カルボキシル基を有するウレタン系樹脂(酸価40)バインダー(バインダー11)を用いた。
3.物品:試験例1で用いたポリエステル布帛Aと組織の異なる別種のポリエステル布帛B(目付350g/m
2)を用いた。
【0101】
[試験方法]
前述の試験方法と同様に布帛に各種バインダーを付与した後、抗菌剤を付与した。
抗菌剤の付与は、dip−nip法の後、150℃、180秒の乾燥によって行った。布帛に付与される抗菌剤の有効成分が0.63g/m
2となるよう加工液を調整した。
抗菌剤の検出、布帛の洗浄は試験例1と同様の方法で行った。抗菌剤の検出におけるブロモフェノールブルーの呈色時間は180秒間、布帛の洗浄には洗浄方法Bを用いた。
【0102】
上記の各種バインダー及び抗菌剤を付与した布帛の、1回洗浄後から5回洗浄後までの、布帛に残存する抗菌剤の検出結果を次表に示す。
【0103】
【表15】
【0104】
表15に示されるとおり、ポリエステルポリマー系バインダー2、ポリプロピレン系バインダー10、ポリウレタン系バインダー11を用いた例(実施例105〜108)はいずれも、バインダーを用いない例(比較例103)よりも、洗濯0回での明度が低かった。これは、抗菌剤の付着が多いことを示唆している。また、実施例105〜108はいずれも、比較例103と比較して洗濯5回後の抗菌剤保持率が高かった。
【0105】
<試験系列2:バインダー処理せず、カルボキシル基を含む樹脂製品へ抗菌剤を付与する場合>
[試験9:樹脂製品への抗菌剤の固定化]
[材料]
1.抗菌剤:エトキシシラン系第4級アンモニウム塩であるオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(マナック社製、商品名ESi−QAC)に水を加えて所定の濃度にした溶液を用いた。
2.物品:下表のポリマーを組み合わせて成型した樹脂フィルムを用いた。
【0106】
【表16】
【0107】
[樹脂フィルムの作製]
(No.1)
ウレタンポリマーA100gを、常温下でガラス板(1.35cm×9.0cm)に流し込み、室温で2日間静置した後、100℃×10分、続いて、150℃×5分間乾燥させた。常温まで放冷後、各サンプルをガラス板から剥がして、成型された厚さ0.71mmの樹脂フィルムを得た。
(No.2)
ウレタンポリマーA100gに替えてウレタンポリマーB100gを用いた以外はNo.1と同様にして樹脂フィルムを得た。
【0108】
(No.3)
ウレタンポリマーA100gに替えて、ウレタンポリマーA90gとカルボキシル基含有ポリマー10gとを均一に混合したものを用いた以外はNo.1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
(No.4)
ウレタンポリマーA100gに替えて、ウレタンポリマーB90gとカルボキシル基含有ポリマー10gとを均一に混合したものを用いた以外はNo.1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
(No.5)
ウレタンポリマーA100gに替えて、アクリル酸エステルポリマー90gとカルボキシル基含有ポリマー10gとを均一に混合したものを用いた以外はNo.1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0109】
[抗菌剤の固定化及び検出]
1.抗菌剤の付与:上記No.1〜No.5の各樹脂フィルムを5cm×5cmに切り出し、0.3%(抗菌剤有効成分濃度)溶液に60秒間浸漬した後、引き上げて風乾した。
2.抗菌剤の検出:各樹脂フィルムに付着した抗菌剤の検出には、ブロモフェノールブルーとアンモニウム塩とのカチオン性の呈色反応を用いた。
抗菌剤を付与した樹脂フィルム(5cm×5cm)について、ブロモフェノールブルー溶液(反応剤濃度:0.03%sol)に60秒間浸漬した。続いて、水で洗浄及び風乾した。このサンプルについて、明度及びΔEをSMカラーコンピューター(スガ試験機株式会社製)にて測定、算出した。
各樹脂フィルムに付着した抗菌剤の検出結果を下表に示す。
【0110】
【表17】
【0111】
表17に示されるとおり、ウレタンポリマーのみからなるフィルム(比較例24、25)は、呈色前と呈色後で明度がほとんど変わらず、ΔEが3.0前後の低い値であった。つまり、ウレタンポリマーのみからなる樹脂フィルムには、抗菌剤が付着しなかった。一方、カルボキシル基を含むポリマーを含有する樹脂フィルム(実施例25、26、27)は、呈色前と比べて呈色後の明度が低く、ΔEも12.97〜22.84であった。つまり、カルボキシル基を含むポリマーを含有する樹脂フィルムには抗菌剤が付着することが示された。