【実施例】
【0052】
以下に、本発明の金属コーティング材10の実施例について説明する。
【0053】
〔実施例1〕
本発明の金属コーティング材10を作製した。
まず、鉄鉱石を原料として粒状微粒子11Aを作製した。ミルスケール或いは鉄鉱石を還元して得られた還元鉄塊の適量を、衝撃式・剪断式粉砕機であるハンマーミルに投入し、所定の条件で粉砕した。振動篩(篩網目開き109μm)を使用して分級することにより粒状微粒子11Aを得た。
【0054】
この粒状微粒子11Aを、スチールボール(1/2インチ)と共に連続振動ボールミル(CH−35:中央化工機株式会社製)に投入し、占有率70%、振幅6mm、振動数20Hz、滞留時間120分の条件で板状化処理を行った。振動篩(篩網目開き109μm)を使用して分級して板状微粒子11Bを得た。
【0055】
このようにして得られた粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bの混合割合(粒状微粒子:板状微粒子)を種々変更して複数種類の金属コーティング材10を作製し、表1にそれぞれの粒度分布を示した(本発明例1(90:10)、本発明例2(85:15)、本発明例3(80:20)、本発明例4(75:25)、本発明例5(70:30)、本発明例6(65:35)、本発明例7(60:40)、本発明例8(50:50)、本発明例9(40:60)、本発明例10(20:80))。本発明例3(80:20)については、5種類の試料を作成した(本発明例3−1〜3−5)。
表1には、粒状微粒子11Aのみ(比較例1)、板状微粒子11Bのみ(比較例2)、および、比較例3(現行標準鉄粉DSP317、DOWA IPクリエイション株式会社製)の粒度分布も示した。尚、表1に示す粒度分布では、粒度の大きすぎる粒子は除外してある。
図1に、本発明例3(
図1(b))および本発明例8(
図1(c))の電子顕微鏡写真図を示した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1より、本発明例1〜10の粒度分布は、
45μm未満:36.8〜46.7重量%、
45〜63μm未満:30.0〜33.1重量%、
63〜75μm未満:12.7〜18.5重量%、
75〜106μm未満:9.2〜12.7重量%、
106〜150μm未満:0.2〜0.7重量%、であり、150μm以上の粒子は含有されていなかった。
【0058】
本発明例1〜10および比較例1〜3について、粒度分布63〜150μmおよび75〜150μmの粒子の割合を表2に示した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2より、本発明の金属コーティング材10に含まれる金属粉体11の粒度分布における63〜150μm未満の粒子の割合は23.3〜31.7(約23〜32)重量%であり、150μm以上の粒子は含有されていないことを鑑みると、これは63μm以上の粒子の割合となる。また、金属粉体11の粒度分布における75〜150μm未満の粒子の割合(75μm以上の粒子の割合)は9.5〜13.2重量%であった。
【0061】
本発明の金属コーティング材10において、板状微粒子11Bのアスペクト比(粒子径/粒子厚み)を求め、表3に示した。算出したアスペクト比の分布を
図2に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
選択した31粒子の粒子径は15〜115μm、粒子厚みは2〜20μmであり、算出されたアスペクト比は1.5〜38.3の範囲であった。
【0064】
表4に、本発明例のうち三種類の金属コーティング材10の組成(重量%)を示した。
【0065】
【表4】
【0066】
〔実施例2〕
本発明の金属コーティング材10が、酸化反応によってどの程度まで発熱するかを調べた。
本発明例3−1(80:20)、本発明例7(60:40)、本発明例9(40:60)、本発明例10(20:80)の各試料20gに、3%の食塩水2mLを加え、30秒の攪拌後に30mLの紙コップに移し、熱電対によって試料の温度を測定した(室温、23分まで記載)。比較例1〜3についても同様の条件で温度を測定した。結果を
図3に示した。
【0067】
この結果、本発明の金属コーティング材10(本発明例)の温度は、測定開始後10分程度で29〜32℃程度に達し、それ以降はこの温度付近を維持するものと認められた。一方、比較例3(DSP317)では、測定開始後10分以降も昇温を続け、23分以降も昇温するものと認められた。
【0068】
同様の条件で、3時間にわたって温度測定を行なった。使用した試料は、本発明例3−1、本発明例8、比較例1〜3、比較例4(冶金用還元鉄粉DNC、DOWA IPクリエイション株式会社製)、比較例5(冶金用アトマイズ鉄粉アトメル270M系、株式会社神戸製鋼所製)、比較例6(冶金用還元鉄粉、JFEスチール株式会社)であった。結果を
図4に示した。
尚、比較例4〜6については、表5に粒度分布を示した。
【0069】
【表5】
【0070】
表5より、比較例4〜6の粒度分布は、
45μm未満:18.8〜31.9重量%、
45〜63μm未満:13.5〜16.7重量%、
63〜75μm未満:10.1〜15.8重量%、
75〜106μm未満:19.2〜34.1重量%、
106〜150μm未満:11.7〜22.7重量%、
150μm以上:0.8〜11.5重量%であった。
【0071】
また、比較例4〜6の粒度分布において、63μm以上の粒子の割合、および、75μm以上の粒子の割合を表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
表6より、比較例4〜6の粒度分布において、63μm以上の粒子の割合は53.6〜67.7重量%、75μm以上の粒子の割合は42.4〜57.6重量%であった。即ち、比較例4〜6の試料は、本発明例1〜10における63μm以上の粒子の割合(23.3〜31.7重量%)、および、75μm以上の粒子の割合(約9.5〜13.2重量%)とは異なるものであった。
【0074】
温度測定の結果、比較例3,4,5,6は100分までに50℃以上に達していた。一方、本発明例3−1、本発明例8、比較例1,2については40℃に達することは無かった。
【0075】
この結果より、比較例3,4,5,6の鉄粉を種子にコーティングした場合、酸化反応時の発熱によって当該イネ種子に対して熱障害を引き起こす虞がある温度まで昇温する。そのため、比較例3,4,5,6の鉄粉でイネ種子をコーティングした場合、イネ種子の熱障害を回避するため放熱時にはコーティング種子を厚く堆積させないように気をつける必要がある。
一方、本発明例3−1、本発明例8の金属コーティング材10を種子にコーティングした場合は、酸化反応時の発熱によっては種子に対して熱障害を引き起こす虞は殆どないと考えられた。
【0076】
〔実施例3〕
本発明の金属コーティング材10を、以下の手法によってイネ種子(コシヒカリ:ジャポニカ種)にコーティングした。
水に浸漬したイネ種子;2kg、本発明例3−1(80:20)の金属コーティング材10;1kg、焼石膏;0.1kgをコーティングマシン(KC−151:株式会社啓文社製作所)に投入し、適量の水を噴霧しながらこれらを混合した。室温で13分の混合を行なった後、仕上げの焼石膏0.05kgを添加し、適量の水を噴霧しながらこれらを2分混合した。水はトータルで0.4kg使用した。
造粒したコーティング種子Xをコーティングマシンより取り出し、厚さ2cm程度となるように広げて室温にて酸化反応を進行させた。コーティング種子Xが室温になるまで放置し、その後、所定の容器に作製したコーティング種子Xを保存した。
【0077】
比較例3(DSP317)についても同様の手法でイネ種子にコーティングを施した(従来コーティング種子)。
【0078】
本発明例3−1(80:20)でコーティングしたコーティング種子X、および、比較例3(DSP317)でコーティングした従来コーティング種子について、酸化反応に伴う発熱の温度を測定した(
図5,6)。測定は、コーティングマシンより取り出したときから開始した。
【0079】
図5には、本発明コーティング種子Xおよび従来コーティング種子について、コーティング種子をプラスティック製容器(高さ13×6.75×13cm:1140mL)に50mmの厚さで堆積させて温度測定を行なった結果を示した(室温)。
図6には、本発明コーティング種子Xについて、苗箱(高さ28×58×3cm:4827mL)に30mmの厚さで堆積させて温度測定を行なった結果を示した(外気温6〜7℃)。
【0080】
図5より、従来コーティング種子において、6時間程度(約350分)に温度のピーク(約92℃)が認められた。一方、本発明コーティング種子Xでは、6時間経過までに従来コーティング種子で認められたような高温のピークは認められず、約37℃程度までの昇温に抑制できた。従来コーティング種子では37℃まで昇温するのに要する時間は約4時間であった。即ち、本発明コーティング種子Xにおいて所定温度に到達するまでに要した時間は、従来コーティング種子の1.5倍であった。
【0081】
図6より、苗箱にて放熱させた場合、本発明コーティング種子Xおよび従来コーティング種子において、約400分までに昇温の程度に差異が認められた(本発明コーティング種子X:約14℃、従来コーティング種子:17.8℃)。
【0082】
図5,6の結果より、本発明の金属コーティング材10をコーティングしたコーティング種子Xは、従来の鉄粉によってコーティングされたコーティング種子より、昇温の程度が抑制されるものと認められた。
【0083】
尚、従来コーティング種子では、
図5に認められた高い温度のピークは認められなかったが、
図6のグラフより温度が上昇する傾向が読み取れるため、400分以降に温度のピークが出現すると予想された。本発明コーティング種子Xについても、従来コーティング種子より昇温の程度は抑制された状態で徐々に昇温するものと考えられるが、従来コーティング種子で認められたような高温まで昇温することはないため、イネ種子に熱障害を引き起こす虞はない。
このように、温度のピークが出る時間は、種子の堆積厚さや外気温によって異なるため、コーティング後に放熱させる時間は処理する種子の量や季節に応じて適宜決定するとよい。
【0084】
〔実施例4〕
実施例3で作製したコーティング種子Xにおいて、本発明の金属コーティング材10(本発明例1〜6)のコーティング強度を評価した(崩壊試験)。
重量を測定したコーティング種子Xを、試験用篩(直径200mm、篩網目開き1mm)の上に載置した。この状態ではコーティング種子Xは、試験用篩のメッシュを通過できない。
コーティング種子Xを載置した試験用篩を粒度分布測定装置である公知のロータップシェーカーにて10分間振動させた。振動後のコーティング種子Xの重量を測定し、振動前後のコーティング種子Xの重量を比較し、イネ種子の表面における金属コーティング材10の残留率(%)を算出した(表7、
図7)。比較例1,3でコーティングした従来コーティング種子についても同様に崩壊試験を行ない、その結果を示した。
【0085】
【表7】
【0086】
この結果、本発明例3〜5(粒状微粒子および板状微粒子の混合比率を8:2〜7:3)の金属コーティング材10の残留率は98.8%以上であり、比較例3(DSP317)と略同等の残留率を示した。特に、本発明例4では比較例3(DSP317)と同じ残留率となっており、本発明の金属コーティング材10の本発明例のなかでは最も強度に優れていた。このように本発明の金属コーティング材10は、種子20に対してコーティングした場合であっても実用的な強度を有していることが判明した。