特許第5865728号(P5865728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
  • 特許5865728-窒化アルミニウム結晶の製造方法 図000004
  • 特許5865728-窒化アルミニウム結晶の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865728
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20160204BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20160204BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C30B29/38 C
   C30B19/04
   H01L21/208 D
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-38431(P2012-38431)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-173638(P2013-173638A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
(72)【発明者】
【氏名】安達 正芳
(72)【発明者】
【氏名】田中 明和
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正史
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/008545(WO,A1)
【文献】 特開2008−044809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga−Al合金融液に、N原子を含有し、酸素分圧が1×10−8atm以上1×10−5atm以下であるガスを導入し、該Ga−Al合金融液中の種結晶基板上に窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶基板が窒化サファイア基板であることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化サファイア基板に形成された窒素極性の窒化アルミニウム膜上に、Al極性の前記窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項2に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相成長法(LPE)によりAlNをエピタキシャル成長させる窒化アルミニウム結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外発光素子は、蛍光灯の代替、高密度DVD、生化学用レーザ、光触媒による公害物質の分解、He−Cdレーザ、水銀灯の代替など、次世代の光源として幅広く注目されている。この紫外発光素子は、ワイドギャップ半導体と呼ばれるAlGaN系窒化物半導体からなり、表1に示すようなサファイア、4H−SiC、GaNなどの異種基板上に積層される。
【0003】
しかし、サファイアは、AlGaNとの格子不整合が大きいため、多数の貫通転位が存在してしまい、非発光再結合中心となって内部量子効率を著しく低下させてしまう。また、4H−SiC及びGaNは、格子整合性は高いが、高価である。また、4H−SiC及びGaNは、それぞれ波長380nm及び365nm以下の紫外線を吸収してしまう。
【0004】
これに対して、AlNは、AlGaNと格子定数が近く、200nmの紫外領域まで透明であるため、発光した紫外線を吸収することなく、紫外光を効率よく外部へ取り出すことができる。つまり、AlN単結晶を基板として用いてAlGaN系発光素子を準ホモエピタキシャル成長させることにより、結晶の欠陥密度を低く抑えた紫外光発光素子を作製することができる。
【0005】
【表1】
【0006】
現在、HVPE法(ハイドライド気相成長法)、液相成長法、昇華再結晶法などの方法によりAlNのバルク単結晶の作製が試行されている。例えば、特許文献1には、III族窒化物結晶の液相成長法において、フラックスへの窒素の溶解量を増加させるために圧力を印加し、ナトリウム等のアルカリ金属をフラックスに添加することが開示されている。また、特許文献2には、Al融液に窒素原子を含有するガスを注入して、AlN微結晶を製造する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2の技術を用いてAlN結晶を製造する場合、高い成長温度が必要となり、コスト及び結晶品質に関して満足するものが得られない。
【0008】
これに対し、本件発明者らの一部は、上記問題に応えるものとして、液相成長法におけるフラックスとしてGa−Al合金融液を用いることにより、低温でのAlNの結晶成長が可能であり、基板表面の結晶性を引き継ぎかつAl極性を有する良好なAlN結晶が得られることを見出した(特許文献3)。
【0009】
具体的には、Ga−Al合金融液にN原子を含有するガスを導入し、該Ga−Al合金融液中の種結晶基板上にAlN結晶をエピタキシャル成長させるにあたり、種結晶基板として窒化サファイア基板を用いた。これにより、窒化サファイア基板表面に形成された窒素極性の窒化アルミニウム膜上に、表面の良好な結晶性を引き継いだAl極性の窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−224600号公報
【特許文献2】特開平11−189498号公報
【特許文献3】国際公開第2012/008545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、Ga−Al合金融液を用いて種結晶基板上にAlN結晶をエピタキシャル成長させる液相成長法において、安定して良質な窒化アルミニウム結晶を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本件発明者らは、上記Ga−Al合金融液を用いて種結晶基板上にAlN結晶をエピタキシャル成長させる液相成長法について鋭意検討を重ねた結果、Ga−Al合金融液に導入するN原子を含有するガス中の酸素分圧を制御することにより、基板表面の良好な結晶性を引き継ぎかつAl極性を有するAlN結晶が安定して得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法は、Ga−Al合金融液に、N原子を含有し、酸素分圧が1×10−8atm以上1×10−5atm以下であるガスを導入し、該Ga−Al合金融液中の種結晶基板上に窒化アルミニウム結晶をエピタキシャル成長させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、種結晶基板上にAl極性を持つAlN結晶を低温で安定して成長させることが可能となる。このため、現在用いられているAl極性を有する基板に対して最適化されたMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法の成長条件を用いて、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser diode)デバイスに必要な多重量子井戸構造を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】AlN結晶製造装置の構成例を示す図である。
図2】エピタキシャル成長後のシード基板断面を示すSEM観察写真である。を併せて示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態における窒化アルミニウム結晶の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、AlN結晶製造装置の構成例を示す図である。このAlN結晶製造装置は、ガス導入管1と、坩堝2と、坩堝2内のシード基板3及びGa−Al合金融液4を加熱するヒータ5と、ガス排出管6と、熱電対7とを備える。
【0018】
ガス導入管1は、上下に可動し、坩堝2内のGa−Al合金融液4中に先端が挿入可能となっている。すなわち、Ga−Al合金融液4を窒素含有ガスでバブリング可能となっている。坩堝2は、耐高温性のものが用いられ、例えばアルミナ、ジルコニアなどのセラミックを用いることができる。
【0019】
シード基板3は、AlN結晶と格子不整合率が小さい格子整合基板であり、例えば、AlN薄膜を表面に形成した窒化サファイア基板、SiC基板、GaN基板などが用いられる。この中でも、窒化サファイア基板を用いることにより、表面の良好な結晶性を引き継いだAlNをホモエピタキシャル成長させることができる。窒化サファイア基板は、例えば、特開2005−104829号公報、特開2006−213586号公報、特開2007−39292号公報などに開示されている方法により得ることができる。具体的には、例えばc面サファイア基板を窒素分圧0.9atm/CO分圧0.1atm、温度1500℃で1時間保持した後、窒素分圧1.0atmで5時間保持することにより、AlN薄膜の結晶性が優れた窒化サファイア基板を得ることができる。この窒化サファイア基板は、表面のAlN膜がc軸配向単結晶膜でありかつ窒素で終端された窒素極性を有する。
【0020】
また、シード基板3に窒化サファイア基板を用いる場合は、予め900℃以上1500℃以下の温度で、窒化サファイア基板のアニール処理を行うことが望ましい。アニール処理を行うことで、AlN薄膜に回転ドメインが存在した場合であっても、ドメインの再配列が促され、c軸配向したシングルドメインとなる。
【0021】
Ga−Al合金融液4は、GaとAlとのモル比率が99:1〜1:99の範囲のものを用いることができる。この中でも、低温成長及び結晶性の観点から、GaとAlとのモル比率が98:2〜40:60の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは98:2〜50:50の範囲のものである。
【0022】
窒素含有ガスは、窒素含有ガスとしては、N、NHなどを用いることができるが、安全性の観点からNを用いることが好ましい。この窒素含有ガスの酸素分圧は、後述のように1×10−17atmより大きな(高い)ものである。また、窒素分圧は、通常0.01MPa以上1MPa以下である。
【0023】
続いて、AlN結晶の製造方法について説明する。上述したようなAlN結晶製造装置において、先ず、窒素ガス、アルゴンガスなどの雰囲気中で昇温を開始し、Alの融点に達した後、Ga−Al合金融液4中に窒素含有ガスを注入する。そして、坩堝2内のGa−Al合金融液4の温度を1000℃以上1500℃以下に保ち、シード基板3をGa−Al合金融液4中に浸漬し、シード基板3上にAlN結晶を生成させる。
【0024】
ここで、Ga−Al合金融液4中に注入する窒素含有ガスの酸素分圧を1×10−17atmより大きな(高い)ものとし、より好ましくは1×10-8atm以上する。これにより、シード基板3上に良好なAlN結晶をエピタキシャル成長させることができる。酸素分圧が1×10−17atm以下の場合には、AlN結晶をシード基板3上に均一に成長させることができないか、又は、ほとんど成長させることができない。また、シード基板3として窒化サファイア基板を用いた場合、表面のAlN薄膜が侵食されることがある。また、Ga−Al合金融液4中に注入する窒素含有ガスの酸素分圧が10-5atmよりも高くなるような場合には、酸素がAlN結晶の不純物となってしまう。
【0025】
Ga−Al合金融液4中に注入する窒素含有ガスの酸素分圧は、次のように制御することができる。例えば、市販の窒素ガスボンベから得られるガスを、数百℃の温度に保ったCu、Ni等が充填された脱酸素炉に通して酸素分圧を十分に低下させた後、所望の酸素分圧となるように微量の酸素ガス、又は酸素/窒素混合ガスを添加することにより制御することができる。また、予め所望の酸素分圧になるように調製されたガスボンベから供給して制御してもよい。
【0026】
また、上記方法において、シード基板3に窒化サファイア基板を用いる場合には、窒化サファイア基板をGa−Al合金融液4中に浸漬する直前に、融液4直上で保持することで、窒化サファイア基板のアニール処理をAlN結晶製造装置内で実施することができる。アニール処理時の基板温度は、基板が融液4直上で保持されているため、融液4と同等である。
【0027】
シード基板3上にAlN結晶を生成させる際のGa−Al合金融液4の温度は、1000℃以上とすることが好ましい。これにより、注入された窒素と融液中のガリウム及びアルミニウムのそれぞれとが化合して生成されたGaN及びAlNの微結晶のうち、GaN微結晶が解離し、ガリウムと窒素に分解するため、AlN結晶成長の阻害を防ぐことができる。なお、AlN結晶の融点は2000℃以上であり、1500℃以下では安定である。
【0028】
また、AlN結晶は、1気圧の常圧条件でも成長させることができ、窒素の溶解度が小さい場合には加圧してもよい。
【0029】
そして、所定時間が経過した後、シード基板3をGa−Al合金融液4から取り出して、徐冷を行う。
【0030】
以上説明したように、Ga−Al合金融液を用いて窒化サファイア種結晶基板上にAlN結晶をエピタキシャル成長させる方法において、Ga−Al合金融液に導入する窒素ガス中の酸素分圧を制御することにより、種結晶基板表面の良好な結晶性を引き継ぎかつAl極性を有するAlN結晶を安定して得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
先ず、c面サファイア基板を窒素分圧0.9atm/CO分圧0.1atm、温度1500℃で1時間保持した後、窒素分圧1.0atmで5時間保持し、窒化サファイア基板を得た。c軸配向したAlN結晶について、チルト成分(結晶試料面に垂直な方向の結晶面の揺らぎ)の結晶性はAlN結晶(002)面のX線回折ロッキングカーブの半値幅で表し、ツィスト成分(結晶試料面内における回転方向の揺らぎ)の結晶性はAlN結晶(102)面のロッキングカーブの半値幅で表した。その結果、この窒化サファイア基板表面のAlN薄膜の結晶性はAlN結晶(002)面チルトの半値幅で40arcsecであり、AlN結晶(102)面ツィストは440arcsecであった。
【0033】
次に、ガリウムとアルミニウムのモル比率が60:40のGa−Al合金融液からなるフラックスをアルゴンガス中で昇温させた。アルミニウムの融点に達した後、フラックス中に0.1MPaの窒素ガスを20cc/minの流速で吹き込んだ。このとき使用した窒素ガス中の酸素分圧は、Cuリボンを充填した脱酸素炉の温度を450℃に保ち、この炉を通過させた窒素ガスに10ppmO/Nバランスガスを添加することにより調節した。ジルコニア式酸素センサーで測定したところ、酸素分圧は1.58×10−6atmであった。そして、坩堝内のフラックスの温度を1300℃に保ち、常圧で上記窒化アルミニウム基板をフラックス中に浸漬させた。5時間経過した後、窒化アルミニウム基板をフラックス中から取り出して徐冷を行い、窒化アルミニウム結晶を生成させた。
【0034】
その結果、AlN結晶はシード基板上に均一に成長しており、AlN結晶(002)面チルトのX線回折ロッキングカーブの半値幅は50arcsecで、(102)面ツィストの半値幅は589arcsecであった。
【0035】
図2は、エピタキシャル成長後のシード基板断面を示すSEM観察写真である。AlN結晶の膜厚は1μmであった。また、窒化サファイア基板上の窒化膜の品質を受け継いだ配向性の高い良好なAlN結晶をエピタキシャル成長させることが確認できた。
【0036】
また、シード基板上に成長したAlN膜について、CBED(Convergent-beam electron diffraction)法により極性を判定したところ、サファイア基板を窒化したことによって形成されたAlN膜は窒素極性であるが、その上にエピタキシャル成長したAlN膜はAl極性であることが確認された。
【0037】
[実施例2]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が36arcsec、(102)面ツィストの半値幅が460arcsecである窒化サファイア基板を用い、Ga−Al合金融液からなるフラックス中に吹き込んだ窒素ガス中の酸素分圧を1.25×10−8atmとした以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。AlN結晶(002)面チルトの半値幅は76arcsecで、(102)面ツィストの半値幅は581arcsecであった。また、エピタキシャル成長したAlN結晶の膜厚は0.7μmであり、AlN膜の極性を判定した結果Al極性であった。
【0038】
[比較例1]
AlN結晶(002)面チルトの半値幅が44arcsec、(102)面ツィストの半値幅が433arcsecである窒化サファイア基板を用い、Niリボンを充填した脱酸素炉の温度を700℃に保ち(O/Nバランスガスは添加せず)、Ga−Al合金融液からなるフラックス中に吹き込んだ窒素ガス中の酸素分圧を1.00×10−17atmとした以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を生成させた。その結果、AlN結晶はシード基板上にほとんど成長せず、シード基板表面に侵食が見られた。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に、実施例1,2、比較例1の実験条件及びAlN結晶膜の評価の一覧を示す。これらの結果より、Ga−Al合金融液を用いて窒化サファイア種結晶基板上にAlN結晶をエピタキシャル成長させる液相成長法において、Ga−Al合金融液に導入する窒素ガス中の酸素分圧を制御することにより、種結晶基板表面の良好な結晶性を引き継ぎかつAl極性を有するAlN結晶がられることが分かった。
【符号の説明】
【0041】
1 ガス導入管、 2 坩堝、 3 シード基板、 4 Ga−Al溶融液、 5 ヒータ、 6 ガス排出管、 7 熱電対
図1
図2