特許第5867500号(P5867500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5867500
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/79 20060101AFI20160210BHJP
   C08G 63/83 20060101ALI20160210BHJP
   C08G 63/181 20060101ALI20160210BHJP
   C08G 63/195 20060101ALI20160210BHJP
   C07C 69/80 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   C08G63/79
   C08G63/83
   C08G63/181
   C08G63/195
   C07C69/80 ACSP
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-502370(P2013-502370)
(86)(22)【出願日】2012年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2012054957
(87)【国際公開番号】WO2012118084
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2014年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-45195(P2011-45195)
(32)【優先日】2011年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】野村 順平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】藤森 厚史
(72)【発明者】
【氏名】岡添 隆
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−114895(JP,A)
【文献】 特開平02−067315(JP,A)
【文献】 Martijn van der Schuur, Jan Feijen, Reinoud J. Gaymans,Synthesis of polyether-based block copolymers based on poly(propylene oxide) and terephthalates,Polymer,2005年,第46巻,第2号,第327頁-第333頁
【文献】 Tsutomu Oishi,H. K. Hall Jr.,Model studies and a new melt polycondensation route to poly-bisphenol a-iso/terephthalate (polyaryla,Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry,1992年,第30巻,第1巻,第83頁-第89頁
【文献】 Hyun Gyu Park, Ho Nam Chang, S. Jonathan Dordick,Chemoenzymatic synthesis of sucrose-containing aromatic polymers,Biotechnology and Bioengineering,2001年,第72巻,第5号,第541頁-第547頁
【文献】 S. S. Mahajan,B. B. Idace,N. N. Chavan,S. Sivaram,Aromatic Polyesters via Transesterification of Dimethylterephthalate/lsophthalate with Bisphenol-A,Journal of Applied Polymer Science,1996年,第61巻,第13号,第2297頁-第2304頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G63/00−64/42
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下に、下式(1)で表される化合物、下式(2)で表される化合物および下式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とジオール化合物とのエステル交換反応を行うことを含前記ジオール化合物が、芳香族ジオール化合物である、ポリエステルの製造方法。
【化1】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、
は、CXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、
は、水素原子またはCXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、
は、水素原子またはCXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、
〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、
〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、
〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、
は、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【化2】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、
は、CXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、
〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、
〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、
〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、
は、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【化3】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、
は、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、2つのRは同一であっても異なってもよい。
【請求項2】
前記式(1)〜(3)で表される化合物が、下式(5)で表される化合物および下式(6)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素アルコールを出発物質として用いる反応によって得られる、請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【化4】
ただし、Rは、CXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、
〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、
〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、
〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、
は、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【請求項3】
前記含フッ素アルコールの炭素数が、2〜10である、請求項2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記式(5)におけるRが、CXで表される基である、請求項2または3に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記含フッ素アルコールのpKaが、15未満である、請求項2〜4のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記含フッ素アルコールのpKaが、13未満である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
前記含フッ素アルコールが、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2−フルオロ−1−プロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタノール、ペルフルオロ(t−ブチル)アルコール、および2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロシクロヘキサノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜6のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項8】
前記ジオール化合物が、ビスフェノールAである、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項9】
前記触媒が、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、機械的特性、成形性に優れることから、繊維、フィルム、容器等の様々な用途に用いられている。特に、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの重縮合物であるポリアリレートは、機械的特性、成形性に加え、様々な優れた特性(耐熱性、難燃性、耐衝撃性、曲げ回復性、紫外線バリヤー性、耐薬品性、電気的性質等)を発現することから、エンジニアリングプラスチックスとして多くの工業分野において幅広く用いられている。
【0003】
ポリアリレートの製造法としては、たとえば、下記の方法が知られている。
(i)芳香族ジオール化合物のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩とジカルボン酸ジクロリドとの界面重縮合法。
(ii)芳香族ジオール化合物の二酢酸塩とジカルボン酸の脱酢酸重縮合法(溶融重縮合法)。
(iii)ジカルボン酸のジフェニルエステルと芳香族ジオール化合物との脱フェノール重縮合法(溶融重縮合法)。
【0004】
しかし、(i)の方法には、原料として高価なジカルボン酸ジクロリドを用いる;塩化メチレン等の溶媒を多量に用いる;反応により生成する塩の洗浄、除去が必要である;溶媒等の不純物がポリアリレート中に残留する等の問題がある。
(ii)、(iii)の方法では、原料は各種ジカルボン酸誘導体から合成できるものの、高温で反応を行うため、酸素等の影響により着色しやすい。また、反応末期に反応系の溶融粘度が極めて高くなるため、反応副生物(水、モノカルボン酸類、フェノール類等)を効率よく反応系外に抜き出すことが困難となる。したがって、所望の分子量まで高めるための重縮合反応を高温で長時間行う必要がある。また、ポリアリレート中にモノカルボン酸類やフェノール類が残留するとポリアリレートの着色や強度低下の原因となる。
【0005】
溶融重縮合法において、高粘度状態のポリアリレートからモノカルボン酸類やフェノール類等を抜き出すための方法としては、たとえば、下記の方法が提案されている。
(iv)ぬぐい膜式反応器と5個の排気口を有する2軸スクリュー水平押し出し機との組み合わせを用いてジカルボン酸のジフェニルエステルと芳香族ジオール化合物とを連続的に反応させる方法(特許文献1参照)。
(v)溶融状態のポリアリレートプレポリマーを多孔板から自由に落下させながら重合させる方法(特許文献2参照)。
(vi)溶融状態のポリアリレートプレポリマーを多孔板からガイドに沿わせて落下させながら重合させる方法(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、(iv)〜(vi)の方法においても、沸点の高いフェノール類を重合系外に抜き出すためには、重縮合反応の温度を高く設定しなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開昭57−149327号公報
【特許文献2】日本国特許第3552820号公報
【特許文献3】日本国特許第3522031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、着色が少なく、高純度で、かつ高分子量のポリエステルを製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリエステルの製造方法は、触媒の存在下に、下式(1)で表される化合物、下式(2)で表される化合物および下式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とジオール化合物とのエステル交換反応を行うことを含み、前記ジオール化合物が芳香族ジオールであることを特徴とする
【0010】
【化1】
【0011】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、
は、CXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、
は、水素原子またはCXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、
は、水素原子またはCXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、
〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、
〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、
〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、
は、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【0012】
【化2】
【0013】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、
は、CXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、
〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、
〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、
〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、
は、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【0014】
【化3】
【0015】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、
は、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、2つのRは同一であっても異なってもよい。
【0016】
前記式(1)〜(3)で表される化合物は、下式(5)で表される化合物および下式(6)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素アルコールを出発物質として用いる反応によって得られることが好ましい。
【0017】
【化4】
【0018】
ただし、Rは、CXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、水素原子またはCXで表される基であり、
は、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、
〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、
〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、
〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、
は、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【0019】
前記含フッ素アルコールの炭素数は、2〜10であることが好ましい。
前記式(5)におけるRは、CXで表される基であることが好ましい。
前記含フッ素アルコールのpKaは、15未満であることが好ましい。
前記含フッ素アルコールのpKaは、13未満であることが好ましい。
【0020】
前記含フッ素アルコールは、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2−フルオロ−1−プロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタノール、ペルフルオロ(t−ブチル)アルコール、および2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロシクロヘキサノールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
記ジオール化合物は、ビスフェノールAであることが好ましい。
前記触媒は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であることが好ましい。
【0022】
本発明の含フッ素ジカルボン酸エステル化合物は、下式(1−1)で表されるビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)イソフタレートである。
【0023】
【化5】
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリエステルの製造方法によれば、着色が少なく、高純度で、かつ高分子量のポリエステルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0026】
<ポリエステルの製造方法>
本発明のポリエステルの製造方法は、触媒の存在下に、特定の含フッ素ジカルボン酸エステル化合物と、ジオール化合物とのエステル交換反応によってポリエステルを得る方法である。
【0027】
(触媒)
触媒としては、公知のエステル交換反応触媒が挙げられる。触媒の具体例としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)、ホウ素またはアルミニウムの水素化物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第四級アンモニウム塩(水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム等)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化合物(水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド(リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カルシウムメトキシド等)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアリーロキシド(リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、マグネシウムフェノキシド、LiO−Ar−OLi、NaO−Ar−ONa(ただし、Arはアリーレン基である。)等)、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の有機酸塩(酢酸リチウム、酢酸カルシウム、安息香酸ナトリウム等)、亜鉛化合物(酸化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛フェノキシド等)、ホウ素化合物(酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニル等)、ケイ素化合物(酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、テトラアルキルケイ素、テトラアリールケイ素、ジフェニル−エチル−エトキシケイ素等)、ゲルマニウム化合物(酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムフェノキシド等)、スズ化合物(酸化スズ、ジアルキルスズオキシド、ジアルキルスズカルボキシレート、酢酸スズ、エチルスズトリブトキシド等のアルコキシ基またはアリーロキシ基と結合したスズ化合物、有機スズ化合物等)、鉛化合物(酸化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、塩基性炭酸鉛、鉛または有機鉛のアルコキシドまたはアリーロキシド等)、オニウム化合物(第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩等)、アンチモン化合物(酸化アンチモン、酢酸アンチモン等)、マンガン化合物(酢酸マンガン、炭酸マンガン、ホウ酸マンガン等)、チタン化合物(酸化チタン、チタンのアルコキシドまたはアリーロキシド等)、ジルコニウム化合物(酢酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニウムのアルコキシドまたはアリーロキシド、ジルコニウムアセチルアセトン等)等が挙げられる。
【0028】
触媒としては、ポリエステルの耐熱性、耐候性、耐着色性の点から、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(炭酸塩、水酸化物、ホウ素またはアルミニウムの水素化物の塩、水素化合物、アルコキシド、アリーロキシド、有機酸塩)が好ましく、入手しやすく比較的安価である点から、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、ホウ素またはアルミニウムの水素化物の塩がより好ましい。
【0029】
触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
触媒の量は、原料のジオール化合物に対して、通常は10−8〜1質量%であり、重合速度(生産性)と触媒のポリエステルへの残留による物性低下の点から、10−7〜10−1質量%が好ましい。
【0030】
(含フッ素ジカルボン酸エステル化合物)
含フッ素ジカルボン酸エステル化合物は、化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0031】
【化6】
【0032】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、Rは、CXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、Rは、水素原子またはCXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、Rは、水素原子またはCXで表される基であり、2つのRは同一であっても異なってもよく、X〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、Y〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、R〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【0033】
【化7】
【0034】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、Rは、CXで表される基であり、Rは、水素原子またはCXで表される基であり、Rは、水素原子またはCXで表される基であり、Rは、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、X〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、Y〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、R〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【0035】
【化8】
【0036】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、Rは、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、2つのRは同一であっても異なってもよい。
【0037】
Arは、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基(たとえば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等)に置換されたものであってもよい。
Arの具体例としては、フェニレン基、トルイレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、フリレン基、チエニレン基、ピロリレン基、ピリジレン基等が挙げられ、得られるポリエステルの耐熱性の点から、6員環以上の基が好ましく、得られるポリエステルの耐熱性および原料の入手のしやすさの点から、下式(4)で表される基がより好ましい。
【0038】
【化9】
【0039】
ただし、pは、0〜4の整数であり、Rは、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、5〜10員環のシクロアルキル基またはフェニル基であり、pが2〜4の場合のRは、それぞれ同一であっても異なってもよい。
式(4)で表される基の具体例としては、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、3−メチル−1,2−フェニレン基、4−メチル−1,2−フェニレン基、2−メチル−1,3−フェニレン基、4−メチル−1,3−フェニレン基、5−メチル−1,3−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、3−フェニル−1,2−フェニレン基、4−フェニル−1,2−フェニレン基、2−フェニル−1,3−フェニレン基、4−フェニル−1,3−フェニレン基、5−フェニル−1,3−フェニレン基、2−フェニル−1,4−フェニレン基、3−t‐ブチル−1,2−フェニレン基、4−t‐ブチル−1,2−フェニレン基、2−t‐ブチル−1,3−フェニレン基、4−t‐ブチル−1,3−フェニレン基、5−t‐ブチル−1,3−フェニレン基、2−t‐ブチル−1,4−フェニレン基、3−シクロヘキシル−1,2−フェニレン基、4−シクロヘキシル−1,2−フェニレン基、2−シクロヘキシル−1,3−フェニレン基、4−シクロヘキシル−1,3−フェニレン基、5−シクロヘキシル−1,3−フェニレン基、2−シクロヘキシル−1,4−フェニレン基等が挙げられる。
【0040】
含フッ素ジカルボン酸エステル化合物としては、得られるポリエステル(ポリアリレート)の有用性の点から、化合物(1−1)およびまたは化合物(1−2)が好ましい。
【0041】
【化10】
【0042】
(含フッ素ジカルボン酸エステル化合物の製造方法)
含フッ素ジカルボン酸エステル化合物は、化合物(5)および化合物(6)からなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素アルコールを出発物質として用いる反応によって得ることができる。
【0043】
【化11】
【0044】
ただし、Rは、CXで表される基であり、Rは、水素原子またはCXで表される基であり、Rは、水素原子またはCXで表される基であり、Rは、炭素数1〜5のペルフルオロアルキレン基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)であり、X〜Xは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子またはRであり、Y〜Yは、それぞれ独立にフッ素原子またはRであり、R〜Rは、それぞれ独立にフッ素原子、R、ORまたは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、独立に炭素数1〜4のフルオロアルキル基(ただし、エーテル性酸素を含んでもよい。)である。
【0045】
含フッ素アルコールとしては、エステル交換反応速度を向上させる点から、酸解離度が、ジオール化合物の酸解離度よりも高いものが好ましい。よって、水酸基のα位の炭素原子(以下、α炭素とも記す。)にフルオロアルキル基が直接結合した化合物が好ましい。ただし、α炭素に直接フッ素原子が結合したアルコールは、脱フッ化水素反応による分解反応が起こりやすいため、好ましくない。
【0046】
酸解離度の尺度としては、含フッ素アルコールのpKaを用いる。
ジオール化合物が芳香族ジオール化合物の場合の含フッ素アルコールのpKaは、フェノール類のpKaがおよそ10であることから、10未満、もしくは10に近いものが好ましい。
ジオール化合物が脂肪族ジオール化合物の場合の含フッ素アルコールのpKaは、脂肪族アルコール類のpKaがおよそ15から16であることから、15未満が好ましく、13未満がより好ましい。
【0047】
化合物(5)としては、α炭素に結合するフルオロアルキル基が多いほど含フッ素アルコールの酸解離度が高くなることから、RがCXで表される基である、すなわち2級または3級の含フッ素アルコールであることが好ましく、RおよびRがそれぞれCXで表される基およびCXで表される基である、すなわち3級の含フッ素アルコールであることがより好ましい。
【0048】
含フッ素アルコールの炭素数は、2〜10が好ましい。含フッ素アルコールの炭素数が2以上であれば、水酸基のα位に直接フッ素原子が結合していない安定な含フッ素アルコールを選択できる。含フッ素アルコールの炭素数が10以下であれば、エステル交換反応時に解離する含フッ素アルコールを留去する際、解離した含フッ素アルコールの沸点が穏和な条件で容易に除去できる沸点となるため、エステル交換反応時に高い温度をかける必要がなく、品質の高いポリエステルを製造できる。
【0049】
含フッ素アルコールの具体例としては、2,2,2−トリフルオロエタノール(pKa:12.4※2)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール(pKa:12.5※2)、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(pKa:12.7※3)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(pKa:9.4※1)、2−フルオロ−1−プロパノール(pKa:14.0※3)、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール(pKa:12.5※3)、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール(pKa:12.5※3)、ペルフルオロ(t−ブチル)アルコール(pKa:5.3※1)、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタノール(pKa:8.5※1)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロシクロヘキサノール(pKa:8.5※1)等が挙げられる。なかでも、重合温度におけるアルコール回収が容易であり、工業的に入手が容易である点から、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールが好ましい。
【0050】
上記に記載の含フッ素アルコールのpKa値(※1〜※3)は、以下の測定方法による値(※1)、文献値(※2)、または推算方法による値(※3)である。
【0051】
※1:酸解離度の大きい(酸強度の強い)含フッ素アルコールのpKaは、下記に基づき求める。
含フッ素アルコールの水溶液中での酸解離度としてpKaを測定する。
HA(含フッ素アルコール)+S(水)→HS(水の共役酸)+A(含フッ素アルコールの共役塩基)
平衡定数の式は下式となる。
Ka=[HS][A]/[HA][S]
ここで、希薄水溶液を想定すると[S]は1で近似できる。
Ka=[HS][A]/[HA]
pKa=log[HA]/[HS][A]=−log[HS]−log[A]/[HA]
水溶液中での酸解離度であるので、−log[HS]はpHと等しい。
pKa=pH−log[A]/[HA]
半中和された状態では、[A]=[HA]となるため、pH=pKaと近似できる。
上記の考察から、酸性度の高い含フッ素アルコールについては電位差滴定装置でpKaを測定した。
【0052】
※2:J.Amer.Chem.Soc.,96,6851(1974);J.Org.Chem.,32,1217(1967)
※3:推算値(下記文献に基づき水素結合性OHと非水素結合性OHの伸縮振動数の差(Δλ)から推算)
J.Org.Chem.,32,1217(1967);J.Amer.Chem.Soc.,86,4948(1964)
【0053】
含フッ素アルコールを出発物質として用いる反応によって含フッ素ジカルボン酸エステル化合物を得る方法としては、下記の(a)〜(c)の方法が挙げられ、収率が高い点から、(c)の方法が好ましい。
【0054】
(a)触媒の存在下、化合物(7)と含フッ素アルコールとのエステル交換反応によって、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物を得る方法。
【0055】
【化12】
【0056】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基である。アルキル基は、分岐していてもよく、エーテル性酸素を含んでいてもよい。また、2つのRは同一であっても異なってもよい。
【0057】
(b)触媒の存在下、化合物(8)と含フッ素アルコールとを反応させて、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物を得る方法。
【0058】
【化13】
【0059】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、X11〜X13は、それぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子であり、X11〜X13のうち少なくとも1つはハロゲン原子であり、X14〜X16は、それぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子であり、X14〜X16のうち少なくとも1つはハロゲン原子である。
11〜X16は、すべてハロゲン原子であることが好ましく、フッ素原子または塩素原子がより好ましく、副生物として工業的に有用なクロロホルムが併産できる点から、すべて塩素原子であることが最も好ましい。
【0060】
(c)化合物(9)と含フッ素アルコールとを反応させて、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物を得る方法。
【0061】
【化14】
【0062】
ただし、Arは、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基であり、Zは、ハロゲン原子である。2つのZは同一であっても異なっても良い。
【0063】
(a)の方法で用いる触媒としては、公知のエステル交換反応触媒が挙げられる。
(b)の方法で用いる触媒としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属;アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物;アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物;相間移動触媒;アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アンモニアのハロゲン化物;イオン交換樹脂;Sn、Ti、Al、W、Mo、ZrおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物または酸化物;エステル交換反応触媒等が挙げられる。
【0064】
(c)の方法においては、Zがフッ素原子または塩素原子である場合は無触媒で反応が進行し、発生するハロゲン化水素を不活性ガスのバブリング、加温等で系外に除外しながら反応を進行することで目的物を得ることができる。
【0065】
(c)の方法における含フッ素アルコールの最初の仕込みのモル数と、化合物(9)の最初の仕込みのモル数との比(含フッ素アルコール/化合物(9))は、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物の収率を向上させる点から、2超が好ましく、2.5以上がより好ましく、3以上が特に好ましい。
【0066】
(c)の方法においては、反応系の粘度調整や発熱量を調整することを目的に、溶媒を用いてもよい。ただし、反応器の容積効率、溶媒分離工程時の目的物のロスを考えると、可能であれば無溶剤で反応を実施することが好ましい。
(c)の方法における反応温度は、40〜200℃が好ましい。
(c)の方法における反応圧力は、通常は大気圧である。
【0067】
(ジオール化合物)
ジオール化合物としては、脂肪族ジオール化合物、芳香族ジオール化合物が挙げられ、工業的に有用なポリアリレートが得られる点から、芳香族ジオール化合物が好ましい。
【0068】
脂肪族ジオール化合物としては、ポリエステルの耐熱性、耐薬品性、機械的特性の点から、炭素数2〜12の脂肪族ジオール化合物が好ましい。
脂肪族ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、2−クロロ−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、1,2−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(ヘキシレングリコール)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、含フッ素ジオール(3,3,3−トリフルオロ−1,2−プロパンジオール等)等が挙げられる。
【0069】
芳香族ジオール化合物としては、ポリエステル(ポリアリレート)の耐熱性、耐薬品性、機械的特性、成形性の点から、炭素数6〜20の芳香族ジオール化合物が好ましい。
芳香族ジオール化合物の具体例としては、レゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン、2,2−(ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔別名:ビスフェノールA〕、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン〔別名:ビスフェノールAF〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシビフェニル)エーテル、ジヒドロキシナフタレン、フロログリシノール、フェノール類の縮合物等が挙げられ、原料の入手の容易性やポリアリレートの有用性の点から、ビスフェノールAが好ましい。
【0070】
(エステル交換反応)
触媒の存在下に、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物とジオール化合物とをエステル交換反応させて、ポリエステルを得る具体的な方法としては、下記の(A)または(B)の方法が挙げられ、簡単なプロセスで製造できる点から、(A)の方法が好ましい。
(A)触媒の存在下に、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物とジオール化合物とを溶融重縮合させる方法。
(B)触媒の存在下に、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物とジオール化合物とを溶液重縮合させる方法。
【0071】
(A)の方法における反応温度は、反応初期にはジオール化合物や含フッ素ジカルボン酸エステル化合物の融点以上が好ましく、反応後期にはポリエステルの融点以上が好ましい。また、(A)の方法における反応温度は、ポリエステルの着色を抑える点から、300℃以下が好ましい。
【0072】
含フッ素ジカルボン酸エステル化合物の最初の仕込みのモル数と、ジオール化合物の最初の仕込みのモル数との比(含フッ素ジカルボン酸エステル化合物/ジオール化合物)は、ポリエステルの目的の分子量に応じて適宜選択すればよい。
含フッ素ジカルボン酸エステル化合物/ジオール化合物比(モル比)は、分子量が1000程度〜100000程度のポリエステルが得られる点から、0.95〜1.20が好ましい。
【0073】
(作用効果)
以上説明した本発明のポリエステルの製造方法にあっては、酸解離度が比較的高く、かつ沸点が芳香族炭化水素であるフェノール類に比べ低く重合系外に除去しやすい含フッ素アルコールに由来する特定の含フッ素ジカルボン酸エステル化合物と、ジオール化合物とをエステル交換反応させているため、重合反応速度が速く低温で重合が可能となる。また、溶媒を用いる必要がない。そのため、着色が少ない、高純度、高分子量のポリエステルを簡単なプロセスで製造できる。
【0074】
すなわち、本発明における含フッ素ジカルボン酸エステル化合物は、フッ素原子による電子吸引性の効果でエステル部位の解離度が高く、芳香族ジオール化合物や脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応が容易である。また、副生するアルコールの沸点が低く重合系外に速やかに留去できる点から平衡反応であるエステル交換反応速度を速くすることができる。そのため、含フッ素ジカルボン酸エステル化合物を用いる本発明のポリカーボネートの製造方法は、従来のエステル交換法によるポリエステルの製造方法の課題であった高分子量体が得られにくいという問題や高温で長時間反応させることによる着色等の問題を解決できる製造方法である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
(ガスクロマトグラフィー(GC)分析)
下記の装置を用い、下記の条件にてGC分析を行った。
装置:島津製作所社製、GC−17A、
検出方法:FID検出。
【0077】
(ガスクロマトグラフィー質量(GC−Mass)分析)
下記の装置を用い、下記の条件にてGC−Mass分析を行った。
装置:島津製作所社製、GC−17A/QP−5050Aシステム、
検出方法:EI検出。
【0078】
(NMR分析)
下記の装置を用い、下記の条件にてNMR分析を行った。
装置:日本電子社製、AL300、
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)、
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)。
【0079】
(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析)
合成したポリエステルの分子量は、下記の装置を用い、下記の条件にて分析を行い、標準物質のポリスチレンに換算して決定した。
装置:東ソー社製、HLC−8220GPC、
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMPHZ−M、
カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−M 3本、
移動相:テトラヒドロフラン、
流量:0.35mL/min、
検出方法:RI検出、
カラム温度:40℃。
【0080】
(合成例1)
ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)イソフタレート(化合物(1−1))の合成:
温度計、撹拌機、還流冷却器および滴下ロートを備えた2000mLのガラス製の反応器内に、イソフタロイルクロリド(化合物(9−1))の500g(2.46mol)を仕込んだ後、撹拌を行いながら100℃に昇温した。次に、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(化合物(5−1))の715.53g(5.41mol)を、内温の上昇(ΔT)および塩化水素ガスの発生具合を見ながら速度を調整して滴下した。滴下終了後、100℃で1時間撹拌を行い、その後、塩化水素ガスの発生具合を見ながら140℃まで昇温し、計9時間加熱した。反応終了後、室温まで粗液を冷却後、粗液の一部を採取し、H−NMR分析を行った。結果として化合物(1−1)が主生成物として生成していることを確認した(化合物(5−1)ベースの収率41.8%)。生成物である化合物(1−1)は93.5%の収率で得られた。
【0081】
【化15】
【0082】
生成物である化合物(1−1)について、H−NMR分析の他、19F−NMR分析およびGC−Mass分析により構造帰属を行った。化合物(1−1)のH−NMR、19F−NMR、Massフラグメントの結果を下記に示す。
H−NMR δ:4.762(4H,t,J=12.6Hz),5.962(2H,tt,J=3.3,52.9Hz),7.617(1H,t,J=7.8Hz),8.297(2H,dd,J=1.8,7.8Hz),8.711(1H,t,J=1.5Hz)。
19F−NMR δ:−137.142(4F,d,53.1Hz),−123.257(4F,tdt,J=1.7,3.3,12.2Hz)。
MS m/z:235(PhC(=O)OCHCFCFH);263(C(=O)PhC(=O)OCHCFCFH);343(CFCHOC(=O)PhC(=O)OCHCFCFH);394(CFHCFCHOC(=O)PhC(=O)OCHCFCFH)。
【0083】
(合成例2)
ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)テレフタレート(化合物(1−2))の合成:
撹拌機、還流冷却器および滴下ロートを備えた3000mLのガラス製の反応器内に、テレフタロイルクロリド(化合物(9−2))の857.21g(4.22mol)を仕込んだ後、撹拌を行いながら100℃に昇温した。次に、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(化合物(5−1))の1248.84g(9.46mol)を内温の上昇(ΔT)および塩化水素ガスの発生具合を見ながら速度を調整して滴下した。滴下終了後、100℃で1時間撹拌を行い、その後、塩化水素ガスの発生具合を見ながら140℃まで昇温し、計9時間加熱した。反応終了後、室温まで粗液を冷却後、粗液の一部を採取しH−NMR分析を行った。結果として化合物(1−2)が主生成物として生成していることを確認した(化合物(5−1)ベースの収率43.1%)。生成物である化合物(1−2)は96.7%の収率で得られた。
【0084】
【化16】
【0085】
生成物である化合物(1−2)について、H−NMR分析の他、19F−NMR分析およびGC−Mass分析により構造帰属を行った。化合物(1−2)のH−NMR、19F−NMR、Massフラグメントの結果を下記に示す。
H−NMR δ:4.760(4H,tt,J=1.2,12.9Hz),5.947(2H,tt,J=3.3,53.2Hz),8.154(4H,s)。
19F−NMR δ:−137.020(4F,d,52.9Hz),−123.203(4F,tdt,J=13.0,3.4,1.7Hz)。
MS m/z:235(PhC(=O)OCHCFCFH);263(C(=O)PhC(=O)OCHCFCFH);343(CFCHOC(=O)PhC(=O)OCHCFCFH);394(CFHCFCHOC(=O)PhC(=O)OCHCFCFH)。
【0086】
(実施例1)
ポリアリレートの合成1:
300mLの溶融重合用装置の反応器に、ビスフェノールA(化合物(10))の20.99g(0.092mol)、化合物(1−1)の27.20g(0.069mol)、化合物(1−2)の9.07g(0.023mol)、水素化ホウ素カリウムの0.0027g(0.5×10−4mol)を仕込んだ。下記の脱酸素工程を3回繰り返した。
脱酸素工程:0℃にて反応器内が約1トルになるまで排気することによって酸素を抜いた後、再度反応器内に窒素を大気圧まで充填する。
【0087】
【化17】
【0088】
反応器を、200℃に予熱したオイルバス内に浸した。オイルバス温度200℃、撹拌速度200rpmで撹拌を行ったところ、10分後に熱的に平衡化されて固形物が完全に融解し、無色の均一な液体となった。その後、反応器内の圧力を740トル、反応器内の温度を230℃に保って5分間反応を続けた時点で化合物(5−1)が反応容器から排気され、受けフラスコ中に留出し始めた。60分後、反応器内の温度を250℃に上げ、反応器内の圧力を300トルに保った。60分後、反応器内の温度を270℃に上げ、反応器内の圧力を10トルに保った。60分後、反応器内の温度を280℃に上げ、反応器内の圧力を1トルに保った。30分後、室温まで冷却することで重合を終了し、下式(11)で表されるポリアリレートを得た。
【0089】
【化18】
【0090】
得られたポリアリレートのGPC分析による質量平均分子量(Mw)は13,962であり、数平均分子量(Mn)は9,215であり、分散度(Mw/Mn)は1.515であった。該ポリアリレートには着色がなく、高純度のものであると認められた。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例1)
ポリアリレートの合成2:
300mLの溶融重合用装置の反応器に、ビスフェノールA(化合物(10))の20.99g(0.092mol)、ジフェニルイソフタレートの21.96g(0.069mol)、ジフェニルテレフタレートの7.32g(0.023mol)、水素化ホウ素カリウムの0.0027g(0.5×10−4mol)を仕込んだ。下記の脱酸素工程を3回繰り返した。
脱酸素工程:0℃にて反応器内が約1トルになるまで排気することによって酸素を抜いた後、再度反応器内に窒素を大気圧まで充填する。
【0092】
反応器を、200℃に予熱したオイルバス内に浸した。オイルバス温度200℃、撹拌速度200rpmで撹拌を行ったところ、10分後に熱的に平衡化されて固形物が完全に融解し、無色の均一な液体となった。その後、反応器内の圧力を260トル、反応器内の温度を250℃に保って5分間反応を続けた時点でフェノールが反応容器から排気され、受けフラスコ中に留出し始めた。60分後、反応器内の温度を270℃に上げ、反応器内の圧力を150トルに保った。60分後、反応器内の温度を290℃に上げ、反応器内の圧力を10トルに保った。60分後、反応器内の温度を300℃に上げ、反応器内の圧力を1トルに保った。30分後、室温まで冷却することで重合を終了し、ポリアリレートを得た。
【0093】
得られたポリアリレートのGPC分析による質量平均分子量(Mw)は12,091であり、数平均分子量(Mn)は7,312であり、分散度(Mw/Mn)は1.654であった。該ポリアリレートは着色がなく、高純度のものであると認められた。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
含フッ素ジカルボン酸エステル化合物を用いた実施例1は、従来の溶融法で通常用いられるジフェニルフタレートを用いた比較例1と比較して、より低い重合温度でより高い分子量のポリアリレートを合成できた。
【0096】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2011年3月2日出願の日本特許出願2011−045195に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の製造方法で得られたポリエステルは、繊維、フィルム、容器等の材料として有用であり、特にポリアリレートは、エンジニアリングプラスチックスとして有用である。