【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の手段では、質量%で、C:0.30〜0.65%、Si:0.20〜1.00%、Mn:0.20〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00〜3.00%、Al:0.005〜0.200%、N:0.0200%以下、O:0.0030%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。しかも、該鋼は上記組成のSi、Mn、Crの含有量から算出される4Si+3Cr−Mnの値が6.00%以上を満足し、かつ、旧オーステナイト粒径を8.0μm以下とした、高硬度、高靭性で耐磨耗性に優れた鋼である。
【0008】
請求項2の手段では、質量%で、C:0.30〜0.65%、Si:0.20〜1.00%、Mn:0.20〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00〜3.00%、Al:0.005〜0.200%、N:0.0200%以下、O:0.0030%以下を含有し、さらにNi:0.50〜2.00%、Mo:0.05〜1.00%、B:0.0005〜0.0050%、Ti:0.010〜0.200%、Nb:0.010〜0.100%のうち1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。しかも、該鋼は上記組成のSi、Mn、Crの含有量から算出される4Si+3Cr−Mnの値が6.00%以上を満足し、かつ、旧オーステナイト粒径を8.0μm以下とした、高硬度、高靭性で耐磨耗性に優れた鋼である。
【0009】
本発明における鋼の化学成分の限定理由を以下に説明する。なお、以下において%は質量%を示す。
【0010】
C:0.30〜0.65%
Cは、必要な強度および焼入れ硬さを確保するために必要な元素である。したがって、耐磨耗性の支配因子である硬さを確保するために0.30%以上が必要である。一方、0.65%を超えると靭性が低下するとともに素材の硬さが上昇するため加工性、被削性の劣化は避けられない。そこで、Cは0.30〜0.65% とし、望ましくは0.35〜0.50%とする。
【0011】
Si:0.20〜1.00%
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であり、鋼に必要な焼入性を付与し強度を高めるために添加する。さらに、Siは焼戻し軟化抵抗を向上させる。すなわち焼戻し処理および使用時の摩擦熱による耐軟化性を向上させる元素である。したがって、0.20%以上が必要である。一方、1.00%を超えると靭性が低下するとともに素材の硬さが上昇して加工性が劣化する。そこで、Siは0.20〜1.00%とし、望ましくは0.40〜0.80%とする。
【0012】
Mn:0.20〜0.60%
Mnは、鋼の脱酸に有効な元素である。さらに、鋼に必要な焼入性を付与し強度を高めるために添加する。しかし、多量に添加すると靭性を低下させ、さらに、Sと結合してMnSの介在物を形成するため割れの起点となる。そこで、Mnは0.20〜0.60%とし、望ましくは0.30〜0.50%とする。
【0013】
P:0.030%以下
Pは、不可避不純物として粒界に偏析し、0.030%を超えると靭性を低下させる。そこで、Pは0.030%以下とする。
【0014】
S:0.030%以下
Sは、不可避不純物としてMnSの介在物を形成して靭性を低下させる。そこで、Sは0.030%以下とする。
【0015】
Cr:1.00〜3.00%
Crは、鋼に必要な焼入性を付与し強度を高めるために添加する。さらに、Crは焼戻し軟化抵抗を向上させるため、焼戻し処理および使用時の摩擦熱による耐軟化性を向上させる元素である。したがって、1.00%以上が必要である。一方、3.00%を超えると靭性が低下するとともに素材の硬さが上昇して加工性が劣化する。そこで、Crは1.00〜3.00%とし、望ましくは1.20〜2.20%とする。
【0016】
Al:0.005〜0.200%
Alは、鋼の脱酸に有効な元素であり、さらにNと結合しAlNを生成するため、結晶粒粗大化の抑制に有効である。したがって、0.005%以上が必要である。しかし、Alは多量に添加すると非金属介在物を生成して割れの起点となる。そこで、Alは0.005〜0.200%とし、望ましくは0.015〜0.150%とする。
【0017】
N:0.0200%以下
Nは、Alと結合してAlNを生成するため結晶粒粗大化の抑制に有効である。しかし、Nは多すぎても、その効果が飽和するため、Nは0.0200%以下とする。
【0018】
O:0.0030%以下
Oは、0.0030%を超えて含有すると、割れの起点となる酸化物系介在物を生成する。そこで、酸化物系介在物の生成を抑制するために、Oは0.0030%以下とする。
【0019】
以上は本発明における鋼の基本成分であるが、さらに本発明では上記成分の他にNi、Mo、B、Ti、Nbのうち1種または2種以上を添加することができる。
【0020】
Ni:0.50〜2.00%
Niは、焼入性と靭性を向上させるために有効な元素である。その効果を発揮するため0.50%以上が必要であるが、Niはコストを上昇させる元素であるため、Niは0.50〜2.00%とする。
【0021】
Mo:0.05〜1.00%
Moは、焼入性と靭性を向上させるために有効な元素である。その効果を発揮するため0.05%以上が必要であるが、Moはコストを上昇させる元素であるため、Moは0.05〜1.00%とする。
【0022】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、微量の添加で焼入性を向上させ、さらに、粒界を強化し靭性向上に有効な元素である。したがって、0.0005%以上が必要であるが、0.0050%を超えるとその効果は飽和するため、Bは0.0005〜0.0050%とする。
【0023】
Ti:0.010〜0.200%
Tiは、Nと結合してTiNを生成するため、Nを固定して、焼入性向上に寄与する有効Bを確保する。さらに、TiはCと結合しTiCを生成するため、ピンニング効果による結晶粒粗大化の抑制および耐磨耗性の向上に有効である。したがって、0.010%以上を添加する。一方、0.200%を越えると靭性および加工性が低下する。そこで、Tiは0.010〜0.200%とする。
【0024】
Nb:0.010〜0.100%
Nbは、Nb炭窒化物を生成するので、Nb炭窒化物のピンニング効果による結晶粒粗大化の抑制に有効である。このためには、Nbを0.010%以上添加する必要がある。一方、Nbは0.100%を超えると粗大なNb析出物が生じて靭性が低下する。そこで、Nbは0.010〜0.100%とする。
【0025】
Si、Mn、Crの含有量から算出される4Si+3Cr−Mnの値:≧6.00%
本発明における鋼は、上記組成のSi、Mn、Crの含有量から算出される4Si+3Cr−Mnの値が6.00%以上を満足する鋼である。上述の通り、Si、Crは焼戻し軟化抵抗を向上させる元素であるため、使用時の摩擦熱による軟化を抑制し磨耗量の低減に有効である。さらに、高Si、高Crの成分設計にすると粒界強化の作用がある。一方、Mnは鋼を脆化させる元素であるため、添加量は最小限とする必要がある。そこで、Si、Mn、Crの含有量から算出される4Si+3Cr−Mnの値を6.00%以上とする。