特許第5868800号(P5868800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5868800コンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5868800
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】コンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20160210BHJP
【FI】
   G01N33/38
【請求項の数】9
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2012-159619(P2012-159619)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-20911(P2014-20911A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】松井 淳
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−022032(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0040892(US,A1)
【文献】 コンクリートの塩化物イオン実効拡散係数の簡易評価方法,コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集,2012年11月 2日,Vol.12, page.341-348
【文献】 コンクリートの電気抵抗率と塩化物イオンの見掛けの拡散係数との関係に関する基礎的研究,土木学会論文集E,2010年,Vol.66, No.1, Page.119-131
【文献】 土木学会基準「電気泳動によるコンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法(案)(JSCE−G 571−2003)」の制定,土木学会論文集,2004年,No.767, Page.1-9
【文献】 塩分浸透による鋼材腐食を考慮したRBSM解析,コンクリート工学年次論文集,2004年,Vol.26, No.1, Page.897-902
【文献】 土木学会基準「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)(JSCE−G 572−2003)」の制定,土木学会論文集,2003年,No.767, Page.11-16
【文献】 コンクリート中の塩化物イオン実効拡散係数の材齢依存性とその簡易評価方法の提案,電力中央研究所地球工学研究所研究報告,2013年 7月,No.N13002
【文献】 海洋干満帯に曝露したコンクリート大型試験体の電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数の関係,コンクリート工学年次論文集,2011年,Vol.33, No.1, Page.875-880
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の数式1
【数1】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算するステップと、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータを取得するステップと、両対数軸上において前記含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから前記べき乗の係数βを変化の勾配として、前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を前記含水率と水結合材比W/Bとの間の関係式に代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して完全飽和状態での体積抵抗率ρsを推算するステップと、当該推算された完全飽和状態での体積抵抗率ρsを前記体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式に代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定するステップとを有することを特徴とするコンクリート物性値の評価方法。
【請求項2】
以下の数式2
【数2】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算するステップと、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比W/Bとの間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1を取得するステップと、前記完全飽和状態における体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である以下の数式3
【数3】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す
を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、前記評価対象のコンクリートの前記含水率の計測値w1及び前記体積抵抗率の計測値ρ1並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定するステップとを有することを特徴とするコンクリート物性値の評価方法。
【請求項3】
評価対象のコンクリートについての水結合材比W/Bを算出するステップと、前記評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1を取得するステップと、以下の数式4
【数4】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β,ε,γ,ζ,κ:係数(表1に示す値を用いる)
をそれぞれ表す
【表1】
に前記評価対象のコンクリートの前記含水率の計測値w1及び前記体積抵抗率の計測値ρ1並びに前記評価対象のコンクリートについての水結合材比を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定するステップとを有することを特徴とするコンクリート物性値の評価方法。
【請求項4】
評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、両対数軸上において前記含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、以下の数式5
【数5】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比W/Bとの間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して完全飽和状態における体積抵抗率ρsを推算する手段と、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された完全飽和状態における体積抵抗率ρsを代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する手段とを有することを特徴とするコンクリート物性値の評価装置。
【請求項5】
評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比W/Bの値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、さらに、以下の数式6
【数6】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比W/Bとの間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である以下の数式7
【数7】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す
を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比W/Bとの間の関係式を代入して得られた式に、前記評価対象のコンクリートの前記含水率の計測値w1及び前記体積抵抗率の計測値ρ1並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する手段とを有することを特徴とするコンクリート物性値の評価装置。
【請求項6】
評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比W/Bの値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、以下の数式8
【数8】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β,ε,γ,ζ,κ:係数(表2に示す値を用いる)
をそれぞれ表す
【表2】
に前記評価対象のコンクリートの前記含水率の計測値w1及び前記体積抵抗率の計測値ρ1並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する手段とを有することを特徴とするコンクリート物性値の評価装置。
【請求項7】
評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、両対数軸上において前記含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、以下の数式9
【数9】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比W/Bとの間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して体積抵抗率を推算する手段、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された体積抵抗率を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する手段としてコンピュータを機能させるためのコンクリート物性値の評価プログラム。
【請求項8】
評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、さらに、以下の数式10
【数10】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比W/Bとの間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数Deとの間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である以下の数式11
【数11】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す
を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比W/Bとの間の関係式を代入して得られた式に、前記評価対象のコンクリートの前記含水率の計測値w1及び前記体積抵抗率の計測値ρ1並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する手段としてコンピュータを機能させるためのコンクリート物性値の評価プログラム。
【請求項9】
評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、以下の数式12
【数12】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β,ε,γ,ζ,κ:係数(表3に示す値を用いる)
をそれぞれ表す
【表3】
に前記評価対象のコンクリートの前記含水率の計測値w1及び前記体積抵抗率の計測値ρ1並びに前記評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する手段としてコンピュータを機能させるためのコンクリート物性値の評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、例えばコンクリート構造物の維持管理において用いられる物性値の一つであるコンクリートの塩化物イオンの見掛けの拡散係数を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
実構造物におけるコンクリートの塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定する従来の手法としては、土木学会によって規準化されている「実構造物におけるコンクリート中の全塩化物イオン分布の測定方法(案)(JSCE−G573−2010)」がある(非特許文献1)。この方法は、以下の3種類の手順によってコンクリート構造物の表面及び内部の塩素の濃度を分析し、その深さ方向の濃度分布に対してFickの第二法則に基づいた拡散方程式の解を用いて回帰分析を行い、表面塩化物イオン濃度及び塩化物イオンの見掛けの拡散係数を同時に算出するものである。
【0003】
手順(1):コア試料を用いてのJIS A 1154による方法
JIS A 1154附属書1に従い、コンクリート構造物を刳り貫いて所定の大きさ(例えば、直径100〔mm〕,長さ100〔mm〕以上)の円柱状サンプル(コア試料とも呼ばれる)を取り出す。そして、サンプルを厚さ5〜10〔mm〕にスライスし、各スライス毎に149〔μm〕のふるいを全通するように破砕及び粉末化し、一昼夜風乾した後に硝酸による溶解と濾過とを行うことによって目的化合物のイオンを抽出すると共に一対又はそれ以上の電極を溶液に浸して滴定によって目的化合物の濃度に関する情報を得る(電位差滴定法と呼ばれる)。これにより、表面及び内部の塩素の濃度を計測して塩素の濃度分布を評価する。
【0004】
手順(2):コア試料を用いてのJSCE G 574−EPMA法によるコンクリート中の元素の面分析方法(案)−による方法
JIS A 1154附属書1に従い、コンクリート構造物を刳り貫いて所定の大きさ(例えば、直径100〔mm〕,長さ100〔mm〕以上)の円柱状サンプル(コア試料とも呼ばれる)を取り出す。そして、コア試料から被分析面を研磨盤等で研磨して平坦にする。その後、真空乾燥機中で十分に乾燥した後に蒸着装置などによって適当な導電性材料を分析試料の分析面上に均一に被覆する。その後、被分析面に波長分散型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer の略)を照射し、対象元素である塩素の濃度分布を評価する。
【0005】
手順(3):ドリル粉末を用いる方法
コンクリート構造物に対して径が20〔mm〕以上のコンクリート削孔用ドリルでコンクリート粉末を採取する。次に、各粉末を149〔μm〕のふるいを全通するように破砕及び粉末化し、一昼夜風乾した後に硝酸による溶解と濾過とを行うことによって目的化合物のイオンを抽出すると共に一対又はそれ以上の電極を溶液に浸して滴定によって目的化合物の濃度に関する情報を得る(電位差滴定法と呼ばれる)。これにより、表面及び内部の塩素の濃度を計測して塩素の濃度分布を評価する。
【0006】
また、コンクリートの塩化物イオンの見掛けの拡散係数を算出する手法に関する研究例も見られる(非特許文献2,3)。コンクリートの塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、コンクリート内部の空隙中を塩化物イオンが移動する速度を設計上扱い易い巨視的な物性値である拡散係数で評価したものである。そして、塩化物イオンは水中では負に帯電した荷電粒子として存在することから、その拡散係数はコンクリートの代表的な電気的性質の一つである体積抵抗率(電気抵抗率;比抵抗とも呼ばれる)との関係が深いと考えられる。このことから、比較的簡便に計測が可能である体積抵抗率からコンクリートの塩化物イオンの見掛けの拡散係数を算出する手法が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】土木学会:2010年制定 コンクリート標準示方書[規準編],丸善,2010年
【非特許文献2】皆川浩 他:コンクリートの電気抵抗率と塩化物イオンの見掛けの拡散係数との関係に関する基礎的研究,土木学会論文集E,Vol.66,No.1,pp.119−131,2010年
【非特許文献3】齋藤佑貴 他:海洋干満帯に暴露したコンクリート大型試験体の電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数の関係,コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,pp.785−790,2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1における方法のように電位差滴定法などによって塩素の濃度分布を分析する方法は、確実な方法ではあるものの、試験を行うに際して多大な手間と費用とを必要とするという問題がある。具体的には、コア試料採取の後に粉砕及び粉末化並びに硝酸による溶解と濾過とを行うなどの工程が必要であるためにサンプリング現場で直ちに化学分析を行うことは困難であり、調査結果を得るまでに多くの手間と数日以上の時間とを必要とするという問題がある。
【0009】
また、非特許文献1における方法のようにコア試料やドリル粉末を用いる方法では、サンプルを採取するために実構造物のコンクリートに損傷を与える破壊検査であるために、空間分解能を高めるために刳り貫く円柱状サンプルを太くすると実構造物の強度に影響を与える可能性があり、一方でサンプルを小さくすると空間分解能が低下して推定精度が悪くなるという問題がある。
【0010】
また、非特許文献1における方法のようにコア試料やドリル粉末を用いる方法では、鉄筋コンクリート製実構造物からコア試料やドリル粉末を採取する際に実構造物内部の鋼材(即ち、鉄筋)に損傷を与えないようにしなければならないので、鋼材の埋設位置近傍からはサンプルを採取することができないために必ずしもコンクリート構造物の任意の箇所からコア試料又はドリル粉末を採取できるとは限らない、すなわち、コンクリート構造物の任意の箇所における塩化物イオンの見掛けの拡散係数の推定を行うことができるとは限らないという問題がある。
【0011】
また、非特許文献2,3で提案されている手法では、コンクリートに関する重要な物理化学特性(具体的には静電容量特性及び細孔内での帯電特性など)を考慮していないこと、及び、コンクリートと塩化物イオンとの相互作用(具体的には、吸着、固定化など)を考慮していないことなどから、実測値よりも拡散係数が過大に評価される傾向にあり、拡散係数の推定精度が実用的であるとは言い難い。
【0012】
また、非特許文献2,3で提案されている手法では、コンクリート内部の液状水に溶存するイオンの組成(具体的には種類及び濃度)が入力条件の一部になっている。しかしながら、このようなイオンの組成の標準的な計測方法は確立されているとは言い難く、現状ではこの入力条件の設定はほぼ不可能であり、したがって、非特許文献2,3で提案されている手法は非破壊検査方法としては現実的に実施可能であるとは言い難い。
【0013】
さらに、これまでに提示されている種々の評価式は推定精度が悪かったり、室内試験方法はたとえ促進試験であっても結果を得るためには数ヶ月以上の時間を必要としたり費用が割高であったり、曝露試験は再現性は高いものの数年以上の年月を必要としたり費用が割高であったりするという問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、現実的に設定可能である入力条件によって適用可能でありながら推定精度が良好であり、さらに、構造物に損傷を与えること無く且つ構造物の任意の箇所におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができるコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムを提供することを目的とする。また、本発明は、簡便・低廉に且つ短時間で実施可能であると共に推定精度が良好であるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができるコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、コンクリートの物性値としての塩化物イオンの実効拡散係数を評価する手法の検討を行う中で、以下の三つの実験式を導出した。
【0016】
1)含水率と体積抵抗率との間の関係式
具体的には数式1に示す関数形が用いられる。
【数1】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す。
【0017】
2)完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式
具体的には例えば数式2に示す関数形を用いることが考えられる。
【数2】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
ε,γ:実験定数
をそれぞれ表す。
【0018】
3)完全飽和状態での含水率と水結合材比との間の関係式
数式1として示した含水率と体積抵抗率との間の関係式にはコンクリートの品質を表す因子、例えば水結合材比が説明変数として含まれていない。また、数式2として示した体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式は完全飽和状態(即ち、コンクリート内部の空隙が全て水で満たされた状態)の場合であり、数式1と数式2とを関連づけるためには完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの品質を代表する水結合材比との間の関係式が必要である。
【0019】
具体的には例えば数式3に示す関数形を用いることが考えられる。なお、実験定数ζ,κは、一般的にセメントの種類などによって区別される。
【数3】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
ζ,κ:実験定数
をそれぞれ表す。
【0020】
数式2に数式1及び数式3を代入すると数式4が導出される。なお、実験定数ζ,κは、上述の通り、一般的にセメントの種類などによって区別される。
【数4】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率と体積抵抗率との間の関
係式に関する実験定数,
ε,γ:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオン
の実効拡散係数との間の関係式に関する実験定数,
ζ,κ:完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水
結合材比との間の関係式に関する実験定数
をそれぞれ表す。
【0021】
そして、この数式4によって算出されるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数Deの値は実測によって得られる値の再現性が高く推定精度が良好であることが本発明者によって確認された。
【0022】
請求項1記載のコンクリート物性値の評価方法は、上述の発明者独自の新たな知見に基づくものであり、以下の数式5
【数5】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算するステップと、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータを取得するステップと、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータからべき乗の係数βを変化の勾配として、評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を前記含水率と水結合材比との間の関係式に代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して完全飽和状態における体積抵抗率を推算するステップと、当該推算された完全飽和状態における体積抵抗率を前記体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式に代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定するステップとを有するようにしている。
【0023】
請求項4記載のコンクリート物性値の評価装置は、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、以下の数式6
【数6】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って推算された関係式に評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して完全飽和状態における体積抵抗率を推算する手段と、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された完全飽和状態における体積抵抗率を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段とを有するにしている。
【0024】
請求項7記載のコンクリート物性値の評価プログラムは、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、以下の数式7
【数7】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って推算された関係式に評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して体積抵抗率を推算する手段、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された体積抵抗率を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0025】
したがって、これらのコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによると、一般的に実測或いは収集可能であるデータを用いての推算によって予め求められた実験定数及び実験式と評価対象のコンクリート(実構造物)において計測された含水率及び体積抵抗率と予め計算されたコンクリートの水結合材比とを用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているので、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数が推定されると共に、実構造物に損傷を与えること無く、したがって実構造物内部の鋼材の配置に影響されること無く実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数が推定される。
【0026】
さらに、実験定数及び実験式の推算に用いるデータを既存の文献などを調査して収集するようにした場合には、簡便・低廉に且つ短時間で塩化物イオンの実効拡散係数が推定される。
【0027】
また、請求項2記載のコンクリート物性値の評価方法は、以下の数式8
【数8】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算するステップと、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1を取得するステップと、前記完全飽和状態における体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である以下の数式9
【数9】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す
を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定するステップとを有するようにしている。
【0028】
請求項5記載のコンクリート物性値の評価装置は、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、さらに、以下の数式10
【数10】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である以下の数式11
【数11】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す
を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段とを有するようにしている。
【0029】
請求項8記載のコンクリート物性値の評価プログラムは、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、さらに、以下の数式12
【数12】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す
を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である以下の数式13
【数13】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す
を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0030】
したがって、これらのコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによると、一般的に実測或いは収集可能であるデータを用いての推算によって予め求められた実験定数及び実験式と評価対象のコンクリート(実構造物)において計測された含水率及び体積抵抗率と予め計算された水結合材比とを用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているので、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数が推定されると共に、実構造物に損傷を与えること無く、したがって実構造物内部の鋼材の配置に影響されること無く実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数が推定される。
【0031】
さらに、実験定数及び実験式の推算に用いるデータを既存の文献などを調査して収集するようにした場合には、簡便・低廉に且つ短時間で塩化物イオンの実効拡散係数が推定される。
【0032】
また、請求項3記載のコンクリート物性値の評価方法は、評価対象のコンクリートについての水結合材比を算出するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1を取得するステップと、以下の数式14
【数14】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β,ε,γ,ζ,κ:係数(表1に示す値を用いる)
をそれぞれ表す
に評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについての水結合材比を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定するステップとを有するようにしている。
【0033】
請求項6記載のコンクリート物性値の評価装置は、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、以下の数式15
【数15】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β,ε,γ,ζ,κ:係数(表1に示す値を用いる)
をそれぞれ表す
に評価対象のコンクリートについて予め計算された含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートの水結合材比を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段とを有するようにしている。
【0034】
請求項9記載のコンクリート物性値の評価プログラムは、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、以下の数式16
【数16】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β,ε,γ,ζ,κ:係数(表1に示す値を用いる)
をそれぞれ表す
に評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を代入して完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0035】
【表1】
【0036】
したがって、これらのコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによると、予め定められた推定式と評価対象のコンクリート(実構造物)において計測された含水率及び体積抵抗率と予め計算された水結合材比とを用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているので、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数が推定されると共に、実構造物に損傷を与えること無く、したがって実構造物内部の鋼材の配置に影響されること無く実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数が推定される。さらに、簡便・低廉に且つ短時間で塩化物イオンの実効拡散係数が推定される。
【発明の効果】
【0037】
本発明のコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができると共に実構造物に損傷を与えること無く且つ実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができるので、実用性が高く汎用性の向上が可能になる。しかも、良好な精度で塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができるので、塩化物イオンの実効拡散係数の推定技術としての実用性及び信頼性の向上が可能になる。
【0038】
さらに、本発明のコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、簡便・低廉に且つ短時間で、その上良好な精度で塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができるので、この点からも実用性が高く汎用性の向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明のコンクリート物性値の評価方法の第一の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
図2】第一の実施形態のコンクリート物性値の評価方法をコンクリート物性値の評価プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現されるコンクリート物性値の評価装置の機能ブロック図である。
図3】含水率及び体積抵抗率の計測結果から飽和時の体積抵抗率を推算する考え方を説明する図である。
図4】本発明のコンクリート物性値の評価方法の第二の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
図5】第二の実施形態及び第三の実施形態のコンクリート物性値の評価方法をコンクリート物性値の評価プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現されるコンクリート物性値の評価装置の機能ブロック図である。
図6】第三の実施形態に対応する方法に関する実施例1における、結合材の種類が普通セメント系についての塩化物イオンの実効拡散係数の推定値と実測値との比較結果を示す図である。(A)はコンクリート内部の細孔溶液中の塩分無しについての比較結果を示す図である。(B)はコンクリート内部の細孔溶液中の塩分有りについての比較結果を示す図である。
図7】第三の実施形態に対応する方法に関する実施例1における、結合材の種類が混合セメント系についての塩化物イオンの実効拡散係数の推定値と実測値との比較結果を示す図である。(A)はコンクリート内部の細孔溶液中の塩分無しについての比較結果を示す図である。(B)はコンクリート内部の細孔溶液中の塩分有りについての比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0041】
図1から図3に、本発明のコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムの第一の実施形態の一例を示す。
【0042】
第一の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価方法は、数式17(後掲)を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算するステップと、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの品質を代表する水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータを取得するステップと、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータからべき乗の係数βを変化の勾配として、評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を前記含水率と水結合材比との間の関係式に代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して体積抵抗率を推算するステップと、当該推算された体積抵抗率を前記体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式に代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定するステップとを有する。
【0043】
また、第一の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価装置は、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、数式17(後掲)を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って推算された関係式に評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して体積抵抗率を推算する手段と、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された体積抵抗率を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段とを有する。
【0044】
さらに、第一の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価プログラムは、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、数式17(後掲)を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って推算された関係式に評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して体積抵抗率を推算する手段、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された体積抵抗率を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としてコンピュータを機能させる。
【0045】
以下、第一の実施形態について具体的に説明する。
【0046】
まず、本発明のコンクリート物性値の評価方法は、大きくは、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための準備段階(S1)と前記実効拡散係数の推定を行うための計測段階(S2)と前記実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)とに分けられる。
【0047】
そして、本実施形態では、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための準備段階(S1)として、完全飽和状態におけるコンクリートの含水率と体積抵抗率との間の関係の定式化を行うステップ(S1−1)と、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行うステップ(S1−2)と、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの品質を代表する水結合材比との間の関係の定式化を行うステップ(S1−3)とを有する。
【0048】
また、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための計測段階(S2)として、評価対象のコンクリートに関する含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータの取得を行うステップを有する。
【0049】
さらに、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)として、評価対象のコンクリートに関する含水率計測値データ及び体積抵抗率計測値データの読み込みを行うステップ(S3−1)と、完全飽和状態での体積抵抗率の推算を行うステップ(S3−2)と、完全飽和状態における塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うステップ(S3−3)とを有する。
【0050】
コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための準備段階(S1)のうちの、完全飽和状態におけるコンクリートの含水率と体積抵抗率との間の関係の定式化を行うステップ(S1−1)では、具体的には、完全飽和状態における(言い換えると、飽和時の)コンクリートの含水率の実測値ws0〔%〕と体積抵抗率の実測値ρs0〔Ω・m〕との組み合わせデータが複数用いられてこれら含水率と体積抵抗率との間の関係が定式化される。
【0051】
準備段階としてのこのステップ(S1−1)で用いられる完全飽和状態における含水率ws0と体積抵抗率ρs0との組み合わせデータとしては、例えば独自に実測を行ったり既存の文献などを調査したりすることによって取得・収集された組み合わせデータ群が用いられる。
【0052】
独自に実測を行う場合には、例えば、完全飽和状態であるコンクリートに対して含水率の実測及び体積抵抗率(電気抵抗率)の実測を行い、含水率の実測によって得られた含水率の実測値ws0〔%〕と体積抵抗率の実測によって得られた体積抵抗率の実測値ρs0〔Ω・m〕との組み合わせデータが整理される。なお、組み合わせデータは、少なくとも、後述の回帰分析が実行可能である個数が整理される。例えば、材齢(即ち、脱型からの経過日数)一定期間毎に実測を行うことによって複数の組み合わせデータが取得され整理される。
【0053】
なお、本発明では、コンクリートの含水率が得られるものであれば含水率の実測の具体的な方法は特定のものには限定されない。具体的には例えば水分率計を用いて実測を行うことが考えられる。なお、水分率計は既に普及しているものであり、また、水分率計を用いての含水率の実測自体は周知の方法であるのでここでは詳細については省略する。なお、含水率には、質量基準質量含水率や容積基準容積含水率があるところ、本発明においては質量基準質量含水率を用いる。
【0054】
また、本発明では、コンクリートの体積抵抗率が得られるものであれば体積抵抗率の実測の具体的な方法は特定のものには限定されない。具体的には例えば電気抵抗測定器を用いて土木学会規準「四電極法による断面修復材の体積抵抗率測定方法(案)(JSCE−K562−2008)」(土木学会:2010年制定 コンクリート標準示方書[規準編],丸善,2010年)に準拠して実測を行うことが考えられる。
【0055】
また、完全飽和状態におけるコンクリートの含水率の実測値ws0と体積抵抗率の実測値ρs0との組み合わせデータとして、文献などによって公表されている実験結果・実測結果としての完全飽和状態における含水率ws0と体積抵抗率ρs0との組み合わせデータが収集され整理されるようにしても良い。既存の文献などを調査することにより、材齢に対応する時間を実際にかけること無く、材齢が経過したデータを収集できることが期待される。
【0056】
なお、独自に実測を行って取得・整理された組み合わせデータと既存の文献などを調査して収集・整理された組み合わせデータとが統合されて用いられるようにしても良い。また、材齢が例えば6ヶ月未満や1年未満の期間においてコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の値(の変化)について材齢依存性が見られない場合には、当該材齢依存性が見られない期間のデータを除外するようにしても良い。
【0057】
そして、整理された組み合わせデータを用いて数式17に示すべき乗関数を前提として回帰分析を行うことにより、完全飽和状態における含水率と体積抵抗率との間の関係を定式化する(具体的には、例えば最小二乗法を用いて実験定数α及びβを推算する)。なお、二つの変数の関係がべき乗関数によって回帰できるということは、これら二つの変数の組み合わせデータのプロットが両対数軸上で直線上(及びその近傍)に分布することを意味している。
【数17】
ここに、 ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
s:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
α,β:実験定数
をそれぞれ表す。
【0058】
なお、含水率と体積抵抗率との間の関係の定式化は、コンクリートの属性や実測方法の属性などによって区分(カテゴリ)を設定して当該区分毎に行うようにしても良い。
【0059】
具体的には例えば、フライアッシュセメント等が混和された混合セメントでは、その硬化体の細孔構造は普通セメントの場合と大きく異なり、拡散係数のような巨視的な物性値にも影響を与える。そこで、コンクリートの属性のうち結合材の種類に関する区分として、普通セメント系と混合セメント系とに区分するようにしても良い。
【0060】
また、コンクリートには一定の容量成分が見出されるために体積抵抗率の実測における印加電流の種類が体積抵抗率の実測結果に影響を与えることも考えられる。そこで、実測方法の属性のうち体積抵抗率の実測における印加電流の種類に関する区分として、直流と交流とに区分するようにしても良い。
【0061】
また、海水中の塩化物イオンが細孔内溶液中に進入した場合には塩化物イオンは細孔溶液のイオン強度に大きな影響を与える。また、体積抵抗率の実測によって観測されるコンクリートの体積抵抗率は、コンクリート内部の細孔溶液の容積及びその液抵抗を反映したものである。そこで、コンクリートの属性に関する区分として、コンクリート内部の細孔溶液中の塩分の有無で区分するようにしても良い。
【0062】
また、コンクリートの属性について、コンクリートの配合条件に関する区分として水結合材比の値によって区分するようにしても良いし、養生条件に関する区分として標準養生,気中養生,湿潤養生などの養生種類で区分するようにしても良い。
【0063】
次に、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行うステップ(S1−2)では、具体的には、完全飽和状態における(言い換えると、飽和時の)コンクリートの体積抵抗率の実測値ρs0〔Ω・m〕と塩化物イオンの実効拡散係数の実測値Ds0〔cm2/年〕との組み合わせデータが複数用いられてこれら体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係が定式化される。
【0064】
準備段階としてのこのステップ(S1−2)で用いられる完全飽和状態における体積抵抗率ρs0と塩化物イオンの実効拡散係数Ds0との組み合わせデータとしては、例えば独自に実測を行ったり既存の文献などを調査したりすることによって取得・収集された組み合わせデータ群が用いられる。
【0065】
独自に実測を行う場合には、例えば、完全飽和状態であるコンクリートに対して体積抵抗率(電気抵抗率)の実測及び塩化物イオンの実効拡散係数の実測を行い、体積抵抗率の実測によって得られた体積抵抗率の実測値ρs0〔Ω・m〕と塩化物イオンの実効拡散係数の実測によって得られた実効拡散係数の実測値Ds0〔%〕との組み合わせデータが整理される。なお、組み合わせデータは、少なくとも、後述の回帰分析が実行可能である個数が整理される。
【0066】
体積抵抗率の実測については上記S1−1の処理の場合と同様である。
【0067】
一方、塩化物イオンの実効拡散係数の実測については、コンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数が得られるものであれば実測の具体的な方法は特定のものには限定されない。具体的には例えば土木学会規準「電気泳動によるコンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法(案)(JSCE−G571−2010)」(土木学会:2010年制定 コンクリート標準示方書[規準編],丸善,2010年)に準拠して実測を行うことが考えられる。
【0068】
また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率の実測値ρs0と塩化物イオンの実効拡散係数の実測値Ds0との組み合わせデータとして、文献などによって公表されている実験結果・実測結果としての完全飽和状態における体積抵抗率ρs0と塩化物イオンの実効拡散係数Ds0との組み合わせデータが収集され整理されるようにしても良い。
【0069】
なお、独自に実測を行って取得・整理された組み合わせデータと既存の文献などを調査して収集・整理された組み合わせデータとが統合されて用いられるようにしても良い。また、材齢が例えば6ヶ月未満や1年未満の期間においてコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の値(の変化)について材齢依存性が見られない場合には、当該材齢依存性が見られない期間のデータを除外するようにしても良い。
【0070】
そして、整理された組み合わせデータを用いて回帰分析を行うことにより、完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係を定式化する(具体的には、例えば最小二乗法を用いて実験定数を推算する)。なお、回帰分析を行う際の関数形は特定のものに限定されるものではなく、体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との組み合わせデータを例えばグラフ上にプロットするなどして最も良く合致すると考えられる関数形が適宜選択される。具体的には例えば、数式18に示すべき乗関数を用いて回帰分析を行うことにより、実験定数γ及びεを推算する。
【数18】
ここに、 Ds:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
γ,ε:実験定数
をそれぞれ表す。
【0071】
なお、体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化をコンクリートの属性や実測方法の属性などによって区分(カテゴリ)を設定して当該区分毎に行うようにしても良く、その場合の区分の例として挙げられるものはS1−1の処理の説明において挙げたものと同様である。
【0072】
さらに、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの品質を代表する水結合材比との間の関係の定式化を行うステップ(S1−3)では、具体的には、完全飽和状態でのコンクリートの含水率の実測値ws0〔%〕とコンクリートの水結合材比の計算値W/B〔%〕との組み合わせデータが複数用いられてこれら含水率と水結合材比との間の関係が定式化される。
【0073】
準備段階としてのこのステップ(S1−3)で用いられる完全飽和状態でのコンクリートの含水率ws0とコンクリートの水結合材比W/Bとの組み合わせデータとしては、例えば既存の文献などを調査することによって収集された組み合わせデータ群が用いられる。なお、水結合材比W/Bはコンクリートセメントの配合条件に基づいて計算する。また、組み合わせデータは、少なくとも、後述の回帰分析が実行可能である個数が整理される。
【0074】
そして、収集・整理された組み合わせデータを用いて回帰分析を行うことにより、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの品質を代表する水結合材比との間の関係を定式化する(具体的には、例えば最小二乗法を用いて実験定数を推算する)。なお、回帰分析を行う際の関数形は特定のものに限定されるものではなく、含水率と水結合材比との組み合わせデータを例えばグラフ上にプロットするなどして最も良く合致すると考えられる関数形が適宜選択される。具体的には例えば、数式19に示すべき乗関数を用いて回帰分析を行うことにより、実験定数ζ及びκを推算する。
【数19】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
W/B:コンクリートの水結合材比の計算値〔%〕,
ζ,κ:実験定数
をそれぞれ表す。
【0075】
なお、含水率と水結合材比との間の関係の定式化をコンクリートの属性や実測方法の属性などによって区分(カテゴリ)を設定して当該区分毎に行うようにしても良く、その場合の区分の例として挙げられるものはS1−1の処理の説明において挙げたものと同様である。
【0076】
続いて、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための計測段階(S2)に係る処理として評価対象のコンクリートに関する含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータの取得が行われる。
【0077】
具体的には、評価対象のコンクリート(実構造物)に対し、含水率の計測を行って含水率の計測値w1〔%〕を取得し、さらに、体積抵抗率(電気抵抗率)の計測を行って体積抵抗率の計測値ρ1〔Ω・m〕を取得する。
【0078】
なお、含水率の計測や体積抵抗率(電気抵抗率)の計測については上記S1−1の処理の場合と同様である。
【0079】
続いて、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)に係る処理が行われる。
【0080】
ここで、本発明のコンクリート物性値の評価方法におけるこのコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)に係る処理は、本発明のコンクリート物性値の評価装置によって実現され得る。
【0081】
そして、上述のコンクリート物性値の評価方法におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)に係る処理及び当該処理を実現するコンクリート物性値の評価装置は、本発明のコンクリート物性値の評価プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現され得る。本明細書では、コンクリート物性値の評価プログラムをコンピュータ上で実行することによってコンクリート物性値の評価装置が実現されると共にコンクリート物性値の評価方法におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)に係る処理が実施される場合を説明する。
【0082】
コンクリート物性値の評価プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、コンクリート物性値の評価装置10でもある)の全体構成を図2に示す。このコンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10)は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、コンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10)には記憶装置としてのデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われる。
【0083】
制御部11は記憶部12に記憶されているコンクリート物性値の評価プログラム17によってコンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10)全体の制御並びにコンクリート物性値の評価処理に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0084】
記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0085】
メモリ15は制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0086】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0087】
表示部14は制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0088】
そして、本実施形態では、上述のコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための準備段階(S1)のS1−1の処理において推算された完全飽和状態における含水率と体積抵抗率との間の関係式(数式17)における実験定数であるべき乗の係数βの値、及び、S1−2の処理において定式化された完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式(具体的には関数形及び実験定数の値;例えば数式18及び実験定数γ,ε)、及び、S1−3の処理において定式化された完全飽和状態での含水率と水結合材比との間の関係式(具体的には関数形及び実験定数の値;例えば数式19及び実験定数γ,ε)が、コンクリート物性値の評価プログラム17内に予め規定される。なお、コンクリートの属性や実測方法の属性などの区分毎に前記係数や関係式が推算されている場合には、区分毎の識別子と対応づけられて前記係数や関係式が規定される。また、前記係数や関係式がコンクリート物性値の評価プログラム17内に規定されるのではなく、前記係数や関係式が規定された参照ファイルが内部記憶装置である記憶部12や外部記憶装置であるデータサーバ16に予め格納され、当該参照ファイルをコンクリート物性値の評価プログラム17が必要に応じて参照するようにしても良い。
【0089】
さらに、上述のコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための計測段階(S2)の処理において計測され取得された評価対象のコンクリート(実構造物)についての含水率の計測値w1〔%〕と体積抵抗率の計測値ρ1〔Ω・m〕との組み合わせデータが計測値データベース18としてデータサーバ16に予め格納(保存)される。なお、評価対象が複数ある場合(例えば、評価対象のコンクリート構造物が複数ある場合や、或るコンクリート構造物での評価対象箇所が複数ある場合など)には、評価対象毎の識別子と対応づけられて含水率の計測値w1〔%〕と体積抵抗率の計測値ρ1〔Ω・m〕との組み合わせデータが記録される。
【0090】
なお、本発明において含水率の計測値w1や体積抵抗率の計測値ρ1のデータが蓄積されるデータベースやデータファイルが格納(保存)されるのは、コンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10)の制御部11がアクセス可能な記憶装置であれば良く、データサーバ16に限られるものではない。具体的には例えば、内部記憶装置である記憶部12に格納されるようにしても良いし、光記憶媒体等の各種記憶媒体や外部記憶装置に格納されるようにしても良い。
【0091】
また、評価対象のコンクリート(実構造物)の水結合材比が、水結合材比データファイル19としてデータサーバ16に予め格納(保存)される。この評価対象のコンクリートの水結合材比は、設計や工事などの仕様に基づいて、例えば推定を行うための準備段階(S1)の処理の一つとして予め計算して水結合材比データファイル19に整理しておく。なお、評価対象が複数ある場合には、評価対象毎の識別子と対応づけられて水結合材比の計算値データが記録される。
【0092】
なお、本発明において水結合材比の計算値データが蓄積されるデータファイル19が格納(保存)されるのは、コンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10)の制御部11がアクセス可能な記憶装置であれば良く、データサーバ16に限られるものではない。具体的には例えば、内部記憶装置である記憶部12に格納されるようにしても良いし、光記憶媒体等の各種記憶媒体や外部記憶装置に格納されるようにしても良い。
【0093】
そして、コンピュータ10(本実施形態では、コンクリート物性値の評価装置10でもある)の制御部11には、コンクリート物性値の評価プログラム17を実行することにより、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む手段としてのデータ読込部11a、両対数軸上において含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータから、数式17を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行って推算されたべき乗の係数βを変化の勾配として、完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って推算された関係式に水結合材比の値を代入して算出された含水率の自然対数値に対応する体積抵抗率の自然対数値を算出して体積抵抗率を推算する手段としての体積抵抗率推算部11b、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って推算された関係式に前記推算された体積抵抗率を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としての実効拡散係数推定部11cが構成される。
【0094】
コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う評価段階(S3)に係る処理の実行にあたり、制御部11のデータ読込部11aは、評価対象のコンクリートに関する含水率計測値データ及び体積抵抗率計測値データの読み込みを行う(S3−1)。
【0095】
具体的には、データ読込部11aは、S2の処理において計測され取得されてデータサーバ16に格納されている計測値データベース18に記録されている評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1〔%〕と体積抵抗率の計測値ρ1〔Ω・m〕との組み合わせデータをデータサーバ16から読み込む。そして、データ読込部11aは、読み込んだ含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータをメモリ15に記憶させる。なお、評価対象が複数ある場合には、評価対象毎の識別子を含めて読み込むと共に当該識別子と対応づけて組み合わせデータを記憶させる。
【0096】
データ読込部11aは、さらに、予め計算されてデータサーバ16に格納されている水結合材比データファイル19に記録されている評価対象のコンクリートの水結合材比の計算値データをデータサーバ16から読み込む。そして、データ読込部11aは、読み込んだ水結合材比の計算値データをメモリ15に記憶させる。
【0097】
次に、制御部11の体積抵抗率推算部11bは、完全飽和状態での体積抵抗率の推算を行う(S3−2)。なお、評価対象が複数ある場合にはS3−2以降の処理は評価対象毎(具体的にはコンクリート構造物別の箇所毎で、言い換えると評価対象の識別子毎)に行われるが、以下の各処理においてその説明は省略する。
【0098】
体積抵抗率推算部11bは、S3−1の処理においてメモリ15に記憶された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータをメモリ15から読み込み、当該含水率の計測値w1の自然対数値log(w1)と当該体積抵抗率の計測値ρ1の自然対数値log(ρ1)とを算出すると共に、算出したこれら自然対数値log(w1),log(ρ1)をメモリ15に記憶させる。
【0099】
体積抵抗率推算部11bは、また、S3−1の処理においてメモリ15に記憶された水結合材比の計算値データをメモリ15から読み込み、コンクリート物性値の評価プログラム17内に規定されている完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合材比との間の関係式に代入して完全飽和状態における含水率を算出する。そして、当該飽和時含水率の算出値wscの自然対数値log(wsc)を算出すると共に、算出した自然対数値log(wsc)をメモリ15に記憶させる。
【0100】
そして、体積抵抗率推算部11bは、両対数軸上における変化を前提として、含水率の計測値w1の自然対数値log(w1)と体積抵抗率の計測値ρ1の自然対数値log(ρ1)との組み合わせの点から、S1−1の処理において推算されてコンクリート物性値の評価プログラム17内に規定されている完全飽和状態における含水率と体積抵抗率との間の関係式(数式17)におけるべき乗の係数βを変化の勾配として、飽和時含水率の算出値wscの自然対数値log(wsc)に対応する飽和時の体積抵抗率の自然対数値log(ρsc)を算出して飽和時の体積抵抗率ρscを推算する(図3参照)。
【0101】
なお、S1−1の処理においてコンクリートの属性や実測方法の属性などの区分毎にべき乗の係数βが推算されている場合には、評価対象のコンクリートの属性などに対応する区分のべき乗の係数βが用いられる。
【0102】
そして、体積抵抗率推算部11bは、推算した飽和時の体積抵抗率ρscをメモリ15に記憶させる。
【0103】
次に、制御部11の実効拡散係数推定部11cは、完全飽和状態における塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行う(S3−3)。
【0104】
具体的には、実効拡散係数推定部11cは、S3−2の処理においてメモリ15に記憶された飽和時の体積抵抗率ρscをメモリ15から読み込み、当該飽和時の体積抵抗率ρscを、S1−2の処理において定式化されてコンクリート物性値の評価プログラム17内に規定されている完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式(例えば数式18)における完全飽和状態における体積抵抗率ρsに代入して完全飽和状態における塩化物イオンの実効拡散係数Dsを推定する。
【0105】
そして、実効拡散係数推定部11cは、推定した塩化物イオンの実効拡散係数Dsの値を表示部14に表示したり、推定結果データファイルとして記憶部12やデータサーバ16などに保存したりする。
【0106】
そして、制御部11は、コンクリート物性値の評価の処理を終了する(END)。
【0107】
以上のように構成された第一の実施形態のコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、推算によって予め求められた実験定数及び実験式と評価対象のコンクリート(実構造物)において計測された含水率及び体積抵抗率とを用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているので、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができると共に、実構造物に損傷を与えること無く、したがって実構造物内部の鋼材の配置に影響されること無く実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができる。
【0108】
さらに、塩化物イオンの実効拡散係数を推定するための実験定数及び実験式は予め推算しておくことが可能であると共に、実構造物を破壊すること無く含水率と体積抵抗率とを計測することのみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することが可能であるので、評価対象のコンクリート構造物が所在している現場において塩化物イオンの実効拡散係数を直ちに推定することができる。
【0109】
なお、上述の第一の実施形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の第一の実施形態では、完全飽和状態におけるコンクリートの含水率と体積抵抗率との間の関係式である数式17のべき乗の係数βを両対数軸上における変化の勾配として直接的に用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているが、数式17のべき乗の係数βの使い方はこれに限られるものではなく、塩化物イオンの実効拡散係数の推定に、両対数軸上における変化の勾配であるべき乗の係数βを組み込んだ数式20(後掲)を用いるようにしても良い(第二の実施形態;図4及び図5参照)。
【0110】
第二の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価方法は、数式17を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算するステップと、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1を取得するステップと、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である数式20(後掲)を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定するステップとを有する。
【0111】
また、第二の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価装置は、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、さらに、数式17を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である数式20(後掲)を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段とを有する。
【0112】
さらに、第二の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価プログラムは、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、さらに、数式17を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である数式20(後掲)を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としてコンピュータを機能させる。
【0113】
以下、第二の実施形態について、第一の実施形態と異なる構成を中心に具体的に説明する。
【0114】
第二の実施形態の場合には、まず、第一の実施形態と同様にS1−1の処理からS1−3までの処理が行われる。
【0115】
そして、第二の実施形態では、コンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を行うための準備段階(S1)のS1−1の処理において推算された完全飽和状態における含水率と体積抵抗率との間の関係式(数式17)における実験定数であるべき乗の係数βの値、及び、S1−2の処理において定式化された完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式(例えば数式18)における実験定数(数式18の例ではε,γ)の値、及び、S1−3の処理において定式化された完全飽和状態での含水率と水結合材比との間の関係式(例えば数式19)における実験定数(数式19の例ではζ,κ)の値がコンクリート物性値の評価プログラム17内に予め規定される。
【0116】
さらに、完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率に含水率と体積抵抗率との間の関係式である数式20を代入すると共に代入後の式中の含水率に完全飽和状態での含水率と水結合材比との間の関係式を代入して整理して変数をコンクリートの含水率の計測値及び体積抵抗率の計測値並びに水結合材比のみにした式(以下、実効拡散係数推定式と呼ぶ)がコンクリート物性値の評価プログラム17内に予め規定される。なお、完全飽和状態における体積抵抗率と塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式として数式18を用いると共に完全飽和状態での含水率と水結合材比との間の関係式として数式19を用いた場合には、実効拡散係数推定式は数式21に示す式になる。
【0117】
【数20】
ここに、 ws:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率〔%〕,
ρs:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率〔Ω・m〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
β:実験定数
をそれぞれ表す。
【0118】
【数21】
ここに、 De:完全飽和状態におけるコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数
〔cm2/年〕,
1:コンクリートの含水率の計測値〔%〕,
ρ1:コンクリートの体積抵抗率の計測値〔Ω・m〕,
W/B:コンクリートの水結合材比〔%〕,
β:完全飽和状態におけるコンクリートの含水率と体積抵抗率との間の関
係式に関する実験定数,
ε,γ:完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率と塩化物イオン
の実効拡散係数との間の関係式に関する実験定数,
ζ,κ:完全飽和状態でのコンクリートの含水率とコンクリートの水結合
材比との間の関係式に関する実験定数
をそれぞれ表す。
【0119】
そして、S1の処理に続いて、第一の実施形態と同様にS2の処理が行われる。
【0120】
なお、第二の実施形態でも、S2の処理において計測され取得された評価対象のコンクリートについての含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータが計測値データベース18としてデータサーバ16に予め格納(保存)されると共に、評価対象のコンクリートの水結合材比の計算値データが水結合材比データファイル19としてデータサーバ16に予め保存される。
【0121】
そして、コンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10でもある)の制御部11には、コンクリート物性値の評価プログラム17を実行することにより、第二の実施形態では、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む手段としてのデータ読込部11a、さらに、数式17を用いて完全飽和状態におけるコンクリートの含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係の定式化を行ってべき乗の係数βを推算し、また、完全飽和状態におけるコンクリートの体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係の定式化を行って関係式を推算すると共に完全飽和状態でのコンクリートの含水率wsとコンクリートの水結合材比との間の関係の定式化を行って関係式を推算し、そして、前記体積抵抗率ρsと塩化物イオンの実効拡散係数との間の関係式中の体積抵抗率ρsに含水率wsと体積抵抗率ρsとの間の関係式である数式20を代入すると共に代入後の式中の含水率wsに前記含水率wsと水結合材比との間の関係式を代入して得られた式に、評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としての実効拡散係数推定部11bが構成される。
【0122】
その上で、第一の実施形態と同様にS3−1の処理が行われる。このとき、第二の実施形態では、データ読込部11aは、評価対象のコンクリートの含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータに加え、評価対象のコンクリートの水結合材比の値もデータサーバ16(計測値データベース18)から読み込むと共にメモリ15に記憶させる。
【0123】
その後、第一の実施形態におけるS3−2の処理は行われず、完全飽和状態における塩化物イオンの実効拡散係数の推定(S3−2)の処理が行われる。
【0124】
具体的には、第二の実施形態における制御部11の実効拡散係数推定部11bは、S3−1の処理においてメモリ15に記憶された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ及び水結合材比の値をメモリ15から読み込み、これら含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに水結合材比W/Bを、コンクリート物性値の評価プログラム17内に規定されている実効拡散係数推定式に代入して塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する。
【0125】
以上のように構成された第二の実施形態のコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、推算によって予め求められた実験定数及び実験式と評価対象のコンクリート(実構造物)において計測された含水率及び体積抵抗率とを用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているので、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができると共に、実構造物に損傷を与えること無く、したがって実構造物内部の鋼材の配置に影響されること無く実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができる。
【0126】
さらに、塩化物イオンの実効拡散係数を推定するための実験定数及び実験式は予め推算しておくことが可能であると共に、実構造物を破壊すること無く含水率と体積抵抗率とを計測することのみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することが可能であるので、評価対象のコンクリート構造物が所在している現場において塩化物イオンの実効拡散係数を直ちに推定することができる。
【0127】
また、上述の第二の実施形態における実効拡散係数推定式として数式21を用いると共に、この数式21における実験定数β,ε,γ,ζ,κとして表2に示す値を用いるようにしても良い(第三の実施形態;コンクリート物性値の評価プログラム17を実行するためのコンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10)の全体構成は第二の実施形態と同じである(図5参照))。
【表2】
【0128】
表2に示す各実験定数の値は、本発明者によって、独自の計測によって取得されたデータ及び文献などの調査によって収集されたデータを用い、数式17を前提とした回帰分析によって推算された実験定数βの値であり、また、数式18を前提とした回帰分析によって推算された実験定数ε,γの値であり、さらに、数式19を前提とした回帰分析によって推算された実験定数ζ,κの値である。なお、表2に示す各実験定数の値の推算の基礎としている計測は全て20℃の場合のものである。このため、実構造物が曝されている実環境が20℃でないときには、例えば既往の研究例などを参考にしたり計測機器の機能を利用したりして温度に関する補正が必要である。
【0129】
また、表2に示す実験定数は、結合材の種類について普通セメント系と混合セメント系とに区分すると共にコンクリート内部の細孔溶液中の塩分について有りと無しとに区分して推算されたものである。
【0130】
なお、表2の実験定数の推算においては、少数のデータから母集団の性質を推定する方法であり、例えば多数のデータを収集することが困難であってデータの個数が限られている実験の結果の分析への適用が有効であると考えられるBootstrap法を用いてデータの個数が少ないことに起因する問題の改善を図るようにした。
【0131】
具体的には、数式17を前提とした回帰分析,数式18を前提とした回帰分析,数式19を前提とした回帰分析のそれぞれに対してBootstrap法を適用した。そして、各回帰分析に用いる各実験式の実験定数に対してBootstrap法を適用し、各実験定数のばらつき等を把握して各種実験定数の平均(μ)に対して分散(σ)を加えた場合(μ+1.0σ)と引いた場合(μ−1.0σ)とそのままの場合(μ)とをそれぞれ求め、実測値よりも僅かに過大に評価し且つ変動係数ができるだけ小さい場合の回帰変数に修正するようにした。
【0132】
なお、本実施形態では回帰分析における問題の改善を図るためにBootstrap法を適用する例を説明したが、問題改善のために用いられる方法はBootstrap法に限られるものではないし、問題改善のために回帰分析のそれぞれに対してBootstrap法をはじめとする何らかの方法を適用することは本発明の必須の構成ではない。
【0133】
そして、第三の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価方法は、評価対象のコンクリートについての水結合材比を算出するステップと、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1を取得するステップと、数式21(式中の各実験定数の値として表2に示す値を用いる)に評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについての水結合材比を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定するステップとを有する。
【0134】
また、第三の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価装置は、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段と、数式21(式中の各実験定数の値として表2に示す値を用いる)に評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段とを有する。
【0135】
さらに、第三の実施形態に対応する本発明のコンクリート物性値の評価プログラムは、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を内部記憶装置若しくは外部記憶装置から読み込む手段、数式21(式中の各実験定数の値として表2に示す値を用いる)に評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としてコンピュータを機能させる。
【0136】
以下、第三の実施形態について、第一の実施形態と異なる構成を中心に具体的に説明する。
【0137】
まず、第三の実施形態の場合には、第一の実施形態における準備段階(S1)の各処理(S1−1〜S1−3)は不要である。
【0138】
その代わりに、第三の実施形態では、数式21に示す式が実効拡散係数推定式としてコンクリート物性値の評価プログラム17内に予め規定されると共に、表2に示すコンクリートの属性の区分別の実験定数β,ε,γ,ζ,κの値がコンクリート物性値の評価プログラム17内に予め規定される。
【0139】
そして、S1の処理に続いて、第一の実施形態と同様にS2の処理が行われる。
【0140】
ここで、第三の実施形態では、S2の処理において計測され取得された評価対象のコンクリートについての含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータに加え、評価対象のコンクリートの水結合材比も、計測値データベース18としてデータサーバ16に予め格納(保存)される。この評価対象のコンクリートの水結合材比は、設計や工事などの仕様に基づいて、例えば推定を行うための準備段階(S1)の処理の一つとして予め算出して計測値データベース18に含めておく。
【0141】
そして、コンピュータ10(コンクリート物性値の評価装置10でもある)の制御部11には、コンクリート物性値の評価プログラム17を実行することにより、第三の実施形態では、評価対象のコンクリートに対して含水率の計測及び体積抵抗率の計測を行って取得された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ並びに評価対象のコンクリートについて予め計算された水結合材比の値を記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む手段としてのデータ読込部11a、数式21(式中の各係数の値として表2に示す値を用いる)に評価対象のコンクリートの含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに評価対象のコンクリートの水結合材比を代入して塩化物イオンの実効拡散係数を推定する手段としての実効拡散係数推定部11bが構成される。
【0142】
その上で、第一の実施形態と同様にS3−1の処理が行われる。このとき、第二の実施形態では、データ読込部11aは、評価対象のコンクリートの含水率の計測値と体積抵抗率の計測値との組み合わせデータに加え、評価対象のコンクリートの水結合材比の値もデータサーバ16(計測値データベース18)から読み込むと共にメモリ15に記憶させる。
【0143】
その後、第一の実施形態におけるS3−2の処理は行われず、完全飽和状態における塩化物イオンの実効拡散係数の推定(S3−2)の処理が行われる。
【0144】
具体的には、第三の実施形態における制御部11の実効拡散係数推定部11bは、S3−1の処理においてメモリ15に記憶された含水率の計測値w1と体積抵抗率の計測値ρ1との組み合わせデータ及び水結合材比の値をメモリ15から読み込み、これら含水率の計測値w1及び体積抵抗率の計測値ρ1並びに水結合材比W/Bを、コンクリート物性値の評価プログラム17内に規定されている実効拡散係数推定式に代入して塩化物イオンの実効拡散係数Deを推定する。
【0145】
以上のように構成された第三の実施形態のコンクリート物性値の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、推算によって予め求められた実効拡散係数推定式と評価対象のコンクリート(実構造物)において計測された含水率及び体積抵抗率とを用いて塩化物イオンの実効拡散係数を推定するようにしているので、現実的に設定可能である入力条件のみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができると共に、実構造物に損傷を与えること無く、したがって実構造物内部の鋼材の配置に影響されること無く実構造物の任意の箇所における塩化物イオンの実効拡散係数を推定することができる。
【0146】
さらに、塩化物イオンの実効拡散係数を推定するための実効拡散係数推定式は予め推算しておくことが可能であると共に、実構造物を破壊すること無く含水率と体積抵抗率とを計測することのみによって塩化物イオンの実効拡散係数を推定することが可能であるので、コンクリート構造物が所在している現場において塩化物イオンの実効拡散係数を直ちに推定することができる。
【0147】
さらに、上述の第三の実施形態では回帰分析においてBootstrap法を適用するようにしている一方で上述の第一及び第二の実施形態では回帰分析においてBootstrap法を適用するようにはしていないが、いずれの実施形態でも実験定数や実験式の推算において、例えばデータの個数やデータのサンプリング方法やデータの分散・偏りなどに基づく解析上の問題を改善するための種々の手法を適用するようにしても良い。具体的には例えば、本発明においては塩化物イオンの実効拡散係数の推定を簡便・低廉に且つ短時間で行うためには推算に用いるデータを既存の文献などの調査によって収集することが好ましいものの、既存の文献などの調査のみによっては推算の精度を確保するために十分な個数のデータが集まらないことも考えられる。そこで、少数のデータから母集団の性質を推定する方法であるBootstrap法を用いてデータの個数が少ないことに起因する問題の改善を図るようにしても良い。
【0148】
なお、Bootstrap法は、1979年にBradley Efronが提唱したリサンプリング法に分類される統計解析の手法の一つである。Bootstrap法自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略するが、概要は、標本集団からリサンプリングを行い、リサンプリング集団に対して所要の統計量(例えば平均や分散等)を算出することによってリサンプリング回数に等しい数量の統計量を得て、この統計量の分布に対して中心極限定理を適用して母集団の統計量を推定するものである。なお、リサンプリングをどの程度繰り返せば良いか(即ち、最少リサンプリング回数)については明確な理論はないものの、103〜104回繰り返せば良いと通常はされている。そして、標本集団が少数であっても適用が可能であることから、多数のデータを収集することが困難な実験の結果の分析への適用が有効であると考えられる。このため、本発明における実験定数や実験式の推算においてこのBootstrap法を適用するようにしても良い。
【実施例1】
【0149】
本発明のコンクリート物性値の評価方法を実際のコンクリートにおける塩化物イオンの実効拡散係数の推定に適用した実施例を図6及び図7を用いて説明する。
【0150】
本実施例では、上述の第三の実施形態に対応した方法、すなわち、数式21で表される実効拡散係数推定式及び表2に示される各実験定数の値を用い、評価対象のコンクリートに対して計測を行って取得した含水率の計測値w1〔%〕と体積抵抗率の計測値ρ1〔Ω・m〕とを実効拡散係数推定式に代入して評価対象のコンクリートにおける塩化物イオンの実効拡散係数を推定した。
【0151】
なお、本実施例では、体積抵抗率の計測値ρ1〔Ω・m〕を取得するための体積抵抗率の計測は、印加電流として交流電流を用いて行った。
【0152】
また、上記による推定精度を検証するため、前記評価対象のコンクリートに対して塩化物イオンの実効拡散係数の実測を行った。
【0153】
塩化物イオンの実効拡散係数の推定値と実測値とを比較するため、横軸を「実測値」とすると共に縦軸を「推定値を実測値で除した値(=推定値/実測値)」とする直交軸上にこれら両軸に対応する値の組み合わせデータをプロットし、結合材の種類の区分が普通セメント系についての推定値と実測値との比較として図6((A)はコンクリート内部の細孔溶液中の塩分無し,(B)は塩分有り)に示す結果が得られ、結合材の種類の区分が混合セメント系についての推定値と実測値との比較として図7((A)はコンクリート内部の細孔溶液中の塩分無し,(B)は塩分有り)に示す結果が得られた。
【0154】
図6及び図7においては縦軸の「推定値/実測値」の値が1であれば推定値と実測値とが等しいということであるので、縦軸の値が1である水平線上及びその近傍にプロットが集まっていれば推定精度が良好であると言える。なお、縦軸の値が1よりも大きい領域にプロットが存在する場合には推定結果が過大であり、縦軸の値が1よりも小さい領域にプロットが存在する場合には推定結果が過小であることになる。
【0155】
本発明(具体的には、第三の実施形態)による推定結果は実測値に対して過大に推定する傾向が見られるものの(図6図7中の○印が本発明による推定結果)、推定精度(=推定値/実測値)の平均値は1.08〜1.22であり、既往の研究例における推定結果(各図中の□印)と比べて推定精度が格段に良好であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0156】
例えば「2007年制定 コンクリート標準示方書[設計編]」(土木学会,2007年)では、鉄筋コンクリート製構造物の塩害に対する耐久性能の照査は塩化物イオンの侵入によって鋼材腐食が生じないことを確認することによって行うとされている。また、「2007年制定 コンクリート標準示方書[維持管理編]」(土木学会,2007年)では、塩害に対する構造物の維持管理のために塩化物イオンのコンクリート中での拡散の予測を行うこととされている。このようにコンクリートの塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、コンクリート構造物内部での塩化物イオンの濃度分布や鋼材の腐食の評価などにおいて重要な物性値であってコンクリート構造物の設計,維持管理,修繕などのあらゆる場面において重要な物性値の一つであるところ、本発明のコンクリート物性値の評価方法によれば現実的に設定可能である入力条件のみによると共に実構造物に損傷を与えること無くコンクリートの塩化物イオンの実効拡散係数の推定を精度良く行うことができるので、コンクリートに纏わる材料工学、構造工学、構造物の設計・維持管理実務等の分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0157】
10 コンクリート物性値の評価装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
16 データサーバ
17 コンクリート物性値の評価プログラム
18 計測値データベース
19 飽和時含水率データファイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7