(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2のステップは、第2の石英板の全面に遮光性膜を成膜した後に、該第2の石英板に平面内強度分布を有する閃光光を照射し、該閃光光の照射強度に応じた前記遮光性膜の昇華により透明な石英板上に付着させることにより、該透明な石英板上に前記透過率が異なる領域に対応して厚みが異なる前記遮光性膜を前記石英板上に形成するサブステップを備えている、請求項2に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
前記石英板は、遮光性膜を成膜した基板に、閃光光を照射し、前記遮光性膜の昇華により、透明な石英板上に遮光性膜を付着させたものであることを特徴とする、請求項2記載のフォトマスクブランクの製造方法。
前記閃光ランプ光照射後の前記光学膜の上に1以上の膜を積層する第3のステップをさらに備えている、請求項1〜5の何れか1項に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランクに形成される光学膜の光学特性の面内均一性を高めるための技術に関する。
【0002】
半導体集積回路の高集積化に伴い、フォトマスクに形成されるパターンもさらなる微細化と高精度化が求められている。これに伴い、フォトリソグラフィ技術に用いられる露光光は、解像度の向上のための短波長化が進行している。具体的には、紫外線光源であるg線(波長λ=436nm)やi線(λ=365nm)から、遠紫外線光源であるKrF線(λ=248nm)やArF線(λ=193nm)へと短波長化している。
【0003】
また、パターンの微細化と高精度化に応えるべく、液浸技術や解像度向上技術(RET:resolution enhancement technology)、さらに、2重露光(ダブルパターニングリソグラフィ)などの技術も応用されている。
【0004】
ところで、露光光の短波長化に伴って焦点深度(DOF)は浅くなるため、パターン転写時のフォーカスエラーが生じ易くなり、製造歩留まりを低下させる原因となる。
【0005】
このような焦点深度を改善する方法のひとつとして位相シフト法がある。位相シフト法では、位相シフトマスクを用い、相互に隣接するパターンの位相が概ね180°異なるようにパターン形成が行われる。位相シフト法では、位相シフト膜が形成された領域を通過した光と位相シフト膜が存在しない領域を通過した光とは、境界部分で干渉し、当該領域において急峻な変化を示す光強度分布が得られ、その結果、像コントラストが向上することとなる。なお、位相シフトマスクには、レベンソン型やハーフトーン型などがある。
【0006】
ハーフトーン型位相シフトマスクとしては、モリブテンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブテンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)からなる位相シフト膜を有するものなどが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、クロムを含む位相シフト膜やタンタルを含む位相シフト膜も提案されている(特許文献2及び特許文献3)。
【0007】
このような位相シフトマスクは、位相シフトマスクブランクを、リソグラフィ法でパターン形成して作製される。例えば、ハーフトーン位相シフトマスクの場合は、透明基板の上にハーフトーン位相シフト膜、遮光膜(Cr膜など)が順に形成されたフォトマスクブランクが用いられる。
【0008】
このフォトマスクブランク上にレジストを塗布し、電子線又は紫外線により所望の部分のレジストを感光させた後、これを現像してレジストをパターニングする。そして、パターニングされたレジスト膜をマスクとして用い、遮光膜と位相シフト膜をエッチングにより除去した後、レジスト膜と遮光膜を剥離すると、ハーフトーン位相シフトマスクが得られることになる。
【0009】
なお、複数の層が積層された構造のデバイスを作製するには、複数枚のフォトマスクが用いられるが、この場合には、高い精度での重ね合わせが必要になる。また、レイアウトを2つ(若しくは2つ以上)のフォトマスクに分割して露光を行う新技術であるダブルパターニングでは、さらに高い精度での重ね合わせが求められている。
【0010】
しかし、フォトマスクブランクの状態で既に、基板上に形成された薄膜に応力が生じている場合には、パターン形成のためのレジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離の各工程中に膜応力が部分的に開放され、最終的に得られるフォトマスクそのものに「歪み」を生じさせる。このような歪みがあると、フォトマスクの重ね合わせ精度は低下し不良の原因となる。
【0011】
このような「歪み」のレベルは、形成されるパターンと膜応力の大きさとに依存し、これをフォトマスクの製造プロセス中に制御することは極めて困難である。
【0012】
もっとも、各薄膜の応力が概ねゼロとなるような条件で薄膜形成すればこのような問題が生じることはないが、光学膜としての薄膜が備えるべき諸特性を確保するための成膜条件が、同時に、低応力の薄膜を形成するための条件でもあるという製造プロセス条件を見出すことは極めて難しく、事実上不可能である。このため、薄膜の諸特性が確保可能な条件で成膜する工程と、薄膜の低応力化を図る工程とを、独立した別の工程とする必要がある。
【0013】
一般に、フォトマスクブランクにおいては、位相シフト膜等の薄膜はスパッタリング法により成膜されるが、その成膜プロセスの過程で膜中に応力が生じ、この応力によって基板そのものが歪み、フォトマスクブランクには反りが発生する。この問題の解決方法として、位相シフト膜等の光吸収性の薄膜に閃光ランプからの光を所定のエネルギ密度で照射して膜応力を制御し、これによりフォトマスクブランクの反りを低減するという技術が開示されている(特許文献4)。
【0014】
閃光がハーフトーン位相シフト膜などの光吸収性の膜に照射されると、その照射光の吸収や急激な温度変化等によって、膜組成や原子の結合状態等が変化し、光学特性が変化するとともに応力緩和が生じると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
薄膜の応力緩和のための外部からのエネルギ付与手段としては、ホットプレート、ヒータ、ハロゲンランプ、赤外ランプ、ファーネス、等も考えられるが、これらの手法によると、エネルギ付与による基板温度の上昇によって基板自体に損傷を与えたり、処理時間が長くなってしまうために生産性が低下したりという問題が生じるため、特許文献4にあるような閃光ランプによる光照射が優れている。
【0017】
ところが、閃光ランプを用いて光照射を行うと、応力は改善されるものの、閃光ランプ照射装置の構造および照射される基板の形状により、基板上に形成した光学膜の外周領域と中央領域の光の吸収量に差が生じ、光学膜の光学特性が面内でばらつくという問題があった。これを改善したものが特許文献5に開示されている技術である。
【0018】
しかし、2011年のITRSのリソグラフィに関するロードマップによれば、光学膜特性の面内均一性をより高いものとすることが求められている。
【0019】
本発明は、このような要求に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、フォトマスクの製造に用いられるブランク(フォトマスクブランク)に形成される光学膜、特にハーフトーン位相シフト膜の面内での光学的特性の均一性を、更に高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の課題を解決するために、本発明に係るフォトマスクブランクの製造方法は、露光光に対して透明な石英基板に光学膜を形成する第1のステップと、前記光学膜に閃光ランプ光を照射する第2のステップとを備え、前記光学膜への閃光ランプ光の照射は、該閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域が形成された石英板を介してなされる、ことを特徴とする。
【0021】
例えば、前記石英板はその表面に遮光性膜を有し、該遮光性膜の厚みは前記透過率が異なる領域に対応して異なる。
【0022】
この場合、前記第2のステップは、第2の石英板の全面に遮光性膜を成膜した後に、該第2の石英板に平面内強度分布を有する閃光光を照射し、該閃光光の照射強度に応じた前記遮光性膜の昇華により透明な石英板上に付着させることにより、該透明な石英板上に前記透過率が異なる領域に対応して厚みが異なる前記遮光性膜を前記石英板上に形成するサブステップを備えている態様としてもよい。
【0023】
なお、石英板の形成後は、これを用いて、前記光学膜に閃光ランプ光を照射するため、このサブステップは不要である。
【0024】
また、前記石英板は、遮光性膜を成膜した基板に、閃光光を照射し、前記遮光性膜の昇華により、透明な石英板上に遮光性膜を付着させたものである態様としてもよい。
【0025】
また、例えば、前記石英板は、前記透過率が異なる領域に対応してその表面の粗さが異なる。
【0026】
前記閃光ランプ光照射後の前記光学膜の上に1以上の膜を積層する第3のステップをさらに備えている態様とすることもできる。
【0027】
さらに、前記1以上の膜は、前記光学膜とは別の他の光学膜、機能性膜から選ばれたものである。
【0028】
前記光学膜は、例えば、ハーフトーン位相シフト膜である。
【0029】
前記他の光学膜は、例えば、遮光性膜、反射防止膜である。
【0030】
前記機能性膜は、例えば、エッチングストッパ膜、エッチングマスク膜である。
【0031】
なお、前記機能性膜は、光学膜としての特性を有してもよく、その場合は、同じ特性を持つ光学膜との兼ね合いによりその特性を調整する必要がある。
【0032】
本発明に係るフォトマスクブランクは、上述の方法で製造される。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、フォトマスクの製造に用いられるフォトマスクブランクを構成する光学膜の光学特性の面内均一性をより高いものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0036】
図1は、本発明で用いられる閃光光照射装置100の構成例を説明するための概略図である。
【0037】
チャンバ50内には、光学膜20が主面に形成された石英基板10が、サセプタ30上に載置されている。このサセプタ30は、下方に設けられたヒータ40により加熱可能である。
【0038】
ランプハウス90内には、例えばキセノンランプなどの閃光ランプ60が収められており、この図に示した例では、2枚の石英板70a、70bを通して閃光光が光学膜20へと照射される。2枚の石英板70a、70bのうち、石英板70bの表面には、閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域(透過率調整領域)80が形成されている。なお、ランプハウス90内は密閉されており、周囲からの汚染を防止している。
【0039】
また、チャンバ50内は、露光光に対して透明な石英基板10に形成された光学膜20に閃光照射処理をする際の雰囲気を最適なものとされる。例えば、大気圧下、窒素雰囲気下、窒素に酸素を制御して加えた雰囲気下、あるいは真空雰囲気下などとされる。
【0040】
チャンバ50内が大気圧下や窒素に酸素を制御して加えた雰囲気下にある場合、閃光照射処理時に光学膜20の表面が酸化され、その結果、光学膜20の薬品の耐性が向上する。
【0041】
一方、チャンバ50内が窒素雰囲気下や真空雰囲気下にある場合には、閃光照射処理時に光学膜20の表面が酸化されることがなく、その結果、光学膜20の光学特性を制御し易くなる。
【0042】
無欠陥のフォトマスクブランクの製造の観点からは、チャンバ50内が真空雰囲気下にあることが好適である。これは、チャンバ50内が真空雰囲気下にあると、チャンバ50内での気体膨張による衝撃が発生せず、チャンバ内50での、パーティクルの発生や堆積したパーティクルの舞い上がりの心配がないためである。
【0043】
本発明では、このような構成の閃光光照射装置100を用いて、光学膜20に閃光照射を行うが、光学膜20への閃光ランプ光の照射が、閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域80が形成された石英板70bを介してなされるため、光学膜20に照射される光量は、面内で分布を有することになる。
【0044】
光学膜20に閃光光を照射すると、その光学膜20の光学特性は受けた照射エネルギに依存して変化するから、成膜後の光学膜が面内で均一ではなく分布をもつ場合に、これを打ち消すような照射エネルギ分布をもたせた閃光を光学膜に照射すれば、光学膜の特性の面内均一性を高めることができる。
【0045】
図2は、閃光照射することにより、光学膜20の光学特性の面内均一化が図られることを概念的に説明するための図である。
【0046】
図2(A)は、光学膜20の成膜後の光学特性(ここでは、露光光に対する位相シフト量)の分布の様子を概念的に示したもので、光学膜を成膜した後の測定値をマッピングしたもので、左上から右下に向かって位相シフト量が小さくなっている。
【0047】
閃光光を照射すると位相シフト量が高まる場合、上記光学特性の分布を面内で均一にするには、左上から右下に向かって照射量が大きくなるような条件で閃光を照射してやればよい。
【0048】
図2(B)は、そのような条件とした場合の、光学膜20上での閃光照射量の分布の様子を概念的に示したもので、左上から右下に向かって照射量が大きくなっている。
【0049】
図2(C)は、上記条件で、光学膜20に閃光照射した後の光学特性(位相シフト量)の面内分布の様子を概念的に示したもので、上記条件下での閃光照射により、光学特性の均一性が実現されている。なお、この閃光照射により、光学膜20内の応力も緩和されている。
【0050】
本発明はこのようなメカニズムにより、光学膜20内の応力を緩和するとともに、光学特性の均一性を高めるものである。
【0051】
つまり、本発明のフォトマスクブランクの製造方法は、露光光に対して透明な石英基板10に形成された光学膜20に閃光ランプ光を照射する際に、閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域80が形成された石英板70bを用いる。光学膜20に照射される閃光は、石英板70bに形成された透過率が異なる領域80に対応する面内強度分布を有するため、光学膜20が有する光学特性が面内で均一化される。
【0052】
一方、成膜後の光学膜の光学特性が均一であっても、当該光学膜の応力緩和のための閃光が、光学膜に対して、実質的に均一なエネルギ強度で照射されない場合には、閃光照射後の光学膜の面内均一性は悪化してしまう。
【0053】
図3は、
図1で示した閃光ランプ光の照射系において、透過率が異なる領域80を形成していない石英板70cを用いる場合の閃光光照射装置の構成例を示す図である。
【0054】
石英板70aと70cは何れも、全面透明(透過率均一)であるから、光学膜20に照射される光量は、照射面内で均一となる。
【0055】
しかし、このような閃光照射を行うと、かえって、光学膜20の特性の面内均一性を悪化させることがある。
【0056】
サセプタ30には凹部が設けられており、石英基板10はこの凹部内に収容される。
【0057】
図4は、主面に光学膜20が形成された基板10が、合成石英ガラス等の材質から成るサセプタ30上に載置された状態の基板10の外周縁部の様子を説明するための図である。この基板10は、露光に用いられる光に対して透明な基板(透明基板)であって、閃光光の到達波長領域200nm〜1100nmに対しても透明である。その形状は角型であって、石英(例えば、合成石英ガラス)からなり、端部はクラック防止等の理由から面取り部11を設けている。なお、基板10は、フッ化カルシウム等の材質からなるものであってもよい。
【0058】
この図に示した例では、光学膜20は、基板外端部から距離aだけ内側の領域の全面に形成されている。また、基板10の面取り部11は、外端部から内側に、幅bが0.2mm〜1mm程度で形成されている。
【0059】
光学膜20は、閃光光の到達波長領域200nm〜1100nmに対して半透明であり、フォトマスクとした場合、光学膜20の透過率は、露光光に対し5〜15%であるものが適当であり、より好ましくは5〜10%である。
【0060】
露光光に対する透過率が15%より高いと、閃光光により光学膜20の応力を緩和するために必要な閃光光の照射エネルギが大きくなり、工程が複雑なものとなる。一方、露光光に対する透過率が5%よりも低い場合には、光学膜20が閃光光を過剰に吸収してしまい、膜そのものの破壊に至るおそれがある。
【0061】
この光学膜20は、フォトマスクを構成する膜であって、例えばハーフトーン位相シフト膜である。ハーフトーン位相シフト膜には、アモルファスシリコン膜や、酸素、窒素、炭素等を含有する金属化合物膜等があるが、特に、ケイ素とケイ素以外の金属と、酸素、窒素及び炭素から選ばれる1種又は2種以上とを含有する層を単層又は多層で構成するハーフトーン位相シフト膜はその光学特性制御性に優れる。
【0062】
図5は、上述のサセプタ30に設けられた凹部に収容された状態の石英基板10の外周縁部の様子を説明するための図である。
【0063】
図5に示すように閃光光(hν)が面取り部11から入射してくると、この光は石英基板10の裏面で反射し、基板表面に到達する。このような反射光の基板表面への到達位置は石英基板10の厚みにも依存するが、本発明者らの実験では、6インチ四方の基板で厚さが0.25インチの場合、基板端部から概ね16.5mm程度内側の位置に対応する。このような位置には、光学膜20が形成されているから、当該位置に形成されている光学膜は裏面から過剰な光照射を受けることとなる。
【0064】
図5に示すように、サセプタ30の壁面の深さは、基板10の主面とサセプタ30の上面が同じ高さの位置になるように配されている。サセプタ30の壁面をこれより高くすればチャンバ内で斜めから基板の面取り部に入射してくる光(hν)を防止することができるが、光学膜20の外周に対して直接入射する閃光光をも遮蔽するため、照射後の光学特性分布は十分ではない。
【0065】
図6は、光学膜の過剰な照射を受ける領域を説明するための図で、図中の点線が、過剰な閃光照射を受ける領域に対応し、基板10端部近傍領域の照射量が大きくなっている、特に、破線の交点に当たる4隅での照射量は過大なものとなる。
【0066】
図7は、このような場合に、
図1に示した石英板70bに形成される、透過率が異なる領域(透過率調整領域)80を例示により説明する図である。
【0067】
石英板70bの表面には透過率の異なる領域80が形成されており、この領域80は閃光光の透過率を低下させるため、石英板70bを透過する閃光光の照射エネルギは、光学膜20の外端部領域で低くなる。
【0068】
このような照射強度分布の閃光を光学膜に照射することで、実質的に均一な強度の閃光を、光学膜20に照射することができる。
【0069】
閃光の適正な照射光量は、光学膜20の膜組成に依存する。例えば、光学膜20がモリブデンシリサイド系の位相シフト膜である場合、このハーフトーン位相シフト膜がどの露光光用のフォトマスクとして用いられるかによってその組成は異なる。
【0070】
一般に、露光光には、KrFレーザ光、ArFレーザ光、F
2レーザ光が用いられるが、ハーフトーン位相シフト膜に求められる透過率は、200nm〜1100nmの波長範囲において、KrF用、ArF用、F
2用の順に高くなる。そして、ハーフトーン位相シフト膜の膜質によって光の吸収効率が異なるため、閃光照射のエネルギも、KrF用、ArF用、F
2用の順に高くする必要がある。
【0071】
具体的には、KrFレーザの波長(248nm)の光に対して5〜7%の透過率を有する位相シフト膜に対しては、閃光照射エネルギは、カロリーメータの測定値で21.5J/cm
2以下の所定量とされる。
【0072】
また、ArFレーザの波長(193nm)の光に対して5〜7%の透過率を有する位相シフト膜に対しては、閃光照射エネルギは、32.5J/cm
2以下の所定量とされる。
【0073】
さらに、F
2レーザの波長(157nm)の光に対して5〜7%の透過率を有する位相シフト膜に対しては、閃光照射エネルギは、41.5J/cm
2以下の所定量とされる。
【0074】
適正量を超える閃光照射を行ったハーフトーン位相シフト膜をノマルスキ顕微鏡で観察すると、
図6に示した破線の交点近傍で、膜の破壊が確認されるため好ましくない。
図7に示した例では、このような過剰照射部が生じないように、透過率が異なる領域(透過率調整領域)80を形成している。
【0075】
なお、閃光光の照射エネルギを適切に調整することで、光学膜の応力緩和と光学特性の面内均一性の両者を、同時に実現することができる。
【0076】
上述したような、閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域(透過率調整領域)80が形成された石英板70bは、透明な石英板の表面に、上記透過率調整領域に対応する部分に遮光性膜を適当な厚みで形成するなどの手法で作製し得る。つまり、透明な石英板の表面に遮光性膜を形成し、この遮光性膜の厚みを、上述の透過率が異なる領域に対応して異ならせるようにする。
【0077】
例えば、
図3に示した閃光光照射系において、予め石英基板10に遮光性膜20を形成しておき、この遮光性膜20に閃光光を照射すると、上述したように、石英基板10の面取り部11から入射した閃光光が石英基板10の裏面で反射し、基板表面に到達し、当該位置に形成されている光学膜20は裏面から過剰な光照射を受けることとなる。そこで、この現象を利用して、過剰な光照射のエネルギで遮光性膜20を部分的に昇華させ、これをガラス板70cに付着させる。
【0078】
その際、昇華した遮光性膜成分が石英板70cの表面に適量付着するように、遮光性膜20の膜厚および閃光光の照射強度を調整する。石英基板10に形成された遮光性膜20の膜厚が厚いほど遮光性膜20の昇華量は多くなり、石英板70cに付着する遮光性膜成分の量は増え、透過率調整領域80の遮光度が高くなる。
【0079】
同様に、閃光光の照射エネルギを高く設定すると、遮光性膜20の昇華量は多くなり、石英板70cに付着する遮光性膜成分の量は増え、透過率調整領域80の遮光度が高くなる。
【0080】
つまり、石英板(石英基板)の全面に遮光性膜を成膜した後に、この石英板に平面内強度分布を有する閃光光を照射し、該閃光光の照射強度に応じた遮光性膜の昇華により石英板上に付着させ、この石英板上に透過率が異なる領域に対応して厚みが異なる遮光性膜を形成するのである。
【0081】
ここで、石英板70cに付着させる遮光性膜成分、すなわち、石英基板10に形成される遮光性膜20は、フォトマスクブランクに使用される光学膜、特に、応力緩和のための閃光照射処理が施される光学膜であることが好ましい。
【0082】
その理由は、上記遮光性膜20が、フォトマスクブランクに使用する光学膜であれば、光学膜の応力緩和および光学特性均一化のための閃光照射を行う際の、コンタミネーションを生じさせる心配がないためである。
【0083】
また、閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域(透過率調整領域)80が形成された石英板70bは、透明な石英板の表面に、上記透過率調整領域に対応する部分の表面を粗くするなどの手法でも作製し得る。つまり、透明な石英板の表面の粗さを、サンドブラスト等の手法により、上述の透過率が異なる領域に対応して異ならせるようにする。このような手法であれば、上述のコンタミネーションの影響を心配する必要がない。
【0084】
なお、光学膜の光学特性の面内均一化を図ることと、光学膜の過剰な照射を受ける領域を緩和することを同時に行なう場合は、それぞれの効果が得られる閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域を重ね合わせた石英板を用いればよい。
【0085】
光学膜20は、透明基板10の主面の全面に形成されている必要はない。例えば、光学膜20の端面が機械的な取り扱いを受ける際の剥落を防止するため、
図4に示したように、基板外端部から距離aまでは成膜されていなくてもよい。
【0086】
光学膜20は、例えば、ハーフトーン位相シフト膜である。ハーフトーン位相シフト膜を、ケイ素とケイ素以外の金属と、酸素、窒素及び炭素から選ばれる1種又は2種以上とを含有する層を単層又は多層で含む膜とする場合、上記ケイ素以外の金属としては、W、Mo、Ti、Ta、Zr、Hf、Nb、V、Co、Cr或いはNi等を例示することができる。特に、閃光光照射後の反りの低減や耐薬品性向上という観点から、Moを含むもの、あるいはMoを主成分としたものが好ましい。
【0087】
Moを含むハーフトーン位相シフト膜としては、モリブデンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド炭化物(MoSiC)、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)、モリブデンシリサイド酸化炭化物(MoSiOC)又はモリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiONC)などがある。このようなモリブデンシリサイド系の位相シフト膜は、ターゲットとしてMoSi等を用いた反応性スパッタリング法により成膜することができる。
【0088】
また、成分の異なる2種以上のMoSiターゲットを同時にスパッタすることにより、組成の異なるハーフトーン位相シフト膜を複数層積層させるようにしてもよい。このような複数層の積層により、光学特性の制御性を向上させることができる。
【0089】
成分の異なるターゲットとしては、例えば、MoターゲットとSiターゲットの組み合わせがある。2種以上のターゲットを用いる場合、必要に応じてこれらのターゲット面積比を変え、積層する各層毎にそれぞれのターゲット電力を調整し、かつ反応性ガスを適宜調整することにより、組成の異なる複数層からなるハーフトーン位相シフト膜を得ることができる。
【0090】
なお、ハーフトーン位相シフト膜以外の他の光学膜についても、上記と同様の手法で成膜することができることはいうまでもない。
【0091】
光学膜の応力緩和および光学特性均一化のための閃光照射のエネルギ(照射強度)は、成膜後の光学膜20の光学特性の面内均一性の程度により、適宜、調整される。成膜後の光学膜20の光学特性の面内分布が認められる場合には、これを打ち消すような照射強度分布の閃光光を照射し、照射後の光学膜20の特性の面内分布を小さくする。
【0092】
一方、成膜後の光学膜20の光学特性の面内均一性が十分に高い場合には、概ね均一な照射強度分布の閃光光を照射すればよい。
【0093】
なお、必要に応じ、上述の閃光ランプ光照射後の光学膜20の上に、これとは別の光学膜(他の光学膜)(遮光膜、反射防止膜、位相シフト膜など)や、機能性膜(エッチングストッパ膜、エッチングマスク膜など)を積層してフォトマスクブランクが製造される。
【0094】
これらの膜は、用途に応じて組み合わせることが可能である。また、機能性膜は、光学膜の機能を併せ持ってもよい。
【0095】
このような方法で、本発明に係るフォトマスクブランクが得られる。
【実施例】
【0096】
先ず、
図3に示した閃光光照射系において、一辺が6インチ、厚みが0.25インチの角型の石英基板10の主面上に、光学膜20として、フォトマスクブランクにおいて遮光膜の機能を有するクロム窒化酸化物膜を厚さ50nmで成膜する。
【0097】
次いで、石英基板10上に成膜したクロム窒化酸化物膜20に、閃光ランプ60からの閃光光を照射した。このときの照射エネルギは25.0J/cm
2である。
【0098】
この閃光照射により、クロム窒化酸化物膜20の一部が昇華し、透明な石英板70cに付着した。これを上述の石英板70bとして用いる。
【0099】
一辺が6インチ、厚みが0.25インチの角型の石英基板10の主面上に、光学膜であるMoSiONからなるハーフトーン型位相シフト膜20を、反応性DCスパッタリングで膜厚760Åとなるまで成膜し、フォトマスクブランク中間体を形成した。なお、このハーフトーン位相シフト膜20は、ArFエキシマレーザ(193nm)の露光光に対する位相差が約180°で、且つ、透過率は約5%であり、閃光光照射前の面内分布は十分に低いものであった。
【0100】
図1に示した閃光光照射装置100を用い、上述のハーフトーン位相シフト膜20を形成した基板10をサセプタ30に載置して80℃に加熱し、この状態で、石英板70aおよび70bを介して、キセノン閃光ランプ光を照射した。
【0101】
なお、比較のため、石英板70aおよび70cを介してキセノン閃光ランプ光を照射する以外の条件を同じとした試料も作製した。
【0102】
図8は、キセノン閃光ランプからの閃光光を照射処理されたハーフトーン位相シフト膜の透過率と基板中心からの距離(対角線方向)との関係を調べた結果を纏めたグラフである。
【0103】
この図には、不透明領域が形成されて閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域を有する石英板70bを用いた場合の結果(実施例)と、閃光ランプ光に対する透過率が均一(全面が透明)な石英板70cを用いた場合の結果(比較例)を示してある。
【0104】
本発明で採用する石英板、すなわち、閃光ランプ光に対する透過率が異なる領域を有する石英板70bを用いた場合は、基板面内での、閃光光照射処理後のハーフトーン位相シフト膜の透過率の最大値と最小値の差は僅かに0.02%であり、面内での高い均一性を示す。
【0105】
これに対して、閃光ランプ光に対する透過率が均一(全面が透明)な石英板70cを用いた場合の透過率の最大値と最小値の差は0.05%であり、実施例の値の2.5倍となっている。
【0106】
つまり、本発明によれば、閃光光照射による光学膜の応力緩和のみならず、光学特性の高い面内均一性も同時に実現される。