(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
タルクを液晶性樹脂に含有させて液晶性樹脂組成物を得ることについては、従来から種々の試みがなされている。しかし、液晶性樹脂のように、高耐熱性、高寸法精度を特徴とする樹脂においては、高温度下において種々の問題があった。すなわち、液晶性樹脂にタルクを含有させた液晶性樹脂組成物を成形する場合、当該液晶性樹脂を加熱溶融して成形することとなるが、液晶性樹脂の溶融温度は他の樹脂に比べ非常に高温となる。そして、そのような高温に起因して特異な現象が発現する。例えば、タルク中の不純物金属、あるいは場合によりタルクそれ自身による触媒的作用による液晶性樹脂の熱分解、加水分解などの反応である。これに起因し、タルクを含有させた液晶性樹脂組成物は、従来においては、機械的特性、および耐熱性が充分ではなかった。
【0003】
上記のような問題を解決する液晶性樹脂組成物として、種々提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。特許文献1には、所定の共重合ポリエステル100重量部に対し、Fe
2O
3及びAl
2O
3の合計含有量が1重量%未満かつ平均粒子径が2.5〜3.5μmであるタルク5〜200重量部を含有する耐熱性樹脂組成物が記載されている。
また、特許文献2には、35%乃至65%の芳香族ポリエステル、1%乃至60%の、高められた温度で分解し得る材料を最小の含有率でしか含有しないタルクを含有してなる組成物が記載されている。
しかしながら、いずれの場合も、成形加工性及び耐熱性は十分なレベルには達しておらず、成形加工性及び耐熱性がさらに良好な液晶性樹脂組成物が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液晶性樹脂組成物は、液晶性樹脂100質量部に対してタルクを5〜200質量部含有してなる液晶性樹脂組成物であって、前記タルクの全固形分量に対して、Fe
2O
3、Al
2O
3及びCaOの合計含有量が2.5質量%以下であり、Fe
2O
3及びAl
2O
3の合計含有量が1.0質量%超2.0質量%以下であり、かつCaOの含有量が0.5質量%未満であることを特徴としている。
以下に各成分について詳述する。
【0010】
[液晶性樹脂]
本発明において使用する液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性樹脂は直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0011】
上記のような液晶性樹脂の種類としては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0012】
本発明に適用できる液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0013】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0014】
本発明に適用できる液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0015】
【化1】
(X:アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO
2−、−S−、−CO−より選ばれる基である)
【0017】
【化3】
(Y:−(CH
2)
n−(n=1〜4)、−O(CH
2)
nO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0018】
本発明に用いられる液晶性樹脂の合成は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができるが、通常は溶融重合法やスラリー重合法等が用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、又、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF
3の如きルイス酸塩等があげられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001〜1質量%、特に約0.01〜0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーはさらに必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0019】
上記のような方法で得られた液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec
−1で10Pa・s以上600Pa・s以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0020】
[タルク]
本発明に使用するタルクとしては、当該タルクの全固形分量に対して、Fe
2O
3、Al
2O
3及びCaOの合計含有量が2.5質量%以下であり、Fe
2O
3及びAl
2O
3の合計含有量が1.0質量%超2.0質量%以下であり、かつCaOの含有量が0.5質量%未満であるものを用いる。すなわち、本発明に使用するタルクは、その主成分たるSiO
2及びMgOの他、Fe
2O
3、Al
2O
3及びCaOのうちの少なくとも1種を含有し、各成分が上記の含有量範囲で含有するものである。
【0021】
前記タルクにおいて、Fe
2O
3、Al
2O
3及びCaOの合計含有量が2.5質量%を超えると、成形加工性及び耐熱性が悪化する。Fe
2O
3、Al
2O
3及びCaOの合計含有量は、1.0質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
また、前記タルクにおいて、Fe
2O
3及びAl
2O
3の合計含有量が1.0質量%以下のタルクは入手が困難であり、2.0質量%を超えると、成形加工性及び耐熱性が悪化する。Fe
2O
3及びAl
2O
3の合計含有量は、1.0質量%以上1.7質量%以下が好ましい。
さらに、前記タルクにおいて、CaOの含有量が0.5質量%以上であると、成形加工性及び耐熱性が悪化する。CaOの含有量は、0.01質量%以上0.4質量%以下が好ましい。
【0022】
本発明において、前記タルクの、レーザー回折法で測定した粒子径(D50%)は、そり変形の防止及び流動性の維持という観点から、4.0〜20.0μmであることが好ましく、10〜18μmであることがより好ましい。
【0023】
一方、本発明において、前記タルクは、液晶性樹脂100質量部に対して、5〜200質量部含有する。当該含有量が5質量部未満であると、そり変形防止効果が少なく、200質量部を超えると、流動性が悪化する。当該含有量は5〜100質量部であることが好ましく、10〜40質量部であることがより好ましい。
【0024】
上記タルクとしては松村産業製クラウンタルクPP及び日本タルク製MS−K等の市販品を使用することができる。
【0025】
[他の成分]
本発明においては、タルク以外の無機充填剤を配合してもよい。例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維、カーボン繊維、軽質炭酸カルシウム、重質ないし微粉化炭酸カルシウム、特殊カルシウム系充填材等の炭酸カルシウム、霞石、閃長石微粉末、モンモリロナイト、ベントナイト等の焼成クレー、シラン改質クレー等のクレー(珪酸アルミニウム粉末)、溶融シリカ、合成シリカ、結晶シリカ等のシリカ(二酸化珪素)粉末、珪藻土、珪砂等の珪酸含有化合物、軽石粉、軽石バルーン、スレート粉、雲母粉等の天然鉱物の粉砕品、アルミナ、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナ・ホワイト、硫酸アルミニウム等のアルミナ含有化合物、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、グラファイト(黒鉛)等の鉱物、ガラスビーズ、ガラス中空体、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズ等のガラス系フィラー、フライアッシュ球、火山ガラス中空体、合成無機中空体、単結晶チタン酸カリウム、カーボンナノチューブ、炭素中空球、炭素64フラーレン、無煙炭粉末、人造氷晶石(クリオライト)、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性マグネシウム、ドロマイト、チタン酸カリウム、亜硫酸カルシウム、マイカ、アスベスト、珪酸カルシウム、アルモニウム粉、硫化モリブデン等が挙げられる。
これら無機充填剤は、単独で用いても、2種以上を併用して配合してもよい。
【0026】
本発明の液晶性樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本発明の液晶性樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで成形品を得ることができる。
ペレット化する際の溶融温度としては、250〜400℃とすることが好ましく、300〜380℃とすることがより好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
液晶性樹脂(LCP;ポリプラスチックス(株)製、ベクトラ(登録商標)LCP E950i)100質量部と、ガラス繊維(日本電気硝子(株)製ECS04T−790DE(平均繊維径6μm、長さ3mmのチョップドストランドファイバー)27質量部と、タルク55質量部と、離型剤(ペンタエリスリトールテトラベヘネート、日本油脂(株)製、ニッサンエレクトールWEP-5)0.55質量部とを二軸押出機((株)日本製鋼製TEX−30α)を用いて溶融混練し、ペレット化した。なお、各実施例・比較例において、タルクは表1に記載の組成のものを用いた。表1において、「Fe+Al+Ca」及び「Fe+Al」は、それぞれ、タルクの全固形分量に対するFe
2O
3、Al
2O
3及びCaOの合計含有量、Fe
2O
3及びAl
2O
3の合計含有量を示す。また、タルクにおける各含有成分の含有率はJIS M 8851に則って分析して得た値であり、粒子径はレーザー回折法により測定して得た値である。
【0029】
得られた樹脂組成物(ペレット)について、以下の評価試験を行った。
(1)溶融粘度
上記ペレットを、キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製作所製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)を用いて、シリンダー温度が融点+20℃、せん断速度が1000sec
−1の条件で、ISO 11443に準拠して、見かけの溶融粘度を測定した。なお、測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。測定結果を表1に示す。
(2)ブリスター試験
上記ペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE100DU)を用いて、成形サイクルが20秒となるような条件で、1/32燃焼試験片(ウェルドあり)に成形した。得られた試験片を指定温度のホットプレスに5分間挟んだ後、表面を観察した。表面に膨れが出ない最大温度をBFT(Blister Free Temp)として探索した。なお、ウェルド部で割ったものを1検体とし、上記指定温度は250〜300℃の範囲において10℃刻みで設定し、測定を実施した。測定結果を表1に示す。
(3)計量時間
上記ペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE30DUZ、スクリュー径φ:18mm、計量ストローク長:55mm)を用いて、スクリュー回転数が150rpmの条件で成形し、各20ショットの計量時間を測定し平均値を得た。得られた数値を表1に示す。なお、計量時間が短いものは成形加工性が良好と判断される。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、実施例1〜6においては、いずれもブリスター試験の結果が270℃以上であることから耐熱性に優れ、また計量時間は最も長いものでも21秒強であることから成形加工性に優れることが分かる。これに対して、比較例1〜5においては、ブリスター試験の結果が比較例3を除き260℃と低く、また計量時間はいずれも22秒を超えており、成形加工性及び耐熱性を同時に良好な結果とすることができなかった。