【実施例】
【0048】
以下、本発明の炭素繊維束の製造方法について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
まず、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:「JER828」)40質量部と、固状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:「JER1001」)40質量部と、プルロニック型界面活性剤((株)ADEKA製、商品名:「アデカプルロニックF−88」)20質量部とを混合し、サイジング剤を調製した。その後、このサイジング剤を水で希釈して固形分40質量%のサイジング剤の水分散液を調製した後、さらに希釈して固形分5.5質量%の水分散液とし、以降、これをサイジング剤液として用いた。
【0050】
サイジング剤付与前の炭素繊維束(三菱レイヨン(株)製、商品名:「パイロフィルTR 50S」、フィラメント数15000本、総繊度1000tex、繊維径7μm)30本を、各炭素繊維束間の距離が6mmとなるように並列状態に配置し、シート状にした。上記のサイジング剤液を
図1に示す浸漬槽3内に投入した後、このサイジング剤液にシート状の炭素繊維束1を浸漬し、速度10m/分、炭素繊維束への付与張力を2.5cN/texの条件で、サイジング剤液を炭素繊維束に含浸させた。
【0051】
浸漬槽3内のサイジング剤液に浸漬され、2本の浸漬ローラー2を経て、サイジング剤液含浸炭素繊維束をガイドローラー5により引き上げる糸道とした。炭素繊維束がサイジング剤液の液面を出てから、ガイドローラー5に至るまでに走行する走行路の距離(以下、「引き上げ距離」と表記する場合もある)は、50cmとした。さらに、浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出る位置(炭素繊維束の走行路における液面から0cmの位置)に、加圧エアーが噴射されるように噴射ノズル4を配した。以下、噴射した加圧エアーが炭素繊維束に接触する位置、即ち加圧エアーと炭素繊維束の衝突部の位置を「除去操作実施位置」と表記することがある。加圧エアーの除去操作実施位置での流速は5.0m/秒とした。なお、噴射ノズル4と炭素繊維束との距離は5cmとした。
ガイドローラー5を経たあとの炭素繊維束は、1対のニップロール6に挟持し、水切り処理を行い、140℃に加熱した加熱ローラー7に90秒間接触させる事により乾燥し、サイジング剤の付着した炭素繊維束を得た。なお、乾燥処理後の炭素繊維束はボビンに巻き取った。
【0052】
上記の炭素繊維束の処理は2時間連続で行い、隣り合うサイジング剤液含浸炭素繊維束間でのサイジング剤液の膜の形成の有無を目視で観察した。加圧エアーの噴射を開始してからは、サイジング剤液の膜は形成されなかった。したがって、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置やガイドローラー5にまで、液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅を以下の方法により測定した。その結果を表1の実施例1に示す。
【0053】
(サイジング剤の付着した炭素繊維束の糸幅測定)
CCDカメラ((株)キーエンス製、商品名:CV−020(35万画素1/3型白黒、正方格子CCDカメラ)とコントローラー((株)キーエンス製、商品名:CV−2000)とを使用して、サイジング剤が付着した炭素繊維束の糸幅を測定した。撮像は、視野範囲を最大150mm、電子シャッタースピードを1/100秒とし、コントローラーのエッジ幅測定モードを使用し、あらかじめ寸法測定済の試験片にてキャリブレーションを実施した上でサイジング剤が付着した炭素繊維束の糸幅を測定した。
【0054】
具体的には、測定対象、即ち乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束を、フリーローラー(アルミ合金製、直径200mm)との距離2mの位置から、張力を約2.0cN/texとして供給し、フリーローラーに抱角約30度以上で押当て、この炭素繊維束を約10m/minの速度で走行させた。糸幅測定は上記フリーロール上炭素繊維束の抱角ほぼ中央付近の糸幅を撮像した。約40mm間隔で測定し、3500回以上連続測定した。測定は、得られた炭素繊維束(ボビンに巻き取ったもの)すべてについて行い、その測定結果はCV−2000に接続されたコンピューター内の数式ソフトに取り込み、変動係数CV(%)を算出して、サイジング剤が付着した炭素繊維束の糸幅測定結果として、表1の実施例1に記載した。なお、CV値(%)が小さいほど、炭素繊維束の糸幅が均一であることを意味する。
【0055】
(実施例2)
噴射ノズル4の炭素繊維束の走行路における除去操作実施位置を、炭素繊維束が浸漬槽3内のサイジング剤液の液面を出た位置から3cmの位置とした以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後には、サイジング剤液の膜が形成されたが、加圧エアーの衝突部(除去操作実施位置)ではすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置やガイドローラー5にまで、液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例2に示す。
【0056】
(実施例3)
噴射ノズル4の炭素繊維束の走行路における除去操作実施位置を、炭素繊維束が浸漬槽3内のサイジング剤液の液面を出た位置から20cmの位置とした以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から、炭素繊維束が出た直後には、サイジング剤液の膜が形成されたが、加圧エアーの衝突部ではすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置やガイドローラー5にまで、液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例3に示す。
【0057】
(実施例4)
炭素繊維束への付与張力を、1.2cN/texとした以外は、実施例2と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後に形成されるサイジング剤液の膜の形成頻度は実施例2と比較すると多かったものの、加圧エアーの衝突部ではすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置やガイドローラー5にまで、液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例4に示す。
【0058】
(実施例5)
炭素繊維束への付与張力を、5.0cN/texとした以外は、実施例2と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後の、サイジング剤液の膜の形成頻度は実施例2と比較すると少なかったものの、ゼロになることはなかった。サイジング剤液の膜は、加圧エアーの衝突部ではすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置やガイドローラー5にまで、液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例5に示す。
【0059】
(実施例6)
炭素繊維束の本数を15本に変更し、炭素繊維束間の隙間が12mmとなるように並列状態に配置し、シート状にした以外は、実施例2と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後の、サイジング剤液の膜の形成頻度は実施例2と比較すると少なかったものの、ゼロになることはなかった。サイジング剤液の膜は、加圧エアーの衝突部ではすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置やガイドローラー5にまで液膜を残したまま、炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例6に示す。
【0060】
(実施例7)
図2(a)および(b)に示すように、浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た位置から5cmの位置の炭素繊維束の間に、炭素繊維束に接触しないように棒状の部材8を配した以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。なお、実施例7では、加圧エアーの噴射は行っていない。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から、炭素繊維束が出た直後には、サイジング剤液の膜が形成されたが、サイジング剤液の膜が棒状の部材8に接触した時点でサイジング剤液の膜はすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置や、ガイドローラー5にまで液膜を残したまま、炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例7に示す。
【0061】
(実施例8)
図3(a)および(b)に示すように、浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た位置から10cmの位置に、炭素繊維束に接触しないように溝付きローラー9を配した以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。なお、実施例8では、加圧エアーの噴射は行っていない。また、この溝付きローラー9は、炭素繊維束の走行方向と逆方向に回転する駆動ローラーとした。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後には、サイジング剤液の膜が形成されたが、サイジング剤液の膜が溝付きローラーの溝頂部9aに接触した時点でサイジング剤液の膜はすべて除去されたために、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置や、ガイドローラー5にまで液膜を残したまま、炭素繊維束が到達することはなかった。また、ガイドローラー5上の炭素繊維束の糸幅は均一であった。また、2時間の連続処理の間、毛羽の発生もなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の実施例8に示す。
【0062】
(比較例1)
炭素繊維束に加圧エアーを噴射しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後から、サイジング剤液の膜が形成され、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置にまで到達する場合や、ガイドローラー5に接触する直前までサイジング剤液の膜が残存する場合もあった。サイジング剤液の膜はガイドローラー5に接触すると同時に消失したが、このような状態でガイドローラー5に接触した炭素繊維束は、ガイドローラー5上で糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して、並行処理した30本の炭素繊維束の糸幅も明らかに不均一であった。2時間の連続処理の間、毛羽の発生はなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の比較例1に示す。
【0063】
(比較例2)
噴射ノズル4の配置を、炭素繊維束が浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から出た位置から40cmの位置とした以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後から、サイジング剤液の膜が形成され、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置にまで到達する場合もあった。サイジング剤液の膜は加圧エアーの衝突部ではすべて除去されたために、ガイドローラー5にまで液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかったが、サイジング剤液の膜により生じた炭素繊維束の糸幅の拡幅は解消されず、ガイドローラー5上では糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して、並行処理した30本の炭素繊維束の糸幅も不均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。2時間の連続処理の間、毛羽の発生はなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の比較例2に示す。
【0064】
(比較例3)
噴射ノズル4およびガイドローラー5を
図4に示すように配置し、炭素繊維束をガイドローラー5で引き上げた後、引き上げ方向とは逆方向の接線方向にガイドローラー5上の炭素繊維束に対して、衝突部での流速を30.0m/秒として、加圧エアーを噴射した以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後から、サイジング剤液の膜が形成され、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置にまで到達する場合もあった。ガイドローラー5にまで液膜を残したままの炭素繊維束が到達することはなかったが、サイジング剤液の膜により生じた炭素繊維束の糸幅の拡幅は解消されず、ガイドローラー5上では糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して、並行処理した30本の炭素繊維束の糸幅も不均一であった。なお、加圧エアーを噴射しても浸漬槽3内のサイジング剤液の液面はわずかに揺れる程度であり、サイジング剤液が飛散して周囲を汚染することはなかった。加圧エアーの噴射を開始してから1時間後には、ガイドローラー5にサイジング剤液の乾燥・固着は見られ、これによる単糸の巻き付きが発生したため、得られた炭素繊維束の品位は低いものであった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の比較例3に示す。
【0065】
(比較例4)
炭素繊維束がサイジング剤液の液面を出てから、ガイドローラー5に至るまでの距離を20cmとした以外は、比較例3と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。加圧エアーの噴射を開始した直後から、浸漬槽3内のサイジング剤液の液面が大きく波立ち、サイジング剤が周囲に飛散したために、実験を中止した。
【0066】
(比較例5)
噴射ノズル4を
図5に示すように配置し、炭素繊維束をガイドローラー5で引き上げた後、ガイドローラー5上の炭素繊維束に対して、加圧エアーを噴射した以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から、炭素繊維束が出た直後から、サイジング剤液の膜が形成され、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置にまで到達する場合や、ガイドローラー5に接触する直前までサイジング剤液の膜が残存する場合もあった。サイジング剤液の膜はガイドローラー5に接触すると消失したが、このような状態でガイドローラー5に接触した炭素繊維束は、加圧エアーが噴射された後もガイドローラー5上で糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して、並行処理した30本の炭素繊維束の糸幅も不均一なものであった。なお、ガイドローラー5にサイジング剤液の乾燥・固着は見られ、これによる単糸の巻き付きが発生したため、得られた炭素繊維束の品位は低いものであった。得られた炭素繊維束の糸幅測定の結果を表1の比較例5に示す。
【0067】
(比較例6)
噴射ノズル4を
図6に示すように配置し、ガイドローラー5を経た後の炭素繊維束に対して、加圧エアーを噴射した以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から、炭素繊維束が出た直後から、サイジング剤液の膜が形成され、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置にまで到達する場合や、ガイドローラー5に接触する直前までサイジング剤液の膜が残存する場合もあった。サイジング液の膜はガイドローラー5に接触すると消失したが、このような状態でガイドローラー5に接触した炭素繊維束は、ガイドローラー5上で糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して、並行処理した30本の炭素繊維束の糸幅も不均一なものであった。なお、2時間の連続処理の間、毛羽の発生はなく、またガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られた炭素繊維束の糸幅測定の結果を表1の比較例6に示す。
【0068】
(比較例7)
炭素繊維束への付与張力を、6.0cN/texとした以外は、比較例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後の、サイジング剤液の膜の形成頻度は比較例1と比較すると少なかったものの、ゼロになることはなく、引き上げ距離の中間地点である液面から25cmの位置にまで到達する場合もあった。ガイドローラー5にまで液膜を残したまま、炭素繊維束が到達することはなかったが、サイジング剤液の膜により生じた炭素繊維束の糸幅の拡幅は解消されず、ガイドローラー5上では糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して30本の炭素繊維束の糸幅も不均一であった。2時間の連続処理の間、炭素繊維束には常に毛羽が発生し、ガイドローラー5や水切りローラー6や乾燥ロール7には単糸の巻き付きが多発したため、得られた炭素繊維束の品位は低いものであった。なお、ガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られた炭素繊維束の糸幅測定の結果を表1の比較例7に示す。
【0069】
(比較例8)
図7に示すように、浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た位置から10cmの位置に、炭素繊維束に接触して回転する平ローラー5aを配した。すなわち、比較例8では、この平ローラー5aと、他の例と同様にサイジング剤液の液面から50cmの位置に設けたガイドローラー5との2つのローラーで炭素繊維束を引き上げる構成とした。このため、比較例8の引き上げ距離は、液面から第1の引き上げローラーである平ローラー5aまでの距離となり、10cmとなる。この平ローラー5aの設置以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を処理し、評価した。なお、比較例8では、加圧エアーの噴射は行っていない。また、この平ローラー5aはフリーローラーとした。浸漬槽3内のサイジング剤液の液面から炭素繊維束が出た直後には、サイジング剤液の膜が形成され、引き上げ距離の中間地点である液面から5cmの位置にまで到達する場合や、ガイドローラー5aに接触する直前までサイジング剤液の膜が残存する場合もあった。サイジング剤液の膜は平ローラー5aに接触すると同時に消失したが、このような状態で平ローラー5aに接触した炭素繊維束は、平ローラー5a上や、ガイドローラー5上でも糸幅の拡幅が確認でき、実施例1と比較して、並行処理した30本の炭素繊維束の糸幅も明らかに不均一であった。2時間の連続処理の間、毛羽の発生はなく、また平ローラー5aやガイドローラー5には、サイジング剤液の乾燥・固着は見られなかった。得られたサイジング剤の付着した炭素繊維束(乾燥処理後にボビンに巻き取った炭素繊維束)の糸幅測定の結果を表1の比較例8に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
本発明の製造方法は、並走する複数の炭素繊維束をサイジング剤液に浸漬させた後、サイジング剤液の液面よりも上方に配置された引き上げローラーを経由させて、サイジング剤液に浸漬させた複数の炭素繊維束を引き上げた後に、乾燥処理を行うサイジング処理工程を含む。
【0073】
また、本発明では、複数の炭素繊維束をサイジング処理する際に、サイジング剤液含浸炭素繊維束が該サイジング剤液の液面を出てから、引き上げローラーに接するまでに走行する走行路の中間地点を走行するよりも前に、隣り合うサイジング剤液含浸炭素繊維束の間に形成されるサイジング剤液の膜の除去を行い、その後にサイジング剤液含浸炭素繊維束の乾燥処理を行う。即ち、炭素繊維束がサイジング剤液の膜を有さない状態で、サイジング剤の液面と、引き上げローラーとの間の炭素繊維束の走行路の中間地点を走行し、この膜を有さない状態で引き上げローラーに供給される。このため、従来の製造方法と比較して、サイジング剤液の膜によって生じるサイジング剤液含浸炭素繊維束の拡幅を解消でき、サイジング処理された炭素繊維束における繊維軸方向の糸幅のバラツキを減少させ、さらには並行処理される複数の炭素繊維束間において糸幅を均一化することが可能である。