(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに逆向きに着磁された磁気媒体要素を、一定のピッチλmで交互かつ一列に配した磁気媒体に対し、空隙をおいて対向して、前記磁気媒体の長手方向に相対移動する磁気センサを備えたエンコーダであって、
前記磁気センサは、
移動方向に沿って配され、互いに直列接続された複数の磁気抵抗素子を含む検出素子パターンからなる位置検出部と、
前記位置検出部の検出素子パターンに含まれる複数の磁気抵抗素子に直列接続され、前記位置検出部が出力する検出信号に生じる高調波を打ち消す磁気抵抗素子を含む高調波打ち消しパターンが、前記移動方向に沿って前記位置検出部の少なくともいずれか一方側に設けられており、
前記高調波打ち消しパターンに含まれる磁気抵抗素子は、それぞれ所定の検出位置から、前記ピッチλmに基づいて定められる基準ピッチλsを用いて、λs/2nの距離の位置に配されており(nは3以上の奇数)、
前記位置検出部の検出素子パターンに含まれる磁気抵抗素子は、前記所定の検出位置から、互いにλs/(2n×k)の距離をおいて配されている(kは5以上の整数)エンコーダ。
【背景技術】
【0002】
着磁方向の異なる部分を交互に配した磁気媒体を用い、この磁気媒体に対して相対移動し、磁気媒体により生じる磁場の変化を検出することで、磁気媒体に対する移動量を検出する磁気エンコーダが知られている(特許文献1)。
【0003】
磁気エンコーダの検出精度は、着磁方向を異ならせるピッチλを小さくするほど高くなるが、ピッチλを小さくすると、磁気エンコーダ側の磁場検出素子が、磁気媒体に接して、磁気媒体上を摺動するまでに近接させなければ、磁場の検出ができなくなる。
【0004】
一方、磁気媒体と磁気エンコーダとの間に空隙をおく場合、磁気エンコーダの出力は、
図16(a)に示すような信号となる。この信号は、周波数成分で表すと、
図16(b)に示すように、本来求められている1次信号のほかに、奇数次の高調波が含まれている信号である。高調波は周波数が高くなるほどその成分は小さくなるが、この高調波のために信号の検出精度が劣化する場合がある。ある例では一次の信号(所望の信号)の強度を100%とすると、三次高調波の強度はその30%、五次高調波の強度は所望の信号強度の10%、七次高調波の信号は同じく5%といったようになる。
【0005】
従来から、このような高調波をキャンセルするために、
図17に示すように、磁場検出素子から所定距離(n次高調波の場合にλ/(2n)、但しλは磁気媒体の着磁ピッチ)だけ離れた位置に、高調波を打ち消すための高調波打ち消しパターンを設けることが行われている。具体的に引用文献2には、スケールに書き込まれた基本波長λで周期変化する位置情報を、磁気センサヘッドにて読み取る位置検出器であって、磁気センサヘッドが、位置情報を所定の信号にて出力する第1、第2および第3磁気抵抗素子を含み、第2および第3磁気抵抗素子が、第1磁気抵抗素子両側に間隔δをもって配置され直列接続されている例が開示されている。この例では、第1磁気抵抗素子と前記第2および第3磁気抵抗素子の出力の比がrであるときに、r+2cos (2nπδ/λ)=0 (nは3以上の奇数)の条件を満たすことにより、n次高調波が除去される、として、各磁気抵抗素子の出力比rを調整している。
【0006】
また、特許文献3には、出力基本波に対する1つの高調波成分が互いに逆位相で相殺される位相となる磁気抵抗素子群を設け、この磁気抵抗素子群の中で、高調波次数をk,信号磁界のピッチをλ、nを整数、mを奇数として、(n±m/(2k))×λの間隔で磁気抵抗素子を配したものが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係るエンコーダは、例えばリニアエンコーダ1であり、
図1に例示するように、磁気媒体2と、磁気センサ3とを含んで構成される。また磁気センサ3は、
図2にその断面を例示するように、基材31と、磁気検出素子32とを含む。この磁気検出素子32は例えばAMR素子や、積層型GMR素子、またはスピンバルブ(SV)型の巨大磁気抵抗(GMR)素子である。また、スピンバルブ型のGMR素子には、固定層と自由層の間に非磁性酸化物層を有し、トンネル電流を利用したトンネル接合型の素子(TMR素子)を包含する。磁気抵抗素子は、磁気抵抗効果素子とも称する。以下ではスピンバルブ型の巨大磁気抵抗(SVGMR)素子を利用した場合を一例として説明する。この場合、磁気検出素子32は、固定層41、非磁性導体層42、及び自由層43をこの順に積層した素子を複数備えたものであるとする。さらに自由層43の表面側には保護層(不図示)を設けてもよい。本実施の形態では、これら磁気媒体2と磁気センサ3とは空隙をおいて対向し、所定の方向に直線的に相対移動する。なお、磁気抵抗素子は磁気抵抗効果素子とも呼ばれる。
【0017】
磁気媒体2は、
図1に示したように、磁気媒体要素20を一列に配したものである。この磁気媒体要素20は、相対移動方向(以下単に移動方向と呼ぶ)と磁化方向とが平行となるように着磁されている。すなわち、着磁方向が磁化方向となる。磁気媒体2は、隣り合う磁気媒体要素20において同極が向き合うように一列に配したものとなっている。すなわち、互いに隣り合う磁気媒体要素20は、互いに逆向きに着磁され、移動方向に、全体として…N−S,S−N,N−S…となるように配する。つまり本実施の形態の磁気媒体2では、互いに逆向きに着磁された磁気媒体要素が、一定のピッチλmで交互かつ一列に配されている。このピッチλmは、磁気媒体2と磁気センサ3とが接触する場合より大きくしておく。
【0018】
磁気センサ3の基材31は、非磁性素材(例えば熱膨張係数α=38×10
-7(deg
-1)のアルミノシリケートガラス等)を用いて形成される。また固定層41は、強磁性層であり、例えば厚さ5nmのCo
90Fe
10(atm%)の組成を有する素材を用いる。この固定層41は、磁化方向が予め定めた方向に固定されている。本実施の形態では磁気媒体2に対する相対移動方向(以下、移動方向と呼ぶ)に磁化されているものとする。
【0019】
非磁性導体層42は、例えば厚み3nmのCuで形成できる。自由層43は強磁性層であり、強磁性体材料であるNi
85Fe
15とCo
90Fe
10との2層膜とすればよい。Ni
85Fe
15とCo
90Fe
10との膜厚比は3:1から5:1程度とし、自由層43全体の厚さは5nmとしておく。なお、固定層41の磁化方向の固定方法や、自由層43においてNiFeに異方性をつけて磁気特性を向上させる方法については広く知られているので、ここでの詳しい説明を省略する。
【0020】
本実施の形態では、磁気センサ3を得るために次のようにする。まず基材31上に、上述のように固定層41、非磁性導体層42、及び自由層43を積層したのち、この積層した膜上に、フォトリソグラフィにより所望の素子形状のレジストマスクを作成し、アルゴンイオンなどを用いたイオンミリングを行い、磁気センサ3のパターンを形成する。なお、磁気センサ3のパターンにおいて、配線部(磁気抵抗素子として動作しない部分)もまた、磁気抵抗素子と同様に形成する。ただし、その線幅を磁気抵抗素子に比して大きくしておくことで、抵抗として作用せずに配線として作用するようにしておく。
【0021】
本実施の形態の磁気センサ3のパターン(基本パターン)の一例は、
図3に示すように、ミアンダ形状をなす。具体的には移動方向に直交する方向に延びる複数t個の磁気抵抗素子51a,b,…を含み、各磁気抵抗素子51a,b…を折り返して直列接続した検出素子パターンを含む位置検出部50と、これらにさらに直列に、折り返し接続された高調波打ち消しパターン52a,b…とを含む。
【0022】
ここで位置検出部50に含まれる磁気抵抗素子51a,b…は、それぞれの間に高調波打ち消しパターン52を置かずに直接、直列に接続される。
【0023】
また高調波打ち消しパターン52も、磁気抵抗素子を含んで構成される。この高調波打ち消しパターン52の磁気抵抗素子も、位置検出部50の磁気抵抗素子51と同様に形成する。本実施の形態において特徴的なことの一つは、位置検出部50に含まれる複数の磁気抵抗素子51a,b…は、その長さ、幅、厚さが互いに略同一とするよう(つまりバラツキの範囲が予め規定した範囲内となるよう)形成しておく。これにより、各磁気抵抗素子51a,b…の異方性磁界Hk等を均一にしているものである。さらに、本実施の形態のここでの例では、これら位置検出部50に含まれる磁気抵抗素子51と、各高調波打ち消しパターン52に含まれる磁気抵抗素子との間でも、その長さ、幅、厚さが互いに略同一とするよう(つまりバラツキの範囲が予め規定した範囲内となるよう)形成して、各磁気抵抗素子の異方性磁界Hk等を均一にしている。
【0024】
具体的に、任意の一対の磁気抵抗素子51の長さの相違が±10%、幅の相違が±10%、厚さの相違が±5%であるようにする。
【0025】
本実施の形態では、位置検出部50の複数の磁気抵抗素子51を配列した検出素子パターンの範囲内に検出位置Cを設定する。一例として、この検出位置Cは、複数の磁気抵抗素子51のうちいずれかの磁気抵抗素子51の位置、または複数の磁気抵抗素子51の配列されている範囲の中心の位置とする。以下の説明では、複数の磁気抵抗素子51の配列されている範囲の一方端(位置検出部50の移動方向のいずれか一方側に高調波打ち消しパターンを配する場合は、当該一方側とは反対側端)を検出位置Cとする。
【0026】
また、磁気媒体要素の配列ピッチλmに基づいて定められる基準ピッチλsを用い、この検出位置Cからλs/10未満のピッチで各磁気抵抗素子51が配列されている。
【0027】
このλsは、磁気検出素子32の種類ごとに異なり、ここでの例のようにスピンバルブ型とする場合は、基準ピッチλsは、1つの位置検出部中の磁気抵抗素子51と隣の位置検出部中の磁気抵抗素子51とのピッチであり、具体的には、λs=2λm/t(tは位置検出部50の数)である。また、AMR素子や、積層型巨大磁気抵抗素子等の場合、基準ピッチλsは、λmに等しいものとする。なお、nは3以上の奇数であり、λs/2n<λs/10とするのであれば、n>5となる。また位置検出部50に含まれる複数の磁気抵抗素子51は、互いにλs/(2n×k)の距離(kは5以上の整数)をおいて配する。
【0028】
図3に示した例では、左側に図示された磁気抵抗素子51aの左端を検出位置Cとし、当該検出位置に対し、移動方向に沿った片側にもう一つの磁気抵抗素子51bがλs/30(つまり上記k=5)の間隔をおいて(磁気抵抗素子51の中心をλs/30だけずらして)配置されている例が示されている。
【0029】
さらに本実施の形態においては、2つの高調波打ち消しパターン52a,bが検出位置Cから、磁気抵抗素子51bと同じ側、λs/10と、λs/6と(それぞれ5次高調波と3次高調波とを打ち消す)の距離だけ離れた位置に配される。このように、n次(nは3以上の奇数)の高調波に対応する高調波打ち消しパターンに対応する磁気抵抗素子52(52a、52b)は、検出位置からλs/2nの距離の位置に配する。ここで、λsは位置検出部50間のピッチである。
【0030】
本実施の形態のこの例によると、複数の磁気抵抗素子51により、ピッチがλs/30と高調波打ち消しパターンを配するべき位置より十分に小さいので、検出位置Cにおいて、数本の磁気抵抗素子の抵抗成分を直列接続したのと同等になり、素子の抵抗値が倍加される。その結果、相対的に高調波の影響が小さくなる。さらに本実施の形態のこの例では、高調波打ち消しパターン52を設けていることで、高調波の影響をさらに軽減している。
【0031】
なお、ここでは2本の高調波打ち消しパターン52a,bが検出位置Cから、磁気抵抗素子51bと同じ側(すなわち片側)、λs/10と、λs/6と(それぞれ5の倍数次の高調波(5次,15次,…)と3の倍数次(3次,9次,15次…)の高調波とを打ち消す)の距離だけ離れた位置に配する例としたが、4本の高調波打ち消しパターン52a,b,c,dを、位置検出部50の両側、検出位置Cからそれぞれλs/10と、λs/6と(それぞれ5の倍数次の高調波と3の倍数次高調波とを打ち消す)の距離だけ離れた位置に配してもよい。すなわち、本実施の形態の例では、高調波打ち消しパターン52(52a,52b,52c,52d)により既に打ち消されている15次高調波を打ち消すことのできる位置に、位置検出部50に含まれる磁気抵抗素子51の少なくとも一つが配置されている。
【0032】
さらに位置検出部50においても検出素子パターン内に磁気抵抗素子51を3つ以上設けてもよい。一例として
図4に示す例では、位置検出部50を構成する3つの磁気抵抗素子51のうち、中央に図示された磁気抵抗素子51bの左端側を基準(検出位置C)とし、当該基準に対し、移動方向に沿って当該磁気抵抗素子51bの両側に2本の磁気抵抗素子51b,cを、互いにλs/30の間隔をおいて(磁気抵抗素子51の中心をλs/30ずつずらして)配置されている例が示されている。
【0033】
さらに本実施の形態においては、4本の高調波打ち消しパターン52a,b,c,dが検出位置Cから、移動方向両側にλs/10と、λs/6と(それぞれ5次高調波と3次高調波とを打ち消す)の距離だけ離れた位置にそれぞれ配される。
【0034】
本実施の形態のこの例によると、位置検出部50が複数の磁気抵抗素子51を含むことにより、ピッチがλs/30となっており、検出位置Cからより遠方に配された高調波打ち消しパターン52により既に打ち消されている高調波を打ち消し可能な位置であるか、あるいは、信号に含まれる成分が検出に影響しがたいほど小さくなる、高い次数の高調波を打ち消し可能な位置等、高調波打ち消しパターンを配するべき位置より十分に小さいので、検出位置Cにおいて、数本の磁気抵抗素子の抵抗成分を直列接続したのと同等になり、抵抗値が倍加される。その結果、相対的に高調波の影響が小さくなる。さらに本実施の形態のこの例でも、高調波打ち消しパターン52を設けていることで、高調波の影響をさらに軽減している。またこの
図4の例の場合は、検出位置Cに対応する磁気抵抗素子51bに対して位置検出部50を構成する磁気抵抗素子51が移動方向に沿って対称的に配され、さらに高調波打ち消しパターン52もまた移動方向に沿って磁気抵抗素子51bに対して対称的に配されている。このことにより移動時の位置検出部50の出力信号もまた、位置に対して対称的となることが期待される。
【0035】
またここまでの説明では、高調波打ち消しパターンは、それぞれ5の倍数次の高調波及び3の倍数次の高調波を打ち消す場合を例としていた。これは、5次を超え、5または3の倍数でない次数の高調波(7次、11次、13次…)は強度が弱いことが多く、打ち消す必要がないことが多いためである。しかしながら7次以上のn次の高調波をも打ち消したい場合は、高調波打ち消しパターンとしての磁気抵抗素子52を、位置検出部の所定の検出位置からλs/2nの距離の位置に配すればよい。
【0036】
本実施の形態においては、n次の高調波打ち消しパターンのそれぞれに含まれる磁気抵抗素子52の数(
図3の例では1つずつ。
図4の例では2つずつ。)が、位置検出部50に含まれる磁気抵抗素子51の数よりも少ない数となっている。これにより、検出位置C近傍における磁場による抵抗値が強調され、高調波打ち消しパターンの影響によって却って出力信号が歪むことが軽減される。
【0037】
また、本実施の形態では、
図3または
図4に例示した基本パターンを繰り返し単位として、(m+1/2)λs(ただしmは0または正の整数)だけの間隔をおいてこの基本パターンを複数配置して直列接続したパターンを形成してもよい(
図5)。
【0038】
図5にAMR素子または積層型巨大磁気抵抗素子(積層型GMR素子)を用いた例を示す。この
図5の例では、
図3に例示した繰り返し単位である基本パターン60a,bがλs/2だけの間隔をおき、移動方向に沿った軸に対称に、互いに反転された状態で、移動方向に沿って配される。基本パターン60aの移動方向一方側(図面の左側)の端子が、電源(Vcc)に接続され、他方側(図面の右側)の端子は基本パターン60bの一方側(図面の左側)の端子に接続され、基本パターン60bの他方側(図面の右側)の端子はグランド(GND)に接続される。また、このパターンの中点(ここでは基本パターン60aの他方側端子と基本パターン60bの一方側端子とをつなぐ線上)にタップbが形成される。
【0039】
また
図5の例では、基本パターン60a,bのそれぞれからさらに(m+1/4)λs(ただしmは0または正の整数)だけの間隔をおいた位置にもう一つずつの繰り返し単位の基本パターン60c,dを、移動方向に沿った軸に対称に、互いに反転された状態で配する。これら基本パターン60a,b,c,dは移動方向に沿って一列に並ぶようにしておく。
【0040】
これら基本パターン60c,dもまた、λs/2だけ離れて配される。そして基本パターン60cの移動方向一方側(図面の左側)の端子が、電源(Vcc)に接続され、他方側(図面の右側)の端子は基本パターン60dの一方側(図面の左側)の端子に接続され、基本パターン60dの他方側(図面の右側)の端子はグランド(GND)に接続される。また、このパターンの中点(ここでは基本パターン60cの他方側端子と基本パターン60dの一方側端子とをつなぐ線上)にタップaが形成される。
【0041】
この
図5の構成を備えた本実施の形態では、位置検出部50が複数の(少なくとも高調波打ち消しパターンが含む磁気抵抗素子の数より多い)磁気抵抗素子を含むことで、各繰り返し単位のパターンにおける検出位置での抵抗値が上昇するので、検出信号が強調され、高調波の影響が低減されて、移動位置に対する出力信号が正弦波により近くなる。これによって、位置検出精度がさらに向上される。
【0042】
図6にはスピンバルブ型の巨大磁気抵抗素子(SVGMR素子)を用いた例を示す。この
図6では、
図4に例示した繰り返し単位である基本パターン70a,b,c,d,e,fをλs/2だけの間隔をおいて、移動方向に沿って配した例となっている。この
図6の例では、基本パターン70aの移動方向一方側(図面上左側)の端子が、電源(Vcc)に接続され、他方側(図面上右側)の端子は、基本パターン70aからλsだけ離れた位置にある基本パターン70cの一方側(図面上左側)の端子に接続される。さらに基本パターン70cの他方側(図面上右側)の端子は基本パターン70cからλsだけ離れた位置にある基本パターン70eの一方側(図面上左側)の端子に接続される。
【0043】
この基本パターン70eの他方側(図面上右側)の端子は基本パターン70eからλs/2だけ離れた位置にある基本パターン70fの他方側(図面上右側)の端子に接続される。基本パターン70fの移動方向一方側(図面上左側)の端子は、基本パターン70fからλsだけ離れた位置にある基本パターン70dの他方側(図面上右側)の端子に接続される。さらに基本パターン70dの一方側(図面上左側)の端子は基本パターン70dからλsだけ離れた位置にある基本パターン70bの他方側(図面上右側)の端子に接続される。そして基本パターン70bの一方側(図面上左)の端子がグランド(GND)に接続される。また、このパターンの中点(ここでは基本パターン70eの他方側端子と基本パターン70fの他方側端子とをつなぐ線上)にタップaが形成される。
【0044】
この
図6の例では、基本パターン70bないし70fでは、互いに隣接する基本パターン70同士で、動方向に沿った軸に対称に、互いに反転された状態で配されている。
【0045】
また
図6では、この基本パターン70a,b,c,d,e,fを含むパターン(第1パターン)に対し、移動方向と直交する方向にもう一つ、基本パターン70a′,b′,c′,d′,e′,f′を含むパターン(第2パターン)を配してもよい。ここで、基本パターン70aと、基本パターン70a′とは、移動方向に沿って互いにλs/4だけずらした位置に配する。
【0046】
ここで逓倍化の効果について説明する。SVGMR素子は、磁気媒体からの漏れ磁界の方向と強度によって抵抗値が変化する素子である。具体的に、SVGMR素子は特定の方向の一方側からの漏れ磁界が強くなるに従いその抵抗値は増加する。そしてSVGMR素子の磁気的な飽和点以上の磁界が印加された場合には、抵抗値は変化しなくなる。また、他方側の漏れ磁界が強くなるに従い、SVGMR素子の抵抗値は減少し、磁気飽和点以上の磁界が印加された場合には、抵抗値は変化しなくなる(AMR素子や積層型GMR素子の場合は、磁気媒体からの漏れ磁界の方向に寄らず、その強度によって抵抗が変化する)。
【0047】
そのため磁気媒体2に対して相対的に移動する場合を考えると、基本パターン70aの抵抗値は、2λm周期で変化することとなる。その変化の状態は、具体的には相対移動の距離に応じて
図7(a)に示すような略矩形波となる。基本パターン70cと70eも同様に、相対移動距離に応じて2λm周期で抵抗値が変化し、その状態は略矩形波である(
図7(b),(c))。ただし基本パターン70cの抵抗値の変化は、基本パターン70aの抵抗値の変化に対し位相がλs(=2λm/3)だけシフトし、基本パターン70eの抵抗値の変化は、基本パターン70aの抵抗値の変化に対し2λs(=4λm/3)だけシフトした状態となっている。
【0048】
従って、直列接続されている基本パターン70a,70c,及び70eの合成抵抗値の変化は、これら基本パターン70a,70c,70eの各抵抗値の約1/3であり、
図7(d)に例示するように、その周期はλs(=2λm/3)となる。同様に直列接続されている基本パターン70b,70d,70fの合成抵抗値も基本パターン70a,70c,70eの合成抵抗の値と同様、その抵抗値の変化は、各基本パターン70における抵抗値の約1/3で、その変化の周期はλsとなる。但しその位相は、基本パターン70a,70c,及び70eの合成抵抗値の変化に対して、λs/2だけシフトしている。
【0049】
以上のことから、この2つの合成抵抗で構成されているブリッジ回路の出力aの信号周期はλs(=2λm/3)となり、磁気媒体の着磁ピッチλmを2/3逓倍化する。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の実施例について説明する。ここでは、磁気媒体2の着磁ピッチλm=600μm、位置検出部50の磁気抵抗素子51、及び高調波打ち消しパターンの磁気抵抗素子の線幅はいずれも3μm、磁気抵抗素子間を接続する配線の線幅を30μmとして、実施例として
図3,
図4に例示したパターン(以下それぞれのパターンを、パターンA,Bと呼ぶ)と、比較例として
図17に示した従来例のパターンCと、高調波打ち消しのパターンを備えないパターンDとを形成した。パターンを適用するブリッジ回路としては
図6のものを用いた。そして、磁気媒体2と磁気センサ3との空隙(エアギャップ)を100μm、300μmと変化させ、それぞれの空隙の場合について、磁気媒体2に対して磁気センサ3を、1000μmだけ移動したときの出力波形を得た。エアギャップに100μmを加算した数値が、磁気ギャップに相当する。
【0051】
なお、
図6はパターンBを用いていた例を示しており、本実施例では、このブリッジ回路の出力をパターンBの出力と呼ぶ。また、本実施例では、
図6において、各々のパターンBをパターンAに置き換えた場合を、パターンAの出力として後述する。
図6において、各々のパターンBをパターンCに置き換えた場合を、パターンCの出力として後述する。
図6において、各々のパターンBをパターンD(素子1本)に置き換えた場合を、パターンDの出力として後述する。パターンを置き換えする際には、置換前後で検出位置Cが同じとなるように配置する。ここでは、磁気抵抗素子として、反強磁性層、固定層、非磁性中間層、自由層を積層したスピンバルブ型巨大磁気抵抗素子を用いる例について説明する。
【0052】
[エアギャップ100μm]
エアギャップを100μmとしたときのパターンDによる出力信号を
図8、パターンCによる出力信号を
図9に示す。これら比較例のパターンにおいて、高調波打ち消しパターンを備えない場合は、高調波の影響により、
図8に例示するように略矩形波形となる。
【0053】
一方、高調波打ち消しパターンを備えても、打ち消し量が大きすぎると、出力信号は
図9に示すように略三角波形となってしまう。ここで出力信号に対し基本周波数の信号強度よりも、3次高調波の信号強度が小さく、さらに5次高調波の信号強度はさらに小さいことに鑑みて、各高調波の打ち消しパターンの磁気抵抗素子の長さを短くするなど、長さ、幅、厚さを変更して磁気抵抗素子の抵抗値を調整することも考えられるが、このようにすると、磁気抵抗素子膜の異方性磁界Hkが変化してしまい、特性が異なってくるために却ってノイズが出力信号に生じる。
【0054】
そこで、位置検出部50の磁気抵抗素子の数を、各次の高調波打ち消しパターンに含まれる磁気抵抗素子の数より多くすることで、信号強度の差に対応した高調波の打ち消し作用を得ることとしたパターンA,Bによる、エアギャップを100μmとしたときの例を
図10,
図11に示す。
図5に例示したパターンAでは、高調波打ち消しパターン52が検出位置Cの片側にしかないことから、対応する
図10の出力信号では、
図8,
図9の例よりも正弦波に近い形状をなすものの、ピークを中心として非対称の形状となっている。一方、
図6に例示したパターンBの出力信号は、
図11に例示するように略正弦波をなし、その形状は、ピークを中心として対称的となっている。
【0055】
[エアギャップ300μm]
エアギャップを300μmとしたときのパターンDによる出力信号を
図12、パターンCによる出力信号を
図13に示す。これら比較例のパターンにおいて、高調波打ち消しパターンを備えない場合は、高調波の影響により、
図12に例示するようにやや鈍った矩形波形となる。一方、パターンCのように高調波打ち消しパターンを備えても、パターンCでは打ち消し量が大きすぎるので、その出力信号はエアギャップが100μmの場合と同様、
図13に示すように略三角波形となる。
【0056】
本発明の実施例としてのパターンA,Bを用い、エアギャップを300μmとしたときの例を
図14,
図15に示す。
図5に例示したパターンAでは、高調波打ち消しパターン52が検出位置Cの片側にしかないことから、対応する
図14の出力信号では正弦波に近い形状をなすものの、ピークを中心として非対称の形状となっている。一方、
図6に例示したパターンBの出力信号は、
図15に例示するように略正弦波をなし、その形状は、ピークを中心として対称的となっている。
【0057】
このように本実施例に係るリニアエンコーダによれば、エアギャップが100μm、300μm程度であるような場合においても、正弦波に近い形状の出力信号を得ることができるようになり、かかる正弦波に近い出力信号であることにより、位置検出の精度を向上できる。
【0058】
また、ここまでの説明においては、リニアエンコーダとする場合を例として説明したが、リニアエンコーダとしなくても、磁気媒体2を円筒外周に沿って円周方向に巻き付け、この磁気媒体2に対して略一定の磁気ギャップをおいて上述の磁気センサ3が移動するように配することで、ロータリエンコーダとしても構成することができる。