特許第5870816号(P5870816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5870816
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/04 20060101AFI20160216BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   B32B25/04
   F16L11/04
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-79610(P2012-79610)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208758(P2013-208758A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】江尻 和弘
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩文
(72)【発明者】
【氏名】アイバン バルザック
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/035892(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
F16L9/00−11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)10〜95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である積層体であって、
前記架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋したものであり、
前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物が、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物と、を含み、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物中における、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴムの含有量が、カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対して、1重量部以下であり、
前記熱可塑性重合体層と前記架橋ゴム層との接着が、前記熱可塑性重合体組成物と前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた後、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させて、架橋接着することによりなされていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
請求項1記載の積層体を用いてなるホース。
【請求項3】
フッ素樹脂(A)10〜95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である積層体の製造方法であって、
前記架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋したものであり、
前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物が、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物と、を含み、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物中における、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴムの含有量が、カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対して、1重量部以下であり、
前記熱可塑性重合体層と前記架橋ゴム層との接着を、前記熱可塑性重合体組成物と前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた後、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させて、架橋接着することにより行なうことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および積層体の製造方法に係り、さらに詳しくは、熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である積層体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用途をはじめ燃料系ゴム部品には、耐熱性、耐油性などに優れているフッ素ゴムが使用されている。しかし、近年、環境問題の高まりから、バイオ燃料(ガソリン燃料およびディーゼル燃料)が自動車用燃料として注目されているが、バイオ燃料を用いると、フッ素ゴムの燃料膨潤性が大きくなり、耐燃料油性、耐燃料透過性が悪化するといった問題がある。このことから、フッ素ゴムよりも耐燃料油性、耐燃料透過性に優れた材料が求めれていた。
【0003】
特許文献1では、耐燃料透過性と柔軟性を両立し、かつ、多材との接着性に優れることを目的として、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性樹脂組成物が開示されている。自動車用途のホースの場合、二層以上から形成される積層体が用いられることが多いが、特許文献1に記載の技術では、従来から、自動車関連の分野などにおいて、ホース、シール、ガスケットなどのゴム部材に広く用いられているアクリルゴム、特に耐熱性が高いカルボキシル基含有アクリルゴムとの接着性に対する要求を満たすには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/020182号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層とが強固に接着した積層体、およびその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記積層体を用いてなるホースを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定量のフッ素樹脂(A)および特定量の架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である積層体であって、前記架橋フッ素ゴム(B)が、動的架橋されたものであり、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物が、特定の架橋剤と、架橋促進剤とを含み、前記熱可塑性重合体層と前記架橋ゴム層との接着が、架橋接着によりなされていることを特徴とする積層体により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、フッ素樹脂(A)10〜95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である積層体であって、前記架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋したものであり、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物が、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物と、を含み、前記熱可塑性重合体層と前記架橋ゴム層との接着が、前記熱可塑性重合体組成物と前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた後、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させて、架橋接着することによりなされていることを特徴とする積層体が提供される。
【0008】
さらに、本発明によれば、上記の積層体を用いてなるホースが提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、フッ素樹脂(A)10〜95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である積層体の製造方法であって、前記架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋したものであり、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物が、カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部と、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物と、を含み、前記熱可塑性重合体層と前記架橋ゴム層との接着を、前記熱可塑性重合体組成物と前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた後、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させて、架橋接着することにより行なうことを特徴とする積層体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層とが強固に接着した積層体、およびその製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記積層体を用いてなるホースを提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の積層体は、フッ素樹脂(A)10〜95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物であって、前記架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋したものであり、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物が、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物と、を含み、前記熱可塑性重合体層と前記架橋ゴム層との接着が、前記熱可塑性重合体組成物と前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた後、前記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させて、架橋接着することによりなされているものである。
【0012】
(熱可塑性重合体組成物)
本発明で用いる熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)10〜95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含むものである。
【0013】
<フッ素樹脂(A)>
本発明で用いるフッ素樹脂(A)としては、特に限定されるものではなく、少なくとも1種の含フッ素エチレン性重合体(a)からなるフッ素樹脂であればよく、含フッ素エチレン性重合体(a)は、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有するものであればよい。また、フッ素樹脂(A)は、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着性を向上させるために、重合体の主鎖末端または側鎖末端に、カルボキシル基、イソシアネート基、オレフィン基またはアミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0014】
上記含フッ素エチレン性単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン、一般式(1):
CF=CF−R (1)
(式中、Rは、−CFまたは−ORであり、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などのパーフルオロオレフィン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、ビニリデンフルオライド、フッ化ビニル、一般式(2):
CH=CX(CF (2)
(式中、Xは、水素原子またはフッ素原子であり、Xは、水素原子、フッ素原子または塩素原子であり、nは、1〜10の整数である)などのフルオロオレフィンなどをあげることができる。
【0015】
そして、含フッ素エチレン性重合体(a)は、上記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有してもよく、このような単量体としては、非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、またはアルキルビニルエーテルなどをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
【0016】
これらの中でも、得られる熱可塑性重合体組成物の耐熱性・耐薬品性・耐油性が優れ、かつ成形加工性が容易になる点から、含フッ素エチレン性重合体(a)は、
(a−1)テトラフルオロエチレンと、エチレンとからなるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)
(a−2)テトラフルオロエチレンと、上記一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物とからなる、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)またはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)
(a−3)テトラフルオロエチレン、エチレンおよび一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるエチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(Et−TFE−HFP共重合体)
(a−4)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
のいずれかであることが好ましい。
【0017】
次に、(a−1)〜(a−4)について、具体的に説明する。
【0018】
(a−1)ETFE
ETFEの場合、上述の作用効果に加えて、低燃料透過性および柔軟性の点で好ましい。テトラフルオロエチレン単位とエチレン単位との含有モル比は、20:80〜90:10が好ましく、62:38〜90:10がより好ましく、63:37〜80:20が特に好ましい。また、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはテトラフルオロエチレンおよびエチレンと共重合可能なものであればその種類は限定されない。第3成分としては、例えば、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロペン−1、および2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)などがあげられる。第3成分の含有量は、含フッ素エチレン性重合体(a)に対して、0〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%が特に好ましい。
【0019】
(a−2)PFAまたはFEP
PFAまたはFEPの場合、上述の作用効果においてとりわけ耐熱性が優れたものとなり、また上述の作用効果に加えて低燃料透過性が優れるという点で好ましい。テトラフルオロエチレン単位90〜99モル%と一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜10モル%からなる含フッ素エチレン性重合体(a)であることがより好ましい。また、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはテトラフルオロエチレンおよび一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物と共重合可能なものであればその種類は限定されない。
【0020】
(a−3)Et−TFE−HFP共重合体
Et−TFE−HFP共重合体の場合、上述の作用効果に加えて、低燃料透過性および柔軟性の点で好ましい。テトラフルオロエチレン単位19〜90モル%、エチレン単位9〜80モル%、および一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜72モル%からなる含フッ素エチレン性重合体(a)であることがより好ましく、テトラフルオロエチレン単位20〜70モル%、エチレン単位20〜60モル%、および一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜60モル%からなる含フッ素エチレン性重合体(a)であることがさらに好ましい。また、追加成分を含有していてもよく、追加成分としては、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)などをあげることができる。追加成分の含有量は、含フッ素エチレン性重合体(a)に対して0〜3モル%であることが好ましい。
【0021】
(a−4)PVDF
PVDFの場合、上述の作用効果に加えて、柔軟性および優れた力学物性の点で好ましい。
【0022】
含フッ素エチレン性重合体(a)の融点は、120〜330℃であることが好ましく、150〜310℃であることがより好ましい。含フッ素エチレン性重合体(a)の融点が、120℃未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物の耐熱性が低下する傾向があり、330℃を超えると、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋する場合、含フッ素エチレン性重合体(a)の融点以上に溶融温度を設定する必要があるが、その際にフッ素ゴム(b)が熱劣化するおそれがある。
【0023】
<架橋フッ素ゴム(B)>
本発明で用いる架橋フッ素ゴム(B)としては、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋したものであれば、特に限定されない。
【0024】
フッ素ゴム(b)としては、たとえば、パーフルオロフッ素ゴム(b−1)、非パーフルオロフッ素ゴム(b−2)などがあげられる。
【0025】
パーフルオロフッ素ゴム(b−1)としては、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとする)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとする)系共重合体、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとする)/PAVE系共重合体などがあげられる。
【0026】
非パーフルオロフッ素ゴム(b−2)としては、たとえば、ビニリデンフルオロライド(フッ化ビニリデン、以下、VdFとする)系重合体、TFE/プロピレン系共重合体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。
【0027】
前記VdF系重合体としては、具体的には、VdF/HFP系共重合体、VdF/TFE/HFP系共重合体、VdF/TFE/プロピレン系共重合体、VdF/エチレン/HFP系共重合体、VdF/TFE/PAVE系共重合体、VdF/PAVE系共重合体、VdF/クロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEとする)系共重合体などをあげることができる。さらに具体的には、VdF25〜85モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体75〜15モル%とからなる含フッ素共重合体であることが好ましく、VdF50〜80モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体50〜20モル%とからなる含フッ素共重合体であることがより好ましい。
【0028】
ここで、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体としては、たとえば、TFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、PAVE、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体などがあげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。
【0029】
フッ素ゴム(b)としては、これらの中でも、耐熱性、耐圧縮永久ひずみ性、加工性、コストの点から、VdF単位を含むフッ素ゴムであることが好ましい。
【0030】
また、前記パーフルオロフッ素ゴム(b−1)や非パーフルオロフッ素ゴム(b−2)として例示したものは主単量体の構成であり、架橋用単量体や変性単量体等を共重合したものも好適に用いることができる。架橋用単量体や変性単量体としては、ヨウ素原子、臭素原子、二重結合を含むものなどの公知の架橋用単量体、公知のエチレン性不飽和化合物などの変性単量体などを使用することができる。
【0031】
架橋フッ素ゴム(B)は、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、上述したフッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋することにより得られる。
【0032】
<熱可塑性重合体組成物>
フッ素樹脂(A)と、フッ素樹脂(A)に対して添加するフッ素ゴム(b)との重量比は、10/90〜95/5の範囲内であることが好ましく、20/80〜80/20の範囲内であることがより好ましい。フッ素ゴム(b)の重量比が、5重量%未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物の柔軟性が低下する傾向があり、90重量%をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物の流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。
【0033】
本発明で用いる熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋することにより得られる。ここで、動的架橋とは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機などを使用して、フッ素ゴム(b)を溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機などの押出機を用いることが好ましい。動的架橋することで、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)の相構造を制御することができる。
【0034】
溶融条件下とは、フッ素樹脂(A)およびフッ素ゴム(b)が共に溶融する温度下を意味する。溶融する温度は、それぞれフッ素樹脂(A)およびフッ素ゴム(b)のガラス転移温度および/または融点により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、フッ素樹脂(A)とフッ素ゴム(b)の間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴム(b)が熱劣化する傾向がある。
【0035】
フッ素樹脂(A)と、フッ素ゴム(b)との溶融粘度の比([樹脂(A)の溶融粘度]/[ゴム(b)の溶融粘度])は、0.1〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.2である。かかる溶融粘度の比が、0.1未満であっても、1.5を上回っても、架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径が粗大化し、分散が不均一化する傾向にある。フッ素樹脂(A)と、フッ素ゴム(b)との溶融粘度の比を、0.1〜1.5にすることにより、架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径が微細化し、分散が均一となるので、柔軟性、圧縮永久歪みおよび成形加工性に優れた熱可塑性重合体組成物を得ることができる。ここで溶融粘度とは、297℃、5000g荷重の条件下で測定したメルトフローレートの値をいう。
【0036】
架橋剤(C)は、フッ素ゴム(b)の種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0037】
本発明で用いられる架橋系は、フッ素ゴム(b)に架橋性基が含まれる場合は、架橋性基の種類によって、または得られる成形品などの用途により適宜選択すればよい。架橋系としては、ポリオール架橋系、有機過酸化物架橋系、およびポリアミン架橋系のいずれも採用できるため、架橋剤(C)は、ポリアミン架橋剤、ポリオール架橋剤、および有機過酸化物架橋剤のいずれの架橋剤も使用することができる。
【0038】
ポリアミン架橋剤としては、たとえば、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンなどがあげられる。ポリオール架橋剤としては、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)などがあげられる。有機過酸化物架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、たとえば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3などがあげられる。
【0039】
架橋剤(C)の配合量は、フッ素ゴム(b)100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、0.3〜5重量部であることがより好ましい。架橋剤(C)が、0.1重量部未満であると、フッ素ゴム(b)の架橋が充分に進行せず、得られる熱可塑性重合体組成物の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、10重量部をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0040】
架橋系として、ポリオール架橋系、または有機過酸化物架橋系を採用した場合、架橋剤(C)と併用して、架橋促進剤(D)を用いることが好ましい。架橋促進剤としては、たとえば、ポリオール架橋系は第4級アンモニウム塩などのオニウム化合物、有機過酸化物架橋系はトリアリルイソシアヌレートなどがあげられる。
【0041】
架橋促進剤(D)の配合量は、フッ素ゴム(b)100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜8重量部である。架橋促進剤(D)が、0.01重量部未満であると、フッ素ゴム(b)が充分に架橋できず、得られる熱可塑性重合体組成物の機械物性が低下する傾向があり、10重量部をこえると、フッ素ゴム(b)への分散性が悪化し、得られる熱可塑性重合体組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0042】
本発明で用いられる熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)10〜95重量%、架橋フッ素ゴム(B)90〜5重量%を含むものであり、フッ素樹脂(A)20〜80重量%、架橋フッ素ゴム(B)80〜20重量%であることが好ましく、フッ素樹脂(A)30〜70重量%、架橋フッ素ゴム(B)70〜30重量%であることがより好ましい。フッ素樹脂(A)が10重量%未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物の流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向があり、95重量%をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0043】
得られる熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造、またはフッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)が共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、フッ素樹脂(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0044】
このような構造を形成すると、得られる熱可塑性重合体組成物は、優れた耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径は、0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、30μmをこえると、得られる熱可塑性重合体組成物の強度が低下する傾向がある。
【0045】
また、得られる熱可塑性重合体組成物は、その好ましい形態であるフッ素樹脂(A)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造の一部に、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との共連続構造を含んでいても良い。
【0046】
また、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着性を向上させるために、熱可塑性重合体組成物は、多官能化合物(E)を含有してもよい。多官能化合物(E)とは、1つの分子中に同一または異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基であれば任意に用いることができる。多官能化合物(E)の具体例としては、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパンなどがあげられる。多官能化合物(E)は、架橋剤(C)、架橋促進剤(D)と同一の物質であってもよいし異なる物質であってもよい。
【0047】
多官能化合物(E)の配合量は、熱可塑性重合体組成物100重量部に対して、0〜10重量部が好ましく、0.2〜8重量部がより好ましい。多官能化合物(E)の配合量が、10重量部をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物への分散性が悪化する傾向がある。
【0048】
熱可塑性重合体組成物への多官能化合物(E)の添加方法としては、特に限定されないが、たとえば、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を用いて、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的架橋する際に、多官能化合物(E)を添加する方法等をあげることができる。
【0049】
得られる熱可塑性重合体組成物のメルトフローレート(MFR)は、297℃、5000g荷重の条件下にて、0.5〜30g/10分であることが好ましく、1〜25g/10分であることがより好ましい。MFRが0.5g/10分未満であると、流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。
【0050】
また、得られる熱可塑性重合体組成物は、燃料周辺部品への使用を考慮した場合、燃料透過性が0.1〜20g・mm/m・dayであることが好ましく、0.2〜18g・mm/m・dayであることがより好ましい。ここで、燃料透過性の測定は、40℃にて、CE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10vol%)を模擬燃料として用いて、カップ法にて実施する場合をいう。
【0051】
本発明で用いられる熱可塑性重合体組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、炭酸カルシウム、タルク、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。
【0052】
本発明で用いられる熱可塑性重合体組成物は、一般の成形加工方法や成形加工装置などを用いて成形加工することができる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができ、本発明で用いられる熱可塑性重合体組成物は、使用目的に応じて任意の形状の成形体に成形することができる。
【0053】
本発明で用いることができる熱可塑性重合体組成物の好ましい具体例としては、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層と強固に接着することができるという点より、「ダイエルTM フルオロ TPV SV−1030」(ダイキン工業社製)、および「ダイエルTM フルオロ TPV SV−1032」(ダイキン工業社製)などを挙げることができる。
【0054】
(カルボキシル基含有アクリルゴム組成物)
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム組成物は、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物と、を含有してなるアクリルゴムの組成物である。
【0055】
<カルボキシル基含有アクリルゴム>
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、カルボキシル基を架橋点に持つアクリルゴムであり、分子中に、主成分(本願においては、ゴム全単量体単位中50重量%以上有するものを言う。)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体〔アクリル酸エステル単量体および/またはメタクリル酸エステル単量体の意。以下、(メタ)アクリル酸メチルなど同様。〕単位を含有するものであればよく、特に限定されない。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、(イ)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合させることにより、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を架橋性単量体単位として有するアクリルゴム、(ロ)アクリルゴムに対してラジカル開始剤存在下でカルボキシル基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物を付加反応させてなるアクリルゴム、または、(ハ)アクリルゴム分子中のカルボン酸エステル基、酸アミド基などのカルボン酸誘導基の一部を加水分解によってカルボキシル基へ変換させてなるアクリルゴムのいずれであってもよい。これらの中でも、(イ)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合させることにより、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を架橋性単量体単位として有するアクリルゴムであることが好ましく、例えば、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムとしては、分子中に、主成分としての(メタ)アクリル酸エステル単量体単位50〜99.9重量%、および架橋性単量体単位として、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位0.1〜10重量%を含有する重合体などが挙げられる。
【0056】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムの主成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体などを挙げることができる。
【0057】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数1〜8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸エチル、およびアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これらは一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。
【0058】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数2〜8のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、および(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルが好ましく、アクリル酸2−エトキシエチル、およびアクリル酸2−メトキシエチルが特に好ましい。これらは一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。
【0059】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム中における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、通常、50〜99.9重量%、好ましくは60〜99.5重量%、より好ましくは70〜99.5重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋ゴム層の耐候性、耐熱性、および耐油性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、得られる架橋ゴム層の耐熱性が低下するおそれがある。
【0060】
なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位30〜100重量%、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位70〜0重量%からなるものとすることが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位のみからなるものとすることが、耐熱性の観点から、より好ましい。
【0061】
架橋性単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、例えば、炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、および炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルなどが挙げられる。
【0062】
炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、およびケイ皮酸などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸などのブテンジオン酸;イタコン酸;シトラコン酸;クロロマレイン酸;などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn−ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、ブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル、または脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルが好ましく、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘキシルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチルがさらに好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。なお、上記単量体のうち、ジカルボン酸には、無水物として存在しているものも含まれる。
【0063】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を架橋性単量体として用いることにより、アクリルゴムを、カルボキシル基を架橋点として持つカルボキシル基含有アクリルゴムとすることができ、これにより、本発明で用いるアクリルゴムの耐熱性を向上させることができる。
【0064】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム中における、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜7重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が多すぎると、得られる架橋ゴム層の伸びが低下したり、圧縮永久歪率が増大したりする可能性があり、一方、少なすぎると、架橋が不十分となり、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着性が劣る可能性がある。
【0065】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムのカルボキシル基の含有量、すなわち、アクリルゴム100g当たりのカルボキシル基のモル数(ephr)は、好ましくは4×10−4〜4×10−1(ephr)、より好ましくは1×10−3〜2×10−1(ephr)、さらに好ましくは5×10−3〜1×10−1(ephr)である。カルボキシル基の含有量が少なすぎると、架橋が不十分となり、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着性が劣る可能性がある。一方、多すぎると、架橋ゴム層の伸びが低下したり、圧縮永久歪率が増大したりする可能性がある。
【0066】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、およびα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位に加えて、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル単量体や、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位と共重合可能なその他の単量体の単位を有していてもよい。
【0067】
共重合可能なその他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、アクリロイルオキシ基を2個以上有する単量体(以下、「多官能アクリル単量体」と言うことがある。)、オレフィン系単量体、およびビニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0068】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、およびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
多官能アクリル単量体の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
オレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、および1−オクテンなどが挙げられる。
ビニルエーテル化合物の具体例としては、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、およびn−ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
これらの中でも、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレンおよび酢酸ビニルが好ましく、アクリロニトリル、メタクリロニトリルがより好ましい。
【0070】
共重合可能なその他の単量体は、一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム中における、その他の単量体の単位の含有量は、通常、0〜49.9重量%、好ましくは0〜39.5重量%、より好ましくは0〜29.5重量%である。
【0071】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、上述した単量体を重合することにより得ることができる。重合反応の形態としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、および溶液重合法のいずれも用いることができるが、重合反応の制御の容易性などの点から、従来公知のアクリルゴムの製造法として一般的に用いられている常圧下での乳化重合法によるのが好ましい。
【0072】
乳化重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。重合は、通常、0〜70℃、好ましくは5〜50℃の温度範囲で行われる。
【0073】
このようにして製造される、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)(ポリマームーニー)は、好ましくは10〜80、より好ましくは20〜70、さらに好ましくは25〜60である。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、このように製造されるカルボキシル基含有アクリルゴムを、一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。
【0074】
<多価アミン化合物>
本発明で用いる多価アミン化合物は、上述したカルボキシル基含有アクリルゴムを架橋するための架橋剤として用いられる。多価アミン化合物としては、特に限定されないが、炭素数4〜30の多価アミン化合物、またはその炭酸塩がより好ましい。このような多価アミン化合物、およびその炭酸塩の例としては、脂肪族多価アミン化合物、またはその炭酸塩、ならびに芳香族多価アミン化合物などが挙げられる。一方、グアニジン化合物のように非共役の窒素−炭素二重結合を有するものは含まれない。
【0075】
脂肪族多価アミン化合物、およびその炭酸塩としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、およびN,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジアミンカーバメートが好ましい。
【0076】
芳香族多価アミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、4,4’−メチレンジアニリン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、および1,3,5−ベンゼントリアミンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンが好ましい。
【0077】
本発明で用いるアクリルゴム組成物中における、多価アミン化合物の含有量は、アクリルゴム100重量部に対し、0.05〜20重量部であり、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.3〜12重量部である。多価アミン化合物の含有量が上記範囲内であると、架橋が十分に行われ、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着が強固のものとなる。一方、多価アミン化合物の含有量が少なすぎる場合には、架橋が不十分となり、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着性が劣る場合があり、多すぎると、得られる架橋ゴム層が硬くなりすぎる場合がある。これらの多価アミン化合物は、一種、または二種以上を併せて使用することができる。
【0078】
<ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物>
本発明で用いるジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物は、上述したカルボキシル基含有アクリルゴムを架橋するための架橋促進剤として用いられ、これらの化合物を用いることにより、架橋が十分に行われ、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着が強固のものとなる。
【0079】
ジアザビシクロアルケン化合物の具体例としては、ジアザビシクロ構造を有するアルケン化合物であれば特に限定されないが、例えば、1,5−ジアザビシクロ[4.2.0]オクタ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(「DBU」ともいう)、1,8−ジアザビシクロ[7.2.0]ウンデカ−8−エン、1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクタ−4−エン、3−メチル−1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクタ−4−エン、3,6,7,7−テトラメチル−1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクタ−4−エン、7,8,8−トリメチル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[7.3.0]ドデカ−8−エン、1,7−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−6−エン、8−フェニル−1,7−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−6−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]デカ−5−エン、4−フェニル−1,5−ジアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デカ−7−エン、1,8−ジアザビシクロ[7.4.0]トリデカ−8−エン、6−メチルブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、6−メチルオクチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、6−ブチルベンジルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、6−ジヘキシルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、9−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、9−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]ウンデカ−7−エン、1,6−ジアザビシクロ[5.5.0]ドデカ−6−エン、1,7−ジアザビシクロ[6.5.0]トリデカ−7−エン、1,8−ジアザビシクロ[7.5.0]テトラデカ−8−エン、1,10−ジアザビシクロ[7.3.0]ドデカ−9−エン、1,10−ジアザビシクロ[7.4.0]トリデカ−9−エン、1,14−ジアザビシクロ[11.3.0]ヘキサデカ−13−エン、1,14−ジアザビシクロ[11.4.0]ヘプタデカ−13−エンなどが挙げられる。これらの中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。なお、これらのジアザビシクロアルケン化合物は、塩を形成していてもよく、その塩を形成する化合物としては、有機カルボン酸およびアルキルリン酸(ジンクジアルキルジフォスフェイトを含む)が好ましい。
【0080】
グアニジン化合物の具体例としては、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩などが挙げられ、1,3−ジ−o−トリルグアニジンが好ましい。
【0081】
本発明で用いるアクリルゴム組成物中における、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物の含有量は、アクリルゴム100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.3〜10重量部である。上記化合物の含有量が上記範囲内であると、架橋が十分に行われ、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着が強固のものとなる。一方、少なすぎると、架橋が十分に進行せず、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着性が劣る場合があり、架橋促進剤が多すぎると、架橋時に架橋速度が早くなりすぎたり、得られる架橋ゴム層表面ヘの架橋促進剤のブルームが生じたり、架橋ゴム層が硬くなりすぎたりするおそれがある。これらのジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物は、一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。
【0082】
<アクリルゴム組成物>
本発明で用いるアクリルゴム組成物には、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物以外に、ゴム加工分野において通常使用される配合剤を配合することができる。このような配合剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカなどの補強性充填剤;炭酸カルシウムやクレーなどの非補強性充填材;老化防止剤;光安定剤;可塑剤;加工助剤;滑剤;粘着剤;潤滑剤;難燃剤;防黴剤;帯電防止剤;着色剤;シランカップリング剤;架橋遅延剤;などが挙げられる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0083】
さらに、本発明で用いるアクリルゴム組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴム、エラストマー、樹脂などをさらに配合してもよい。例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどの、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴム;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマーなどのエラストマー;ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などの樹脂;などを配合することができる。なお、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴム、エラストマー、および樹脂の合計配合量は、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対して、好ましくは50重量部以下、より好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0084】
本発明で用いるアクリルゴム組成物は、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物、および必要に応じて使用されるその他の配合剤などを配合し、バンバリーミキサーやニーダーなどで混合、混練し、次いで、混練ロールを用いて、さらに混練することなどにより調製される。
【0085】
各成分の配合順序は、特に限定されないが、熱で反応や分解しにくい成分を十分に混合した後、熱で反応や分解しやすい成分である、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物から選ばれる少なくともいずれかの化合物とを、反応や分解が起こらない温度で短時間に混合することが好ましい。
【0086】
本発明で用いるアクリルゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4、100℃)(コンパウンドムーニー)は、好ましくは10〜100、より好ましくは20〜90、さらに好ましくは25〜80である。
【0087】
<積層体、および積層体の製造方法>
本発明の積層体は、上記熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、上記カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との接着物である。熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着は、熱可塑性重合体組成物とカルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた後、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させて、架橋接着することによりなされる。
【0088】
本発明の積層体の積層方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性重合体組成物と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを、押出機により2層同時押出し、または2機の押出機により内側層上に外側層を押出しすることにより内側層と外側層からなる未接着積層体を押出機により押出して一体化し作製することができる。また、プレス成型機を用いて成型することにより、熱可塑性重合体組成物のシートと、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物のシートとをそれぞれ別々に作製し、張り合わせることにより未接着積層体を作製することができる。成型時の温度は、熱可塑性重合体組成物は、通常、150〜310℃、好ましくは150〜290℃であり、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物は、通常、40〜100℃、好ましくは50〜90℃である。熱可塑性重合体層と架橋ゴム層との接着物は、押出成形後、熱可塑性重合体組成物とカルボキシル基含有アクリルゴム組成物とが接した状態にて、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させることにより、熱可塑性重合体層と架橋ゴム層とが架橋接着することにより製造することができる。架橋温度は、通常、130〜220℃、好ましくは150〜190℃であり、架橋時間は、通常、2分〜10時間、好ましくは3分〜5時間である。加熱方法としては、プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、および熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる方法を適宜選択すればよい。また、積層体の形状、大きさなどによっては、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋は、加熱方法、架橋温度、形状などにより異なるが、好ましくは1〜48時間行う。加熱方法、加熱温度は適宜選択すればよい。
【0089】
本発明の積層体において、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層との含有割合は、積層体の厚みを1とした場合、熱可塑性重合体層の厚み比が0.01〜0.5、一方、架橋ゴム層の厚み比が0.5〜0.99であることが好ましい。熱可塑性重合体層が厚すぎると、ホースの柔軟性が劣り、一方、薄すぎると、積層体の耐燃料油性、耐燃料透過性に劣るおそれがある。
【0090】
本発明の積層体は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層および/またはカルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層を2つ以上有していてもよいし、他の材料からなるその他の層を有していてもよい。上記他の材料としては、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよいが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂などの熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどの架橋ゴム;ポリプロピレン/EPDM複合体などの熱可塑性エラストマー;金属;ガラス;木材;セラミック;などをあげることができる。
【0091】
このようにして得られる本発明の積層体は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層とが強固に接着したものである。また、本発明の積層体は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層とを有するため、「柔軟性」、「耐燃料油性」、「低透過性」、および「耐熱性」に、特に優れたものである。
【0092】
そのため、本発明の積層体は、その特性を活かして、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、メカニカルシール、ウェルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧機器用シールなどの各種シール;シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;各種ベルト;燃料チューブ;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジエーターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;などとして好適に用いられる。これらの中でも、各種ホースとして特に好適に用いられる。
【実施例】
【0093】
以下に、カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例、実施例、および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれら製造例、および実施例に限定されるものではない。なお、各例中の「部」、および「%」は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0094】
実施例、比較例における各種の物性の試験は、以下の方法に従って行った。
【0095】
[ムーニー粘度]
カルボキシル基含有アクリルゴムのムーニー粘度は、JIS K6300に従って、100℃で測定した。
【0096】
〔接着試験〕
得られた積層体を、それぞれ1cm幅×10cmの短冊状に切断して、接着試験用試験片を作製し、この試験片について、オートグラフ(AND社製、RTG−1210 5kN)を使用して、JIS K 6256に記載の方法に準拠し、25℃において、50mm/minの引張速度で剥離試験を行った。剥離モードを観測し、以下の基準で評価した。
【0097】
(接着評価)
◎・・・熱可塑性重合体層/架橋ゴム層界面は剥離せず、架橋ゴム層が材料破壊した。
○・・・熱可塑性重合体層/架橋ゴム層界面で剥離したが、十分に接着しており剥離するのが困難であった。
△・・・熱可塑性重合体層/架橋ゴム層界面で比較的容易に剥離した。
×・・・熱可塑性重合体層と架橋ゴム層とが接着性を示さなかった。
【0098】
(カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例)
温度計、攪拌装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル58部、アクリル酸n−ブチル40部、およびフマル酸モノn−ブチル2部を仕込んだ。その後、減圧脱気および窒素置換を2度行って酸素を十分除去した後、クメンハイドロパーオキシド0.005部、およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率が95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固し、水洗、乾燥してカルボキシル基含有アクリルゴムを得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は45であった。なお、上記得られたカルボキシル基含有アクリルゴムの組成は、アクリル酸エチル単量体単位58重量%、アクリル酸n−ブチル単量体単位40重量%、およびフマル酸モノn−ブチル単量体単位2重量%であった。
【0099】
(実施例1)
上記製造例で得られたカルボキシル基含有アクリルゴム 100重量部、カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)60重量部、ステアリン酸1重量部、可塑剤(アデカ社製、アデカサイザー RS735)5重量部を、0.8リットルバンバリーを用いて50℃で5分間混練した後、架橋剤としてヘキサメチレンジアミンカーバメート(デュポンダウエラストマージャパン社製、Diak No.1)0.5重量部、および架橋促進剤として1,3−ジ−o−トリルグアニジン(大内新興化学工業社製、ノクセラーDT)2重量部を加えて、50℃のオープンロールで5分間混練し、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を調製した。そして、得られたカルボキシル基含有アクリルゴム組成物を、15cm×15cm×厚み1mmの金型にて充填し、100℃で5分間プレス成型を行ない、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物シート(未加硫物)を作製した。
【0100】
また、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物(ダイキン工業社製、ダイエルTM フルオロ TPV SV−1030)を15cm×15cm×厚み1mmの金型に充填し、270℃で5分間プレス成型をおこない、熱可塑性重合体組成物シートを作製した。
そして、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物シートと、熱可塑性重合体組成物シートとを、それぞれ室温にて張り合わせたもの(熱可塑性重合体組成物とカルボキシル基含有アクリルゴム組成物とを積層させた未接着積層体に該当)を、15cm×15cm×厚み2mmの金型に充填し、170℃で20分間プレス加硫し、その後、170℃で4時間、二次加硫を行ない、接着試験用の積層体を作製した。接着試験の結果を表1に示す。
【0101】
(実施例2)
架橋剤促進剤を、1,3−ジ−o−トリルグアニジン2重量部の代わりに、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−セン(ラインケミー社製、XLA−60)2重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を得た。そして、得られたカルボキシル基含有アクリルゴム組成物を用いて、実施例1と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例3)
架橋剤を、ヘキサメチレンジアミンカーバメート0.5重量部の代わりに、2,2,−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(和歌山精化工業社製、BAPP)1重量部に変更した以外は、実施例2と同様にして、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を得た。そして、得られたカルボキシル基含有アクリルゴム組成物を用いて、実施例2と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例1)
架橋促進剤を、1,3−ジ−o−トリルグアニジン2重量部の代わりに、ジアルアキルアミン(花王社製、ファーミンD86)2重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を得た。そして、得られたカルボキシル基含有アクリルゴム組成物を用いて、実施例1と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
架橋促進剤を、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−セン2重量の代わりに、ジアルアキルアミン(花王社製、ファーミンD86)2重量部に変更した以外は、実施例3と同様にして、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を得た。そして、得られたカルボキシル基含有アクリルゴム組成物を用いて、実施例3と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例3)
エポキシ基含有アクリルゴム(日本ゼオン社製、Nipol AR42W)100重量部、カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)60重量部、ステアリン酸1重量部、可塑剤(アデカ社製、アデカサイザーRS735)5重量部を、0.8リットルバンバリーを用いて50℃で5分間混練した後、架橋剤として安息香酸アンモニウム(大内新興化学工業社製、バルノックAB)1.5重量部を加えて、50℃のオープンロールで5分間混練し、エポキシ基含有アクリルゴム組成物を得た。そして、その後は、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物の代わりに、エポキシ基含有アクリルゴム組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0106】
(比較例4)
架橋剤を、安息香酸アンモニウム1.5重量部に代えて、ジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラーPZ)2.5重量部に変更し、架橋促進剤として、ジチオカルバミン酸第二鉄(大内新興化学工業社製、ノクセラーTTFE)0.5重量部、および架橋遅延剤として、スルホンアミド誘導体(ランクセス社製、ブルカレントEC)0.5重量部を用いた以外は、比較例3と同様にして、エポキシ基含有アクリルゴム組成物を得た。そして、得られたエポキシ基含有アクリルゴム組成物を用いて、比較例3と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例5)
塩素原子含有アクリルゴム(日本ゼオン社製、Nipol AR72HF)100重量部、カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)60重量部、ステアリン酸1重量部、可塑剤(アデカ社製、アデカサイザーRS735)5重量部を、0.8リットルバンバリーを用いて50℃で5分間混練した後、架橋剤として硫黄(鶴見化学工業社製、325メッシュ品)0.3重量部、および架橋促進剤としてステアリン酸ナトリウム(花王社製、NSソープ)3重量部、ステアリン酸カリウム(花王社製、SK−1)0.5部を加えて、50℃のオープンロールで5分間混練し、塩素原子含有アクリルゴム組成物を得た。そして、その後は、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物の代わりに、塩素原子含有アクリルゴム組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例6)
架橋剤を、硫黄0.3重量部の代わりに、2,4,6,トリメルカプト−s−トリアジン(三協化成社製 ジスネットF)0.5重量部に変更し、架橋促進剤を、ステアリン酸ナトリウム3重量部、ステアリン酸カリウム0.5部の代わりに、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラーBZ)1.5重量部、ジエチルチオ尿素(大内新興化学工業社製、ノクセラーEUR)0.3重量部に変更し、架橋遅延剤として、N−シクロヘキシルチオフタルイミド(大内新興化学工業社製、リターダーCTP)0.2重量部を用いたこと以外は、比較例5と同様にして、塩素原子含有アクリルゴム組成物を得た。そして、得られた塩素原子含有アクリルゴム組成物を用いて、比較例5と同様に接着試験用の積層体を作製し、接着試験を行なった。結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物として、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ジアザビシクロアルケン化合物またはグアニジン化合物とを含有している実施例1〜3においては、接着試験において、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層とが強固に接着していることが確認された。一方、カルボキシル基含有アクリルゴムを用いてはいるが、架橋促進剤として、ジアザビシクロアルケン化合物およびグアニジン化合物以外の化合物を使用した比較例1および2、ならびにカルボキシル基含有アクリルゴムの代わりに、エポキシ基含有アクリルゴムを用いた比較例3および4、ならびに塩素原子含有アクリルゴムを用いた比較例5および6は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなる熱可塑性重合体層と、カルボキシル基含有アクリルゴム組成物を架橋させてなる架橋ゴム層とが接着しないことが確認された。