特許第5870912号(P5870912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5870912保護膜層用封止剤組成物及びそれを用いた電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5870912
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】保護膜層用封止剤組成物及びそれを用いた電子部品
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20160216BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160216BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20160216BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20160216BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20160216BHJP
   H01C 1/02 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C08G59/62
   C08L63/00 C
   C08K3/36
   H01L23/30 D
   H01C1/02 M
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-277727(P2012-277727)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-122259(P2014-122259A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】両見 春樹
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−368236(JP,A)
【文献】 特開2009−152430(JP,A)
【文献】 特開平07−153601(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0039556(US,A1)
【文献】 特表2005−519169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂化合物(A)、フェノール樹脂化合物(B)、硬化促進剤(C)、無機粉末(D)、および溶剤(E)を必須成分とする熱硬化型の保護膜層封止剤において、
エポキシ樹脂化合物(A)として、2官能型のエポキシ樹脂化合物を用い、また、硬化促進剤(C)として、前記エポキシ樹脂化合物と100〜200℃までに反応を開始する硬化促進剤を用い、各成分の含有量は、エポキシ樹脂化合物(A)が総量に対して20〜60重量%、フェノール樹脂化合物(B)がエポキシ樹脂化合物(A)に対して20〜60重量%、硬化促進剤(C)がエポキシ樹脂化合物(A)に対して0.01〜0.3重量%、無機粉末(D)が総量に対して15〜50重量%、また、溶剤(E)が総量に対して5〜30重量%であることを特徴とする保護膜層用封止剤組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂化合物(A)は、粘度が25℃で2.5〜100Pa・sの2官能のビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の保護膜層用封止剤組成物。
【請求項3】
フェノール樹脂化合物(B)が、ノボラックフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の保護膜層用封止剤組成物。
【請求項4】
硬化促進剤(C)が、3級アミン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、または2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の保護膜層用封止剤組成物。
【請求項5】
無機粉末(D)は、平均粒径が0.5〜5μmのシリカ粉末であることを特徴とする請求項1に記載の保護膜層用封止剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の保護膜層用封止剤組成物を抵抗体層に塗布し硬化して、保護膜を形成してなる電子部品。
【請求項7】
請求項6記載の抵抗体層が、チップ抵抗器の保護膜として形成された電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜層用封止剤組成物及びそれを用いた電子部品に関するもので、より詳しくは、抵抗体の保護膜層用封止樹脂として、比較的安価でありながら、抵抗体の抵抗値変化率が小さく且つ保存安定性の優れた保護膜層用樹脂組成物及びそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のチップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等では、厚膜抵抗体が形成されている。その製造工程では、アルミナ基板上にAgまたはAuを主成分とする厚膜導体ペーストを印刷して焼成することにより電極形成し、得られた電極間に抵抗ペーストを印刷して焼成することにより、厚膜抵抗体を形成している。このように印刷されて焼成された状態の厚膜抵抗体は、抵抗値分布が大きいために、所望する範囲の抵抗値とするには、歩留まりが悪いという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、一般にレーザトリミングにより厚膜抵抗体の抵抗値を上昇させて調整する。さらに、レーザトリミングの精度を向上させる目的や、得られる厚膜抵抗体を用いた製品である電子部品としての信頼性を向上させる目的で、レーザトリミングの前に、厚膜抵抗体の上に保護ガラスペーストを印刷して焼成することにより、保護ガラス層(プリコート)を形成し、得られた保護ガラス層を通してレーザトリミングを行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
プリコートは、レーザトリミングにより生じる飛散物が、厚膜抵抗体の上に付着することを防ぐものであるが、このプリコートが形成されることにより、レーザ光が厚膜抵抗体に直接当たらないようになる。このように、プリコートには、レーザトリミングの間に厚膜抵抗体が受けるダメージを軽減させる働きがある。
【0005】
レーザトリミングの後は、オーバーコートとして、厚膜抵抗体とプリコートの表面を覆うように、プリコートと同一のガラスペーストか、あるいは、異なるガラスペーストを印刷して焼成することにより、厚膜抵抗体を外部の環境から保護している。また、レーザトリミングの後に、熱硬化型の保護膜層用封止樹脂組成物を印刷して熱硬化させることにより、厚膜抵抗体を外部の環境から保護している。
【0006】
しかし、レーザトリミングの後に、さらにガラスペーストを印刷して焼成した場合、得られる厚膜抵抗体の抵抗値が変動する。このため、近年では、オーバーコートとして、熱硬化型の保護膜層用封止剤組成物を使用する方法が多くなっているが、熱硬化型の保護膜層用封止樹脂組成物を使用する方法は、ガラスペーストを使用する方法に比べ、一般に信頼性が低いとされている。この理由としては、熱硬化型の保護膜層用封止剤組成物を使用して得られるオーバーコート樹脂層が、ガラスペーストを印刷して得られるオーバーコートガラスに比べて、吸湿性および透湿性が高いことも原因の一つであるが、プリコートとオーバーコート樹脂層との密着が十分でなく、これらの隙間から水分等が浸入することにより、抵抗器の信頼性を低下させることも原因であると考えられている。また、熱硬化型の保護膜層用封止剤組成物は、室温で保存すると徐々に硬化反応が進み使用できなくなるので、保存安定性の良いものが要求されている。また、安価なものが要望されており、より薄くオーバーコートしても特性が低下しないことが必要とされている。
【0007】
そのため封止用エポキシ樹脂組成物の信頼性を高めるために、脂環式エポキシ樹脂とフェノールアラルキル樹脂と硬化促進剤を含んだエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、脂環式エポキシ樹脂を用いるためにコストを低減しにくく、また、抵抗体との信頼性や封止剤組成物の保存安定性が考慮されていない。
【0008】
特許文献3に、めっき液に対する耐久性を向上させたエポキシ樹脂組成物が開示されている。ここでは、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、フェノールアラルキル樹脂と、フェノール変性キシレン樹脂とを含むことで硬化後に、耐熱性、及び耐クラック性に優れ、めっき液に対する耐久性を有する保護膜層用封止剤が提供されるとしているが、高コストであるだけでなく、多官能エポキシ樹脂であるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を使用しているので、保存安定性を満足する結果が得られていないし、抵抗体との信頼性が考慮されていないので不十分である。
【0009】
こうした状況の下、チップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の電子部品中に使用される抵抗体との信頼性が良く、保存安定性に優れた熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−020250号公報
【特許文献2】特開平07−278260号公報
【特許文献3】特開2009−91424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、前述した従来技術の問題点に鑑み、抵抗体との信頼性が高く、保存安定性に優れた熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物及びそれを用いた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂化合物、フェノール樹脂化合物、硬化促進剤、シリカ粉末、溶剤を必須成分とする熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物において、特定のエポキシ樹脂化合物と100〜200℃までに反応を開始する硬化促進剤を特定量配合すると、抵抗体との信頼性が高く、保存安定性に優れた熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、エポキシ樹脂化合物(A)、フェノール樹脂化合物(B)、硬化促進剤(C)、無機粉末(D)、および溶剤(E)を必須成分とする熱硬化型の保護膜層封止剤において、
エポキシ樹脂化合物(A)として、2官能型のエポキシ樹脂化合物を用い、また、硬化促進剤(C)として、前記エポキシ樹脂化合物と100〜200℃までに反応を開始する硬化促進剤を用い、各成分の含有量は、エポキシ樹脂化合物(A)が総量に対して20〜60重量%、フェノール樹脂化合物(B)がエポキシ樹脂化合物(A)に対して20〜60重量%、硬化促進剤(C)がエポキシ樹脂化合物(A)に対して0.01〜0.3重量%、無機粉末(D)が総量に対して15〜50重量%、また、溶剤(E)が総量に対して5〜30重量%であることを特徴とする保護膜層用封止剤組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、エポキシ樹脂化合物(A)は、粘度が25℃で2.5〜100Pa・sの2官能のビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物が提供される。
【0015】
また,本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、フェノール樹脂化合物(B)がノボラックフェノール樹脂であることを特徴とする熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、硬化促進剤(C)が、3級アミン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、または2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールから選ばれる一種以上であることを特徴とする熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物が提供される。
【0017】
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、無機粉末(D)は、平均粒径が0.5〜5μmのシリカ粉末であることを特徴とする熱硬化型の保護膜層用封止剤組成物が提供される。
【0018】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜5の発明のいずれかの保護膜層用封止剤組成物を抵抗体層に塗布し硬化して、保護膜を形成してなる電子部品。
【0019】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明の保護膜を含むチップ抵抗器が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、エポキシ樹脂化合物、フェノール樹脂化合物、硬化促進剤、無機粉末、溶剤を必須成分とし、エポキシ樹脂化合物として2官能型化合物を用い、これにエポキシ樹脂化合物と100〜200℃までに反応を開始する硬化促進剤を特定量配合しているので、この熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物は、抵抗体との信頼性が高く、保存安定性に優れている。
また、比較的安価で入手しやすい材料を用いているので、従来よりも低コストで信頼性の高い、チップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の電子部品を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
1.熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物
本発明に係る熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物は、エポキシ樹脂化合物、フェノール樹脂化合物、無機粉末、硬化促進剤、溶剤が配合された熱硬化型の保護層膜用封止剤において、エポキシ樹脂化合物が2官能エポキシ樹脂化合物、硬化促進剤がエポキシ樹脂化合物と100〜200℃までに反応を開始するものであり、これらを特定量含有することを特徴としている。
【0023】
A.エポキシ樹脂化合物
エポキシ樹脂化合物は、公知のビスフェノールA型やビスフェノールF型などの2官能エポキシ樹脂化合物が使用できる。好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0024】
2官能エポキシ樹脂化合物は、25℃で液状のものが好ましく、粘度が25℃で2.5〜100Pa・sのものがより好ましい。これらのものは比較的安価ながら、フェノール樹脂化合物や無機粉末と混合しやすく、下記硬化促進剤によって硬化しやすい。固形の2官能エポキシ樹脂化合物であっても本発明の範囲内の溶剤で溶解できるのであれば問題ない。
なお、2官能エポキシ樹脂化合物には、本発明の目的を損なわない範囲で、3官能以上のエポキシ樹脂化合物や脂環式エポキシ樹脂を配合しても良い。しかし、これらを用いるとコストが低減しにくく、配合し過ぎると保存安定性が悪くなるという問題もある。
【0025】
エポキシ樹脂化合物の含有量は、総量に対して20〜60重量%とする。好ましくは、25〜58重量%で、より好ましくは30〜55重量%である。20重量%未満であると樹脂成分が少ないため抵抗値変化率が悪化し、60重量%を超えると塗布性が悪化する。
【0026】
B.フェノール樹脂化合物
フェノール樹脂化合物は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタンジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂などの公知のフェノール樹脂が使用できる。好ましくはノボラック型フェノール樹脂である。ノボラック型フェノール樹脂であると、抵抗値変化抑制への作用効果が大きい。なお、フェノール樹脂化合物として、上記フェノール樹脂を2種類以上入れても差し支えない。
【0027】
フェノール樹脂化合物の含有量は、エポキシ樹脂化合物に対して20〜60重量%とする。好ましくは、25〜58重量%で、より好ましくは30〜55重量%である。20重量%未満であると硬化不足により抵抗変化率が悪化し、60重量%を超えると保存安定性が悪化する。
【0028】
C.硬化促進剤
硬化促進剤としては、100〜200℃に加熱するとエポキシ樹脂化合物と速やかに反応し、かつフェノール樹脂化合物の硬化促進剤として機能し始め、室温で長期間の貯蔵安定性を満足できるものを使用する。例えば、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、または2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールや3級アミンが例示される。反応開始温度が100℃以下の場合,保護層膜用封止剤樹脂組成物の保存安定性が悪化する恐れがある。反応開始温度が200℃を超えるような硬化促進剤は現在のところ入手し難い。硬化促進剤としては、エポキシ樹脂化合物と120〜180℃に加熱すると反応し始めるものが好ましく、130〜150℃に加熱すると反応し始めるものがより好ましい。
なお、硬化促進剤には、本発明の目的を損なわない範囲でエポキシ樹脂化合物との反応開始温度が100℃以下のものを配合しても構わない。
【0029】
硬化促進剤は、エポキシ樹脂化合物に対して0.01〜0.3重量%が望ましい。好ましくは0.02〜0.28重量%で、より好ましくは0.03〜0.25重量%である。0.01重量%未満であると硬化不足により抵抗変化率が悪化し、0.3重量%を超えると保存安定性が悪化する。
【0030】
D.無機粉末
無機粉末としては、チクソ性を制御し塗布性を良くするものであれば特に限定されないが、比較的入手しやすく価格の安いシリカ粉末、アルミナ粉末、マグネシア粉末、ジルコニア粉末などが挙げられる。好ましくはシリカ粉末である。シリカ粉末は、ガラスコートとの親和性が高く、封止効果を向上させる効果が大きい。なお、無機粉末として2種類以上入れても差し支えない。
無機粉末の平均粒径は、特に限定されないが、塗布性や抵抗値変化抑制の面から0.5〜5μmが好ましい。より好ましいのは、1〜3μmである。
【0031】
無機粉末の含有量は、総量に対して15〜50重量%とする。好ましくは、16〜45重量%で、より好ましくは、18〜40重量%である。15重量%未満であるとチクソ性が小さいため塗布性が悪化し、50重量%を超えるとチクソ性が大きいため塗布性が悪化する。
【0032】
E.溶剤
本発明では、組成物の粘度調整用に溶剤を使用する。保護層膜用封止剤組成物の硬化温度は200℃付近のため、それが硬化する際、溶剤成分が揮発・蒸発し、または分解して飛散してしまう有機化合物が使用できる。好ましい溶剤として、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチル、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチル、酢酸2−n−ブトキシエチル等が挙げられる。これらは単独でも、複数種を混合して使用してもよい。
【0033】
溶剤は、5〜30重量%配合する。5重量%未満であると保護層膜用封止剤組成物の粘度が高くなって塗布性を悪化させる場合があり、逆に、30重量%を超えて配合すると粘度が低すぎて塗布性を悪化させたり、抵抗体との密着性や信頼性に悪影響を与えることがある。好ましい含有量は、10〜25重量%である。
【0034】
F.添加剤
本発明では、任意成分として、無機顔料や有機顔料等を添加剤として配合することができる。具体的には、二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、カーボンブラック等の無機顔料やキナクリドン、フタロシアニン、イソインドリノンなどの有機顔料等が挙げられる。
【0035】
2.電子部品
本発明の保護層膜用封止剤組成物は、各種電子部品、特にチップ抵抗器の保護膜として使用される。
【0036】
厚膜チップ抵抗器の製造は、まず、アルミナ基板上に銀−パラジウムなどの導電ペーストを印刷、乾燥し、ベルト式連続焼成炉によって約850℃の温度で焼成して上面電極を形成した後、上面電極の一部に重なるようにルテニウム系抵抗ペーストを印刷し、乾燥し、再度ベルト式連続焼成炉によって約850℃の温度で焼成して抵抗体を形成する。次に、ガラスペーストを抵抗体上面に印刷、乾燥し、ベルト式連続焼成炉によって550〜650℃程度の温度で焼成し(プリコートガラスの形成)、続いてレーザー光によって前記抵抗体の一部を破壊し抵抗値の修正を行った後、再び抵抗体上に本発明の保護層膜用封止剤組成物を塗布、100〜200℃の温度で3〜20分乾燥し、180〜210℃に保持されたオーブンに20〜40分間放置し熱硬化する(オーバーコート樹脂層の形成)。
【0037】
次にアルミナ基板を短冊状に切断し(トリミング工程)、ディッピングあるいはローラー等によって側面に導電性の銀あるいは銀−パラジウムペーストを塗布し、乾燥後550〜650℃で焼成して側面電極を形成し、小さなチップ状に切断する。最後に、露出した上面電極および側面電極には、半田付け時の電極喰われ防止のために、Niメッキ、Sn−Pbメッキが施される。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、用いた原材料は次のとおりである。
なお、実施例1〜14及び、比較例1〜15の各試料は下記の成分を混練後、下記に示す評価を行なった。
【0039】
(1)エポキシ樹脂化合物
2官能エポキシ樹脂化合物A ビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物(三菱化学株式会社製:jER−828、粘度13.5Pa・s)
2官能エポキシ樹脂化合物B ビスフェノールF型エポキシ樹脂化合物(三菱化学株式会社製:jER−807、粘度3.3Pa・s)
2官能エポキシ樹脂化合物C ビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物(三菱化学株式会社製:JER−YL980、粘度15Pa・s)
3官能エポキシ樹脂化合物 フェノールノボラック型エポキシ樹脂化合物(三菱化学株式会社製:JER−604、粘度7.5Pa・s)
【0040】
(2)フェノール樹脂化合物
フェノール樹脂化合物A ノボラックフェノール樹脂化合物(明和化成株式会社製:MEHC−7800H)
フェノール樹脂化合物B レゾールフェノール樹脂化合物(住友ベークライト株式会社:PR−50607B)
フェノール樹脂化合物C アラルキル型フェノール樹脂化合物(三井化学株式会社製:ミレニックスXLC−4L)
フェノール変性キシレン樹脂 ノボラック型フェノール変性キシレン樹脂(フドー株式会社製:P−100)
【0041】
(3)硬化促進剤
硬化促進剤A 2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成株式会社:キュアゾール2PHZ−PW、反応開始温度:146℃)
硬化促進剤B 2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成株式会社:キュアゾール2P4MHZ−PW、反応開始温度:130℃)
硬化促進剤C 2−フェニル−4−メチルイミダゾール(四国化成株式会社:キュアゾール2P4MZ、反応開始温度:97℃)
硬化促進剤D トリパラトリルホスフィン(北興化学工業株式会社:TPTP、反応開始温度:165℃)
【0042】
(4)無機粉末
シリカ 二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:RY200S)
アルミナ 酸化アルミニウム(西尾工業株式会社:溶融アルミナ#8000)
【0043】
(5)溶剤
溶剤A 2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール(関東化学株式会社:2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール)
溶剤B 酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチル(関東化学株式会社:酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチル
【0044】
(6)添加剤
カーボンブラック 三菱カーボンブラック(三菱化学株式会社製:CB−44)
カップリング剤 3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(JNC株式会社製:S510)
エラストマー 末端カルボキシル基アクリロニトリルブタジエンゴム(日本ゼオン株式会社製:Nipol1072J)
ベントナイト ベントナイト(株式会社ホージュン社製のエスベンNZ)
タルク 微粉タルク(日本タルク株式会社製:SG−95)
【0045】
(1)抵抗値変化率の測定
予めアルミナ基板に、Ag/Pd抵抗ペーストとして公称抵抗値1MΩのペースト(住友金属鉱山株式会社製、製品番号:R−16UM)を印刷し、ピーク温度850℃、ピーク時間9分で焼成し、電極を形成して厚膜抵抗体を形成した。得られた厚膜抵抗体のサイズは電極間が0.3mm、幅が0.3mm、膜厚が12μmであった。この厚膜抵抗体を覆うようにガラスペースト(住友金属鉱山株式会社製、IG−9001)を印刷し、ピーク温度600℃、ピーク時間5分で焼成した。このガラスコートした抵抗体の抵抗値が1.5倍となるようにレーザトリミングを行なった。レーザトリミングの条件は、スピード60mm/s、Q−レート9kHz、パワー4Wであり、レーザトリミング形状は直線カットとした。
【0046】
次に、レーザトリミング後の抵抗体に実施例または比較例で調製した保護膜層用封止剤組成物を印刷し、200℃で10分乾燥させ、その後、200℃に保持されたオーブンに30分間放置し、保護膜層用封止剤組成物を硬化させ抵抗器を作製した。
得られた抵抗器にSnメッキCu線を電線としてはんだ付けし、その両端をプレッシャークッカー試験機の中に配線した。それを温度が121℃、相対湿度が100%に保持し、100時間50Vを印加し加速試験を行なった。試験後の抵抗値を試験前の抵抗値で除した値を抵抗値変化率として表した。
【0047】
(2)ポットライフ
混練された保護層膜用封止剤組成物を25℃で保管しながら、1回/日の頻度で粘度を測定し、初期粘度から20%以上高くなるまでの日数を測定した。
ブルックフィールド社製のB型粘度計を用い、50rpm時の粘度を計測した。
【0048】
(3)クラック評価
保護膜層用封止剤組成物の硬化後、クラックが入っているか顕微鏡で観察した。クラックが1つでも確認されるものは不可(×)、それが確認されない場合は良(○)とした。
【0049】
(4)塗布性
試料(保護層膜用封止剤組成物)を用いて、400メッシュのスクリーンにて長さ0.3mm、幅0.3mmのパターンを印刷し、印刷面に欠け、かすれ、ダレ等があるものは不可(×)、それらが確認されない場合は良(○)とした。
【0050】
(5)総合評価
上記の4項目において、抵抗値変化率が0.4以下、ポットライフが20日以上、クラック評価が良(○)、塗布性が良(○)の条件を全て満たしたもののみ良(○)とし、1つでも条件に満たさないものがある場合は不可(×)とした。
【0051】
(実施例1)
樹脂成分として2官能エポキシ樹脂化合物A(三菱化学株式会社製:jER−828)、硬化剤成分として、ノボラックフェノール樹脂化合物A(明和化成株式会社製:MEHC−7800H)、硬化促進剤成分Aとして、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成株式会社:キュアゾール2PHZ−PW)、添加剤成分として、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:RY200S)及び、三菱カーボンブラック(三菱化学株式会社製:CB−44)を用意し、溶剤成分Aの2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール(関東化学株式会社:2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール)を混合して、保護膜層用封止剤組成物を調製し、3本ロール型混練機を使用して混練し、本発明の保護膜層用封止剤組成物を得た。
この封止剤組成物を用いて、アルミナ基板上に印刷し、上記の条件で抵抗値を測定し抵抗値変化率を算出した。また、当該封止剤組成物の25℃保持におけるポットライフ、硬化後のクラックの有無、また、スクリーンにより基板へ印刷し、塗布性を評価した。この結果は表1に併記した。表1中、各成分の濃度は重量%で示している。
【0052】
(実施例2〜14)
表1に記載したように樹脂成分、硬化剤成分、硬化剤成分、硬化促進剤成分、添加剤成分、溶剤成分の種類を変えるか、それらの配合量を変えた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製し、3本ロール型混練機を使用して混練し、本発明の保護膜用封止剤組成物を得た。その後、この封止剤組成物を用いて、アルミナ基板上に印刷し、上記の条件で抵抗値変化率を算出した。また、当該封止剤組成物の25℃保持におけるポットライフ、硬化後のクラックの有無、また、スクリーンにより基板へ印刷し、塗布性を評価した。この結果は表1に併記した。
【0053】
(比較例1〜2)
表2に記載したように2官能エポキシ樹脂化合物の代わりに3官能エポキシ樹脂化合物としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂化合物(三菱化学株式会社製:JER−152)を用いたか、硬化促進剤Aの代わりに硬化促進剤Cとして2−フェニル−4−メチルイミダゾール(四国化成株式会社:キュアゾール2P4MZ)を使用した以外は実施例1と同様にして、封止剤組成物を調製し、3本ロール型混練機を使用して混練し、比較用の保護膜用封止剤組成物を得た。その後、この封止剤組成物を用いて、アルミナ基板上に印刷し、上記の条件で抵抗値変化率を算出した。また、当該封止剤組成物の25℃保持におけるポットライフ、硬化後のクラックの有無、また、スクリーンにより基板へ印刷し、塗布性を評価した。この結果は表2に併記した。
【0054】
(比較例3〜12)
表2に記載したように樹脂成分、硬化剤成分、硬化促進剤成分、添加剤成分、溶剤成分の配合量を変えた以外は実施例1と同様にして、封止剤組成物を調製し、3本ロール型混練機を使用して混練し、比較用の保護膜用封止剤組成物を得た。その後、この封止剤組成物を用いて、アルミナ基板上に印刷し、上記の条件で抵抗値変化率を算出した。また、当該封止剤組成物の25℃保持におけるポットライフ、硬化後のクラックの有無、また、スクリーンにより基板へ印刷し、塗布性を評価した。この結果は表2に併記した。
【0055】
(比較例13〜15)
保護層膜用封止剤組成物として、特許文献3に記載の封止剤組成物を参考に配合したものを用い(比較例13)、市販されているナミックス株式会社製、1033Bを比較例14として用いた。また、シリカ粉末を用いずに(比較例15)、比較用の保護層膜用封止剤組成物を調製した。
その後、実施例1〜14と同様にして、それぞれアルミナ基板上に印刷し、上記の条件で抵抗値変化率を算出した。また、当該封止剤組成物の25℃保持におけるポットライフ、硬化後のクラックの有無、また、スクリーンにより基板へ印刷し、塗布性を評価した。この結果は表3に併記した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
「評価」
上記結果を示す表1から明らかなように、実施例1〜4、6〜10、12〜14の保護層膜用封止剤組成物は、2官能のエポキシ樹脂化合物や特定の硬化促進剤成分、無機粉末などを特定量含有しているために、抵抗変化率、ポットライフ、クラック性、塗布性のいずれも優れていることが分かる。なお、実施例5は、ポットライフがやや短めだが、実用上問題のないレベルである。実施例11は、抵抗率変化がやや大きめだが、実用上問題のないレベルである。
【0060】
これに対し、表2,3から明らかなように、比較例1は、3官能のエポキシ樹脂化合物を使用しており比較的低温でも反応が進むため、ポットライフが不可となった。
比較例2は、硬化促進剤Cを使用しており、反応開始温度が早いため2官能エポキシ樹脂化合物Aとの反応が活性化され、ポットライフが不可となった。比較例3は、2官能エポキシ樹脂化合物Aの量が20重量%未満のため、抵抗体との密着力不足の影響から抵抗値変化率が不可、また、相対的にフェノール樹脂化合物Aの濃度が高くなったため、室温で硬化が進みポットライフが不可となった。比較例4は、2官能エポキシ樹脂化合物Aが60重量%を超えているので、硬化剤であるフェノール樹脂化合物Aとの量が合わないことから、抵抗体との密着力不足が影響して抵抗値変化率が不可となった。比較例5は、2官能エポキシ樹脂化合物Aに対してフェノール樹脂化合物Aが少ないため硬化不足が起こり、抵抗値変化率が不可となった。比較例6は、2官能エポキシ樹脂化合物Aに対してフェノール樹脂化合物Aが多いため硬化が進み、ポットライフが不可となった。比較例7は、2官能エポキシ樹脂化合物Aに対して硬化促進剤Aが少ないため硬化時に硬化不足が起こり、抵抗値変化率で不可となった。比較例8は、2官能エポキシ樹脂化合物Aに対して硬化促進剤Aが多いため硬化が進み、ポットライフが不可となった。比較例9は、無機粉末が15重量%未満のため、塗布性が悪く、抵抗値変化率も不可となった。比較例10は、無機粉末が50重量%より多いため、塗布性が悪く、クラックも発生し不可となった。比較例11は、溶剤Aが5重量%未満のため、塗布性が悪く不可となった。比較例12は、溶剤Aが30重量%より多いため、塗布性が悪く不可で、抵抗値変化率も不可となった。
比較例13は、特開2009−91424号公報を参考に評価したが、抵抗値変化率が大きく不可で、ポットライフも不可となった。比較例14は、ナミックス株式会社製1003Bを参考に評価したが、抵抗値変化率が大きく不可で、ポットライフも不可となった。また、比較例15は、シリカを配合しなかったので塗布性が悪く、硬化促進剤が多く添加されているのでポットライフが不可となった。また、有機リン化合物を添加しているので環境への負担が大きく、展開するには課題が残る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、エポキシ樹脂化合物として2官能型化合物を用い、これにエポキシ樹脂化合物と100〜200℃までに反応を開始する硬化促進剤を特定量配合した熱硬化型の保護層膜用封止剤組成物を用いるので、抵抗体との信頼性が高いチップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の電子部品を低コストで生産性よく製造できる。