(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対向した2枚の透明性基板の間に狭持された誘電体層を有する光変調素子であって、前記透明性基板の少なくとも1枚には透明電極が形成されており、当該電極に入力された電気信号によって生じる電場に応答して光を変調することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶組成物を使用する光変調素子。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪光変調素子≫
本発明の光変調素子は、少なくとも1枚以上の透明性基板と該透明性基板に積層されている誘電体層からなり、前記誘電体層が外場反応性物質を含有し、前記外場反応性物質が、最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)が2.6eV〜5.4eVである外場反応性物質(A)を90モル%〜100モル%含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の光変調素子は、入射されてくる光を変調させて出射し、光学的な機能を発現するものである。本発明の光変調素子は、液晶表示素子、ホログラム用素子、位相差フィルム等の位相差素子、波長分割多重素子等の光通信用素子、電界発光素子等の照明用素子および3Dプリンター用素子等として使用することができる。
【0010】
本発明において使用する透明基板の材質としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリシクロオレフィン、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリイミドアミド、トリアセチルセルロース(TAC)等の可撓性ポリマーや、ガラス繊維強化プラスチック、セルロース繊維強化プラスチックのような複合素材から作られた基板、ガラス等の無機材料が例示でき
る。これらのなかでも、ガラスが好ましい。
【0011】
本発明において、光変調素子は、少なくとも1枚以上の透明性基板を有していればよいが、2枚有することが好ましい。2枚以上の基板を有する場合には、互いに同一種類の材質からなっていても、異なる材質からなっていても構わない。
【0012】
本発明において誘電体層は、外場反応性物質を含有する。
本発明において、外場反応性物質とは、外場からの物理的・化学的刺激に反応して機能制御できる物質をいう。
外場反応性物質の外場としては、磁場、電場、偏光(レーザー又は大光量ランプ)等の光場、せん断力等の流動(流動場)などが挙げられる。
本発明において、外場反応性物質としては、例えば焦電性物質、圧電性物質、強誘電性物質、蛍光物質、燐光物質、色素、液晶性物質等の誘電性物質が挙げられる。液晶性物質は主に液晶性分子の集合体からなっており、外場によって分子配列を自在に制御することができるという特徴を有している。例えば、外場に電界を用いた場合、複数の電極間に電圧を印加することにより、基板に対して垂直に並んでいた液晶分子が、基板に対して平行に配向変化したり、基板に対しておよそ平行に並んでいた液晶分子が、基板に対して平行な配向を残したまま分子の向きだけ変えるように配向変化したりするので、液晶分子の動的な配向の電界制御が可能である。また、液晶性物質に外場として温度を加えたり奪ったりする作用を与えることにより、液晶相の秩序度に変化を与えることができる。さらに、液晶性分子と色素あるいは蛍燐光物質とを含有する液晶性物質においては、外場として光照射により光エネルギーを与えることによって、液晶相の秩序に変化を与えることが可能である。いずれの作用においても、入力光を変調して出射光として取り出すことができる。このように、液晶性物質には、いろいろな外場に対して光変調を行うことが可能であるという特長を持つ。本発明において、外場反応性物質は液晶分子であることが好ましい。
本発明においては外場反応性物質としては、該外場反応性物質の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)が2.6eV〜5.4eVである外場反応性物質(A)を90モル%〜100モル%含有する。
【0013】
光変調素子は、光を変調する素子であり、光が照射されることを想定したものである。そのため、光照射を長時間続けても性能が変化しないように、充分な光安定性が必要である。
本発明の光変調素子は、後述するように、基板、電極、配線、無機保護膜、有機保護膜、偏光板、位相差フィルム等の周辺部材を有する。
光照射は、時にして光変調素子の劣化を引き起こす。これは、光照射エネルギーにより、光変調素子の構成材料が光分解や光劣化を起こすためである。即ち、光変調素子の光安定性を高めるためには、第一に、光変調素子を構成する外場反応性物質の光安定性を高めることが必要条件と考えられる。
そこで、本発明者らは、外場反応性物質又は周辺部材が光励起して、励起一重項を生成した後、その一部が項間交差をして最低三重項を生成した後の失活過程に注目した。最低三重項状態は一般的に励起一重項と比べて励起寿命が非常に長いため、光劣化を引き起こす原因となる光反応の発生確率が高いためである。
外場反応性物質又は周辺部材が光励起されるためには、物質が光を吸収するか、励起分子から励起エネルギーの移動が起こることのいずれかが必要である。外場反応性物質又は周辺部材のいずれか一方が光照射により光励起されたとしても、それらが光化学反応を起こさずに各々独立して失活して基底状態に戻ることにより、素子の光安定性が保たれると考えられる。これが第一の光安定性の機構である。
【0014】
次に、物質の光励起後、例えば、液晶分子間でのエネルギー移動、液晶分子から周辺部材へのエネルギー移動、周辺部材から液晶分子へのエネルギー移動、周辺部材間でのエネルギー移動、等により、周囲とのエネルギー移動により適度にエネルギーの緩和過程を経て失活することにより過度な光劣化に至らず、光変調素子の光安定性を保つことができると考えられる。これが第二の光安定性の機構である。
本発明者らは、光変調素子を構成する誘電体層が、エネルギー準位(T
1)が2.6eV〜5.4eVである外場反応性物質を90モル%〜100モル%含有する場合に、程よいエネルギー緩和工程を経て失活して光劣化が抑制され、光安定性を保つことができることを見出した。
【0015】
励起エネルギーの移動は、エネルギー準位の高い物質からエネルギー準位の低い物質に向かって起きる。従って、励起された物質のエネルギー準位とエネルギーを受け取る物質のエネルギー準位との相対関係が重要な要素である。外場反応性物質の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)が2.6eV以上であることにより、外場反応性物質の分解による失活がおこり難くなると考えられる。これは、2.6eV以上であると、外場反応性物質のエネルギー準位が低過ぎず適当な高さとなり、エネルギー準位のさらに低い周辺部材にも適度に励起エネルギーを逃がしつつ、穏やかに失活することができると考えられるためである。
一方、外場反応性物質の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)が2.6eV未満であると、そもそも外場反応性物質自体の光安定性が良好ではない化合物が多いため、化合物自体の分解を伴う失活が発生し易い。また、外場反応性物質のエネルギー準位が相対的に周辺部材のエネルギー準位よりも低い場合が多く、周辺部材にエネルギーを逃がす緩和過程を経て失活する確率が低くなると思われる。
【0016】
外場反応性物質の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)を5.4eV以下とすることにより、外場反応性物質のエネルギー準位が高過ぎず適当な高さとすることができるため、種々の光分解を伴う光反応がおこり難くなる。また、周辺部材のエネルギー準位が外場反応性物質のエネルギー準位と比べて相対的にやや低い状態であり、これらの間で適度で緩やかなエネルギー移動が起こり、過度な光反応を伴わないエネルギー緩和工程を経て失活することができる。そのため、光変調素子の光安定性を高いものとすることができる。
外場反応性物質の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)が5.4eVよりも高い場合には、励起分子のエネルギー準位が非常に高いため、外場反応性物質自体の光反応を誘発するおそれが高まり、これが一つの光安定性不良の原因となる。また、周辺部材のエネルギー準位が外場反応性物質のエネルギー準位と比べて大幅に低い場合が多くなるので、周辺部材から外場反応性物質へのエネルギー移動がおこり難い一方、外場反応性物質から周辺部材へのエネルギー移動が非常に起こりやすくなる。従って、外場反応性物質の励起分子が周辺部材の分解を伴う化学反応を誘起する恐れが高まる。これが第二の光安定性不良の原因となる可能性が高い。
【0017】
本実施形態の誘電体層に含有される外場反応性物質(A)の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)は、3.0〜4.9eVであることが好ましく、3.5〜4.1eVであることがより好ましい。
【0018】
本発明において、外場反応性物質のエネルギー準位は、例えば、りん光測定等の発光スペクトル測定により測定できる。より具体的には、<「蛍光測定−生物科学への応用」 木下一彦・御橋廣眞編、学会出版センター、東京、1983>に記載の方法に従って測定することが好ましい。
エネルギー準位は化合物とその周辺環境によって定まるものであり、りん光測定等により化合物のエネルギー準位を測定し、さらに該化合物を用いた組成物のエネルギー準位を測定することができる。
また、エネルギー準位が高い化合物と低い化合物とを適宜入れ替え、所望のエネルギー準位を有する組成物とすることは当業者であれば実施可能であるが、励起分子はエネルギー移動、エキシマー形成等の複雑な挙動をとるため単純な線形の値をとることは少なく、組成物において所望のエネルギー準位を得るためには、一定の技術とノウハウを必要とする。
【0019】
本実施形態の誘電体層に含有される外場反応性物質(A)の含有量は、90モル%〜100モル%含有であり、93モル%〜100モル%であることが好ましい。
本発明においては、外場反応性物質(A)の含有量を上記の範囲とすることにより励起エネルギーの失活の経路を制御し、光安定性を良好なものとすることができる。
【0020】
また、本発明においては、前記外場反応性物質(A)の励起一重項のエネルギー準位を(S
1)としたとき、前記外場反応性物質が、S
1−T
1の値が1.0eV〜2.0eVである外場反応性物質(A−1)を35モル%〜85モル%有することが好ましい。
【0021】
最低三重項状態にある分子は、その励起寿命の長さから光化学反応に重要であるが、次に励起寿命が短い励起一重項について考える必要がある。光劣化に関わる励起エネルギーの失活経路等の考え方は最低三重項の場合と同様、外場反応性物質と光変調素子の構成素材との間のエネルギー準位の相対関係で扱うが、例えば、S
1−T
1の値が1.0eV〜2.0eVであると、励起一重項のエネルギーレベルが適当な高さであるため、周辺部材と液晶分子間とで適度にエネルギーを逃がしながら失活することができる。
一方、S
1−T
1の値が1.0eV未満であると、励起一重項のエネルギーレベルが低いため光吸収が起きやすい。光吸収により励起一重項が発生すると、これを起点にした光化学反応が起きる。励起一重項から直接光化学反応を起こす場合もあれば、項間交差を経て最低三重項を基点とした光化学反応も含まれる。
S
1−T
1の値が2.0eVより大きいと、励起一重項のエネルギーレベルが高いため光吸収による励起分子ができにくい。さらに、エネルギーレベルが高いことにより、周辺部材が光吸収して励起一重項が生じた場合、周辺部材から外場反応性物質へのエネルギー移動が起きず、緩やかな緩和工程を経ることができない。従って、周辺部材が光分解を伴う光反応を起こすおそれが高くなると思われる。
【0022】
本実施形態の誘電体層に含有される外場反応性物質(A−1)のS
1−T
1の値は、1.2〜1.9eVであることが好ましく、1.1〜1.7eVであることがより好ましい。
本実施形態の誘電体層に含有される外場反応性物質(A−1)の含有量は、35モル%〜85モル%含有することが好ましく、40モル%〜80モル%であることが好ましい。
本発明においては、外場反応性物質(A−1)の含有量を上記の範囲とすることにより、光安定性を良好なものとすることができる。
【0023】
さらに、本発明においては、前記S
1−T
1の値が1300meV±200meVである外場反応性物質(A−1−1)を、25モル%〜65モル%有することが好ましい。
外場反応性物質(A−1−1)のS
1−T
1の値が1300meV±200meVであると、エネルギーレベルが適当な高さであるため、周辺部材と液晶分子間とで適度にエネルギーを逃がしながら失活することができる。
本発明においては、外場反応性物質(A−1−1)の含有量を上記の範囲とすることにより、光安定性を良好なものとすることができる。
【0024】
また、本発明においては、前記外場反応性物質の波長300nm〜650nmにおけるモル吸光係数(ε)が500未満とすることが好ましい。
波長300nm〜650nmにおけるモル吸光係数(ε)が500未満であると、光劣化し難くすることができる。
【0025】
本発明において、外場反応性物質の外場としては、磁場、電場、偏光(レーザー又は大光量ランプ)等の光場、せん断力等の流動(流動場)などが挙げられる。これらは、ラビングローラーのように基板表面に接触させる必要がなく、遠隔的に作用させることができるので、巨大な液晶ディスプレイパネルでも容易に配向処理できることになる。
外場に磁場を用いる場合、液晶分子の異方軸を磁場方向に揃えることができる。外場に偏光を用いる場合も、液晶分子の異方軸を偏光の振動面に揃えることができる。
【0026】
本発明に係る光変調素子は、対向した2枚の透明性基板の間に狭持された誘電体層を有する光変調素子であって、前記透明性基板の少なくとも1枚には透明電極が形成されており、当該電極に入力された電気信号によって生じる電磁波に応答して光を変調するものでることが好ましい。
光変調素子に使用される対抗した2枚の透明性基板はガラス又はプラスチックの如き柔軟性をもつ透明な材料を用いることができる。
透明電極層を有する透明基板は、例えば、ガラス板等の透明基板上にインジウムスズオキシド(ITO)をスパッタリングすることにより得ることができる。
透明電極は、透過率が高い方が好ましく、電気抵抗が小さい方が好ましい。例えば、シート抵抗は150オーム以下が好ましく、100オーム以下が好ましく、50オーム以下が好ましい。
【0027】
誘電体相に液晶物質を使用した場合の例を取ると、2枚の透明性基板の間に誘電体層を有する光変調素子を狭持させる方法は、通常の真空注入法又は滴下注入(ODF:One Drop Fill)法などを用いることができる。真空注入法においては滴下痕が発生しないものの、注入の跡が残る課題を有しているものであるが、本発明においては、ODF法を用いて製造する表示素子により好適に使用することができる。ODF法の光変調素子製造工程においては、バックプレーンまたはフロントプレーンのどちらか一方の基板にエポキシ系光熱併用硬化性などのシール剤を、ディスペンサーを用いて閉ループ土手状に描画し、その中に脱気下で所定量の液晶組成物を滴下後、フロントプレーンとバックプレーンを接合することによって液晶表示素子を製造することができる。本発明の液晶組成物は、ODF工程における液晶組成物の滴下が安定的に行えるため、好適に使用することができる。
【0028】
本発明に係る光変調素子は、対抗した2枚の基板間に誘電体層が狭持された構造を有している。本発明に係る光変調素子は、従来技術による液晶表示素子と同じ構造を有していてもよい。即ち、基板に設けられた配向膜と基板に設けられた電極に電気を印加して、液晶分子の配向が制御されるものであってもよい。また、偏光板、位相差フィルムなどを具備させることにより、この配向状態を利用して表示をさせることができる。光変調素子としては、TN、STN、VA、IPS、FFS及びECBに適用できるが、TNが特に好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
外場反応性物質の最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)、励起一重項のエネルギー準位を(S
1)を測定し、下記表に示すエネルギー準位であったものについて、光信頼性を下記方法により評価したところ、実施例1〜53は良好であった。
下記表中、
(A)は最低三重項励起状態のエネルギー準位(T
1)が2.6eV〜5.4eVである外場反応性物質(A)を、
(A−1)は前記外場反応性物質(A)の励起一重項のエネルギー準位を(S
1)としたとき、前記外場反応性物質が、S
1−T
1の値が1.0eV〜2.0eVである外場反応性物質(A−1)を、
(A−1−1)は前記外場反応性物質が、前記S
1−T
1の値が1300meV±200meVである外場反応性物質(A−1−1)を、それぞれ示す。
【0031】
[光信頼性の評価方法]
<「蛍光測定−生物科学への応用」 木下一彦・御橋廣眞編、学会出版センター、東京、1983>に記載の方法に従って測定した。
【0032】
下記表中、エネルギー準位は「蛍光測定−生物科学への応用」 木下一彦・御橋廣眞編、学会出版センター、東京、1983」に記載の方法に従って測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
[実施例54]
液晶組成物の励起三重項エネルギー準位(T
1)、励起一重項のエネルギー準位を(S
1)とし、液晶組成物のT
1が2.0〜5.4eV、T
1−S
1が1.0〜2.0eVとなるように液晶化合物を混合し、液晶組成物を調製した。各液晶組成物の、T
1とT
1−S
1を
図1に示す。本実施例においては、T
1(
図1の縦軸、2.0〜6.0)とT
1−S
1(
図1の横軸、0.8〜2.2)を
図1に示す値とした、615通りの液晶組成物を調製した。
各液晶組成物のすべてについて、光安定性評価を行った。その結果を
図1に示す。
図1は、光安定性が一番良好であったものを「100」とし、光安定性を相対評価で数値化した結果である。
【0040】
図1に示したように、T
1が2.6〜5.4eVの液晶組成物は、33.3以上と光安定性が良好であった。対照的に、T
1が2.6未満、又は5,4より大きい液晶組成物は、25以下と、光安定性が良好ではなかった。
さらに、T
1が3.0〜4.9eVであると、光安定性に優れ、T
1が3.5〜4.1eVであると特に光安定性に優れていた。
上記に加え、T
1−S
1が1.0〜2.0eVである液晶組成物(
図1中の二重囲線内)は50以上とさらに光安定性に優れ、中でもT
1−S
1が1.2〜1.9eVの液晶組成物は特に光安定性に優れていた。