特許第5871262号(P5871262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871262電解液ジェット加工装置及び電解液ジェット加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871262
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】電解液ジェット加工装置及び電解液ジェット加工方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 7/00 20060101AFI20160216BHJP
   C25F 3/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C25F7/00 L
   C25F3/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-254581(P2011-254581)
(22)【出願日】2011年11月22日
(65)【公開番号】特開2013-108139(P2013-108139A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】国枝 正典
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−317186(JP,A)
【文献】 特開昭62−037390(JP,A)
【文献】 特開昭57−120692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 7/00
C25D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液ノズルと、気体ノズルと、電源とを備えており、
前記電解液ノズルは、工作物に向けて電解液を放出する構成とされており、
前記気体ノズルは、前記電解液ノズルの外周側の位置から、前記電解液と平行となる方向において、前記工作物に向けて気体を吹きつける構成となっており、
前記電源は、前記電解液と前記工作物との間に、前記工作物の除去加工用の極性とされた電流を流すことができる構成となっており
前記気体ノズルから前記工作物に向けて吹きつけられる前記気体の圧力は、前記工作物の上面における、前記電解液ノズルから供給された前記電解液の膜厚を薄くし、かつ、薄くされた前記電解液の外側に前記電解液からなる跳水部を形成することが可能な圧力に設定されている
ことを特徴とする電解液ジェット加工装置。
【請求項2】
前記気体ノズルは、前記気体を、前記電解液を中心として同心円状となるように、前記工作物に向けて吹きつける構成とされている
請求項1に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項3】
前記電源は定電流源である、請求項1又は2に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項4】
前記電解液ノズルと前記気体ノズルとで構成される組を複数個備えている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項5】
前記電解液ノズルを複数個備えており、前記気体ノズルは、これら複数個の電解液ノズルを囲うように配置されている
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項6】
電解液を工作物に向けて放出するステップと、
前記放出される電解液の外周側となる位置から、前記電解液と平行となる方向において、前記工作物に向けて気体を吹きつけるステップと、
前記電解液と前記工作物との間で、前記工作物の除去加工用の極性とされた電流を流すステップと
を備えており、
前記工作物に向けて吹きつけられる前記気体の圧力は、前記工作物の上面における前記電解液の膜厚を薄くし、かつ、薄くされた前記電解液の外側に前記電解液からなる跳水部を形成することが可能な圧力に設定されている
電解液ジェット加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物に対する電解液ジェット加工を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解液ジェット加工とは、ノズルから電解液を工作物(いわゆるワーク)に向けて噴出し、ノズルを陰極、工作物を陽極として電圧を印加することによって、工作物を電解溶出させる加工法である。この加工法は化学的加工方法であるため、加工変質層や残留応力、クラック、バリが発生しないという、熱的加工や機械的加工にはない利点を持っている。また、加工量は電気量によって決定されるため、工作物とノズル間のギャップ調節が不要であるという特徴も有している(下記非特許文献1参照)。
【0003】
電解液ジェット加工では、跳水現象がノズルから十分離れたところで生じることにより、放射状に薄い層の流れ場が生じ、その中で電流密度が噴流直下に集中し、噴流直下のみを選択的に加工することができる。
【0004】
ところで、微細加工の場合には、電解液の流量が小さいため、電解液の跳水現象がノズル近傍で起こってしまうことがある。この場合には、放射状の薄い層の流れ場が得られず、ノズル近傍に溜まった電解液の中で電流密度分布が拡散し、加工形状が崩れてしまう。
【0005】
下記非特許文献2は、この問題に対して、電解液ノズルの横に設置したエアーノズルから空気を吹きかけて電解液の液溜りを除去することによって、電解液ジェット加工を行えることを示している。しかしながら、この文献では、斜め方向からエアーを工作物に吹きつけているため、加工現象が軸対称ではなくなり、加工精度が低下する可能性がある。
【0006】
また、従来の電解液ジェット加工では、工作物の加工が進むと、加工済みの部分に電解液が溜まるため、高アスペクト比の加工が難しく、また、深穴加工も難しいという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】米田康治,国枝正典:電解液ジェット加工における加工形状シミュレーション,電気加工学会誌,Vol.29,No.62(1995),pp.1-8
【非特許文献2】M.Hackert, G.Meichsner, A.Schubert: Generating Micro Geometries with Air assisted Jet ElectrochemicalMachining, Proc. Of the euspen Int’l Conf. (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記した課題に対応してなされたものである。本発明の主な目的は、微細加工、高アスペクト比加工あるいは深穴加工に対応可能な電解液ジェット加工の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0010】
(項目1)
電解液ノズルと、気体ノズルと、電源とを備えており、
前記電解液ノズルは、工作物に向けて電解液を放出する構成とされており、
前記気体ノズルは、前記電解液と同軸となる方向において、前記工作物に向けて気体を吹きつける構成となっており、
前記電源は、前記電解液と前記工作物との間に電流を流すことができる構成となっている
ことを特徴とする電解液ジェット加工装置。
【0011】
(項目2)
前記気体ノズルは、前記気体を、前記電解液を中心として同心円状となるように、前記工作物に向けて吹きつける構成とされている
項目1に記載の電解液ジェット加工装置。
【0012】
(項目3)
前記電源は定電流源である、項目1又は2に記載の電解液ジェット加工装置。
【0013】
(項目4)
前記電解液ノズルと前記気体ノズルとで構成される組を複数個備えている
項目1〜3のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【0014】
(項目5)
前記電解液ノズルを複数個備えており、前記気体ノズルは、これら複数個の電解液ノズルを囲うように配置されている
項目1〜4のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【0015】
(項目6)
電解液を工作物に向けて放出するステップと、
前記電解液と同軸となる方向において、前記工作物に向けて気体を吹きつけるステップと、
前記電解液と前記工作物との間で電流を流すステップと
を備える電解液ジェット加工方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微細加工、高アスペクト比加工あるいは深穴加工に対応可能な電解液ジェット加工の技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態における電解液ジェット加工装置の全体的な構成を示す説明図である。
図2】電解液ノズルの先端部分を示す拡大図である。
図3】電解液ノズル及び気体ノズルの詳しい構成を示す拡大断面図である。
図4】電解液ノズルの下方における電流密度分布を示すグラフである。
図5】実施例1の効果を説明するための説明図であって、図(a)は、アシストガス無しの例、図(b)はアシストガスありの例を示す。
図6】アシストガスを用いた場合におけるアスペクト比の向上を説明するためのグラフである。
図7】アシストガスがない場合に深穴加工が難しい理由を説明するための説明図である。
図8】アシストガスを用いた場合における深穴加工の結果を説明するためのグラフである。
図9】本発明の変形例1における電解液ノズルと気体ノズルの配置状態を説明するための説明図である。
図10】本発明の変形例2における電解液ノズルと気体ノズルの配置状態を説明するための説明図である。
図11】本発明の変形例3における電解液ノズルと気体ノズルの配置状態を説明するための説明図である。
図12】本発明の変形例4における電解液ノズルと気体ノズルの配置状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る電解液ジェット加工装置(以下、「加工装置」と略称することがある)について説明する。
【0019】
(電解液ジェット加工装置の構成)
本実施形態の加工装置は、図1に示すように、電解液ノズル1と、気体ノズル2と、電源3とを備えている。さらに、この加工装置は、コンプレッサ4と、圧力タンク5と、テーブル6と、マシニングタンク7と、加工室8と、配管9と、レギュレータ10,11とを備えている。
【0020】
電解液ノズル1は、圧力タンク5から、配管9を介して送られた電解液12を工作物Wに向けて放出する構成とされている(図2及び図3参照)。
【0021】
気体ノズル2は、電解液12と同軸となる方向において、工作物Wに向けて気体13を吹きつける構成となっている(図2及び図3参照)。具体的には、気体ノズル2は、レギュレータ11を介してコンプレッサ4に接続されており、コンプレッサ4からの気体を工作物Wに向けて送り出すことができるようになっている。ここで、気体ノズル2は、気体13を、電解液のジェット流を中心として同心円状となるように噴射する構成となっている。また、本実施形態の気体としては、通常の空気が用いられている。気体としては、後述するようなアシストガスの機能を発揮できるものであれば、どのようなものを用いても良い。
【0022】
電源3は、電解液ノズル1を介して、電解液12と工作物Wとの間に電流を流すことができる構成となっている。電源3としては、本実施形態では、直流の定電流源が用いられている。定電流源を用いることにより、電解液ノズル1と工作物Wとの間のギャップ長が変動しても、工作物Wへの加工深さを一定に保つことができる。ただし、表面の凹凸を平滑にしたいなど、ギャップ長が狭いときほど加工量を多くしたい場合には、電源3として定電圧源を使用することも好適である。また、電源3として定電流源を用いた場合でも、電流のオンオフや、電流値の変動は、電解液ノズル1の走査と同期して制御することができるようになっている。
【0023】
コンプレッサ4は、レギュレータ10と配管9を介して圧力タンク5へ、圧縮された気体を供給する構成となっている。さらに、コンプレッサ4は、別の配管とレギュレータ11を介して、圧縮された気体を気体ノズル2に供給する構成となっている。
【0024】
圧力タンク5は、電解液12を収容するとともに、圧縮気体によって加圧された電解液12を電解液ノズル1に供給する構成となっている。
【0025】
テーブル6は、工作物Wを上面に載置するものである。
【0026】
マシニングタンク7は、工作物Wに向けて放出された電解液12を内部に収容する構成となっている。マシニングタンク7は、放出された電解液12を外部に送り出すためのドレイン部701を備えている。
【0027】
加工室8は、マシニングタンク7全体を覆うように構成されている。レギュレータ10,11は、圧縮気体の流量を規制することにより、電解液12及び気体13の噴出速度を制御できる構成となっている。
【0028】
(本実施形態の動作)
以下、本実施形態の動作について説明する。
【0029】
本実施形態では、圧力タンク内の気体の圧力を利用して、電解液ノズル1から工作物Wに向けて、電解液12を噴射する。以下においては、このように噴射された電解液を「電解液ジェット」と呼ぶことがある。その際、電源3によって、電解液ノズル1と工作物Wとの間、すなわち、電解液12と工作物Wとの間に電圧を印加して電流を流す。この電流の極性は、工作物Wの除去を行う場合には、電解液ノズル1側をマイナス、工作物W側をプラスとし、工作物Wの表面に電着物の付着を行う場合には、電解液ノズル1側をプラス、工作物W側をマイナスとする。これらの点は既に知られている技術と同様とすることができるので、これ以上詳しい説明を省略する。なお、本実施形態における加工とは、「電解による工作物の除去」と「工作物への電着物の付着」との両方を含む概念として用いられている。
【0030】
さらに、本実施形態では、電解液12を噴出する際に、気体ノズル2から気体13を工作物Wに向けて噴射する(図2参照)。これにより、本実施形態では、電解液12の噴射方向と同軸に、かつ、前記電解液の外周側において、気体13を工作物Wに向けて噴射することができる。なお、以下においては、このように噴射された気体を「アシストガス」と呼ぶことがある。
【0031】
前記した従来の技術では、電解液ジェットの流量が小さい場合、跳水部がノズルから半径方向に十分離れず、薄い層状の流れ場が崩壊するため、噴流直下に電流密度を集中させることができず、局所的な加工ができなくなってしまうという問題があった。これに対して、本実施形態の加工装置によれば、前記したように電解液12の噴射方向と同軸の方向に気体13を噴射し、跳水部を下流へと遠ざけることができる。また、噴射された気体13の流れが電解液12に与えるせん断力により、電解液12の半径方向における流速(電解液ノズル1の軸心から離れる方向の流速)を増大する。これにより、工作物Wの上面における電解液12の膜厚を薄くすることができ、この結果、電流密度分布を噴流直下に局在化できる(図4参照)。
【0032】
(実施例1)
電解液ジェットの流量が小さい場合において、アシストガスの有無による加工の可否を調査した。下記表1に実験条件を記す。ジェット流量は、レギュレータ10により、圧力タンク5内の圧力を変えることにより調節した。
【0033】
【表1】
【0034】
この表において、「Nozzle ID」は、電解液ノズルの噴出口部分の内径、「Gap width」とは、電解液ノズル1の下端と工作物Wの表面との距離、「Tank Pressure」とは、圧力タンク5内の圧力、「Air pressure」とは、コンプレッサ4から送り出される気体の圧力である。また、この例では、工作物としてSUS304を用いた。
【0035】
図5(a)に、タンク圧0.20MPaでかつアシストガス無しの場合の電解液の様子を示し、図5(b)に、タンク圧力0.20MPaでかつアシストガス圧0.08MPaの場合の電解液の様子を示す。これから、アシストガス無しの場合には電解液とノズルが接触してしまっていることが分かる。一方、同じ流量でもアシストガスを用いた場合には跳水部がノズルから遠ざかり、薄い電解液膜が形成出来ている。全ての条件で安定性を評価した結果を表2に記す。
【0036】
【表2】
【0037】
この表2において記号「○」は、安定的に電解液膜が形成できたことを示し、記号「×」は、これが形成できなかったことを示す。
【0038】
この結果から分かるように、アシストガスを用いなかった場合には、タンク圧0.20MPa以下では加工を行うことができなかったが、アシストガスを用いればいずれのタンク圧力においても加工を行うことができた。
【0039】
(実施例2:加工形状のアスペクト比の改善)
本例の加工装置において想定される電流密度分布は、図4に示された通りである。これによると、電解液噴流の直下周辺部にも、電流密度分布が拡がっている。そのため、ノズル内径よりも加工穴の直径が大きくなってしまい、加工精度が悪くなるという傾向がある。
【0040】
一方、前記非特許文献1によると、流体の粘性を無視した場合、電解液ジェットが平らな工作物と衝突した直後の電解液の厚さは、ジェット直径の1/4となる。ただし、現実には電解液、空気は粘性を持ち、相互にせん断力を及ぼしあう。したがって、薄膜部の流速をアシストガスによるせん断力で加速すれば、連続の式より、工作物と衝突後の電解液膜の厚さをさらに薄くすることができ、電流密度分布を噴流直下により集中させることができると考えられる。これにより加工穴の直径の拡大が抑制され加工精度の向上が期待できる。また、電流が同じ場合、電流密度が噴流直下に集中すれば加工穴が深くなることも予想できる。そこで、加工穴の深さ対直径の比(アスペクト比)を調査することによりアシストガスによる加工精度向上の効果について調べた。
【0041】
下記表3に記す条件で、アシストガスの噴出圧力のみを変化させて穴加工を行い、そのアスペクト比を調査した。なお表3において「Machining current」とは電解液ノズル1と工作物Wとの間の電流値である。なお、この例では、電源として定電流源を用いている。得られた結果を図6に示す。アシストガス無しの場合に対して、ガス圧を0.08MPaとした場合には、アスペクト比が明らかに向上していた。これより、電解液ジェット加工のアシストガスによる精度向上は可能であることがわかった。
【0042】
【表3】
【0043】
(実施例3:深穴の加工)
電解液ジェットによる穴加工では図7に記すように、加工が進行すると電解液が加工穴に溜まってしまい、電流密度分布を噴流直下に集中させることができず、やがて側面の加工のみが進行して深さ方向に加工することができなくなってしまう。
【0044】
これに対して、アシストガスを用いれば、加工痕内の電解液を排出することができ従来よりも深い穴の加工が可能になると考えられる。そこで、アシストガス無しの場合とありの場合についてそれぞれ加工時間を変えて加工を行い、加工深さの限界を調査した。実験条件を表4に、得られた結果を図8に記す。
【0045】
【表4】
【0046】
図8より、アシストガスを用いた場合には、より深い穴の加工が可能であることがわかる。これはアシストガスが穴に溜まった電解液を排出し、電流密度分布を穴側面ではなく穴の深さ方向に集中させることができたためであると考えられる。しかし、アシストガスを用いても加工深さが限界に達してしまった。これは、加工深さがある程度以上になると、アシストガスを用いた場合においても電解液の完全な排出を行えず、電流密度を噴流直下に集中させることができなくなってしまったためであると考えられる。
【0047】
以上説明したとおり、本実施形態の電解液ジェット加工において、電解液ジェットと同軸のアシストガスを導入することにより、加工特性の向上が可能となった。特に、アシストガスの効果によって、ジェット流量が小さい場合においても放射状に流れる薄い電解液膜が形成され、局所的な加工が可能になった。また、アシストガスによるせん断力により電流密度を噴流直下のみに集中させ、より高い精度の加工を行うことが可能となった。さらに、加工穴内の電解液の排出を促進することで、従来よりも深い穴の加工が可能になった。
【0048】
なお、本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0049】
例えば、前記実施形態では、工作物の加工として、工作物の除去を行ったが、電源の極性を逆にすることにより、工作物への電着物の付着を行うこともできる。
【0050】
(本発明の変形例)
以下、前記した実施形態における電解液ノズルと気体ノズルの配置状態を変化させた例を、図9図12を参照しながら説明する。以下の例も、本発明の範囲に含まれる。
【0051】
(変形例1:図9
この例では、電解液ノズル1と気体ノズル2とで構成される組が、一方向(図中左右方向)に沿って、密に配列されている。より詳しくは、電解液ノズル1と気体ノズル2とで構成される組が、それらの軸方向に交差する方向に沿って、一列に配置されている。これにより、特定の列に沿って電解液の噴射を行うことができる。前記以外の構成及び利点は、前記した実施形態と同様である。
【0052】
(変形例2:図10
この例では、複数の電解液ノズル1が、一方向(図中左右方向)に沿って、密に配列されている。そして、これらの電解液ノズル1を囲むように、気体ノズル2が配置されている。この例でも、特定の列に沿って電解液の噴射を行うことができる。前記以外の構成及び利点は、前記した実施形態と同様である。
【0053】
(変形例3:図11
この例では、複数の電解液ノズル1が、密に集合した状態で配列されている。そして、これらの電解液ノズル1を囲むように、気体ノズル2が配置されている。この例では、1点だけでなく、特定の面内の多点に向けて同時に電解液の噴射を行うことができる。前記以外の構成及び利点は、前記した実施形態と同様である。
【0054】
(変形例4:図12
この例では、電解液ノズル1の断面形状が、円形ではなく、長方形状とされている。そして、この電解液ノズル1を囲むように、ほぼ相似形の断面形状を持つ気体ノズル2が配置されている。この例では、ある程度の幅を持つ電解液を噴射することができる。前記以外の構成及び利点は、前記した実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0055】
1 電解液ノズル
2 気体ノズル
3 電源
4 コンプレッサ
5 圧力タンク
6 テーブル
7 マシニングタンク
701 ドレイン部
8 加工室
9 配管
10,11 レギュレータ
12 電解液
13 気体
図1
図2
図3
図4
図6
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12