(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871270
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】セレン含有液の処理システム、湿式脱硫装置及びセレン含有液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20060101AFI20160216BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
C02F1/70 ZZAB
B01D53/50 290
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-80445(P2012-80445)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208553(P2013-208553A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】秋保 広幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茂男
【審査官】
片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/122628(WO,A1)
【文献】
特開2010−221151(JP,A)
【文献】
特開平10−034168(JP,A)
【文献】
特開平10−263557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70
B01D 53/34−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを含有するセレン含有液に2価マンガンを添加して4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制するセレン含有液の処理システムにおいて、
前記セレン含有液の酸化還元電位を測定する電位測定手段と、セレン含有液のpH値を測定するpH測定手段と、
測定された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出する検出手段と、
前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加する添加手段とを備えること
を特徴とするセレン含有液の処理システム。
【請求項2】
前記検出手段が、測定された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液がセレンが6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを導出し、
マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、セレン含有液の酸化還元電位をマンガンが2価マンガンとして安定する状態まで低下させる低下手段を備えることを特徴とする請求項1記載のセレン含有液の処理システム。
【請求項3】
前記添加手段は、
セレン含有液中のペルオキソ二硫酸の濃度を測定する第1濃度測定手段と、
該セレン含有液中の4価セレンの濃度を測定する第2濃度測定手段と、
前記ペルオキソ二硫酸の濃度及び前記4価セレンの濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、所定の2価マンガン濃度を設定する設定手段とを有し、
前記セレン含有液が所定の前記2価マンガン濃度となるように2価マンガンを前記セレン含有液中に添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のセレン含有液の処理システム。
【請求項4】
前記検出手段が、前記セレン含有液がセレンが6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを導出し、
マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、前記設定手段は、所定の2価マンガン濃度よりも2価マンガン濃度を高く設定することを特徴とする請求項3記載のセレン含有液の処理システム。
【請求項5】
排ガス中の硫黄酸化物を除去する湿式脱硫装置において、
セレン含有液の酸化還元電位を測定する電位測定手段と、セレン含有液においてpH値を測定するpH測定手段と、
検出された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを導出する検出手段と、
前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加する添加手段とを備え、
前記添加手段により前記セレン含有液中に2価マンガンを添加することで4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制することを特徴とする湿式脱硫装置。
【請求項6】
セレン含有液の酸化還元電位及びpH値を測定し、該酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出する検出工程を有し、
前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加して4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制することを特徴とするセレン含有液の処理方法。
【請求項7】
前記検出工程では、前記セレン含有液がセレンが6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを検出し、
マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、セレン含有液の2価マンガンとして安定する状態まで酸化還元電位を低下させることを特徴とする請求項6記載のセレン含有液の処理方法。
【請求項8】
前記検出工程により、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、
ペルオキソ二硫酸の濃度及び4価セレンの濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、所定の2価マンガン濃度を設定する設定工程を行い、
前記セレン含有液が所定の前記2価マンガン濃度となるように2価マンガンを前記セレン含有液中に添加することを特徴とする請求項6又は7に記載のセレン含有液の処理方法。
【請求項9】
前記検出工程により、前記セレン含有液がセレンが6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを導出し、
マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、前記設定工程では、所定の前記2価マンガン濃度よりも2価マンガン濃度を高く設定することを特徴とする請求項8記載のセレン含有液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレン含有液の処理システム、湿式脱硫装置及びセレン含有液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、石炭火力発電に用いられる石炭には微量のセレンが含まれており、石炭火力発電所で石炭を燃焼させる場合、石炭中のセレンは排煙処理設備の電気集塵器で捕集される石炭灰や、湿式脱硫装置の吸収液(脱硫スラリー)に混入する。セレンについては排水基準値(0.1mg/L)が設定されているので、前記湿式脱硫装置の吸収液は脱硫排水としてもこの基準を満たすべく、処理しなければならない場合がある。
【0003】
そこで、セレン含有液に、Ti及びMnから選ばれた少なくとも1種を添加して6価セレンの生成を抑制することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−160568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたセレン含有液の処理方法によれば、コストをかけずにセレン含有液を処理することができる。しかしながら、2価マンガンを添加してもセレン含有液中の4価セレン(亜セレン酸イオン:SeO
32−)から6価セレン(セレン酸イオン:SeO
42−)への酸化を抑制することができない場合もあった。また、2価マンガンを添加しなくても、セレンが酸化されないで4価セレンの状態を保持できる場合もあり、この場合に2価マンガンを添加することは好ましくない。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、セレン含有液中での4価セレンの酸化をより適切に抑制することができるセレン含有液の処理システム、湿式脱硫装置及びセレン含有液の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセレン含有液の処理システムは、セレンを含有するセレン含有液に2価マンガンを添加して4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制するセレン含有液の処理システムにおいて、前記セレン含有液の酸化還元電位を測定する電位測定手段と、セレン含有液のpH値を測定するpH測定手段と、測定された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出する検出手段と、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加する添加手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、検出手段により測定された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出し、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加することで、4価セレンが6価セレンに酸化する可能性のある場合にのみ2価マンガンを添加してセレンの酸化を抑制している。これにより、セレン含有液中での4価セレンの酸化をより適切に抑制することが可能である。
【0009】
前記検出手段が、測定された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液がセレンが
6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを導出し、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、セレン含有液の酸化還元電位をマンガンが2価マンガンとして安定する状態まで低下させる低下手段を備えることが好ましい。酸化還元電位をマンガンが2価マンガンとして安定する状態まで低下させることで、2価マンガンを添加した場合に2価マンガンの消費量を抑えながらセレンの酸化を適切に抑制できる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態としては、前記添加手段は、セレン含有液中のペルオキソ二硫酸の濃度を測定する第1濃度測定手段と、該セレン含有液中の4価セレンの濃度を測定する第2濃度測定手段と、前記ペルオキソ二硫酸の濃度及び前記4価セレンの濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、所定の2価マンガン濃度を設定する設定手段とを有し、前記セレン含有液が所定の前記2価マンガン濃度となるように2価マンガンを前記セレン含有液中に添加することが挙げられる。
【0011】
前記検出手段が、前記セレン含有液がセレンが
6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを導出し、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、前記設定手段は、所定の2価マンガン濃度よりも2価マンガン濃度を高く設定することが好ましい。マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、マンガンがペルオキソ二硫酸との反応だけでなくペルオキソ二硫酸以外の酸化性物質(例えばセレン含有液中の溶存酸素や各種金属成分等)との反応によっても酸化されて二酸化マンガンになりやすいので、所定の2価マンガン濃度となるように2価マンガンを添加しても2価マンガンが不足しやすく、4価セレンの酸化を抑制できない場合が考えられる。従って、前記設定手段は、所定の2価マンガン濃度よりも2価マンガン濃度を高く設定することで、2価マンガンがペルオキソ二硫酸により酸化されるよりも多くの2価マンガンを添加でき、これにより2価マンガンがペルオキソ二硫酸以外の酸化性物質との反応により酸化された場合においても、反応されずに残存した2価マンガンによって4価セレンの酸化を抑制できる。
【0012】
本発明の湿式脱硫装置は、排ガス中の硫黄酸化物を除去する湿式脱硫装置において、セレン含有液の酸化還元電位を測定する電位測定手段と、セレン含有液においてpH値を測定するpH測定手段と、検出された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを導出する検出手段と、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加する添加手段とを備え、前記添加手段により前記セレン含有液中に2価マンガンを添加することで4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制することを特徴とする。本発明においては、検出手段により測定された酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出し、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加することで、4価セレンが6価セレンに酸化する可能性のある場合にのみ2価マンガンを添加してセレンの酸化を抑制している。これにより、セレン含有液中での4価セレンの酸化をより適切に抑制することが可能である。
【0013】
本発明のセレン含有液の処理方法は、セレン含有液の酸化還元電位及びpH値を測定し、該酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出する検出工程を有し、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加して4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制することを特徴とする。本発明においては、該酸化還元電位とpH値とから、前記セレン含有液においてセレンが4価以上で安定する状態にあるかどうかを検出する検出工程を有し、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、前記セレン含有液中に2価マンガンを添加することで、4価セレンが6価セレンに酸化する可能性のある場合にのみ2価マンガンを添加してセレンの酸化を抑制している。これにより、セレン含有液中での4価セレンの酸化をより適切に抑制することが可能である。
【0014】
前記検出工程では、前記セレン含有液がセレンが
6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを検出し、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、セレン含有液の2価マンガンとして安定する状態まで酸化還元電位を低下させることが好ましい。酸化還元電位をマンガンが2価マンガンとして安定する状態まで低下させることで、2価マンガンを添加した場合に2価マンガンの消費量を抑えながらセレンの酸化を適切に抑制できる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態としては、前記検出工程により、前記セレン含有液がセレンが4価以上で安定する状態にある場合には、ペルオキソ二硫酸の濃度及び4価セレンの濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、所定の2価マンガン濃度を設定する設定工程を行い、前記セレン含有液が所定の前記2価マンガン濃度となるように2価マンガンを前記セレン含有液中に添加することが挙げられる。
【0016】
前記検出工程により、前記セレン含有液がセレンが
6価で安定する状態にある場合には、測定された酸化還元電位とpH値とから、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にあるかどうかを導出し、マンガンが二酸化マンガンとして安定する状態にある場合には、前記設定工程では、所定の前記2価マンガン濃度よりも2価マンガン濃度を高く設定することが好ましい。所定の2価マンガン濃度よりも2価マンガン濃度を高く設定することで、2価マンガンがペルオキソ二硫酸により酸化されるよりも多くの2価マンガンを添加でき、これによりペルオキソ二硫酸以外の酸化性物質との反応により酸化された場合においても、反応されずに残存した2価マンガンによって2価マンガンが4価セレンの酸化を抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセレン含有液の処理システム及びセレン含有液の処理方法では、セレン含有液中での4価セレンの酸化をより適切に抑制することができる。また、本発明の湿式脱硫装置では、湿式脱硫装置内のセレン含有液中での4価セレンの酸化をより適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の検出工程で用いられるpH値と酸化還元電位との関係を示すpH電位図を示すマップ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(セレン含有液の処理方法)
本発明のセレン含有液の処理方法について、以下説明する。
【0020】
本発明のセレン含有液の処理方法は、工業排水や、石炭火力発電所の湿式脱硫装置の排水等のセレン含有液中の4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制するものである。
【0021】
例えば、湿式脱硫装置内の脱硫スラリー中におけるセレンの挙動について説明する。石炭火力発電所において、ボイラーからの燃焼排ガスは、脱硝装置、電気集塵器及び湿式脱硫装置を介して大気に放出される。このボイラーからの燃焼排ガスにはガス状のセレンが含まれており、ガス状のセレンは、脱硝装置、電気集塵器等を通過して湿式脱硫装置内に導入される。
【0022】
湿式脱硫装置に導入されたセレンは、湿式脱硫装置内の脱硫スラリー(脱硫剤である石灰石や消石灰と、生成物である石膏を含むスラリー)に溶解し、初めは4価セレンとして存在している。湿式脱硫装置には脱硫剤である石灰石や消石灰のスラリーが新たに供給されると同時に、生成物である石膏を含む脱硫スラリーの一部が排出されるため、脱硫スラリーは長時間(例えば50時間程度)湿式脱硫装置内に留まっていることになる。この湿式脱硫装置内に留まっている間に、脱硫スラリー中の4価セレンが、酸化性物質であるペルオキソ二硫酸との反応により6価セレンに酸化されてしまう。4価セレンは、従来の凝集沈殿法により容易に処理することが可能であるが、6価セレンに酸化されるとその処理を行うのにコストや手間がかかってしまうという問題があった。即ち、6価セレンは、還元剤としての金属鉄を用いて6価セレンを4価セレン又は0価金属セレンに還元し、この4価セレンあるいは0価の金属セレンを凝集沈殿法などで処理するため、コストや手間がかかってしまうのである。
【0023】
このようなセレン含有液に対して酸化性物質であるペルオキソ二硫酸と反応しやすい2価マンガンを添加して4価セレンが6価セレンに酸化されることを抑制する場合に、本発明の発明者らは、2価マンガンを適切なタイミング、量で添加するためには、セレン含有液の酸化還元電位及びpH値が重要であることを突き止めた。
【0024】
本実施形態においては、セレン含有液の酸化還元電位及びpH値を測定し、この酸化還元電位とpH値との関係から、セレン含有液がどのような状態にあるかどうかを検出する。即ち、
図1のマップに示すようなpH電位図と測定された酸化還元電位及びpH値とから、セレン含有液がどの状態にあるかどうかを検出する。なお、
図1のpH電位図における電位とは標準電極電位であり、測定される酸化還元電位から容易に換算することができる。
【0025】
図1のpH電位図では、セレン含有液がセレンが0価で安定する状態(領域A1)、セレンが4価で安定する状態(領域A2)及びセレンが6価で安定する状態(領域A3)が示されている。さらに、セレンが6価で安定する状態である領域A3では、マンガンが2価マンガンで安定する状態(領域B1)及び二酸化マンガンで安定する状態(領域B2)との境界線である点線Lがひかれている。即ち、領域A3は領域B1と領域B2とに分けられる。
【0026】
このように、
図1に示すpH電位図を用いれば、セレン含有液の状態を簡易に検出することができる。
【0027】
そして、このpH電位図を用いてセレン含有液の状態を検出すると共に、2価マンガンの添加が有効かどうかを検出することができる。まず、セレン含有液がセレンが0価で安定する状態(領域A1)であれば、4価セレンが6価セレンへと酸化される可能性は極めて低いので2価マンガンを添加しなくてもよい。
【0028】
また、セレン含有液がセレンが4価で安定する状態(領域A2)であれば、セレンを酸化させるペルオキソ二硫酸等の酸化性物質が存在しない限りセレンは4価で安定するので、後述する濃度設定工程で設定された濃度となるように2価マンガンを添加すればよい。
【0029】
セレン含有液がセレンが6価で安定する状態で、かつ、マンガンが2価マンガンで安定する状態(領域B1)であれば、4価セレンは酸化されやすい傾向にあるが、2価マンガンを添加した場合にセレン含有液においてマンガンが2価マンガンで安定する。従って、この状態であれば、2価マンガンがペルオキソ二硫酸と反応して4価セレンの酸化を抑制できるので、後述する濃度設定工程で設定された濃度となるように2価マンガンを添加する。
【0030】
また、セレンが6価で安定する状態において、マンガンが二酸化マンガンで安定する状態(領域B2)であると、4価セレンはペルオキソ二硫酸によって酸化されやすく、かつ、添加した2価マンガンが二酸化マンガンになってしまい、2価マンガンが4価セレンの酸化を抑制しない場合がある。
【0031】
この場合には、セレン含有液中の酸化還元電位を低下させてマンガンが2価マンガンで安定する状態となるようにする。具体的には、例えば、セレン含有液が湿式脱硫装置におけるスラリーであれば、湿式脱硫装置における酸化空気の供給量を減らすことでマンガンが2価マンガンで安定する状態となる。また、脱硫スラリーの抜き出し量を通常の運用より増やしてスラリー等を入れ替えることによっても、酸化還元電位を低下させることができる。その後、セレン含有液が領域B1となるような状態となった場合には、後述する濃度設定工程で設定された濃度となるように2価マンガンを添加する。なお、2価マンガンを添加したとしてもその量はセレン含有液全体に対して微量であるため、酸化還元電位等に変化はない。
【0032】
または、この場合には、2価マンガンを以下濃度設定工程で詳しくは説明する所定値よりも多く添加することで、2価マンガンを添加してセレンの酸化を抑制することができる。即ち、セレン含有液に含有される4価セレンの酸化を防ぐために後述する濃度設定工程で設定される2価マンガン濃度以上の濃度となるように2価マンガンを添加することで、2価マンガンがペルオキソ二硫酸以外の酸化性物質との反応によって二酸化マンガンに酸化されつつも、反応されずに残った2価マンガンによって4価セレンの酸化を抑制することができる。ペルオキソ二硫酸以外の酸化性物質としては、セレン含有液中の溶存酸素や各種金属成分との反応等が挙げられる。
【0033】
濃度設定工程で設定される2価マンガン濃度以上の濃度となるように2価マンガンを添加する場合に、濃度設定工程で設定される2価マンガン濃度の5〜10倍となるように2価マンガンを添加し、さらに実際の消費量を確認しながら添加濃度を調整することが望ましい。
【0034】
このようにpH電位図を用いてセレン含有液の状態を検出する検出工程においてセレン含有液が領域A2、B1の状態である場合には、2価マンガンの添加量を設定する設定工程を行う。設定工程により、所望の時間経過後に、所望の比率でセレン含有液中の4価セレンの酸化を抑制することができる2価マンガン濃度を設定し、この設定された2価マンガン濃度を保持することができるように2価マンガンをセレン含有液中に添加して(添加工程)、所望の比率で4価セレンから6価セレンへの酸化を抑制している。
【0035】
具体的には、設定工程では、セレン含有液中のペルオキソ二硫酸の濃度、並びに4価セレンの濃度を測定する濃度測定工程と、ペルオキソ二硫酸の濃度及び4価セレンの濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、2価マンガン濃度を設定する濃度設定工程と、セレン含有液中で2価マンガン濃度で保持されるようにセレン含有液中に2価マンガンを添加する添加工程とを備えている。例えば、50℃におけるセレン含有液におけるペルオキソ二硫酸濃度及び4価セレン濃度を測定し、4価セレン濃度として1mg/L、ペルオキソ二硫酸濃度として300mg/Lを得る(濃度測定工程)。そして、4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比を示す反応速度定数比(セレン含有液の温度が50℃の場合は4.27)と、ペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数(セレン含有液の温度が50℃の場合は1.2×10
―6)と、得られたセレン濃度1mg/L、ペルオキソ二硫酸濃度300mg/Lとから、48時間後に6価セレンへの酸化率を10%としたい場合には、2価マンガン濃度は0.9mmol/Lに設定する(濃度設定工程)。そして、この設定された2価マンガン濃度となるように、セレン含有液中に2価マンガンを添加する(添加工程)。
【0036】
以下、具体的に濃度設定工程について説明する。
上述のように、初めに濃度測定工程においてペルオキソ二硫酸の初期濃度及び4価セレンの初期濃度が測定される。
【0037】
次いで、このペルオキソ二硫酸の初期濃度及び4価セレンの初期濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、2価マンガン濃度を設定する。
【0038】
具体的には、以下の式(4)、(5)及び(6)、並びに測定したペルオキソ二硫酸の初期濃度C
S2O82-,0及び4価セレンの初期濃度、任意の2価マンガン濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応(式(1))における反応速度定数k
1及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応(式(2))における反応速度定数k
2に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応(式(3))における反応速度定数k
3の比である反応速度定数比k
3/k
2に基づいてEuler法等の逐次計算法を用いて整理することにより、各時間における4価セレン濃度、6価セレン濃度をそれぞれ算出する。なお、式(4)、(5)及び(6)において、r
SeO32-は4価セレンの反応速度、r
Mn2+は2価マンガンの反応速度、q
SeO32-は1gあたりの二酸化マンガンに吸着された4価セレンの量、AとBとそれぞれはlnq
SeO32-とlnC
SeO32-との関係から得られる定数を示している。
【0039】
S
2O
82-+e
-→SO
4-+SO
42-・・・(1)
SeO
32-+2SO
4-+H
2O→SeO
42-+2SO
42-+2H
+・・・(2)
Mn
2++2SO
4-+2H
2O→MnO
2+2SO
42-+4H
+・・・(3)
r
SeO32-=dC
SeO32-/dt=-k
1k
2C
S2O82-,0e
-k1tC
SeO32-/(2k
2C
SeO32-+2k
3C
Mn2+)・・・(4)
r
Mn2+=dC
Mn2+/dt =-k
1k
3C
S2O82-,0e
-k1tC
Mn2+/(2k
2C
SeO32-+2k
3C
Mn2+)・・・(5)
lnq
SeO32-=lnA+BlnC
SeO32-・・・(6)
【0040】
そして、各時間における4価セレン濃度、6価セレン濃度から、酸化率(6価セレン濃度/初期4価セレン濃度)を求め、所望の酸化率となる場合の2価マンガン濃度の値を、2価マンガン濃度に設定するのである。即ち、所望の時間tにおける初期4価セレン濃度に対する6価セレン濃度から、4価セレンの酸化率を所望の値とするための2価マンガン濃度を設定する。
【0041】
なお、ペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数k
1及び反応速度定数比k
3/k
2は、温度依存性があることから、予め各温度に対するこの反応速度定数及び反応速度定数比のテーブルデータを保存しておき、このテーブルデータに基づいてこの反応速度定数及び反応速度定数比を決定してもよい。
【0042】
なお、上述のようにセレン含有液が
図1に示すpH電位図の領域B2に示す状態である場合には、濃度設定工程において設定された2価マンガン濃度よりも高い2価マンガン濃度を設定する。このため、検出工程で検出されたセレン含有液の状態によっては、ペルオキソ二硫酸との反応によって二酸化マンガンに酸化されてしまう2価マンガン量以上の量を含めて2価マンガン濃度を設定する。
【0043】
(処理システム及び湿式脱硫装置)
このようなセレン含有液の処理方法を実現する処理システムについて
図2を用いて説明する。
【0044】
図2に示すように、湿式脱硫装置1には、燃焼排ガスが導入される。そして、湿式脱硫装置1内の噴霧手段11により、湿式脱硫装置1内に脱硫剤となる消石灰や石灰石等を含む脱硫スラリー12が噴霧されて、燃焼排ガス中の硫黄分が吸収除去され、精製ガスが排出される。この時、燃焼排ガス中に含まれていたガス状セレンが湿式脱硫装置1内に貯留された脱硫スラリー13中に含有されるものと考えられる。また、脱硫スラリー13中の消石灰や石灰石が硫黄分を吸収して安定な石膏(硫酸カルシウム二水和物CaSO
4・2H
2O)として固定化するため、脱硫スラリー13には酸化用の空気を供給する酸化空気ブロワ30が設けられている。これにより湿式脱硫装置1内が強い酸化雰囲気となり、ペルオキソ二硫酸が生成される場合があると考えられる。なお、この脱硫スラリー13は、循環ポンプPにより噴霧手段11に導入され、湿式脱硫装置1内にて循環する。なお、循環時において脱硫スラリー13の一部が脱硫排水として排出される。
【0045】
このように、脱硫スラリー13中には、4価セレン及びペルオキソ二硫酸が含有されることになるので、脱硫スラリー13が湿式脱硫装置1内に長時間留まると、4価セレンは6価セレンへと酸化されてしまうので、これを抑制し、長時間4価セレン状態で保持することが好ましい。そこで、本実施形態においては、マンガン添加手段14により、脱硫スラリー13に上述したように2価マンガンを添加する。ここで、マンガン添加手段14により添加されるマンガンは、ペルオキソ二硫酸と反応する2価マンガンが含有される2価マンガン含有液の状態で添加される。2価マンガン含有液は、2価マンガンの化合物を溶解した含有液か、又は0価の金属マンガンを酸などで溶解して得た含有液である。
【0046】
本実施形態では、かかる脱硫スラリーの状態を検出するための酸化還元電位測定手段31とpH値測定手段32とを備える。これらの酸化還元電位測定手段31とpH値測定手段32との測定結果は、検出手段33に入力される。
【0047】
検出手段33は、これらの酸化還元電位測定手段31からの酸化還元電位と、pH値測定手段32からのpH値とから、検出手段33が有する
図1に示すマップのpH電位図から、脱硫スラリーがどの状態にあるかを検出する。検出結果は、制御手段2に入力される。この場合に、脱硫スラリーが領域A1、A2、B1にある場合には、制御手段2は、設定手段21を作動させる。
【0048】
設定手段21について説明する。所望の酸化率となるように4価セレンの酸化を抑制するのに必要な2価マンガン濃度を決定するために、湿式脱硫装置1は、脱硫スラリー13中のペルオキソ二硫酸の濃度を測定する第1濃度測定手段15Aと脱硫スラリー13中の4価セレンの濃度を測定する第2濃度測定手段15Bを備える。また、湿式脱硫装置1は、これらの測定手段により得られたペルオキソ二硫酸の濃度及び4価セレンの濃度、並びにペルオキソ二硫酸の分解反応における反応速度定数及び4価セレンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数に対する2価マンガンとペルオキソ二硫酸との反応における反応速度定数の比である反応速度定数比から、2価マンガン濃度を設定する設定手段21を備える。設定手段21は、湿式脱硫装置1に設けられた制御手段2に設けられており、上述した濃度設定工程を行い、2価マンガン濃度を設定する。この場合に、湿式脱硫装置1内には、脱硫スラリー13の温度を測定する温度測定手段16が設けられおり、温度測定手段16により測定された脱硫スラリー13の温度を示す信号は、設定手段21に入力される。設定手段21は、この温度に基づいて反応速度定数比を決定すると共に、2価マンガンに吸着される4価セレン量を推定して、上述のように濃度設定工程を行う。
【0049】
そして、設定手段21は、設定された2価マンガン濃度を示す信号をマンガン添加手段14に入力する。マンガン添加手段14は、この信号値に基づいて設定された2価マンガン濃度となるように、2価マンガンを脱硫スラリー13中に添加する。
【0050】
このように、本実施形態においては、セレン含有液の状態を検出した後に、所望の酸化率となるように、第1濃度測定手段15A及び第2濃度測定手段15Bにより脱硫スラリー13におけるペルオキソ二硫酸濃度及び4価セレン濃度を測定し、設定手段21により2価マンガン濃度を設定することができる。これにより、必要な場合に、所望の2価マンガンを添加できるので、セレン含有液である脱硫スラリー13中に含まれる4価セレンを6価セレンに酸化させることなく4価セレンの状態のままで留めておくことができ、6価セレンの量が従来に比べて減少するとともに2価マンガンの添加量を必要最小限に抑えることができ、セレン含有液中のセレンを4価セレンとして凝集沈殿法等の一般的な方法で処理を行うことが可能である。
【0051】
また、検出手段33の検出結果から、脱硫スラリーが領域B2にある場合には、領域B1あるいはA2の状態となるように例えば酸化空気ブロワ30の駆動状態を低下させることで脱硫スラリー中の空気量を低下させて酸化還元電位を低下させてから、濃度設定工程で設定された2価マンガン濃度となるように2価マンガンを添加する、あるいは酸化還元電位を低下させずに、濃度設定工程で設定された2価マンガン濃度よりも高い濃度となるように2価マンガン濃度を設定することにより、同様に処理を行うことができる。
【0052】
なお、湿式脱硫装置において燃焼排ガスと脱硫スラリーを接触させる方法としては、
図2で示したスプレー方式に限定されず、例えば、脱硫スラリー中に直接ガスを導入するバブリング方式などでもよい。どのような気液接触の方式であっても脱硫反応やセレン酸化反応の違いは無いため、本実施形態は湿式脱硫装置の気液接触方式に限定されない。
【符号の説明】
【0053】
1 湿式脱硫装置
2 制御手段
11 噴霧手段
12 脱硫スラリー
13 脱硫スラリー
14 マンガン添加手段
15A 第1濃度測定手段
15B 第2濃度測定手段
16 温度測定手段
21 設定手段
31 酸化還元電位測定手段
32 pH値測定手段
33 検出手段
P 循環ポンプ