(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871273
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】相分離可能な樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた書き込み可能な光記録用樹脂組成物及び光記録媒体、並びに該光記録媒体を用いた情報の記録方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20160216BHJP
G11B 7/244 20060101ALI20160216BHJP
G11B 7/24035 20130101ALI20160216BHJP
C07C 255/54 20060101ALI20160216BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20160216BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20160216BHJP
G03C 1/73 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
C08L101/12
G11B7/24 516
G11B7/24 522A
C07C255/54
C08K5/315
C08L81/06
G03C1/73 503
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-181160(P2012-181160)
(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2014-37496(P2014-37496A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年3月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「光と熱による書換えが可能な新しいデジタルペーパーの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】木原 秀元
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝
【審査官】
繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−45864(JP,A)
【文献】
特開2010−6712(JP,A)
【文献】
特開2009−256485(JP,A)
【文献】
特開2008−260846(JP,A)
【文献】
特開平3−258889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C07C 255
G11B 7
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、nは1〜20の整数である。)で示されるアントラセン誘導体、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマー、及びこれらの双方を溶解する有機溶剤からなり、前記ポリマーと前記アントラセン誘導体の割合を、重量比で1:1〜2:3としたことを特徴とする相分離可能な樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリ(エーテルサルフォン)であり、前記有機溶剤が、N−メチルピロリドンであることを特徴とする請求項1に記載の相分離可能な樹脂組成物。
【請求項3】
前記アントラセン誘導体が、式(2)
【化2】
で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の相分離可能な樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の相分離可能な樹脂組成物を用いて塗布層を形成した後、加熱して該塗布層中の有機溶剤を除去することにより相分離構造を形成することを特徴とする書き込み可能な光記録用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)
【化1】
(式中、nは1〜20の整数である)で示されるアントラセン誘導体が、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマーからなるポリマーマトリクス中に含有され、前記アントラセン誘導体と前記ポリマーとが相分離構造を形成していることを特徴とする書き込み可能な光記録用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリ(エーテルサルフォン)であることを特徴とする請求項5に記載の書き込み可能な光記録用樹脂組成物。
【請求項7】
前記アントラセン誘導体が、下記の式(2)
【化2】
で表される化合物であることを特徴とする請求項5又は6に記載の書き込み可能な光記録用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の書き込み可能な光記録用材料からなる記録層を備えた光記録媒体。
【請求項9】
請求項8に記載の光記録媒体を用いた情報の記録方法であって、
前記樹脂層の所望の箇所に紫外線を照射することにより、紫外線照射部を透明化して情報の記録を行うことを特徴とする情報の記録方法。
【請求項10】
紫外線照射部の透明化が、前記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体の下記の一般式(3)で表される二量体への二量体化反応によるものである請求項9に記載の情報の記録方法。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分離可能な樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた書き込み可能な光記録用樹脂組成物及び光記録媒体、並びに該光記録媒体を用いた情報の記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像の形成をおこなうことができるとともに、不要となった時にはその画像を消去できるようにした可逆性記録材料については、種々のものが知られているが、中でも可逆性感熱記録材料は、電極が不要な記録材料として注目されている。
こうした可逆性感熱記録材料の代表的なものとしては、樹脂母材中に高級脂肪酸のような有機低分子物質を分散したものが知られている(特許文献1〜3等)。
これらの特許文献では、可逆性感熱記録材料は、透明度変化(透明状態と白濁状態)を利用しており、(1)透明の場合には、樹脂母材中に分散された有機低分子物質の粒子は有機低分子物質の大きな粒子で構成されており、片側から入射した光は散乱させることなく透過するために透明に見え、一方(2)白濁の場合には、有機低分子物質の粒子は有機低分子物質の微細な結晶が集合した多結晶で構成され、個々の結晶の結晶軸がいろいろな方向を向いているため片側から入射した光は有機低分子物質粒子の結晶の界面で何度も屈折し、散乱されるために白く見えること、等に由来するとしている。
【0003】
しかしながら、樹脂母材と高級脂肪酸等の低分子化合物からなる記録材料は、前述のとおり、低分子化合物の熱履歴による大きな粒子と微細な結晶の違いを用いるものであるために不安定であるという課題があるうえ、熱履歴によって制御するために、記録・印字にはサーマルヘッドなどが必要で、大面積を一括で書込むことはできない。
【0004】
本発明者らは、光で情報を記録でき、しかも書き換え可能な光記録媒体を提案している(特許文献4)。該光記録媒体は、アントラセン誘導体がモノマーのときは結晶であり、一方溶融状態で光照射して二量化したものは固体アモルファス相を呈するものであって、この現象を利用して、結晶状態とアモルファス状態のコントラストを持つ光記録媒体である。そして、結晶−アモルファスの相変化には、サーマルヘッドではなく、光照射を用いるので大面積を一括して書き込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−72032号公報
【特許文献2】特開平6−171228号公報
【特許文献3】特開平8−156431号公報
【特許文献4】特開2010−6712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4の場合、アントラセン誘導体を薄膜化するためにガラス基板などに挟んでプレスしなければならなかった。また、アントラセン誘導体が低分子化合物であるために薄膜化する際に気泡が入ったり、亀裂が入ったりすることがあった。さらに、凹凸や曲面を持つ基板には適用できず、またガラス基板であるために屈曲することができない。
本発明は、こうした従来のアントラセン誘導体を用いた書き換え可能な記録材料における課題を解決して、薄膜化が容易であり、凹凸や曲面を持つ基材も用いることが可能な光記録媒体及びそのための樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、アントラセン誘導体を薄膜化するために、ポリマーとの複合化を検討した。しかし、ただ混ぜ合わせるだけでは、分子レベルで相溶(均一透明でコントラストがつけられない状態)したり、逆に、巨視的に分離してしまうことが多いことが判明した。そこで、アントラセン誘導体と、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマーとを、これらの双方を溶解する有機溶剤に溶かして、その混合溶液からの溶媒誘起相分離法により、均質な相分離構造、すなわち、ポリマーマトリクス中に数μmスケールのアントラセン化合物が分散した構造(以下、「相分離構造」ということとする。)を持つ樹脂組成物を作製することとした。
【0008】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]一般式(1)
【化1】
(式中、nは1〜20の整数である。)で示されるアントラセン誘導体、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマー、及びこれらの双方を溶解する有機溶剤からなり、前記ポリマーと前記アントラセン誘導体の割合を、重量比で1:1〜2:3としたことを特徴とする相分離可能な樹脂組成物。
[2]前記ポリマーが、ポリ(エーテルサルフォン)であり、前記有機溶剤が、N−メチルピロリドンであることを特徴とする[1]に記載の相分離可能な樹脂組成物。
[3]前記アントラセン誘導体が、式(2)
【化2】
で表される化合物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の相分離可能な樹脂組成物。
[4]請求項1〜3のいずれか1項に記載の相分離可能な樹脂組成物を用いて塗布層を形成した後、加熱して該塗布層中の有機溶剤を除去することにより相分離構造を形成することを特徴とする書き込み可能な光記録用樹脂組成物の製造方法。
[5]一般式(1)
【化1】
(式中、nは1〜20の整数である)で示されるアントラセン誘導体が、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマーからなるポリマーマトリクス中に含有され、前記アントラセン誘導体と前記ポリマーとが相分離構造を形成していることを特徴とする書き込み可能な光記録用樹脂組成物。
[6]前記ポリマーが、ポリ(エーテルサルフォン)であることを特徴とする[5]に記載の書き込み可能な光記録用樹脂組成物。
[7]前記アントラセン誘導体が、下記の式(2)
【化2】
で表される化合物であることを特徴とする[5]又は[6]に記載の書き込み可能な光記録用樹脂組成物。
[8][5]〜[7]のいずれかに記載の書き込み可能な光記録用材料からなる記録層を備えた光記録媒体。
[9][8]に記載の光記録媒体を用いた情報の記録方法であって、
前記樹脂層の所望の箇所に紫外線を照射することにより、紫外線照射部を透明化して情報の記録を行うことを特徴とする情報の記録方法。
[10]紫外線照射部の透明化が、前記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体の下記の一般式(3)で表される二量体への二量体化反応によるものである[9]に記載の情報の記録方法。
【化3】
【発明の効果】
【0009】
相分離構造を有する薄膜が形成できるので、凹凸や曲面を持つ基板にも、気泡が入ったり、亀裂が入ったりすることなく適用できる。また、本発明の樹脂組成物を用いて作製した相分離構造を有する薄膜(以下、「相分離構造薄膜」ということもある。)は、アントラセン誘導体の結晶が可視光を散乱するために白濁しているが、この薄膜を、アントラセン化合物が融解する温度、例えば約150℃まで加熱し、紫外光を照射することにより、アントラセン誘導体が光二量体化してアモルファス相を発現させることにより薄膜が透明となるので、本発明は、この現象を利用して、特定部位にのみ紫外光を照射することにより、白濁−透明のコントラストをもった画像形成を行うことができる。さらに、この結晶−アモルファスの相変化には、サーマルヘッドではなく、光照射を用いるので大面積を一括して書き込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】アントラセン誘導体の単量体と、該アントラセン誘導体が光照射により二量体化したものとの可逆性を説明する図
【
図2】種々な割合で混合したPESとアントラセン化合物からなる薄膜サンプルの写真
【
図3】上記例3で作製したPESとアントラセン化合物からなる薄膜のレーザマイクロスコープ写真
【
図4】a)フォトマスクとして用いた金属製のしおりと、b)例3で作製したPESとアントラセン化合物からなる薄膜上に形成したパターンの写真
【
図5】a)PENフィルムと、b)PENフィルム上に形成したPESとアントラセン化合物からなる薄膜の写真
【
図6】a)フォトマスクとして用いた金属製のしおりと、b)PENフィルム上に作製したPESとアントラセン化合物からなる薄膜上に形成したパターン、及びc)パターンを書き込んだサンプルを屈曲させたところの写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
本発明の相分離可能な樹脂組成物は、アントラセン誘導体と、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマーと、これらの双方を溶解する有機溶剤とからなり、前記ポリマーと前記アントラセン誘導体の割合を、重量比で1:1〜2:3としたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明のアントラセン誘導体は、下記の一般式(1)
【化1】
(式中、nは1〜20の整数である)で表されるアントラセン誘導体であって、下記の
一般式(2)は、上記一般式で示されるアントラセン誘導体の一例である。
【化2】
【0013】
本発明に用いる該アントラセン誘導体は、光化学反応前の単量体では室温で結晶性であるが、一旦光照射により二量体化すると、室温において結晶化せずにアモルファス相を示す化合物であり、得られた二量体を熱あるいは光により再び単量体に戻すことができる化合物である。
図1は、該アントラセン誘導体のモノマーと、該アントラセン誘導体が光照射により二量体化したものとの可逆性を説明する図である。
【0014】
本発明では、上記のアントラセン誘導体と、該アントラセン誘導体の融点以上のガラス転移温度を有するポリマーを、これらの双方を溶解する有機溶媒に、前記ポリマーと前記アントラセン誘導体の割合が、重量比で1:1〜2:3となるように溶解して樹脂組成物とすることにより、該樹脂組成物を塗布、乾燥するだけで、溶媒誘起相分離法により、均質な相分離構造を形成することができるものである。なお、「相分離構造」とは、樹脂マトリクス中にアントラセン誘導体が数μmオーダーで分散している構造をいう。
【0015】
そして、本発明の樹脂組成物を用いて作製した相分離構造を有する薄膜(以下、「相分離構造薄膜」ということもある。)は、アントラセン誘導体の結晶が可視光を散乱するために白濁しており、この薄膜を、アントラセン化合物が融解する温度、例えば約150℃まで加熱し、紫外光を照射すると、アントラセン誘導体が、下記の式(3)に示すように光二量体化し、アモルファス相を発現する。このアモルファス相は、室温においても非常に安定であり、また可視光を散乱しないため、薄膜は透明となる。この現象を利用して、特定部位にのみ紫外光を照射することにより、白濁−透明のコントラストをもった画像形成を行うことができる。
【化3】
【0016】
本発明に用いるポリマーは、ガラス転移点がアントラセン誘導体の融点より高く、かつアントラセン誘導体と共通の溶媒に溶けるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)等の耐熱性を有するポリマーが用いられる。
【0017】
ポリマーとアントラセン誘導体の混合の割合は、相分離構造を得るために、重量比で1:1〜2:3とする。アントラセン化合物の割合が少ない場合は、アントラセン化合物とポリマーが分子レベルで相溶して透明の薄膜となり、一方、アントラセン化合物が多いときは、アントラセン化合物の巨視的なドメインが形成し、不均質の膜となる。
【0018】
また、本発明に用いる有機溶剤は、アントラセン化合物と前記のポリマーを溶かすものであればよく、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等があげられる。
そして、アントラセン誘導体とポリマーと有機溶媒とからなる混合溶液の濃度は10〜20w/v%とするのが好ましい。
【0019】
本発明においては、アントラセン化合物が融解する温度、例えば、約150℃まで加熱するため、用いる基材は、耐熱温度が該温度(150℃)以上で、用いる有機溶剤に溶けないものであればよく、例えば、ポリエチレン−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂や、ガラス、金属等が用いられる。
【0020】
また、本発明において、アントラセン誘導体を二量化するために照射する光は、アントラセンのπ−π
*遷移を励起する、約300〜420nmの波長を有するものであればよい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0022】
〈実施例1〉
ポリマーとして、ポリエーテルサルフォン(PES)を用いた。PESは住友化学社製スミカエクセルパウダーグレード5200Pを用いた。
PESと上記の式(2)で表されるアントラセン誘導体をそれぞれ所定量測り取り、N−メチルピロリドン(0.6mL)に溶かして均一な溶液とした。
変化させた、PESと前記アントラセン誘導体の混合の割合を、表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
(相分離構造薄膜の製造)
表1の、例1〜4の溶液から、それぞれマイクロピペットで5μL計り取り、18mm×18mmのカバーガラスにキャストし、ついでワイヤーバー(テスター産業製No.22)で均一に広げた。その後、このサンプルをホットプレート(80℃)上で3時間加熱することにより、溶媒であるN−メチルピロリドンを蒸発させた。
溶媒蒸発後のサンプルの写真を
図2に示す。
【0025】
図2から明らかなように、PESとアントラセン誘導体の割合が、重量比で1:1〜2:3のとき(例2、3参照)、目的通りの白濁サンプルが得られた。
これに対し、アントラセン化合物の割合がこれより少ない場合は(例1参照)、アントラセン化合物とPESが分子レベルで相溶して透明の薄膜となった。一方、アントラセン化合物がこれより多いときは(例4参照)、アントラセン化合物の巨視的なドメインが形成し、不均質の膜となった。
【0026】
上記の例3で調製した白濁サンプルのレーザマイクロスコープ写真を
図3に示す。
図3から明らかなように、ポリマーマトリクス中に、数μmスケールのアントラセン誘導体の微結晶が分散した構造であることが分かる。このことから、均一の溶液から溶媒が蒸発していく過程において、相分離構造が形成したものと考えられる。この相分離構造に起因して可視光を散乱するため、サンプルは白濁して見える。
【0027】
(パターンの形成)
表1中の例3によりガラス基板上に作製した相分離構造薄膜(白濁サンプル)を用い、ホットプレート上で150℃に加熱し、フォトマスク(金属製のしおり)を通じて紫外光(365nm、5mW/cm
2)を2分間照射した。その後、紫外光照射したサンプルを室温まで冷却した。得られたサンプルの外観を
図4に示す。
【0028】
図4に示すとおり、紫外光照射されていない部分は白濁したままであったが、照射された部分が透明になることにより、「白濁−透明」のコントラストを持ち、マスクのパターンを正確に再現したパターンが得られた。紫外光照射された部分が透明になったのは、
図1に示すように、アントラセン化合物の溶融状態で生成した光二量体が室温に冷却しても結晶化せず、固体アモルファス相を示しているためである。
【0029】
〈実施例2〉
本実施例においては、実施例1で得られた相分離構造薄膜を、プラスチック基板上に作製することを試みた。
用いるプラスチック基板としては、耐熱温度がアントラセン化合物の融点より高く、かつポリマー/アントラセン混合溶液に使用している有機溶媒に溶けないものという観点からポリ(エチレン−ナフタレンジカルボキシレート)(PEN)を選択した。PENフィルムは、帝人デュポンフィルム株式会社製(テオネックス Q65FA、厚さ125μm)のものを用いた。
【0030】
(相分離構造薄膜の製造)
PES(48mg)、式(2)で表されるアントラセン誘導体(72mg)、N−メチルピロリドン(0.6mL)からなる混合溶液50μLを取り、PENフィルム(18mm×18mm)上にワイヤーバー(テスター産業製No.22)で塗布した。その後、オーブン(80℃)で3時間加熱して溶媒を除去した。
得られたサンプルの外観を
図5に示す。
図5に示すように、実施例1のガラス基板上に作製した時と同様に、白濁した薄膜サンプルが得られた。
【0031】
(パターンの形成)
上記サンプルをホットプレート上で150℃に加熱し、フォトマスク(
図6(a)に示す、金属製のしおり)を通して紫外光(365nm、5mW/cm
2)を2分間照射し、その後室温まで冷却した。
その結果、実施例1のガラス基板を用いた時と同様に、
図6(b)に示す、「白濁−透明」のコントラストからなるパターンが得られた。
このパターンは基板への密着性が良く、
図6(c)のように基板を屈曲させても剥がれたり、亀裂が入ることはなかった。